VUCA時代である現代において、新事業創造やイノベーション創出は一部の起業家や新規事業担当に求められるものではなく、すべての経営者にとって重要な課題です。当社は日本で活動を始めて以来、日本におけるアントレプレナーやイノベーターの研究を続けてきました。
本コラムでは、当社が過去に行った研究からベンチャー経営者の人材要件と評価の方法をご紹介します。

ベンチャー経営者適性を評価する

ベンチャー経営者のコンピテンシーを以下4つに定めました。

  1. 対人的能力
  2. 優れたーリーダーシップを持ち、適切な対人影響力を発揮する。良い人脈を内外に作りすべての人から意欲と能力を引き出す。

  3. 組織文化の形成能力
  4. 顧客の求める質の高いサービスを豊かな個性を持った集団がチームスピリットをもって創造する環境を作る。

  5. 戦略的能力
  6. 鋭敏な外部知覚を持ち、正しい状況認識を踏まえて戦略的、システム的思考を用いて適切に采配する。

  7. 統治的能力
  8. 厳しい倫理観を持ち、自己研鑽を怠らない。批判性と合理性を持ち仮説検証的な判断を行う。

    これら4項目のコンピテンシーを評価するためにどのような言動をどのように評価すべきかについて述べていきます。

対人的能力を評価する

対人的能力の評価は以下5つの視点で行います。

対人的能力を評価する

組織文化の形成能力を評価する

組織文化の形成力は以下5つの視点から評価します。

戦略的能力を評価する

戦略的能力の評価は以下6つの視点から行います。

統治的能力を評価する

統治的能力の評価は以下5つの視点から行います。

おわりに

今回ご紹介したコンピテンシーモデルは、当社が1990年代に行った調査に基づいて作られたものです。評価方法については少し現代風に書き換えましたが、ほぼそのままです。30年前に作られた起業家コンピテンシーですが、新事業創造が求められる現在においても違和感なく活用できると考えています。起業家の本質は時代による影響を受けづらいのだと思います。

将来は自分の考え次第?

キャリア(career)の語源は「轍」だと言われています。轍は過去から現在までの足跡を示します。将来は見えません。では将来はどこに存在しているのでしょうか。
将来は、それぞれの思考の中に存在しています。つまり、将来は自分の考え次第ということです。しかし、今日に至るまでに様々な選択を繰り返している私たちにとって、現実には、将来のためにとれる選択肢は限られたものであると思うかもしれません。

将来は自分の考え次第?

「諦」とは

「諦」という字には「あきらめる」という意味に加えて「あきらかにする」という意味もあります。 キャリアを考えるとき、この「あきらかにする」ことが重要な役割を果たします。キャリアについて考えるためには、まずその材料(仕事であれば自分を取り巻く環境や経歴、自分自身の強み・弱みなど)を明らかにしていく必要があるからです。明らかにするという意味で「諦」という言葉を意識してみると、現状や将来への道筋について新たな気付きを得られることでしょう。

自分自身を明らかにするには

経歴や資格などは過去の経験や事実に紐づいているため、比較的簡単に棚卸できます。しかし、自分の強みと弱みの棚卸しはそう簡単にはいきません。客観的な自己評価が難しいからです。こんな時はパーソナリティ検査OPQを活用してみてください。 OPQのレポート「万華鏡30」に掲載されているマネジメントコンピテンシーPMCは、受検者の職務遂行能力を網羅的に整理した36項目からなるコンピテンシーモデルです。各コンピテンシーの発揮可能性が5段階で表示されます。 このPMCを使えば簡単に自分の強みと弱みを明らかにできます。以下の手順で行います。

    強みを明らかにする

  1. PMC36項目のなかで高得点(4点、5点)の項目に注目し、その中から自分の強みだと思うものを3つ挙げる。
  2. 挙げたコンピテンシーについて、具体的にそれが強みとして発揮された仕事場面を書き出す。
  3. ②の場面について、うまくコンピテンシーが発揮できた要因(環境や精神状態など)を分析する。

    弱みを明らかにする

  1. PMC36項目のなかで低得点(1点、2点)の項目に注目し、その中から自分の弱みだと思うものを3つ挙げる。
  2. 挙げたコンピテンシーについて、具体的にそれが不都合に繋がった仕事場面を書き出す。
  3. ②の場面について、不都合に繋がった要因(環境や精神状態など)を分析する。

自分自身を明らかにするには

「諦」は現実に適応していくための手段

ここまで「諦」の「あきらかにする」という側面について述べてきました。次は「あきらめる」という側面についてです。
理想のキャリアを100%叶えられる人は多くはありません。多少妥協をしなければ現実のキャリアを歩めなくなってしまいます。理想と現実の乖離にどう折り合いをつけるのかが課題となるのです。こんな時「諦」がカギとなります。
理想に拘り過ぎるあまり視野が狭まり、他の選択肢を考えることができなくなると、状況が思うように進まなかった時に心身の状態が不安定になり、不調をきたす危険性があります。
自分の理想と現実の状況を把握し、自分の力ではどうにもできない乖離がそこにあるならば、理想をあきらめて現実に対応したり、現在の仕事をあきらめて進む道を変えてみたりすることが解決策となります。このように「諦」を受け入れることで狭まった視野を広げることができます。
「諦」は悪でも終わりでもありません。人生の通過点です。現実に適応していくための手段として「諦」を肯定的に捉えられたとき、先の人生を見越して自分らしいキャリアを描けるようになるでしょう。

