本コラムでは、組織変革の専門家フレデリック・ラルー氏の著書を参考に自律型の組織モデルについてご紹介します。

ティール組織とは

ティール組織とは、トップからの絶対的な意思決定やヒエラルキーを排除し、権限を分散された従業員のセルフマネジメントによって自走する組織モデルです。ティール(teal)とは本来青緑色を意味し、5段階に色分けされた組織モデルの発達フェーズのうち最も進展した段階を指します。ティール組織は従来の主流である上意下達の管理型組織の常識を覆し、上下関係の無い自律したマネジメントや意思決定のもとで推進されます。

米国のコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)出身で組織変革の専門家フレデリック・ラルー氏が提唱した、従来のマネジメント手法とは異なる次世代型の組織モデルです。フレデリック・ラルー氏が2014年に著した内容をもとに、2018年に日本で発行された「ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」の著書の中で示されています。

マッキンゼー時代、ラルー氏が組織変革プロジェクトに疲弊しながら奔走する従業員を目の当たりにした経験から、組織と個人の幸福の両立を実現するティール組織を開発しました。

自律型の組織モデルが必要とされる背景

ティール組織に代表される自律型の組織モデルが必要とされる理由として、以下の社会的な背景が考えられます。

組織の発達による5つのフェーズ

管理型組織や自律型組織などの大まかな分類だけでなく、発達フェーズに応じた組織モデルが定義づけられています。ティール組織を開発したラルー氏は組織の発達段階を分ける5つのフェーズを提唱しています。
  1. 衝動型(レッド):恐怖支配、独裁
  2. 順応型(アンバー):ピラミッド型階級、軍隊
  3. 達成型(オレンジ):トップダウン型
  4. 多元型(グリーン):ボトムアップ型
  5. 進化型(ティール):自律型
現代の多くの企業や組織は達成型(オレンジ)以降のフェーズにいます。実際、日本の企業の多くは達成型(オレンジ)でトップダウン型と呼ばれます。一方、ヒエラルキーが存在しつつも個人が尊重され、上意下達だけでなく現場側からの意思伝達が可能な組織が多元型(グリーン)、いわゆるボトムアップ型です。

自律型のティール組織へは衝動型から各フェーズを経て行き着くと定義されています。ティール組織は自律型と呼ばれるとおり、セルフマネジメントを行う従業員の主体的な意思決定により運営されます。これにより組織のイノベーションやレジリエンスを高めやすいメリットがあります。

ティール組織を構成する3要素

ティール組織の構築には3つの要素が必要です。

セルフマネジメントの導入

従来の管理型組織にある明確な指示系統やヒエラルキーを持たず、自律した従業員一人ひとりが意思決定に関与します。セルフマネジメントには、メンバー間の対等な関係やオープンに情報共有できる環境が必要です。
多元型組織(グリーン)いわゆるボトムアップ型も従業員の主体性を重んじる組織モデルですが、社内のヒエラルキーと上層部からのガイドが存在するため、セルフマネジメントには当てはまりません。
ティール組織は組織内の階層構造に左右されず個人がセルフマネジメントを行い、目的達成のために自走することが特徴です。

全体性の醸成

全体性の醸成とは従業員一人ひとりが快適に自分らしく働き、自身をさらけ出せる風土や環境が作られることを指します。ティール組織は個人の能力に依存するため、メンバーの潜在能力をいかに引き出せるかが鍵となります。メンバーが有機的に働ける環境が理想で活発な対話と個人の尊重により自分らしく振る舞える環境の整備が組織に求められます。

進化する組織の存在目的

ティール組織に属するメンバーが同じ方向へ進むためには、明確な存在目的を共有する必要があります。トップによる絶対的な意思決定のないティール組織ゆえに、統一性や方向性を見失う失敗例も実際に発生しています。
個々人は内省と対話を通じて目指すべき目的を探求し続けることが求められます。

自律型組織の罠

自律型組織は完ぺきではなく、あくまで一つの組織モデルです。個人に権限を分散させすぎて方向性を見失うなど、運用次第で組織に悪影響を及ぼすこともあります。

自律型組織の主な問題点は以下の通りです。 ティール組織は自律したマネジメント形態ゆえに、個人に求められる能力やスキルの水準が高くなりがちです。常に自己管理と自己成長を続けられる人に向いていますが、そうでない人には負担が大きく、向いていません。
特にトップダウン型の組織からティール組織への変革は上記の問題点が変革の障壁となって現れる可能性が高いです。

また、ティール組織はメンバー間の対話が非常に重要なため、ハイコンテクスト文化の日本では根付きづらいという懸念もあります。ティール組織の「セルフマネジメント」「全体性」「存在目的」の醸成は情報の透明性や人の流動性・開放性を前提としますが、組織内のオープンマインドは一朝一夕で根付くものではありません。そのため自律型組織は作り出すものではなく、取り組みの先に結果として自然と生まれてくるものとして長期目線で捉える必要があるのです。

おわりに

今回ご紹介したティール組織は優れた組織モデルですが、あらゆる環境に適応できる万能なものではありません。またこの先も完ぺきなマネジメント手法が生み出されることはないでしょう。重要なのは、自社が目指す戦略に適した手法を見極めて組織づくりを進めることです。ティール組織を作るのであれば自律性の高い人材による小さなプロジェクトで成功体験を積み、徐々に全体へ波及させるやり方が得策です。
自律型組織は組織と個人のウェルビーイングを実現できる手段の一つでもあります。組織と個人がともに充実した社会を目指すうえで、時代に沿った組織やマネジメントのあり方が求められています。

参考文献:
Frédéric Laloux(2014). Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness
フレデリック・ラルー(2018). ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現