「リーダーシップ」

近年、多くの企業が社員に対して「リーダーシップ」を求めています。リーダーシップと一言で言っても、それは具体的にどういったものでしょうか。

・「チームや組織を引っ張りリードする」
・「影響力を行使し、周りの人間を巻き込み変革していく」
・「自ら行動し先導する」

など、なんとなく意味合いを理解しつつも、リーダーシップの具体的な定義ができていない(あるいはできない)のが実情かと思います。それでも、多くの企業は人材の重要な要素として捉えているのは間違いないでしょう。
多くの有識者が様々な研究や定義付けを行っておりますが、本コラムではKen Blanchard氏によって開発されたリーダーシップ理論、SLⅡ®理論のリーダーシップをご紹介するとともに、そのリーダーシップを現実的に実践する助けとなるような当社アセスメントの具体的な活用例を提示したいと思います。


SLⅡ®理論概要

この理論は端的に、部下の状況(パフォーマンスや意欲)に合わせて上司としてのサポートも変えていく必要があるというものです。下図に理論の全体像を示します。


  1. 部下のパフォーマンスが低い×意欲が高い
    ➡指示型:新入社員や新たな職務を与えられた部下等が当てはまり、きめ細やかなサポートが必要です。意欲は高いため、うまくその気持ちを行動に起こせるようサポートします。
  2. 部下のパフォーマンスが低い(~中程度)×意欲が低い
    ➡コーチ型:成長を促し意欲を高めるために、しっかりとサポートしながらも部下の主体的な行動を促すことが必要です。
  3. 部下のパフォーマンスが中程度(~高い)×意欲が不安定
    ➡支援型:部下自身が主体となって目標を達成するサポートをしながらも、部下の意欲をしっかりと見極めることが重要となります。
  4. 部下のパフォーマンスが高い×意欲が高い
    ➡委任型:パフォーマンスも良く意欲も高い部下には、積極的に自身が意思決定を行い、責任を持って自主的に動いてもらうようにします。
このように部下の状況、ここでは実際のパフォーマンスとその時の意欲(モチベーション)を鑑み、上司は取るべきリーダーシップスタイルを変えていくということです。

SHLアセスメントの活用

前述のSLⅡ®理論は理解しても、言うは易く行うは難しです。この理論を実践するには、次の3つのステップが欠かせません。
  1. 部下の状況把握(パフォーマンスと意欲)
  2. 上司の適切なリーダーシップ(部下に対する接し方やフィードバック)
  3. 継続的なフォローアップ(部下の状況変化に応じた上司の適応)

例えば①は、実際に部下のパフォーマンスはある程度把握できても、意欲まではなかなか把握しきれないことがこの理論を実践する難しさの一つではないでしょうか。最初のステップで認識を誤ってしまうとその後適切なリーダーシップスタイルを形成することも難しく、誤ったサポートの結果、部下のエンゲージメントも下げてしまう可能性もあります。

そこで上記3つのステップを現実的に実践する助けとして、当社アセスメントの活用をおすすめいたします。
3つのステップの中で「① 部下の状況把握」に有用なアセスメント360度評価ツール「無尽蔵」です。「無尽蔵」はコンピテンシーの客観的な測定により部下のパフォーマンスを把握するのに役立ちます。

360度評価ツール「無尽蔵」:コンピテンシーの「重要度」の認識と、他者評価におけるコンピテンシーの発揮レベルを測定することで現職におけるパフォーマンスや能力開発課題を明らかにし、能力開発などに利用することが可能です。

次のステップである「②上司の適切なリーダーシップ」に有用なアセスメントは意欲リソース検査「MQ」です。「MQ」は個人の意欲の高低を直接測定するものではありませんが、部下がどのような環境や条件で意欲的になり、意欲を失うかを定量的に把握するために役立ちます。今、部下が意欲的である(意欲を失っている)要因を把握し、主体的行動を促すための最適な動機付け戦略を検討するための情報を提供します。

意欲リソース検査「MQ」:意欲の傾向を4領域18尺度で測定し、意欲に影響を与える要因(意欲リソース)を明らかにします。何によって動機づけられ、何によってやる気を失うかを把握することが可能です。
上記2つのアセスメントを実施することで、部下のパフォーマンスと意欲リソースを定量的に把握することが可能となります。部下の現状について正しく把握することは、その後の上司の取るべきリーダーシップスタイルを決定する際の根拠となります。さらに、それぞれのリーダーシップスタイルを習得するための上司向け研修などにも繋げることが可能となるでしょう。


