本コラムでは、ミドルマネジメントを取り巻く現状を整理し、組織・人事が効果的にミドルマネジメントを強化する方法についてご紹介します。

ミドルマネジメントとは
ミドルマネジメントとは、組織内で経営層と現場社員をつなぐ中間管理職を意味します。主に部長や課長などが該当し、組織の目標達成やメンバーの育成のために様々な手段を講じて対応する(manage)という役割が期待されています。近年、ミドルマネジメントの重要性はますます高まっています。人事担当者を対象としたある意識調査1では、50%が「ミドルマネジメントの能力開発」が最重要課題と回答し、他の項目を押さえて首位となりました。組織の持続的成長と競争力強化のためには、ミドルマネジメントの戦略的な発掘や育成が不可欠であり、その重要性は今後さらに増していくと予想されます。

疲弊するミドル達
上記のように組織・人事からミドルマネジメントへの期待感が高まる一方で、現場のミドルマネジメントの過重負担が深刻な社会問題となっています。あるアンケート調査2によれば、ミドルマネジメントの約95%が「他の役職と比べて負担が大きい」と回答しており、負担感の主な要因として「部下の業務のフォロー」「上司、経営陣とのコミュニケーション」「部下とのコミュニケーション」等が挙げられています。これは、彼らが上司と部下の間で板挟みになっている現状を如実に表しています。さらに、別の調査3では、一般社員の77%が「管理職になりたくない」と回答しています。理由としては、以下が挙げられます:
- 責任の重さ
- 業務量の増加に見合わない報酬
- 自身の適性への不安
- 専門性の喪失懸念
では、このような状況を打開するために、組織・人事はどのように課題解決に向かえばよいのでしょうか。その第一歩は、ミドルマネジメントの本質的な役割と適性について、組織・人事とミドルマネジメントの双方が共通認識をもつことにあります。
ミドルマネジメントを強化するには
人事担当者から頻繁に聞かれる問題の一つに、「優秀なプレイヤーをミドルマネジメントに昇進させたものの、期待通りの成果が得られていない」というジレンマがあります。この問題の核心は、プレイヤーとミドルマネジメントの役割の本質的な違いにあります。- プレイヤー: 個人の成果に焦点を当て、自身の業務を遂行する
- ミドルマネジメント: 組織全体の成果に焦点を当て、部下やチームを通じて目標を達成する
一方で、先に見た通りミドルマネジメントの多くは過重負担に陥っています。いたずらに研修を増やすことは、かえって彼らの学習意欲を減退させてしまう恐れもあります。1on1や傾聴トレーニング等といった解決策に一足飛びに向かうのではなく、ミドルマネジメントの置かれている現状を組織・人事が正しく理解し、彼らの心理的な準備を支援する姿勢を示していくことが大切です。
「今いるミドルマネジメントをどのように育成するか」に加え、もう一つ重要な視点があります。それは、「組織の成果を最大化するために誰をアサインすべきか」という視点です。SHLグローバルの調査結果によると、現在高い業績を上げているプレイヤーのうち、上位職で成功する可能性のある人材はわずか7分の1にすぎません。これは、明らかにミドルマネジメントにはプレイヤーとは異なる適性(職務の成功や組織への適応に影響を与える性質)があることを示しています。
優れたマネジャーを発掘するためには、現在の役割における評価情報だけでなく、上位層に必要な潜在能力(ポテンシャル)を持っているかを明らかにするものさしが必要です。アセスメントを活用することで、こうしたポテンシャル情報を簡便に取得することが可能になります。当社はミドルマネジメント向けのアセスメントツールも様々持ち合わせておりますので、ご関心がある方はぜひお問い合わせください。
おわりに
ミドルマネジメントの強化は、いまや組織の持続的成長と競争力向上に不可欠な重要課題です。課題解決に向けて、ミドルマネジメントの心理的な支援と適切なアサインメントの両立が組織・人事にはますます求められてくるでしょう。実はかくいう筆者も、ミドルマネジメントに足を踏み入れたばかりの若輩者です。大きな役割の転換に戸惑うこともありますが、ミドルマネジメントとは本来、部下が輝くためのサポートができ、組織にも貢献できる幸せな仕事です。まずは自身が生き生きとしたミドルマネジメントになれるよう、日々精進してまいります。
¹ONE人事 人事部門の役割と人材マネジメントに関する意識調査(2024年9月)
²スタメン 中間管理職の負担に関する調査(2024年11月)
³JMAM 管理職の実態に関するアンケート調査(2023年4月) あらゆる組織において、マネジャー育成は急務となっています。事業環境が激しく変化し、多様な働き方の推進が求められる中で、メンバーから最高のパフォーマンスを引き出すためには、マネジャーの能力向上が必要不可欠となります。
本コラムでは、マネジャーの能力開発を組織や人事部門が支援する方法についてご紹介します。
多忙なマネジャーの実態
組織において、マネジャーは重要なミッションを数多く与えられています。チームとしての成果創出が求められるのは勿論のこと、部下の育成やメンタルケア、コンプライアンスやハラスメントへの対応、イノベーション促進、働き方改革の推進等、枚挙にいとまがありません。
加えて、実務をも兼務するプレイングマネジャーも非常に多いといわれています。マネジャーを対象とした実態調査によれば、プレイング業務を兼務しているマネジャーは全体の約9割を占めており、業務量の増加や人手不足によって、マネジャーがマネジメントに専念できない、という現状が示されています。
一方で、プレイングマネジャーこそがチームの成果に貢献し、部下育成においても重要な役割を果たしていることにも注目すべきでしょう。例えば、次のような研究結果が挙げられます。
・プレイング業務の割合が20~30%のマネジャーは、プレイング業務を行わないマネジャーよりもチーム成果を上げている(『プレイングマネジャーの時代』リクルートワークス研究所)
・マネジャー(上司)は部下に対して、業務に必要な知識やスキルを提供し、業務をスムーズに進める調整をする等、業務支援に貢献している(『人材開発白書2009』富士ゼロックス総合教育研究所)
以上のことからも、プレイング業務とマネジメント業務の二足のわらじを履くプレイングマネジャーは、成果をあげつつ部下育成に直接的に貢献できるキーマンとして位置づけられることが見て取れます。

