はじめに

新時代のリーダーに求められる新しいリーダーシップスタイルとして、SHLはエンタープライズ・リーダーシップを提唱しています。エンタープライズ・リーダーシップを発揮するリーダーは、自分の責任範囲だけにとどまることなく、周囲の組織や人の業績向上に貢献し、その周囲の組織や人の力をバネにイノベーションを起こし、組織を飛躍的に成長させます。
従来のリーダーシップモデルと異なるエンタープライズ・リーダーシップの特徴はネットワーキングです。本コラムでは、エンタープライズリーダーにとって極めて重要なこのネットワーキングについて述べます。
エンタープライズ・リーダーシップの詳細は、コラム「エンタープライズリーダーとはなにか」をご覧ください。

なぜ、ネットワーキングが重要なのか

リーダーにとってネットワーキングが重要であることを示すいくつかの記事を紹介します。
まずは、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR100周年記念)に掲載された「共創を実現するリーダーシップ」のABCです。
このABCはそれぞれの文字がリーダーとしての役割を示しています。AはArchitect(アーキテクト)、つまり設計者です。イノベーションを生み出す組織の制度、風土、マインドのためのあらゆるものを作る人です。BはBridger(ブリッジャー)、橋渡し役です。社内外の様々な組織のつながりとなる人。CはCatalyst(カタリスト)、触媒です。触媒とは周囲の人に影響を与え、変化を促進する人のこと。共創を生み出すリーダーにはこの3つの役割が重要と述べられています。

特に注目すべきなのは、BとCです。Bの橋渡し役は事業、地域、部門を超えたイノベーションを奨励し、あらゆる人材や技術にアクセスできる環境を作ります。組織、部門、業界、地域を超えた相互の信頼関係を構築します。Cの触媒は共創を求められている組織や個人がアイデアを素早くビジネスにつなげるため、他社間のコラボレーションを促進します。
これら二つの役割は人間関係を作り、その関係を活用するネットワーキングそのものと言えます。

次は、イノベーションのDNAで紹介された優れたイノベーターの持つ行動的スキルです。質問力、観察力、ネットワーク力、実験力の四つのスキルが挙げられています。
注目すべきはもちろんネットワーク力です。イノベーションを生み出すネットワーク力とは、新しいアイデアやインサイトを持つために異なる視点や考え方の人と交流する能力です。自社を売り込んだり、協力を得たりするための目的を持った交流ではなく、普段話すことがない全く関係のない分野の人との交流や対話であることが重要です。異なる分野の情報がつながることで新発見や新しいアイデアが生まれるのです。

ネットワークリーダーコンピテンシーとは

SHLは、エンタープライズ・リーダーシップを三つの側面(変革、執行、ネットワーク)からなる12項目のコンピテンシーによって測定します。ここではネットワークリーダーシップについて詳しく説明します。
ネットワークリーダーシップとは、組織内外の幅広いネットワークを構築し、連携させ、有効化することで、強力なネットワーク・パフォーマンスを確立することです。このリーダーシップを構成するコンピテンシーは以下の4項目です。

1. ネットワークの構築
チームや部署の垣根を越えて、さまざまな分野の人々が相互に有益なつながりを築くのを助ける。このコンピテンシーを発揮する人は、ネットワーキングの努力の成果である個人のパフォーマンス向上、組織横断的な協力関係の強化、イノベーションの拡大を得ることに大きな喜びを感じる。自分が築いたネットワークをチームのメンバーにも活用するよう促す。

2.ネットワークの活性化
革新的な思考とパフォーマンスを育むために、適切な緊張感を作り出す。緊張感を生み出すために、主に新しいアイデアや課題をネットワークに導入する。メンバーに意思決定を任せるが、勢いを維持するために介入すべきタイミングを見極められるよう、近くにいる。生産的な対立と非生産的な対立(例:個人的ないさかい)を区別し、後者に適切に対処する。

3.相互依存の創造
個人が他者と協調することを推奨し、提言や意思決定を評価する責任をグループに課すことで、ネットワークの自律性を高める。自ら問題解決に乗り出すのではなく、皆で協調しながら問題解決するよう促し、ネットワークの自律性を高める。グループ内の自律的な相互依存を育めるよう、自分の考えを最初には述べない。支配的ではなく、最善の決断を下すためには、常にその決断に関与する必要があるとは考えない。

4.ネットワークの有効化
ネットワークが大きな組織で効果的に機能するよう進んで介入する。ネットワークを保護し、その中から出てきた提言の推進者となることを恐れず、組織全体に有益なアイデアを浸透させる。ネットワークを阻害する問題や障壁の解決に取り組む。ネットワークの目標達成のために現状に立ち向かうことを恐れない変革者と見られる。反対勢力に対して挑戦することを厭わず、ネットワークの成功を他の人と話したり、ネットワークの価値を示す機会を見つけたりすることを楽しむ。

これら四つのコンピテンシーはユニバーサルコンピテンシーフレームワークと以下の通り関連付けできます。

ネットワーキングのスキルを身に着けるためのヒント

ネットワークリーダーシップを発揮するためには、基本的なネットワーキングのスキルを身に着ける必要があります。ここではユニバーサルコンピテンシーフレームワークのコンピテンシー項目である「関係作り・ネットワーク」の開発のためのヒントをご紹介します。

1.ネットワーキングの準備をする
・人間関係を築くべき重要人物を組織の中で見つけます。その人たちがあなたやあなたの部署にどのような影響を与えているか、どのようにすれば彼らがあなたの役に立つか(そして、あなたが彼らの役に立つか)を明らかにします。彼らと接し、その関係を維持する戦略を開発します。

・同僚のグループについて考え、彼らの個人的なインパクトの点で各人を評定します。グループの中でなぜある人々がより大きな信頼性や知名度をもっているのかを考え、全体的なインパクトの増減に関係するような具体的行動に注意します。同僚と比べてのあなた自身のインパクト・レベルを評価し、必要であれば自分の影響力を高めるための対策を講じます。

・自分の支配的スタイルや強制的スタイルのために他者を萎縮させたり圧倒したりしたかもしれない例を見つけます。他者が時にあなたのことを「うるさい」、「おしつけがましい」、「自己中心的だ」と思うかどうかを吟味し、それに従って自分のスタイルをどのように変えられるかを考えます。

揉め事や個人攻撃と思われるような状況に自分がどのように感情的に反応するか、時にあなたの反応があなたの行動にマイナスの影響を与えるかどうか、を考えます。必要であればこの問題をメンターやコーチと話し合い、より効果的な反応や葛藤対処戦略を開発します。

2.練習する
・社交の場で人と信頼関係を築いてくつろがせる練習をします。質問することで相手やその仕事に興味があることを示します。「軽いおしゃべり」があなたにとって本当に問題ならば、小さなグループに混じってやり取りするよう努めましょう。

