タレントマネジメントに必要な人材情報は業績、能力、ポテンシャルの3つに分類できます。業績は、査定、人事考課、業績関連情報、職務経験、職歴など。能力は、コンピテンシー評価、スキル評価、保有資格、専門知識、360度評価、研修受講歴、学歴など。ポテンシャルは、知的能力、パーソナリティ、モチベーションリソース、エンゲージメントなどのアセスメントデータです。

これら情報のうち、何をどのように使うかについて、これから導入あるいは改善しようとしているタレントマネジメント施策によります。また、これらデータは単にデータ順に並べ替えるだけではうまく活用できません。データから予測したいことを決め、様々なデータを分析して、見出したい事柄を予測するアルゴリズムを作ります。データ分析によってはじめて活用可能な情報になります。

2冊お勧めの本があります。
大沢武志『心理学的経営』、PHP研究所、1993年。
清水佑三『どうすれば「最強の人事」ができますか』、東洋経済新報社、2003年。
日本のアセスメント業界を牽引したお二人の著書です。古い本ですが、いずれも現在の日本の人事組織の在り方を予言するかのような書籍です。タレントマネジメントの本質がわかります。

SHLが提唱する新しいリーダーシップモデル「エンタープライズ・リーダー」。
従来の変革型リーダーと執行型リーダーに、共創するために必要なネットワーク・リーダーとしてのコンピテンシーを加え、変化の時代を生き抜くリーダーとしてのポテンシャルをとらえます。
本コラムではエンタープライズ・リーダーシップ・レポートをリーダーの能力開発で活用する方法について英国の最新事例をご紹介します。

背景

製造業A社は買収に伴う組織再編で大きな変化を迎えていました。製品の多様化と市場の変化により上級管理職の権限と責任が増大していたため、経営陣は上級管理職の育成に投資することを決め、試験的に国内20人の上級管理職を育成対象者に選びました。
SHLエンタープライズ・リーダーシップに基づく能力開発プログラムを導入した理由は、新しい環境に必要なリーダーシップモデルであり、社内にはこのモデルに該当する人材が少ないと判断したからでした。


能力開発プログラム

育成対象者向けのワークショップを開催し、プログラムの目的とメリット、エンタープライズ・リーダーシップの位置づけを説明しました。
プログラムは4~6回のコーチング・セッションで構成されており、ファシリテータは人材開発チームが行いました。初回のセッションではエンタープライズ・リーダーシップ・レポートをフィードバックし、フォローアップセッションでは行動計画の実行と行動変容にフォーカスしました。
SHLコンサルタントは育成対象者向けのワークショップの共同開催と、ファシリテータに対してレポートを活用するためのトレーニングを実施しました。

ロジスティクス部門長Bさんのケース

ここからは、ある育成対象者を取り上げ、その方とファシリテータとの間で何がなされたかを紹介します。

ファシリテータは初回セッションの前にBさんのエンタープライズ・リーダーシップ・レポートを読み、掘り下げるべき分野を特定しました。
この事前準備で解釈した内容は以下の通りです。

図1:レポートの抜粋トランスフォーメーショナル・リーダーシップ得点


トランスフォーメーショナル・リーダーシップはBさんの強みである可能性は低い。従業員と組織の双方を効果的に動かし、期待以上の成果を上げさせること、 ビジネス全体の意見交換をサポートすること、他部門からのアイデアや情報を取り入れて、自分やチームの仕事の質を向上させることは苦手かもしれない。

図2:レポートの抜粋トランザクショナル・リーダーシップの得点


トランザクショナル・リーダーシップはBさんの強みである可能性が高い。既存のシステムを効果的に動かしチームの優れたパフォーマンスを引き出すこと、業務目標を達成すること、変化やプレッシャーに対処すること、チームの業務遂行をサポートすること、曖昧さや不確実性の中でチームをリードすることを得意とするかもしれない。

図3:レポートの抜粋ネットワーク・リーダーシップの得点


ネットワーク・リーダーシップはBさんの最も強みになりにくい。自律性、エンパワーメント、信頼、共有、協力に基づく職場環境の構築、人的ネットワークの拡大と構築、緊張と対立の戦略的利用によるイノベーション促進、自律的に問題解決と意思決定を促す権限移譲、は苦手である可能性が高い。

