コラム 人事コンサルタントの視点

サクセッションプランとは?導入のメリット・進め方とコンテクストの重要性

企業の永続的な発展において、「誰が次の経営を担うか」を計画することは最も重要な戦略課題です。 サクセッションプラン(後継者育成計画)は、単なる「後任のリストアップ」ではありません。経営戦略に基づき、将来のビジネスを牽引する人材を最適配置するための「戦略的プロセス」です。
本記事では、サクセッションプランの必要性から、リーダー選抜の精度を劇的に高めるSHL独自の「リーダーシップ・コンテクスト」の概念やそれを活用した実践的な進め方までを詳しく解説します。

サクセッションプランの必要性

    現代のビジネス環境において、なぜ今、サクセッションプランが世界中で重要視されているのでしょうか。主な理由は二つあります。

  1. 経営環境の不確実性の高まり:予期せぬリーダー交代が組織の大きなリスクとなっているため。
  2. リーダー人材の獲得競争の激化: 労働市場の流動化により、外部からの獲得が難しく、自社内での計画的な育成が不可欠となっているため。
加えて、社会の価値観が多様化していることで、経営リーダーに求められる要件が急激に変化していることも影響を与えています。
「組織の文化変革」を担うのか、「市場の急成長」を牽引するのかによって、求める人材像は大きく異なります。 ハーバードビジネスレビューシニアエディターのエベン・ハレル氏が行った研究では、退任するCEOの後任をすぐに見つけられない企業は平均で18億ドルの株主価値を失い、社外から採用されたCEOの平均報酬は社内出身のCEOの平均報酬よりも320万ドル高いことが述べられています。

サクセッションプランを行うべき組織

    次のような課題を抱えている組織にとって、サクセッションプランの導入は急務といえます。

  • 経営層の高齢化:現経営陣の交代時期が迫っているが、具体的な後任が定まっていない。
  • ビジネスモデルの変革: 既存事業の維持だけでなく、新規事業やグローバル展開など、新たなリーダーシップが求められている。
  • 選抜の不透明性:後継者選びが経営層の主観や「勘」に頼っており、客観的な根拠が不足している。

サクセッションプランの必要性

サクセッションプラン導入のメリット

    サクセッションプランを戦略的に運用することで、組織は以下のような多角的なメリットを享受できます。

  • 事業継続リスクの回避:経営層や重要ポストに不測の事態(急病や突然の退任など)が生じた際、事業を停滞させずに引き継ぐことが可能になります。
  • 経営戦略の着実な実行: 将来必要となる能力をあらかじめ定義し、育成しておくことで、戦略の転換期に最適なリーダーを即座に配置できます。
  • 優秀な人材の可視化とリテンション:組織内に埋もれているハイポテンシャル人材を客観的に見つけ出し、意図的な成長機会を与えることで、次世代リーダーのモチベーション向上と外部流出防止に繋がります。
    関連コラム:トップの不在が招く経営リスクと説明責任

サクセッションプラン導入の注意点とよくある課題

    サクセッションプランは、ただ計画を立てれば機能するものではありません。成功のためには、運用面で以下の3つのポイントに注意を払う必要があります。

  1. 組織に適した透明性と機密性を確保する
    後継者選抜のプロセスを「オープン」にするか「非公開」で進めるかは、組織の状況や対象ポスト、施策の内容によって慎重に判断しなければなりません。 透明性を高めることが組織全体の活性化に繋がる場合もあれば、逆に非選抜者のモチベーション低下を招くリスクもあります。自社の文化や目的を鑑み、候補者本人への通知の有無を含めた適切な情報公開の範囲を検討することが不可欠です。
  2. 経営トップの強い賛同とコミットメントを得る
    サクセッションプランが人事部門だけのプロジェクトになってしまうと、現場の協力が得られず、すぐに形骸化してしまいます。 「重要ポストの後継者を作り続けることは、全社の利益に直結する経営事項である」という強いコミットメントを経営トップが持ち、自ら発信し続けることが、組織全体を動かす鍵となります。
  3. 経営戦略・人材ポートフォリオと連動させる
    サクセッションプランは一度作って終わりではありません。経営環境や戦略が変化すれば、求められるリーダー像(リーダーシップ・コンテクスト)も変わります。 計画を静的なものと考えず、将来の人材ポートフォリオの変化を見据え、常に最新の状況に合わせて見直し続ける「動的な計画」としての視点が求められます。
    ※重要な注意点:パフォーマンスとポテンシャルの違い
    計画を練る際、「現在のハイパフォーマー(高業績者)」をそのまま後継者に据えてしまう誤解が多く見られます。SHLの調査では、現在の階層で優秀な成績を収めていても、より上の階層で成功する「ポテンシャル」を併せ持つ人材は7人に1人しかいません。過去の実績と将来の可能性を峻別することが、失敗しないサクセッションプランの第一歩です。

リーダーの成功を決定づける「コンテクスト」とは

SHLでは、リーダーの選抜と育成において「コンテクスト(文脈)」という概念を極めて重視しています。

コンテクストの定義

    コンテクストとは、リーダーが活動し、対処しなければならない「環境全般」を指します。SHLではこれを以下の4つの構成要素で捉えています。

    役割:具体的な職務内容や責任範囲
    チーム:メンバーの能力、価値観、ダイバーシティ
    組織:ビジネスの優先順位、組織構造、企業文化
    外部環境:市場動向、業界特性、活動する国や地域
  1. 役割:具体的な職務内容や責任範囲
  2. チーム:メンバーの能力、価値観、ダイバーシティ
  3. 組織:ビジネスの優先順位、組織構造、企業文化
  4. 外部環境:市場動向、業界特性、活動する国や地域