参考文献:浦上昌則(2010). キャリア教育へのセカンド・オピニオン 北大路書房

本コラムでは、組織変革の専門家フレデリック・ラルー氏の著書を参考に自律型の組織モデルについてご紹介します。

ティール組織とは

ティール組織とは、トップからの絶対的な意思決定やヒエラルキーを排除し、権限を分散された従業員のセルフマネジメントによって自走する組織モデルです。ティール(teal)とは本来青緑色を意味し、5段階に色分けされた組織モデルの発達フェーズのうち最も進展した段階を指します。ティール組織は従来の主流である上意下達の管理型組織の常識を覆し、上下関係の無い自律したマネジメントや意思決定のもとで推進されます。

米国のコンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)出身で組織変革の専門家フレデリック・ラルー氏が提唱した、従来のマネジメント手法とは異なる次世代型の組織モデルです。フレデリック・ラルー氏が2014年に著した内容をもとに、2018年に日本で発行された「ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」の著書の中で示されています。

マッキンゼー時代、ラルー氏が組織変革プロジェクトに疲弊しながら奔走する従業員を目の当たりにした経験から、組織と個人の幸福の両立を実現するティール組織を開発しました。

自律型の組織モデルが必要とされる背景

ティール組織に代表される自律型の組織モデルが必要とされる理由として、以下の社会的な背景が考えられます。

組織の発達による5つのフェーズ

管理型組織や自律型組織などの大まかな分類だけでなく、発達フェーズに応じた組織モデルが定義づけられています。ティール組織を開発したラルー氏は組織の発達段階を分ける5つのフェーズを提唱しています。
  1. 衝動型(レッド):恐怖支配、独裁
  2. 順応型(アンバー):ピラミッド型階級、軍隊
  3. 達成型(オレンジ):トップダウン型
  4. 多元型(グリーン):ボトムアップ型
  5. 進化型(ティール):自律型
現代の多くの企業や組織は達成型(オレンジ)以降のフェーズにいます。実際、日本の企業の多くは達成型(オレンジ)でトップダウン型と呼ばれます。一方、ヒエラルキーが存在しつつも個人が尊重され、上意下達だけでなく現場側からの意思伝達が可能な組織が多元型(グリーン)、いわゆるボトムアップ型です。

自律型のティール組織へは衝動型から各フェーズを経て行き着くと定義されています。ティール組織は自律型と呼ばれるとおり、セルフマネジメントを行う従業員の主体的な意思決定により運営されます。これにより組織のイノベーションやレジリエンスを高めやすいメリットがあります。

ティール組織を構成する3要素

ティール組織の構築には3つの要素が必要です。

セルフマネジメントの導入

従来の管理型組織にある明確な指示系統やヒエラルキーを持たず、自律した従業員一人ひとりが意思決定に関与します。セルフマネジメントには、メンバー間の対等な関係やオープンに情報共有できる環境が必要です。
多元型組織(グリーン)いわゆるボトムアップ型も従業員の主体性を重んじる組織モデルですが、社内のヒエラルキーと上層部からのガイドが存在するため、セルフマネジメントには当てはまりません。
ティール組織は組織内の階層構造に左右されず個人がセルフマネジメントを行い、目的達成のために自走することが特徴です。

全体性の醸成

全体性の醸成とは従業員一人ひとりが快適に自分らしく働き、自身をさらけ出せる風土や環境が作られることを指します。ティール組織は個人の能力に依存するため、メンバーの潜在能力をいかに引き出せるかが鍵となります。メンバーが有機的に働ける環境が理想で活発な対話と個人の尊重により自分らしく振る舞える環境の整備が組織に求められます。

進化する組織の存在目的

ティール組織に属するメンバーが同じ方向へ進むためには、明確な存在目的を共有する必要があります。トップによる絶対的な意思決定のないティール組織ゆえに、統一性や方向性を見失う失敗例も実際に発生しています。
個々人は内省と対話を通じて目指すべき目的を探求し続けることが求められます。

自律型組織の罠

自律型組織は完ぺきではなく、あくまで一つの組織モデルです。個人に権限を分散させすぎて方向性を見失うなど、運用次第で組織に悪影響を及ぼすこともあります。

自律型組織の主な問題点は以下の通りです。 ティール組織は自律したマネジメント形態ゆえに、個人に求められる能力やスキルの水準が高くなりがちです。常に自己管理と自己成長を続けられる人に向いていますが、そうでない人には負担が大きく、向いていません。
特にトップダウン型の組織からティール組織への変革は上記の問題点が変革の障壁となって現れる可能性が高いです。

また、ティール組織はメンバー間の対話が非常に重要なため、ハイコンテクスト文化の日本では根付きづらいという懸念もあります。ティール組織の「セルフマネジメント」「全体性」「存在目的」の醸成は情報の透明性や人の流動性・開放性を前提としますが、組織内のオープンマインドは一朝一夕で根付くものではありません。そのため自律型組織は作り出すものではなく、取り組みの先に結果として自然と生まれてくるものとして長期目線で捉える必要があるのです。

おわりに

今回ご紹介したティール組織は優れた組織モデルですが、あらゆる環境に適応できる万能なものではありません。またこの先も完ぺきなマネジメント手法が生み出されることはないでしょう。重要なのは、自社が目指す戦略に適した手法を見極めて組織づくりを進めることです。ティール組織を作るのであれば自律性の高い人材による小さなプロジェクトで成功体験を積み、徐々に全体へ波及させるやり方が得策です。
自律型組織は組織と個人のウェルビーイングを実現できる手段の一つでもあります。組織と個人がともに充実した社会を目指すうえで、時代に沿った組織やマネジメントのあり方が求められています。

