人事の職務の変化

人事はかつての管理コストセンターから、戦略的採用や組織設計、リーダーシップ、パフォーマンス管理、AIの実装など、複雑なビジネス問題に対処する役割へと進化しています。

2020年から2025年にかけて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による世界的な不安定化、政治力学の劇的な変化、そして急速な技術進歩(特に人工知能AI)が、組織を変革の渦に巻き込みました。この間、人事チームは適応の最前線に立ってきました。人事担当者は、日常業務と戦略的な取り組みの両方を管理することが求められるようになったため、求められるスキルはますます複雑化し、高度化しています。人事業務におけるAIと自動化の台頭により、継続的に技術スキルを開発し、技術の進歩に遅れずについていく必要性が高まっています。

しかし、スキルギャップは依然として存在し、採用活動を複雑化させています。こうした課題に対処するため、組織はフリーランサーや独立系ワーカーの活用を加速させるとともに、「静かな雇用(組織が正社員を新規雇用することなく、新たなスキルを獲得する手法※)」を通じて現従業員のスキルアップにも投資しています。組織は、変化するビジネスニーズに対応するために必要なスキルを理解することで、従業員が将来の目標を達成するためのスキル開発に集中できるよう支援することができます。

※https://www.gartner.com/en/human-resources/glossary/quiet-hiring

人事の職務の変化

成功に必要なコンピテンシー

レポートでは、広範な文献レビューから2020年、2025年、2030年におけるHRの主要な関心領域を挙げています。2020年にはリモートワーク管理や従業員のウェルビーイングが重要視されました。2025年にはハイブリッドワーク管理やAIの活用が求められています。2030年には人間とAIの協力、先進的なデータ分析、持続可能性が人事の中心的なスキルとなる見込みです。以下は、それらの関心領域をSHLのUCFコンピテンシーへ紐づけた表です。ハイライトされているコンピテンシーは全期間で共通しています。

コンピテンシー 2030 2025 2020
適応力
専門技術の活用
関係構築
協働
創造と改革
批判的思考
原理原則の遵守
積極性
リーダーシップ
計画と段取り
戦略的思考
コミュニケーション
信頼性
文書作成

スキルの変化

さらにUCFの最も詳細なレベルであるスキルによる分析を行っています。各コンピテンシー内で最も重要なスキルを特定しています。ハイライトされているスキルは全期間で共通しています。

UCF スキル 2030 2025 2020
変化に適応する
情報を分析する
専門性を活用する
共感を示す
新しいアイデアを受け入れる
ダイバーシティを推進する
自分の能力開発に集中する
揉め事に対処する
人をサポートしコーチングする
新しいツールや仕組みを構築、設計、創造する
戦略的なビジョンを検討する
他者の仕事を調整する
人をやる気にさせ、権限を与える
職務に関連するテクノロジーを運用する
前もって計画する
テクノロジーを用いてコミュニケーションをとる
ルールや規則を遵守する
合理的な判断を下す
分かりやすく話す
分かりやすい文章を書く

2020年から2030年にかけて、人事のスキルは危機管理から戦略的計画と革新へとシフトしていることが示されています。CHROにとって、人事チームが変化に適応するための適切なスキルを備えているようにすることが極めて重要であることが浮き彫りになっています。

人事チームのスキルアップの重要性

人事担当者の成長を効果的に支援するには、客観的でデータに基づいた手法を用いて、現在のスキルレベルを評価することが不可欠です。このアプローチにより、時間、資金、研修などのリソースが、人事チームで最もスキルギャップが大きい領域に集中し、育成活動の効果を最大限に高めることができます。

人事チームのスキルアップを優先する人事リーダーは、日々の業務と将来の課題の両方に対処する能力が向上し、チームのレジリエンスを高め、将来成功する可能性を高めることができます。一方、それができない場合には、ますます競争が激化し変化の激しい労働環境の中で取り残されるリスクがあります。

人事チームのスキルアップの重要性

おわりに

レポートはさらに2つのセクションがあり、セクション2「職位別のHRスキル」では、人事チームのエントリーレベルの職務からCHROまで、あらゆる職位レベルに不可欠な基礎的なコンピテンシーとキャリアの各段階で成功に不可欠な主要スキルがどのように進化していくのかを説明しています。そして、セクション3「地域別HRスキル」では地域により求められるスキルの差異、またグローバルスキルアセスメントの結果データを活用して各地域で各スキルがどの程度利用可能かをまとめています。

調査レポート全文をお読みになりたい方は、SHLグループホームページよりダウンロードいただけます。
https://www.shl.com/resources/by-type/whitepapers-and-reports/hr-skills-insights-creating-a-future-ready-hr-team-built-for-success/

なぜ「好きな仕事」は見つからないのか?

「自分に合った仕事がわからない」「キャリアの方向性にモヤモヤを感じる」。そう感じている方は、決して少なくありません。また、人事担当者や上司として若手社員や学生からこのような相談を受けることがあるかもしれません。TED Talk「How to find work you love(好きな仕事の見つけ方)」でスコット・ディンスモア氏は、「自分の強み、価値観、経験を理解することが、情熱を持てる仕事を見つける鍵である」と語っています。その言葉どおり、「好きな仕事」は外に目を向けて探すのではなく、まず自分自身を深く知ることが欠かせません。
今回は、キャリアの方向性を考えるうえで重要となる「3つの自己理解の視点」をご紹介します。

なぜ「好きな仕事」は見つからないのか?