・将来顧客になる可能性のある人やビジネスの新しいコンタクト先に自分を紹介する練習をします。自分のボディ・ランゲージ、声の調子、初めて会う人に最初に何を言うか、を考えます。どのようにしたら第一印象を改善できるかについて友人からフィードバックをもらいます。

3.ネットワークに参加する
・職種を超えたプロジェクトや部署をまたがる委員会に参加したり、共通の問題や関心事について、他部署と協同ワーキンググループを作ったりしましょう。結果を出すことが特にうまいと思う部署について研究します。彼らの成功の鍵である戦略を見つけ、それらのアイデアを自分のグループの中でどのように活用できるかについて、チームメンバーと一緒に検討します。

・組織の中で広い範囲の人と人間関係を築くために、社交的な集まりを利用します。あなたのチームの目標達成を祝うイベントに他部署のマネージャーを招待し、成功が共有されている感じや協力感を醸成します。同様に、適宜、他部署の祝い事に参加します。

・あなたの通常のやり取りの範囲よりも広いネットワークに参加することによって、組織の中でのあなたの認知度を高めます。組織のセクションを越えた幅広い人と会ってやり取りする機会を求めます。適宜、仕事以外の場面で同僚と付き合う時間をとります。

おわりに

リーダーにとってネットワーキングが重要であることは今も昔も変わりがないという意見があります。私もその通りと感じます。しかし、新しい時代のリーダーに求められるネットワーキングのスキルは、政治的なネットワークを作ることや今の自社にとって有益な人脈を作ることではありません。不透明な未来を生き抜くためのイノベーションを生み出すリーダーシップが必要であり、そのリーダーに求められるネットワーキングのスキルとは、人のため、社会のため、世界のためを前提として、自分とは異なる様々な価値観や視点、考え方を持つ人、時には敵対する相手と対話し、そこから新しい発見やアイデアを見出す能力なのだと考えています。

参考文献
リンダ A.ヒルほか(2022)、「共創を実現するリーダーシップ」、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2023年 2月号 ダイヤモンド社
クレイトン・クリステンセンほか(2012)、『イノベーションのDNA』翔泳社

さて、本サイトではおよそ3年間、毎週人事やタレントマネジメントに関する様々なテーマをコラムで発信してきました。今年最も読まれたコラムトップ10を振り返ったところ、ご覧になっている人事担当者の皆さんの関心事が浮かび上がってきました。

今年最も読まれたコラムトップ10

今年、最も読まれたコラムトップ10は以下の通りです。
  1. 適性検査の見直しにも!SHLの採用適性検査シリーズとその違いを一挙ご紹介(玉手箱Ⅲ、GAB、CAB、RAB、その他)
  2. 「万華鏡30」を能力開発に活用する方法
  3. 管理職に求められる情報整理能力と問題分析能力
  4. 管理職登用・昇格試験に利用できるアセスメントツール
  5. ゲーミフィケーションとゲームベースアセスメント(後編)
    ※後編はゲームベースアセスメントについて述べていました。
  6. マネジャー&シニアマネジャーノルム搭載!アセスメントツール「万華鏡30」
  7. 経営層・管理職のパーソナリティ傾向
  8. データ分析における主観性と客観性 ~シンプソンのパラドックスとデータ・インフォームド~
  9. 内定者への適性検査のフィードバック
  10. ハイポテンシャル人材にはどのような経験が必要か

なんとコラムトップ10のうち、半数がリーダー層に関わるテーマでした。

リーダーがカギを握る

過去数年のパンデミック、急速に発展するテクノロジー、グローバルな政情不安などを背景に、私たちを取り巻く世界はパラダイムシフトが起こりつつあります。ビジネスの世界でも組織は様々な未知の課題に直面しており、中心となって組織を動かすリーダー層はかつてないほど重要になっています。リーダーの役割の重要性を再認識する局面を迎え、人事・組織課題としてリーダー層の強化という潮流の一端がランキングに表れているのかもしれません。
当社でも、新時代のリーダーシップをテーマにエンタープライズリーダーシップというモデルをご紹介しています。変化が加速する世界で、変化に対応する新たなリーダーがカギを握ることになるでしょう。

おわりに

日本エス・エイチ・エルは、2023年、今年TOBによりSHLグループの完全子会社となり、組織として大きな変化を迎えた1年でした。SHLグループの専門的かつ洞察に富む人事領域の知見を、皆様によりタイムリーに提供しお役に立ちたいと思います。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

はじめに

今の時代に理想的なリーダーとはどのような人だと思いますか?
今までに様々な学者がリーダーシップに関する膨大な研究を行ってきました。本当にたくさんのリーダーシップモデルが存在する今日、リーダーシップは多様であるためリーダーの置かれた環境に最適な行動をとることが最も優れたリーダーシップの発揮方法と考えてしまうのが最適解かもしれません。リーダーも適材適所と私は考えています。
さて、これからご紹介するエンタープライズリーダーはSHLが定義した新しい時代のリーダーシップモデルです。エンタープライズ・リーダーシップとは何か、なぜ今エンタープライズリーダーが求められるのかご説明いたします。

エンタープライズリーダーとは

エンタープライズリーダーとは、SHLが定義する新しい時代に求められるリーダーのことです。新しい時代といっても未来のことだけを言っているのではなく、大きく素早い変化の渦中にある現在に求められるリーダーを指します。定義は次の通りです。
エンタープライズリーダーとは、個人の業績目標を達成し、他者の業績向上に貢献し、他者の業績から力を引き出し、チームにも同じことをするよう促すリーダーです。
エンタープライズリーダーは自分の担当領域だけでなく他部門を含めた企業全体に貢献し、加えてチームが自チームの業績だけでなく他チームを含めた企業全体に貢献できるようにします。

複雑さを増す環境

今、世界中で働く人々の意識が変化しています。大きな影響を与えた出来事は新型コロナウィルスの世界的流行です。リモートワーク、多様性、公平性、包括性、帰属意識、意義、目的を仕事や職場に求める動きが世界中で起きています。SHLの調査は、これらの変化がリーダーに以下の影響を及ぼしたと報告しています。

・意思決定をするために、多くの同僚や部下とコンセンサスを築かなければならない
・責任範囲が広がり、部下の専門知識に頼らざるを得ない
・不慣れな人間関係に対して新しい組織文化を浸透させなければならない
・チームの日常を見ることができないため、メンバーを完全に信頼しなければならない
・指示をしなくても、メンバーが自律的に動けるようにしておかなければならない
・メンバーがお互いに指導や支援、能力開発し合う文化を築かなければならない