参考文献:
Frédéric Laloux(2014). Reinventing Organizations: A Guide to Creating Organizations Inspired by the Next Stage of Human Consciousness
フレデリック・ラルー(2018). ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

当社が積極的にタレントマネジメントに関する情報発信を始めた2020年と現在(2025年)を比較すると日本企業にタレントマネジメントの考え方は浸透し、具体的な取り組みを進める企業も増えてきました。しかしながら、依然としてその実践は大手企業に限られていることも現実です。
タレントマネジメントは、人手不足が深刻化する日本において多様な人材や多様な働き方を受け入れ戦力にしなければならない企業を強力にサポートするものであり、すべての企業にとって有益です。
ここで改めてタレントマネジメントを導入するうえでのポイントについて整理します。

1. 戦略と目標の明確化

膨大な手間とコストをかけてタレントマネジメントの制度とシステムを導入したけれど、何も変わらなかったという事態は避けたいものです。そのためには組織の戦略遂行のためにどのような問題を解決するのか、どのような組織と人材を開発するのか、人材をどのように活用するのかなどを明確にしなければなりません。
まずは組織人事戦略の確認が必要です。組織人事戦略は、経営戦略や事業戦略に基づいて策定されるもので、企業や事業のビジョン実現に不可欠な組織と人材のあり方を示します。
次に、組織人事戦略を実現するための具体的な目標設定をします。タレントマネジメントは手段であり、導入の目的と達成すべき目標を明確にすることが重要です。

2. 人材要件の明確化

職務に必要な能力がわからなかったり、新しい事業や新設の部門、新しい職務に適した人材がわからなかったりといった悩みを抱えている方も多いかもしれません。高業績者の行動特性や新しいポストの職務内容を客観的かつ科学的に分析することで、人材要件を明らかにすることが大切です。
有力な情報源として職務記述書(ジョブディスクリプション)があげられます。これは職務分析によって作られ、職務内容や職責、職務遂行に求められる資格・知識・スキル・能力などが記載され、ジョブ型雇用の企業には必須のツールです。メンバーシップ型雇用の企業でも職務記述書の作成を進めることは有益です。

3. 社内の理解と協力

タレントマネジメントを成功させるには社内の協力が不可欠です。経営層だけでなく、各部門のマネジャーや全社員が納得し、施策を実行できるようにする必要があります。
新しい取り組みでは全員がすぐに賛成するとは限らないため、丁寧な説明が求められます。タレントマネジメントの目的、内容、方法、対象者、得られるメリット、発生しうる問題点とその対策、運用上の注意点、情報セキュリティ等をオープンかつわかりやすく説明し、社内の理解と協力を得られるようにしましょう。

4. フィードバックの実施

どのような施策を導入する場合でも参加者に対する建設的なフィードバックは極めて重要です。
例えば、サクセッションプランを導入する場合、後継候補者のアセスメント結果を人材委員会で検討するだけでなく、候補者本人にフィードバックすることで能力開発やエンゲージメントの向上につなげることができます。上司や部門責任者、メンターなどにアセスメント結果を正しく伝えることで、能力開発やキャリア開発、コミュニケーションの改善が期待できます。
人材可視化を目的に行う施策の場合、自ずと自己理解や相互理解が進みますので問題はありませんが、選抜や配置任用、チームビルディングなどにおいても、アセスメント結果に基づく「個人の強みや弱み」「指導の仕方」「コミュニケーションの取り方」などを関係者へフィードバックしましょう。社員一人ひとりを深く理解することは、組織が人材を活用するためだけでなく、働く人のやりがいやウェルビーイングにもつながります。

5. 検証と改善フローの構築

タレントマネジメントの導入はゴールではなく、スタート地点です。導入に際して設定した目標の達成に向け、客観的な検証を行い、必要に応じて改善を加えていきます。
導入後、想定とは異なる結果がでることもありますが、当初の目的と目標を忘れず、施策の最適化を進めていくことが求められます。常に最新の人材データを保持し、運用手順や手法を柔軟に見直す姿勢が重要です。
タレントマネジメントの効果を最大限に引き出すためには、検証と最適化を継続的に行うことが不可欠です。

おわりに

これらのポイントを踏まえて効果的にタレントマネジメント施策を運用している企業の事例は、導入事例(https://www.shl.co.jp/casestudy/)に多数掲載しております。ぜひご覧ください。

面接は、適合度、資格、潜在的な貢献度を評価し、適切な人材を見つけるための入り口です。しかし、採用プロセスの他の部分とは異なり、一貫性、正確性、公平性に対する厳密さに欠けていることがよくあります。今こそ、それが変わる時です。 本コラムではSHLグループのブログ記事をご紹介します。

良いチーム作りは良い面接から始まる

効果的な人材獲得戦略では、面接はサイロ化され、トレーニング、ツール、測定への投資がほとんど行われないことがあります。面接は測定が難しい人間同士のやりとりと見なされているため(面接の ROI を測定している組織は半数未満)、またほとんどの人が自分は「人柄を判断するのが得意」だと考えており、面接を透明性が高い、データに基づいた科学的な評価手法にする方法をほとんど検討していないためです。

米国労働省は、不適切な採用により、企業は従業員の初年度収入の 30 パーセントを失う可能性があると推定しており、最初の採用で適切に採用を行うことが重要であり、面接は以下のような理由から、依然として選考プロセスの基礎となっています。
  1. 候補者の適合度: 面接は、候補者の資格、文化的適合度、コミュニケーション能力を評価する機会となります。
  2. 意思決定ツール: 面接により、採用担当者は認知テストや技術テストなどの定量的評価を補完する定性的な洞察を得ることができます。
  3. 候補者エンゲージメント: 面接により、候補者は組織と役割について知ることができます。候補者が入社するかどうかの決定に影響を与えます。

貴社の面接は採否の決定に役立っていますか、それとも悪影響を与えていますか?

