コラム 人事コンサルタントの視点

RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)が早期離職を防ぐカギに

近年、多くの企業が新卒や中途採用における「早期離職」の課題に直面しています。こうした早期離職の背景には、入社後に仕事や職場環境が想定と異なると感じる「リアリティショック」があると指摘されています。リアリティショックとは、入社前の期待と現実のギャップによって生じる心理的ストレスのことで、仕事への満足度低下や離職意向の上昇を引き起こします。

これを未然に防ぐための有効な手法として注目されているのが、RJP(Realistic Job Preview:現実的職務情報の事前開示)です。RJPは、入社前に職務の「良い面」だけでなく、「厳しい面」や「実際の負荷」など現実的な情報を開示することで、入社後のミスマッチを減らす取り組みです。とくに初期3~6か月の定着にRJPが効果を持つことが多くの研究で確認されています。

RJPの理論的背景と効果

RJPの理論的背景には、「期待理論」と「組織的社会化理論」があります。採用時に現実的な情報を提供することで、入社後に期待と現実のギャップを小さくし、リアリティショックの発生を防ぐことができます。また、事前に仕事や組織文化への理解を深めることで、入社後に起こり得る困難をより主体的に受け止められるようになります。

    実証研究から、RJPの主な効果として以下の点が確認されています。
  • 離職率の低下: Premack & Wanous(1985)のメタ分析は、RJPが離職率(特に自主的離職)を低下させるという、小規模ながらも統計的に有意な効果があることを示しています。
  • 職務満足度・パフォーマンスの向上:Breaugh & Starke(2000)は、RJPが入社後の満足度や職務パフォーマンスを高めると報告されています。
  • 信頼関係の構築:Earnest, Allen & Landis(2011)は、RJPが「組織の誠実さ(honesty)」を候補者に伝えるシグナルとして機能し、入社前から信頼関係の形成を促すと指摘しています。

RJPの理論的背景と効果

RJP導入のポイントと注意点

    RJPを導入する際には、次の3つのポイントに注意が必要です。
  1. ネガティブ情報の伝え方に配慮すること
    「厳しい現実」だけを強調すると逆効果になります。課題や負荷と併せて、支援制度・教育制度・成長機会を明示することで、挑戦する価値や納得感を与えられます。
  2. 具体的なイメージを持たせること
    現場社員のインタビューや実際の業務風景など、リアルな一次情報を発信することで信頼感が高まります。同時に、情報が古くならないよう定期的に更新することも重要です。
  3. 体験型のRJPを組み合わせること
    動画やパンフレットだけでなく、ジョブシャドウイング(仕事の観察)や現場社員との座談会など、体験を通して理解を深める仕掛けが効果的です。

RJP導入のポイントと注意点

まとめ

RJPは単なる採用広報手法ではなく、「入社後の納得感と定着」を生み出す組織戦略の一つです。
企業が現実を誠実に伝えることで、候補者は自らの意思で入社を選び、入社後のリアリティショックを最小限に抑えることができます。結果として、早期離職を防ぎ、長期的なエンゲージメントを高めることができるのです。
「採用の成功」とは、入社人数ではなく、「入社後に活躍し続ける社員を採ること」です。その意味で、RJPは“お互いに後悔しない採用”を実現するための最も有効なアプローチの一つと言えるでしょう。

参考文献
Premack, S. L., & Wanous, J. P. (1985). A Meta-Analysis of Realistic Job Preview Experiments. Personnel Psychology.
Breaugh, J. A., & Starke, M. (2000). Research on Employee Recruitment: So Many Studies, So Many Remaining Questions. Journal of Management.
Earnest, D. R., Allen, D. G., & Landis, R. S. (2011). Mechanisms Linking Realistic Job Previews With Turnover: A Meta-Analytic Path Analysis. Personnel Psychology.

遠藤 亮介

このコラムの担当者

遠藤 亮介

日本エス・エイチ・エル株式会社

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