中途採用成功の鍵「ジョブコンピテンシー」とは
~なぜ“経験者”が活躍できないのか?
今、多くの企業が注力する中途採用で、中途入社者が「経験があるはずなのに業務に苦戦している」「即戦力を期待したが早期に離職してしまった」といった課題を耳にすることが増えています。いくつかの調査※によれば、企業が中途採用面接で評価するポイントは「前職の経験」「スキル」「専門知識」などが一般的なようです。しかし、これらの点だけで候補者の戦力化や定着の可能性を見極めるのは不十分です。
今回は経験やスキルを求める中途採用にこそ必要な「ジョブコンピテンシー」について、その重要性と活用方法を具体的に解説します。
ジョブコンピテンシーという視点
職歴やスキルを重視する中途採用で発生する戦力化や早期離職の問題。この課題解決の一つとして、「ジョブコンピテンシー」という視点が有用です。ジョブコンピテンシーとは「職務をうまく遂行するために個人が発揮する行動特性」のこと。たとえば、営業職であれば「相手の合意形成を得る説得力」「合理的な推論力」「迅速な意思決定」などが求められる行動特性です。これらは履歴書や職務経歴書では見えづらいものですが、実際の職務のパフォーマンスに直結する重要な能力です。
多くの中途採用では、「○○業界での営業経験3年以上」「××の言語を用いたアプリケーション開発経験あり」といった条件が並びます。しかし、同じ経験でも、どのような行動を通じて成果を出したかによって、候補者の能力は大きく異なります。ジョブコンピテンシーの視点を取り入れることで、単なる経験の有無ではなく、「その経験の中でどんな行動を発揮していたか」を評価できるようになります。

ジョブコンピテンシーがもたらすメリット
ジョブコンピテンシーを取り入れることで以下のようなメリットがあります。
- 採用基準の明確化:経験の有無からさらに踏み込んで、行動特性の評価基準を持つことで、面接官ごとの評価のばらつきを防止できる
- ミスマッチの解消:基準の明確化により評価が標準化され、パフォーマンスの伸び悩みや早期離職リスクを低減できる
- ポテンシャルの評価:経験やスキルなどの条件が不十分な未経験者でも、過去の行動から活躍可能性の見極めにも活用できる
- 育成への活用:ジョブコンピテンシーが行動指針として入社後のオンボーディングや育成にも展開できる
ジョブコンピテンシーの定義方法
- ジョブコンピテンシーは、以下の2つのアプローチで定義できます。
- 定量的アプローチ
適性検査や人事評価データを統計的に分析する手法です。適性検査受検は比較的容易に大規模なデータを一度に取得でき、また数値化されるため客観的なデータを提示できる点がメリットです。
中途採用時に適性検査を実施している場合は、これら応募者のデータと入社後のパフォーマンス等を分析することも可能です。 - 定性的アプローチ
アンケートやインタビューといった情報を元に定義する手法です。例えば現場の活躍社員やマネジャー、経営層、人事部内など、適切な人を選べば比較的少人数でも定義が可能です。現在活躍している人のデータはなくとも、例えば新たに新規チームの立ち上げとして採用を行う場合などでも、定性的アプローチであれば定義可能です。
採用活動への落とし込み
ジョブコンピテンシーを定義したら、以下のように採用活動に活用できます。
- 求人票の記載:
単なる経験や経歴の条件ではなく、「合意を取り付ける交渉力」「少ない情報から素早く決断する判断力」など、求める行動特性を明記します。 - 面接項目の設計:
経験のあり/なしだけではなく、候補者の経験を具体的な「コンピテンシー」という軸で掘り下げていくと、能力評価ができるエビデンスをよりたくさん収集できる可能性があります。 - 選考プロセスの設計:
求めるコンピテンシーによっては、面接以外の手法で評価したほうが見極めやすいものもあります。コンピテンシーごとに最適な評価手法を選択して、数少ない選考機会を有効に活用します。

ジョブコンピテンシーは採用の“質”を変えうる
中途採用において、経験やスキルだけでは見えない「再現可能な能力」を見極めるためには、ジョブコンピテンシーの視点が不可欠です。定義から選考、育成まで一貫して活用することで、採用の質を高め、組織にフィットする人材を見つけるに役立ちます。経験や専門性を求める中途採用こそ、ぜひジョブコンピテンシーを取り入れてください。
※採用担当者のホンネ-中途採用の実態調査 採用担当者が面接で見ているのはどこ?
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このコラムの担当者
水上 加奈子
日本エス・エイチ・エル株式会社
マーケティング課 課長