パーソナリティ検査の投資収益
公開日:2010/03/09
このコーナーは、イギリスのSHLグループがお客様に向けて発信している様々な情報を、日本語に翻訳してご紹介するものです。主にグループのネット配信「SHL Global Newsletter」や広報誌「Newsline」、HPから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。
今回は、SHLグループ開発部長Eugene Burke氏が広報誌に発表した記事「The return on investment from personality testing」を取り上げました。
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この記事のテーマは、「企業にとってパーソナリティを評価することの財務的見返りは何か」である。
典型的なシナリオ
基本的な、よくあるシナリオを使って、職場でパーソナリティを評価することの投資収益の例を具体的に描いてみよう。
ある会社がある期間に100人の管理職を採用もしくは昇進させようとしているとしよう。さらに、平均給与は4万ポンドであると仮定する。社員が会社に提供する価値は給与の倍数で表される。研究によれば、その社員が業績カーブのどの位置にいるかによって、給与の1倍~2.5倍といろいろである。その社員が業績の下位15%であれば1倍、つまり給与として支払われている金額以上の収益はない。平均的な業績の社員の貢献価値は給与の2倍、我々のシナリオで8万ポンドとなる。さらに、上位15%の業績者は給与の2.5倍の貢献(10万ポンド)である。
もちろん、あらゆる会社が、自社のできるだけ多くの社員に(その業界の同等者と比較して)上位15%の業績を収めてほしいと考える。したがって、この記事の最初に提示した質問に答える1つのやり方は、パーソナリティを評価することが業績カーブ上の社員のバランスをどの程度移行させることができるかを示すことだろう。つまり、パーソナリティ評価を使用することが低業績者の数を減らし、高業績者の数を増やすことである。
ベースラインの設定
次に比較するためのベースラインを見よう。この質問の研究に使用される統計モデルは、パーソナリティと業績の関係を、ランダムチャンスだけで期待されるものと比較する。別の言い方をすれば、パーソナリティ検査を使うと、単純にコインを投げて裏表で採用を決定するよりも、どれくらいより多くの利益を期待できるか、である。
もちろん、会社は通常、応募者のスクリーニングや昇進で履歴書から経験を見たり面接を行ったりする。研究によれば、経験だけをベースに選抜した場合、選抜された人の業績は約15%増える。そして、職務要件をよく理解した上でパーソナリティ検査を使うと、偶然ランダムに選抜するよりも、業績は35%増加する。
職場におけるパーソナリティの算数
この研究から我々のシナリオでの収益を計算することができる。計算の重要素材をおさらいしよう。
- 平均給与は4万ポンド
- 社員の下位15%は、自分の給与と同額の価値を会社に貢献する(収益はゼロ)
- 社員の中位70%は、給与の2倍の額の価値を貢献する(収益は100%)
- 社員の上位15%は、給与の2.5倍の額の価値を貢献する(収益は150%)
また、業績カーブ(正規分布またはガウス分布)の数学から、経験だけ、もしくは、パーソナリティ検査で選抜決定した場合の、業績の移動の平均を計算することができる。
下の表は選抜手法別に、業績の3区分のそれぞれにはいると予測される合格者の人数である。「ランダム」選抜では何の評価も使わない。「経験」は履歴書と基本的な面接での選抜。「パーソナリティ検査」は職務要件に照らしてきちんと構成された、関連性のあるパーソナリティ検査を使った場合である。
業績区分 | ランダム | 経験 | パーソナリティ検査 |
---|---|---|---|
低 | 15% | 12% | 3% |
中 | 70% | 73% | 68% |
高 | 15% | 18% | 28% |
上の図が新しく採用した人の業績分布である。この分布が全体の業績にどのような影響を与えるか、3つのシナリオでのそれぞれの総収益を計算することによって、数字で表すことができる。
業績区分「低」の人の総収益は給与と差し引いてゼロである。業績区分「中」の人は貢献(給与の2倍)マイナス給与、「高」の人は貢献(給与の2.5倍)マイナス給与である。この値に各業績区分の人数を掛け、合計したものが、選抜した100人の総収益である。
