人材アセスメントに対しての疑問

なぜ多くの企業が人材アセスメントを各人事施策に活用しているのか。そしてその必要性はどこにあるのか。それらの疑問に対して、ルメルト著:『良い戦略、悪い戦略』(2012年)に書かれている「良い戦略」をもとに考えていきたいと思います。

良い戦略の基本構造

まずは、著者の考える良い戦略の基本構造とは何か。曰く、良い戦略とは下記3つの要素を含んでいます。

(以下、著書より引用)

①診断
 ➡状況を診断し、取り組むべき課題をみきわめる。良い診断は死活的に重要な問題点を選り分け、複雑に絡み合った状況を明快に解きほぐす。

②基本方針
 ➡診断で見つかった課題にどう取り組むか。大きな方向性と総合的な方針を示す。

③行動
 ➡ここで行動と呼ぶのは、基本方針を実行するために設計された一貫性のある一連の行動のことである。すべての行動をコーディネートして方針を実行する。

上述の3つの要素を人事戦略立案の場面で想定してみると、「診断」は現状の経営状況やそれに関わる外部環境、ステークホルダーの関係性の変化などを的確に捉え、その企業にとって致命的な課題を人事的側面から認識すること。「基本方針」はその診断で認識した課題に対してどのような施策が効率的かつ効果的にポジティブな影響を与えるのかを考え方針を決めること。「行動」はその決めた方針に従って必要な資源やその配分を整理し、方針の実行に移すことだと言えるでしょう。
一見当たり前に見える要素ですが、これまでのクライアントからのご相談などから、決してすべての戦略が上述3つを満たしているわけではないと考えます。著書内では、良い戦略に対して「悪い戦略」(上述3要素を満たしていない戦略)と呼ばれていますが、なぜその悪い戦略が現実に存在してしまうのかが書かれています。つまり、悪い戦略がはびこってしまう背景には、現状の分析や調査にはかなりのハードワークが求められるからであり、そんな“重く面倒な”ことなどしなくても戦略は立てられるという願望もあるそうです。当然のことですが、正しく「診断」ができなければ、その後の正しい「基本方針」の決定や正しい「行動」はできません。

人事戦略の基本方針を打ち出す際の一番の土台となる「診断」について、様々な視点から分析することが重要になりますが、その一助となり得るのは人材アセスメントであると考えます。

人事戦略の基盤となる「診断」へのアセスメント活用

現状を分析し課題を見つけ出す手法は様々ありますが、人事戦略に関連する現状分析という文脈では、その企業が抱える人材についての可視化が肝となります。言わずもがなですが、そもそもどのような人材が組織に存在するか、それは経営戦略を遂行する上で必要十分なリソースか、今後中長期的にどのような人材が必要か、また今いる人材をどのように育成すべきなのか等を適切に把握しない限り、現状の課題を診断することは困難です。また、人材の可視化に用いる尺度(物差し)も重要となります。基準が毎回異なる物差しであれば、いくら定量的に物事を推し量ろうとしても意味を成しません。
そこで人材可視化の一助となり得るのが、アセスメントによる人材の定量化です。今日では多種多様なアセスメントが存在していますが、裏を返せば企業の人材可視化ニーズの高さを物語っています。

人材アセスメントの活用により、社員のコンピテンシーやポテンシャルをデータ化することで下記のような情報を得ることができます。

―現状の人材ポートフォリオ
―自社のハイパフォーマーや活躍人材の特徴
―各ポジションやポストでの要件
―開発や育成が必要なコンピテンシー(能力) etc.

上述のような情報を基に、現状の人材を適切に把握しその後の人事戦略・各種施策へと繋げていくことが可能となります。例えば、人材ポートフォリオを作成後、キーポジションの要件を満たす人材が社内に存在しなかった場合、採用を見直し外部から補填するか、ポテンシャルのある社員に対して育成や研修を実施しプロパーの社員を登用するのか等、見えなかった重要な課題を浮き彫りにし、今後の基本方針を決定する指標ができます。

なお、人材可視化のための当社アセスメント(OPQや万華鏡)についての詳細は他ページの『SHLのキーテクノロジー「OPQ」とは』『マネジャー&シニアマネジャーノルム搭載!アセスメントツール「万華鏡30」』をご参照ください。

最後に

著書曰く、「良い戦略」は良い「診断」から始まります。現状をいかに分析し課題を見出せるかは大切です。前述した通り、人材の可視化はハードルが高く、コストもかかる面倒な作業となる可能性から、わかってはいてもなかなか手が出せず効果的な「診断」をできずにいる企業があることも実情です。しかし、人事の「良い戦略」を導き出すためにはその要素は必要不可欠です。まずはその一歩として、ぜひこの機会に人材アセスメントを「診断」に活用いただくのはいかがでしょうか。

参考文献:リチャード・P・ルメルト. 良い戦略、悪い戦略. 日経BPマーケティング, 2012, p.410

はじめに

統計分析は以前に比べてかなり身近なものになりました。無料の統計ツールが広く利用されるようになり、数値データを入れれば簡単に分析結果が得られるようになった時代だからこそ、改めて「何のための分析なのか」を考えることが必要なのです。

「何を知りたいのか」を明確にする

「今年の内定者はなんだか例年と印象が違う」

そう感じたとき、手元にパーソナリティテストの受検結果があればそれを分析することで、その印象が正しいかを検証できます。
しかし、その検証方法は、「何を知りたいのか」によって変わってきます。

①どこが違うのか知りたい → 例年の内定者との比較
②なぜ違ったのか知りたい
・広報を変えたから? → 例年の応募者と今年の応募者の比較、今年の応募者の応募経路別比較
・各選考の評価基準を変えたから? → 各選考の合格者と不合格者の比較
・面接官にきちんと評価基準は伝わっていたのか? → 面接官ごとの合格者と不合格者の比較
・今まで内定していたような人は辞退してしまったのか? → 辞退者の傾向分析

