従業員のキャリア自律をどう支援するか
公開日:2021/02/12
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「人生100年」時代への突入と同時に、近年キャリア自律への注目が高まっています。これは、働く人一人一人が自分の特性や価値観を改めて知ることの重要性が高まっていることを意味します。本記事では、アセスメントを通じて組織がどのように従業員のキャリア自律に貢献できるかをまとめました。

キャリア自律とは
キャリア自律とは、企業主導ではなく個人が自律的に自身のキャリア開発を行っていくことを指します。米国で自律型キャリア開発プログラムを策定したキャリア・アクション・センター(CAC)は、キャリア自律を「めまぐるしく変化する環境の中で、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、生涯にわたるコミットメント」と定義しました(花田, 2003)。VUCAの時代、旧態依然としたトップダウン的な人材育成では、組織はビジネス変化のスピードについていけません。従業員が「与えられた仕事でベストを尽くす」のではなく、自ら主体的に「〇〇のプロフェッショナル」として経験や学習をつむことで、生産性を高めることが期待されています。現在、副業・兼業の解禁、海外留学支援、独立支援など、いわゆる「越境学習」を含む、キャリア自律支援の取り組みを始める企業が増えています。しかしながら、組織主導のキャリア形成に長く従ってきた日本の会社員にとって、キャリアを能動的に考えるというのは難しいものです。実際に、日本人のキャリア意識は諸外国と比べても著しく低いという指摘もあります。たとえば、パーソル総合研究所「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」(https://rc.persol-group.co.jp/news/201908270001.html)によれば、日本は出世意欲、自己研鑽、起業・独立志向ともに最下位です。
各種プログラムや制度の導入とともに、まず従業員が自らキャリアプランを描けるように意識づけるためのキャリア教育が必要となるでしょう。
自分を知ることをキャリア自律の羅針盤に
自律的にキャリアを考えるのであれば、「(組織ではなく)自分が何をしたいのか」を羅針盤にするほかありません。「営業を〇年やったので、そろそろ△△あたりに異動だろう」といったキャリア意識ではなく、たとえば営業を通して「自分は人と接することは好きなのか、それともデータを眺めている方が好きなのか」「自分は人を説得することが好きなのか、それとも、人に寄り添い相談に乗ってあげることが好きなのか」といったように、一つ一つ自身の経験や感情を振り返り、自身が今後キャリアを積む専門分野を定めていくことが求められます。そして生まれた学習意欲やチャレンジ精神に対して、組織は越境学習プログラムや公募制度などを用いて、キャリアを突き詰めるための支援を行っていくことができます。「自分はどのようなことを好み、得意なのか(パーソナリティ)」「自分はどのようなことを行うときにやる気が出るのか(モチベーション)」といった自分の特徴を理解し、どのような方向でキャリア開発を行うかを見つめなおす機会が必要でしょう。またこのような自分を見つめなおす機会は、一度ではなく節目ごとに継続的に行うことが重要です。現在のポジションによって、自分の特性をどのようにキャリアに反映させていくかという発想は当然異なるからです。
「計画された偶発性」にも準備が必要
とはいえ、自分を知ればすぐに人生100年時代のキャリア全貌が描けるわけではありません。先述の通りVUCAの時代、数年先の情勢も見えないのが現実です。そのようなとき、役に立つのが心理学者クランボルツの提唱する「計画された偶発性 (Planned Happenstance)」の概念です。これは、「人のキャリアを大きく左右するような出来事はほとんど『偶然』によって起きるが、偶然をキャッチできる準備状態になければそのチャンスを活用できない」という理論です。
つまり、日ごろから自分を知り、自分はこのような分野で、このようなキャリアを歩んでいこうという興味関心のターゲットを定めていればこそ、目の前に現れた絶好の機会や貴重な情報をキャッチできるのであり、準備状態なしに機会だけを提示されてもそれを活用することは難しいのです。
自分自身を知るということは、まさにこの準備状態を作るステップと言えるでしょう。
さいごに
従来の能力開発では、組織の定めたキャリアを歩むうえで、自分に足りないものを埋める「弱みの改善」が重視されがちでした。しかしキャリア自律に則れば、自分の強み(才能)を発揮できる仕事や場所を見定め、知識や経験、技術を身に着けてゆくという「強みを磨く」発想がより重要になるでしょう。日本エス・エイチ・エルでは、自身のアセスメント結果のフィードバックを行い今後の能力開発を考える研修、また上司が部下のアセスメント結果をもとに1on1ミーティングの仕方を考える研修などを提供しております。これらの研修は、グループワークを通して他の参加者の気付きやアドバイスなどを受ける場として活用いただくこともできます。興味のある方はぜひこちらよりお問い合わせください。
引用文献
花田光世・宮地夕紀子 (2003). キャリア自律を考える: 日本におけるキャリア自律の展開. CRL レポート.

このコラムの担当者
佐藤 有紀
日本エス・エイチ・エル株式会社