加えて、多くの企業が今のリーダーに対して以下3つの問題意識を持っていることがわかりました。

1. 組織の将来ニーズに対応する準備をしているリーダーが少ない
2. 経営・事業レベルのコラボレーションを主導できるリーダーが少ない
3. 自部門だけでなく会社全体を考慮して意思決定しているリーダーが少ない

これら調査結果を踏まえ、今日のリーダーに求められる役割行動を次の通り要約しました。

今日のリーダーに求められる10の役割行動

リーダーに求められる役割行動は10あり、三つのグループに分類できます。

一つ目はビジョンを描き戦略を立てることに関するもの。以下の5項目です。

1)長期ビジョンを設定する。革新性と創造性を発揮し、「what-if」を問う。
魅力的なビジョンを描き、みんなの共感と賛同を得ることが重要です。リーダーがどのように世界をよくしていきたいかをメンバーは知りたがっています。

2)楽なことより正しいことをする。意味、目的、理由を明確にする。
パーパス経営という言葉が流行っています。ポストコロナの現代において、儲かるだけの会社では選ばれません。どのような存在意義があり、どのように社会に貢献するための組織なのか。そしてその社会貢献のあり方は正しいものなのかを人々は見ています。

3)人々を組織の目的に結び付け、みんなの考え方を変える。
各従業員の価値観、人生観、キャリアプラン、生活環境、個人的事情などと組織方針や戦略を結び付けることによって、全メンバーの意欲を引き出し、適材適所の配置によって才能を引き出します。すべての従業員を生かす組織の在り方を示すことでみんなの考え方は変わっていきます。

4)事業の戦略的意図を浸透させる。
いくら優れた戦略を立案しても、全メンバーが戦略を理解していなければ何の意味もありません。笛吹けど踊らずの理由は、これがうまくできていないからです。

5)組織文化を明確にして、行動と価値観のモデルを示す。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド、アマゾンのプリンシプル、ネットフリックスのカルチャーデックは有名な成功事例です。多くの企業でミッション、ビジョン、バリューを持っていると思いますが、行動規範としては抽象度が高いものが多いように感じます。バリューを実践するためのコンピテンシーがあれば、具体的な行動モデルを示すことができます。

二つ目は戦略を実行することに関するもの。以下の3項目です。

6)積極的に意思決定し、組織課題の解決策を見出す。
リーダーは速やかに意思決定しなくてはなりません。環境の変化が早く大きいからです。意思決定のタイミングを逃せば、問題解決はより困難さを増します。小さな組織課題が組織戦略を崩壊させるきっかけとなる可能性もあります。

7)権限委譲し、信頼する。インクルーシブアプローチに従い、共創する。
権限移譲できなければ、大きな組織をリードすることは不可能です。また多様性を受け入れるだけでなく、積極的に活用することがイノベーションを生みだす起爆剤となります。同質なメンバーによる密室での議論、リーダーによる独裁的な決断が、世界をゆがめていく様子を私たちはよく知っています。

8)人の成功を支援し、人を通じて成果を出す。
マネジメントの本質は「人をして事をなさしむ」です。執行型のリーダーとしての役割を端的に述べています。

三つ目は人との関りを作り出すことに関連するもの。以下の2項目です。

9)人を鼓舞し説得することで、社内外でパートナーシップを築く。
リーダーはその権限によって部下に対する支配力を持つと考える人がいますが、おそらくその人は自分が部下をマネジメントした経験がないか、部下をコントロールできていない人です。人は権限に従うのではありません。ビジョン、情熱、勇気、誠実さ、優しさ、感謝、知性などを示すリーダーの人の魅力に従うのです。真のリーダーは組織のヒエラルキーや権限に関わらず、社外であっても同じように影響力を行使できます。

10)変化への順応性と開放性。組織の枠にとらわれず、外部の人と関わる。
今いる従業員だけで対応できる変化だとしたら、その変化は些細なものです。現在起こっている環境変化は、組織に対して新しい能力、知識、技術を求めます。外部の人とのコラボレーションを抜きにして環境変化に対応するイノベーションを生み出すのはかなり困難なことと言えるでしょう。

エンタープライズ・リーダーシップの役割とコンピテンシー

最終的にSHLはエンタープライズリーダーの役割を四つに要約し、それらの役割遂行に求められる12項目のコンピテンシーを定義しました。
役割の一つ目はリーダー・タスク・パフォーマンス。自分自身のタスクを遂行し、目標達成する役割のことです。二つ目はリーダー・ネットワーク・パフォーマンス。他の人の業績を改善し、その人に貢献してもらうことで自分の業績を向上させる役割。三つ目はチーム・タスク・パフォーマンス。チームが自らのタスクを遂行し、チーム目標を達成できるようにする役割。最後がチーム・ネットワーク・パフォーマンス。チームが他部署の業績を改善し、その他部署に貢献してもらうことでチームの業績を向上させられるようにする役割。つまり自らがリーダー・ネットワーク・パフォーマンスでやっていることをチームに求めること。




これらの役割を遂行するために定義された12項目のコンピテンシーは変革、執行、ネットワークの3グループに分類されています。以下の通りです。

1.変革のためのリーダーシップコンピテンシー
方向性を示し、変化を促すために他者を鼓舞する。組織の使命、文化、戦略を形成し、組織全体に変化を促し、期待以上のパフォーマンスを発揮できるよう、他の人々の意欲を高める。

・創造と構想
・交流とプレゼンテーション
・指導と決断
・進取の気性とパフォーマンス

2.執行のためのリーダーシップコンピテンシー
戦略を効率的に実行するために従業員を組織し、指揮する。目標を設定し、業績を監視し、社員の仕事を管理し、報酬を分配する。

・分析と解釈
・適応と対処
・支援と協力
・組織と実行

3.ネットワークのためのリーダーシップコンピテンシー
組織内外の幅広いネットワークを構築し、連携させ、有効化することで、強力なネットワーク・パフォーマンスを確立する。

・ネットワークの構築
・ネットワークの活性化
・相互依存の創造
・ネットワークの有効化

おわりに

以上がSHLのエンタープライズ・リーダーシップです。エンタープライズリーダーは理論的に優れているだけでなく、実際に売上と利益の成長率にプラスの影響を与えることがSHLの調査でわかっています。個人として優れたリーダーよりも、優れたエンタープライズリーダーはネットワークの力を使って、企業の業績を向上させることができるのです。この調査についてはまた別の機会でご紹介いたします。
また、今回ご紹介したエンタープライズ・リーダーシップはパーソナリティ検査OPQによって測定できます。ご興味のある方はお問い合わせください。