ほとんどの組織は、面接とアセスメントを別のものとして考えています。しかし、真実は、面接はアセスメントです。そのようになっていない場合、採用プロセスに不必要なリスクをもたらすことになります。

面接がうまくいっていると思う方は、ぜひ以下の点を検討してください。
「面接は完全なブラックボックスです。何が質問されているのか、何が話されているのか全く分かりません。実際の記録も残っていません。」 (大手米国銀行の採用責任者)

面接をアセスメントとして扱うと何が起こるでしょうか?

面接は、他の採用アセスメントと同様に構造化され予測的なものとすることが可能です。企業が面接にアセスメントの科学を適用した場合に起こることは、以下の通りです。

おわりに

面接が採用プロセスの中核をなす場合、面接は他のアセスメントと同様に厳格で予測的である必要があります。構造化された科学的根拠に基づく面接は、採用の精度を向上させるだけでなく、プロセス全体をより公平で効率的、そして候補者フレンドリーにします。

貴社では面接を本当にアセスメントとして扱っていますか? そうでないなら、今こそ始める時です。

この「人事コンサルタントの視点」コラムでも客観的な面接については繰り返し取り上げてきましたが、SHLグループは2025年2月5日、新たな面接ソリューション、スマートインタビュープロフェッショナルをリリースしました。科学的な面接を一層推し進めるソリューションです。カスタマイズ可能な面接ガイド、構造化面接を支援する採点ツールやプロンプト、AIトランスクリプトと要約、スケジュール調整を容易にする仕組み、そして面接官の分析、被面接者向けのサーベイ、この二つを組み合わせた全体分析まで行うことが可能です。本ソリューションをリリースに先んじて導入いただいた企業では、分析を活用して面接の実践を改善し、競争優位性を得ています。日本語でのサービス展開は準備中ですが、ご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひご連絡ください。

はじめに

OPQは、1984年にSHLの創業者が開発したパーソナリティ検査です。職場での「よくとる行動」や「好みの行動スタイル」を明らかにするよう設計され、人材の特性を科学的に可視化します。開発以来40年以上、OPQは人材のポテンシャルを測定し、あらゆる人事戦略の施策に貢献してきました。今回は、多くの企業が取り組んでいる「リーダー育成」をテーマに、OPQが活用できる視点を3つご紹介します。

リーダーの能力開発

まずはリーダー自身の能力開発のためにOPQをどのように活用するか、解説します。 OPQは自身が認識する自分の行動のクセを可視化するツールです。OPQの結果リポートを受検者にフィードバックすることで、自分の行動のクセを認識します。受検者はリーダーや管理職としての役割期待と自身の特徴を照らし合わせて、リーダーとしての強み/弱みを認識します。求められる役割を果たすために活かせる自分の強みをより伸ばし、どうしても障壁になってしまう弱みはどのような方法でカバーできるか具体的なアクションプランを立てます。弱みのカバーとは、単に自分の苦手なことを克服することだけに焦点を当てず、あらゆる方法(上司や部下・同僚の協力を得る、得意な行動によって別の方法でカバーするなど)を検討します。自分の特徴や環境をふまえた具体的なアクションプランに落とし込めるとよいでしょう。 専門家によるフィードバックと対話も内省の機会として有用です。当社ではOPQを熟知したアセッサーによる個別フィードバックも行っています。

部下育成の補助ツール

リーダー自身の能力開発と同様に、部下育成のツールとしてもOPQは活用可能です。部下にOPQを受検してもらい、部下自身が認識する強み/弱みと担当する業務の役割期待とを照らし合わせながら、今後の能力開発ポイントを探っていきます。上司から見た一方的な部下の評価ではなく、部下自身が実感している自分の特徴を元に育成の視点を持つことで、納得感を持った能力開発プランの策定ができます。異動が頻繁に起こる組織でも、OPQによって部下の特徴が可視化されていれば部下の特徴を素早く把握し、適切なマネジメントを行える期待が高まります。リーダーにとって、OPQという共通言語を持つことは適切な部下育成を行う1つの有効な策といえます。

育成すべき人材の特定

リーダーと部下の当事者の支援だけでなく、組織としてもOPQの活用が可能です。 リーダーは組織目標を達成するために重要な人材です。OPQは、組織の成否を左右するリーダーとして、誰に投資すべきかの判断材料の一助となります。先述の通り、OPQはポテンシャルを測定するツールです。リーダーとして、またさらに上位職のリーダーとしてのポテンシャルをOPQから予測し、成功確率の高い人材を優先的に育成します。OPQは多言語で展開しているため、候補者が世界中にいても、母国語で受検して結果を同一基準で比較することが可能です。日本で新たにリリースしたInsight Platformでは、OPQに加えてコンテクストという経験サーベイの結果からリーダー候補者の可視化を支援しています。SHLグループの知見を活用し、ぜひ投資対効果の高いリーダー育成を進めてください。

