「面接官トレーニング」は、採用の成否を分ける極めて重要な施策です。にもかかわらず、多くの企業で優先順位が低く見積もられがちです。
「面接官は現場の管理職が兼務している」「トレーニングは特にしておらず、個々の経験と勘に任せている」。もし貴社がこのような状況なら、採用のミスマッチや内定辞退の根本的な原因を放置しているかもしれません。
この記事では、なぜ今「面接官トレーニング」が必須なのか、その必要性とメリット、そして人材アセスメントのグローバルリーダーである当社の知見に基づいた科学的かつ具体的な方法まで、詳細に解説します。
なぜ今「面接官トレーニング」が必須なのか?
採用の質を高めたいと考えたとき、多くの企業が「母集団形成」や「採用広報」に目を向けがちです。しかし、どれだけ優秀な候補者を集めても、最終的な「面接」の質が低ければ、すべての努力は水泡に帰します。
面接官の98%は面接に課題があるが、6割以上が「研修未経験」。属人化する日本の面接
人事ポータルサイト『日本の人事部』が実施した調査によれば、驚くべきことに採用面接の経験がある人の98.4%が、「面接において何かしらの悩みや課題を抱えている」と回答しています。- 1位:応募者の本来の性格や人間性を見抜くのが難しい (74.6%)
- 2位:本当に能力や経験があるのか見抜くのが難しい (57.1%)
- 3位:自社の雰囲気や風土になじむ人材かどうか見抜くのが難しい (38.1%)
- (出典:『日本の人事部』「採用面接経験者の98.4%が悩み「あり」」)
【採用面接における悩み・課題(上位)】
HR総研(HRプロ)の調査では、「面接官としてのトレーニングや研修を受けた経験があるか」という問いに対し、「ない」という回答が64%にも上りました。(出典:エン・ジャパン株式会社調査/HRプロ掲載「【採用面接】6割が「面接官」としての研修・トレーニング経験なし。」)
つまり、日本の企業の多くが、自社の未来を左右する重要なプロセスを、専門的な訓練を受けていない担当者の「経験」や「勘」という、極めて属人的なものに依存しており、面接官自身もその難しさに悩んでいるのです。これが、採用のミスマッチや評価のバラつきを生む最大の温床となっています。
予算に載らない「質の悪い面接」が生む3つの隠れたコスト
面接官のスキル不足は、「なんとなく良い人が採れない」といった曖昧な問題に留まらず、質の悪い面接の失敗は、貸借対照表には載らないものの、確実に企業の経営資源を蝕む「隠れたコスト」となります。(出典:SHL Blog “Bad interviews cost more than you think”)
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コスト1:最悪の投資「ミスハイヤー(採用ミスマッチ)」
最も深刻なのは、採用した人材が期待通りに働かず、早期離職に至るミスハイヤーです。多額の採用・教育コストが無駄になるだけでなく、生産性の低下、既存社員の負担増、そして再採用コストという形で企業にとって「不良債権」のような投資となってしまいます。
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コスト2:機会損失を招く「採用の遅延」
面接官の評価基準の曖昧さやスキル不足は、採用プロセスの非効率化を招き、ポジションの空席期間を長期化させます。SHLグループのベンチマークでは、「従業員は自らの給与の約3倍のビジネス価値を年間で生み出す」とされており、採用の遅延は、その分の得られたはずの利益(機会損失)を日々失い続けていることになります。
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コスト3:未来の応募者を失う「候補者体験(CX)の悪化」
面接は企業が候補者を選ぶ場であると同時に、候補者が企業を「見定める」場です。SHLグループは、質の悪い面接が引き起こす最後のコストとして、「ブランドの毀損(Brand damage)」を挙げています。面接官の準備不足や不適切な対応は、候補者にネガティブな印象を与え、候補者体験(CX)を悪化させます。このネガティブな体験は、内定辞退だけでなく、口コミなどによる採用ブランドの毀損、ひいては未来の優秀な応募者まで失う甚大な損失につながるのです。その他の調査でも、8割以上の転職者や学生が面接官の対応で志望度が変化したと回答しており、質の低い面接は内定辞退の直接的なトリガーとなり得るのです。(出典:エンワールド・ジャパン調査 / 掲載:HRプロ面接官や人事の対応で“入社意欲や志望度が変化した”という転職者は約8割。選考時に企業も判断されている)、マイナビサポネットマイナビ 2025年卒 学生就職モニター調査 6月の活動状況)
面接官トレーニングがもたらす3大メリット(効果)
- 「面接官トレーニング」に投資することは、採用活動における「コスト」ではなく、企業の未来を支える「投資」です。具体的に、以下の3つの大きなメリット(効果)が期待できます。
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メリット1:採用ミスマッチの防止(客観的な「見極め力」の向上)
トレーニングを通じて、面接官が候補者の「印象」や「話し方」といった主観的な要素ではなく、「過去の具体的な行動事実」に基づいて評価するスキルを習得できます。
これは、当社の提唱する構造化面接の技術に基づいています。この手法を習得することで、面接官個人の経験や勘に頼ることなく、あらかじめ定義されたコンピテンシー(職務で高い成果を出すために必要な行動特性)を正確に見極める力が向上します。
結果として、応募者の能力や経験、ひいては入社後の定着性に関わるミスマッチを劇的に削減することが可能になります。 -
メリット2:内定辞退率の低下(候補者を惹きつける「魅力づけ力」の向上)
