SHLは、2019年からニューロダイバース人材のアセスメントに取り組んでおり、2022年には白書「ニューロダイバース人材のアセスメント」を発表しました。その後、毎年ニューロダイバーシティ研究レポートにて、前年に研究で得られた知見や進行中の活動について発信しています。さて最新の2024年の活動についてご紹介する前に、白書「ニューロダイバース人材のアセスメント」の内容を振り返ってみましょう。
白書ではまずニューロダイバース人材を取り巻く雇用環境、企業がなぜ彼らの採用をすべきかを概説し、次に実施した研究活動の内容と成果、今後の展開に触れ、最後に読者に研究への参加やベストプラクティスの実践を呼び掛けています。
- 研究の成果は、以前のコラムでもご紹介している以下の6点です。
- 認知能力テストはニューロダイバース人材を評価する手段として有望である
- ニューロダイバース人材は、強みと課題の両方の領域を併せ持つ「とがったプロファイル」を持つ傾向がある
- 強みと課題は状態ごと、また個人ごとに異なる
- ニューロダイバージェントな候補者は、配慮が必要な状態を開示することを躊躇う
- 汎用的なアプローチは通用しない
- 小さな変更が大きな違いを生む
本コラムでは、実施した5つの研究がどのようなものであったかをご紹介します。
<研究1>パフォーマンス (認知能力)*
- サンプル:自閉症を含む学習障害を開示した模擬試験受検者**(N=103〜167)
- アセスメント:SHLのVerify 言語能力(Verbal Ability)、数的能力(Quantitative Ability)、帰納的推論(Inductive Reasoning)
- 結果:自閉症を含む学習障害を開示した参加者は、言語能力テストと数的能力テストの回答時間が、開示していない人より短かった。帰納的推論テストの解答時間、各アセスメントの得点、各アセスメントで自分がどの程度力を発揮できたかについての認識は有意差は見られなかった。
<研究2>パフォーマンス (認知能力) ※開示フォームを改良したケース**
- サンプル:自閉症を開示した模擬試験受検者(N=248〜278)、学習障害(N=1,102〜1,853)、精神疾患(N=436〜1,135)、神経学的損傷(N=300〜367)
- アセスメント:SHLのVerify 言語能力、数的能力、帰納的推論
- 結果:自閉症を開示した参加者は、数的能力と言語能力テストでわずかに高い得点であった。また、自閉症および神経学的損傷を開示した参加者は、言語能力テストをわずかに速く完了した。他のニューロダイバースの特性における得点や解答時間に有意差は見られなかった。
<研究3>パフォーマンス (パーソナリティ)*
- サンプル: ニューロダイバースの特性を開示した大学生(具体的には特定せず)(N=71)
- アセスメント:SHLの パーソナリティ検査OPQ
- 結果:SHLの大卒者基準集団と比較して、SHLのUCF20コンピテンシーのうち創造と改革、戦略的思考、学習、文書作成、専門技術の活用、批判的思考が強みであった。業務管理、信頼性、計画と段取り、意思決定、回復力、積極性、原理原則の順守が課題であった。
<研究4>パフォーマンス(行動アセスメント)*
- サンプル:自閉症(N=119)、学習障害(N=647)、精神疾患(N=405)、神経学的損傷(N=119)を開示した模擬試験受検者
- アセスメント:SHLの行動アセスメントApta***の15 尺度
- 結果:自閉症と精神疾患を開示した参加者は、「自律的に働く」尺度で強みを示した。また、精神疾患を開示した参加者は、アセスメントをわずかに速く完了した。
苦手なことは特性によって異なるが、共通する部分もあった。自閉症と学習障害および精神疾患のある参加者は、「明確に話す」「他者を支援し指導する」「プレッシャー下でも力を発揮する」の得点が低かった。さらに、自閉症と精神疾患のある参加者は「信頼関係を築く」や「他者を説得する」の得点も低かった。一方で、神経学的損傷を開示した参加者については有意差が見られなかった。また、すべての特性をまとめて分析すると、個別の状態で見られた差が希釈され、全体としては現れないことが確認された。
<研究5>反応
- サンプル: 自閉症の社会人(就業中または求職中): パイロット研究 N=5、本調査 N=22
- アセスメント:行動アセスメントAptaのプレビュー、Verifyインタラクティブ演繹的推論(Deductive Reasoning)、 状況判断テスト(SJT)、動画面接(シチュエーショナル・インタビュー:職務でよく遭遇する場面でどのように行動するかを答える)
- 収集したデータ:応募者反応調査の結果(定量データ)および動画面接の書き起こし(定性データ)を収集。
- 結果:アセスメントに対する反応や有用な合理的配慮は、参加者によって異なった。参加者の大多数は、認知アセスメント(Verify)や状況判断テストを通じて自分のスキルや能力を示せると感じ、受検を楽しみ、公平で職務関連性の高い公評価の仕方であると認識していた。一方で、行動アセスメントや動画面接に関しては、反応はばらつきがあった。
演繹的推論以外では、多くの参加者が障害を開示して配慮を求めることに必ずしも積極的ではなかった。
**SHLは開示フォームの文言を継続的に改善している。
*** SHLの汎用コンピテンシーモデルUCFの最下層を構成する行動群について自己申告で回答するアセスメント
おわりに
ご紹介した白書および2025年版研究レポート(英語版)は、SHLグループホームページよりダウンロードいただけます。
Neurodiversity Collection
日本語版をご覧になりたい方は、貴社担当者もしくはお問い合わせフォームよりご連絡ください。
このコラムの担当者
廣島 晶子
日本エス・エイチ・エル株式会社 主任