SHL白書「タレント・アセスメント・テクノロジーの台頭」(連載2)――新しいアセスメント・テクノロジーを吟味する
公開日:2018/04/23
このコーナーは、当社がライセンス契約を結んでいるSHL Group Ltd. がお客様に向けて発信している様々な情報を日本語に翻訳してご紹介するものです。主に広報誌やユーザー向けネット配信、HP、プレスリリースなどから記事をピックアップしています。海外の人事の現場でどんなことが話題になっているのか、人材マネジメントに関して海外企業はどんな取り組みをしているのかをお伝えすることで、皆さまのお役に立てればと願っております。
前回から、SHL白書「タレント・アセスメント・テクノロジーの台頭」の和訳を連載しています。
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採用テストなどの測定ツールが普及し、かつてないほど洗練されたものになってきました。最近のイノベーションには、言葉による自然なワーク・シミュレーションや携帯デバイスで実施できるアセスメントなどがあります。アセスメント・データに加え、対象者本人の労力の必要のない、簡単に利用できる情報源があります。ソーシャル・メディアです。企業は破壊的な洞察を発見してビジネス業績を推進するために、ソーシャル・メディア上の情報を使って予測分析やトレンド・モデルを実行しています。
本白書では、アセスメントにおけるいくつかの新しいコンセプト-すなわち、「ゲームの手法を応用したアセスメント」「シリアスなゲーム」「マルチメディアを使ったアセスメント」-を説明します。アセスメント・ツールを吟味する以下の品質保証基準のレンズを通して、これらのタイプのツールの研究成果と有効性を検討します。
- 信頼性と妥当性:
- 得点の正確さ/安定性と、得点が職務関連成果の予測に役立つ程度。
- 不利な影響:
- 少数民族や女性、40歳以上の人などの保護グループのメンバーが、多数派グループのメンバーに比べて、そのアセスメントで低い得点を取る程度。
- 費用対効果:
- 開発や実施、維持にかかる相対的なコスト
- ユーザーの反応と認知:
- 受検者がそのアセスメントに肯定的な反応をする程度
アセスメントが望ましい結果を生み出し、法的なリスクを最小限にし、肯定的な受検者経験を確保するために、これら4つの主な基準が重要です。アセスメントを導入する際は全ての基準をまとめて検討し、各基準をサポートする証拠を入手もしくは収集すべきです。これらの情報を無視するリスクの可能性は大きく、会社ブランドにマイナスの影響を与えたり、不正確な情報を基に雇用判断を下したり、採用プログラムで「差別」の訴えをされたりするかもしれません。
テクノロジーによって可能になったアセスメントは比較的短期間に進化しました。歴史的に、経済状況の変化やテクノロジーの進化、「より使いやすく魅力的な測定ツールを」という企業の要望によってアセスメント界は変化してきました。例えば、経済不況において、企業はテストを採用プロセスのより早い段階にもってきて、面接など時間や労力のかかる段階を減らそうとしました。その結果、試験監督のいらないインターネット・テスティング(Unproctored Internet Testing : UIT)が実施方法として1990年代後半に出現し、採用にかかる時間やコストの点で企業に多くのメリットをもたらしました。最近では、テストはUITからMIT(Mobile Internet Testing:携帯デバイスによるインターネット・テスティング)へと進化しています。消費者データによると携帯デバイス購入がPC購入を超えたことから、MITには、より大規模で多様な受検者プールが得られるなど大きなメリットがあります。もっと最近では、アセスメントのイノベーションは、「貴重なデータをゲームのような非伝統的なアプローチによって収集できるかどうか」を検討しています。
アセスメントに対する期待の変化
テストユーザーの期待が進化するのと並行して、テスト受検者の期待も進化します。その一部が「受検者主導マーケット」と呼ばれるものです。受検者主導マーケットは、上位層候補者への競争、採用プロセス途中で有望候補者を逃さないこと、肯定的な受検者経験を提供すること、会社の採用力ブランドを高めること、などから発生しました。このマーケットの結果、受検者は、簡単で情報豊かで、受けていて楽しいアセスメント経験を期待します。受検者主導マーケットはまた、受検者と採用側企業の間の心理的契約を変えました。職務への応募が「ブラックホール」状態だと認知されないよう、企業は、候補者とコミュニケーションをとって手順や期待される労力レベルに関する情報を伝えることで、採用手順の透明性を増そうとします。受検者にとってこの情報が、応募プロセスの次の段階に進むかどうかを判断する役に立ちます。アセスメントに対するこれら新しい期待が、テストプロバイダーに自分たちの手法を革新するよう拍車をかけてきました。
いくつかの手法がすでに新しい規範になりつつあります。
- コンピューターによる適応型テスト-テスト時間を短縮するため。
- 状況提示型のアセスメント-職務との関連性を増すため。
- マルチメディア-やってて楽しい経験のため。
- アセスメント結果のフィードバック-受検者に自分の強みと弱みの情報を伝えるため。
- 自社のブランドに合わせてカスタマイズしたアセスメント
アセスメントを吟味する基準
