目次をみる 目次を閉じる
入社式から考えたこと
多くの企業が入社式を行う4月1日。当社も6名の新入社員を迎えました。この日に新入社員へ伝えたメッセージは、彼らに向けたものではありますが、同時に人事にとっても重要な問いを含んでいると感じています。
生成AIの進化により、仕事のあり方は急速に変化しています。これに伴い、「どのような人材を採用し、育成し、将来を託すのか」という人事の前提も変化し始めています。これからの時代において、人は何を担い、何を評価されるべきなのでしょうか。
本稿では、私が新入社員に向けて話した内容をベースに、この問いについて人事の視点から考えてみたいと思います。
新入社員へのメッセージ
おはようございます。執行役員の清田茂です。
新入社員の皆さん、プロビジネスパーソンとしての第一歩を踏み出されたことを心より歓迎します。また、当社を選んでいただいたことに感謝します。
私は、皆さんがこの会社を選んだことを後悔しないよう、成長の機会を提供し続ける責任があると考えています。同時に、皆さん自身にも、自らの成長に対して主体的に向き合うことを期待しています。
入社式という場は、企業が人材を迎える節目であると同時に、人材が社会人としての役割を引き受ける瞬間でもあります。人事の視点で見れば、このタイミングは単なるスタートではなく、「どのような人材に育っていくのか」という仮説が置かれる起点でもあります。
本日は、その仮説の前提となる「これからの時代に求められる能力」についてお話ししたいと思います。
AI時代に人が担うこと
今日はAI時代に求められる能力についての話をします。
生成AIの能力が向上したことで、私たちの仕事の速度と質は格段に向上しました。毎日仕事で生成AIを使っている方へは言わずもがなですが、生成AIは情報の収集と整理、分析、アイデア出し、企画立案、文章作成などホワイトカラーの仕事の大部分を人の何倍もの速度でこなします。大規模言語モデルなので確率の高い言葉を出力しているに過ぎないのですが、それこそが知識であり、知識の応用と言えるのだろうと私は思っています。
私は子供の頃から文章を書いたり、要約したり、見出しやタイトルを付けたりすることが好きでした。これは大人になっても変わらず、今でも仕事の中で楽しいと感じる領域の一つです。もっとも、毎月のコラムの締め切りを守れていないのは、書くことが苦手なのではなく、締め切りを守る能力が不足しているからなのですが。
しかし、そのように自分の強みだと思っていた書く力も、AIの登場によって相対的な価値が変わり始めています。AIは私よりも格段に速く情報収集し、文章構成案を作り、整った文章を書くことができます。分析、企画立案、コーディング、アイデア出し、思考を深めるための対話の相手なども上手にこなします。
では、人は何をすればいいのか。私は人が行わなければならない重要なことが三つあると考えます。
一つ目は意思や欲望を持つことです。何をやりたいかを決めるのは必ず人です。AIはうまくやる方法を考えてくれますが、私がやりたいことを教えてはくれません。スタート地点は常に人の「やりたい」という気持ちなのです。
二つ目はAIの出した答えを評価することです。AIの導き出した方法が正しいのか、間違っているのか、適切なのか、不適切なのか、どこが違うのか、何を直すべきか、どのように直して欲しいのか、を決めるのは人です。AIの最大の問題点はハルシネーション(もっともらしい捏造をすること)です。出力されたものに誤りがなかったとしても、一発でよいものは生み出されることはほとんどありません。AIは学習から確率の高いものを出すだけなので、それらしい平均的なものを作ることが得意です。人の感性にひっかかる何かを作ることが苦手なのです。だからAIの作ったものには魅力や個性が感じられない。AIを拡張した自分として使うためには、AIの作ったものを評価し、修正の指示を出し、自分の個性や独特な発想を出力に反映させる必要があります。
三つ目はほどよいところで止めることです。AIとの対話に終わりはありません。やろうと思えば永遠に修正を続けられます。私はコラムの執筆にAIを使いますが、2500文字のコラムを書くためにその3倍以上のプロンプトを書いています。修正の指示は10回くらい出しています。エージェント作りが下手なだけと言えばその通りなのですが、ここまでくると自分で書いた方が早くて楽という矛盾を抱えながらAIを活用しています。
これら三つの要素は、いずれも従来の知識量や処理能力とは異なる性質のものです。AIが知識処理を担う時代において、人に求められるのは、意思を持ち、判断し、決断する力であると言えるでしょう。
ちなみに、この原稿は手書きで作成しています。
