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事業変革やデジタル化が進む現代において、IT人材の獲得が難しくなっているのは言うまでもありません。IT人材に求められるスキルや能力が凄まじいスピードで変化している中で、顕在化した能力での選抜は果たして有効なのでしょうか。
近年、社内で活躍しているエンジニアを、ソフトウェアエンジニアとしてリスキルする企業が増えています。既に活躍しているエンジニアだとしても、例えばハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアでは活躍人材の特徴は異なることが考えられます。
本コラムでは、IT人材の顕在化したスキル・能力・経験と潜在的な特徴(コンピテンシーやパーソナリティなど)の関係性について調査した事例をご紹介します。
※本コラムは2022年9月開催の第37回産業組織心理学会で
発表した内容 を一部抜粋しています。
調査概要
IT関連業務に従事している682名に「アンケート」と「アセスメント」を実施しました。加えて、協力企業にご提供いただいた各受検者のスキルレベル情報も使用して、統計分析を行いました。
■アンケート項目
・現在、過去、今後の職務におけるコーディング有無の度合い(各4段階)
・現在、過去、今後の職務におけるハードウェア/ソフトウェアの度合い(各4段階)
・IT関連資格保持の有無
■アセスメント
日本エス・エイチ・エル株式会社のWebCAB
(知的能力テスト4科目とパーソナリティ質問紙OPQ1科目の計5科目)
※WebCABの詳細についてはコラム
「IT人材の適性」 をご確認ください。
■スキルレベル
IPA(情報処理推進機構)が定義している7段階のスキルレベル(詳細は
こちら )
結果1:IT関連資格“取得者”のほうが、知的能力が高い。
IT関連資格の登竜門である「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」の取得者と未取得者を比較したところ、資格取得者のほうが明らかに知的能力科目の得点が高い傾向がありました。
ただ、資格試験はあくまで事前学習によって得た知識を適切に回答する問題が多く出題され、今回実施した知的能力科目とは測定能力が異なります。
そのため、「知的能力科目が高得点の場合は資格が取得できる」というよりも、「知的能力科目が低得点の場合は資格取得が難しい可能性がある」と解釈するほうが適切かもしれません。
結果2:他集団と比較して、対人的に控えめで具体的なことに関心を持つ傾向がある。
ここからは、コーディングを行うソフトウェアエンジニア職に就いている方の、性格的な特徴を調査した結果です。
■基準母集団との比較
当社の基準母集団(一般的な集団、平均が5.5)と比較して、人と関わる際には控えめで、具体的なことやデータに関心がある。また、実績のある確実な方法を取ることを好み、物事がうまく行くかどうかを心配する傾向があります。
■コーディングを行うハードウェアエンジニアとの比較
より強い自分の意見を持ち、対人的に控えめで、周りからはマイペースに見える傾向がありました。
結果3:高スキルレベル集団は、比較的行動力があり、目標に向かって努力する傾向がある。
高スキルレベル集団(レベル4以上)は、その他の集団(レベル3以下)と比較して、既にある方法を好まず、感情を抑えすぎない。また、比較的行動力があり、目標に向かって努力する傾向が見られました。
おわりに
今回の調査では、IT人材はポテンシャルの観点で一般的な集団と明らかな違いがあること、ソフトウェアエンジニアとハードウェアエンジニアの性格的な特徴が異なることがわかりました。知的能力や性格的な特徴といったポテンシャルを踏まえて選抜や育成をすることが必要なのではないでしょうか。今回の調査ではサンプル数が少なく集計ができなかった職種もあり、今後も検証を続けていく必要があります。
ご協力頂ける企業があれば、ご連絡をください。ぜひ一緒に検証しましょう。
企業にとって、専門家とはどのような存在でしょうか。理論的な話をするばかりで、現場には向かない存在でしょうか。ある特定の分野にしか、関与しない存在でしょうか。
本コラムでは、現場で活躍できるような実践家、プラクティショナー(practitioner)としての専門家像を紹介し、専門家を対象としたアセスメント方法について論じます。
複雑で不安定な実践現場
