コラム 人事コンサルタントの視点

能力開発が進まない本当の理由 ~4つの観点で行動計画を振り返る~

はじめに:行動計画は“作っただけ”では成果につながらない

人の能力開発の支援に携わっていると、「能力開発のための目標を立てたが、予定通りに行動できなかった」という声を多く聞きます。目標や計画自体は意欲的なのに、どうしても行動が続かない。締め切り間際に思い出し、慌てて課題に取り組むが、時すでに遅し――これは多くの組織でよく見られる光景です。こうした状況に対して「やる気がない」「努力が足りない」といった精神論で片付けてしまうと、本質的な改善にはつながりません。重要なのは、”なぜ計画が進まなかったのかを客観的に整理し、改善可能なポイントを特定すること” です。
そこで本稿では、行動計画がうまくいかなかったときに役立つ「4つの観点からの振り返り」を紹介します。この観点を取り入れることで、問題の原因を特定しやすくなり、次の行動計画の改善につなげることができるようになります。

はじめに:行動計画は“作っただけ”では成果につながらない

行動計画がつまずく4つの要因

    行動計画が頓挫する要因は、大きく4つに分類できます。

    • (1)計画の問題:計画自体に無理があった

    • タスクの粒度が大きすぎた
    • 実行に必要な工数やスキルの見積もりが不十分だった
    • 設定した期限が現実的ではなかった など

    行動計画そのものが現実と乖離していたケースです。特に、期初やキャリア研修の直後など、モチベーションが高い状態で立てた計画は理想に偏り、実行する上での制約を十分に考慮できていなかったり、非現実的な目標を設定してしまったりすることがよくあります。その結果、途中で実行困難な状態になり、計画が破綻してしまうのです。この場合には、「SMART」を意識して次の計画を立てることをお勧めします。SMARTは、効果的な目標と行動計画に必要な5つの要素の頭文字を取ったものです。

    効果的な目標と行動計画に必要な5つの要素のSMART
    • Specific(目標や行動計画が具体的である)
    • Measurable(進捗・達成状況が分かる指標を設定する)
    • Achievable(達成可能な目標である)
    • Relevant(自分の仕事に関連する内容である)
    • Time bound(締め切りを設ける)

    特に、自分の苦手な分野の能力開発に取り組む場合は「Achievable」が重要になります。初めのうちは簡単に達成できる目標を設定し、それをクリアしたら徐々に難度を上げていくことを意識するといいでしょう。

    • (2)管理の問題:進捗状況のモニタリングが不足していた

    • 定期的に進捗を確認していなかった
    • 計画と実績のズレを早期に検知できなかった
    • 当初の計画にこだわりすぎた  など

    計画が妥当でも、進捗管理が不十分だと予定通りには進みません。行動計画は「立てたら終わり」ではなく、実行過程でのモニタリングと調整が不可欠です。小さな遅れを放置すると、気づいたときには軌道修正することが難しくなります。このようなケースでは、周囲の協力を得ることが1つの対策です。たとえば、「〇〇までにこれをやります」と上司や同僚に宣言して、進捗を”監視”してもらう方法などが考えられます。また、当初の計画にこだわりすぎて、行動が停滞する場合もあります。たとえば、「能力開発したいスキルを高いレベルで発揮しているA氏にコンタクトをとって、習得方法やコツを教えてもらう」という行動計画を立てていた場合、相手が多忙でなかなか時間を取ってもらうことができなければ、計画が前に進みません。そのようなときは、別の適任者を探す、そのスキルに関する書籍を読んで「本から学ぶ」方法に切り替えるなどして、計画を柔軟に変更する必要があります。

    • (3)感情の問題:行動計画に取り組む意欲が湧かなかった

    • 行動計画の目的や価値を理解できていなかった
    • 上司に言われて作っただけで “自分ごと” になっていなかった
    • 過去に能力開発に失敗した経験から、「どうせやっても意味がない」と考えてしまった など

