コラム 人事コンサルタントの視点

企業変革に「アセスメント」の力を活用する

多くの企業が、変化の激しい時代を生き抜くために変革を迫られています。しかし、緻密な戦略を立てても、組織の文化やメンバーの意識が追いつかず、変革が頓挫してしまうケースは少なくありません。これはまるで、高性能なエンジンを搭載していても、ドライバーやチームが連携できなければ速く走れないレーシングカーのようです。

企業が変革を成功させるには、戦略を実行する組織と人材を深く理解することが不可欠です。その指針となりうるのが、科学的根拠に基づいた「アセスメント」です。

本コラムでは、「両利きの経営」に登場する概念を参考に、企業変革におけるアセスメントの活用場面を3つご紹介します。

組織の傾向を可視化する

既存事業の成功が、新しい挑戦を妨げる「成功の罠」に陥る企業は少なくありません。過去の成功体験が組織に根付いた無意識の思考パターン、つまり組織傾向となり、新しい戦略を拒絶してしまうのです。

アセスメントは、こうした見えにくい組織傾向を可視化する上で非常に有効です。個人の特性を測定するアセスメントを活用することで、組織全体の傾向をデータで明確に捉えることができます。たとえば、チームや部門が「探索」(新しい挑戦)よりも「深化」(既存事業の効率化)を好む傾向にあるのか、あるいはリスク回避志向が強いのかといった文化的特性を客観的に確認できます。

アセスメントを通じて組織の強みや課題を定量的に把握することで、変革に向けた具体的なアクションプランを策定できます。これにより、組織全体の方向性を一致させ、変革をスムーズに進める土台を築くことが可能です。

組織の傾向を可視化する

変革を導く「両利きのリーダー」を特定する

企業変革を成功に導くには、既存事業の深化と新規事業の探索を同時に進める「両利きの経営」が不可欠です。そのためには、変革型と業務型のリーダーシップスタイルを状況に応じて使い分けられる人材が求められます。

SHLのリーダーシップモデルでは、リーダーシップを変革型と業務型の2つの観点で捉えています。たとえば、探索場面と対応する変革型リーダーには、以下の特性が重要です:

  1. 創造力(ビジョンを作る)
    新たな方向性やアイデアを生み出し、戦略的に考える力。
  2. 対人積極性(目標を共有する)
    人とコミュニケーションをとり、説得し、影響を与える力。
  3. リーダーシップ(支援を得る)
    率先して行動を起こし、指示を与え、責任を引き受ける力。
  4. 完遂エネルギー(成功をもたらす)
    目標達成のためにエネルギーを注いでやりきる力。
変革を導く「両利きのリーダー」を特定する

一方、既存事業を安定的に推進する深化領域では、業務型リーダーの存在が不可欠です。業務型リーダーは、計画の遂行力や効率的な運営能力に優れ、既存事業の成果を着実に上げることで、組織全体の安定性を支えます。
SHLのリーダーシップモデルは、こうしたリーダー特性を予測することに役立ちます。

変革型リーダーと業務型リーダーが両輪で機能することで、組織は両利きの経営を実現できます。アセスメントは、これらのリーダーシップ特性を科学的に測定し、組織に最適なリーダーを特定・育成するための有力な手段です。

「対話」の質を高め、組織を動かす

変革の原動力は、リーダーとメンバー間の深い「対話」にあります。しかし、価値観や考え方の違いが対話を阻害することがあります。

アセスメントは、組織内に共通言語を提供するという重要な役割を果たします。メンバーが自身の特性や傾向を客観的に理解することで、互いの違いを認識し、尊重しながら議論できる土壌が生まれます。共通言語を持つことで、リーダーとメンバー間で目標や課題に関する認識が揃い、表面的な会話にとどまらず、本音での建設的な議論が可能になります。

さらに、アセスメントデータの分析を通して、組織内の多様な価値観や思考スタイルを可視化し、共通する価値観や組織風土を言語化することもできます。これにより、リーダーがチームや部門のメンバーに「なぜ我々がそれをやるべきか」「どのような方向に向かうべきなのか」等といった変革に向けた対話を投げかけ、メンバーの当事者意識を育むことができます。

戦略とメンバーの意識の溝を埋め、組織全体を動かすためには、アセスメントを活用した共通言語の形成が不可欠といえるでしょう。

「対話」の質を高め、組織を動かす

まとめ:変革を支えるアセスメントの力

企業が変革を成功させるためには、戦略だけでなく、組織や人材の特性を正しく理解することが欠かせません。アセスメントは、組織の傾向を可視化し、両利きのリーダーを特定し、メンバー間の対話の質を高めることで、変革を現実のものにする力を持っています。

変革の土台を作りたい経営者、優れたリーダーを発掘したい人事担当者、メンバーの当事者意識を高めたい現場リーダーの方はぜひ、当社コンサルタントまでお問い合わせください。

James G. March 1991. “Exploration and Exploitation in Organizational Learning,” Organization Science, Vol. 2, No. 1, pp. 71-87.
Charles A. O’Reilly III and Michael L. Tushman, 2016. 『両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(入山章栄 監訳、東洋経済新報社)

森山 蓮

このコラムの担当者

森山 蓮

日本エス・エイチ・エル株式会社
HRコンサルティング4課 課長

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