おわりに

一口に「リーダー育成」と言っても、どの視点にフォーカスするかによってOPQの活用方法は変わります。共通するキーポイントは、人材特性を普遍的な項目で可視化するという点です。近年、人事施策において「可視化」や「データドリブン」という概念が広く浸透してきました。その中で、見えづらい人の特性を可視化できるOPQは、まさに最適なツールと言えるでしょう。OPQは多くの人事施策で活用できます。一見OPQとは結び付かない人事課題も実はOPQが役立つ場面があるかもしれません。ぜひ一度当社のコンサルタントにご相談ください。 Insight PlatformのContextual Leadershipは、サクセッションプランに特化したソリューションサービスです。
サクセッションプランを円滑に行うためには、対象となるリーダーポストの後継候補者を正しく選ぶこと、後継候補者となる可能性が高い人を選び後継者に育てることが必要です。
本コラムでは、Insight Platformがどのように円滑なサクセッションプランをサポートするのか、鍵となる概念のリーダーシップコンテクストがどのように使用されるのかについて、具体的な職種を例にご説明します。

Insight Platform – Contextual Leadershipとは

Insight Platform(インサイトプラットフォーム)とはSHLの人材可視化プラットフォームです。様々な人材アセスメントデータを用いて、正しい人事に関する意思決定を行うための洞察を得ることができます。インプットは人材アセスメントデータ、アウトプットは個人のアセスメント結果リポートと集団のアセスメント結果を用いた人材可視化(インサイト)によって構成されています。
Insight Platformは、現在5つの人事課題に対応したソリューションの機能(レンズ)を持っています。各レンズの概要は、以下のコラム「タレントマネジメントのためのソリューションプラットフォーム『Insight Platform』」をご覧ください。

5つの課題のうち、サクセッションプランの課題解決を目的としたレンズがContextual Leadershipです。

鍵となる概念「リーダーシップコンテクスト」

SHLのサクセッションプランソリューションの特徴は、リーダーシップコンテクストに基づいて人材とポストの適合度を予測する点にあります。
一般的なサクセッションプランにおけるアセスメントはリーダーシップコンピテンシーを測定するために行います。しかし、経営リーダー候補となる人材は概ね高いレベルのリーダーシップコンピテンシーを発揮しており、この情報だけで特定のリーダーポストの職務で成功できるかどうかを予測することは困難です。成熟した市場の先進国で販売会社の社長をやるのと、未開拓の新興国で販売会社の社長をやるのでは、同じ販売会社の社長という役割であっても解決すべき課題が大きく異なります。
このような役割を取り巻く環境の違いを説明するために見いだされたものがリーダーシップコンテクストです。既に複数のコラムで述べられていますが、SHLは3年間をかけて世界の約90組織、約9,000名のリーダーを対象とした大規模な調査を行い、リーダーの成功要因として大きな影響を与えているリーダーシップコンテクストを発見しました。
高いレベルのリーダーシップコンピテンシーを発揮していることが確認できれば、個別のポストに対する向き不向きは候補者の職務経験によって判断できるので、そこまで細やかな情報を必要ないと感じるかもしれません。まさにその通りなのです。リーダーシップコンテクストは、その職務経験における適合度を客観的に捉えることができる概念です。新しいリーダーポストで求められる役割や解決すべき課題がどのようなものかを客観的に捉え、誰が見ても合意できるよう役割と環境を整理するためにこの概念を利用します。

Contextual Leadershipのアセスメント

Contextual Leadershipでは2種類のアセスメントを行います。パーソナリティ測定OPQ32rと経験サーベイです。

OPQ32rはご存じの通り、質問紙形式のパーソナリティアセスメントです。パーソナリティ32因子を測定し、様々な実用尺度を算出します。本レンズにおいては、27項目のリーダーシップコンテクストの得点を算出します。これらの得点は各コンテクストへの適合度、つまりどれだけリーダーシップ課題をうまく解決できるポテンシャルを持っているかを表します。
経験サーベイは、27項目のリーダーシップコンテクストについて、今までの職務においてどれだけの経験を持つかをたずねます。リーダーの成否に大きな影響を与える文脈的な環境のもとでの職務経験の有無、強弱を確認するのです。

リーダーシップコンテクストの活用

サクセッションプランを実行するための最初のステップは、対象となるリーダーポストの要件を定義することです。Contextual Leadershipレンズでは、このリーダーポスト要件をプロファイルといいます。Insight Platformでは、はじめに27項目のリーダーシップコンテクストを使ってプロファイルを作成します。
27項目のリーダーシップコンテクストについてはコラム「リーダーシップコンテクストの選び方~サクセッションプランの実践」をご覧ください。

技術系リーダーポストのコンテクスト

特定のリーダーポストのプロファイルを作る際には、現在そのリーダーポストについている人、未来の役割変化について考えを持つ人などにインタビューを行い、インタビュー結果を統合し、最終的なプロファイルを作成します。
SHLはContextual Leadershipの利用顧客が選択したリーダーシップコンテクストを役割別に集計し情報を提供しています。今回は技術系3職種(IT・システム、ハードウェアエンジニアリング、研究開発)のリーダーポストを対象によく選択されているリーダーシップコンテクスト上位10項目ご紹介します。
これらの3職種で上位10位として選択されたリーダーシップコンテクストには共通項目が多くありました。結果は以下の通りです。


