※本稿は2022年9月開催の産業・組織心理学会 第37回大会で発表した内容を一部抜粋してご紹介しています。
結果概要
本研究では、2020年卒採用(コロナ禍前)と2022年卒採用(コロナ禍後)の両方で応募者にパーソナリティ検査OPQ (Occupational Personality Questionnaires)を実施した企業のデータを分析しました。分析には、OPQの回答結果から算出される9つのコンピテンシーのポテンシャル予測尺度を用いました。業界ごとに複数社からなるランダムサンプリングデータを作成し、2020年卒採用と2022年卒採用のt検定を行った結果、統計的に有意な差が確認できた尺度は以下の通りです(p<0.05)。いずれの尺度もコロナ後の2022年卒の学生の方が、2020年卒の学生よりも高い結果となりました。
有意とはいえ、どの平均値差も小さいものでしたが、この結果は何らかの変化の表出を意味している可能性があります。本稿では、すべての業界で『オーガナイズ能力』に共通して違いが見られた点について考察します。

コロナ禍による生活様式の変化がもたらした自己分析の変化
『オーガナイズ能力』は、「計画を立てたり、人を配置したりする。問題を予見して対案を用意し、計画を細部までつめる。」コンピテンシーと定義されます。なぜコロナ後の応募者の方が、このコンピテンシーが高い傾向がみられたのでしょうか。コロナ禍では「ステイ・ホーム」が呼びかけられ、不要不急の活動に自粛が求められると共に、様々な活動のオンライン化も進みました。特に、就職活動を行う学生を取り巻く環境には多くの変化がありました。

コロナによる変化は総じて、「グループ活動や対人接触の機会喪失」を意味しています。一方で、資格取得や勉学を始めとした個人での活動は、コロナ禍でも取り組みやすいものでした。このような活動では、自分で計画を立てたり、期日までに準備を行ったりする経験をすることが多かったでしょう。
また、グループ活動の機会に恵まれた場合にも、感染対策等の問題の予見と準備といった経験が得られたでしょう。
これらはいずれも、『オーガナイズ能力』の獲得や発揮につながりやすい経験です。そのため、どの業界の応募者も、『オーガナイズ能力』に自信を持ちやすい状況にあったと推測されます。
応募者のOPQへの回答は、受検者の自己分析結果の表出です。取り組む経験に偏りが生じたために、すべての業界で『オーガナイズ能力』に違いが見られたのではないでしょうか。
終わりに
様々な活動がwithコロナに向かい始め、また「ガクチカ」に依存した面接の代わりとして「長期インターンシップ」にも注目が集まっています。こうした変化により、今回見られた違いが消えゆくのか、あるいは、別の違いが立ち現れるのか、注視していきたいと思います。なお、本稿では取り上げなかった『オーガナイズ能力』以外の箇所についての考察等、発表内容をより詳しくお知りになりたい方は、担当コンサルタント、またはこちらよりお問い合わせください。 次世代リーダーの育成は企業にとって最も重要であり最も悩ましい人事課題の一つです。理想の次世代リーダー像とはどのようなものでしょうか。この人事課題に取り組む足がかりとして、企業内にいる現リーダーの研究を本コラムにてご紹介します。
本研究では、2010~2020年に当社が受領・収集したパーソナリティ検査OPQのデータの一部(計106社58,321人)を利用しました。それらを役職レベル別に「経営層(1,071人)」「上・中級管理職(9,807人)」「その他役職あり(11,444人)」「役職なし(35,999人)」に分類し、研究を進めました。
OPQ30因子を用いた役職レベル間比較
パーソナリティ検査OPQが測定する30項目のパーソナリティ因子得点ごとに「役職なし」グループと「経営層」グループを比較し、同時に「役職なし」グループと「上・中級管理職」グループを比較しました。すると両方の比較に共通する各グループの違いが複数見られました。それらの違いは以下の通りです。<経営層グループと上・中級管理職グループが高い因子、特徴>
・説得力…相手を説得し、考えを変えさせる
・指導力…他人を統率し、責任を持つ
・社会性…フォーマルな場でのふるまいが得意
・決断力…リスクを受け入れ、素早く決断を下す
<経営層グループと上・中級管理職グループが低い因子、特徴>
・友好性…孤立を恐れず、1人でも仕事を進める
・協議性…周囲の意見に左右されない
・具体的事物…細かい実務は人に任せる
・美的価値…芸術よりは実際的なものに関心が高い
・オーソドックス…既存の方法や考えに固執しない
これらの結果はマネジメントに必要な行動傾向として感覚的に納得しやすく、「部下を率いる」「全体の方針を決める」といったリーダーの役割行動と関係が深い因子です。

OPQを用いたクラスター分析
役職レベル間比較において一般的なリーダー/マネジメントとの関係が深いパーソナリティ因子が見出されました。さらにコンティンジェンシー理論(F・フィドラー; 1964)を始めとした多くの論で指摘されている複数のリーダータイプを見出すため、OPQから算出される36項目のコンピテンシー尺度を用いてクラスター分析を行いました。この分析の目的は複数のリーダータイプを見出すことですので、「役職なし」グループを分析対象から外し、その他3グループを分析対象としました。
OPQから算出される36項目のコンピテンシー尺度はPMCという名称のコンピテンシーモデルで、OPQの結果報告書「万華鏡30」に搭載されています。リーダー/マネジメントに求められるコンピテンシーモデルです。
このクラスター分析により「特徴的なコンピテンシーの組み合わせによるタイプ像」を複数定義しました。今回の研究データから得られたクラスター(=リーダーのタイプ)は以下の通りです。

「経営層」では決断や変革に強みを持つクラスター2が多く、「上・中級管理職」は各クラスターが概ね均等に分布しており、「その他役職あり」では品質に厳しいクラスター3が多くいます。こうした違いは、役職レベルにより必要なコンピテンシーが異なることの表出である可能性があります。
