動かす人をどのように決めるのか

人事異動や人材登用の際、どのように人を選んでいますか。
当社は従業員100人の小さな会社なので対象ポストに適した候補者を数人思い浮かべ、上司や同僚に話を聞き、本人と話し合って意思決定します。これは経験と勘による主観的なやり方です。
小規模企業、環境や職務の変化が少ない状況であればこれでもいいかもしれませんが、変化の激しいビジネス環境、新組織や新職務において、経験と勘だけの主観的な判断では到底太刀打ちできません。DX人材の採用育成や次世代リーダープログラムの候補者選抜が難しいというお悩みはまさにこのことを物語っています。
では、どのようにすれば今日の激しい環境変化に適応した意思決定ができるのでしょうか。

三つの選抜基準

SHLグループが提唱する人材選抜の基準は三つあります。実績、コンピテンシー、ポテンシャルです。

実績
実績とは職務成果、ジョブパフォーマンスのことです。営業職であれば売上や利益、マーケティング職であればコンバージョンなどがこれにあたります。定量的にとらえられる成果を定義することが重要です。今までの職務で優れた実績を上げているかどうかを選抜基準とする考え方は、合理的かつ納得感もあります。

コンピテンシー
コンピテンシーとは成果を生み出すために発揮されたよい行動のことです。コンピテンシーの構成要素は能力、スキル、知識、意欲、価値観、行動などが含まれます。コンピテンシーには再現性がありますので、新しいポストに求められるコンピテンシーを現職で発揮している人は、異動後も同様に発揮できると考えられます。

ポテンシャル
ポテンシャルは極めて重要な要素です。ポテンシャルは潜在的な能力ですので、仕事ぶりを観察しても捉えることは困難です。アセスメントにより知能、パーソナリティ、モチベーションなどを測ることでポテンシャルを予測します。

データアナリティクス

その上でデータアナリティクスによって具体的な選抜基準と選抜手法を見出していきます。人材データを分析し、パフォーマンスとの相関が強い人材要件とその人材要件を測定・評価するための最適な選抜手法を見つけるのです。
データアナリティクスによる妥当な選抜基準と適切な選抜手法を使って、客観的に可能性の高い候補者集団を作り出し、そのうえで人の主観(経験と勘)を働かせ意思決定すれば、妥当性に加えて被評価者の納得性も高めることができます。

目的変数と説明変数

人材データを分析する際に、何を用いて何を予測したいかを決めることが重要です。予測したいものを目的変数と呼びます。例えば、業績、退職、エンゲージメントスコア、職務適合度、チーム適合度、上司適合度などです。アセスメントを使ったデータ分析においては、職務別、職位別の業績を目的変数とすることが一般的です。
次は何によって予測するかを決めます。予測したいものの原因になっているものを説明変数といいます。説明変数は三つの選抜基準から検討します。実績としては、業績、評価、職務経験、保有資格、受講した研修、学歴、社外活動、勤怠など。コンピテンシーとしては、コンピテンシー評価、行動評価、360度評価、スキルテスト、専門知識テストなど。ポテンシャルとしては、パーソナリティ検査、知能検査、意欲検査、その他心理検査、シミュレーション演習(グループ討議、プレゼンテーテーション、ファクトファインディング、ロールプレイ、イントレイ)、面接、アセスメントセンターなどのアセスメント結果を用います。

アセスメント手法の妥当性

ポテンシャル予測のためのアセスメント手法には様々なものがあります。
以下に掲載したアセスメント手法の妥当性比較表はアセスメントがその後のジョブパフォーマンスをどれだけ予測できるか説明したものです。最も予測力が高いのは知能検査と客観面接の組み合わせです。これはよく採用選考で使われる方法です。単体のアセスメントで妥当性が高いのはワークサンプルテストです。これはグーグルがやっていることで有名になりました。ワークサンプルテストはテストの作成と採点に手間がかかります。知能検査もよい手法です。しかし、測定領域が知能に限られてしまう点が弱点です。次は客観面接です。幅広く情報が取れる優れた手法ですが、面接官ごとに評価がばらつくこと、手間がかかることがネックです。
これらの手法と比べて、パーソナリティ検査は妥当性が高く、デメリットの少ない方法です。

ポテンシャル予測にパーソナリティ検査を使うメリット

パーソナリティ検査をポテンシャルアセスメントとしてお薦めする理由は三つあります。

1.単体のアセスメントとして予測力が高い。
パーソナリティ検査の各因子得点と職務評価との相関は、一般的に相関係数0.2~0.4程度です。この場合、決定係数は0.04~0.16となり、パーソナリティ検査は職務評価のばらつきの約1割を説明できることになります。

2.実施の費用が安い。
当社のパーソナリティ検査OPQ30の価格は一人当たり2,500円から6,000円。オンライン受検では管理者が不要で、24時間365日いつでも受検でき、所要時間は約20分です。