このように、「何を知りたいのか」によって、「どういう集団に対して」「どのような分析手法を用いるのか」が異なってきます。意味のある分析結果を得るためには、「何を知りたいのか」を意識することが重要です。

「何のために知りたいのか、それを知ってどうするのか」を考える

もう一つ考えておきたいことに、「何のために知りたいのか」「それを知ってどうするのか」があります。つまり、得られた分析結果をどう運用するのかです。運用に落とし込めない分析を行ってもあまり意味がありません。事前に、その分析で結果が得られたらどうするのかをある程度考えておくことも重要です。

例えば以下の選考フローを考えてみます。内定者の傾向を明らかにして、一次面接よりも前にその傾向に基づいて絞り込むことを目的に分析します。

エントリーシート→適性テスト(知的能力・パーソナリティ)→一次面接→グループディスカッション(GD)→二次面接→最終面接

内定者の傾向を指標化しようと、統計ツールと手元のデータを駆使して(重回帰分析などで)指標化を試みます。なかなか良い指標にならず、悪戦苦闘しながらやっとのことで数値的に良い指標ができました。
しかし、その指標を算出するために「知的能力テスト結果」「パーソナリティテスト結果」「GD評価」が必要だった場合、その指標で一次面接よりも前にスクリーニングを行うことはできません。その時点では学生の「GD評価」が無く、指標を算出できないためです。

このように、数値的に良い指標を作成しようとするうちに、実際には運用できないものになってしまうこともあります。

ただ、この指標も、GD選考を一次面接よりも前に実施するように選考フローを変えることができれば活用可能です。選考フローの変更も視野に入れられるのかなど、分析を行うときには「その結果をどう使うのか」も意識すると、意味のある分析ができます。

「意味のある」統計分析を行うために

冒頭で述べたように、様々なツールが開発され手元で簡単に統計分析を行うことができるようになりました。データを入れさえすれば何かしらの結果が得られます。簡単に結果が得られるからこそ、苦労して取得したデータがあると、せっかくだからとあれやこれや分析をしたくなってしまいます。
あれやこれや分析をすること自体は問題ありません。しかし、何のために行う分析なのか、得られた結果をどう運用に落とし込むのかを事前に考えておかないと、ただ分析しただけで終わってしまいます。
簡単に結果が得られる世の中だからこそ、事前に分析の目的を明確にしておくことが大切なのです。

「何を知りたいのか」「何のために知りたいのか」が明確であっても、それをどうやって分析項目に落とし込めば良いかわからないということも出てくると思います。その際は是非当社へご相談ください。

今回はこれらがどのように算出されている値なのかについて、取り上げたいと思います。

標準化とは

100点満点のテストで、80点を取ることができたとします。あなたは高得点でしょうか、低得点でしょうか。満点のうち8割の得点であったという意味では、高得点なのかもしれません。

▼ クラスの平均点が70点だった場合は?
・・・それほど高得点とはいえないかもしれません。
▼ クラスの平均点が48点だった場合は?
・・・かなりよく出来ているといえそうです。

得点が高いか低いかを判断するには、クラスの平均点や得点分布を知る必要があります。データが正規分布(ベルカーブを描く分布)に従うことを前提として、基準母集団(上記の例であれば“クラス”)の平均と標準偏差(分布のばらつきの程度)を用いて、その中でどの位置にいるかを相対的に示すことを「標準化」といいます。標準化して変換した値を標準得点といいます。標準得点の計算式は以下の通りです。

標準得点=(点数-平均)/標準偏差

「平均」と「標準偏差」は、比較したい基準母集団(同じテストを受けている集団)の値を用います。
クラスの中の相対的な位置を知りたいのであればクラスの平均と標準偏差、学年全体の相対的な位置であれば学年の平均と標準偏差を用います。

2パターンの基準母集団を用いて標準得点に変換してみましょう。
*計算後の値は四捨五入して小数点以下第2位まで表示

▼ クラス平均70点、標準偏差15の場合
80点をとった人 ・・・ (80-70)/15=0.67
70点(平均)をとった人 ・・・ (70-70)/15=0

▼ クラス平均48点、標準偏差15の場合
80点をとった人 … (80-48)/15=2.13
48点(平均)をとった人 … (48-48)/15=0

標準点と偏差値

標準得点では、平均を0、標準偏差を1とする得点に変換されます。そのため、平均点をとった人の標準得点は0となります。平均以下の場合、標準得点はマイナスになります。
・・・少しわかりにくいですね。この標準得点を、馴染みのある標準点や偏差値にさらに変換してみましょう。

標準点とは、平均5.5、標準偏差2 になるように物差しをずらしたものです。1~10の10段階で示されます。
偏差値とは、平均50、標準偏差10になるようにしたもので、20~80の値で示されます。
それぞれ計算式は以下の通りです。

標準点 =(点数-平均)/標準偏差*2+5.5
偏差値 =(点数-平均)/標準偏差*10+50

標準得点の計算式に、標準点であれば2(標準偏差)をかけて、5.5(平均)を足すことによって、平均を0から5.5、標準偏差を1から2にずらしています。

先ほどの2パターンの基準母集団を用いて標準点と偏差値に変換してみましょう。
*計算後の値は四捨五入して小数点以下第2位まで表示

▼ クラス平均70点、標準偏差15の場合
標準点
80点をとった人 ・・・ (80-70)/15*2+5.5=6.83
70点(平均)をとった人 ・・・ (70-70)/15*2+5.5=5.50