パーソナリティ

一つ目の視点はパーソナリティです。日本語で「性格」と訳されます。SHLでは、ある人の「典型的なまたは好む行動スタイルである」をパーソナリティとして定義しています。パーソナリティとはついつい取ってしまう行動のクセです。
たとえば、「人前で緊張せずに話すことができる」「細かい作業を続けるのが苦にならない」など、人にはそれぞれ、「無理なくできること」「つい避けたくなること」があります。この行動そのものに良し悪しはありませんが、仕事が求める性質が限定された場合、仕事の向き・不向きを判断することが可能になります。

自分が苦にならずやっている行動はどんなものか?自然と行動できる他の人より得意なことは何か。これを明らかにすることは、自分自身の適性やキャリアを考えていく上で重要な視点になります。

価値観

二つ目は価値観です。価値観とは、「自分が何に意味を見出すか」「どんな人生を送りたいか」といった、行動の背景にある人生の目標や方向性です。自分の価値観が仕事や組織と一致すれば、その仕事に意味を見出し意欲も湧きます。逆に、価値観の方向性が異なる場合、次第に意欲をなくしてしまいます。価値観の相違は意欲や行動に影響を与えます。

たとえば、ある人は、「他者に認められるようなことを達成し、成功し、尊敬され、確固とした評判を得ること」に重きを置くかもしれません。別の人は「知らない世界に飛び込み、新しい経験をすること」を重視するかもしれません。このような価値観は、どんな仕事に満足感を得られるか、どんな職場が自分に合うかといった判断に大きく影響します。

自分が自然にとる行動のクセ(=パーソナリティ)がいかに適合しているかだけでなく、自分の価値観に合う「意味のある働き方」であるかという視点も、自分らしいキャリアを描く上で大きなヒントになります。

意欲

三つ目は意欲です。意欲とは、行動にエネルギーを与えたり、導いたり持続させたりする原動力のことです。キャリアの視点で言えば、仕事環境がその人のやる気を引き出すか/失わせるかの個人差を指します。忙しく騒がしい職場を好む人もいれば、落ち着いている静かな職場を好む人もいます。仕事環境がその人の好みに合う度合いによって、やる気が刺激される度合いが変わってきます。

仕事を遂行する能力が備わっていて、自分の価値基準と合致していても、やる気をなくしてしまっていたら、仕事でのパフォーマンスを十分に発揮することはできません。
仕事のどういう環境、どういった場面で自分の行動のアクセルがかかるのか、あるいはブレーキが踏まれるのか、これらを明らかにすることで、自分がどんな環境でよりやる気を感じられるかが見えてきます。

意欲

自分らしいキャリアの第一歩は「自分を知ること」

一口に「自分自身を知る」と言っても、様々な切り口があります。まずはこれまでの経験を振り返りながら、

という視点でより深く自分を見つめなおして、言語化することで、自分自身によりフィットしたキャリア選択のヒントが得られるかもしれません。

サクセッションプランとは

サクセッションプランとは、将来組織のリーダーを担う人材を計画的に発掘、育成、選抜する仕組みです。経営トップや事業責任者など、組織の持続的な成長に欠かせないポジションにおいて、誰が役割を引き継ぐのかをあらかじめ定めておくことで、不測の事態にも備えられると同時に、戦略的な人材育成にもつながります。

サクセッションプランとは

サクセッションプランの必要性

サクセッションプランの必要性が世界中で高まっている主な理由は二つあります。一つ目は経営環境の不確実性が高まり、予期せぬリーダー交代が組織の大きなリスクとなっているから。二つ目はリーダー人材の獲得競争が激化し、自社内での育成が重要になっているからです。加えて、社会の価値観が多様化していることで、経営リーダーに求められる要件が急激に変化していることも影響を与えています。
ハーバードビジネスレビューシニアエディターのエベン・ハレル氏が行った研究では、退任するCEOの後任をすぐに見つけられない企業は平均で18億ドルの株主価値を失い、社外から採用されたCEOの平均報酬は社内出身のCEOの平均報酬よりも320万ドル高いことが述べられています。

サクセッションプランを行うべき組織

今すぐにでもサクセッションプランに着手すべき組織はどのような特徴を持っているのでしょうか。以下の6つのいずれかに該当する企業にとってサクセッションプランは重要課題と言えます。

サクセッションプランの進め方

次に、サクセッションプランの進め方についてです。サクセッションプランは以下のステップで構成されます。

1. 現状把握とキーポストの決定

経営層や人事が中心となり、経営戦略と連動した組織の将来像を描き、サクセッションプランの対象となるキーポストを決めます。キーポストには経営層や事業トップだけではなく、企業にとって必要不可欠な重要ポストを含める必要があります。キーポストが決まったら、各ポストについて後継者候補の有無を確認し、現状と将来像の人材ギャップを明確にします。

2. 後継者候補のアセスメントと選抜

従業員のなかから後継者候補をリストアップし、アセスメントを実施します。アセスメントを行うためには事前に各キーポストの人材要件を定義しておく必要があります。人材要件を定義するにあたって考慮すべき要素は、実績、コンピテンシー、ポテンシャルの3つです。実績は、業績、職務経験、保有資格、研修歴など今までの職務成果に関連する情報です。コンピテンシーは発揮された能力や行動特性です。定期的に行われる上司評価や360度評価によって得られる情報です。ポテンシャルは資質や潜在能力と呼ばれる保有している能力や才能です。仕事場面で顕在化していないことがある個人属性のため、アセスメント(認知能力測定、パーソナリティ測定、モチベーションリソース測定など)を使って測定する必要があります。

3. 育成プランの策定と実行

アセスメントによって選抜された後継者候補に対し、個々のスキルや経験のギャップを明確にし、それを埋めるための具体的な育成計画を作成します。例えば、戦略的視点を高めるためのプロジェクト参画、戦略的な異動による実務経験、メンタリング、外部研修など多様な方法を組み合わせます。育成の状況を上司や人事、キャリアコーチが定期的に確認し、必要に応じて柔軟に内容を見直すことが重要です。

4. メンテナンス

定期的に候補者の成長度合いや組織の状況変化を踏まえ、サクセッションプランが機能しているかを確認し、調整します。例えば、候補者が適切に育っているか、候補者の状況に変化はないか、重要ポストに変化がないか、部門責任者が役割を果たしているか、施策が経営や人事に貢献しているかなどをチェックします。必要に応じて対象ポストや候補者、育成方針の見直しを行い、仕組み全体の精度と実効性を高めていきます。ここでは経営層と人事が密に連携し、柔軟に対応することが求められます。

