コラム

人事コンサルタントの視点

採用選考におけるAI活用の広がりとEUのAI規制法

近年、採用活動におけるAIの活用が世界的に広がっています。HRテクノロジーの進化により、採用業務の効率化や属人化の解消が進む一方で、公平性や透明性といった倫理的な課題も浮き彫りになりつつあります。そうした中、2024年に欧州連合(EU)が世界に先駆けて「AI規制法(AI Act)」を採択しました。
本コラムでは、採用におけるAI活用の現状とEUのAI規制法について整理します。

採用選考におけるAI活用の広がりと可能性

    AIは選考プロセスのさまざまな場面で活用されています。
  • タレントプールの活用と推薦
    過去の応募者や登録人材から、ポジションに合う人材をAIが自動レコメンド
  • 書類選考の自動化
    エントリーシートや履歴書をAIが分析し、募集職種とのマッチ度をスコア化
  • 面接の代行
    AIがあらかじめ設定された質問を投げかけ、候補者の回答をリアルタイムで収録・分析
  • 面接のAI評価
    録画面接やリアルタイム面接の音声・表情・言語内容をAIが解析
AIの利点は、客観的な基準に基づく評価を可能にし、バイアスの排除にもつながる可能性がある点です。ただし、どのようなデータで学習させ、どのように運用するかによって、その効果や公平性は大きく変わってきます。

採用選考におけるAI活用の広がりと可能性

EUのAI規制法の概要と採用への影響

こうしたAI活用の拡大に対し、EUはAIの安全性と倫理性を担保するため、包括的な法規制を打ち出しました。採用に用いられるAIは、個人の人生に大きな影響を与える判断に関わるとして「高リスクAI」に分類されます。
この「高リスクAI」を採用で利用する際には、以下のような義務が企業に課されます。

  1. 透明性の確保
    候補者に対して、AIを使って選考していること、評価基準、目的などを事前に明示する必要があります。
  2. 説明可能性(Explainability)
    AIによる評価がどのような根拠に基づいて出されたのかを、候補者および採用担当者が理解できる形で提供する必要があります。
  3. 差別や偏見の排除
    性別、年齢、人種などによる不当な差別が生じないよう、モデルの訓練データや評価アルゴリズムの検証が義務づけられます。
  4. 人間の関与(Human oversight)
    最終的な合否判断は必ず人間が行う必要があり、AIのみでの意思決定は禁止されています。
  5. 記録と説明責任
    AIシステムの設計意図や運用履歴などを文書として残し、必要に応じて当局に開示できる体制が求められます。
これらの規制により、企業はAIを「ブラックボックス」のまま使うのではなく、その判断根拠を把握し、候補者に対しても説明責任を果たす必要があります。

EUのAI規制法の概要と採用への影響

おわりに

採用におけるAIの活用は今後も加速していきますが、そこには単なる効率化だけでなく、「公平な評価」「人間による最終判断」「候補者体験の向上」といった視点が欠かせません。EUのAI規制法は、採用のあり方を問い直す強いメッセージでもあります。
AIと人間がそれぞれの強みを活かし、候補者にとっても企業にとっても納得度の高い選考プロセスを築いていくことが、これからの採用の新しいスタンダードになるのではないでしょうか。

参考:EU Artificial Intelligence Act「Section 2: Requirements for High-Risk AI Systems」

遠藤 亮介

このコラムの担当者

遠藤 亮介

日本エス・エイチ・エル株式会社

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