3.測定領域が広く様々な職務遂行能力を網羅していること。
パーソナリティ検査OPQ30は、人との関係に関する9項目、考え方に関する11項目、感情・エネルギーに関する10項目の合計30項目を測定しています。この30項目の組み合わせにより、様々なポテンシャルを予測できます。例えば、60項目以上のコンピテンシー、30項目以上の職務適性、20項目以上の対人コミュニケーション、30項目以上のストレッサーとストレスコーピングなどがあります。

科学的な人材選抜

データアナリティクスによって適切な人材要件(実績、コンピテンシー、ポテンシャル)を定義し、適切な方法で収集された人材データ(実績評価、コンピテンシー評価、アセスメントによるポテンシャル評価)によって、客観的に候補人材を選抜することが科学的な人材選抜です。特にこれからは過去の事実である実績とコンピテンシーよりも、未来を予測するポテンシャルの重要性が益々高まります。
VUCA時代においては、パーソナリティ検査を用いて全社員のポテンシャルを効率的に捉え、ポテンシャルに基づくタレントマネジメントを行うことが企業の競争優位性を高めていくことにつながります。 ビジネスのあらゆる場面で人工知能(以下AI:Artificial Intelligence)の活用が進み、人事領域においてもAIを活用したサービスが次々と生み出されています。それらのサービスは多種多様で、中にはAIを活用していると喧伝しているものの本質的には従来型のサービスと何ら違いが無いようなものも存在しています。人事領域でAIを活用することは大きな可能性を秘めている一方で、使い方を間違えると企業と従業員の信頼関係を大きく損なう危険性があります。
今回のコラムでは、前編と後編に分けて、AIを人事アセスメントに用いるとどのような良い事があるのかを整理した上で、後編においてはどんなリスクが発生するのか、それらのリスクを管理するために守るべき原則は何なのかを考察します。


AIとアセスメント

AIという用語の定義は研究者により異なり、明確な定義を述べる事は難しいですが、「人間のように思考・判断するように、人工的に作成されたコンピュータープログラムやアルゴリズム全般」のことを指しています。2000年代から、大量のデータを用いてコンピューター自らが学習し知識を獲得する「機械学習」の発達に伴い、多様な場面で実用化が進みました。

アセスメントの文脈で言えば、AIがもたらす変化は次の2点であると考えられます。

1.新たな情報の活用が可能になる
具体的には、メール等の文字情報、職場での言動・表情、生体データ等などの情報を指しています。デジタル技術の向上により多様な情報をデジタルデータ化する事が従来よりも簡単になっています。どこまでの情報を個人に紐づけて分析することが倫理的に問題ないかという議論はさておき、同僚とのビデオ会議の中で、誰が、どのような表情で、どんな発言を行い、周囲はそれに対してどのような反応であったかはすべてデータ化されており、これらの情報を基にリーダーシップ等の能力を推定する事は夢物語ではなくなりつつあります。(ただし、現時点ではしっかりとした科学的根拠を持って妥当なアセスメントができるという技術が確立されているわけではないので、後述するリスクと合わせて考えていく必要があります。)

2.既存の情報の分析能力が強化される
既存の情報とは、アセスメントで得られるようなパーソナリティ、知的能力、モチベーションなどの情報のことを指しています。既存のアセスメント情報を分析・活用する際にAIを用いることにより、従来の統計学的な分析では得られることのできなかった知見が素早く簡単に取得できるようになります。また、どの設問が測定したい能力と相関が強いのかを検証することにより、妥当性を落とさずにアセスメントの時間を短縮するような事も可能です。いずれも測定手法自体の変容というより、そこから得られる情報の有効活用をするためにAIを駆使するという事です。

AIを活用することの具体的なメリット

AIを適切に活用する事で得られる代表的なメリットは、「妥当性の向上」「バイアスの軽減」の2つです。

妥当性の向上
前述の通り、大量のデータを適切に分析する事によって、従来のアセスメントでは為し得なかった水準で人や組織のパフォーマンスを予測する事が期待できます。人を選抜・異動させる時に、「その人の新たな職務における成功確率の予測」や「その人が加入する組織の風土がどう変容するかの予測」に関する精度が向上すれば、意思決定の過程に大きなインパクトを与えます。

バイアスの軽減
特に人が人を評価するような場合、ハロー効果に代表されるような多様なバイアスが評価結果に反映される可能性がある事はよく知られている事実です。人間の特徴ともいえる主観的な判断は有用であることも多いですが、同じ情報を同じ様に安定的に評価するという事においては明らかにコンピューターの方が優れています。「仕事はできそうだけど、なんとなく当社っぽくないので高く評価できない」なんていう評価の仕方はコンピューターには逆に難しいのです。
前編では、AIがアセスメントの実施・運用に対してどのような影響を与え、どんなメリットが生まれるのかを考察してみました。後編においては、AIが持つリスクについて言及し、リスクを抑えつつAIを活用するための原則を考えてみたいと思います。