テクノロジーを成果に変える「人間の行動特性」の正体
多くの企業がAIの導入を急いでいますが、その投資は期待通りの成果を生んでいるでしょうか。テクノロジーの進化がどれほど加速しても、最終的にその価値を引き出し、組織のパフォーマンスに変えるのは「ツール」ではなく「人」です。
SHLグループは、人事・組織戦略の世界的権威であるジョシュ・バーシン(Josh Bersin)氏と提携し、AIを最大限に活用して個人の能力を拡張させる新しい人材像「スーパーワーカー(Superworker)」を定義しました。本コラムでは、日本ではまだ耳馴染みのないこの革新的なコンセプトについて解説します。
「スーパーワーカー」の定義:単なる自動化を超えて
スーパーワーカーとは、AIを単なる効率化の道具として使う人ではありません。彼らはAIを自らの「パフォーマンスの増幅器(Multiplier)」として活用し、ワークフローを再構築することで、生産性、創造性、意思決定の質を飛躍的に向上させる従業員を指します。
重要なのは、彼らがAIツールを開発するわけではないという点です。スーパーワーカーの本質は、プログラミングスキルなどのテクニカルスキルではなく、AIと協働するために必要な「行動スキル」(ソフトスキル)にあります。
AI導入を阻む壁|世界100万人の分析で判明した「従業員の準備不足」
SHLが世界100万人以上のビジネスパーソンを対象に行ったスキル分析によると、スーパーワーカーとして活躍するために必要な資質を備えている従業員は、わずか3分の1にとどまることが明らかになりました。
つまり、残りの3分の2の従業員は、AIがもたらす変化に対応する準備がまだ整っていないということです。これは人事にとって深刻な課題であると同時に、適切な測定と育成によって組織全体のAI活用能力を底上げする大きなチャンスでもあります。
スーパーワーカーを構成する4つの「DNA」と行動特性(ソフトスキル)
ジョシュ・バーシンのスーパーワーカーのフレームワークを元に、SHLが測定可能な行動スキルに落とし込みました。
以下のスーパーワーカーのDNAは4つの機能クラスターとして構造化されています。
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AIリテラシー(AI Literacy)
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AIスキルの理解:
AIの概念や手法だけでなく、時間の節約、業務の体系化、組織の長期目標の推進におけるAIの可能性を理解している -
AIスキルの適用:
AI活用に責任を持ち、生成結果の仕組みを理解しようと主体的に取り組むとともに、倫理的・運用上の指針を遵守する。
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AIスキルの理解:
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分析能力(Analytical Ability)
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批判的思考(クリティカルシンキング):
AIが生成した情報を含む、幅広く複雑な情報を検証・分類・統合するために批判的思考スキルを適用し、思慮深く裏付けのある結論を導き出す。 -
解決策の再構築:
利用可能な情報を分析し、インパクトの大きい機会を特定し、業務上の課題に対して先見性のある解決策を計画することで、有意義な改善を推進する。
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批判的思考(クリティカルシンキング):
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継続的な学習(Continuous Learning)
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新しいテクノロジーを受け入れる:
新しい概念を学び、受け入れるために積極的に情報を収集する。AI主導の技術やプロセスに効率的に適応することで、働き方を変革し、進化し続けるデジタル環境を自信を持って切り拓く。 -
先駆者的マインドセットを発揮する:
明確で意欲的な学習目標を主体的に設定し、その達成に向けて高いモチベーションを維持する。挫折、不確実性、フィードバックに直面しても、好奇心とレジリエンス(回復力)を保ち続ける。
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新しいテクノロジーを受け入れる:
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AIの推進(AI Promotion)
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AIの推進役となる:
AI導入への意欲をかき立てるような説得力のある議論を展開することで、AIの推進者として周囲からの信頼を獲得する。 -
AIの知識を共有する:
AIの概念、プロセス、アウトプットを分かりやすく説明することで、支援、非公式なフィードバック、実用的な解決策を提供し、周囲の理解と自信を育み、組織全体の能力向上をサポートする。
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AIの推進役となる:
これらを支える「好奇心」「学習の機敏性(ラーニングアジリティ)」「批判的判断」「レジリエンス」といった行動特性は、時代の変化に左右されない「持続可能なスキル」であり、客観的なアセスメントによって測定・開発が可能です。
人事が今、取り組むべきこと
- 変革のリスク回避: 普遍的な行動特性を測定することで、変化した役割や職務において人材が活躍するために必要なスキルを備えているかをリーダーが見極めることができ、見切り発車やコストの大きい失敗を減らすことが可能になります。
- 公平性と透明性:従業員のスキルに対して透明性の高いフィードバックを提供することで、信頼関係を築きます。AIを恐れるのではなく、成長の機会として捉え、自身の能力開発や準備状況を可視化し、キャリア成長につながる明確な道筋を描けるようになります。
- 成長の加速: AI導入を行動スキルと結びつけることで、相乗効果が生まれます。AI活用に自身を持ち、批判的思考や戦略的思考、新しいアイデアの受容に長けた人材が増えることで、生産性とイノベーションが飛躍的に向上します。
AI導入の成功を左右するのは、従業員が「AIに仕事を奪われる」という恐怖を捨て、AIをパートナーとして信頼できるかどうかです。スーパーワーカーの資質を客観的に可視化することで、企業は以下のメリットを享受できます。
結論
AI時代の差別化要因は、ツールの性能ではなく「人々がそれをどう使うか」にあります。スーパーワーカーを特定し、その才能を開花させることは、これからの企業成長における最優先事項となるでしょう。SHLグループのChief Science Officer (CSO/研究開発責任者)のサラ・グティエレス(Sara Gutierrez)は「測定できないものは、管理(マネジメント)することができない」とした上で、スーパーワーカーを特徴づけるスキルは高精度に測定でき、研究によってそれらが後天的に開発可能であると述べています。
SHLとジョシュ・バーシン・カンパニーによる共同研究プログラムの結果が、今年2026年に公開される予定です。AI時代を勝ち抜くための「スーパーワーカー」の発掘と育成に、今こそ着手しませんか。
このコラムの担当者
水上 加奈子
マーケティング課 課長
10年以上にわたりHRコンサルタントとして顧客と向き合う現場の最前線に立ち、大手企業の採用要件定義やデータ分析、育成研修等に従事。2016年に「イノベーション人材」をテーマに産業・組織心理学会で論文を発表。 その後、2020年のマーケティング部門立ち上げより現職。チーム責任者として科学的根拠に基づく発信を統括しつつ、現場知見を活かした多岐にわたるコンテンツ制作を指揮している。国家資格キャリアコンサルタント。