コラム

人事コンサルタントの視点

優秀さの裏側に潜むリスクをどう見抜くか ~採用面接における“人柄”の評価~

優秀な候補者に感じる”違和感”の正体

採用面接で出会う「優秀な候補者」に違和感を感じたことはないでしょうか。スキルや経験は申し分なく、話しぶりも堂々としていて即戦力としての期待も高まる。しかしどこかで「この人が本当にチームに馴染むだろうか」という一抹の不安が拭えない。それは”対人関係面のリスク”のサインかもしれません。
たとえば傲慢さや過度な自己主張、他者批判といった特徴を持つ候補者は、短期的には成果を上げるかもしれませんが、長期的には組織に摩擦をもたらすことがあります。しかし、リスクがあるからといってすぐに不採用と決めつけてしまえば、優秀な人材を逃す可能性もあります。かのスティーブ・ジョブズ氏も性格的には自己中心的で協調性に欠けるなどの問題があったと言われていますが、一度は追い出されたApple社に復帰して、同社を世界有数の企業に成長させています。
そこで本稿では、候補者が持つ”対人関係面のリスク”を正しく見極めつつ、それを上回る価値をもたらす人材かどうかという、より現実的な視点での人材評価について考えてみます。

優秀な候補者に感じる

「対人関係面のリスク=悪」とは限らない

対人関係面のリスクとは、ある人物の性格的傾向や価値観に基づく言動で、周囲に悪影響をもたらし、組織の生産性を低下させる危険性があるものを指します。典型例としては、「優秀だが他者を見下す」「目的達成のために他者を利用する」「自分の考えややり方を押し付ける」といった行動が該当します。
こうした特徴は応募書類には表れず、候補者が自ら進んで申告することもありません。だからこそ採用面接では「表面的な優秀さ」に引き込まれず、その背後にあるリスクの兆候を丁寧に拾い上げる必要があります。
一方で、リスクは必ずしも“悪”ではありません。たとえば、自我が極端に強い人でも、それを補うだけの実行力や成果への執着心があれば、組織に大きな利益をもたらす可能性があります。また、自社のビジネスや組織が危機に瀕しているときは、多少強引でも改革を断行できる強い意志を持った人物が求められます。ある研究では、治安の悪い地域に住む人は、品行方正なリーダーよりも手段を選ばずに悪と対峙する”ダークなリーダー”に救いを求め、その実行力に期待するという傾向が見られました。ご存じの方は、ゴッサムシティとバットマンの関係を思い浮かべてみるといいかもしれません。
大切なのは「対人関係面のリスクをもつ人材を排除すること」ではなく、「そのリスクを把握したうえで、自分たちの組織で許容できる範囲内か、それ以上に得られる価値があるか」を冷静に見極めることです。

採用面接における確認方法

対人関係面のリスクを採用面接で見極めるには、単なる印象ではなく、候補者の過去の行動や反応から手がかりを得る必要があります。その際、過去の経験を尋ねるだけではなく、「どのように人と関わってきたか」に注目することが重要です。特にチーム内での対立や調整、目上の人との意見の食い違いといった場面を深堀りすることが有効で、たとえば、「メンバーや上司(先輩)と意見が衝突した経験を教えてください。そのとき、あなたはどう対応し、結果的に何を学びましたか?」といった質問は人との関わり方が見えやすくなります。
また、「成果を出すためにチーム内で妥協した経験」や「苦手なメンバーと協力する上で工夫した点」を尋ねることも効果的です。そして、候補者から語られるエピソードの中身に加えて、候補者が使う「言葉」にも注目してください。たとえば、相手の反対意見を「文句、反抗」と表現すれば、自分が常に正しく、相手が間違っていると決めつける人物である可能性があります。また、自分がとった行動や決断を相手がどう感じたか尋ねたときに「たぶん○○だと思う」と答えれば、相手に確認はしておらず、他者の感情変化に関心が薄いことが分かります。
対人関係面のリスクについては、ダークトライアド(サイコパシー、マキャベリアニズム、ナルシシズム)、組織機能阻害行動など国内外で様々な研究がなされていますが、採用面接で比較的確認しやすいリスクは以下の5つです。

①共感性の欠如(相手の立場、意見、感情への共感が乏しい)
②他者利用(目的達成の手段として他者を利用する)
③攻撃的な自己主張(自分の考えややり方を押し通す)
④他者批判(他者を見下し、批判する)
⑤反抗的な態度(指示やアドバイスに従わない)

これから採用面接を受ける方もいるので詳細な評価項目をここで紹介することは差し控えますが、対人関係に関する候補者のエピソードや使う言葉から、周囲をどうとらえ、どう関わっていく人物なのかを予測することができます。ただし、繰り返しになりますが、「対人関係面のリスクを持った人材の排除」をゴールにしないことです。
全ての人材には長所と短所があります。リスクを正しく把握した上で、配置や育成、マネジメントで補うことができないかを検討し、能力とリスクのバランスを考慮して採否を判断することが重要です。

採用面接における確認方法

おわりに:能力と人柄の両輪で採用を

人材採用において、候補者の能力の評価は今も昔も、そしてこれからも欠かせない判断基準の1つです。しかし、それだけでは組織にとって“持続可能な人材”とは言えません。人柄や価値観が組織文化と調和できるかを見極めることも、長期的な人材活用には欠かせません。対人関係面のリスクは、時に強さや個性の裏返しでもあります。採用場面では、それを“排除すべき不安要素”として断じるのではなく、“マネジメントすべき特性”として冷静に受け止め、リスクを上回るだけの能力や将来性があるかを総合的に判断することが、優秀な人材の採用には必要不可欠だと言えるでしょう。

清野 剛史

このコラムの担当者

清野 剛史

日本エス・エイチ・エル株式会社
アセッサーグループ 課長

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