スキルベース組織への変化
AI時代に求められる能力に加えて、もう一つ触れておきたいテーマがあります。「スキルベース組織」です。
スキルベースとは、ジョブを最小単位ととらえて人材マネジメントを行うのではなく、スキルを最小単位ととらえて人材マネジメントを行う考え方のことです。この考え方がうまれた背景には人手不足があります。一つのジョブを一人で完遂できる人を採用したくてもそんな人は各社のターゲットになっており、争奪戦が繰り広げられているため、採用が難しくコストもかかる。だから、ジョブを一人で完遂できる人ではなく、ジョブをこなすための一部のスキルを持っている人たちを採用し、それぞれの人の持つスキルにあわせてジョブを作り直し、仕事全体をカバーする必要性が生じました。
また、スキルベースであれば不足しているスキルをリスキリングによって補うことができます。コンピテンシーのような複合的な能力を開発するには時間がかかりますが、より構造が単純なスキルであれば短時間で習得できます。今いる人のスキルを活かし、足りない部分をリスキリングで補いながら、素早くテクノロジーの変化や環境の変化に対応していく、これがスキルベース組織です。
このような組織では、社員は早期に戦力化することを強く求められます。現在保有するスキルと短期間で習得可能なスキルを踏まえて役割と学習課題が与えられ、すぐに結果を出すことが求められます。なぜスピードを重視するかと言えばテクノロジーの発達によってすぐに環境が変化してしまうから、学んだことの陳腐化が早いからです。
このような状況を「忙しすぎる組織」と捉えることもできます。しかし見方を変えれば、学び続けることが前提となる環境において、どのような人材が適応しやすいのかという問いが重要になります。
ここで鍵となるのがフルーエンシー(流暢さ)という考え方です。フルーエンシーとは、外国語を流暢に扱うように、新しい知識やスキルを素早く習得し、使いこなす能力を指します。
一見すると万能な能力のように見えますが、実際にはすべてのスキルに共通する単一のフルーエンシーが存在するわけではありません。AIを活用する、対人関係を築く、行動を統御する、といった領域ごとに、それぞれ異なる性質が求められます。言い換えれば、スキルごとに適したフルーエンシーが存在するということです。
したがって、スキルベース組織においては、どのスキルを持っているかだけでなく、どのスキルをどの程度の速さで習得できるのか、そしてどの領域のスキル習得に適性があるのかを把握することが極めて重要になります。ここに、アセスメントの役割があります。
2026年4月、当社ではスキルベース組織に対応したスキルアセスメントであるGraduate+8.0 Job Focused Assessmentの日本語版をリリースします。このアセスメントは、従来の知識や適性だけではなく、実務に直結するスキルやソフトスキルを測定することを目的としています。
スキルベース組織における人材の見極めは、まだ確立された方法論があるわけではありません。当社にとっても新しい挑戦です。しかし、新入社員もベテラン社員も同じスタートラインに立っている今こそ、この領域で価値を提供していく機会があると考えています。
何を伝えたか
以上が、新入社員に向けて私が伝えたメッセージです。
AIの進化によって仕事のあり方が変わりつつあること、そしてスキルベース組織という新しい考え方が広がりつつあること。この二つの変化は、新入社員にとってはこれから向き合う現実であり、同時に私たちが提供していくHRコンサルティングの領域においても、大きな前提となるものです。
だからこそ私は、新入社員に対して「これから何をすべきか」を伝えるだけではなく、「どのような変化の中にいるのか」を伝えたいと考えました。
入社式という場で、何を伝えるか。そこには、その会社が人材に何を期待し、どのような未来を見ているのかが表れるように思います。
さて、皆さまの会社では、新入社員にどのようなメッセージを伝えられたでしょうか。
このコラムの担当者
清田 茂
日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員
創業期メンバーとして入社以来30年、HRコンサルタントとして日本の人事アセスメント界を牽引。大手を中心にコンピテンシーモデリングから選抜設計、サクセッションプラン構築まで広範なプロジェクトを完遂。特に経営層との対話を通じた次世代リーダー育成に高い実績を持つ。 2002年取締役、2020年より執行役員として直販部門を統括。最前線で「人と仕事と組織の最適化」を追求する傍ら、SHLグループのグローバル知見の国内導入も推進。