専門家という立場は、「現場のことをわかっていない」と批判を受けることがあります。組織学習研究・哲学者のドナルド・ショーンは、専門的な知識に基づいて理論や技術を選択・適用するといった専門家像では、現場の実践状況には適さないと批判しました。現場の労働者が直面する状況の多くは、複雑で絶えず変化するものであり、専門的な状況や理論だけでは解決できない固有の状況だからです。ショーンは実践現場の不安定性について次のように説明しました。
医師の役割は医療の再構築と合理化により、次の二、三十年にわたってたえず形態を新しくしていくだろう。事業の急激な役割の増加により、ビジネスマンの役割は再定義を求められるだろう。建築家は、新しい建築技術や、不動産と土地開発の新たな形、デザインの情報処理の新技術の導入の結果、根本的な新工法の構築をしなければならないだろう。課題が変化するにともない、利用できる知識に対する需要も変化し、課題と知識の型は、本質的に不安定になるだろう。
(ショーン,2007,pp.14-15)
ショーンが述べたように、専門的な理論や技術を扱う現場であっても、その理論や技術が常にアップデートされる状況にあり、既存のものから選択・適用するだけの専門家像では通用しないのです。では、現場で活躍する専門家像とは、どのようなものでしょうか。
現場で活躍する専門家像
ショーンは、新たな専門家像を探究するために、建築家、精神分析家、エンジニア、都市プランナーなど、様々な実践家の事例を分析しました。そして、現場で活躍する専門家に共通する特徴として、「
省察的実践(reflective practice) 」を挙げました。この特徴について、ここでは、簡単な例をもとに説明をします。
ショーンは、現場で活躍している専門家の例として、次の二例を示しました。
・ある医者は、診察室に持ち込まれる事例の八十五パーセントが、「診断マニュアル」にあてはまらないことに気づき、一人一人の患者の病状の、固有の配置に対応して、新しい診断について考察し検証する。
・ある市場調査の専門家は、新しい製品に対する消費者の反応をモニタリングしているうちに、消費者がその製品について、まったく想定していないような使い方をしていることを発見し、消費者が発見した利用法に沿って、その製品を考え直していく。
(ショーン,2017,p.52)
専門家というのは、不安定な状況の中でもまず専門的な知識や技術を適用します。しかし、不安定な状況下では、予期せぬ事案が発生します。上記の医者の例でいえばマニュアルで説明がつかない診断結果、市場調査の専門家の例でいえば想定外の消費者の行動が、これに当たります。
このとき、顕在化した予期せぬ事案を単なる例外として扱うのではなく、今までの理論を省察した上で、その事案を考慮して理論を再構築することが求められるのです。予期せぬ診断結果を目の当たりにした医者は、これまで使っていた診断マニュアルを見直し、予期せぬ結果を反映させた新しい診断方法を考えます。消費者の予期せぬ利用方法を目にした市場調査の専門家は、その利用方法の発見をきっかけに、これまで想定していた製品の在り方を振り返り、再考するのです。このような専門家像を、ショーンは「省察的実践家(reflective practitioner)」と表現しました。省察的な実践こそ、専門家に期待されるパフォーマンスの中核をなすのです。
このショーンによる省察的実践家の考え方は、主に教育・研修や組織開発の研究において取り上げられるようになり、組織開発の研究に取り組む立教大学の中原淳教授と南山大学の中村和彦教授の書籍『組織開発の探究』の中でも紹介されています。
専門家に対するアセスメント
ショーンが示した専門家像を前提とした場合、専門家のアセスメントはどのような方法をとるべきでしょうか。ここでは二つの方法を提案します。
◇ 適性検査によって現場への適性を測る
一つ目は適性検査です。
専門家にあたる人材を「専門家タイプ」と一括りにすることはできません。専門家の中でも、働く現場の環境や職務によって適性があるはずです。適性検査は、専門的な技術や知識とは異なる観点から、客観的に人材を評価できます。この点で、専門家のアセスメントにも効果的といえます。
◇ 省察的実践状況をシミュレーションする
二つ目は専門家向けのシミュレーション演習です。
一般的なシミュレーション演習では、前提知識等は必要としない場面を設定します。このようなアセスメント方法は、汎用的な能力やポテンシャルの有無を測る上で重要ですが、専門性に関わる側面を評価することはできません。
ショーンの述べた省察的実践状況をアセスメントに応用して考えると、専門家向けのシミュレーション演習には、次の①~③のような場面設定が適しています。
①最初に専門的な技術や理論を適用すべき状況を与える
②その後、適用した技術や理論だけでは通用しない、想定外の事象を与える
