少子高齢化が進む日本社会では、2040年には就業者数が2022年比で14%減少すると推計されており(労働政策研究・研修機構, 2024)、限られた人材で高い成果を上げることが、あらゆる企業にとって喫緊の課題となっています。
パフォーマンスを最大化する手段としてこれまでは、当社も含めパーソナリティ特性による職務成果の予測が主に用いられてきました。しかし近年では、仕事に対する活力や熱意の程度を表すワーク・エンゲージメントも、パフォーマンスに影響を及ぼす重要な要素として注目されています。
ワーク・エンゲージメントを向上させるための理論的な枠組みとしては、JD-Rモデルが広く用いられています。ただし、どのような職場環境(仕事の要求度やリソース)が個人の動機づけにつながるかは、個々人が持つモチベーション・リソースによって異なると考えられます。したがって、職場環境と個人が持つモチベーション・リソースの一致度を考慮することが重要です。
そこで本コラムでは、弊社が2025年に行った研究「職場環境とモチベーション・リソースの一致度がワーク・エンゲージメントおよびパフォーマンスに与える影響」の結果をご紹介します。
研究概要
本研究では、日本企業6社のご協力を得て、401名の営業職プレイヤー(※一部プレイングマネージャーを含む)の各種検査やアンケートの回答結果と人事評価を用いて分析を行いました。
調査で用いた質問紙は以下の通りです。
- モチベーション・リソース検査MQ
個人のモチベーション・リソースを「エナジー&ダイナミズム」「シナジー」「内的要因」「外的要因」の4領域・18因子に分類し測定。 - 職場環境アンケート
MQの18因子に対応する内容で構成し、職場が与えている環境を集計。 - UWES(Utrecht Work Engagement Scale)
個人のワーク・エンゲージメントを、「活力(6項目)」「熱意(5項目)」「没頭(6項目)」の観点で測定。 - パーソナリティ検査OPQ
個人の典型的・好ましい行動スタイルを「人との関係」「考え方」「感情・エネルギー」の3領域・30因子で測定。
- これらの結果をもとに、以下の分析を行いました。
- 職場環境とモチベーション・リソースの一致度の算出
個人のモチベーション・リソースと、職場が与えられている環境を照合し、一致している項目数を算出。 - エンゲージメントとの関係性の検証
一致度が高いグループと低いグループで、ワーク・エンゲージメントに差があるかを比較。 - パフォーマンスへの影響の検証
各企業から収集した業績評価(3段階)を指標に、一致度がパフォーマンスに与える影響を分析。
※パーソナリティがパフォーマンスに与える影響を統制したうえで検証。
結果と考察
実際に得られた結果についてご紹介します。
- 職場環境とモチベーション・リソースの一致度とワーク・エンゲージメント
一致度が高いグループ(3以上)と低いグループ(2以下)を比較したところ、一致度が高いグループの方がワーク・エンゲージメント尺度のうち「活力(仕事からエネルギーを得ていきいきしている状態)」と「没頭(仕事に夢中になっている状態)」が有意に高いことが分かりました。
「熱意(仕事に誇りややりがいを感じている状態)」については統計的に有意な差は見られなかったものの、一致度が高いグループの方が平均値は高く、個別項目では「熱意3:仕事は私に活力を与えてくれる」「熱意5:私にとって仕事は意欲をかきたてるものである」といった設問で有意な差が確認されました。
つまり、個々人が“やる気を引き出される環境”で働いていると、仕事に活力を持ち、前向きに取り組みやすいことが示されました。 - 職場環境とモチベーション・リソースの一致度とパフォーマンス
入社3〜10年目の営業職を対象に、業績評価との関係を分析しました。
前述の通り業績評価にはパーソナリティ特性が大きく影響します。そこで、パーソナリティの影響を考慮したうえで検証を行ったところ、職場環境とモチベーション・リソースの一致度も独自にパフォーマンスに影響を与える要因であることが確認されました。
つまり、パフォーマンスに影響を及ぼす観点としてパーソナリティだけでなく、職場環境との一致度も重要であることが示されました。
まとめ
本研究の結果から、「職場環境と個人のモチベーション・リソースの一致度」が、ワーク・エンゲージメントやパフォーマンスを高める重要な要素であることが明らかになりました。これは、社員が持つ「モチベーション・リソース」に合った環境を提供することで、日々の活力や集中力を高め、成果にも直結することを示しています。
では、この知見を人事・組織マネジメントの現場でどのように活かせるのでしょうか。SHLでは、モチベーション・リソース検査MQを活用し、以下のようなアプローチをご提案しています。
- 採用・配置・配属での活用
採用時や配置・配属の場面で、候補者や社員のモチベーション・リソースと職場環境の特徴を考慮することで、最も力を発揮できる場所に配置することが可能です。 - 職場環境の調整
組織内の多くの社員が高得点を示すモチベーション・リソースを把握し、それを満たすような仕組みを整えることで、組織全体のワーク・エンゲージメントやパフォーマンスを引き上げることができます。 - モチベーションマネジメント
上司と部下の1on1や定期面談の中でMQの結果を活用し、社員一人ひとりの「やる気のスイッチ」を理解することで、効果的なモチベーションマネジメントやキャリア対話が実現できます。また、本人自身も自己理解を深めることで、セルフマネジメントや長期的なキャリア形成につなげられます
人材不足が進むこれからの時代、人事施策を考えるうえで「パーソナリティ」と「モチベーション・リソース」の両面から社員を理解する視点を、ぜひ取り入れていただければと思います。

このコラムの担当者
梅森 雄大
日本エス・エイチ・エル株式会社
HRコンサルティング2課