組織における能力開発 コルブの経験学習モデルから
では、多忙を極めるマネジャーに対して、組織や人事部門からはどのような支援ができるでしょうか。ここでは、企業・組織の人材開発理論の中でも有名な、デービッド・コルブが提唱する「経験学習モデル」を取り上げます(『経験学習の理論的系譜と研究動向』中原淳)。経験学習とは、業務等の経験を振り返り、次の経験に活かすプロセスのことを指します。
コルブは、経験によって人はどう学ぶかを「経験・内省・概念化・実験」という4つのサイクルで説明しています。
(1)具体的経験
まず1つ目が、具体的な経験です。経験それ自体に意味はなく、中立的なものと定義されています。を経験した、という事実認識であると捉えるとよいでしょう。
(2)内省的観察
次に、内省的観察です。「ある個人がいったん実践・事業・仕事現場を離れ、自らの行為・経験・出来事の意味を、俯瞰的な観点、多様な観点から振り返ること、意味づけること」をさします。内省、リフレクション等とも呼ばれ、経験から気づきを得る重要なステップです。
(3)抽象的概念化
3つ目は、概念化です。自身の経験を内省した後に、その経験を一般化、概念化することをさします。固有の経験を他の状況でも対応できる知識やノウハウに昇華するステップです。
(4)能動的実験
そして最後が、能動的実験です。経験を通して構築された知識やノウハウが、他の場面でも通用するかを行動によって検証します。 この実験によって、また経験や内省が生まれる、というようにサイクルが続いていきます。
多忙なマネジャーにこそ内省機会を
コルブの経験学習モデルの中でも、特に(2)内省的観察は経験学習の質を左右する重要なステップです。企業人の学習や成長に関する研究で有名な立教大学教授 中原淳氏は、「大切なことは、現場の経験をしっかりとリフレクションする機会を持つこと」だと主張し、内省の重要性を強調しています(『リフレクティブマネジャー ~一流は常に内省する~ 』中原淳/金井壽宏)。
また、内省の時間を十分にとらずに経験で解決しようとする姿勢を、「這い回る経験主義」として懸念しています。目まぐるしく業務をこなすマネジャーは、ともすると立ち止まって内省する機会がとれず、「這い回る経験主義」に陥っている人が多いかもしれません。
更に中原は、内省が生じやすい条件として、次の2点を挙げています。
①「語るべき他者」や「応答してくれる他者」がいること
②自身の考えや感情をアウトプットすること(外化)
これは、他者との対話や問いかけによって、相互に気づきを得られることを意味します。一人で立ち止まって内省することは勿論大切ですが、外化を通して他者からフィードバックをもらい、学び合うことで、内省が深まるのです。
つまり、組織や人事部門は、マネジャーが立ち止まって内省する機会や、他者との対話機会を創出することで、能力開発に貢献できるといえます。例えば、集合型の内省支援研修や部下との1on1ミーティングの支援といった施策が思い当たるでしょう。
自社のマネジャー向け研修、階層別研修に携わっている方は、内省機会の提供という視点が組み込まれているか、今一度点検されてみてはいかがでしょうか。
尚、当社では、内省を促すツールとして、アセスメント結果を用いた自己理解研修や部下育成研修等を扱っています。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。