③想定外の事象についても反映させた技術や理論を再構築させる
この場面設定の中で、理論の適用だけでなく再構築ができる、もしくはそれに近い行動をとれるかどうかを観察することで、現場での活躍を予測するのです。
ショーンによる専門家像の価値
ショーンは、実践的な状況を重視し、プラクティショナー(practitioner)という表現を用いて専門家像を示しました。様々な専門家による実践の構造を横断的に研究した点だけでなく、専門家と実践家という二つの立場を強く結びつけた点も、彼の大きな功績と言えます。技術変革の激しい現代にこそ、彼の専門家像は、企業が求める人材にぴったりマッチするのではないでしょうか。
参考文献
中原淳・中村和彦(2018)『組織開発の探究:理論に学び、実践に活かす』ダイヤモンド社
ショーン,D.A.(2007)『省察的実践とは何か:プロフェッショナルの行為と思考』(柳沢昌一・三輪健二監訳)鳳書房(原著出版:1983年)
ショーン,D.A.(2017)『省察的実践者の教育:プロフェッショナル・スクールの実践と理論』(柳沢昌一・村田晶子監訳)鳳書房(原著出版:1987年)
デジタル技術を活用した変革や効率化が求められる時勢において、IT人材の需要は急速に高まっています。現状は約9割の企業において、IT人材が「大幅に不足している」または「やや不足している」と回答しています。
引用:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター「IT人材白書2020 今こそDXを加速せよ ~選ばれる“企業”、選べる“人”になる~」p.33
しかし、高いスキルや経験をもつIT人材を中途採用しようとしても、引く手あまたで確保が難しくなっている環境もあいまって、自社の人材をリスキルすることで自社の業務にも精通したIT人材を育成する取り組みを行っている企業も多くなってきました。
弊社では30年以上前からIT人材に関する適性の研究を行っており、IT人材の適性を多角的に測定する「コンピュータ職適性テスト CAB(Computer Aptitude Test Battery)」という商品を1989年にリリースしています。本コラムでは、CABの開発背景やその後の追跡調査によって得られた知見をご紹介致します。
コンピュータ職適性テストCABの開発
急速なスピードで技術の進化が進むIT業界においては、それまでに個人が得てきた知識やスキル・経験を活かせる期間が短くなっており、新しい技術を素早く学び続ける特性が要求されます。そのため、社内育成であれ社外採用であれ、現在顕在化しているスキルだけではない、適切な素質のある人材=適性のある人材を選び出すことが必要となります。
CABが開発された当時、コンピュータ職(システムエンジニア・プログラマー)が必要とされ始めていましたが、一般的な適性テストでは測定したい適性を網羅できず、コンピュータ職に特化したテストが必要であるというニーズからCABは開発されました。
おおまかな開発工程としては、次のような手順を踏んでいます。
・コンピュータ関係の企業複数社を開発パートナーとして、SHLグループで開発をされた多くの知的能力検査とパーソナリティ検査OPQをコンピュータ職に従事している集団に実施。
・対象者の業績評価等の情報とテスト結果の相関関係を分析。
・日本においてコンピュータ職として活躍している人たちが持っている知的能力/パーソナリティの特徴を抽出し、測定するべき知的能力科目を絞り込む。
・パッケージ化したテストをモニター集団に実施して、偏差値算出基準等を作成し、製品化。
コンピュータ職適性テストCABの科目
コンピュータ職の素養として必要な知的能力及びパーソナリティを測定するために、実施する科目は知的能力4科目とパーソナリティ検査の合計5科目です。
■CAB1:計数理解テスト(四則逆算)
様々な等式中の、□の中の数字を求める問題を通して、おおよその答を速く正確に求める能力を測定します。コンピュータ関係職に必要とされる基礎能力を見極めます。
■CAB2:直観的推理テスト(法則性)
流れを持った図形群の中に潜む法則性を、速く正確に見分ける問題を通して、プログラマーとしての優秀性を測定します。
■CAB3:プログラミング言語テスト(命令表)
与えられた指示・命令を速く正確に記憶し、使いこなす問題を通して、コンピュータ言語への適応の度合いを測定します。
■CAB4:構造理解テスト(暗号)
表面に現れている事象や現象から、背後にかくされている構造や関係を推理する能力を測定します。複雑なシステム・デザインへの適性、およびプログラミングにおけるミス(デバック)能力を測定します。