今回は、現状のリーダーシップを取り巻く環境を概観するとともに、ハーバード・ビジネス・レビューの記事からそのヒントになるモデルを簡単にご紹介します。

リーダーの取り巻く環境の変化と課題

リモート/ハイブリッドな働き方、多様性、包括性、帰属意識の高まり、意義ある仕事や目的の探求など、世界中の職場で変化が起きています。リーダーシップにも大きな影響を与えており、その環境はかつてないほど複雑です。SHLグループの調査によれば、

‐61%のリーダーが協議すべきステークホルダーが増えている
‐85%のリーダーの責任が増している
‐58%のリーダーが地理的に離れたチームを管理している
‐50%のリーダーが直属の部下との時間が減っている

また、現状のリーダーは次の状況であり、リーダーシップの過渡期と考えられます。

-75%の事業部門は、組織の将来的ニーズに対応する能力をもつリーダーがいない
-自社のリーダーが強いコラボレーションを推進する力があると考える人事部長は10%しかいない
-自社のリーダーが組織全体のニーズを考慮した意思決定を行っていると考える人事部長は38%しかいない

「Collective Genius 」から「Scaling Genius」へ

新たなリーダーの役割のヒントとして、2022年のハーバード・ビジネス・レビューの記事「What Makes a Great Leader?」を一部要約・抜粋して取り上げます。
当該記事では、前段として過去のリーダーシップ研究であるCollective Genius(集合的/集団的天才)について紹介しています。書籍「Collective Genius」(2014)によれば、過去20年にわたり日常的にイノベーションを起こせる組織を構築したリーダーについて実地調査をした結果、次のようなリーダー像が浮かび上がりました。それは、イノベーションは一人の天才が「ハッ」とした閃きで生まれるものではなく、誰もがその才能と情熱において「一片の天才」的要素を持っており、それを解き放ち活用することで、革新的なソリューションを開発できると信じていることでした。彼らは、ボトムアップの創造性、自発性、即興性を支援する一方で、構造、業績評価基準、保護的な施策を確立することで、大きなリスクテイクを最小限に抑え、人々の足並みを揃えるという、イノベーションのパラドクスを見事に管理していました。また、革新的な問題解決への障壁を取り除き、「コミュニティ文化」と呼ぶ、メンバーが共通の目的、共有する価値観、そして共創の基盤となる相互関与のルールによって結ばれる文化を築きました。
このCollective Genius 1.0と呼ぶべき発見ののち、著者らは更なる研究を続けた結果、成功したリーダーたちはさらに次の特筆すべき点が浮かび上がりました。それは、革新的な組織作りだけでなく、組織の垣根を越えて共創できるネットワークやエコシステムも構築できていたという点です。Collective Genius2.0ともいえる、Scaling Genius(天才の拡大)という新たな側面に焦点をあてました。

新たなモデル:リーダーシップのABC

Scaling Geniusと著者らが表現するリーダーの機能は次の3つです。研究によればこれらの役割が今後リーダーにとって求められるといえそうです。

Architect(設計者)
第一線で働く従業員から経営幹部に至るまで、組織内のすべての人が意欲的にイノベーションを起こせるような文化や能力をリーダーが創造する必要があります。研究では、リーダーシップスタイル、タレント(人材)、組織構造、オペレーションモデル、ツールの5つの手段を使って、アーキテクトとして組織を設計、構築、進化させ、長期にわたってイノベーションをサポートしています。これらの組み合わせにより、創造性を制限する障壁を取り除き、共創に必要なマインドセットと行動を構築しています。

Bridger(橋渡し)
リーダーが組織内の機能、地域、事業部門を越えてイノベーションを促すことは難しく、まして社外の人と緊密に連携することは非常に困難です。しかし、それこそがブリッジャーの役割なのです。単一の部門、事業部、会社の中では見つけることのできない才能やツールへのアクセスを体系的に獲得することが役割であり、リーダーはブリッジャーとして、組織、部門、業界、地域を超えて、相互に信頼・影響・コミットメントを促す社会的なつながりを構築しなければいけません。

Catalyst(触媒) ※物事を促進させるという意味合い
イノベーションには、時に、より広範なエコシステムの中で、個人やグループが組織から独立して共創を行う必要があります。アイデアをより早く成果につなげるために、リーダーはカタリストとして複数間のコラボレーションを促進し、加速させる必要があります。リーダーは組織が捕えられている相互依存の”網”を能動的に管理し、関係性をマッピングし、キーとなる人々に活力を与え活性化させる役割を担わなければなりません。目的達成のため、他の組織にこれまでとは異なる働きをするよう促すのです。

新たなリーダー像の模索

本コラムでは割愛しましたが、今回ご紹介した記事には具体的な事例も紹介されており、Catalystの一例として日本企業の全日本空輸(ANA)の新事業、avatarin株式会社も紹介されています。複雑化する社会では、社内の横断的なコラボレーションだけでなく、幅広く社外も含めて協業を推進できるリーダーが求められます。

はじめに

VUCA以上の急速な変化を表すBANI(Brittle不安定、Anxious心配、Non-linear非線形、Incomprehensible不可解)と呼ばれる現在、環境に適応できる経営リーダーを準備しておくことは、あらゆる会社にとって最重要の人事課題です。
近年、サクセッションプランを導入する企業から経営人材の要件定義(コンピテンシーモデリング)のご依頼を受けることが増えてきました。日本でも科学的な手法で経営幹部を選抜することが普及してきたのだと感じます。
経営幹部育成については、7:2:1(業務経験7割、薫陶2割、教育1割)の法則に基づき、いかに最適な職務経験をさせるかを議論する企業が増えています。経営者を育てる効果的なポストはどこにでもあるわけではありませんが、今の経営幹部がどのような職務を経験してきたかを調べることで、自社内にある経営者を育てるポストを見出すことができるかもしれません。
このコラムでは、経営者となるために必要な職務経験について当社で行ったコンサルティングの事例を踏まえ述べていきます。

新しい経営者を作るための調査依頼

数年前になりますが、経営改革を進める大手企業のクライアントから未来の経営者を育成するための調査に関するご相談を受けました。ご相談内容を要約すると以下のようになります。
・DXによって会社の事業を根本から変える。
・今後の経営トップは新事業を生み出し続け、会社を継続的に変化させることができる人材である。
・現在の経営幹部に新経営者像に該当する人材が数名いる。該当者の能力と経験を調査し、新しい経営リーダーに求められるコンピテンシーと経営幹部になるために必要な職務経験を定義してほしい。