導入にあたっての注意点

一方で、サクセッションプランの導入にあたっては以下の点に注意が必要です。

導入にあたっての注意点

おわりに

サクセッションプランは未来の経営リーダーを育てる最も重要な人事施策の一つです。しかしながら、次の社長候補者を客観的な選抜と計画的な育成によって万全に準備できている企業は極めて少ないことが現状です。突発的に経営陣の交代を余儀なくされる場合のみならず、経営環境の変化に対応できる経営陣を育成し、円滑な後任への引継ぎを行うことは企業価値を向上させるうえで極めて重要です。
Insight Platformは、現在の複雑な経営環境に適応できる経営リーダー候補者の選抜に適したアセスメントツールです。オンラインで簡便に実施できるパーソナリティ測定と職務経験サーベイで、経営リーダーとしてのポテンシャルを測定し、人材選抜に対する有用なインサイトを提供します。

参考:Succession Planning: What the Research Says
Most organizations aren’t prepared. by Eben Harrell
From the Magazine (December 2016)
https://hbr.org/2016/12/succession-planning-what-the-research-says

SHLコーポレート・リーダーシップモデル

    SHLコーポレート・リーダーシップモデルでは、リーダーの役割を4つの機能に分け、次のように定義しています。
  1. ビジョンを作る:現状を批判的に分析し、前進するためのアイデアを生み出す(戦略)
  2. 目標を共有する:戦略がもたらす変化に自ら適応し、説得力を持ってビジョンを周囲に伝える(コミュニケーション)
  3. 支援を得る:戦略遂行に必要な行動をとるよう人々を動機づけ、協力を得る(人)
  4. 成功をもたらす:効率的な業務遂行やビジネスセンスで目標を達成する(オペレーション)
上記のスタイルを見ると、リーダーシップとマネジメントの概念が明確に区別されていることが分かります。では、より詳細にリーダーシップとマネジメントそれぞれの定義や活用場面を見ていきましょう。

SHLコーポレート・リーダーシップモデル

リーダーシップとは

リーダーシップとは、「人々に共通の目標・価値観・態度を持たせ、組織のビジョン達成に向けて人々に影響を与えること」と定義されます。これは単なる指示や管理にとどまらず、組織の未来を創造し、発展させ、ときには方向転換を図る「変革」を担う役割です。
リーダーシップが真価を発揮するのは、積極的かつ革新的でリスクを伴う状況、すなわち有事の際です。たとえば、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックのような想定外の事態への対応が挙げられるでしょう。このような状況にうまく対処できるリーダーは、その影響力によって組織や人々に深いコミットメントをもたらします。
ただし、リーダーが誤った方向性を示したり、方向転換に必要な影響力を発揮できなかった場合、その結果は組織全体に深刻な悪影響をもたらします。有事だからこそリスクも大きいことを考慮しなければなりません。

マネジメントとは

マネジメントとは、「既存のシステムを維持し、計画・組織化・監督・ルーチンの維持・逸脱への対応を行うこと」と定義されます。マネジメントの主な役割は「安定」と「効率」の確保です。
マネジメントは、通常業務における安定運用を目指す性質を持っています。すなわち、日々の業務の中でこそ、その真価が発揮されます。優れたマネジャーは、組織の秩序を守り、目標達成に向けて着実に進捗を管理します。
また、マネジメントには、組織の規律を乱す要因に対して厳しい姿勢を持つことも求められます。組織から与えられた権限や役職の力を適切に用いながら、仕組みを維持し続けるための指示・監督を行う側面も、時には必要となるでしょう。

マネジメントとは

リーダーシップとマネジメントの違い

ここまで、SHLコーポレート・リーダーシップモデルの考え方に倣い、リーダーシップとマネジメントを区別してきました。両者の違いを図にまとめると、次のようになります。

観点 リーダーシップ マネジメント
定義 人々に共通の目標・価値観・態度を持たせ、ビジョン実現に向けて人々に影響を与えること 既存のシステムを維持し、計画・組織化・監視・ルーチン維持・逸脱対応を行うこと
主な役割 新しい方向性の創造・発展・変革 業務の安定運用・効率化・秩序の維持
発揮場面 積極的・革新的・リスクを伴う 日常的・ルーチン・比較的リスクが低い
失敗した場合の影響 組織全体に深刻な悪影響(方向性の誤り等) 部分的な悪影響(業務効率の低下等)
他者への影響の仕方 自発的な共感・目標共有による動機付け 権限や役職による指示・監督
必要性 組織の変革・成長・ビジョン実現に不可欠 組織の安定・効率的運営に不可欠

おわりに

リーダーシップとマネジメントは、組織運営の両輪です。両者は隣り合わせにあり、どちらも組織の成功には不可欠ですが、役割や発揮場面、影響範囲などが異なります。
そのため、社内にリーダー/マネジャー向きの社員は果たしてどのくらいいるのか、客観的なアセスメントを通じて現状把握を行うことが大切です。
SHLコーポレート・リーダーシップモデルに基づくポテンシャル測定に関心がある方は、
ぜひハイポテンシャル人材の発掘と育成に関するご提案をご覧ください。

参考文献
https://www.researchgate.net/publication/315386724_The_SHL_Corporate_Leadership_Model_v2

はじめに

SHLのアセスメントは、民間企業だけでなく様々な公的機関や法人を含め、組織やチームのパフォーマンスを最大限にいかすために活用されています。ビジネス場面の利用だけでなく、過去には、南極レースに参加するメンバー選抜カーレーサー発掘プロジェクトのサポートなどにSHLアセスメントが活用された事例があります。
今回のコラムでは、SHLグループ本社があるイギリスの海軍におけるリーダー研究をご紹介します。

