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経営人材や経営リーダー、次世代リーダー、ハイポテンシャル人材(以下、総称してリーダーとします)など様々な単語が飛び交っていますが、組織の経営を担う人材を継続的に供給し続けることは、古来より組織が抱える永遠のテーマです。グローバル化により競争が激しくなって久しく、デジタル化により変化のスピードは更に速くなり、リーダーを取り巻く環境はますます複雑化しています。複雑化した環境において、リーダーの発掘・育成の方法はこれまでと同様で良いのでしょうか。
結論を申し上げると、リーダーが直面する「課題」は何なのかを考慮することが重要だということが当社の研究で明らかになっています。
近年のリーダーの発掘・育成における潮流
経済産業省が2017年3月に「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」という文書を公表しています。ここでまとめられた考え方は、多くの日本企業も取り入れており、世界標準の進め方といってよい考え方です。ポイントは以下の2つです。
①リーダーの人材要件を明確化し、ポテンシャルを測定して早期選抜を行う。
②ポテンシャルのある人を難易度の高いポジション(タフアサインメント)に置き、飛躍的な成長を促進する。
現職における実績や行動だけでなく、リーダーとしてのポテンシャルを把握して、挑戦の機会を与える育成方式は日本企業にとって目新しいやり方に感じないかもしれません。ただ、長い時間をかけてポテンシャルを観察して全員に挑戦機会を与える事が難しくなっている現状を踏まえると、上記のような取り組みを、意図的に対象者を絞って実施していく必要があるという状況に直面しているのだと考えます。
こうした考え方の中でリーダーの発掘・育成を行う場合、1つのリーダー人材要件を設定して運用している企業が多いようです。ただ、ますます複雑化する事業環境においては、その要件に合致していてもタフアサインメントの中で成果を上げられずに、結果的にリーダーが育たないと悩んでいる企業もまた、多いように思います。
単純に1つの人材要件のみであらゆるCxOのポテンシャルが把握できるというのは現実的ではないとお感じの方も多いでしょう。
「文脈をとらえた課題」の重要性
前述のような背景を踏まえて、SHLが近年行った調査結果をご紹介します。この調査の目的は、「リーダーの成功を予測するために重要な要素を整理すること」です。
全世界で80社以上、約9,000名のリーダーを対象として、リーダーの特性、業務経験、現状のパフォーマンス、置かれている環境(所属業界・仕事内容・組織風土)などの情報を収集しました。
この調査で最も大きな発見は、成功するリーダーの予測には「文脈をとらえた課題」が重要であるという点でした。具体的には、「文脈をとらえた課題」を踏まえると予測精度が3倍になることが、この調査で明らかになりました。
「文脈をとらえた課題」とは、単純な短期的課題ではなく、置かれた状況の中で果たすべき使命のことを意味しています。どのような「文脈をとらえた課題」に直面しているかを把握することが、リーダーの成功を予測することに、非常に重要な変数となっていたということです。
「文脈をとらえた課題」についてもう少し具体例をご紹介します。例えば、リーダーが自社の市場シェアが低いエリアや製品、領域を担当しているとします。そうなると、「市場シェアを拡大させることでビジネスを成長させる」ことが文脈をとらえた課題となるわけです。また、「もともと市場シェアが高い領域を担当していた場合、原価低減などのコスト競争力をつける事で利益を創出する」ことも文脈をとらえた課題の一つと考えられます。前者と後者では、リーダーが置かれている状況や対処すべき課題が異なる事がお分かりいただけると思います。
重要な「文脈をとらえた課題」は27個に集約できる
次の発見は、世の中にあふれている「文脈をとらえた課題」の中で、リーダーの成功予測において重要なものは27個に集約できるということです。重要な課題は、「チームにおけるパフォーマンスを推進する」「変革をリードする」「リスクと評判を管理する」「結果を出す」という4つに分類しています。どれもリーダーが直面しそうな課題ですが、率いる組織の状況によって直面する課題の種類と数は異なります。

網羅的に「文脈をとらえた課題」を把握するために、「外部環境」「組織」「チーム」「役割」という4つの区分で数百を超える組み合わせ調査しました。結果として、リーダーの成功に大きく影響していたものは、前述の27項目という結果でした。
直面する「文脈をとらえた課題」の数と失敗確率は正の相関がある
今回の調査対象のリーダーは、平均して7つの課題に直面しており、その中でも25%のリーダーは9つ以上の課題に対処する必要がある環境に置かれているということでした。
実はこの対処すべき課題の数が、リーダーの成功を妨げることと関係がありました。リーダーが失敗する確率は課題の数が増えれば増えるほど高まるということも発見できました。
まとめ
取締役及びその候補者のスキルや経験を外部に開示するような企業が出始めています。経営課題を解決し、事業を成長させるために多様な人材が必要であることを否定する人はいませんし、多様な経験を持つリーダーがチームとなって組織運営していく事が求められる複雑性の高い時代になってきていることを意味しているのだと思います。
