コラム

人事コンサルタントの視点

優秀な人材が会社を去るのはキャリアが見えないせい?

公開日:2025/08/15

労働市場の流動化が進み、今や転職が当たり前の時代となっています。企業としては、特に優秀な人材の離職は悩ましい課題です。従業員の定着率は、給与や福利厚生だけで決まるものではありません。優秀な人材も、会社での将来性を見出せないと転職してしまいます。
今回はSHLグループのコラム「Your Best People Are Leaving Because They Can’t See Their Next Move」を元に、従業員にとってリテンションの一つとなるキャリアの見通しの重要性についてご紹介します。

成果を上げている人が離職するのはなぜか?

優秀な従業員が離職に至ったとき、給与や福利厚生、競合企業の条件を原因と考えがちです。しかし、調査や率直な退職面談によって明らかになるのは、それとは異なる理由です。ほとんどの人は、自社での将来の姿が描けないこと──つまりキャリアの見通しが持てないことを理由に会社を去ります。最も貢献している優秀な従業員でも、確かなキャリアパスがなければ、エンゲージメントが低下し、他社を探し始めてしまいます。彼らがユニークな機会を求めて離れるのではなく、「先が見えない」「道が描けない」と感じて離れていくのです。

成果を上げている人が離職するのはなぜか?

「手を挙げれば成長できる」という文化の幻想

成長したければ従業員自身が声を上げて空きポジションに応募する、という考え方があります。しかし実際には、ほとんどの従業員は個人的・構造的・文化的な障壁により、そのチャンスを活かせていません。たとえば:

  • 機会が分かりづらい:どんな役割があり、自分にどんな可能性があるのか、そもそも気づいていない場合があります。社内公募などでポジションが出ていたとしても、上層部が積極的に発信して後押ししなければ、「本当に応募していいものなのか?」と従業員は考えます。
  • 上司の反応への恐れ:異動希望を口にすると、現在の上司が気分を害したり、裏切りとみなされるのではと心配する従業員も多くいます。
  • 適性や自信の欠如:新しいポジションに「自分がふさわしいのか」「スキルは活かせるのか」が判断できず、自信が持てずに応募を躊躇します。
  • プロセスの不透明さ:社内異動の手順がわかりにくかったり、サポート体制が整っていないと、失敗すれば今の職が危うくなるのではと不安になることもあります。
  • 不満が理由とは言いづらい:従業員は、特に現在のチームや上司への不満が理由であれば、悪影響を恐れて、異動を希望する本当の理由を口にしたがらないかもしれません。

可視化(Visibility)の重要性

従業員は透明性を求めています。「なにが可能か」「何が評価されるか」「AからBへどのように到達するのか」を知りたいのです。自分の強みがどんな新しい機会につながるのかが明確に見えれば、たとえ横方向への異動や難易度の高いプロジェクトでも、人材が定着する可能性は高くなります。

一方、マネジャーはチームの成長を助けたい気持ちはありながら、優秀な従業員を失うことを恐れて内部異動を間接的に止めてしまうことがあります。組織の柔軟な人材活用を実現するには、マネジャーがチームのスキルを正しく理解し、どのスキルギャップを他部署の協力によって埋められるか、あるいはチームメンバーの強みを活用する新たな方法を見出す必要があります。また、内部の異動を効果的に機能させるためには、チームメンバーのスキルが他の場所でどのように通用し、組織全体の利益につながるのかを理解する必要があります。そうすることで、全員が「より大きな利益」に向かって働くという全体最適の文化が生まれ、従業員、マネジャー、チームがより効果的になります。

キャリアパスを可視化することの意味

積極的なキャリアの可視化とは、単なる情報を並べただけのポジション掲示から脱却し、スキルをマッピングし、キャリアパスや能力開発の機会を分かりやすく、かつアクセスしやすくするということです。スキルと機会に共通言語がなければ、社内の才能は見えづらく、十分に活用されません。
組織は、従業員にパーソナライズされたインサイト、スキル向上の機会、目に見える道筋を提供する必要があります。適切なインサイトによって、役割やチーム、ビジネス全体のスキルをマッピングできます。キャリアを可視化することで、マネジャーと従業員の間で能力開発計画や成長について有意義な会話が生まれ、各自の強みや希望に基づいて、個人と組織にとってどのような未来が可能かを示すことができます。

キャリアパスを可視化することの意味

おわりに

日本でも起こっている人材の流動化は、組織が一方的に従業員を管理する風土を変え、組織は機会を、従業員はスキルや能力を提供して双方が納得する形で組織のパフォーマンスを向上させていく方向へ後押ししています。従業員の能力を最大限に引き出し、また優秀な人材の定着を促すために、自社内のキャリアパスや個々の具体的な可能性をきちんと提示できているか、今一度自社を振り返り点検してみてください。

水上 加奈子

このコラムの担当者

水上 加奈子

日本エス・エイチ・エル株式会社
マーケティング課 課長

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