はじめに

イギリス海軍のリーダー選抜の課題

イギリス海軍は、上級士官に関してある課題を抱えていました。海軍は、イギリスの他の民間組織と異なり、人事異動や再配置が頻繁に起こります。通常、上級士官が同じ役職にとどまるのは約3年ほどです。これまで、イギリス海軍は任命・昇進の決定を、ほぼ例外なく年次評価報告書のみに依存していました。
この方法は、個人業績の満足度を伝えるには効果的ですが、特定の役職に誰がより適しているか、個々の卓越した強みがどの分野にあるかを区別するにはあまり役に立たないという課題がありました。
今回研究を行ったのは、30年以上イギリス海軍に勤務する経験を持つマイク・ヤング大佐(博士・MBE;大英帝国勲章メンバー)で、イギリス海軍のリーダーシップ評価および育成アドバイザーとして、上級士官のサイコメトリックアセスメント実施、コーチング、能力開発施策の設計を行っています。

上級士官にSHLアセスメントを実施

今回の研究ではイギリス海軍の上級士官における①パフォーマンス評価、②ポテンシャル(将来性)、③昇進率と一般知能、パーソナリティ、モチベーションリソースとの関連性を調査しました。
具体的には、300名を超えるOF5からOF7(大佐から少将と同等の英国海兵隊の階級を含む)の正規士官に、SHLアセスメントである一般知能検査G+、パーソナリティ検査OPQ32r、意欲検査MQ、を受検してもらいました。
イギリス海軍では、成功するリーダーとそうでないリーダーを組織内で独自に研究して確立した「指揮・リーダーシップ・管理(the Command, Leadership, and Management (CLM))」のコンピテンシーモデルを持っており、このモデルにOPQとMQの関連因子をマッピングし、対象者の各種評価項目とSHLアセスメント結果との関連性を分析しました。

 CLMコンピテンシーモデル:
 Conceptualize(概念化):達成すべきことを理解し、それを明確に伝える
 Align(方向性を合わせる):コントロール可能な行動に集中する
 Interact(関わり合う):他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する
 Create Success(成功を創造する):習慣的に成果を出す

結果

各因子と有意に相関があった項目は以下の通りです。

CLMモデル SHLアセスメントのマッピング ①パフォーマンス ②ポテンシャル ③昇進率
Conceptualize
(概念化)

達成すべきことを理解し、それを明確に伝える
G+ 一般知能
OPQ 創造的
OPQ 堅実
OPQ 概念性
OPQ 好奇心
OPQ 律義
MQ 興味 +
MQ 柔軟性 +
Align
(方向性を合わせる)

コントロール可能な行動に集中する
OPQ 几帳面 +
OPQ 説得性 +
OPQ 先見性 +
OPQ 指導性 ++
OPQ 批判的
MQ 権限
MQ 活力
Interact
(関わり合う)

他者と協働し、他者を通じて業務を遂行する
OPQ 人間への関心 ++
OPQ 協議性 ++
OPQ 友好性
OPQ 抑制
OPQ 独自性
MQ 帰属
MQ ステータス
Create Success
(成功を創造する)

習慣的に成果を出す
MQ 達成 + +
MQ 競争 +
MQ 没頭 ++ ++
MQ 失敗の恐怖 + ++
MQ 昇進 ++ ++
MQ 快適と安定
MQ 成長 ++

高:当該因子の高得点の特徴を持つ

低:当該因子の低得点の特徴を持つ

++/+ 有意に正の相関がある

–/- 有意に負の相関がある

論文のTable 6を元に筆者が作成

  1. パフォーマンスとの関連性:
    (OPQ)仕事を最後までやり遂げる
    (MQ)仕事に精力をつぎ込む、失敗しないために活動的になる、リスクがあっても気にしない
  2. ポテンシャル(将来性)との関連性:
    (OPQ)主導権を取ることを好む
    (MQ)目標を達成しないと気が済まない、失敗しないために活動的になる、昇進/キャリアアップによって意欲があがる
  3. 昇進率との関連性:
    (OPQ)新しいやり方を好む、ルールに縛られない、交渉を好む、長期的な視点を持つ、人を分析する、広く相談して意思決定する
    (MQ)変化や刺激を好む、流動的な環境を好む、目標を達成しないと気が済まない、人と比較されることで成果を出す、昇進/キャリアアップによって意欲があがる、能力開発やスキルアップで意欲があがる

全体として、マッピングされたアセスメントの各因子とパフォーマンス・ポテンシャル・昇進率には相関がみられ、CLMモデルがこれらの予測に有用であることが分かりました。
分解してみていくと、MQは優れた予測因子であることが示され、昇進の早い上級士官の重要な差別化要因であることが明らかになりました。これは、リーダーが「どう行動するか(How)」だけでなく、「なぜそう行動するのか(Why)」を理解することの重要性を浮き彫りにしています。こうした深い内面の動機を無視すると、一見有能に見えても、長期的に成功するための“内なる原動力”を欠いた人物を誤って昇進させてしまうリスクがあります。

いずれの指標とも関連性が見られなかった一般知能については、高次の思考を支える要素ではあるものの、それだけでは「優れたリーダー」と「少し良いリーダー」とを区別する決め手にはならないと解釈されました。むしろ、一般知能は“ある水準までは必要な基礎的能力”とされ、それ以上になると、より重要なのは他の要素であるようだと大佐は述べています。

これらの結果を用いて、イギリス海軍では、データに基づいたサクセッションプランや能力開発プランの意思決定を行えるようになりました。SHLではイギリス海軍に向けてオリジナルのリーダーシップ開発レポートも作成し、支援しています。

