ハイポテンシャル人材とは高い潜在能力を持っている人材のこと。とりわけ、タレントマネジメントの文脈においては経営や事業のリーダーとなるために必要な高い潜在能力を持つ人のことを表します。

近年、日本企業の人事担当者の間でハイポテンシャル人材やハイポテンシャル人材プログラムという言葉が頻繁に聞かれるようになりました。今までのやり方では、組織のリーダーを育てることができないと考えるようになったからです。要因はビジネスのグローバル化とデジタル化です。経営・事業環境が急激にかつてない速度で変化しています。そして、新型コロナウイルスのパンデミックはその速度に拍車をかけました。

日本型雇用システムに最適化した幹部育成の仕組みでは、世界中にいる社員からグローバルリーダー候補を見つけたり、VUCAの時代の経営をかじ取りするグローバルリーダーを育てたりすることが困難になってきたのです。

本コラムでは、3回に分けてハイポテンシャル人材およびハイポテンシャル人材プログラムについて述べていきます。効果的なプログラム設計・運営の参考にしていただければ幸いです。

ハイポテンシャル人材プログラムの現状

SHLが行ったハイポテンシャル人材プログラムに関する世界的な調査から以下のことがわかりました。

・プログラムの73%はビジネス成果につながっていない。
・約50%の企業がハイポテンシャル人材を特定するための体系的な方法を持っていない。
・新たにリーダーとなった人の46%はビジネス目標を達成できない。
・プログラム参加者の55%は5年間以内にハイポテンシャル人材プールから脱落する。
・参加者の64%がプログラムに満足していない。
・プログラムの69%が人材パイプラインを作ることに失敗している。

世界的に見てもハイポテンシャル人材プログラムをうまく進めている会社は少ないことがわかります。では、どのようにすれば失敗を避けることができるのでしょうか。

適切な人材を選ぶことが大切

プログラムが効果的に設計されていても、間違った候補者を選んではよい結果を得ることはできません。多くの会社はハイポテンシャル人材の選抜に失敗しているのです。典型的なハイポテンシャル人材の選抜方法には、能力評価や業績評価、9ボックスが使われています。
しかし、プログラムを実施する会社の約半数はハイポテンシャル人材を特定するための体系的なプロセスを持たず、候補者を業績で選抜しています。これが失敗の原因です。高業績者のうち上位職でも成功する人材は7人に1人しかいません。ハイポテンシャル人材は高業績者の15%しかいないのです。

ハイポテンシャル人材要件

SHLの調査から、上位職で成功する人の共通性は3つあることがわかりました。
一つ目はアスピレーション(上昇志向)、上位職に就きたいという強い志を持っていること。次はアビリティ(能力)、上位職で効果的な判断と行動ができること。最後はエンゲージメント、組織と仕事にコミットして会社にとどまることです。
真のハイポテンシャル人材を正しく選ぶためには、高業績者の中からこれらの特徴を持った人材を識別する必要があります。

これらの要件が欠けている人のリスクについて考えてみましょう。

■リスク1:昇進を拒否する
アビリティ(能力)とエンゲージメントが高く、アスピレーション(上昇志向)が低い「ミスアラインド・スター(ずれてるスター)」は昇進したくないと考えているため、上位職への登用の打診を断られるかもしれません。

■リスク2:仕事ができない
エンゲージメントとアスピレーション(上昇志向)が高く、アビリティ(能力)が低い「エンゲージド・ドリーマー(昇進を夢見る人)」は、今の会社での昇進を強く望んでいますが、組織が求めるスキルを開発できない限り、上位職で成功する確率は低い人です。

■リスク3:辞めてしまう
「アンエンゲージド・スター(エンゲージメントの低いスター)」は、アスピレーション(上昇志向)とアビリティ(能力)が高く、エンゲージメントの低い人のことです。仕事や組織へのコミットメントが弱く、長く会社に留まろうと思っていません。定着しないリスク、競合他社にこの優秀人材を奪われるリスクがあります。


3つのうち1つでも欠けてしまうと上位職で成功する確率が40%未満となります。トップレベルの人材を選び出すためにはすべての要件を客観的に評価することが必要です。
次回は、これら3つについて詳しく解説していきます。