共通項目を見ると、イノベーションによる利益創出をグローバルに行おうとする各社の戦略が見えてくるようです。また、不確実性の高さ、リーダーの交代、M&Aなど大きな環境変化のなかでビジネスを進めている状況を垣間見ることもできます。現在のグローバル企業におけるビジネスリーダーの環境を象徴している項目です。

おわりに

リーダーシップコンテクストとコンピテンシーの違い、そしてリーダーシップコンテクストがどのようにリーダー選抜に貢献するかについてご紹介しました。職務経験に基づく従来の人材選抜を踏襲しつつ、より客観的かつ科学的にサクセッションプランを実施するInsight Platformをより詳しく知りたい方は以下のウェビナー「成功率を上げるデータドリブンなリーダー選び~サクセッションプラン最新研究×最先端ツール「Insight Platform」【アーカイブ配信】」をご覧ください。

近年、ビジネス環境が急速に変化する中、多くの企業で「ミドルマネジメントの強化」が叫ばれています。しかし同時に、「罰ゲーム化する管理職」という表現が注目を集め、ミドルマネジメントの役割がより一層複雑化・困難化していることがうかがえます。
本コラムでは、ミドルマネジメントを取り巻く現状を整理し、組織・人事が効果的にミドルマネジメントを強化する方法についてご紹介します。

ミドルマネジメントとは

ミドルマネジメントとは、組織内で経営層と現場社員をつなぐ中間管理職を意味します。主に部長や課長などが該当し、組織の目標達成やメンバーの育成のために様々な手段を講じて対応する(manage)という役割が期待されています。
近年、ミドルマネジメントの重要性はますます高まっています。人事担当者を対象としたある意識調査1では、50%が「ミドルマネジメントの能力開発」が最重要課題と回答し、他の項目を押さえて首位となりました。組織の持続的成長と競争力強化のためには、ミドルマネジメントの戦略的な発掘や育成が不可欠であり、その重要性は今後さらに増していくと予想されます。

疲弊するミドル達

上記のように組織・人事からミドルマネジメントへの期待感が高まる一方で、現場のミドルマネジメントの過重負担が深刻な社会問題となっています。あるアンケート調査2によれば、ミドルマネジメントの約95%が「他の役職と比べて負担が大きい」と回答しており、負担感の主な要因として「部下の業務のフォロー」「上司、経営陣とのコミュニケーション」「部下とのコミュニケーション」等が挙げられています。これは、彼らが上司と部下の間で板挟みになっている現状を如実に表しています。
さらに、別の調査3では、一般社員の77%が「管理職になりたくない」と回答しています。理由としては、以下が挙げられます:
  1. 責任の重さ
  2. 業務量の増加に見合わない報酬
  3. 自身の適性への不安
  4. 専門性の喪失懸念
日々、業務に忙殺され疲弊するミドルマネジメントを間近でみている一般社員からすれば、昇進がキャリアの魅力的な選択肢として映らないのも無理はありません。これにより、有能な人材が昇進意欲を失うという悪循環が生まれ、組織の活力低下や競争力の衰退を招く恐れさえあります。
では、このような状況を打開するために、組織・人事はどのように課題解決に向かえばよいのでしょうか。その第一歩は、ミドルマネジメントの本質的な役割と適性について、組織・人事とミドルマネジメントの双方が共通認識をもつことにあります。

ミドルマネジメントを強化するには

人事担当者から頻繁に聞かれる問題の一つに、「優秀なプレイヤーをミドルマネジメントに昇進させたものの、期待通りの成果が得られていない」というジレンマがあります。この問題の核心は、プレイヤーとミドルマネジメントの役割の本質的な違いにあります。 こうした役割の転換は、多くの場合、ミドルマネジメントにとって困難さを伴います。例えば、プレイヤーとしての成功体験が強い人は、つい自分のやり方や考え方を部下に押し付けてしまうかもしれません。そのため、「マネジメントとは自分ではなく他者を通じて物事を成し遂げることだ」ということを彼らが腹落ちできるような機会を提供することが求められます。
一方で、先に見た通りミドルマネジメントの多くは過重負担に陥っています。いたずらに研修を増やすことは、かえって彼らの学習意欲を減退させてしまう恐れもあります。1on1や傾聴トレーニング等といった解決策に一足飛びに向かうのではなく、ミドルマネジメントの置かれている現状を組織・人事が正しく理解し、彼らの心理的な準備を支援する姿勢を示していくことが大切です。

「今いるミドルマネジメントをどのように育成するか」に加え、もう一つ重要な視点があります。それは、「組織の成果を最大化するために誰をアサインすべきか」という視点です。SHLグローバルの調査結果によると、現在高い業績を上げているプレイヤーのうち、上位職で成功する可能性のある人材はわずか7分の1にすぎません。これは、明らかにミドルマネジメントにはプレイヤーとは異なる適性(職務の成功や組織への適応に影響を与える性質)があることを示しています。
優れたマネジャーを発掘するためには、現在の役割における評価情報だけでなく、上位層に必要な潜在能力(ポテンシャル)を持っているかを明らかにするものさしが必要です。アセスメントを活用することで、こうしたポテンシャル情報を簡便に取得することが可能になります。当社はミドルマネジメント向けのアセスメントツールも様々持ち合わせておりますので、ご関心がある方はぜひお問い合わせください。

おわりに

ミドルマネジメントの強化は、いまや組織の持続的成長と競争力向上に不可欠な重要課題です。課題解決に向けて、ミドルマネジメントの心理的な支援と適切なアサインメントの両立が組織・人事にはますます求められてくるでしょう。
実はかくいう筆者も、ミドルマネジメントに足を踏み入れたばかりの若輩者です。大きな役割の転換に戸惑うこともありますが、ミドルマネジメントとは本来、部下が輝くためのサポートができ、組織にも貢献できる幸せな仕事です。まずは自身が生き生きとしたミドルマネジメントになれるよう、日々精進してまいります。