専門ガイドライン(Principles for the Validation and Use of Personnel Selection Procedures, 2003; Standards for Educational and Psychological Testing, 1999; International Guideline for Test, 2000など)が、アセスメントを吟味する鍵となるスタンダードを確立してきました。
さらに、国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)が心理テストを扱うスタンダードを持っています(ISO 10667, 2011a /2011b)。関係者全員が優れたアセスメント・プラクティスの潜在的なメリットを実現できるよう、アセスメントサービスのプロバイダーとその顧客に対して明確なガイドラインを提示しています。
それらの基準には、先に定義した通り、「妥当性」「不利な影響」「コスト」「反応」が含まれます。ベストなアセスメントをひとつ選べるような、型にはまった単純なアプローチはありません。様々なタイプのアセスメントが様々なものを測定しており、それぞれが長所と短所を持ちます。さらに、あるタイプのアセスメントの短所(たとえば、「不利な影響」が大きい、など)は、他のアセスメントと組み合わせて使うと緩和されることが多い場合もあります。また、アセスメントを段階的に設定してハードルとして活用することができます。例えば、最初に、明らかに条件に達していない候補者を足切りするために短いアセスメントを使い、次に可能性の高い候補者により時間の長いアセスメントを受けてもらう、などです。最善の意思決定をするためのアセスメントの組み合わせには多くの選択肢があり、それらは企業の目標や制約、独自のニーズという背景の中で検討されなければなりません。特定状況での最善のアセスメントの組み合わせを設計するには、アセスメントの専門家と相談するのがベストです。
しっかりした研究とデータに裏打ちされたアセスメントを提供してきた実績のあるアセスメント・プロバイダーは、様々なタイプのどれがあなたのニーズに最も合うかを決める助けができます。リスクを最小限にするために、専門基準やベストプラクティスに沿ってアセスメントが開発、妥当化、実施されていること、そして、アセスメント・プロバイダーが産業組織心理学の領域で深い経験と専門性を持っていることを確認してください。
下に、アセスメントを吟味する品質保証基準の観点で、様々な伝統的アセスメントを表にまとめました。定義や例など、特定タイプについての詳細はPulakos & Kantrowitz (2017)にあります。
アセスメント手法 | 1.妥当性 | 2.不利な影響 | 3.コスト (開発/実施/維持) |
4.受検者の反応 |
---|---|---|---|---|
アセスメントセンター | 中~高 | 測定されるものによって、低~高 | 高/高/高 | + |
行動的インタビュー | 中 | 低 | 高/高/低 | + |
バイオデータ | 中 | タイプによって、低~高 | 高/低/中 | 職務に関連していれば、+ |
知的能力 | 高 | 高(少数民族) | 低~高/低/高 | やや+ |
誠実度 | 中~高 | 低 | 低/低/低 | - |
職務知識 | 高 | 高(少数民族) | 低~高/低/高 | + |
パーソナリティ | 中 | 低 | 低~高/低/低 | 職務に関連していれば、+ |
状況判断 | 中 | 中(少数民族) | 高/低/中 | + |
ワークシミュレーション | 高 | 何が測定されるかによって、低~高 | 高/高/高 | + |
新しく表れているタイプのアセスメントもまた、同じ基準で吟味されるべきです。全てのアセスメントが同じスタンダードでの説明責任を負うからです。新しいアセスメント・テクノロジーは、受検者経験を向上させたり社員の行動予測を高めたりすることに大いに有望です。新しいアセスメントを早期に導入する会社は、革新的な商品が素晴らしく思えたりとても効率的であったりしたとしても、測定の品質や予測力の充分な吟味がなければ、効果的で防衛可能な雇用決定を下す会社の能力を損ないかねないことを意識すべきです。法的な前例がないため、「新しい採用テクニックが差別を訴える裁判でどのように扱われるか」そして「その結果、企業の採用のし方について基準がどのように進化するか」は不透明です。ユーザーは様々なタイプのアセスメントツールを使う際に何を検討する必要があるかと同時に、アセスメントの背景にある科学や自社が創業する国での法的要請や労働者の権利について基本的な理解を深めなければなりません。次のセクションでは、新しいテクノロジーを概観し、それらをアセスメントを吟味する品質基準のレンズを通して検討します。(続く)
アセスメント・ツールを判断する4つの基準、ぜひ頭の隅にとめておいてください。
ところで、当社がライセンス契約を結んでいる相手先にまた変化がありました。イギリスに本社を置くSHL社は2012年にアメリカCEB社に買収され、さらに2017年、CEB社がGartner社に買収されましたが、2018年4月、アセスメント事業部門が独立しました。新しい社名はSHL Group Ltd.、本社はイギリスです。すなわち、元通りになったということです。
会社が右往左往していたこの期間、SHLアセスメント事業もどうしても振り回され、結果として新しい商品やサービスの開発が遅れ遅れになっていた感がありました。しかしこれで新生SHLとして集中的な取り組みがぐんぐん進むはず、と個人的に期待しています。

このコラムの担当者
堀 博美
日本エス・エイチ・エル株式会社