コラム 人事コンサルタントの視点

諦めないという再設計 ― 東京マラソン2026雑感

更新日:2026/03/06

東京マラソン2026が3月1日(日)に開催されました。私は3年連続、4回目の東京マラソン出走となりました。ランニングを始めるきっかけとなった東京マラソン2012から14年間の経験を振り返りながら、加齢による能力の変化と、今回のレースでの目標設定、そしてその達成戦略について考えてみました。

スタート前の計算

時刻は8時10分、スタート1時間前。万全の状態でスタートブロックCの先頭に立った。目の前には3時間のペースランナー。他のレースであればサブ3*ランナーたちの緊張感に飲み込まれそうになる場面だが、ここは東京マラソン。多くの海外ランナーが楽しむ空気をつくってくれており、不思議と静かな気持ちを保てていた。
天候、体調は万全。ガーミンの予想タイムは3時間10分。直近1カ月の練習量と質は十分とは言えない。それでもサブ3を諦めてはいない。
「諦めない」という自分と、「成功確率を計算する」自分。その矛盾を抱えたまま号砲を待っていた。
*フルマラソンで3時間未満で完走すること

スタート前の計算

ピークという物差し

私のベストタイムは2016年3月の横浜マラソン、3時間0分29秒だ。あのときの感覚はいまも鮮明である。5キロ地点で3時間ペースランナーに追いつき、38キロまで集団走を続けた。登りでわずかに離され、ラスト4キロはただがむしゃらに走った。ゴール後には後悔と同時に、サブ3達成の確信があった。
しかしその後、10年間ベストを更新していない。サブ3も達成していない。
一度到達した数字は、未来の目標である以上に、現在を測る物差しになる。励みにもなるが、圧力にもなる。私はその物差しを10年間握ったまま、スタートラインに立っている。

ハーフ1時間32分の現実

号砲が鳴る。10キロまでにペースランナーへ追いつこうと走るが、なかなか差が詰まらない。焦りが心を乱し、思うようにペースが上がらない。
ハーフ通過は1時間32分。単独走なら前半プラス10分が目安。今日は3時間14分前後。この時点でサブ3は事実上消えた。
それでも諦めてはいない。今できる最高のパフォーマンスを出すだけだ。
結果は予想通り3時間14分59秒。シーズンベストではあるが、目標には遠い。私は「諦めない」と言いつつ、ハーフの時点で現実を受け入れ、次の数字を見ていた。

ハーフ1時間32分の現実

成功確率40%という時間制約

来シーズンのサブ3成功確率は40%と見ている。
現在56歳で、VO₂max(最大酸素摂取量)は60。理論上はサブ3水準である。しかしマラソンはVO₂maxだけで決まらない。乳酸閾値、ランニングエコノミー、回復力。それらが掛け算で効いてくる。
一般にVO₂maxは年間約1%程度低下するとされる。努力で遅らせることはできても、止めることはできない。閾値や回復力のわずかな低下が重なれば、総合出力は数年で明確に落ちる。60歳以降のサブ3がより困難になるのは、生理的変化として自然な帰結である。
成功確率40%は、今の自分にとって最も高い確率だと考えている。失敗の可能性の方が大きい。しかし前に進む余地があるなら、やり方を変えながら試みたい。
ここで敢えてレジリエンスという言葉を、「条件が変わるなかで形を変えながら進み続ける力」という意味で使いたい。衰えを織り込み、設計を変え、目標を達成すること。そこにレジリエンスの本質があるのではないか。
年齢は巻き戻せない。だが練習は変えられる。優先順位と時間の使い方も変えられる。諦めないとは、現実を無視することではない。現実を前提にしながら、形を変えて前に進むことである。

挑戦を手放せない理由

ここで正直に書いておきたいことがある。なぜサブ3を目標とし続けるのか。
それは、挑戦を続ける自分でありたいという自己イメージを守りたいからかもしれない。諦めた自分を受け入れるのは怖い。挑戦をやめた瞬間、自分が自分でなくなり、意欲を失いそうな気がする。
私にとって挑戦は生きる力そのものなのだろう。
サブ3は夢ではなく目標である。達成したい。しかし意志があっても身体は変わる。だからこそ戦略と方法を変え、意志を守る。それが私にとってのレジリエンスである。

挑戦を手放せない理由

やり方を変える

来シーズンが最も達成の可能性が高い。これから10年間の数字で並べると、どうやら私はいまが相対的に旬といえる。
ならばやれることはやる。練習の質を上げ、回復を優先し、時間の使い方を再設計する。
まずは会食を減らす。飲酒が含まれると単に時間だけでなく、回復にも時間を使う。これは比較的やりやすい。
もう一つは仕事だろう。夜も休日もお構いなしに働き、この月一回のコラムも、たいてい土日か平日の深夜に書いている。時間は有限である。何かを増やすには、何かを減らすしかない。
幸い、今の私には生成AIという優秀な相棒がいる。業務効率化という名目で時間を捻出するのは合理的だ。実際、この原稿もかなり助けてもらっている。つまり私は走り方だけでなく働き方も少し変えようとしている。
サブ3で走ることだけは代わりにやってもらうことはできないのだから。

やり方を変える

おわりに

今回の東京マラソンはコース、応援、天気すべてがパーフェクトな大会でした。タイムに不満はありますが、多くの示唆を与えてくれたことには大満足しています。
また、マラソンをテーマにコラムを執筆することで、改めて自分を客観的に見ることができました。時間が無限ではないが、身体的な能力はまだ維持できていることも改めて自覚しました。
年々変化するリソースを活用し目標達成するためには再設計が必要。これが今回のレースから得た最大の学びだったのかもしれません。
来年のスタートラインに立つとき、私はまた同じ計算をしているでしょう。そのときの成功確率がどうなっているのか。少しだけ楽しみにしながら、月間300kmを走り続けます。

おわりに

清田 茂

このコラムの担当者

清田 茂

執行役員

入社以来30年、HRコンサルタントとして日本の人事アセスメント界を牽引。大手を中心にコンピテンシーモデリングから選抜設計、サクセッションプラン構築まで広範なプロジェクトを完遂。特に経営層との対話を通じた次世代リーダー育成に高い実績を持つ。 2002年取締役、2020年より執行役員として直販部門を統括。最前線で「人と仕事と組織の最適化」を追求する傍ら、SHLグループのグローバル知見の国内導入も推進。

メールマガジン登録

日本エス・エイチ・エルのメールマガジンではタレントマネジメント・人材採用に関する様々な情報を発信しております。

メールマガジンに登録する

組織人事や採用の問題解決は
日本エス・エイチ・エルに
ご相談ください

サービスをもっと知りたい方

資料ダウンロード

サービスの導入を検討している方

お問い合わせ