コラム 人事コンサルタントの視点

リーダー育成が失敗する理由とは?科学的な選抜・配置の4ステップ

「現場で一番優秀だった社員をマネージャーに抜擢したが、チームが崩壊してしまった」
「次世代リーダー研修を実施しているが、実際の経営課題に対応できる人材が育ってこない」
多くの企業の人事担当者や経営者が、このようなリーダー育成の悩みを抱えています。人的資本経営が叫ばれる中、組織の未来を担うリーダーの創出は最重要課題の一つです。しかし、従来型の「経験と勘」に頼った選抜や、一律的な階層別研修だけでは、変化の激しい現代のビジネス環境に対応できなくなっています。
本記事では、リーダー育成が失敗する構造的な原因を解き明かした上で、「ハイポテンシャル人材の選抜」から「コンテクスト(文脈)を踏まえた最適配置」、そして「経験(タフアサインメント)による成長」に至る科学的なプロセスについて詳しく解説します。

予算に載らない「質の悪い面接」が生む3つの隠れたコスト

    企業の持続的成長にはリーダーの存在が不可欠ですが、その育成は一筋縄ではいきません。多くの企業が陥りがちな失敗には、共通する3つの構造的な理由が存在します。

  • 【課題1】「ハイパフォーマー=リーダー適性あり」という誤解

    最も典型的な間違いは、現在の職務で高い成果を上げている「ハイパフォーマー」を、自動的に次世代リーダー候補(ハイポテンシャル人材)と見なしてしまうことです。
    SHLグループの調査によると、真のハイポテンシャル人材(将来のリーダーとして有望な人材)は、ハイパフォーマー全体のわずか15%に過ぎないという衝撃的なデータがあります。
    「プレイヤーとしての業務遂行能力」と「リーダーとして組織を率いる能力」は別物です。この事実を無視した抜擢は、優秀なプレイヤーを失い、不適合なリーダーを生み出すという「二重の損失」を招きます。

  • 【課題2】育成プログラムが「画一的」で現場の現実に即していない

    多くの企業で行われているリーダー研修は、「論理的思考力」や「コミュニケーション力」といった、一般的で汎用的なスキルの習得に終始しがちです。 しかし、実際のビジネス現場でリーダーに求められる行動は、「急成長中の新規事業を牽引する」のか、「成熟した組織を再構築する」のかといった「置かれた状況(コンテクスト)」によって全く異なります。個別の文脈を無視した画一的な育成は、実戦での行動変容に繋がりません。

  • 【課題3】客観的な測定指標(ものさし)の欠如

    リーダーの選抜において、上司の主観や「なんとなくの印象」が介入してしまうことも深刻な課題です。
    データによれば、ハイポテンシャル人材の選抜の75%は主観的な判断に基づいて行われています。これでは、上司と似たタイプの人材ばかりが選ばれる(バイアス)リスクがあり、多様性が損なわれるだけでなく、本当に能力のある「埋もれた人材」を見落としてしまいます。

成功確率を高める「科学的リーダー育成」の4ステップ

    では、どうすれば再現性の高いリーダー育成が可能になるのでしょうか。 重要なのは、全社員の中から将来の種(HiPo)を見つけ出し、経営を担うリーダーへと絞り込んでいく「ファネル(漏斗)」のような段階的アプローチです。

      未来のリーダーを特定する

      強固なリーダーシップパイプラインを作るための最も重要な第一歩

    • ハイポテンシャル人材
      リーダーシップポテンシャルを持っているのは誰か?
    • 戦略的な整合性
      私たちは現在と未来に求められるリーダーシップスキルを保有しているか?
    • サクセッションプラン
      この重要なリーダー職を引き継げる人材は誰か?
    リーダシップパイプラインについての3つの要素
  • Step1:ハイポテンシャル人材(HiPo)の発掘と特定

    最初の段階では、特定のポストに限定せず、広く「将来リーダーになり得る資質を持つ人材」をプールします。ここで重要なのは、以下の「汎用的な3つのポテンシャル要素」を指標に、客観的なアセスメントでスクリーニングを行うことです。

    • Aspiration(熱意):より高い役割や責任を担いたいという意欲、上昇志向
    • Ability(能力):経営幹部などの上位層リーダーとして活躍するための知的能力
    • Engagement(適性):企業や組織への共感、コミットメントや愛着心
    • この3要素を兼ね備えた人材こそが、育成投資を集中させるべき真の「ハイポテンシャル人材」です。

    ハイポテンシャル人材:高業績者が持ってる3つの特徴
  • Step2:経験学習(70:20:10)と自己認識の深化

    特定された人材を育てる鍵は「70:20:10の法則」にあります。リーダーの成長の70%は「仕事上の経験」から得られ、20%は「他者(上司やメンター)からの薫陶」から、座学からはわずか10%しか得られないという経験則です。