偏差値
80点をとった人 ・・・ (80-70)/15*10+50=56.67
70点(平均)をとった人 ・・・ (70-70)/15*10+50=50.00

▼ クラス平均48点、標準偏差15の場合
標準点
80点をとった人 ・・・ (80-48)/15*2+5.5=9.77
48点(平均)をとった人 ・・・ (48-48)/15*2+5.5=5.50

偏差値
80点をとった人 … (80-48)/15*10+50=71.33
48点(平均)をとった人 … (48-48)/15*10+50=50.00

標準点と偏差値の出現率

当社の実際のアセスメント結果では、小数点以下の値は四捨五入などの処理をして整数として示しています。また、基準母集団によっては、例えば標準点であっても10以上の値が算出される可能性もありますが、10以上はすべて10として取り扱っています。

標準点と偏差値の出現率の分布は以下の通りです。



このように、同じ「80点」であっても、比較する集団によって相対的な位置が異なります。
例えば当社のパーソナリティ検査OPQでは、基準母集団を「成人一般」としています。「世の中の成人一般と比較した場合にどの位置にいるのか」を知ることができるのが、当社のアセスメントを導入いただくメリットの1つとなっています。

標準得点、標準点、偏差値についての理解が深まり、アセスメントサービスの結果解釈の参考となれば幸いです。

近年、企業の人事部門では、データ駆動型の意思決定がますます重要視されています。その中でも、ピープルアナリティクス(人材分析)は、組織の人的資本を最大限に活用するために欠かせない手法として注目されています。当社では過去数十年にわたって、様々な企業の人事課題についてアセスメントデータを活用して分析してきました。本コラムでは、目的別におすすめの分析手法をご紹介いたします。

目的:退職者の特徴を把握したい

分析手法:「t検定」と「決定木(Decision Tree)」

退職者の特徴を把握することは、人事部門にとって重要な課題です。採用した人が活躍する前に退職してしまう場合、採用にかけたコストが無駄になってしまいます。また、中堅層が退職する場合、経験を充分に積んだグループにとってその企業が働く場としての魅力を失ってしまっている可能性があります。いずれの場合においても、退職者がどのような特徴を持っているかを定量的に把握することは重要です。この目的におすすめの分析手法はt検定と決定木(Decision Tree)です。

t検定は、様々な変数において2つの集団の平均値の差に統計的な意味があるかどうかを調べるための手法です。例えば、早期退職者と在職者のパーソナリティ検査の得点を比較することで、どういうパーソナリティの特徴を持っている人が定着しにくいのかを把握することができます。

ただし、退職の理由が様々あるように、退職問題は複雑な要因が絡み合っています。t検定のような単純な手法では明確な特徴が発見されない場合があります。そんな時に、「決定木(Decision Tree)」と呼ばれる手法を用いると複数の退職者タイプやパターンが発見できる場合があります。この手法を用いると、分析結果として得られたタイプの中から、Aタイプは採用問題として見極めを強化しよう、Bタイプはむしろ配属問題として適切な配置をすることで改善しようなど、タイプ別の対応を検討できるようになります。

目的:成果を上げるために必要な資質を特定したい

分析手法:「相関分析」と「分散分析」

組織の業績を向上させるためには、その組織や職務で成果を上げるために必要な資質やスキルを正確に把握することが不可欠です。この目的におすすめの分析手法は相関分析と分散分析です。

相関分析は、複数の変数間の関連性を調べる手法です。業績と関連する要因を特定するために、例えば社員の人事考課点とパーソナリティデータの相関分析を行うことがあります。相関関係を持つパーソナリティ因子を特定することで、採用・育成の指針作りに役立つでしょう。

分散分析は、複数のグループ間の平均値の違いを比較するための手法です。例えば、優秀なパフォーマンスを示すグループと中程度のパフォーマンスグループ、要努力のグループとの間で、どのような特徴の違いがあるかを調査します。これにより、相関分析では把握できなかった各グループがどの程度の得点域なのかを可視化できます。

目的:組織の特徴を把握したい

分析手法:「z検定」と「クラスター分析」

組織全体の傾向や特徴を把握することは、人事戦略の立案において重要な要素です。この目的におすすめの分析手法はz検定とクラスター分析です。

z検定は、対象となる集団の平均値と母集団の平均値の差に意味があるかを検定する方法です。アセスメントデータなどの標準化されたデータの場合、母集団とは比較対象集団を指しており、その平均値は偏差値であれば常に50となります。分析対象の組織が集団としてどのような特徴なのかを、一般的な集団と比較することで明らかにすることができます。自社には色々な人がいるが、自社らしさのようなものを一言で表したい場合にこうした分析結果を参考にすると良いでしょう。

一方で、自社にも色々な性質の人がいるので、いくつかのタイプに分けて従業員の特徴を把握したいという場合もあります。その場合は、クラスター分析という手法がおすすめです。クラスター分析は、いろいろな性質のものが混ざった集団の中から、似たものを集めていくつかの集団(クラスター)に分割する手法です。分割されたクラスターの比率を部署や組織ごとに算出し、比較することで人材タイプの偏りを把握する事が可能です。また、人材タイプの比率を経年で比較すると、事業の成長フェーズに合わせた適切な人材のポートフォリオになっているかをチェックするような活用も可能です。

終わりに

ピープルアナリティクスは、組織の人的資本を最大限に活用するために必要な手法です。退職者の特徴把握や業績に必要な資質の特定、組織の傾向把握、人材ポートフォリオの作成といった様々な目的に対して、適切な分析手法を活用することが重要です。科学的な人事運用の一助になれば幸いです。