    計画を実行に移せない背景には、「やる気」や「必要性の理解」といった、より根本的な感情面の問題が潜んでいることがあります。ここで言う“感情”とは、不安や気分の浮き沈みではなく、”行動計画に主体的に取り組もうという意欲が十分に醸成されていない状態” を指します。計画がいくら合理的でも、「これは自分にとって必要だ」と納得し、能力開発に対する内的動機づけが生まれていなければ実行には至りません。この場合は、まず能力開発に取り組むメリットを洗い出してみるといいでしょう。「自分が求めるキャリアに近づける」「昇進のチャンスが生まれる」「仕事の生産性が上がり、早く帰宅してプライベートの時間を確保できる」など求めるものは人それぞれですが、信頼できる上司やメンター、キャリアカウンセラー、あるいは対話型AIに相談しながら内省を深めていくと、一人で考えるよりも自分の価値観や求めるものを整理しやすくなります。また、もし過去に能力開発がうまくいかず、その経験から取り組む意欲を失っている場合は、今回は意図的に別のアプローチを試してみることをお勧めします。「前回の方法ではうまくいかない」ことが既に分かっているのは、能力開発に取り組む上で大きなアドバンテージです。前回よりも目標を下げる、別の人に支援を仰ぐ、得意な学習方法を増やす(例:読書は集中力が続かないので、動画学習に切り替える)など、前回とは異なる方法を取り入れることで、解決の糸口が見えてくる場合があります。

    • (4)環境の問題:外的要因が行動を妨げていた

    • 突発的な業務がたびたび発生し、行動計画に取り組む時間を確保できなかった
    • 協力を仰いでいた社員が退職し、支援を受けられなくなった
    • 異動により、求められる能力や役割が変化した など

    自分の努力ではどうにもならない環境要因も計画の実行を阻害します。このような外的要因は事前に予期することは難しいので、場合によっては途中で新しい行動計画に作り変えるなど、常に現状に即した意味のある計画となるよう意識することが大切です。

4つの観点で振り返る具体的な手順

    上記で紹介した4つの観点を踏まえて、行動計画が予定通りに進まなかった場合は次の手順で振り返りを行います。

  1. 事実を整理する
    できたこと・できなかったことを、主観や推測を交えずに記述します。
  2. 4つの観点で原因を分析する
    できなかったことについて、「計画」「管理」「感情」「環境」のどこに問題があったかを洗い出します。
  3. 最も影響の大きい原因を1つ特定する
    多くの場合、原因は複合的ですが、まずは“最大の阻害要因”に絞ることが重要です。
    • 改善策を検討する

    • 計画の問題 → 難易度の調整、タスクの細分化、期限の見直し など
    • 管理の問題 → 定期レビューの導入、進捗状況の可視化、関係者への進捗報告 など
    • 感情の問題 → 目的の明確化、キャリアカウンセリングを受ける、得意な学習法の導入 など
    • 環境の問題 → 計画への余裕時間の組み込み、次善策の準備、開発したい能力の一覧化 など
  4. 次の行動計画に反映させる
    今回の振り返りを次の計画策定へ反映し、実行後にまた振り返りを行うことで、徐々に行動計画の質を高めていく ”改善の循環” を作ります。

4つの観点で振り返る具体的な手順

おわりに

行動計画が思い通りに進まないことは、誰にでも起こりうることです。しかし、その経験は単なる失敗ではなく、次に向けて改善点を見つけるための材料になります。今回紹介した「計画」「管理」「感情」「環境」という4つの観点で振り返ることで、何がうまくいかなかったのかを整理しやすくなり、次の行動計画に反映することができます。行動計画は一度で完成させるものではなく、試行錯誤しながら精度を高めていくものです。もし計画が進まなかったと感じたら、今回のフレームを使って一度立ち止まり、原因を整理してみてください。その積み重ねが、結果としてより確実な能力開発につながっていきます。

清野 剛史

このコラムの担当者

清野 剛史

日本エス・エイチ・エル株式会社
アセッサーグループ 課長

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