面接官には、候補者を見極める「評価者」の側面と同時に、候補者の入社意欲を高める「魅力づけ(動機づけ)」の側面が求められます。
トレーニングにより、面接官が自社の魅力を的確に伝え、候補者の質問に誠実に対応するスキルを身につけることで、候補者体験が向上し、内定辞退率の低下に大きく貢献します。 -
メリット3:評価基準の統一(属人化・バイアスの排除)
「A部長の面接は通過しやすいが、B部長は厳しい」といった「面接官ガチャ」は、候補者の不信感を招き、組織としての採用力を低下させます。
面接官トレーニングを実施し、「自社が求める人物像」を具体的な評価基準(モノサシ)として全社で共有することで、面接官個人の「好き嫌い」や「バイアス(偏見)」を排除し、一貫性のある客観的な選考が可能になります。
当社が提唱する「科学的」面接官トレーニングで学ぶべき3つの柱
- では、効果的な面接官トレーニングとは、具体的にどのような方法で、何を学ぶべきなのでしょうか。当社では、単なるマナー研修や「勘」の精度を上げるものではなく、科学的根拠に基づいた以下の3つの柱を学ぶことを推奨しています。
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柱1:評価基準(モノサシ)の構築~「コンピテンシー」の定義
最も重要なのが、「評価のモノサシ」を揃えることです。「コミュニケーション能力」といった曖昧な基準ではなく、「コンピテンシー(行動特性)」に基づき、評価基準を明確に定義します。
例えば、「ヴァイタリティ(困難な目標をやり遂げる気力)」「問題解決力(論理的に考え推論する力)」など、自社の職務で成果を出すために必要な行動を具体的に定義し、全関係者で共有します。 -
柱2:予測精度の高い「構造化面接」の技術(質問技法)
モノサシが決まったら、次はそのコンピテンシーを「見極める」ための技術を学びます。それが「構造化面接(客観面接)」です。
構造化面接とは、あらかじめ定義したコンピテンシーに基づき、「何を」「どのような順序で」質問するかを決めて行う面接手法です。当社のコラムでも示されている通り、この手法は、入社後のパフォーマンスを予測する「妥当性」が、主観的な面接に比べて格段に高いことが科学的に証明されています。
トレーニングでは、候補者の過去の行動を深掘りする具体的な質問技法(例:STAR手法)などを学びます。 -
柱3:バイアスの認識と「客観評価」の訓練
人間は誰しも「バイアス(無意識の偏見)」を持っています。「自分と同じ大学出身だから優秀だろう(親近感バイアス)」「ハキハキと話すから仕事もできるだろう(ハロー効果)」といったものです。
面接官トレーニングでは、こうした「評価エラー」につながるバイアスの存在を自覚し、評価の際は必ず「なぜそう評価したのか?」という“事実(候補者の具体的な発言や行動)”に基づいた客観的な根拠を示す訓練を行います。
面接官トレーニングの具体的な実施方法
これらのトレーニングを実施するには、大きく分けて「自社」で行う方法と「外部」に委託する方法があります。
自社で実施するメリットと注意点
メリット:コストを抑えられ、自社の実情に即した内容(例:実際の評価シートを使う)で実施できます。注意点:トレーニングの「指導役」自身が客観評価の手法を深く理解している必要があります。また、社内の上下関係や権力構造に影響され、「指導される側が萎縮して質問がしづらくなる」「指導する側が、相手の役職を考慮して厳しく指導しづらい」といった心理的な障壁が生まれ、指導効果が薄れるリスクがあります。単なる「OJT」や我流の「ロールプレイング」では、間違った面接手法が再生産されるリスクもあります。
外部研修・サービス(SHLなど)を活用し、専門性を高める
メリット:当社のような専門企業が提供するプログラムを活用することで、客観評価や構造化面接といった科学的な手法を、体系的かつ効率的に習得できます。インハウス形式のトレーニングでは自社の評価シートを使ったトレーニングを行うなど、カスタマイズ可能な部分もあります。注意点:一定のコストがかかりますが、それ以上に採用の質が向上し、採用ミスマッチ(ミスハイヤー)のコストが削減される「投資対効果」が期待できます。
面接の限界を超えるために:アセスメント(適性検査)との併用という視点
最後に、当社が最も重要視する視点をご紹介します。それは、「面接は万能ではない」と知ることです。
例えば、SHLの豊富な経験から「創造的思考力」や「プレッシャーへの耐力(ストレス耐性)」の一部は、対話(面接)だけで正確に見極めることが非常に難しいとされています。
そこで、当社の知見では、「知能検査」と「客観面接」の組み合わせが、将来の職務業績を最も高く予測できるとされています。
面接官トレーニングによって面接(対面での行動確認)の質を高めると同時に、OPQ(パーソナリティ検査)や知的能力検査といった客観的アセスメントを併用することで、候補者のポテンシャルを多角的に、より正確に評価することが可能になるのです。
まとめ:採用の質は「面接官トレーニング」で劇的に変わる
本記事では、面接官トレーニングの必要性から、具体的なメリット、そしてSHLが提唱する科学的な方法(コンピテンシー定義と理解、構造化面接、客観評価)までを解説しました。
6割以上が研修未経験という現状(属人化)を放置すれば、ミスマッチや内定辞退による「目に見えないコスト」を支払い続けることになります。
当社では、科学的アセスメントの知見を活かした面接官トレーニングを通じて、貴社の面接を「勘と経験」から「データと根拠」に基づく客観的なプロセスへと変革するご支援をしています。
採用の質は、面接官の質で決まります。「面接官トレーニング」という戦略的投資で、貴社の採用力を根本から強化してみてはいかがでしょうか。
このコラムの担当者
水上 加奈子
日本エス・エイチ・エル株式会社
マーケティング課 課長