未だ新型コロナウイルス感染症に対する決定的な解決策がない中、我が国も経済活動の再開に舵を切りました。
私たちはこの期間で身に付けた新しい3つの行動習慣、人との間に距離をとる、丹念に手を洗う、外出時にマスクをつける、によって感染への耐力を高めることに成功したといってもよいでしょう。不謹慎な物言いですが、全世界で同時に行われている感染予防能力開発プログラムに参加して、その効果を目の当たりにしているのです。
ひるがえって会社の状況に目を移しましょう。世界的な経済活動の停滞により、業績の悪化、事業撤退や廃業に追い込まれている会社も出始めました。各国政府は異例の支援策を打ち出していますが抜本的な対策は各企業に委ねられています。政府による延命装置のバッテリーが切れる前に、この新しい社会に適応し、成長し続ける組織をどのように作っていくべきかを考えてみましょう。

経験と勘からの脱却

日本型雇用システムではポストごとに職務記述書が作られることはほとんどありません。組織を役割の集合と捉えるのではなく、人の集合と捉えているからです。人が変わると組織の役割も変化するのは日本ではよくあること。このような組織では、客観的にポストに対する適性を評価できないため、人事担当者の経験と勘によって人事異動の決定がなされます。この経験と勘、過去の実績を主な情報源としているため、環境変化には全く歯が立ちません。新しい組織、新しい仕事、新しい顧客、新しい環境に誰が適しているかを判断する術を持たないのです。
コロナ禍以前からその兆候は見られていました。外国人採用の面接がうまくいかない、幹部養成プログラムの参加者を外国人の中からどう選んだらかいいかわからないというお声をよく聞いておりました。まさに経験と勘が働かないことを表しています。このような事態に直面していたグローバル企業は日本国内でのみ通用する経験と勘から抜け出し、新しい戦略に基づく新しい役割とその人材要件を定義し、客観的に人材を評価する手法を導入しました。この手法こそ、この新しい社会に適応する組織を作るためにすべての企業に必要なものなのです。

どのように選ぶか

普遍的な人材選抜の基準は、実績、コンピテンシー、ポテンシャルの3つ。実績は今までの業績や職務成果、コンピテンシーは既に発揮され仕事に生かされている能力・スキル・知識、ポテンシャルは未だ顕在化していない能力・資質です。
この3つのうちポテンシャルを客観的に評価することは最も難しく、多くの会社が苦労しています。ポテンシャルは目に見えないものなのでエビデンスを収集することが極めて難しい。被評価者の上司とさらに上の上司との合議による主観評価が一般的なやり方です。上司が変わると評価も変わるこのやり方が適切と言えるでしょうか。
仕事に求められるポテンシャルは知能、パーソナリティ、意欲、価値観など個人属性によって構成されています。これらの個人属性をアセスメントツールを用いて測定すれば、より客観的なポテンシャル評価が可能となります。

どのように測定するか

どんなアセスメントを用いることが効果的かを考えるうえで参考になる表があります。以下の表を見てください。

この表はアセスメント結果とその後のパフォーマンスの相関を示したものです。最も強い相関がみられるのは知的能力検査と客観面接の組み合わせです。この手法は採用選考で一般的なものです。単体で相関の強いものはワークサンプルテスト、知的能力検査、客観面接と続きます。いずれもよい方法ですが、ワークサンプルテストは作成と採点に手間がかかり、知的能力検査は概念知能しか測れないため領域が狭く、客観面接は評価のばらつきと手間の問題があります。次のパーソナリティ検査はデメリットの少ない方法です。
パーソナリティは職務遂行能力に大きな影響をおよぼしていることが、SHLグループの調査でも明らかになっています。またパーソナリティは安定的で変化しにくいため長くデータを利用できます。

パーソナリティ検査のメリット

パーソナリティ検査をポテンシャル評価に活用することのメリットは3つあります。単体での予測力が高いこと、費用が安価であること、測定領域が広く様々な職務遂行能力を網羅していること。加えて、パーソナリティ検査データは様々な人事施策に活用できます。採用選考はもちろんのこと、配置任用、昇進昇格、能力開発、キャリア開発、早期退職予防や最近では1on1ミーティングを活性化するための資料としての利用も広まっています。また、ピープルアナリティクスのための重要データとして様々な分析がなされています。ハイパフォーマーの傾向、上下関係の相性、チームビルディング、テレワークへの適応等、組織人事における問題の明確化をサポートしています。

終わりに

コロナ後の社会はコロナ前とは異なる社会です。会社はこの変化に適応しなければなりません。そのためには、新しい事業戦略と人事戦略、それを遂行するための新しい組織とそれを担う人が必要なのです。パーソナリティ検査と人材データ分析によって全社員のポテンシャルを効率的に捉えることができれば、未来の組織における適正配置を実現でき、永続的な組織の成長と個人の生産性の向上につながります。

