ベンチャー経営者適性を評価する~イノベーション人材コンピテンシーの見極め方
VUCA時代である現代において、新事業創造やイノベーション創出は一部の起業家や新規事業担当に求められるものではなく、すべての経営者にとって重要な課題です。当社は日本で活動を始めて以来、日本におけるアントレプレナーやイノベーターの研究を続けてきました。
本コラムでは、当社が過去に行った研究からベンチャー経営者の人材要件と評価の方法をご紹介します。

ベンチャー経営者適性を評価する
ベンチャー経営者のコンピテンシーを以下4つに定めました。
- 対人的能力 優れたーリーダーシップを持ち、適切な対人影響力を発揮する。良い人脈を内外に作りすべての人から意欲と能力を引き出す。
- 組織文化の形成能力 顧客の求める質の高いサービスを豊かな個性を持った集団がチームスピリットをもって創造する環境を作る。
- 戦略的能力 鋭敏な外部知覚を持ち、正しい状況認識を踏まえて戦略的、システム的思考を用いて適切に采配する。
- 統治的能力 厳しい倫理観を持ち、自己研鑽を怠らない。批判性と合理性を持ち仮説検証的な判断を行う。
これら4項目のコンピテンシーを評価するためにどのような言動をどのように評価すべきかについて述べていきます。
対人的能力を評価する
対人的能力の評価は以下5つの視点で行います。
- 対話能力 どんな話題で話をしてもかまいません。人の話に興味を持ち、楽しく充実した会話ができることを確認してください。よく話をしてよく話を聞く、話し方に自信と余裕がある、好奇心旺盛、率直で正直といった特徴に注目します。
- インパクトを与える 初対面の時に感じた印象が重要です。はじめて目を合わせたときに威圧感や威厳を感じるかどうかを確認してください。
- リーダーシップ 結果が思惑通りに行かなかった時の言動に注目します。采配を人任せにしない人は愚痴を言わず、結果を人のせいにしません。
- 人の成長を促す 部下との間によい緊張関係を築けているかどうかを確認します。部下と同席する場面での言動を観察します。人の成長を促す人は部下から目を離さず情報を収集し、その情報をフィードバックに使います。
- 人の輪を拡げる プライベートな話題や余暇の過ごし方などを聞きます。いろいろな人に話が向かう人は評価できます。抽象的、批評家的な話題しか出てこない人は評価できません。余暇を人と会うことに使うタイプはよいです。

組織文化の形成能力を評価する
組織文化の形成力は以下5つの視点から評価します。
- 顧客のほうを向いて仕事をさせる スタッフの顧客対応の姿勢を観察します。電話、オフィスへの訪問、ミーティングなどでのスタッフの言動から顧客を重視する教育がなされているか、顧客志向の組織風土が浸透しているかを確認します。
- 質の高さを最優先する風土を作る 品質の卓越性を重視する姿勢とその品質に対する自信を持っているかどうかを確認します。品質よりも営業力を優先する姿勢は評価できません。
- チームスピリットの称揚 退任させた役員のことを話題にします。チームスピリットを重視する経営者は一匹狼を好みませんので、喧嘩別れしていることも多くあります。
- 豊かな個性を持った人たちの集まり 色々なタイプが生き生きと働いているかどうかを確認します。性別、年齢、国籍など、従業員の多様性が確保されていることがエビデンスとなります。
- 失敗から学ぶ組織づくり 計画と実績の乖離を説明させると、この能力の有無がはっきりとわかります。常にレビューし、仮説検証を繰り返す風土を作っている経営者ほど説明が合理的で納得性があります。とってつけたような説明をする人は評価できません。
戦略的能力を評価する
戦略的能力の評価は以下6つの視点から行います。
- 戦略的思考 計画の語り方に注目します。どれだけの想像が働いているかが評価のポイントです。前年比で一律〇〇%アップのような計画を立てていたらバツ。市場、競合、技術、政治、経済、社会等の変化を踏まえ柔軟な計画を持つ人を評価します。
- システム的思考 バランス感覚に注目します。会話全体の雰囲気と個々の話題に気を配りコントロールしようとする姿勢は評価できます。特定の会話にのめりこみアンバランスな時間配分をするのはバツです。
- 鋭敏な外部知覚 外に関心が向いているかどうかを評価する簡便なやり方は海外の話題を振ることです。外国の情報やコンテンツへの関心度、海外での経験から何を学んでいるかに注目します。興味がない人、平板で一般的なことしか言えない人はバツです。
- アントレプレナーシップ 新しいことに挑戦し失敗した経験を話題にします。起業家精神旺盛な人は100個の挑戦が1個の成功を生むことを理解しており、失敗を許容する考えを持っています。
- カリスマ性 会話しているときに、ついメモをとりたくなるような言葉を発する人は評価できます。コピーセンスが重要な要素です。
- 変革の先頭に立つ コンフォートゾーンにとどまりたい人はバツです。順調に見える現状に対して、内部の問題を指摘し、すぐにでも対処しなければならないと主張する人は評価できます。せっかちはマルです。
統治的能力を評価する
統治的能力の評価は以下5つの視点から行います。
- 支配者の倫理観 話の内容ではなく、ちょっとした言葉の使い方に注意を払います。卑しさや下品さ、ちょっとした表現の聞き苦しさがないかを確認します。特に部下など目下の人に対する言動によく現れます。
- 適切な判断 時間厳守の度合いに判断力が現れます。いつも時間を守る人は小さな事象に気を配り適切な判断を重ね、時間通りに行動します。いつも遅れる人は判断が甘いか杜撰なのです。判断がしっかりしている人は適当なタイミングで用件を切り上げ、次の仕事に取り掛かります。
- 自らの専門性 ある領域に興味をもち、継続的な努力を続けているかどうかを確認します。簡単な方法としては趣味をたずねます。趣味が一流ならマルです。
- 企業行動の評価能力 すべてを数値で把握する性質を持っているかを確認します。物事を説明する際に数字をよく使い、理にかなった説明ができる場合は評価できます。数字を全く使わない人はバツです。
- 優れた問題分析 現在話題になっている社会問題の捉え方に注目します。自ら問題を構造的に捉え、独自の視点で問題を整理している場合は評価できます。既出の見解やAIが答えるような一般的な視点で話をする場合はバツです。
おわりに
今回ご紹介したコンピテンシーモデルは、当社が1990年代に行った調査に基づいて作られたものです。評価方法については少し現代風に書き換えましたが、ほぼそのままです。30年前に作られた起業家コンピテンシーですが、新事業創造が求められる現在においても違和感なく活用できると考えています。起業家の本質は時代による影響を受けづらいのだと思います。

このコラムの担当者
清田 茂
日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員