ご依頼を受けて、該当者全員のインタビュー調査を実施しました。
この調査は、2つの目的で行いました。1つ目は経営リーダーのコンピテンシーを特定すること。経営幹部としての現在の役割と業務内容、今度の環境変化に関する情報を収集し、新しい経営リーダーに求められるコンピテンシーを特定します。
2つ目は経営幹部としての能力とスキルを開花させた職務経験を特定すること。キャリアの初期段階から現在に至るまでの職務経験をお聞きして、経営者としての能力、スキル、コンピテンシーの獲得に関連の深い職務経験を明確にします。該当者はそれぞれ専門性、得意分野、長所短所、当然ながら職務経験が異なる人であったため、ヒアリングした職務経験を抽象化し、役割や業務、目標、環境などの共通性を探りました。

経営者を育てた3つの経験

今回のテーマである職務経験について結果の概要を申し上げると、共通する経験として以下3つが見出されました。

・特定の機能や部分的な役割ではなく、ビジネス全体を担当する
キャリア初期の20代に会社の主流ではないビジネスや地域を担当していました。傍流のビジネスや市場は小規模であったり、未整備であったりすることが多く、自分ひとりあるいは少人数でマーケティング、商品開発、生産、営業、サポートなどのすべてを行う経験をしていました。

・混乱や不確実な中で問題に対処する
キャリアの比較的初期である20代から30代前半に事業撤退や人員削減、海外での訴訟に対応する経験をしていました。該当者それぞれが異なる経験をしていましたが、共通しているのはめったに発生せず、今まで会社が解決したことのない問題に対峙したことでした。いわゆる修羅場や逆境に立ち向かう経験です。

・30代で経営の役割を担う
企業買収や海外拠点の設立などを通じて、30代のうちに小さな組織での経営者(経営幹部)となる経験をしていました。この経験は20代での職務との関連性が強く、20代での職務成果が経営ポストにつながっていました。

経営者を育てるリーダーシップコンテクスト

これらの職務経験をより詳細に分類し、SHLのリーダーシップコンテクスト(リーダーのパフォーマンスに影響を与える環境)に置き換え、以下5つの重要なリーダーシップコンテクストを定義しました。

・グローバル/異文化のチームをリードする
異なる文化を持つ複数国のチームメンバーや業務があるグループ、部門、ビジネスを運営する。

・不確実性が高くあいまいな状況で業務を遂行する
役割と仕事が明確に定義されていない環境や、高度な不確実性を特徴とする環境でリードする。

・高いリスクをとる状況下で業務を行う
大きなリスクを冒し、成功するために大きな賭けをすることが求められる環境でリードする。

・独立採算の事業を経営する
製品、販売、マーケティング、運営、および管理機能の責任を負うエンドツーエンドのビジネス(P&L)を行う。

・新しい戦略を立案し、推進する
結果につながる新しい戦略を考案し、チームや組織を調整して実行する。

このように経営者を育てるための修羅場をリーダーシップコンテクストによって定義すれば、リーダー育成に最適なポストを見つけやすくなります。最初に申し上げた3つの共通経験だけでは、具体的なポストを選び出すことは少々難しいかもしれません。

おわりに

経営リーダーを育てるためポスト(職務経験)をどのように定義するかについて述べました。今までの経験と勘による判断からより客観的、科学的な手法による判断を行うことで、経営リーダー育成についてもオープンな議論ができるようになります。
優秀な人材を会社の主流に置き、色々な役割を少しずつ担当させ、好成績を出せるよう育成することは、未来の経営リーダーを作るための得策ではないかもしれません。傍流で逆境に向き合い、リスクを取り小さな結果を出し続けている、そんな人が未来のリーダーなのです。一見すると遠回りに見える職務経験が経営リーダーへの最短ルートであることを知っていただきたいと思っています。

はじめに

過去数年に私たちが経験した変化は、組織と個人の関係性も変化させ、仕事の世界はリセットされつつあることを多くの人が感じています。組織は単なる利益や成長を超えた成果を求められており、リーダーやマネジャーの役割を再考すべき時がきています。
今回は「ピープルマネジメントの新時代」をテーマにSHLグループが調査、整理した新たなピープルマネジメントに求められる3つの成果とそれに必要な8つの能力をご紹介します。

ピープルマネジメントで目指すべきもの

ギャラップ社の調査によればエンゲージメントスコアのばらつきの70% はマネジャーが原因の可能性があるとしています。有意義な仕事とキャリアアップに加えて、従業員は退職の最大の理由として思いやりのないマネジャーの存在を挙げています。
マネジャーは利益や成果をあげる単なるタスク管理以上の、ピープルマネジメントを求められています。

SHLでは、今日のピープルマネジメントを行う立場にあるマネジャーの成果をカテゴライズしました。目指すべき成果は次の3つです。

1.人を中心としたカルチャーをつくること – 信頼に基づく双方向の対等な関係を土台に築かれます。透明性、包含性、共感を重視します。

2.意義ある仕事への支援 – 意義ある仕事を通じてつながりを創造します。人、目的、利益の最適なバランスを取ります。

3.アジャイルかつ本質的 -ビジネスチャンスと個人のポテンシャルの最適化のために絶え間なく調整を行う準備と機敏さを持ちます。

ピープルマネジメントを成功に導くコンピテンシー

続いて、この成果を生むために必要なコンピテンシーとスキルをSHLでは以下の通り定義しました。

1.人を中心としたカルチャーをつくること – リーダーシップ・監督、協調、原理原則の遵守

2.意義ある仕事への支援- 計画・段取り、関係作り・ネットワーク

3.アジャイルかつ本質的 –適応・変化への対応、創造・改革、決断・率先垂範

おわりに

組織の方針や戦略を実行するだけでなく、上述のとおり従業員のエンゲージメントをも左右するマネジャーは、組織において非常に重要な役割を果たしています。自社におけるマネジャーの成果や能力を改めて見直し、必要に応じて再定義しながら、適切な人を育成・昇格させる際の参考になれば幸いです。

参考:
The New Era in People Management
An Opportunity for Change through People Management

上司と部下の良好なコミュニケーションは、日々の業務遂行だけでなく、事業戦略の実現やエンゲージメント向上においても重要な役割を果たしています。書店に並ぶコミュニケーションに関する多数の書籍をみれば、多くの人がこのテーマに関心を持っていることがわかります。コミュニケーションの質は様々な要因が関連しますが、上司と部下のパーソナリティの相性も重要な要素です。本コラムでは、コミュニケーションを改善するためのヒントとして、パーソナリティから予測される上司・部下タイプとそのモデルの活用方法についてご紹介します。

上司(リーダー)のタイプ

SHLは独自のリーダーシップ研究に基づき、リーダーシップの発揮の仕方を次の5つのタイプに分類しています。これらのタイプはパーソナリティから予測可能でありOPQを受検すると、どのタイプを取りがちか、を確認できます。

・指示指導型
部下に対して具体的な指示と包括的な指導を行います。仕事の詳細な計画やスケジュールを策定し、部下の業務をモニタリングします。部下が全力で働いており、スケジュールや納期に準拠しているか確認します。