導入

初回セッションの導入でファシリテータは以下の質問をしました。質問のねらいはBさんの問題を理解し、アセスメント結果と自己認識の矛盾を確認すること。
Bさんは次のように回答しました。

フィードバック内容

その後、ファシリテータはエンタープライズ・リーダーシップ・モデルについて説明したうえで、上述のリーダーシップ得点3つの解釈を伝え、次の質問をしました。 ・強みと課題について、どのように考えましたか? ・レポートに記述されたことをどの程度認識していましたか? ・納得できない点はありますか?どうしてですか? Bさんは結果に概ね同意しましたが、過去の成果や自身の目標達成のための競争心からリーダーシップに自信があったため、トランスフォーメーショナル・リーダーの結果に驚いていました。その後のディスカッションの要約は以下の通りです。

<トランザクショナル・リーダーシップ>

「分析力」と「手順化能力」は強み、「ストレス耐性」と「チームワーク」は平均的という結果に同意したうえで、タスクに集中し効率を高めることが今までの成功の秘訣であると説明してくれました。

<ネットワーク・リーダーシップ>

ファシリテータが最大の課題は「ネットワークの構築」と「ネットワークの活性化」であるとの仮説をBさんにぶつけ、ディスカッションを進めたところ、これらのコンピテンシー改善に焦点を当てることで合意ができました。 Bさんはこの1年間でレポートラインが増加し、地理的に分散したチームをマネジメントすることになり、新しい市場の顧客を獲得したことが明らかになりました。新しいネットワークの必要性を考えたことは無かったが、現チームは目標達成のための新しいアプローチを見つけるために外部の知見が必要であり、マネジャーに限られていた人脈を活用すべきであったと考えを新たにしました。
Bさんは新しい人間関係構築を好まない性格で、よく知っている人と一緒にいるのを好むと明かしてくれました。

<トランスフォーメーショナル・リーダーシップ>

「完遂エネルギー」が強みである点はBさんの見解と一致していました。一方、「対人積極性」が強みになりにくいことに驚いていました。プレゼンは常に好評で顧客との交渉も成功してきたと自負を持っていました。この点について掘り下げていくと、Bさんはプレゼンや交渉の前に十分な準備をしており、「その場の状況に応じて」あるいは「完全に新しいステークホルダーに対して」重要なプレゼンテーションや交渉を行うことは心地よいものとは思っていなかったと振り返りました。自然にできるようになったのではなく、訓練により対処法を身につけたと結論づけました。

<結論>

セッションの最終段階として、現在の職務の中で成長するための有意義な開発計画に合意しました。セッションから、Bさんは成果を重視し目標達成に熱心であることが明らかになりました。チームと良好な関係を築いていましたが、新たなネットワークを作り活用する必要がありました。また、チームの調和を図るだけでなく、アイデアを刺激するため挑戦的な姿勢を示すことが有益であると認識しました。

おわりに

2024年6月現在、エンタープライズ・リーダーシップ・レポートの日本での活用事例はまだありません。その理由は、日本語版レポートがリリースされていないからです。
新しい時代のリーダーシップモデルであるエンタープライズ・リーダーシップの概念を日本企業が活用できない状態は由々しき事態であり、到底看過できるものではありません。速やかに日本版のローカライズを進めることをお約束いたします。
また、OPQ32の日本語受検は可能ですので、英語版レポートでも問題ないとおっしゃっていただける方がおられましたら、ぜひお問い合わせください。

最も効果的なタレントマネジメントは経営陣の改善です。上層部のパフォーマンスとコンピテンシー、ポテンシャルをアセスメントして、経営戦略との適合度を評価し、上層部を最適化することをお勧めします。と、こんなことを言うコンサルタントの話は聞いてはいけません。現場のことをわかろうともしないのですから。