結果

おわりに

軍組織のリーダーにおけるサイコメトリックアセスメントとの関連性が示された興味深い事例です。ビジネスの組織とはミッションも体制も異なることは明らかですが、今回の上級士官のリーダー研究結果はビジネス場面にも通じる「リーダーとしての素養」として頷ける部分もあります。
民間企業であれ、軍隊であれ、組織運営は人が行う以上、介在する人の能力やスキル、意欲、人同士(チーム)の組み合わせで成果差が出ます。この捉えづらい人の能力やスキル、意欲を可視化する当社のアセスメントツールは、組織パフォーマンスの向上に深く貢献できます。
なお、論文の中では、今回の研究でなぜSHL社のアセスメントを評価ツールとして採用したか、信頼性や妥当性などに言及しながら説明しています。当社の評価ツールとしての品質を知る上でも参考になる論文かと思います。

参考文献:
Anchoring Talent Decisions in Science: Insights from Senior Leader Research in the Royal Navy
The Royal Navy Modernizes Leadership Development and Selection with SHL
General intelligence, personality traits, and motivation as predictors of performance, potential, and rate of advancement of Royal Navy senior officers

優秀な候補者に感じる”違和感”の正体

採用面接で出会う「優秀な候補者」に違和感を感じたことはないでしょうか。スキルや経験は申し分なく、話しぶりも堂々としていて即戦力としての期待も高まる。しかしどこかで「この人が本当にチームに馴染むだろうか」という一抹の不安が拭えない。それは”対人関係面のリスク”のサインかもしれません。
たとえば傲慢さや過度な自己主張、他者批判といった特徴を持つ候補者は、短期的には成果を上げるかもしれませんが、長期的には組織に摩擦をもたらすことがあります。しかし、リスクがあるからといってすぐに不採用と決めつけてしまえば、優秀な人材を逃す可能性もあります。かのスティーブ・ジョブズ氏も性格的には自己中心的で協調性に欠けるなどの問題があったと言われていますが、一度は追い出されたApple社に復帰して、同社を世界有数の企業に成長させています。
そこで本稿では、候補者が持つ”対人関係面のリスク”を正しく見極めつつ、それを上回る価値をもたらす人材かどうかという、より現実的な視点での人材評価について考えてみます。

優秀な候補者に感じる

「対人関係面のリスク=悪」とは限らない

対人関係面のリスクとは、ある人物の性格的傾向や価値観に基づく言動で、周囲に悪影響をもたらし、組織の生産性を低下させる危険性があるものを指します。典型例としては、「優秀だが他者を見下す」「目的達成のために他者を利用する」「自分の考えややり方を押し付ける」といった行動が該当します。
こうした特徴は応募書類には表れず、候補者が自ら進んで申告することもありません。だからこそ採用面接では「表面的な優秀さ」に引き込まれず、その背後にあるリスクの兆候を丁寧に拾い上げる必要があります。
一方で、リスクは必ずしも“悪”ではありません。たとえば、自我が極端に強い人でも、それを補うだけの実行力や成果への執着心があれば、組織に大きな利益をもたらす可能性があります。また、自社のビジネスや組織が危機に瀕しているときは、多少強引でも改革を断行できる強い意志を持った人物が求められます。ある研究では、治安の悪い地域に住む人は、品行方正なリーダーよりも手段を選ばずに悪と対峙する”ダークなリーダー”に救いを求め、その実行力に期待するという傾向が見られました。ご存じの方は、ゴッサムシティとバットマンの関係を思い浮かべてみるといいかもしれません。
大切なのは「対人関係面のリスクをもつ人材を排除すること」ではなく、「そのリスクを把握したうえで、自分たちの組織で許容できる範囲内か、それ以上に得られる価値があるか」を冷静に見極めることです。

採用面接における確認方法

対人関係面のリスクを採用面接で見極めるには、単なる印象ではなく、候補者の過去の行動や反応から手がかりを得る必要があります。その際、過去の経験を尋ねるだけではなく、「どのように人と関わってきたか」に注目することが重要です。特にチーム内での対立や調整、目上の人との意見の食い違いといった場面を深堀りすることが有効で、たとえば、「メンバーや上司(先輩)と意見が衝突した経験を教えてください。そのとき、あなたはどう対応し、結果的に何を学びましたか?」といった質問は人との関わり方が見えやすくなります。
また、「成果を出すためにチーム内で妥協した経験」や「苦手なメンバーと協力する上で工夫した点」を尋ねることも効果的です。そして、候補者から語られるエピソードの中身に加えて、候補者が使う「言葉」にも注目してください。たとえば、相手の反対意見を「文句、反抗」と表現すれば、自分が常に正しく、相手が間違っていると決めつける人物である可能性があります。また、自分がとった行動や決断を相手がどう感じたか尋ねたときに「たぶん○○だと思う」と答えれば、相手に確認はしておらず、他者の感情変化に関心が薄いことが分かります。
対人関係面のリスクについては、ダークトライアド(サイコパシー、マキャベリアニズム、ナルシシズム)、組織機能阻害行動など国内外で様々な研究がなされていますが、採用面接で比較的確認しやすいリスクは以下の5つです。

①共感性の欠如(相手の立場、意見、感情への共感が乏しい)
②他者利用(目的達成の手段として他者を利用する)
③攻撃的な自己主張(自分の考えややり方を押し通す)
④他者批判(他者を見下し、批判する)
⑤反抗的な態度(指示やアドバイスに従わない)

これから採用面接を受ける方もいるので詳細な評価項目をここで紹介することは差し控えますが、対人関係に関する候補者のエピソードや使う言葉から、周囲をどうとらえ、どう関わっていく人物なのかを予測することができます。ただし、繰り返しになりますが、「対人関係面のリスクを持った人材の排除」をゴールにしないことです。
全ての人材には長所と短所があります。リスクを正しく把握した上で、配置や育成、マネジメントで補うことができないかを検討し、能力とリスクのバランスを考慮して採否を判断することが重要です。