¹ONE人事 人事部門の役割と人材マネジメントに関する意識調査(2024年9月)
²スタメン 中間管理職の負担に関する調査(2024年11月)
³JMAM 管理職の実態に関するアンケート調査(2023年4月)

はじめに

Candidate Experienceは応募者/候補者体験と呼ばれ、採用プロセス全体を通じて感じる経験や印象のことを指します。企業の求人を見つける段階から、応募、面接、内定、さらには不合格になった場合の対応に至るまでのすべてのやり取りやプロセスを含みます。人材確保が厳しくなる中で、どの企業にとっても応募者体験の重要性は増しています。また、応募者は、Xなどをはじめ、さまざまなデジタルプラットフォームで自身の面接体験を共有しており、その発信の数は増えています。
SHLグループは、独自のAIを活用して応募者の公開レビューを収集し、40万件以上のテキストデータを分析しました。その調査結果から採用プロセスにおける応募者体験にフォーカスしたヒントをお伝えします。

応募者にとってポジティブ/ネガティブな体験とは?

40万件以上のテキストデータから、ポジティブまたはネガティブだった応募者体験が明らかになりました。それぞれ上位10個の体験は次のとおりです。

〇ポジティブ体験
  1. 面接官は職務要件に関連した質問をした。
  2. 面接官は会社について、またその一員として働くことがどのようなものかを話した。
  3. 面接の各段階が想定されたスケジュール内で実施された。
  4. 応募者は面接官に質問する機会があった。
  5. 採用担当者は、採用プロセスの段階について明確に説明していた。
  6. 面接官は学歴や職務経歴に関する質問をした。
  7. 応募者は採用プロセスでのパフォーマンスについてフィードバックを受けた。
  8. 採用担当者は対応が迅速で効率的だった。
  9. 採用担当者は仕事内容や役割の要件について十分な知識を持っていた。
  10. 面接官は、応募者の回答を引き出すために適切な問いかけとフォローアップの質問を行った。


×ネガティブ体験
  1. 採用担当者は失礼な態度をとり(素っ気ない、横柄、または友好的でない態度をとるなど)、やり取りの中で非プロフェッショナルな対応をした。
  2. 面接官は失礼な態度をとり(素っ気ない、横柄、または友好的でない態度をとるなど)、やり取りの中で非プロフェッショナルな対応をした。
  3. 採用担当者が応募者との連絡を突然断ち、コミュニケーションがなくなった。(いわゆる「ゴースティング」)
  4. 面接が直前にキャンセルされた、またはほとんど説明がなくキャンセルされた。
  5. 面接官が遅れて面接に参加した。
  6. 面接官が職務要件について十分な知識を持っていなかった。
  7. 採用担当者が、応募者に対して採用プロセスの進捗を適切に共有しなかった。
  8. 求人情報が誤解を招く内容だった、または実際の職務内容を正確に反映していなかった。
  9. 面接官が面接中に集中しておらず、注意が散漫だった。
  10. 面接官がウェブカメラをオフにしていた。

採用担当者が気を付けること

採用担当者は応募者が採用プロセスのすべての段階で最初に接触する人物であり、常に応募者に最新の情報を提供する責任があります。採用プロセス(求人票作成からお互いの期待の理解までを)について採用担当者と採用する現場のマネジャー間で強力なパートナーシップを築いてください。
職務要件はあるペースで変化します。現場は求める具体的な役割内容と理想的な人物像について最もよく理解しており、採用担当者が古い仮定を持ち続けると、応募者が辞退する原因となる可能性があります。
また、選考の各段階で、意思決定を行い応募者に伝えるためのスケジュールもすり合わせが必要です。コミュニケーションのタイミングやその方法になんらかの問題がある場合、詳細を検証して改善します。

以下の点を押さえましょう。

面接官が気を付けること

面接官は、従業員として、会社のブランドのアンバサダーであり、組織の文化や価値観を体現する人たちであるべきです。面接官のトレーニングにより、面接官が自信を持って一貫して面接に臨めることができます。採用基準を理解して面接官が適切に面接を行うことは当たり前と思うかもしれませんが、実際は注意点がいくつかあります。職務分析で特定された職務に関連する能力を理解し、適切な質問を投げかけて一定の基準で評価すること、またボディランゲージや積極的な傾聴などの態度などです。

以下の点を押さえましょう。

面接プロセスで気を付けること

採用プロセスでは、正確な職務内容や情報を提供すること、応募者に対して選考スケジュールを明確にすること、進捗状況を適宜共有すること、そしてフィードバックを提供することが欠かせません。

面接のプロセスでは以下の点を押さえましょう。

おわりに

この調査結果から、応募者体験は採用担当者と面接官の行動や態度が直結していることが分かりました。応募者の声の中には、「自社では当たり前に実施している/そんなことは起こりえない」と思うものもあるかもしれません。しかし、一定のスケジュールの中で行う新卒採用だけでなく、同時並行で行われるインターンシップや様々な部署でスピーディに随時進んでいく中途採用など、自社で行われる採用活動のあらゆるタッチポイントが応募者体験を形成する要素になっています。このことを改めて認識し、今回のコラムが採用に携わるすべての人が関わる採用活動の点検を行うヒントになれば幸いです。

