量子コンピュータと分析
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量子コンピュータとは
従来のコンピュータは情報を処理する際に「0か1」という2通りの状態のみをあらわす「ビット」を最小単位として扱っているのに対して、量子コンピュータは量子力学の原理を応用した「量子ビット」を使用して情報の処理を行います。この「量子ビット」の性質は「0と1との両方の状態を同時に表すことができる」すなわち「0でありかつ1である」という状態をとることができるというところにあります。この性質により量子コンピュータではn個の量子ビットがあれば2のn乗の状態を同時に計算できることになり、実用化されれば、従来のコンピュータよりも圧倒的に高い処理能力を持つといわれています。
現在、研究開発が進められている量子コンピュータは「量子ゲート方式」と呼ばれるタイプと「量子アニーリング方式」と呼ばれるタイプの大きく2種類に分類されます。「量子ゲート方式」は従来のコンピュータと近い汎用型のものとなり、「量子アニーリング方式」は使用用途が限定され、組み合わせの最適化に特化したものとなります。
量子コンピュータの可能性
量子アニーリング方式の得意とする組み合わせの最適化とは「巡回セールスマン問題」といわれるセールスマンの訪問先が複数あるとき、移動時間や交通費といったコストを最小化した選択肢を導き出す方法に代表されます。組み合わせの最適化により、交通渋滞の緩和や医薬品の開発における分子の構造分析にも応用ができるといわれています。また、ビッグデータやその他の膨大なデータの掛け合わせシミュレーション、分析が可能になることから、新しい概念の研究開発、新しい分析手法の開発、精度の高い未来の情勢予測なども実現するかもしれません。人事分野では、今まで一括して取り扱えなかったあらゆる属性情報を幅広く分析対象として取り扱える可能性を秘めています。経験、スキル、ポテンシャルに留まらず、その人を表す様々な情報から、選抜、配置、チームや組織の最適化の実現も夢ではありません。これは同時に、人材配置の最適化が企業業績や経営にどのように影響を与えるかも解明できる可能性があります。量子コンピュータは、人事のビジネスインパクトの可視化ももたらすかもしれません。
今後の展望
現状ではまだ扱える量子ビット数が少ない点や、使用できる状況が限定されるなど、問題があり、本格的な実用化まではいたっていませんが、今後の開発によりその問題は解消されるでしょう。 実際、量子コンピュータは現在進行形で進化しており、すでに商用として稼働しているものもあります。また、量子コンピュータ用の新しいアルゴリズムも続々と開発されています。量子コンピュータ専用の開発ツールの提供や量子コンピュータの開発者養成の講座も行われており、実用化への準備は着々と進んでいます。おわりに
量子コンピュータが広く実用化されるまでにはまだ時間がかかるとみられます。しかしながら、実用化された時の社会に与えるインパクトは大きく、人事分野においても例外ではないでしょう。量子コンピュータの実用化が社会にどのような影響を与えるのか、今後も注目していきたいです。
このコラムの担当者
岡井 清之
日本エス・エイチ・エル株式会社 課長