はじめに

サクセッションプランは、重要なポジションや役職の後継者の育成や人材配置を計画的に行うための人事施策です。これにより、経営者や重要ポストの円滑な移行が可能となります。サクセッションプランの導入は継続的なリーダー育成と組織の持続的発展に貢献します。例えば、経営者や要職に就く者の予期せぬ退職があった場合でも、適切な後継者をスムーズに配置できます。また、サクセッションプランは、一連の取り組み(後継者の特定、スキルや経験を獲得するための育成プログラム、キーポストへの戦略的配置)により従業員の意欲とエンゲージメントを高める効果もあります。
現在、日本では一部の大手企業やグローバル企業しかこの施策を導入していませんが、VUCA時代の今般、従来の人材登用ではこの環境を勝ち抜くリーダーを作ることは難しいとの認識のもと、多くの日本企業がサクセッションプランの導入を検討しています。
本コラムはサクセッションプランについて述べます。

サクセッションプランの必要性

SHLはサクセッションプランを「トップリーダーの職責を担う人材を特定し、準備するための組織戦略」と定義しています。
毎年10~15%の企業でCEOが交代しています。企業は少なくとも2~3年前から複数のCEO後任候補を決め、円滑な交代のための準備に入らなければなりません。大手上場企業2,500社を対象としたグローバルな調査から、CEOの後任探しが難航した企業は平均18億ドルの株主価値を失うこと、CEO指名に時間がかかるほど業績が悪化すること、がはっきりしているからです。加えて新任CEOの40%が就任後1年半は目標達成に失敗するという推計もあり、トップリーダーの選抜はより難しくなっています。
世界中をみてもサクセッションプランがうまくいっている会社は多くありません。2021年の調査で自社に優秀な後継人材がいると回答した企業は11%だけでした。それなら社外から採用すればよいと考えるかもしれませんが、その方法はより困難です。社外人材の採用は社内人材の登用に比べコストが高く、成功率も低くなります。
サクセッションプランはあらゆる企業にとって重要なタレントマネジメント施策であることがお分かりいただけたと思います。

誰をサクセッションプランの対象にするか

サクセッションプランは上級幹部にのみ行う施策ではありません。全従業員のパフォーマンスとポテンシャルに関する客観的なデータを用いて行う全社的な施策です。部長と執行役員だけを対象にするのでは遅すぎます。より早期に後継人材を識別し、育成とストレッチアサイメントを与えます。そうしなければ、多様な優秀人材がいなくなってしまうからです。

多様性の現状

経営幹部の女性比率が高い企業ほど収益性が高く、社会的責任を果たし、安全で質の高い顧客体験を提供しているという調査があります。成功する組織には多様なリーダーシップが必要なのです。
600社25万人以上を対象にした調査「Women in the Workplace 2020」では、女性は男性の85%しか昇進しておらず、マネジャーの割合は女性38%、男性62%となっています。このデータを見ると女性よりも男性の方が優れたリーダーになる可能性が高いと考えてしまいます。しかし、実際は多くのリーダーシップコンピテンシーにおいて女性の方が男性よりも優れていることが証明されています。
女性も男性同様リーダーシップを発揮するとわかっているのに、なぜ同じ割合で昇進していないのでしょうか。それは、誰を昇進させるか、誰に高いポテンシャルがあり、最終的に誰が最高のリーダーになれるかについて、多くの企業が主観的で偏った意見に頼っているからです。

データアナリティクスの重要性

主観的で偏った意見を補正するためにはデータアナリティクスが必要です。多くの人事責任者がこの意見に賛同しています。2022年CHROが投資するトレンド第1位はデータアナリティクスでした。
また、退職者が相次いでいる昨今、会社全体でどのように人材を確保し、将来の役割のための人材パイプラインを構築するかを考える上でもデータアナリティクスは必要です。

コンテクストとは

コンテクストとは文脈のこと。文脈とはリーダーが活動する環境全般を示す言葉です。ちょうどよい日本語訳がないため、ここではカタカナのコンテクストを用います。
SHLはコンテクストの構成要素を役割、チーム、組織、外部環境の4つと捉えています。例えば、外部環境は働く国や業界、組織はビジネスの優先順位や組織構造、チームはチームメンバーの能力や価値観、役割は職務内容などを表します。
この4つの違いによりリーダーはそれぞれ異なるコンテクストで仕事をすることとなり、コンテクストはリーダーが対処しなければならない課題を規定します。

なぜコンテクストがリーダーの成功に重要なのか

今、私たちは不確かな時代を生きています。
SHLは、この不確かな時代のリーダーを成功に導くものを明らかにするため、グローバルリーダー9,000名に対する3年間の調査を行いました。そこで発見したものがコンテクストです。約300個のコンテクストのうちリーダーに重要なものが27個あるとわかりました。そして、この27個をコンテクスト課題として定義し、個人属性とコンテクスト課題との関係を分析しました。その結果、個人属性(知能、パーソナリティ、コンピテンシー等)とコンテクスト課題との適合度を定量的に把握できるようになり、リーダーの成功を予測する力を4倍以上高めることができました。
リーダーは自分の特性に適した課題に対して能力を発揮できるのです。すべてのコンテクストに求められる共通のコンピテンシーは存在しません。求められるコンピテンシーはコンテクスト課題によって異なります。リーダーの成功はコンテクスト課題における適材適所によって促進できます。

終わりに

この研究を踏まえて、適切なサクセッションプランを導入するには何をすればよいでしょうか。
まずは、全従業員のパフォーマンスとポテンシャルを客観的に表すデータをもってください。パフォーマンスに関するデータは、業績評価、行動評価、360度評価、職務経験、保有資格、受講した研修などがあります。ポテンシャルに関するデータは、知的能力、パーソナリティ、モチベーション、価値観などアセスメントを用いるものが中心です。これらの情報による客観的な早期の後継者選抜が最初の取り組みです。コンテクストを活用した後継人材の選抜については、Mobilize Solutionを用いることで可能となります。詳細はMobilize Solutionをご覧ください。