会社の業績に貢献するタレントマネジメントを行うためには、現在の組織人事に関わる問題を見出し、課題を明確にしなくてはいけません。経営事業戦略と組織人事戦略を適合させ、組織人事戦略に基づく人事施策を立案し、実行し、結果をモニタリングし、効果を測定する。このサイクルを回して行きます。

タレントマネジメントを指示した上層部の方へのヒアリングが最初の仕事です。

新人を受け入れる現場では特に注意すべきことはありません。
むしろ即戦力ないしは、特定の職務に対するポテンシャルが高い人を採用するため、現場の育成は円滑に進みます。安心して現場に送り出してください。

むしろ注意点は採用方法にあります。今まで総合職採用しか行っていなかったとすると、採用の考え方から方法、関与する人、応募者の集め方、選考方法などありとあらゆる点を変更しなければなりません。採用プロセスの設計をしっかり行う必要があります。

面接で逆境の経験をたずねてください。逆境を乗り越えた人は逆境に強い人、逆境に負けた人は逆境に弱い人です。どちらともいえない人は普通の人です。
そもそも逆境とは言えないような経験を話す人は逆境を経験したことがありませんので、逆境に強いかどうかを判定できません。

逆境を乗り越える能力は、レジリエンスや回復力と言われるコンピテンシーです。コンピテンシーですから、能力開発が可能です。応募者の中で逆境に強い人がいなかった場合は、入社後に逆境に耐えるための能力開発をしてください。

従業員に対する説明が重要です。
事前説明として以下の項目について丁寧に説明してください。

どのような目的で従業員に対してパーソナリティ検査を実施するのかは存じませんが、正直にオープンに説明するべきです。会社として何のためにどのように誰が結果を使うかは明示すべきです。従業員が好まない目的、利用、閲覧者が記載されていれば、受検率を高めることができません。従業員にとっての好ましい目的で、安全で安心な利用を心がけてください。

犯罪に手を染める人を見分けたいという気持ちはよくわかります。小売業においては、ロスの約10%が従業員の不正によるものという調査もあるようです。

しかしながら罪を犯していない人の罪を犯す可能性を予測することは、そのまま採用差別につながります。仮に罪を犯す可能性が予測できたとして、その可能性が高いと判断された人を採用する会社はありません。その方は罪を犯したことが無いにもかかわらず、その可能性が高いという予測だけですべての企業から、社会から疎外されてしまうのです。

こんなことがあっていいわけがありません。
実際に採用選考で犯罪のポテンシャルを見分けることは困難です。犯罪に手を染める人にはその誘因が必ず存在します。会社として従業員が犯罪に手を染める誘因として働くものをあらゆる点から排除し、不正抑止効果を高める活動をしていくべきと考えます。

学生が入社意欲を高めるのは個別の対話機会です。そこで学生の心をとらえる最も効果的な方法は、学生に向き合って話を真剣に聞き、学生が考えを深めたり、気づきを得られたりするための適切な質問を投げかけることです。矛盾を指摘したり、反論したり、指導したり、アドバイスしたりするのではなく、とにかく真剣に学生の話を聞くことが大切です。学生の考えですから未熟な点もたくさんあります。しかし、ご本人なりに真剣に考え準備して、緊張感をもって面接に挑んでいるのです。ぜひ気持ちに寄り添って思いやりのある態度で話を聞いてあげてください。
これが学生の意欲形成に適した社員の態度と姿勢です。どなたにでもできることだと考えています。

音楽に関してはおすすめがあり過ぎて困りますので、最近聴いているアーティストを3組、思いつきでご紹介します。

新しいアーティストでは、2022年デビューのSay She She。70年代風ソウルミュージックを聴かせてくれる3人の女性ボーカルが率いるソウルバンドです。

次は90年代後半に現れR&Bのリズムトラックに革命をもたらした、Missy Elliotです。この方がおられなければ現在のR&Bは全く異なるものになっていたかもしれません。

最後は60年代から現在もご活躍中のGeorge Bensonです。御年80歳。この方は80年代シンガーとしてヒットしたのですが、本業はジャズギタリストで私がお勧めしたいのは70年代にリリースされたフュージョンのアルバムです。

新旧織り交ぜてご紹介しました。