・権限移譲型
他のリーダータイプほど部下とのコミュニケーションを取らず、部下には比較的自由な裁量が与えられます。明確な指示や業務計画は行わず、プロジェクトの進め方に関して相談し、2、3のアドバイスを提供するだけで部下に仕事を任せます。

・参加要求型
最も民主的なリーダータイプです。メンバー全員が同等の地位を持つグループでの議論や多数決による意思決定を好みます。参加要求型は説得力を持ちながらも、自身の意見を押し付けることを避けます。部下に実務に関与させる機会を与えることで、彼らのモチベーションやコミットメントを引き出します。

・話し合い型
話し合い型の特徴は意思決定プロセスにグループ全体を巻き込むことにあります。民主的なアプローチを好むものの、最終的な決定は自身で下します。部下には意見を述べる機会が与えられます。

・交渉取引型
部下の望ましい反応を引き出すためにインセンティブを活用します。名前が示す通り、業務が期待通りに行われれば見返りを提供し、交渉します。

各上司タイプには、適合する部下(メンバー)タイプが定義されており、相互補完的なタイプの部下が適合しやすいとされています。例えば「指示指導型」の上司は細かな指示を出したいと考えていますので、指示に素直に従い、即座に行動に移してくれる「素直従順型」の部下と相性が良いです。一方で、「自主判断型」の部下は自分自身でやり方を判断して進めたいと考えているため、意思疎通には注意が必要です。このような部下との衝突を避けるために、適切なコミュニケーションが求められます。

上司向けのコミュニケーション研修での活用例

前述の上司部下タイプの考え方を活用して、上司向けにコミュニケーション研修を行っている事例があります。

具体的な手順は次の通りです。

1.事前にOPQを受検していただき、研修当日は自分と部下全員の受検結果リポートを用意します。

2.最初に、受検結果リポートを全く見ずに、部下に対する接し方を振り返ります。部下一人ひとりに対して、以下の3つの質問に回答してもらいます。
・接する際に意識していること
・効果的だったコミュニケーションの取り方とそのエピソード
・効果がなかったあるいは逆効果だったコミュニケーションの取り方とそのエピソード

3.次に、自身の受検結果リポート「上司としてのタイプ」を見て、自分の上司タイプを確認します。同時に、適合しやすい部下タイプと適合しにくい部下タイプも確認します。

4.その後、部下の受検結果リポート「部下としてのタイプ」と先の記述内容を見て、部下タイプを確認し、コミュニケーションがうまくいった(いかなかった)理由について考えます。

5.最後に、各部下に対して今後どのように接していくべきかについて記述します。

これらの手順を部下全員に対して実施します。個人ワークの結果をグループで共有する時間を設けることで、他のマネジャーの気付きを学ぶ機会も得られます。

終わりに

上司の立場にいる場合、自身の上司タイプと目の前の部下のタイプが適合しやすいのかを考えることは重要です。もし適合しにくい場合、どのようにコミュニケーションのスタイルを変えると上手くいくのかを検討することで、新たな気付きが生まれるでしょう。

リーダーシップの発揮の仕方は多様であり、特定のタイプに限定されるものではありません。それを認識するだけでも、コミュニケーションのアプローチに多様性が生まれます。OPQからは、受検者自身がどのリーダーシップタイプを取りがちか判断できますので、ご関心がある方はお問い合わせください。

はじめに

激しく環境が変化する今日、未曽有の事態にリーダーはどう立ち向かっていけばよいでしょうか。リーダーは迫りくる想定外の危機から組織とメンバーを救うことができるでしょうか。
VUCAの時代に適応できるリーダーを作るため、ハイポテンシャル人材の発掘と育成は、全ての企業における最重要の人事課題です。既にいくつかのコラムで、ハイポテンシャル人材や発掘・育成プログラムについて紹介しておりますが、このコラムではハイポテンシャル人材が真のリーダーとして成長するために必要な経験をどう定めていくかについて申し上げます。

大手メーカーからの依頼

新規事業開発に大規模な投資を行う大手精密機器メーカーから次世代リーダーの発掘と育成について相談を受けました。ご要望は、新時代のビジネスリーダーに求められるコンピテンシーの特定とハイポテンシャル人材が真のビジネスリーダーへと成長するために必要な経験の明確化でした。
私たちは現在のリーダー複数名にインタビューを実施して、求められるコンピテンシーとビジネスリーダーとして成長するために欠かすことができない経験を特定することとしました。インタビュイーは、現在の取締役と執行役員の中から次世代リーダーに求める特徴を強く有すると考えられる人材を選抜しました。

コンピテンシーモデリングについては、当社の典型的なインタビュー手法を用いて行いました。ビジョナリーインタビュー、カードソートです。これらのインタビュー手法ついては、コラム「インタビューによる人材要件定義」にご説明がありますので詳しくはこちらをご覧ください。

今日のテーマである重要な職務経験を特定する手法としては、インタビュイーの職務経歴に沿って行うバイオグラフィカルインタビューを用いました。今までのキャリアを振り返り、現在のリーダーポジションを担う上で重要となる一皮むけた経験についての話をうかがいました。インタビューは次のような質問からはじまります。「今振り返って、現在のポジションであるビジネスリーダーになるために重要であったと思うご自身の経験について話してください。」

リーダーシップチャレンジのフレームワーク

インタビューで得られた経験情報を集約するために、SHLグループが持つリーダーシップチャレンジのフレームワークを活用しました。
リーダーシップチャレンジのフレームワークとは、リーダーの成否に大きな影響を与える職務上のコンテクスト(背景)とチャレンジの枠組みで、4カテゴリ27項目で構成されています。SHLグループはリーダー選抜の成功率を高めるには、一律のリーダーシップコンピテンシーによる選抜ではなく、コンテクストを考慮した選抜が必要であると考え、2014年から2016年に大規模なリーダーシップ調査を実施しました。この調査に基づいてリーダーシップチャレンジが開発されました。
リーダシップチャレンジの27項目は、コンテクストとリーダー特性との適材適所を目的に開発されたコンテクストのリスト、つまり、リーダーの置かれる環境に関するリストです。各項目の名称は以下の通りです。

1.チームのパフォーマンスを推進する
  • 人材を最大限に活用する
  • 創造性と革新を推進する
  • ネットワークパフォーマンスを向上させる
  • 地理的に散らばったチームをリードする
  • グローバル/異文化のチームをリードする
  • 協調性の弱い風土を変える
  • 揉め事の多い風土を変える

  • 2.変革をリードする
  • 新しい戦略を立案し、推進する
  • 急速に変化する製品、サービス、プロセスに対応する
  • 不確実性が高くあいまいな状況で業務を遂行する
  • 合併や買収でリードする
  • 頻繁なリーダー交代に適応する