会社概要
  • 世界有数の人材ソリューション・パートナー
  • スイスのチューリッヒに本部
  • Fortune Global 500 にランキング
  • 年間売上高237億ユーロ(2017年度)

アデコ・グループは多様な人材を雇用しています。アデコ・グループのビジョンを前進させるのがリーダーであり、そのリーダーを見つけて能力開発するための適切なアプローチを持つことが会社にとって重要です。自社のプロセスを強化することを通して、アデコグループは顧客により良いアドバイスができるようになり、その専門性を顧客に受け渡すことができます。

アデコ・グループの人事とビジネスリーダーたちはミスマッチを経験していました。フォーマルなプロセスを通してその役割に「適切である」とされた人々と、意思決定者たちが最も適していると感じる人々のミスマッチです。

「ほとんどの会社と同様、我々は、社員の能力や強み、ギャップを見るフォーマルな人材レビュー・プロセスを持っています。しかし、それは紙の上でのものであり、組織の一部でしかやっていませんでした。あるポジションに実際に人を選ぶ、ということになると、完全に主観的で、リーダーの直観に基づいていました。」(コートニー・アブラハム氏(Global  Head of Talent Strategy and Development))

その結果、社外からリーダーを採用することがとても多かったのです。

「階層の次の人を見て、その人がまだ準備できていない、と我々が思えば、社外から採用しました。社外採用に伴うリスクを減らすためには、より早期にリーダーを発見・育成することによってこれを変えなければならない、とわかっていました。」(コートニー氏)

スピードの速い今日の仕事環境ではリーダーの職責の幅が広く複雑になっています。アデコ・グループはそれまでと異なる。より状況に合わせたアプローチを求めました。

上級管理職の能力開発プログラムをどのように高めていけばよいか、SHLに相談しました。
北米の上級管理職100人に対してSHL Leader Edge Solutionが導入され、リーダーが働く特定のコンテキスト(文脈)に合わせて個人の能力開発計画が微調整されました。

そのやり方は、まず、アデコ・グループのリーダーシップ・コンピテンシー・モデルを、SHL Leader Edge Solutionの基盤である27個のチャレンジに対応付けました。次に職務経歴書と一緒にSHL OPQ(Occupational Personality Questionnaire)を使って、
これらチャレンジについてのリーダーの遂行能力を評価しました。

「新しいシステムの最も重要な部分は、それがコンテキストに沿っていることです。我々は、リーダーが新しい役割で直面するであろう最重要チャンレンジ6個を見て、それらを候補者のスキルやコンピテンシー、意欲、キャリアパスと比較しました。それによって、引継ぎが成功するには何が必要かに焦点を当て、それに従って能力開発を仕立てることができました。今では、プロセスの早い段階で人々を能力開発しています。新しい役職で彼らが直面するであろうチャレンジ課題と比べてのスキルギャップについて把握していますので、導入や研修の機会を活用して積極的にコーチングやサポートをしています。」(コートニー氏)

この新しいコンテキストベースのアプローチは、社内人材の異動や昇進への自信を深めることにつながりました。

「グローバルでリーダーのポジションが空いた時、今では必ず最初に社内を探します。我々は社員に対して、特定の状況でその人が成功しそうかどうか、以前よりもはるかに正確なデータを持っています。そのデータを活用して社内候補者と面談します。本人のキャリア志望と合っているかどうかも見ることができ、より自信をもってその人が異動や昇進の準備ができているかを判断できます。」(コートニー氏)

重要な点として、コートニー氏は、この恩恵は社内人材だけでなくビジネス全体に及んでいる、と付け加えました。「社外からの採用では候補者について我々があまりデータを持っていないため、危険が大きいです。また、社内からの昇進のほうが成功する確率が高く結果が早く出るようです。ビジネスや人、競合状況を理解しているからでしょう。」

この成功は継続しそうです。アデコ・グループは現在、この新しいアプローチをビジネスのより多くのところで使っています。フランス、スイス、シンガポールでも来年のグローバル・リーダーシップ・プログラムに参加する人材を見つけるために、コンテキストに注目したアセスメントを導入しつつあります。

リーダーの選抜と育成は古今東西、組織の重要な課題です。本事例で導入されたのはコンテキスト(文脈)に焦点を当てたリーダー育成です。「一般的な」リーダーではなく、ひとりひとりのリーダーに「特有の」チャンレンジ(課題)を見ます。