コロナ禍の影響により、職場の環境は大きく変化しました。オンライン化が進んだことで、人間関係の築き方や業務の進め方、さらには業務外のコミュニケーションなど、あらゆる側面において以前とは異なる新しい方法が加わりました。
このような状況下で、『理由の分からない若手社員の退職』という問題に直面している人事担当者様も多いのではないでしょうか。この問題の背景には、若手社員のストレス要因が潜んでいるかもしれません。

ストレス耐性を測定する意義

「でも入社時の適性テストではストレス耐性が強かったよ」「面接でハキハキ受け答えをしていて問題なかったよ」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、それこそがストレス耐性を見極めるときの落とし穴なのです。
採用時に応募者のストレス耐性を確認する企業が多いですが、実際には人によってストレスを感じる要因や程度は異なるため、面接で正しくストレス耐性を見極めるのは簡単なことではありません。
「上司の指示のもとで業務遂行すること」にストレスを感じる人もいれば「1人で決定して業務遂行すること」がストレスになる人もいます。

ストレス耐性リポート

パーソナリティ検査OPQ「ストレス耐性リポート」は、受検者がどのような要因にストレスを感じやすいかを予測します。受検者はOPQの質問に回答します。質問内容は職務上のパーソナリティについて尋ねるものであり、ストレスに特化したものではありません。ですので受検者に「ストレス耐性を測定されている」といった心理的な負荷をかけることなく実施できます。
また、既に採用選考などの別の目的でOPQを受検している方については、再度受検することなくオプションリポートとして出力できます。

このリポートには、受検者のパーソナリティから予測された以下の要素が記載されています。
・仕事上でストレスに感じやすい環境や条件(ストレッサー)
・得意なストレス対処法(ストレスコーピングのスタイル)

具体的な活用場面

1.採用
採用選考時にストレス耐性リポートを活用することで、組織や仕事に馴染むかなどの採用リスクの可能性を把握できます。ただし、活用にあたっては 募集職務のストレス要因を特定する必要があります。

ストレス耐性リポートには「職場におけるストレス要因 チェックシート」が付属しており、ストレス要因を特定するためのアンケート調査にご活用いただけます。手順は以下の通りです。
・「職場におけるストレス要因 チェックシート」をアンケート対象者に配付する。
・アンケート対象者がチェックシートに回答する。
・回答後のチェックシートを回収し、結果を「職場におけるストレス要因 チェック集計シート 」に入力、集計する。
・得点の高い項目に注目して、その職場におけるストレス要因を特定する。

職場におけるストレス要因を特定することで、ストレス耐性リポートのどの項目に注目すべきかが明確になります。

2. 入社後フォロー
■本人へのフィードバック
受検者に結果をフィードバックすることで、受検者自身がストレスを感じやすい要因についての理解を深めることができ、ストレス要因にどう対処するかを検討できるようになります。
フィードバックの進め方や注意点は、無料ダウンロード資料「パーソナリティ検査のフィードバック実施の手引きハンドブック」に詳しく記載されていますので参考にしてください。

また、ストレス耐性リポートをフィードバックする際に特に注意していただきたい点は以下の3点です。

・「ストレス」について話しにくい受検者がいることを考慮し、必ずラポール(共感、或いは信頼関係)を形成する。はじめに一定の時間をかけて、和やかな雰囲気作りを行う。
・リポートに記載されている「ストレス要因」の定義を、受検者に正確に伝える。
・決めつけるような話し方を避け、受検者の話に耳を傾ける。


■上司へのフィードバック
ストレス耐性リポートを配属先の上司と共有することで、仕事の与え方を検討したり、職場環境を変える必要性を検討したりすることができます。
部下が苦手なストレス要因を把握すれば、上司はそのことを踏まえて育成できます。特に、初任配属後、異動前後、昇格前後といった社員の環境が大きく変わるタイミングで実施すると有益です。

3.追跡データ分析
ストレス耐性リポートを用いた社員データの分析によって、退職者傾向の把握しようとする取り組みを行う企業があります。退職が必ずしもストレスによって発生するわけではありませんが、社員のストレッサーと退職との間の相関を調べることが組織風土の改革、マネジメントや採用の改善につながるケースもあります。

終わりに

昨今、「理由の分からない退職」や「ストレス要因による退職」に関するご相談が増えています。そこで、今回はストレス要因の特定と結果の活用方法についてご紹介いたしました。
繰り返しになりますが、何にストレスを感じるかは一人ひとり異なるため、個別のストレス要因を把握し、個人と企業が双方で認識することが大切です。ぜひ、人材可視化の一つの材料として活用頂けますと幸いです。
ストレス耐性リポートにご関心がある方は、無料ダウンロード資料「ストレス耐性リポートのご案内 」をご覧ください。

今、話題沸騰中のChatGPT。あらゆる業務を効率化できるツールとして、様々な分野での活用がはじまっています。本コラムでは、ChatGPTが人事業務をどのように改善できるかについて、その可能性を考えていきます。

ChatGPTとは

ChatGPTは、OpenAIが開発した人工知能技術を用いた自然言語処理のモデルです。大量のテキストデータを学習し、人間と同様の言語理解能力を備えています。ChatGPTは、テキストベースの対話システムとして利用され、自動的に情報を取得し、言語による対話を展開することができます。例えば、カスタマーサポートや言語翻訳などの分野で利用され、人と同様の自然な対話を可能にすることで、多くの人々にとって便利なツールとなっています。

何ができるのか

ChatGPTは、テキストデータを学習して文章の作成、要約、修正などを行います。対話システムでの自然な応答が得意です。また、Web上のテキストデータから、数十億もの単語を収集し、自然言語処理のためのデータセットとニューラルネットワークを構築し、自然言語処理のモデルをトレーニングします。多様な分野の知識を持つことができます。