  • 3.結果を出す
  • 高い利益率を実現する
  • イノベーションでビジネスを成長させる
  • 市場シェアを伸ばしてビジネスを成長させる
  • コスト競争力でビジネスを成長させる
  • 地理的拡大を通じてビジネスを成長させる
  • 独立採算の事業を経営する
  • 製品・サービスの幅広いポートフォリオをマネジメントする
  • 卓越した顧客サービスを提供する
  • 共通する業務やサービスを集約して果たすチームをリードする

  • 4.リスクと評判をマネジメントする
  • 高いリスクをとる状況下で業務を行う
  • リスクを嫌う状況下で業務を行う
  • リソースがかなり制限された中で運営する
  • 人や業務の安全とセキュリティを確保する
  • 対外的に組織を代表する
  • 環境の持続可能性を確保する

  • この調査プロジェクトでは、リーダーシップチャレンジのフレームワークを適材適所に活用するのではなく、実際のリーダーの経験情報を集約するためのラベルとして活用しました。 具体的には、インタビューによって得られたエピソードを分解し、27項目のリーダーシップチャレンジに関連づけていく作業を行いました。

    (例:インタビュー記録とリーダーシップチャレンジの関連付け)
    Aさんのインタビュー記録抜粋
    「環境は急激に変化しており、当社だけではなく1つの産業が丸ごと無くなっていく渦中で仕事をしていた。経営統合後、この事業の構造改革担当となり、全社売り上げの約3割を占め、従業員8,000人が関わる事業の撤退をリーダーとして取り組んだ。2年間かかった。」
    →該当するリーダーシップチャレンジ「合併や買収でリードする」

    経験調査の結果

    この調査によって、調査対象の全リーダーは以下7つのリーダーシップチャレンジを経験していたことがわかりました。

    ● 人材を最大限に活用する
    ● ネットワークパフォーマンスを向上させる
    ● グローバル/異文化のチームをリードする
    ● 新しい戦略を立案し、推進する
    ● 不確実性が高くあいまいな状況で業務を遂行する
    ● 製品・サービスの幅広いポートフォリオをマネジメントする
    ● 共通する業務やサービスを集約して果たすチームをリードする


    この会社では結果をコンテクストとリーダー特性とのマッチングのみに使うのではなく、リーダーを育てるためのキーポジションを決めるための基準として活用しています。上記のリーダーシップチャレンジが求められるキーポジションを設定し、ハイポテンシャル人材の戦略的な異動を行うことにより、リーダーシップ開発と多様化を進めています。

    おわりに

    今回の調査で最も印象深かったのは、調査対象となったリーダーの方々には会社の主力事業・主力市場の出身者がいなかったことです。メインとは言えない小さな事業や小さな市場を担当し、若いうちに実質的な責任者として、事業や製品の全体をマネジメントした経験を持っていました。リーダーを育てるのはリーダーシップを発揮しなければやっていけない責任ある役割なのだということを痛感しました。

    また、ご紹介したリーダーシップチャレンジのフレームワークは、SHLグループのMobilize Solutionに実装されているものですが、日本語版のリリースは未定(2022年3月現在)です。日本語でリーダーシップチャレンジを活用できるようローカライズを進めたいと考えております。

    はじめに

    女性活躍を推進がなかなかうまくいかない現状やその一因となる昇進意欲の問題について、コラムでは取り上げてきました。今回は、SHLグループで掲載されたコラムを元に女性活躍を進めるための5つのヒントをご紹介します。

    平等な未来を実現する

     国連が定める国際女性デーの今年のテーマは、「リーダーシップを発揮する女性:COVID-19の世界で平等な未来を実現する」でした。活力を与える素晴らしいテーマではありますが、何十年もこの未来に向かって取り組んできたものの、現実にはまだまだほど遠い状態です。さらに、女性にとってパンデミックは大きな後退をもたらしました。たとえば米国では女性だけが失業した月があった、あるいは白人男性と比較して非白人女性の失業率はほぼ2倍となるといったことが起こっていました。

    女性リーダーは収益に影響を与える

     過去のコラムでも取り上げていますが、女性リーダーは経済的なメリットをもたらします。マッキンゼーが発表した「職場における女性」に関するレポートによると、女性がエグゼクティブレベルの職務に就いている場合、企業の利益率は50%高くなります。しかし、世界の経営層の21%、上級管理職の28%しか女性は占めていません。同様に、United Nations Policy Brief on COVID-19 and Women in Leadership(COVID-19とリーダーシップにおける女性)では、女性がリーダーとなっている国はCOVID-19による死亡率が最も低く、ウイルスの封じ込め対策も最も効果的であるにもかかわらず、世界の統治者に占める女性の割合は25%に満たないと指摘しています。女性がリーダーシップを発揮することで、ビジネス、経済、コミュニティに多大な恩恵がもたらされることは、数え切れないほどの事例からも明らかです。多くの研究がこの点を証明しているにもかかわらず、女性は大きな抵抗を経験し続け、今ではパンデミックによる後退をも経験しています。

    女性の活躍を後押しする5つのヒント

    組織において女性の活躍を後押しする5つのヒントをご紹介します。

    1. 女性の能力を信じ、昇格させる
     マッキンゼーの研究によれば、女性は男性と比較して、上位職を維持するために2倍の努力と高い教育を受けなければいけないことが多く、常に自分の能力を証明し続けなければなりません。これは、女性は男性よりも能力的に劣るという(意識的あるいは無意識的な)偏見に起因します。しかし、何十年にもわたる研究で、女性も同等に能力があり、リーダーシップの課題によっては男性よりもうまく対処することもあることが示されています(参照コラム:リーダーシップ・ダイバーシティ:女性リーダーが活躍するコンテクスト)。彼女たちの成功を後押しするには、文化的な意識の変容が必要です。具体的には、指導的立場にいる男性に自身の個人的なバイアスを振り返ってもらうのです。
    リーダーに関する配置の意思決定者のほとんどが男性です。「女性に能力がある」という事実の信頼性を高めるためにも、この意思決定者が女性の同僚・スタッフを信頼するという自覚とアライシップ*を持つことがとても重要です。

    *アライシップ(allyship)とは、自分自身が属していない特定のグループに対して、彼らの基本的な権利や、社会で幸せに成功する能力を確保するために、味方(=誰かを助け、サポートする人)になる状態。