採用面接における確認方法

おわりに:能力と人柄の両輪で採用を

人材採用において、候補者の能力の評価は今も昔も、そしてこれからも欠かせない判断基準の1つです。しかし、それだけでは組織にとって“持続可能な人材”とは言えません。人柄や価値観が組織文化と調和できるかを見極めることも、長期的な人材活用には欠かせません。対人関係面のリスクは、時に強さや個性の裏返しでもあります。採用場面では、それを“排除すべき不安要素”として断じるのではなく、“マネジメントすべき特性”として冷静に受け止め、リスクを上回るだけの能力や将来性があるかを総合的に判断することが、優秀な人材の採用には必要不可欠だと言えるでしょう。

MBTIとは

MBTIの正式名称はマイヤーズ・ブリッグス・タイプ・インディケーター(Myers- Briggs Type Indicator)です。イザベル・マイヤーズとキャサリン・ブリッグスという親子によって開発されたパーソナリティテストです。心理学者カール・グスタフ・ユングの性格類型論に基づいて測定モデルが作られました。
1962年米国のテスト専門機関ETSから研究用ツールとしてリリースされ、日本には1964年にはじめて紹介され、日本語版の翻訳研究がはじまりました。1968年に大沢氏がマイヤーズ氏から日本での正式な利用許可を受けたことで日本での利用がはじまり、このことが後押しとなりマイヤーズ氏は1975年に第一回全米MBTI学会を開催しました。この学会をきっかけに米国のみならず、ヨーロッパ、アジアなど世界70か国以上の利用がはじまりました。この学会がプロフェッショナルユーザー組織の結成につながり、資格認定などの仕組み作りが整備され、1988年に倫理憲章が制定されました。

MBTIとは

MBTIの16タイプ

MBTIはユングの性格類型論に基づいて、性格を16タイプに分けています。
まずは、知覚と判断という心理的な機能で人の行動をとらえます。知覚機能は物事をどうとらえてどう意識するかを決めるものであり、判断機能とは知覚したことをどう結論付けるかを決めるものです。知覚と判断にはそれぞれ異なる二つの方法があります。知覚の二つの方法は感覚と直観です。感覚による知覚は五感を使って対象をあるがままにとらえ、直観による知覚は自分の内面にある想念を対象に付加して間接的に対象をとらえます。知覚型は目に見える現実に関心が向き、直観型は可能性や想像に関心が向きます。判断の二つの方法は思考と感情です。思考による判断は論理的な方法で客観的な結論を導き、感情による判断は好き嫌いによって主観的な結論を導きます。思考型は客観的な分析で結論を出す冷静なタイプであり、感情型は人の気持ちを配慮した結論を出すタイプです。ここまでで述べた4つの心理的機能(感覚、直観、思考、感情)がユングの性格類型論の基本概念です。
この4つの機能に基本的態度と呼ばれる外向型と内向型が加わります。この二つのタイプはエネルギーの方向を示しており、外向型は外の世界との関わりを求め、内向型は内なる世界にこもろうとします。最後に外的世界の処理に使われる心理的機能の判断と知覚が加わります。
エネルギーの方向が外向型(E)か内向型(I)か、知覚の方法が感覚型(S)か直観型(N)か、判断の方法が思考型(T)か感情型(F)か、外界を処理するプロセスが判断型(J)か知覚型(P)の4つのタイプの組み合わせから16タイプに分類する仕組みが作られています。

ちなみに私は内向、直観、思考、知覚のINTPタイプです。たしかに新しい仕事を作り出すことに目が行きがちで、目の前のタスクがおざなりになることがよくあります。

外向(E) 内向(I)
  • 外の世界、人や物に向かう
  • 外に働きかける
  • 感情を表に出す
  • よくしゃべる
  • 行動するー考えるー行動する
  • 内的世界、観念や思考に向かう
  • 自分の内側に集中する
  • 物静か
  • 内に秘める
  • 考えるー行動するー考える
感覚(S) 直観(N)
  • 五感を通して
  • 現在実際に起きていること、現実経験を重んずる
  • きめられたもの
  • ひとつひとつ確実に
  • 第六感、事実をこえて
  • 将来起こりうること、未来、可能性
  • 新しいこと、好奇心強い
  • 選択可能なもの
  • あちこち飛躍する
思考(T) 感情(F)
  • 頭で考える
  • 論理的、客観的
  • 分析を好む
  • 冷静
  • 合理原理
  • ハートで感じる
  • 感情的、主観的
  • 共感する
  • あたたかい
  • 情感、調和
判断(J) 知覚(P)
  • 計画好き
  • 定められた行動
  • 組織的、規則的
  • 慎重、堅実
  • 自由な
  • 流れに任せる
  • 順応的、臨機応変
  • 柔軟、融通のきく

※大沢武志「心理学的経営 個をあるがままに生かす」(PHP研究所 1993年)より引用

活用方法

MBTIは自己理解のための質問紙です。専門教育をうけたプロフェッショナルユーザーからのフィードバックにより受検者が自分のタイプを探索し、ベストフィットタイプをみつけます。人はベストフィットタイプ以外の行動を一切取らないというわけではありません。何かを行う上では、ベストフィットタイプと反対のタイプの行動をバランスよくとる必要があります。ベストフィットタイプに関連する行動が現在の社会生活でどのように発揮されているか、反対のタイプの行動をあまりとらないことがどのような影響を及ぼしているかをよく考え、行動を強化したり改善したりすることに役立てるのが適切なMBTIの活用法です。

活用方法

管理職と経営者のMBTI

MBTIを選抜目的で使うことは推奨されていませんが、大沢氏は管理職に共通のタイプがあることを著書で述べています。日本とアメリカの調査データから管理職で最も多いタイプは思考・判断(TJ)タイプでした。また、経営者は管理職に比べ個性のばらつきは大きくなるものの、独創と信念で組織に君臨する孤高の経営者に内向・思考(IT)タイプが多いと述べています。その代表的な方は以下の通りです。
井深大氏(当時ソニー社長)INTP
堤清二氏(当時セゾングループ相談役)INTP
伊藤雅俊氏(当時イトーヨーカ堂相談役)INTP
佐治敬三氏(当時サントリー会長)INTJ

