公開日:2026/08/21
昨今、「スキルベース」の組織がHRのトレンドとして話題となっています。当社でも「ジョブ型雇用はもう古い!?スキルベースの組織とは」「スキルベースの組織で避けるべき3つの落とし穴」「スキルベースの採用と人材モビリティ」など多数のコラムで取り上げています。また、4月にはスキルベースのアセスメント「Graduate +8.0 Job Focused Assessment」をリリースし、「スキル」にまつわるツールや知見を積極的に提供しています。
スキルは今、組織の人材採用、育成、適材配置の方法を大きく変えつつあります。改めて、ここで言う「スキル」とは具体的に何を意味するのでしょうか? 従来、評価指標として活用されていた「コンピテンシー」とはどう違い、どのように測定すれば信頼できる評価指標となるのでしょうか?
今回は、SHLグループのコラム「HR 101: Skills and Competencies」をご紹介しながら、最近の注目ワード「スキル」の概念について、改めて整理します。
なぜ今、急速に「スキル」が注目されているのか?
スキルは人材市場における「共通通貨」となりました。というのも、スキルこそが「その人が今、実際に何ができるのか」、そして「明日、何を学べるのか」を的確に表しているからです。
肩書や職種の境界があいまいになり、キャリアの流動化が進む現代——。組織は今、履歴書や過去の職歴だけに頼るのではない、人材とポジション(職務)をより精度高く見極め・比較するための「新しい評価軸」が求められています。
スキルベースのアプローチは、資格(経歴)ではなく能力に焦点を当てることで、組織が人材不足、自動化、デジタルトランスフォーメーションに対応するのを支援します。 組織全体でスキルを把握できるようになれば、人材の再配置、新しい役割の設計、従業員へのより明確なキャリアパスの提示が容易になります。
「スキル」とは実際に何を意味するのか?
日常会話では曖昧に使われがちな「スキル」という言葉。しかし、採用や配置といった人事の意思決定においては、スキルを行動スキル(behavioral skills)と、技術的または機能的スキル(technical or functional skills)の2つに整理して捉えることが不可欠です。この両面を組み合わせることで、初めてその人のパフォーマンスの全体像が見えてきます。
- 行動スキル(いわゆる「ソフトスキル」)は、協調、変化への適応、意思決定など、人々がどのように仕事に取り組み、他者と関わるかを表します。 これらのスキルは持続性があり、役割や業界を超えて応用が利くポータブルなもので、パフォーマンスを差別化する重要な要素です。
- 技術的/機能的スキル(いわゆる「ハードスキル」)は、特定のソフトウェアプラットフォームの使用や特定の機械の操作など、職務に固有の知識や習熟度をカバーします。 一部のスキルは陳腐化しやすく、特にテクノロジーが急速に変化する分野では、頻繁な更新が必要です。
SHLのグローバル・スキル・タキソノミー(Global Skills Taxonomy)は、普遍的に関連する96の行動スキルを、文脈に依存しないシンプルな言語で体系化しています。人事チームは、職種、役職レベル、地域を越えてスキルを定義・比較するための標準的な手法を得ることができます。
テクノロジーまたはシステム関連のスキル、特定のベンダー、プラットフォーム、または言語に関連するスキル
- Microsoft Office
- Tableau, SFDC, etc.
- Power BI
分野固有の技術やプロセス、基礎知識を形成するもの
- マーケティング
- データモデリングの概念
- クラウドコンピューティング
- コーチング
経験を通じて開発され、業界や職務に関係なく有効な、測定可能で長期にわたる行動スキル
- 情報を分析する
- チームを優先する
- はっきりと話す
- 変化に適応する
スキル vs コンピテンシー:何が違うのか?