ITスキル習熟度とCAB知的能力の関係
IT業界は技術の進歩が著しいため、CABの妥当性検証を継続的に行っています。ここでは2010年代に検証した事例をご紹介します。
大手IT企業では、採用選考時に言語、計数、CAB2法則性、CAB4暗号の4種類の知的能力検査を実施していました。入社時に行うITスキル研修の習熟度評価と、採用選考時の各知的能力検査得点との相関を調査したところ、計数、法則性、暗号科目については、統計的に有意な相関が見られました。入社者ですので一定以上の知的能力を持った集団なのですが、その中でも更に得点が高い人の方がITスキルの習熟度が良かったという結果は、CABの妥当性を一定程度示していると考えられます。
※言語、計数は、総合適性テストGABの知的能力科目です。本日のテーマはコンピュータ職適性テストCABですので説明は割愛させていただきます。
有意な相関があることを具体的に示したグラフが次の2つです。これらのグラフは、テストの得点を高中低の3つに区切って、各区分に入る人のITスキル研修習得度評価の割合を示したものです。二つのグラフを比べると「計数」のみの得点よりも、「計数+法則性+暗号」の合計点のほうがITスキル習熟度評価をうまく予測できていることがわかります。
具体的には、3科目組み合わせた方が次のような効果が期待できます。
・正しく高評価者を予測できる:知的能力得点「高」の中での最上位評価Sの割合が増える。
・誤った判断を防止できる:知的能力得点「低」の中で、S、Aなどの高評価者が混入しない。
計数のみ
計数+法則性+暗号
近年このような妥当性検証に取り組む企業が増えており、CAB1四則逆算、CAB3命令表とパフォーマンスとの相関も多くのケースで確認されています。
IT人材の活躍度合いとパーソナリティの関係
最後にパーソナリティ検査OPQの妥当性検証についても触れます。職種、役割によって求められる行動が異なることは想像に難くないと思います。コンピュータ職においてもそれは当てはまります。
当社が2007年に行ったパーソナリティ検査OPQを用いたSE職に関する研究では以下の結果が得られました。
・アプリケーションエンジニア(AE)で活躍する人材は、テクニカルエンジニア(TE)で活躍する人材よりも、人に指示を出して状況をコントロールすること、一人でいることを好む傾向がある。
・リーダー職位で活躍する人材は、メンバー職位で活躍する人材よりも、自分の意見を浸透させること、集団の中で気楽に振る舞うこと、みんなの前で話すことを好み、データにこだわらず、細かいことを気にしない傾向がある。
引用:日本心理学会第71回大会(2007)「システム・エンジニア職のパーソナリティと人事評価の関係」日本エス・エイチ・エル株式会社 堀博美
おわりに
30年前に開発されたコンピュータ職適性テストCABが現在においても高い妥当性を確認できていることは、どれだけ技術革新が速く進もうと、技術をうまく学習し活用する人の特徴には普遍性があることを示唆しているのではないでしょうか。
デジタルビジネスが全盛期となっており、営業という仕事は手法も中身も大きく変化しています。セールスフォース社が提唱するフレームワーク「The model」は、営業組織を「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」の4つに分けて捉え、役割ごとのKPIを明確に設定・連携することで営業活動の効率化や改善を促す、として多くの営業組織作りで活用されています。また、コロナ禍の影響で「非接触」「オンライン」に強制的に転換したこともあり、各種ツールの導入や営業組織の改革を急速に進めている企業が多いのではないかと思います。
一方で、先述した営業組織の役割分割やツールの導入によって業績は伸びるのでしょうか?当たり前の話ですが、ツールを使うのも、各役割を担うのも「ヒト」です。ツールの導入や組織変更に合わせて、それらの環境で上手く役割を遂行する人はどのような人なのかを考える必要があります。
営業員の業績に大きく影響している要因
営業員の業績に影響を与える大きな要因の一つに、営業員のパーソナリティがあります。ご紹介するのは、ある金融機関の法人営業の事例です。エリア、顧客規模、経験年数などを揃えた営業員を対象にパーソナリティ検査OPQを実施して、各人が獲得した収益金額(月額)との相関関係を調査しました。結果は、「計画性」で強い正の相関が見られ、「積極性」では強い負の相関が見られました。