業績区分 | ランダム | 経験 | パーソナリティ検査 |
---|---|---|---|
低 | 15×0ポンド=0ポンド | 12×0ポンド=0ポンド | 3×0ポンド=0ポンド |
中 | 70×4万ポンド=280万ポンド | 73×4万ポンド=292万ポンド | 68×4万ポンド=272万ポンド |
高 | 15×6万ポンド=90万ポンド | 18×6万ポンド=108万ポンド | 28×6万ポンド=168万ポンド |
総収益 | 370万ポンド | 400万ポンド | 440万ポンド |
これらの数字が示すことは、「ランダム」選抜と比べて、「経験」選抜は108%、「パーソナリティ検査」選抜は119%の収益を上げる、ということである。「パーソナリティ検査」選抜では、毎年70万ポンドの収益が追加される。収支にこのような影響を与えるということで、パーソナリティ検査へ投資する価値は非常に明白である。
これらの数字は保守的な推定である。なぜなら、『業績は「できる」と「やりたい」の掛け算で決まる』という原則を考えれば、パーソナリティ検査は「やりたい」の因子を捉えているからである。上の表の数字はまた、業績の増加分だけを見ている。低業績者のマネジメントに関連するコストがあるだろう。最近の研究によれば、管理職は業績の劣る人の管理に時間の8~24%を使う。低業績者の数を最小限にすることで、高い業績を上げている管理職を自由にして、さらに高い収益を生み出させることができるだろう。
私は、パーソナリティ検査だけで人を選抜すべきだ、と主張しているのではない。もちろん、経験と教育研修は仕事業績において一定の役割を果たすに違いない。しかし、今日の「知識経済」において、過去の経験の有効期間はかつてないほど短い。職種や業界にもよるが、3~5年くらいだと推定されている。さらに、スキルや経験は研修によって築くことが比較的容易だが、パーソナリティに影響を与えることはかなり難しい。役割に適切なパーソナリティの人物を当てることが、さらなる能力開発の確固とした基盤となり、潜在的な貢献をさらに高く押し上げることができる。
いずれにしても、学習能力や変化適応力、ますますバーチャルで国際化している環境で仕事をする力、常に進化している技術を使う力などは全て、人々の業績に影響を与える重要な因子である。その点で、仕事におけるパーソナリティが、会社組織とその社員の成功と失敗にいかに大きな影響を持っているかを理解できるのである。
Eugene Burke氏はSHLグループの研究開発委員会の主要メンバーです。開発部ダイレクターとして新商品開発を担当しています。この記事では、テストを使用することの利点を、ROI(Return on Investment:投資収益率)という財務指標の観点で一般の経営者・ビジネスマンにピンと来るようわかりやすく説明しています。
この考え方はテストでは「有用性:Utility」と呼ばれます。1957年クロンバッハとグレザーがその編著「Psychological Tests and Personnel Decisions」の中で有用性を計算する公式を提唱したのが始まりです。その後、1980年代~1990年代にかけてアメリカの心理学者シュミットやハンターらを中心に様々な角度から精力的に研究が進められました。
この記事では事象をかなり単純化して、いくつかの仮定・前提のもとに金額が算出されていますが、基本となるのは、選抜ツールの妥当性係数が高いほどROIが高くなるという点です。妥当性とは「テストが測定しようと意図しているものを測定している度合い」で、テスト以外の様々なアセスメントツール全般にも当てはまる概念です。テストの妥当性係数は、テスト結果得点と業績の相関係数(妥当性係数と呼ばれます)で表されます。
有用性について専門的に詳しくお知りになりたい方はぜひ下記の論文をご参照ください。
Schmidt,F.L., & Hunter,J.E.(1998). The Validity and Utility of Selection Methods in Personnel Psychology:Practical and Theoretical Implications of 85 Years of Research Findings.
Psychological Bulletin, 124, 262-274.

このコラムの担当者
堀 博美
日本エス・エイチ・エル株式会社