人事の仕事をどのように改善できるか

ChatGPTが言葉をうまく扱い文章を作成できることはわかりました。ここでChatGPTに人事の仕事をどのように改善できるかをたずねると、以下の返答がありました。

1.応募者のスクリーニング:ChatGPTは、大量の履歴書やカバーレターを自動的に分析し、最適な候補者をスクリーニングすることができます。このため、人事担当者は時間と手間をかけて応募者を個別に評価する必要がなくなります。

2.面接の自動化:ChatGPTを用いると、面接の一部を自動化することができます。例えば、ChatGPTを使用して自動的に質問を作成し、応募者の回答を分析することができます。これにより、人事担当者の負担を減らすことができます。

3.従業員のトレーニング:ChatGPTは、従業員のトレーニングにも使用されています。例えば、ChatGPTを使用して自動的にトレーニング資料を作成することができます。また、ChatGPTを使用して従業員が質問に対する回答を学習することができます。

4.パフォーマンス評価の改善:ChatGPTを使用することで、従業員のパフォーマンスを自動的に評価することができます。これにより、人事担当者がより正確かつ公正に評価を行うことができます。

これらの方法により、ChatGPTは人事の仕事を効率的に改善することができます。

このようにChatGPTは回答しましたが、これは私の質問に対して自然な文章で答えたにすぎませんので、ひとつひとつ内容を吟味してみましょう。

本当に業務改善につながるか

1.人材選抜における応募者のスクリーニング
履歴書やエントリーシートのテキストを自動で読み込み評価する仕組みは以前からありました。2000年にリリースした当社初のオンラインアセスメントツール玉手箱にも履歴情報として自由に記述されたテキストを読み込み自動評価する機能を搭載していました。ChatGPTは無料で使える汎用的なツールですので、自由記述の自動評価がより一般的になっていくだろうと考えられます。

2.面接における質問と評価の自動化
ChatGPTは人との自然な会話が得意ですので、応募者に適した面接質問を作り、質問に対する回答から次の質問を作ることはできます。この際に重要なのは面接で応募者のどのような能力、適性、スキル、コンピテンシーなどを評価するかです。面接基準についてのインプットがなければ適切な評価はできません。面接基準をChatGPTに作成させることも可能ですが、そこで作られた面接基準が本当に適切なものかについては人による判断が不可欠です。また、ChatGPTが正しい評価すると信じるのは非常に危険です。AIは本当の意味で人の評価をしているわけではないということを忘れずに、評価結果とその根拠となる情報を人の目で確認する必要があります。

3.トレーニング資料の自動作成
トレーニング資料をChatGPTに作らせるのはよい使い方です。GPT4では、手書きの情報を読み取り、そのままの形でhtmlを書くことができるようになりました。Eラーニングのコンテンツを作らせることもできると思います。

4.パフォーマンス評価の改善
従業員のパフォーマンス評価を自動化するには、評価の対象となる情報が必要です。ChatGPTに読み込ませるための評価に関する情報の収集とその整理を人がするのであれば、敢えてChatGPTに評価をさせるまでもなく人が評価したほうが早く効率的です。評価をする際に最も時間がかかるのは、評価関連情報の収集です。情報収集はChatGPTに任せることができないとすれば、評価に関する業務改善は期待できません。

おわりに

ChatGPTは誰もが使えるAIとして画期的なツールです。発展途上の道具はどのようなものであっても注意して使わなければいけませんが、使わない人と使う人との間には大きな生産性の格差が生まれてしまうでしょう。
人事の仕事は多くの個人情報や機密情報を扱う仕事ですので、安全に十分配慮して新しい道具の新しい使い方を発明していただきたいと思います。私も試行錯誤を続けていきます。

2022年は人事やリーダーにとって厳しい年でした。世界中の企業が高い離職率に悩まされ、新しい人材を見つけ採用するのに苦労しました。リモートワークやハイブリッドワークが継続し、無理せず最低限の仕事をする人が増えました。また、多くの人がメンタルヘルスの問題を抱え、より良いワークライフバランスへのニーズが高まりました。

今後もこのような傾向は継続するのでしょうか。新たにどのような変化が予想されるでしょうか。

本コラムでは、SHLグループのe-Book「Navigating People Strategy in 2023」を一部抜粋し、2023 年に注目すべき人材トレンドのトップ 5 をご紹介します。

1.トップ人材が辞める傾向は続く

優秀な人材には常にチャンスがあり、不況の時であっても組織を去ることができる選択肢があります。退職は組織にとって大きな損失となり、トップ人材の定着は人事にとって非常に重要です。

・人事リーダーの46%が、採用は2023年の最大の優先事項だと回答している¹
・人事リーダーの50%が、今後6カ月間、人材獲得競争が激しくなると予測している¹
・52%の従業員は組織に留まるかどうかに柔軟な勤務形態が影響すると回答している¹
・80%の従業員は給与がインフレに追いついていないと回答している(SHRM)


では何をすべき?給与アップ?
もちろん、給与や勤務形態は重要な要素ですが、トップ人材が退職する理由の1位はキャリアアップや成長のためです。そのため、人事はまず、誰がトップ人材であるか、彼らがどのような仕事に取り組むことで成長することを望んでいるのかを把握することが重要です。トップ人材のリテンションを維持するためには、組織が彼らの成長と発展を促進するような仕組みを整える必要があります。

2.燃え尽き症候群が増えている

Gallup社によると、従業員の76%が燃え尽き症候群に陥っており、SHLのデータでもパンデミック前よりも全体的にレジリエンスが低下していることが報告されています。さらに、経済的な不安が広がる中、燃え尽き症候群に陥りやすくなっている状況にあります。これは事業活動にも大きな影響を与える可能性があるため、注意が必要です。