最後に

現状、「リーダーシップ」について数多くの研究やモデルがありますが、未だに最適解は見出されておりません。今後も画一的なリーダーシップは確立されず、あるべきリーダーシップ像が絶えず変化することも十分考えられるでしょう。ただ、その中でも組織をより良くするために企業は行動を起こさなければいけません。
本コラムでは、SLⅡ®理論を実践レベルに落とし込むための当社アセスメントの活用について述べてきました。この理論が読者の組織に適応しており、社員にもっと浸透させたい、しっかりと現場で実践してほしいとお考えであれば、ぜひ当社アセスメントの活用をご検討いただけますと幸甚です。

人材アセスメントに対しての疑問

なぜ多くの企業が人材アセスメントを各人事施策に活用しているのか。そしてその必要性はどこにあるのか。それらの疑問に対して、ルメルト著:『良い戦略、悪い戦略』(2012年)に書かれている「良い戦略」をもとに考えていきたいと思います。

良い戦略の基本構造

まずは、著者の考える良い戦略の基本構造とは何か。曰く、良い戦略とは下記3つの要素を含んでいます。

(以下、著書より引用)

①診断
 ➡状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。

②基本方針
 ➡診断で見つかった課題にどう取り組むか。大きな方向性と総合的な方針を示す。

③行動
 ➡ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

上述の3つの要素を人事戦略立案の場面で想定してみると、「診断」は現状の経営状況やそれに関わる外部環境、ステークホルダーの関係性の変化などを的確に捉え、その企業にとって致命的な課題を人事的側面から認識すること。「基本方針」はその診断で認識した課題に対してどのような施策が効率的かつ効果的にポジティブな影響を与えるのかを考え方針を決めること。「行動」はその決めた方針に従って必要な資源やその配分を整理し、方針の実行に移すことだと言えるでしょう。
一見当たり前に見える要素ですが、これまでのクライアントからのご相談などから、決してすべての戦略が上述3つを満たしているわけではないと考えます。著書内では、良い戦略に対して「悪い戦略」(上述3要素を満たしていない戦略)と呼ばれていますが、なぜその悪い戦略が現実に存在してしまうのかが書かれています。つまり、悪い戦略がはびこってしまう背景には、現状の分析や調査にはかなりのハードワークが求められるからであり、そんな“重く面倒な”ことなどしなくても戦略は立てられるという願望もあるそうです。当然のことですが、正しく「診断」ができなければ、その後の正しい「基本方針」の決定や正しい「行動」はできません。

人事戦略の基本方針を打ち出す際の一番の土台となる「診断」について、様々な視点から分析することが重要になりますが、その一助となり得るのは人材アセスメントであると考えます。

人事戦略の基盤となる「診断」へのアセスメント活用

現状を分析し課題を見つけ出す手法は様々ありますが、人事戦略に関連する現状分析という文脈では、その企業が抱える人材についての可視化が肝となります。言わずもがなですが、そもそもどのような人材が組織に存在するか、それは経営戦略を遂行する上で必要十分なリソースか、今後中長期的にどのような人材が必要か、また今いる人材をどのように育成すべきなのか等を適切に把握しない限り、現状の課題を診断することは困難です。また、人材の可視化に用いる尺度(物差し)も重要となります。基準が毎回異なる物差しであれば、いくら定量的に物事を推し量ろうとしても意味を成しません。
そこで人材可視化の一助となり得るのが、アセスメントによる人材の定量化です。今日では多種多様なアセスメントが存在していますが、裏を返せば企業の人材可視化ニーズの高さを物語っています。

人材アセスメントの活用により、社員のコンピテンシーやポテンシャルをデータ化することで下記のような情報を得ることができます。

―現状の人材ポートフォリオ
―自社のハイパフォーマーや活躍人材の特徴
―各ポジションやポストでの要件
―開発や育成が必要なコンピテンシー(能力) etc.