従業員はあらゆる組織の生命線ですが、2025年は「リベンジ退職」がトレンドになると予測されています。¹「リベンジ退職」とは職場で評価されない、燃え尽き症候群、職場へのエンゲージメントの低下などのネガティブな経験に反応して従業員が仕事を辞める傾向です。多くの業界で人材不足が依然として蔓延し、採用とスキルアップのコストが増加する中、従業員の定着は今年すでに多くの組織にとって重要な優先事項となっています。リベンジ退職のリスクを最小限に抑えるために、人事は何ができるでしょうか。

本コラムでは、従業員エンゲージメントに着目し、SHLグループのブログ記事から従業員エンゲージメントで得られるメリットとエンゲージメントを維持する方法を抜粋してご紹介します。

従業員エンゲージメントの主なメリット

エンゲージメントの高い従業員とは、勤務先の会社を大切にし、社会全体の利益のためにパフォーマンスを発揮する意欲が強く、仕事と職場の両方に献身的な従業員のことです。エンゲージメントの高い従業員はどのような貢献をしてくれるのでしょうか。
  1. 欠勤率の減少と定着率の向上
  2. エンゲージメントは、従業員の定着率と出勤率に大きな影響を与えます。エンゲージメントの高い従業員は、会社に留まる可能性が 31% 高く、期待を上回る可能性も 31% 高くなります。²

  3. 生産性と収益性の向上
  4. 従業員のエンゲージメントが高い場合、生産性と収益性が大幅に向上します。最近の労働力レポート³ によると、従業員のエンゲージメントが高い企業は、エンゲージメントが低い企業に比べて収益性が 23% 高く、販売生産性レベルが 18% 高くなります。

  5. 顧客ロイヤルティと満足度の向上
  6. 従業員のエンゲージメントは、顧客体験に直接影響します。顧客対応を行う企業は、チームのエンゲージメントが高い場合、顧客ロイヤルティ(忠誠心)とエンゲージメントが 10% 増加すると報告しています。顧客は、単に形式的に仕事をこなしているベンダーと比較して、自分の仕事に心から自信を持っているベンダーのエネルギー、情熱、熱意をすぐに感じ取ることができます。

    エンゲージメントの低下による経済的影響は、エンゲージメントの低下が世界経済に約 8.9兆ドルの損失をもたらし、世界の GDPの9%を占める³ことを示しています。

従業員エンゲージメントを育む戦略

  1. モチベーションリソースを理解する
  2. 従業員のパフォーマンスの原動力を理解することで、これらの動機をチームや組織の目標に合致させる適切なプロセスを設計・構築できます。これにより、優秀な人材が自分にとって重要な領域で報酬や評価を受けられるようになります。モチベーションリソースを理解することは、採用から後継者計画まで、従業員のライフサイクル全体にわたる意思決定の役に立ちます。

  3. マネジャーに焦点を当てる
  4. マネジャーはエンゲージメントスコアの変動の 70% を占める可能性があり、マネジャー自身のエンゲージメントが高いと、部下のエンゲージメントも高くなる可能性が高いのです。歴史的に、優れたマネジャーのスキルは「ソフトスキル」と捉えられてきました。現在「チームの一体感を促す」や「難しい決定を下す」などのスキルを定量化して測定できるようになっています。これらのスキルは技術的なスキルと共にマネジャーの全体的なスキルセットの重要な部分を形成しています。不適切なマネジャーに遭遇した人なら誰でも知っているように、技術的なスキルのみで昇進させると、マネジャーのスキルセットに大きなギャップが生じることがよくあります。スキルと行動を包括的に把握するための適切なツールを用意することで、チームのエンゲージメントを高めることができる適切なマネジャーとリーダーの採用と育成が可能になります。

  5. 人材を育成する
  6. 10 人中 7 人が、学習によって組織とのつながりの感覚が向上すると回答しています。人材の既存のスキルを把握し、スキルの強みとギャップを見つけることは、ほんの始まりにすぎません。このデータを使用すれば、適切なスキル開発のツールとリソースに投資し、従業員が自らの学習の旅を進められるよう支援することができます。
    人事部門のリーダーは社内異動を推進しますが、成長だけでは十分ではありません。従業員はキャリアアップを望み、成長が認められることを望んでいます。キャリアパスをマッピングし、部門間の社内異動をシンプルにすることで、人材を高く評価し、ポテンシャルの発揮を支援していることを示すことができます。これにより、従業員は組織に長く留まり、組織の支持者になるように動機付けられます。

  7. エンゲージメントの測定と維持
  8. エンゲージメント戦略の有効性を確保するには、エンゲージメントレベルを定期的に測定して評価することが重要です。定期的な調査を実施し、生産性指標を分析し、離職率を監視することで、エンゲージメント施策の影響について貴重な洞察を得ることができます。

おわりに

2025 年に向けて、従業員エンゲージメントの重要性はいくら強調してもし過ぎることはありません。エンゲージメントは、組織に利益をもたらす具体的な行動になります。これらの戦略を実行し、前向きな職場環境の構築に重点を置くことで、組織は生産性の向上、従業員の定着率の向上、顧客満足度の向上など、従業員のエンゲージメントが高いことから得られる数多くのメリットを享受できます。

¹‘Revenge Quitting’: 4 Tips To Curb The 2025 Trend At Work ²Gartner HR Research Finds Only 31% of Employees Report They Are Engaged, Enthusiastic and Energized by Their Work ³From Suffering to Thriving