マネジャーやリーダー、そして人事はチームメンバーをより深く理解し、彼らが仕事上の何によって動機づけられるのかを確認することが大切です。従業員を支援するためにはマネジャーやリーダーの存在が非常に重要ですが、その一方で彼らが過度に負担を感じてしまわないよう注意することも忘れてはいけません。人事は彼ら自身が燃え尽き症候群の犠牲者とならないように注意する必要があります。

・70%の企業が新たな福利厚生を採用したり、既存の福利厚生を拡充したりしている¹
・人事リーダーの45%が従業員は変化によって疲弊していると回答している¹

3.従業員中心のアプローチへの移行は続く

どの組織でも従業員は最も重要な顧客です。彼らは自由に組織を去ることができます。そのため、組織は従業員にとって魅力的な仕事を提供し続けなければいけません。しかし、産業革命以来、多くの組織で従業員は十分に扱われず、企業はやる気のない、生産性の低い労働力や高い退職率に悩まされてきました。従業員中心のアプローチをとることで、組織は従業員が仕事に何を求めているかを理解し、それを提供する意味のある仕事と職場を作り上げることができます。

SHLの調査によると、従業員はより良いワークライフバランスを求めつつ、目的とつながりによって動機づけられます。リモートワークやハイブリッドワークが増える中、人事には、従業員が仕事に何を求めているかを理解し、目的をどのように伝えるべきかを検討するためのデータが必要です。

・82%の従業員が、単に従業員としてではなく1人の人間として見ることが重要だと回答している¹
・53%の従業員が、組織に彼らが気にかけていることに対して行動を起こしてほしいと回答している¹

4.育成、流動性、リテンションがより重要に

2023年はコスト削減の圧力が高まり、人事戦略の重要性が増します。今いる人材でより多くの仕事をしなければなりません。成功のためには、全従業員の人事データが必要不可欠です。全従業員に能力開発のためのフィードバックと計画立案の機会を提供し、従業員主導の能力開発計画を作ります。重大なスキルギャップを埋めるためには、必要な人材要件を定義し、組織の中からその要件に合致する人材を探す必要があります。例えば、次の営業のスター社員はカスタマーサービスの担当者の中にいるかもしれません。事業がうまく行くだけでなく、従業員が成長を実感することで、リテンションにも大きく貢献します。

・人事リーダーの44%が、組織には魅力的なキャリアパスがないと考えている¹
・人事リーダーの47%が、内部人材の育成が2023年の最優先事項の1つだと回答している¹
・人事リーダーの24%が、現在のリーダー育成のアプローチでは将来に向けたリーダーを準備できていないと回答している¹
・人事リーダーの36%が、採用戦略が不十分で必要な人材を見つけることができていないと回答している¹

5.採用とタレントマネジメントが一体化する

多くの企業で、採用とタレントマネジメントは別々に動いており、それぞれ異なるプロセスやシステム、データセットを持っていました。これによって生じる非効率や一貫性の欠如は、つい最近までは容認されていました。
経済的な制約が非常に大きい中で、事業の目標を達成するためには、採用とタレントマネジメントを連動させる必要があります。採用凍結が行われている状況では、人事は組織内の人材を有効活用し、現在のスキルギャップを埋めると同時に将来に向けてスキルを開発しなくてはなりません。人材の管理・育成・リテンションのために、情報やプロセス、戦略やデータを共有することが必要です。

おわりに

上述のトレンドを踏まえ、人事戦略を立案するためには、正確で意味のあるデータが必要です。データがあれば、以下のような疑問に答えることができます。
・事業戦略を実行できる人材が組織内にいるか
・スキル、人材、リーダーシップの重大なギャップはどこにあるのか
・もしも事業戦略が変化したとき、人事戦略にどのような影響があるか
・退職率はどこで問題になっており、それはなぜなのか
・将来必要となるスキルや役割に向けて、従業員を育成しているか

2023年も、データとピープルアナリティクスの重要性はさらに高まるでしょう。SHLグループではMobilizeと呼ばれる、人材データを統合・分析し、迅速に必要な知見を得ることができるソリューションを展開しています。ご興味のある方はこちらでデモ動画(英語) を確認いただけます。

¹Gartner: Top 5 Priorities for HR Leaders in 2023

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このコラムでは、筆者がパーソナリティ検査の解釈をする際に意識しているポイントをご紹介します。

ポイント①各項目の測定内容を理解する

項目名からの曖昧なイメージで解釈すると、適切な人物理解に繋がらないケースが多々あります。質問紙法のパーソナリティ検査では、各項目の定義や高得点者・低得点者の特徴が明文化されています。測定したい特徴を定義しないと測定が難しいからです。定義を踏まえて何を測定しているかを正しく理解すると、誤解が減ります。
テストの取扱説明書にその項目を測定するための質問例が開示されていることがあります。質問例は測定結果を理解するためにとても重要な情報ですので、開示されている場合は確認してみましょう。

また次のような事を試すと、測定項目を理解するうえで効果的です。
1. 自分が人柄を知っているグループの検査結果をたくさん準備する(できれば数十件)。
2. 項目ごとに「高得点グループ」と「低得点グループ」を抽出して、各グループを見比べる。
3. 定義から外れない範囲で、2つの集団の違いを言語化してみる。

一人ひとりだとイメージが湧かない場合も、集団としてみるとどういう特徴を測定しているかのイメージがつかめます。

ポイント②項目を組み合わせて解釈する

複数の項目を組み合わせて解釈すると立体的に人物像を言語化できます。例えば、「よく考える」特徴を持っている人がいたとして、「計画的に仕事を進める」という項目も高い場合は「長期的視野に立って、じっくりと考えながら仕事を進めるのを好む」という解釈になります。同時に「フットワークが軽い」という項目が高かった場合は「長期的な視点でよく考えながらも、自分の仮説をぶつけながら情報収集する」という解釈も成立します。
このように、単一項目だけよりも複数項目を組み合わせて解釈するほうが、人物像が鮮明になります。一方で、項目を組み合わせて適切に解釈するには経験が必要です。
その場合、なるべく身近な人の測定結果を、次のような手順で解釈することから始めるのがおススメです。