エネルギーが低く、計画的なタイプが稼いでいたという結果は、一般的な営業のイメージと異なり、意外性があるのではないかと思います。また、「計画性」の高得点者と低得点者では、平均で月に1,000万円以上の獲得金額の差が発生するという事実も発見できました。これは仮に営業員が100名いた場合、月額10億円の収益差が生まれてしまうという結果です。
この事例からお伝えしたいことは次の2つです。
① データを基に分析すると、時に一般的なイメージや固定概念とは異なる事実発見に繋がる
② 営業員のパーソナリティによって、業績は非常に大きく変動する
※ただし、あくまで統計的に有意な相関関係が確認されただけで、因果関係ではない。
この金融機関では冒頭に記載したような役割分担を行っているわけではなく、いわゆる顧客との関係構築からニーズを聞き取り、提案を行うという一連のプロセスを担当している営業員を対象に調査しています。「The model」のように、役割・KPIが明確になればなるほど、パーソナリティと業績の相関は強くなることが予想されます。
「オンライン」「非接触」でうまく成果を上げる人材の特徴(営業適性の変化)
今回、コロナ禍で営業適性に変化は起きているのだろうか、起きているとしたらどのような変化なのだろうかという点に問題意識を持ち、大手企業3社(サービス業、パルプ・紙メーカー、医薬品メーカー)161名に協力してもらい調査を行いました。いずれの会社も一般的な営業組織であり、コロナ禍で急遽営業活動においてオンラインツール等を取り入れざるを得なかった企業です。
様々な角度から検証しましたが、紙幅の関係上、次の2点の結果をご紹介します。
① オンラインでの面談への心理的負担感とパーソナリティはかなり強い相関がある。
オンラインでの面談への心理的負担感が高い人の特徴として、自分の意見を押し付けず、相手が自ら物事を決定できる余裕を与える「説得力(負の相関)」や、自慢せず、自分の業績を話さない「謙虚さ(正の相関)」、人と相談して物事を決める「協議性(正の相関)」が、明らかとなりました。※相関係数の絶対値0.2以上をピックアップして解釈。
これらの結果は、顧客の反応が読みづらく、相手の状態に合わせて振る舞いを変えづらい、営業員からのプレゼン主体になりやすいオンラインでの面談そのものの特徴が影響していると考えられます。
※括弧内に記載した因子名は、当社OPQを受検した際に算出されるパーソナリティ因子です。
② 環境変化があっても高評価を維持している集団は「計画性」が高い。
コロナ禍の発生後でも高評価を維持もしくは評価が上昇した集団は、物事の先を予測し計画的に業務を行う「計画性」が高いことが明らかとなりました。
筆者の感覚ではありますが、オンラインでの面談は雑談が少なくなり、目的的な会話になりがちであると思います。面談で何を議論し、合意し、次に何をするべきなのかのストーリーをより意識する必要があるのです。このような環境下、先々まで考えるという「計画性」がより求められるようになっているのだと解釈できます。
まとめ
営業領域におけるデジタル化において、ツールや組織構造はもちろん重要ですが、その中にいる「ヒト」に目を向けることも重要です。営業職は他の職種と比較しても、成果に対するパーソナリティの影響が大きい職種です。新しいツールや組織構造の中で、最適な人材配置を行うために、このコラムがヒントになれば幸いです。
デジタル化が究極的に進めば、いわゆる「販売する」という機能は不要になる可能性も秘めていますが、顧客・市場とコミュニケーションを図り、製品の改善に繋げるような機能は最後まで残るのではないかと思います。そうした職務になった時には、かなり人を選ぶ仕事になっていると想像します。パーソナリティという観点から、SHLでは引き続き調査していきたいと思います。
今年も当社の新入社員研修の講師を務めることとなり、研修準備をしながら仕事を再認識するよい機会だなあとつくづく思いました。この準備で当社にとって最も重要な概念について復習する機会がありましたので、本コラムはそのことについて述べます。
その概念とは、「適性」です。当社の新入社員が必修科目の人事テスト(Occupational Testing)理論で、最初に学ぶのがこの適性についてです。
適性とは
適性とは、特定の役割や環境に適した性質のことを指します。単なる性格や能力における個人差を説明するものではなく、職務の成功や組織への適応に影響を与える性質です。重要なのは、特定の役割や環境に適したという部分です。特定の役割や環境、つまり職務や職場、一緒に働く人たちが定まることで、はじめて生じる概念なのです。例えば、おしゃべりという特徴はそれだけでみれば単なる性格の一部分ですが、新しい人間関係を作ることが仕事である営業職においては強みとなり、重要な機密事項を多く持つ秘書職においては弱みとなります。また、無口という特徴は、反対に営業職において弱みとなり、秘書職においては強みとなります。つまり、おしゃべりは営業適性であり、無口は秘書適性なのです。(これはあくまで例え話で、実証されたものではありません。)