コンピテンシー(「ケパビリティ」とも呼ばれることがあります)は、望ましい成果をあげるために不可欠な一連の行動様式のことです(Bartram et al., 2002)。 コンピテンシーは職場で成果を出すための行動を大枠で定義するものであり、例えば「意思決定」や「批判的思考」といった形で、企業が採用、育成、パフォーマンス管理などの施策を構造化するのに役立ちます。
しかし、コンピテンシー単体では、特定の職務に固有の成功要因をピンポイントで特定するために必要な「細かさ(粒度)」が不足しています。ここで重要な役割を果たすのがスキルです。スキルとは、それらコンピテンシーの根底にある行動の「構成要素(ビルディング・ブロック)」であり、観察可能な行動をより具体的に示します。同じ一つのコンピテンシーであっても、役割が異なれば、それを支えるスキルの組み合わせも変化します。
既存のコンピテンシーモデルをスキルにマッピングしたり、SHLの「ユニバーサル・コンピテンシー・フレームワーク(UCF)」のような検証済みのフレームワークを活用することで、コンピテンシーの分かりやすさや馴染みやすさを維持しながら、採用、育成、異動の意思決定に必要な粒度を追加することができます。
スキルはどのように測定されるか
すべてのスキルデータが同じ信頼性を持つわけではありません。履歴書の自動解析(CVパーシング)や過去の職歴、プロフィール上の自己申告によるスキル情報は手軽に収集できますが、これらは過去の記録に過ぎず、主観的で、一貫性に欠けることが少なくありません。また、本人の自己認識のばらつき(偏り)にも影響を受けやすいため、採用選考や昇進の意思決定における判断材料としては限界があります。
これに対して客観的なアセスメントは、サイコメトリクス(計量心理学)を用いてスキルを信頼性高く、かつ公正に測定します。回答のバイアスを軽減し、入社前後にわたって一貫したスキルの「共通言語」を提供するとともに、採用と人材育成の双方で活用できる有用なデータを生成します。
信頼性の高いスキルデータを入手すれば、採用時だけでなく、従業員のライフサイクル全体(採用から配置・育成まで)に展開することができます。 例えば、スキルプロファイルを活用して、ジョブディスクリプションを実際に現場で求められる要件と一致させたり、より予測妥当性の高い採用選考や面接を設計したり、昇進や配置転換の候補となるハイポテンシャル人材を見出したりすることができます。
また、同じデータを用いて、強化すべき特定の行動スキルを浮き彫りにすることで、よりターゲットを絞ったオンボーディングや育成を推進できます。 さらに、新たに生まれる職務や役割に対してどの従業員が十分なスキルやリスキリングのポテンシャルを持っているかを可視化し、タレントモビリティ(人材の流動性)を強力に後押しします。
人事がまず取り組むべきこと
人事リーダーにとって最初の一歩は、自社における「スキル」と「コンピテンシー」の明確な定義を揃え、それらを既存の評価システムや運用プロセスに紐付けること、あるいはSHLの「ユニバーサル・コンピテンシー・フレームワーク」のような検証済みのモデルを活用することです。
その上で、まずはいくつかの重要職務(キーポジション)を選定し、信頼性の高い検証済みのスキルアセスメントの試行導入を行います。これにより、組織や人材の強み、スキルギャップ、社内流動化(配置転換)の可能性に関するインサイトを迅速に可視化できるようになります。ここからスキルデータを組織全体に浸透させ、人材戦略を推進していく土台を築くことができます。
おわりに
「スキル」は私たちが使い慣れてきた「コンピテンシー」と似ていますが、コンピテンシーを支える行動の構成要素をより細かい粒度(高い解像度)で捉えたものです。そして、この「粒度の細かさ」こそが、事業環境の激しい変化に合わせて人材を適材適所に再配置し、柔軟でアジャイルな組織変革を実現するための鍵となります。日本では「ジョブ型雇用」の議論が先行する一方で、「スキル」を軸としたアプローチはまだ十分に浸透しているとは言えません。しかし、変化に強く流動性の高い組織へとアップデートしていくために、ぜひ一度「スキル」という新たな観点から、自社のタレントマネジメントのあり方を見直してみてはいかがでしょうか。スキルの定義付けや、客観的で信頼性の高いアセスメントの導入など、スキルベースの組織づくりに向けた第一歩を踏み出す際には、ぜひお気軽に当社までご相談ください。
このコラムの担当者
水上 加奈子
日本エス・エイチ・エル株式会社 マーケティング課 課長
10年以上にわたりHRコンサルタントとして顧客と向き合う現場の最前線に立ち、大手企業の採用要件定義やデータ分析、育成研修等に従事。2016年に「イノベーション人材」をテーマに産業・組織心理学会で論文を発表。 その後、2020年のマーケティング部門立ち上げより現職。チーム責任者として科学的根拠に基づく発信を統括しつつ、現場知見を活かした多岐にわたるコンテンツ制作を指揮している。国家資格キャリアコンサルタント。