なぜコンテクストが重要なのか(研究結果)

SHLがグローバルリーダー9,000名を対象に行った3年間の調査により、「すべての状況で通用する共通のコンピテンシー(万能なリーダー)」は存在しないことが明らかになりました。
調査の結果、膨大な環境因子の中から、リーダーの成否に直結する27個の「コンテクスト課題」を特定。個人属性(知能、パーソナリティ等)とこの課題との適合度を分析したところ、リーダーの成功を予測する力(予測妥当性)が従来比で4倍以上も高まることが証明されました。 リーダーは、自分の特性に適した「コンテクスト課題」において初めて、その能力を最大限に発揮できるのです。

【実践編】SHL流・サクセッションプランの具体的な進め方

サクセッションプランは、以下のステップで進めます。SHLでは、ここにビジネスの状況(文脈)を特定する「リーダーシップ・コンテクスト」の概念を取り入れています。

STEP 01

対象となる重要ポストの決定と「コンテクスト」の特定

まず、どのポストをサクセッションプランの対象とするかを決定します。 次に、そのポストが数年後にどのような課題に直面するかという「リーダーシップ・コンテクスト」を定義します。例えば、「組織の文化変革」を担うのか、「市場の急成長」を牽引するのかによって、求める人材像は大きく異なります。

STEP 02

候補者に求める要件の定義

特定したコンテクストに基づき、具体的な要件を策定します。 従来の汎用的なコンピテンシー(行動特性)だけでなく、特定のビジネス環境で成果を出すために必要な「資質(性格特性)」や「能力(知的能力)」を、客観的な評価指標として設定します。

STEP 03

候補者のアセスメントと選抜

リストアップされた候補者に対し、適性検査や多面評価などの客観的アセスメントを実施します。 「過去の実績(パフォーマンス)」だけでなく、STEP2で定義したコンテクストに合致する「将来の可能性(ポテンシャル)」をデータで可視化し、科学的な根拠に基づいて選抜を行います。

STEP 04

育成プランの策定と実行

特定したコンテクストを擬似的に経験させる「戦略的なタフアサインメント」やジョブローテーションを計画します。個々のギャップを埋めるための具体的なアクションを、メンタリング等と組み合わせて実施します。

STEP 05

メンテナンスとコンテクストの再定義

定期的に候補者の成長や組織の変化を確認します。経営戦略が変われば、ポストに求められる「コンテクスト」も変わるため、柔軟に計画をアップデートし続けることが実効性を高めるポイントです。

STEP1~3はSHLのInsight Platformを活用して効果的に進めることが可能です。

サクセッションプラン・タレントマネジメントの企業事例

サッポロビール株式会社:経営リーダー要件の言語化とデータに基づく育成サイクル

    経営人財育成ビジョン「自分のキャリアは自分で切り拓く」に基づき、変革を推進する次世代リーダーを継続的に輩出する仕組みを構築。

  • 背景と課題:従来、経営リーダー候補の確認は年1回のみ。組織的な育成施策や経営層での情報共有が不足していた。
  • 具体的な取り組み:全8ステップのプロセスを策定。役員全員による議論を経て、経営人財に求める6要件を明確化した。選抜にはSHLのアセスメント(パーソナリティ・モチベーション検査)を導入。社内評価に加え、客観的データに基づき候補者の隠れた行動特性やポテンシャルを可視化した。
  • 成果:アセスメント結果を役員から本人へ直接フィードバックし、戦略的な異動や外部研修へ反映。現在は「次々世代」まで対象を拡大し、経営層と人事が共通言語で議論できる動的なサクセッションプランを実現。
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三菱自動車工業株式会社:7つの多角的な施策によるグローバルリーダー育成

    ルノー・日産アライアンスへの加入を機に、主観を排した透明性の高いタレントマネジメントへの転換を図った。

  • 背景と課題:将来のリーダー不足に加え、優秀な人材の囲い込み、短期成果重視によるポテンシャル軽視の選抜が課題であった。
  • 具体的な取り組み:「人事諮問委員会」を核に7つの施策を展開。キーポストごとにサクセッションプランを作成し、キャリアコーチの面談とSHLのデータを組み合わせて「実績とポテンシャル」の両軸で評価。また、経営陣と候補者が対話する「クロスインタビュー」を導入し、経営層自らが候補者を激励・支援する体制を整えた。
  • 成果:評価の透明性が向上し、部門を超えた人材流動が活性化。アセスメントで特定した弱みを補強する「LDP」や海外での武者修行(GCDP)など、データ連動型の育成施策により、世界共通尺度で後継者を育てる土壌が整った。
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まとめ:不確実な未来を勝ち抜く「データ」と「文脈」

サクセッションプランの成否は、「自社の未来の文脈(コンテクスト)を正しく定義できるか」そして「そこにフィットするポテンシャルを持った人材を、客観的に見極められるか」にかかっています。
主観を排除した科学的なデータと、ビジネス環境を見据えた戦略的な視点。これらを組み合わせることで、変化の激しい時代においても揺るがない経営基盤を築くことができます。

清田 茂

このコラムの担当者

清田 茂

執行役員

入社以来30年、HRコンサルタントとして日本の人事アセスメント界を牽引。大手を中心にコンピテンシーモデリングから選抜設計、サクセッションプラン構築まで広範なプロジェクトを完遂。特に経営層との対話を通じた次世代リーダー育成に高い実績を持つ。 2002年取締役、2020年より執行役員として直販部門を統括。最前線で「人と仕事と組織の最適化」を追求する傍ら、SHLグループのグローバル知見の国内導入も推進。

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