コラム 人事コンサルタントの視点

サクセッションプランにおける基準の転換~コンピテンシーからコンテクストへ

はじめに

サクセッションプランは現在の日本企業におけるタレントマネジメントの最優先課題となりました。企業が持続的に成長するためには、経営リーダー候補者を計画的に育成しいつでも交代できるよう準備しておくことが必要だからです。経営環境の変化が速く、リーダーに求められる役割が数年単位で大きく変わる現代において、後継者の選定基準をどのように設定するかは極めて重要な問題です。これまで一般的だったのは、リーダーに求められる資質や行動特性、いわゆるリーダーシップコンピテンシーを基準に据えるやり方でした。しかし近年、SHLが提唱するリーダーシップコンテクストという概念が注目され、従来型の考え方を補完、あるいは転換する新しいアプローチとして広がりつつあります。

はじめに

コンピテンシーを基準とする考え方

ご存じの通り、リーダーシップコンピテンシーとは優れたリーダーの行動特性、能力やスキルの集合体です。コンピテンシーは成果を生み出すことと顕在化していることがその特徴ですので、外部から個人を評価しやすく、また30年以上にわたって日本企業の人事制度に組み込まれているためなじみやすい概念といえます。
リーダーシップコンピテンシーを用いたサクセションプランで、決断・率先垂範、戦略立案、創造・改革、起業家精神・商才などのコンピテンシーを基準に後継者候補を選抜します。このアプローチの最大の強みは、一般的な経営リーダーとの客観的な比較が可能なこと。全候補者を共通の基準で評価できるため、透明性の高いプロセスを作ることができます。また、評価とフィードバックによって能力開発施策に繋げることも容易です。
一方、リーダーシップコンピテンシーは一般的に優れたリーダーを前提にしたコンピテンシーモデルであるため、各リーダーの置かれた環境や役割の特殊性を反映しにくいという問題もあります。例えば、急成長を遂げる新規事業を率いるリーダーと、成熟した事業を効率的に運営するリーダーでは、必要とされる行動特性は大きく異なります。しかしコンピテンシーを基準とすると、両者に同じ「理想的リーダー像」を当てはめてしまうリスクがあるのです。

コンテクストを基準とする考え方

このような問題を改善する考え方として登場したのがリーダーシップコンテクストです。SHLは2014年から2016年にかけてリーダーの成功をより正確に予測する方法を見出すための大規模なリーダー調査を行いました。この調査で発見されたものがリーダーシップコンテクスト。リーダーシップコンテクストとは、リーダーを取り巻く文脈的環境のことで、4つの要素(外部環境、組織、チーム、役割)によって構成されています。SHLはこの調査を通じてリーダーの成否に最も大きな影響を与える27項目のコンテクストを定義しました。
コンテクストによる選抜では、対象となるポストが直面するコンテクストを明確化し、それらのコンテクストに適した行動がとれるかどうかを見極めます。つまり、優秀なリーダーは誰かを問うのではなく、この状況で成果を出せるリーダーは誰かを問うアプローチなのです。
たとえば、新興市場に進出し急速な拡大を目指す場面では、高いリスクを取り、新しい戦略を推進するリーダーが求められます。一方、業界全体が成熟し利益率の維持が課題となる状況では、買収や合併をリードし、コスト競争力を高め、効率化を徹底できるリーダーが必要です。両者に共通するコンピテンシーもありますが、成功に直結する資質は異なります。リーダーシップコンテクストは、こうした状況の違いを考慮し、候補者の適合性をより現実的に判断できるようにするものです。
リーダーシップコンテクストの価値は、現在の経営・事業戦略に照らしてどんなリーダーが必要かを定義し、その視点で候補者を見極められることにあります。その結果、サクセッションプランは形式的な人事手続きではなく、実践的な取り組みとなります。

コンテクストを用いる際の留意点

リーダーシップコンテクストのアプローチは、実務に即したサクセッションプランを可能にする一方で、運用にあたってはいくつかの留意点があります。ここでは主に三つの観点から、その課題と対応の方向性を整理します。

  • 留意点1 リーダーポストのコンテクストは変化しやすいこと
    経営環境、事業戦略は常に変化しており、数年先にはリーダーは異なる行動をとらなければならなくなる可能性があります。コンテクストは変化を前提とした運用が不可欠です。具体的には、最長でも2年後の状況を見据えて設定し、定期的に見直すことが望まれます。SHLのInsight Platformでは27項目のコンテクストから簡便にプロファイルを作成できるため頻繁な見直しが可能です。変わることが常態であると認識し、更新を前提にプロセスを設計すべきです。
  • 留意点2 コンテクストを複雑化させすぎること
    SHLの調査ではコンテクストが増加するとリーダーの成功率が低下する傾向が確認されています。コンテクストは最大でも7項目程度に絞ることが推奨されます。もし8項目以上に膨らんでしまう場合は、リーダーに求められる役割自体を再定義する必要があると考えるべきです。また、全社的な整合性を優先して抽象的な共通項目に寄せるよりも、各ポストにおける現実的な状況を反映させることのほうが実効性につながります。そのためには、現職リーダーや各拠点のHRビジネスパートナーがプロファイル作成に関与し、実態に即した形で項目を選定していくことが欠かせません。
  • 留意点3 短期的な役割適合に偏るリスク
    コンテクストはあくまで現在のポストに対する適合度を見極める基準です。したがって、長期的なリーダー育成においてはリーダーシップコンピテンシーを基盤とすることが求められます。将来にわたり環境変化へ対応できるリーダーを育成するには、コンピテンシーを中心に据えた育成体系を持ちつつ、配置や選抜の場面ではコンテクストを組み合わせるという二層構造で運用することが効果的です。

コンテクストを用いる際の留意点

まとめ

サクセッションプランにおけるコンピテンシーとコンテクストの違いについて述べました。リーダーシップコンテクストが現在のビジネス環境に適した概念であることはご理解いただけたと思います。環境変化に対応できること、抽象的な能力ではなく実務に即した基準であることの二つはコンテクストの最大のメリットです。しかし、この概念をうまく運用していくには頻繁なプロファイルの更新や人材配置の見直し、リスキリング体制の整備など継続的な運用改善とその実行が求められます。
私たちは簡便に継続的な運用ができるInsight Platformをはじめとして、運用を効率化させるための様々なコンサルティングで日本企業のサクセションプランをサポートしてまいります。

清田 茂

このコラムの担当者

清田 茂

日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員

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