一方で、直面する「課題」が複雑すぎるとリーダーが成果を上げられずに、結果的にリーダーが育たないということが今回の研究で明らかになりました。課題に対処する時に、リーダーの特性上不向きであっても、課題と関連した経験をしたことがあれば失敗する確率を押さえられるということも本調査で示されていました。
皆様の組織のリーダーが直面する「文脈をとらえた課題」がどのような複雑さで、それらに対処するためには誰にどのような経験をさせるのかを考えるヒントにして頂けますと幸いです。
- 会社概要
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- 世界有数の人材ソリューション・パートナー
- スイスのチューリッヒに本部
- Fortune Global 500 にランキング
- 年間売上高237億ユーロ(2017年度)
アデコ・グループは多様な人材を雇用しています。アデコ・グループのビジョンを前進させるのがリーダーであり、そのリーダーを見つけて能力開発するための適切なアプローチを持つことが会社にとって重要です。自社のプロセスを強化することを通して、アデコグループは顧客により良いアドバイスができるようになり、その専門性を顧客に受け渡すことができます。
アデコ・グループの人事とビジネスリーダーたちはミスマッチを経験していました。フォーマルなプロセスを通してその役割に「適切である」とされた人々と、意思決定者たちが最も適していると感じる人々のミスマッチです。
「ほとんどの会社と同様、我々は、社員の能力や強み、ギャップを見るフォーマルな人材レビュー・プロセスを持っています。しかし、それは紙の上でのものであり、組織の一部でしかやっていませんでした。あるポジションに実際に人を選ぶ、ということになると、完全に主観的で、リーダーの直観に基づいていました。」(コートニー・アブラハム氏(Global Head of Talent Strategy and Development))
その結果、社外からリーダーを採用することがとても多かったのです。
「階層の次の人を見て、その人がまだ準備できていない、と我々が思えば、社外から採用しました。社外採用に伴うリスクを減らすためには、より早期にリーダーを発見・育成することによってこれを変えなければならない、とわかっていました。」(コートニー氏)
スピードの速い今日の仕事環境ではリーダーの職責の幅が広く複雑になっています。アデコ・グループはそれまでと異なる。より状況に合わせたアプローチを求めました。
上級管理職の能力開発プログラムをどのように高めていけばよいか、SHLに相談しました。
北米の上級管理職100人に対してSHL Leader Edge Solutionが導入され、リーダーが働く特定のコンテキスト(文脈)に合わせて個人の能力開発計画が微調整されました。
そのやり方は、まず、アデコ・グループのリーダーシップ・コンピテンシー・モデルを、SHL Leader Edge Solutionの基盤である27個のチャレンジに対応付けました。次に職務経歴書と一緒にSHL OPQ(Occupational Personality Questionnaire)を使って、
これらチャレンジについてのリーダーの遂行能力を評価しました。
「新しいシステムの最も重要な部分は、それがコンテキストに沿っていることです。我々は、リーダーが新しい役割で直面するであろう最重要チャンレンジ6個を見て、それらを候補者のスキルやコンピテンシー、意欲、キャリアパスと比較しました。それによって、引継ぎが成功するには何が必要かに焦点を当て、それに従って能力開発を仕立てることができました。今では、プロセスの早い段階で人々を能力開発しています。新しい役職で彼らが直面するであろうチャレンジ課題と比べてのスキルギャップについて把握していますので、導入や研修の機会を活用して積極的にコーチングやサポートをしています。」(コートニー氏)
この新しいコンテキストベースのアプローチは、社内人材の異動や昇進への自信を深めることにつながりました。
「グローバルでリーダーのポジションが空いた時、今では必ず最初に社内を探します。我々は社員に対して、特定の状況でその人が成功しそうかどうか、以前よりもはるかに正確なデータを持っています。そのデータを活用して社内候補者と面談します。本人のキャリア志望と合っているかどうかも見ることができ、より自信をもってその人が異動や昇進の準備ができているかを判断できます。」(コートニー氏)
重要な点として、コートニー氏は、この恩恵は社内人材だけでなくビジネス全体に及んでいる、と付け加えました。「社外からの採用では候補者について我々があまりデータを持っていないため、危険が大きいです。また、社内からの昇進のほうが成功する確率が高く結果が早く出るようです。ビジネスや人、競合状況を理解しているからでしょう。」
この成功は継続しそうです。アデコ・グループは現在、この新しいアプローチをビジネスのより多くのところで使っています。フランス、スイス、シンガポールでも来年のグローバル・リーダーシップ・プログラムに参加する人材を見つけるために、コンテキストに注目したアセスメントを導入しつつあります。
リーダーの選抜と育成は古今東西、組織の重要な課題です。本事例で導入されたのはコンテキスト(文脈)に焦点を当てたリーダー育成です。「一般的な」リーダーではなく、ひとりひとりのリーダーに「特有の」チャンレンジ(課題)を見ます。