このような伝説の経営者からMBTIデータを収集していた大沢氏のMBTIに対する情熱と行動力に敬服いたします。

おわりに

大沢氏は1993年に出版された「心理学的経営」で社員の自己実現を経営のゴールに位置付ける企業経営者が増えてきた状況を伝え、社員一人ひとりの個性を生かす経営の必要性とその方法を提示しました。そこで個性をとらえるツールとして紹介されたのがMBTIです。このツールは自分の個性を正しくとらえ、組織においてその個性を最大限に活用するために使われるべきものなのです。自分のタイプを見つけるだけでなく、自分にとって未発達な特徴を把握し、問題の発生を未然に防いだり、周囲の人との協力によって問題を解決したりするために使われます。
MBTIというバズワードをきっかけとして、正しいMBTIの理解とその適切な活用が普及していくことを同じアセスメントを取り扱う者として切に願います。

参考文献
大沢武志「心理学的経営 個をあるがままに生かす」(PHP研究所 1993年)

タレントマーケットプレイスとは何か

タレントマーケットプレイスは、企業内に「社内労働市場」を形成することを目的とした社内プラットフォームです。このプラットフォームは、従業員一人ひとりが持つスキルや経験、キャリアの目標、興味関心といった「タレント」の情報と、社内にある様々な業務やプロジェクト、空きポジション、さらには社内副業や勉強会といった「機会」を、AIなどの技術を活用して効果的にマッチングさせる仕組みを提供します。
このプラットフォームは、単に従業員の人材情報を一元管理・可視化することを主な目的とした、従来のタレントマネジメントシステムとは異なる概念を持っています。タレントマネジメントシステムが人事部門などによるデータ管理・分析に重点を置くのに対し、タレントマーケットプレイスは、タレント(従業員)と機会の能動的なマッチングを促進し、企業と従業員双方にとっての「適材適所」をより高い精度で実現することを目指します。これにより、従業員は自身の意志に基づいた多様な機会を探求し、企業は社内リソースを最適に活用できるようになります

タレントマーケットプレイスがもたらす効果

タレントマーケットプレイスは、企業と従業員の双方にメリットをもたらします。主な効果は以下の通りです。

企業側のメリット


従業員側のメリット

タレントマーケットプレイスがもたらす効果

タレントマーケットプレイスとSHLアセスメントとの親和性

このタレントマーケットプレイスの仕組みは、SHLのアセスメントと組み合わせることでより強力な効果を発揮します。TMP導入のフェーズに応じて最適なソリューションをご提案いたします。

  1. 人材データの拡充とマッチング精度向上:タレントマーケットプレイスの基盤は従業員のスキルや経験データです。SHLアセスメントによる個人の能力や行動特性の客観的な測定結果を加えることで、AIによる職務推薦の裏付けデータとして活用可能です。
  2. ハイポテンシャル人材の発掘・登用支援:SHLのアセスメントでは、経験・スキルのみならず成長余地や将来のポテンシャルを評価できます。中長期的なリーダー育成・異動の判断材料となります。
  3. 社員の納得感・キャリア自律の促進:アセスメントを通じて「自分はどのような強みを持ち、どんな職務に適性があるのか」を本人が理解することで、エンゲージメントと自己成長意欲が高まります。

おわりに

このタレントマーケットプレイスという仕組みは、近年日本でも導入を検討される企業が増えています。SHLでは組織の活性化・人材の流動性を高める様々なソリューションを提供しておりますので、ご関心がある方は是非お問い合わせください。

コミュニケーションスタイル尺度の作成経緯

コミュニケーションスタイルは英語で「Selling Styles(販売スタイル)」という名称の項目です。もともとは営業トレーニングコースの一環として設計されたモデルで、売り手と買い手の関係性に着目し、数年にわたりOPQとの関連性を調査して、初期モデルが発展・構築されました。

「Selling Styles(販売スタイル)」という名称が使われていますが、これは単に製品やサービスの販売手法に限ったものではありません。多くの組織での活用を通じて、このモデルはより広い意味での「影響力(インフルエンス)」、特に「指示」ではなく「説得」に関与する場面においても有効であることが明らかになっています。

たとえば、新たな提案やコンセプトの提示、アプローチや方向性の見直しなど、他者を説得する必要がある職務や状況にも適用可能です。そのため、このモデルを「Influencing and Selling Style(影響・販売スタイル)」とより広く捉え、便宜上「Selling Styles(販売スタイル)」という名称が使われています。日本では、これを「コミュニケーションスタイル」という尺度名で取り扱っています。

基盤となる3つの型

コミュニケーションスタイルは階層構造を持っており、最下層では9種類のスタイルに分類されます。
基盤となるコミュニケーションスタイルは大別すると次の3つに分かれます。

人間関係重視型
:人間関係を親密にすることで人に対して影響力を働かせるタイプ
パワー型
:努力や意欲を通して人に対して影響力を働かせるタイプ
プロセス型
:話の内容や手順の適切さによって人に対して影響力を働かせるタイプ

細分化されたコミュニケーションスタイル:9つの型

さらに9つのコミュニケーションスタイルが定義されています。



以下は9つの型とその人物イメージです。

人間関係重視型

自信型
売り込むときに自信を持ってふるまうタイプ。フォーマルな状況やプレゼンテーションが求められる場面で特に優れたパフォーマンスを発揮する。落ち着いて自分のペースで話し、内容も明快で自信を持って話す。

共感型
相手との間で温かい人間関係を構築することに意欲を持つ。常に相手の立場や状況を理解し、それに応じたサポートを提供する。人に対する自然な興味があり、チームで働くことを楽しむ。

適応型
常にフレキシブルであろうとし、相手が持つ価値観やスタイルに自分を合わせて信頼や安心感を築く。自分の意見を強く打ち出したり、押しつけるようなことはしない。

パワー型

指導型
既存のカルチャーや考え方とは一線を画す立ち位置をとることで、インパクトを与えて自分の影響力を行使する。考え方の斬新さや有益性で相手を驚かせて自分を売り込む。変化を好む相手の場合、成功する度合いが強くなる。自分の立場を維持するための自信も求められる。