      リーダーは教室の中ではなく、現場の決断の中で育ちます。したがって育成フェーズでは、以下の2つをセットで提供します。

    • タフアサインメント(修羅場経験):より高い役割や責任を担いたいという意欲、上昇志向
      本人の実力より一回り高いレベルの課題(例:撤退寸前の事業立て直し、海外拠点の立ち上げ)を意図的に割り当てます。
    • アセスメントに基づく自己認識:単に修羅場に置くだけでは潰れてしまうリスクがあります。OPQなどのアセスメント結果をフィードバックし、「不確実な状況で決断が遅れる」といった自身の特性(強みとリスク)を深く理解させた上で経験させることが重要です。
  • Step3:27のコンテクストを用いた選抜と配置(サクセッション)

    タレントプールから、いよいよ具体的な重要ポスト(部長級・役員級など)の後継者を選抜する段階です。ここで初めて「コンテクスト(文脈)」の概念が決定的な意味を持ちます。
    「優秀なリーダーならどこでも通用する」わけではありません。リーダーの成功は「個人の資質」と「置かれた環境」の相性で決まります。SHLでは、リーダーが直面するビジネス上の課題を「27のコンテクスト」として体系化しています。

    コンテクスト一覧(Leadership Challenges)
    チームのパフォーマンスを推進する
      チームのパフォーマンスを推進する
    • 人材を最大限に活用する
    • 創造性と革新を推進する
    • ネットワークパフォーマンスを向上させる
    • 地理的に散らばったチームをリードする
    • 人材を最大限に活用する
    • 協調し合わない風土を変える
    • 揉め事の多い風土を変える
    変革をリードする
      変革をリードする
    • 新しい戦略を立案し、推進する
    • 急速に変化する製品、サービス、プロセスに対応する
    • 不確実性が高くあいまいな状況下で業務を遂行する
    • 合併や買収でリードする
    • 頻繁なリーダー交代に適応する
    リスクと評判をマネジメントする
      リスクと評判をマネジメントする
    • 高いリスクをとる状況下で業務を行う
    • リスクを嫌う状況下で業務を行う
    • リソースがかなり制限された中で運営する
    • 人や業務の安全とセキュリティを確保する
    • 対外的に組織を代表する
    • 環境の持続可能性を確保する
    リスクと評判をマネジメントする
      結果を出す
    • 高い利益率を実現する
    • イノベーションでビジネスを成長させる
    • 市場シェアを伸ばしてビジネスを成長させる
    • コスト競争力でビジネスを成長させる
    • 地理的拡大を通じてビジネスを成長させる
    • 独立採算の事業を経営する
    • 製品・サービスの幅広いポートフォリオをマネジメントする
    • 卓越した顧客サービスを提供する
    • 共通する業務やサービスを集約して果たすチームをリードする

    サクセッションプランでは、対象となるポストが「今、どのコンテクストにあるか」を定義します。
    例えば、同じ「営業部長」というポストでも、「シェア拡大(攻め)」のフェーズなのか、「コスト構造改革(守り・効率化)」のフェーズなのかによって、適任者は全く異なります。
    SHLの調査では、このコンテクストを考慮してリーダーを選抜した場合、その成功確率は平均で4倍以上高まることが分かっています。

  • Step4:データに基づく戦略的オンボーディング

    最適な配置後も科学的アプローチは続きます。「コンテクスト適合度が高い」といっても完璧な人材はいません。 アセスメントで「変革力は高いが、融和に課題がある」と判明していれば、着任当初からチームビルディングに長けたメンターを付けるなど、リスクを先回りして最小化する対策が可能になります。

成功事例に学ぶ:データドリブンなタレントマネジメントの実際

成功事例に学ぶ:データドリブンなタレントマネジメントの実際

まとめ:不確実な時代のリーダー育成は「科学」と「文脈」で加速する

    リーダー育成は企業の未来を決める最重要投資ですが、もはや過去の成功体験や主観的な勘は通用しません。

  1. 発掘:汎用的な「ポテンシャル」で広く候補者を見つけ出す。
  2. 育成:自己認識を深めさせ、「修羅場経験」で筋肉を鍛える。
  3. 配置:「27のコンテクスト」で経営課題との適合度を見極める。
  4. このプロセスを、アセスメントという客観的なデータを用いて回していくことが、失敗しないリーダー育成の鉄則です。

SHLは、40年以上にわたる科学的知見とデータに基づき、貴社のリーダー育成を変革するパートナーです。「コンテクスト」を基軸にした最新のタレントマネジメントソリューションInsight Platformや、世界で最も信頼される適性検査OPQを活用し、強い組織づくりを支援します。

水上 加奈子

このコラムの担当者

水上 加奈子

日本エス・エイチ・エル株式会社
マーケティング課 課長

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