上述のような情報を基に、現状の人材を適切に把握しその後の人事戦略・各種施策へと繋げていくことが可能となります。例えば、人材ポートフォリオを作成後、キーポジションの要件を満たす人材が社内に存在しなかった場合、採用を見直し外部から補填するか、ポテンシャルのある社員に対して育成や研修を実施しプロパーの社員を登用するのか等、見えなかった重要な課題を浮き彫りにし、今後の基本方針を決定する指標ができます。

なお、人材可視化のための当社アセスメント(OPQや万華鏡)についての詳細は他ページの『SHLのキーテクノロジー「OPQ」とは』『マネジャー&シニアマネジャーノルム搭載!アセスメントツール「万華鏡30」』をご参照ください。

最後に

著書曰く、「良い戦略」は良い「診断」から始まります。現状をいかに分析し課題を見出せるかは大切です。前述した通り、人材の可視化はハードルが高く、コストもかかる面倒な作業となる可能性から、わかってはいてもなかなか手が出せず効果的な「診断」をできずにいる企業があることも実情です。しかし、人事の「良い戦略」を導き出すためにはその要素は必要不可欠です。まずはその一歩として、ぜひこの機会に人材アセスメントを「診断」に活用いただくのはいかがでしょうか。

参考文献:リチャード・P・ルメルト. 良い戦略、悪い戦略. 日経BPマーケティング, 2012, p.410

1. 客観的なデータ分析の重要性

本サイトでもご紹介している通り、昨今では多くの企業で社員データを取得し、それを各施策に活かす為データ分析等を実施しています。その背景には、各人事戦略を練る際の客観的な指標として、いわゆる「データ・ドリブン」な人材マネジメントが重視されるようになってきていることが挙げられます。
「データ・ドリブンな意思決定」(以下、DDDM [Data Driven Decision Making]とします。)が用いられる際のメリットとしては主に下記3点があります。

・網羅性による説得力
・新しい事実の発見
・主観に左右されない

事実、DDDMは様々な施策を検討する際に非常に有益な情報をもたらし、迅速な意思決定から企業の業績向上に貢献します。実際に弊社顧客の中でも、ハイパフォーマー分析で明らかになった要件を社内選抜に反映させたことで、その前の選抜社員よりも一人当たりの年間売上額が約30ポイント上昇した例があります。

ただ、こうした企業のトレンドともなっているDDDMですが、データ分析において気を付けなければならない点があります。

2. データ分析には「分析者の主観」が入る

上図は「シンプソンのパラドックス」のイメージです。シンプソンのパラドックスとは、グループ内で見られる相関が全体としても成り立つだろうという直感的な推測が、結果として真逆の結論を導いてしまう現象のことを言います。なぜ上図のような、一見予想とは反する結果が生じるのでしょうか。それは各課各支店の人数構成の違いによるものです。(詳細は、https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2103/10/news030.htmlをご参照ください)
データ分析に基づいて結論を導く際には、「どのような指標(主観的な視点)」が用いられているのか、抜け落ちている視点がないか、慎重に判断する必要があります。重要なのは、客観的に思える分析には「分析者の主観が入る」という点を忘れないことです。上図の例であれば、人数構成を加えるのかどうか、他の属性(地域差や販売先企業数、人口密度等)を分析指標として加えるかどうかを改めて検討すべきです。これらを決めるのは分析者であり、この主観的判断によって結論が大きく異なってしまう点については十分に留意すべきです。

3. データ・ドリブンとデータ・インフォームド

DDDMは非常に強力な意思決定プロセスであることは疑いようがありませんが、既述のことからも、データを妄信するということは危険であるといえます。データは分析者の主観から完全に自由なわけではなく、ある現象の一側面を切り取ったものに過ぎない可能性があるためです。
 近年では、データをあくまで一つの情報として活用し主観性(経験や勘など)も伴って結論を導き出す「データ・インフォームドな意思決定」(DIDM[Data Informed Decision Making])が更なる高次元での判断を実現させるといわれています。
 DDDMはそうした曖昧な主観性を取り除く意義がありますが、導かれた結果を絶対的な真実であると認識することは、誤った方針を生み出す可能性があります。データによって導き出された結果に主観的解釈による意味づけを与え、人主体の意思決定における一材料としてデータを用いるという考え方が、現在求められているようです。