キャリアにおける「諦」について
カウンセリングの世界では、一つの選択肢に固執しすぎる人は支援の対象となるそうです。
「私にはあの人しかいない」「私にはあの職種しかない」という考えは危うさを伴います。そういった考えに囚われている場合は、別の考え方を知ると良い結果に繋がることがあります。
今回は、キャリアを考えたときの「諦」が持つ肯定的な側面についてお伝えします。
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将来は自分の考え次第?
キャリア(career)の語源は「轍」だと言われています。轍は過去から現在までの足跡を示します。将来は見えません。では将来はどこに存在しているのでしょうか。
将来は、それぞれの思考の中に存在しています。つまり、将来は自分の考え次第ということです。しかし、今日に至るまでに様々な選択を繰り返している私たちにとって、現実には、将来のためにとれる選択肢は限られたものであると思うかもしれません。

「諦」とは
「諦」という字には「あきらめる」という意味に加えて「あきらかにする」という意味もあります。 キャリアを考えるとき、この「あきらかにする」ことが重要な役割を果たします。キャリアについて考えるためには、まずその材料(仕事であれば自分を取り巻く環境や経歴、自分自身の強み・弱みなど)を明らかにしていく必要があるからです。明らかにするという意味で「諦」という言葉を意識してみると、現状や将来への道筋について新たな気付きを得られることでしょう。
自分自身を明らかにするには
経歴や資格などは過去の経験や事実に紐づいているため、比較的簡単に棚卸できます。しかし、自分の強みと弱みの棚卸しはそう簡単にはいきません。客観的な自己評価が難しいからです。こんな時はパーソナリティ検査OPQを活用してみてください。 OPQのレポート「万華鏡30」に掲載されているマネジメントコンピテンシーPMCは、受検者の職務遂行能力を網羅的に整理した36項目からなるコンピテンシーモデルです。各コンピテンシーの発揮可能性が5段階で表示されます。 このPMCを使えば簡単に自分の強みと弱みを明らかにできます。以下の手順で行います。
- PMC36項目のなかで高得点(4点、5点)の項目に注目し、その中から自分の強みだと思うものを3つ挙げる。
- 挙げたコンピテンシーについて、具体的にそれが強みとして発揮された仕事場面を書き出す。
- ②の場面について、うまくコンピテンシーが発揮できた要因(環境や精神状態など)を分析する。
強みを明らかにする
- PMC36項目のなかで低得点(1点、2点)の項目に注目し、その中から自分の弱みだと思うものを3つ挙げる。
- 挙げたコンピテンシーについて、具体的にそれが不都合に繋がった仕事場面を書き出す。
- ②の場面について、不都合に繋がった要因(環境や精神状態など)を分析する。
弱みを明らかにする

「諦」は現実に適応していくための手段
ここまで「諦」の「あきらかにする」という側面について述べてきました。次は「あきらめる」という側面についてです。
理想のキャリアを100%叶えられる人は多くはありません。多少妥協をしなければ現実のキャリアを歩めなくなってしまいます。理想と現実の乖離にどう折り合いをつけるのかが課題となるのです。こんな時「諦」がカギとなります。
理想に拘り過ぎるあまり視野が狭まり、他の選択肢を考えることができなくなると、状況が思うように進まなかった時に心身の状態が不安定になり、不調をきたす危険性があります。
自分の理想と現実の状況を把握し、自分の力ではどうにもできない乖離がそこにあるならば、理想をあきらめて現実に対応したり、現在の仕事をあきらめて進む道を変えてみたりすることが解決策となります。このように「諦」を受け入れることで狭まった視野を広げることができます。
「諦」は悪でも終わりでもありません。人生の通過点です。現実に適応していくための手段として「諦」を肯定的に捉えられたとき、先の人生を見越して自分らしいキャリアを描けるようになるでしょう。
参考文献:浦上昌則(2010). キャリア教育へのセカンド・オピニオン 北大路書房

このコラムの担当者
谷口 奈緒美
日本エス・エイチ・エル株式会社
マーケティング課