情熱型
エネルギッシュなタイプ。相手に対して積極的・意欲的にふるまい、その熱意で勝負する。陽気な性格からくる楽観主義がその原動力。考え方そのものに深さがなくても、影響力を行使できる。

忍耐型
断られても、断られてもあきらめないタイプ。忍耐が結果として成果を生み出すと信じている。あまりセンシティブではなく、自分の思うとおりの結果が出るまで執着して行動し続ける。結果的に「適切なタイミングで適切な場所にいる」ことが多い。

猟犬型
エネルギッシュで、目標達成につながる決断を素早く下す、獲物を捕まえようとするようなタイプ。競争心が強く、自信家でリスクを取りルールを柔軟に扱う姿勢が特徴。

プロセス型

説得型
知的なアプローチを好み、論理的に相手を説得したがる。相手のニーズを分析し、高度な解決策を提案する。言葉や数値の扱いにも優れており、適切な概念を武器に影響力を行使する。

手順型
アフターケアのようなフォローアップが得意なタイプ。決定的な場面で影響力を行使するよりは、裏方で計画をしっかり立て細部まで注意を払う。新しい相手を見つけるよりは、従来の関係を維持することに意欲を持つ。

細分化されたコミュニケーションスタイル:9つの型

おわりに

人は状況によって行動を柔軟に変化させるものです。ひとつのコミュニケーションスタイルに固執するのではなく、場面や相手に応じてアプローチを変えていきます。「〇〇型」という呼び方は便宜的なものですが、ひとつのタイプに人を当てはめてしまうと、理解を狭める危険があります。

その上で、誰しもが自然と自分にとって心地よいスタイルを取りがちであり、今回紹介した9つのタイプのいずれかに偏りが出るのも自然なことです。ひとつのタイプだけでなく、複数のスタイルを併せ持つ人も少なくありません。上記はOPQから出力されるオプションリポートCHXで各タイプの得点が算出可能です。

この概念を活かせば、説得したい相手のスタイルを意識しながら、より効果的なコミュニケーションが可能になります。また、周囲との関係性を見直したい時、自分がどんなスタイルを取りやすいかを振り返るきっかけにもなるでしょう。

ケース1

次年度の採用計画を作成するにあたり、採用基準の見直しを検討する企業は多いと思います。この検討に際して、活躍している社員の傾向を見出すために、在籍社員のパーソナリティと成績の関連を調べる分析がよく行われます。この結果を踏まえて現在の採用基準の妥当性を評価し、より適切な新しい採用基準を作成します。

「在籍社員のパーソナリティと成績の関連を調べる」ために最も頻繁に用いられる分析手法が「相関分析」です。相関分析がどのように行われるかについてご説明します。下の図を見てください。

ある企業で活躍している営業職の行動傾向をとらえるための分析を行いました。現職の営業職にパーソナリティ検査OPQを実施してパーソナリティの定量データを取得し、加えて営業成績を基準にハイパフォーマー(HP)、ミドルパフォーマー(MP)、ローパフォーマー(LP)の3群に分け、パフォーマンス評価点を付与しました。これらのデータを使ってパフォーマンス評価点とOPQの各因子得点との相関分析を行った結果が以下のグラフです。

図1:相関分析結果

図1:相関分析結果


この図を見ると、パフォーマンス評価点とヴァイタリティ得点との相関係数は0.3であり、パフォーマンス評価点と問題解決力得点との相関係数は0.15となっています。一見するとヴァイタリティのほうが問題解決力よりも営業成績との関係が強くみられますが、同じデータを用いて分散分析を行うとより詳しい情報が得られます。下の図は分散分析の結果です。
図2:分散分析

図2:分散分析


この結果を見ると、問題解決力もHPだけの特徴的な尺度として、営業成績と関係がありそうです。

相関分析は数の序列に意味があるので、点数が高ければ営業成績も高くなり、低ければ営業成績も低くなるという一本軸を見つけ出すのに適しています。
しかし、上記の問題解決力のように、ターゲットとなる一群(今回の場合はHP)にだけ特徴的でその他の群間(MPとLP)は差がない場合、あるいは序列通りになっていない場合(LP>MP)は、相関関係にはならないため、相関係数は比較的低くなります。
一方、分散分析は序列に関係なく集団としての特徴を見ているため、集団間の差を見出すことができます。

ケース2

また、こんなケースもあります。下の二つの図を見てください。


図3:相関分析

図3:相関分析



図4:分散分析

図4:分散分析



どちらも同じくらいの相関係数ですが、分散分析ではヴァイタリティ得点はHPだけが高く、問題解決力得点はLPだけが低くなっています。

ケース3

これらの因子得点を採用選考の初期段階で活用する場合、ヴァイタリティはHPのすくい上げに使えますが、LPの足切りには向かないことがわかります。逆に問題解決力はLPの足切りに向いていますが、HPのすくい上げには向きません。

さらにこんなケースもあります。


図5:相関分析

図5:相関分析



図6:分散分析

図6:分散分析



この場合、HPでも平均値が基準母集団平均(5.5点)よりも低いため、相関分析の結果だけを見て、人あたりの高得点者をすくい上げると現職のHPとは異なる特徴を持つ集団となってしまう可能性があります。

おわりに

このように、相関分析だけではテスト結果を正しく解釈し、運用するための情報として不十分なケースがあるのです。
分散分析、ヒストグラムなどの複数の分析手法やデータ集計方法を組み合わせることで、より適切な解釈を行うことが可能となります。相関分析だけでは活用ができないということではありません。分析を行う目的次第です。当社で請け負う分析の場合、成績とパーソナリティの関係を分析し、その結果をテストによる選抜に利用すること多いため、相関分析だけではなく他の手法も組み合わせることを推奨しています。

※図は全てイメージです。実際のデータから作成したものではありません。