自社の適性を持つ人を見つける場合は、活躍している人や定着している人の性質を調査によって見つけます。活躍する人たちとそうではない人たちとの違い、長期間意欲的に働く人たちと早期に意欲を失い退職する人たちとの違いを説明できる能力や性格を調査します。この調査を行う上で重要なことは、妥当性と調査の実行可能性を踏まえて、対象となる適性の抽象度を調整することです。
例えば、自社適性という一つの概念を作るためには全社員を対象に、活躍度合と相関がみられる性質を調べるのですが、様々な職種や職場環境の社員を十把ひとからげで調べても相関の見られる性質はまず見つかりません。職種や職場ごとに活躍するために必要な職務遂行能力が異なるからです。この場合、類似している役割や環境ごと(部門や階層、職種など)に分類して調査を行います。限界まで細分化すると全ポストの調査となるのですが、必要なサンプル数や手間の観点から全ポスト調査は非現実的です。実際に調査可能で妥当性の確認できる、ちょうどいい分類で適性を定義します。
適性のとらえ方
適性という言葉は、英語のAptitudeを訳したものです。余談ですが、当社の総合適性テストGABはGraduate Aptitude test Batteryの頭文字をとったもので、学卒者向け適性テストという意味を持っています。元来適性という概念は能力(Ability)を示す概念でした。視力、聴力、認知能力、運動能力などを必要とする自動車運転適性といったイメージです。その後、職務と組織の複雑化や専門性の高度化により、性格や意欲、興味関心などを含む概念へと拡張されました。
SHLは適性を能力(Ability)とパーソナリティ(Personality)、意欲(Motivation)から捉えるための様々なアセスメントツールを開発してきました。既に廃版になってしまいましたが、かつては部品組み立て作業の適性を測定するためのユニークなアセスメントを持っていました。そのアセスメントは、複数の部品(鉄板、ボルト、ナット、ワッシャー)と工具を受検者に提供し、見本品(組み立て後の製品)と同じものを制限時間内に作らせるというものです。正しく構造を把握し、適切な手順で適切な部品を手際よく組み立てることが求められます。得点は定められた採点方法により特定の基準グループを比較集団とした偏差値が算出されます。
適性の種類
会社が社員や応募者に対して注目すべき適性は2つあります。職務適性と組織適性です。
職務適性とは職務遂行に関わる適性です。仕事に求められる能力や資質を持っているかどうか、仕事に求められる能力を素早く習得できるかどうかを決めるものです。職務ごとに適性を定義する必要があります。一般的には、同じ職務に従事する集団に対して能力検査、性格検査を実施して、能力評価、活躍度合、業績等のパフォーマンスデータと検査結果データとの相関分析を行い、適性を定義します。
ここでコンピテンシーとの違いについて申し上げておきます。職務適性とコンピテンシーはいずれも職務遂行能力につながる概念です。適性は職務遂行能力を構成する性質(潜在的な能力や性質)の測定によって捉えるものであり、パフォーマンス予測に用いられます。コンピテンシーは成果創出のために発揮された(顕在化した)行動によって捉えるものであり、パフォーマンス評価に用いられます。
組織適性とは組織適応に関わる適性です。社員の定着、意欲、やりがいに関わります。組織風土に合った価値観を持っているかどうかが影響しており、組織になじめるかどうか、上司や職場で一緒に働く人たちと馬が合うかどうかを決めるものです。厳密な調査とアセスメントを用いた評価を行うよりは、インターンシップなどでその職場を体験したり、職場を訪問して複数の社員と対話したりすることで組織適性を評価することが一般的です。
今後
VUCAの時代に加えて高齢化の進む今日の日本においては、会社が職務と組織に適した人をあてはめるだけでなく、働く人の価値観、職業観、人生観、ライフイベントなどに応じて適した職務、環境、働き方を提供する新しい会社の仕組みが求められています。今はまだ、確立された仕組みは存在しませんが、働く人の幸福に焦点をあてた取り組みの発展に期待しています。また、そのような社会への移行に私たちが貢献できるようアセスメントを応用したソリューションを強化していきます。