    2. 柔軟な仕事環境を提供する
     パワフルに多くの責任を同時にこなす女性も多いですが、ほとんどの場合、仕事の要求よりも家族の義務を優先せざるを得ません。したがって、子供やほかの扶養者の時間制限のある差し迫った要望に応えるか、フルタイムの仕事を行うかのいずれかを選べと言われれば、個人的な時間や幸せの代わりに家族を選び、仕事をそれに合わせていくでしょう。
     より柔軟に働く環境を職場が提供すれば、このコロナ禍でも女性スタッフのリテンションが高められます。マネジャーやリーダーは「労働時間」ではなく「生み出された成果」にフォーカスすべきです。従業員に家族の面倒をみるフレキシビリティを提供するとともに、この「成果」に集中することで、組織が成長していけるでしょう。

    3. 家庭で平等なパートナーシップを築く
     ここ数十年の間に、男女が家庭内でより対等なパートナーシップを築くようになり、文化的に大きな変化があったことは確かです。これは喜ばしいことではありますが、パンデミックによってもたらされた経済格差からも明らかなように、まだまだやるべきことがあります。様々な国の研究で、働く女性が依然として不均衡な量の家事や育児を担い続けていることが示されています。今こそ、パートナーが参加し、家庭でのパートナーシップを深めるときです。交代で、夕食を作り、掃除をし、あるいは子供の宿題に付き合ってください。女性の家庭でのプレッシャーを軽減させることは、女性のキャリアに余裕を生みます。これは全員にとって有益です。

    4. 女性の励みになるようなコミュニティを作る
     今は、これまで以上に、女性が職場で互いに支え合い、高め合うべき時であり、機会でもあります。ビジネス場面でも、女性同士で意見やアイデアを聞くことができる空間を作りましょう。お互いに励まし合いながら前へ進み、負担が重すぎたり組織文化が十分に進んでいないと感じたときには、思いやりをもって傾聴することができます。自分より年下の女性にメンターを申し出たり、会社で力のある立場の女性にメンターを求めたりしましょう。協力し合うことで力を発揮します。

    5. 人材戦略の中に女性を組み込む
     つまるところ、パンデミックがもたらす課題や機会に対応できる人材戦略を立案する際には、女性活用を念頭に考えるべきだということです。社員の適性配置に公平なツールを使用することで、以前は考えられなかったような候補者に道を開くことができます。SHLが持つ様々なソリューションは、現状のスキルセットだけでなく、未来のポテンシャルも含めた組織全体の人々のインサイトを提供します。この前向きな考え方は、多様で包括的なリーダー人材を育成する大きな鍵となります。

    終わりに

    「女性の活躍推進」という言葉は、単に女性自身が努力し邁進するためだけに使われるべきではありません。文中にご紹介した「アライシップ」という言葉が表すように、「女性の活躍推進」には男性の支援や努力が不可欠です。ジェンダーダイバーシティに限らず、様々な種類の多様性を支える際も同様のことが言えます。立場に関わらず、組織や家庭を担う主体者として、このコラムが自身の意識や行動を前向きに振り返るヒントになれば幸いです。

    現在、変化するビジネス環境への対応やイノベーション創出を目的とし、女性活躍をはじめとしたダイバーシティ経営が社会的に推進されています。今回は、女性のリーダーが男性よりも強みを持つ可能性のあるコンテクスト(状況)について、SHLグローバルの大規模な実証研究結果をご紹介します。

    近年のリーダーシップについての4つの課題

    ビジネス環境の変化と複雑化により、近年リーダーへの要求が高まっています。しかし多くの企業がリーダーのパフォーマンス不足やリーダーシップパイプラインの人材不足に悩んでいます。SHLは、多くの組織でリーダーシップマネジメントが失敗する根本的な原因を4つ 挙げています。
    ① ビジネスにおける変動性と不確実性がかつてないほど大きくなり、典型的なリーダーモデルが機能しない
    ② 成功するリーダーの特定・育成には、画一的なコンピテンシーでは不十分である
    ③ ハイポテンシャルプログラムにおいて十分に多様な人材を確保することができていない(Gartnerの2016年の調査によると、74%の組織で、ハイポテンシャル層に占める女性の割合が一般層に比べて低い。)
    ④ データではなく人間の判断に頼ると、暗黙のバイアスを永続させることで多様性が脅かされ、後継者育成に失敗する。

    コンテクストを考慮したリーダーシップ実証研究 (2014-2016)

    コンテクストとは、職場環境のあらゆる側面のことです。異なるリーダーの特性は、異なるコンテクストでのパフォーマンスに関連しており、コンテクストを考慮することで、リーダーのパフォーマンスの予測精度が上がる可能性があります。
    SHLとGartnerは、世界25以上の業界を代表する85社の約8,700人のリーダー、5,900人の上司、そして33,000人以上の部下に大規模調査を実施しました。第一線の管理職から最高経営責任者まで、組織のあらゆるレベルのリーダーから、彼らのパーソナリティ、仕事の経験などに関するデータが収集され、リーダーのパフォーマンスは、各リーダーの上司と直属の部下が記入した360度評価ツールで測定されました。
    また、リーダーの仕事の状況(コンテクスト)を定義するための調査も行われました。このコンテクストのほとんどは、リーダーが直面する課題を表していると考えることができます。このコンテクストを考慮に入れることで、リーダーの個人特性によるパフォーマンスの予測精度が平均して3倍高まることがわかりました。

    コンテクストにおけるリーダーのジェンダーの差異

    抽出されたリーダーの27つの課題について、課題解決において正の影響を持つ傾向のある10のパーソナリティ尺度の男女差を示します(下図)。これらの尺度のスコアが高いほど、幅広い課題の中でのパフォーマンスが向上するといえます。男性は「説得性」の平均点が女性より有意に高かったのに対し、女性は「素直」「友好性」「協議性」「几帳面」「人間への関心」「面倒み」の各項目で男性よりも高い点数を獲得しました。
    SHLは、各課題におけるリーダーのパフォーマンスをパーソナリティから予測し、各リーダーのフィットスコアを算出しました。すると、27の課題のうち21の課題で、女性は男性よりも平均スコアが高くなりました。下のグラフには5つの例が示されています。男性が有利だったのは、「地理的に分散したチームを率いる」という課題で、その他4つの課題では、女性のほうが有利であることが示されました。
    本研究のデータセットでは、ハイポテンシャル層やシニアリーダーシップのポジションに占める女性の割合は、一般従業員層よりも低いことがわかりました。しかし実際には、多くのリーダーの課題において、女性は男性よりも高いポテンシャルを示すことがわかりました。ハイポテンシャルプログラムがさまざまなコンテクストを想定する場合、結果としてより多くの女性がリーダーシップを発揮できるようになるはずです。

    まとめ

    コンテクストに応じて様々なタイプの個人が活躍できると理解することで、リーダーの選定や育成の際により多様な候補者が得られます。課題に合わせてポテンシャルの高い人材を見極め、より強固で多様性のあるリーダーパイプラインを構築することで、最適な配置が可能になるでしょう。