1. 測定結果を見ずに、普段の行動を書き出す。
2. 書き出した行動が測定結果のどのあたりに現れているかを複数ピックアップする。
3. ピックアップした項目を組み合わせて改めて解釈してみる。

ポイント③ギャップや矛盾を感じる部分を見つける

項目を組み合わせて解釈していくと、一部ギャップや矛盾を感じる部分が出てくる場合があります。例えば、「人に指示を出す行動は頻繁にとるのに、人を説得することは苦手である」という結果です。指示を出すのも、説得するのも影響力を行使する行動ですので一般的には同じような結果(両方とも高得点もしくは低得点)になりやすいのですが、そうではない場合はその人特有の経験や考え方が反映されている部分かもしれません。なぜそのような結果になったのかまでは分かりませんが、そこに着目して対話すると思わぬエピソードを聞けるかもしれません。
ギャップや矛盾について気づくためのヒントとして、項目間の相関関係についてトレーニングコースの中でお伝えしています。これらの情報をヒントに前述のようなトレーニングを繰り返すことで、自然とギャップに気づくようになります。

終わりに

パーソナリティ検査の結果は自己申告の結果のため、周囲の人の印象と必ずしも一致するとは限りません。ただし、本人の認識を投影しているという意味では一つの事実情報です。解釈するにあたっては、結果データを仮説として取り扱う姿勢が求められます。それを基に対話し、異なる情報が出てきたら、検査結果と実際の行動のギャップを深堀してみると良いでしょう。本人が思わぬ努力をしている場合もあるかもしれません。フィードバック面談の進め方については、詳細な手順を示したハンドブックを用意していますので併せてご参照ください。是非、結果を基に対話することで解像度の高い人物理解が為されることを願っています。 事業変革やデジタル化が進む現代において、IT人材の獲得が難しくなっているのは言うまでもありません。IT人材に求められるスキルや能力が凄まじいスピードで変化している中で、顕在化した能力での選抜は果たして有効なのでしょうか。

近年、社内で活躍しているエンジニアを、ソフトウェアエンジニアとしてリスキルする企業が増えています。既に活躍しているエンジニアだとしても、例えばハードウェアエンジニアとソフトウェアエンジニアでは活躍人材の特徴は異なることが考えられます。

本コラムでは、IT人材の顕在化したスキル・能力・経験と潜在的な特徴(コンピテンシーやパーソナリティなど)の関係性について調査した事例をご紹介します。

※本コラムは2022年9月開催の第37回産業組織心理学会で発表した内容を一部抜粋しています。

調査概要

IT関連業務に従事している682名に「アンケート」と「アセスメント」を実施しました。加えて、協力企業にご提供いただいた各受検者のスキルレベル情報も使用して、統計分析を行いました。

■アンケート項目
・現在、過去、今後の職務におけるコーディング有無の度合い(各4段階)
・現在、過去、今後の職務におけるハードウェア/ソフトウェアの度合い(各4段階)
・IT関連資格保持の有無
■アセスメント
日本エス・エイチ・エル株式会社のWebCAB
(知的能力テスト4科目とパーソナリティ質問紙OPQ1科目の計5科目)
※WebCABの詳細についてはコラム「IT人材の適性」 をご確認ください。
■スキルレベル
IPA(情報処理推進機構)が定義している7段階のスキルレベル(詳細はこちら

結果1:IT関連資格“取得者”のほうが、知的能力が高い。

IT関連資格の登竜門である「基本情報技術者試験」「応用情報技術者試験」の取得者と未取得者を比較したところ、資格取得者のほうが明らかに知的能力科目の得点が高い傾向がありました。
ただ、資格試験はあくまで事前学習によって得た知識を適切に回答する問題が多く出題され、今回実施した知的能力科目とは測定能力が異なります。

そのため、「知的能力科目が高得点の場合は資格が取得できる」というよりも、「知的能力科目が低得点の場合は資格取得が難しい可能性がある」と解釈するほうが適切かもしれません。

結果2:他集団と比較して、対人的に控えめで具体的なことに関心を持つ傾向がある。

ここからは、コーディングを行うソフトウェアエンジニア職に就いている方の、性格的な特徴を調査した結果です。

■基準母集団との比較
当社の基準母集団(一般的な集団、平均が5.5)と比較して、人と関わる際には控えめで、具体的なことやデータに関心がある。また、実績のある確実な方法を取ることを好み、物事がうまく行くかどうかを心配する傾向があります。

■コーディングを行うハードウェアエンジニアとの比較
より強い自分の意見を持ち、対人的に控えめで、周りからはマイペースに見える傾向がありました。

結果3:高スキルレベル集団は、比較的行動力があり、目標に向かって努力する傾向がある。

高スキルレベル集団(レベル4以上)は、その他の集団(レベル3以下)と比較して、既にある方法を好まず、感情を抑えすぎない。また、比較的行動力があり、目標に向かって努力する傾向が見られました。

おわりに

今回の調査では、IT人材はポテンシャルの観点で一般的な集団と明らかな違いがあること、ソフトウェアエンジニアとハードウェアエンジニアの性格的な特徴が異なることがわかりました。知的能力や性格的な特徴といったポテンシャルを踏まえて選抜や育成をすることが必要なのではないでしょうか。今回の調査ではサンプル数が少なく集計ができなかった職種もあり、今後も検証を続けていく必要があります。
ご協力頂ける企業があれば、ご連絡をください。ぜひ一緒に検証しましょう。