コラム 人事コンサルタントの視点

OPQで読む職場の人間図鑑シリーズ~第8回:物事のとらえ方編


同じ知らせを受け取っても反応の仕方は人それぞれ。起きた出来事は一つなのに、見えている景色は人によって全く違います。この違いを生むのが、今回のテーマ「物事のとらえ方」です。
物事のとらえ方は、タフ、抑制、楽観的、批判的という4つの因子から成ります。順に見ていきましょう。



  • タフ:人からどう見られているかを気にしない度合い
    • 高得点者の特徴:自分がどう見られていようと気にならない。批判・中傷されても動じない。感受性が鈍く見られることもある。
    • 低得点者の特徴:自分がどう見られているか気にする。批判されると傷つくことがある。批判に対する恐怖心で意欲を起こす。
  • 抑制:自分の感情を表に出さない度合い
    • 高得点者の特徴:感情を抑制し、人に見せない。わかりづらい人に見えることもある。
    • 低得点者の特徴:人に自分の考えを知ってもらうことは良いことだと信じている。感情を表に出しやすく、それが他人から親しみやすく感じられる。
  • 楽観的:物事を楽観的にとらえる度合い
    • 高得点者の特徴:失敗してもめげない。状況が悪くても陽気さを保っている。時々脳天気に見える。人生をバラ色のメガネで見ている。
    • 低得点者の特徴:物事を悪い方に考える。現実主義者だと自分を思っている。時々悲観的な考え方が他人の意欲をそぎ落とすことがある。
  • 批判的:物事の欠点や弱点を探す度合い
    • 高得点者の特徴:議論の欠点・弱点を見つける。物事の表面にだまされず、人の気づかない欠点がわかる。否定的な考え方をしがち。
    • 低得点者の特徴:人の考えのあら探しをしない。よく調べずに表面上で認める傾向がある。騙されやすく信じ込みやすい。

「批判的」は思考のはたらきに近い因子で、新しいモデルであるOPQ32では「思考様式」のグループに位置づけられています。そこで今回は、批判的を平均的な水準にそろえ、感情の色合いを生むタフ、抑制、楽観的の3因子で登場人物を描き分けます。
タフは批判が自分に刺さるか刺さらないかを表し、高得点ほど刺さらない。抑制は感情を外に出すか出さないかを表し、高得点ほど出さない。楽観的は先行きを明るく見るか暗く見るかを表し、高得点ほど明るく見る。そして、各因子は完全に独立しています。

舞台は、HRソリューション企業と顧客企業とのミーティング。ある日、一社の顧客から、アセスメントの結果をめぐる強い不信の声が届きます。「現場の実感とまるで違う。このままでは使えない」といった白黒のつきづらい申し立てです。この申し立てに、タフ、抑制、楽観的の高低を組み合わせた4人が、それぞれのとらえ方で向き合います。


登場人物紹介

静庵(せいあん) テスト開発課 ※第5回より登場

「どう思われてもかまいません。先に、いちばん悪い可能性から潰しておきましょう。そのほうが、あとで困らずに済みます」
周りが自分をどう見ているかは、ほとんど気にならない。落ち込みも苛立ちも表に出さず、場の温度が上がっても、ひとり同じ穏やかな温度のまま。感情のない人と映ることもあれば、ただ優しい人と映ることもある。物事はまず悪い側から見て、最後に、誰も口にしたがらない結論を淡々と置く。

因子名 標準点
12345 678910
           
タフ 9
           
抑制 8
           
楽観的 2
           
批判的 6
           

巧田(こうだ) コンサルティング課 ※第5回より登場

「思ったことは、その場で言っちゃうタチでして。隠したって伝わらないでしょう? 大丈夫、なんとかなりますよ!」
自分の考えも気持ちも、その場で素直に出す。隠すより、伝わったほうがいいと信じている。批判されても引きずらず、明るさで場を前に進めようとするが、相手の気持ちに気付かず、勢いのまま踏み込みすぎることがある。

因子名 標準点
12345 678910
           
タフ 8
           
抑制 2
           
楽観的 9
           
批判的 5
           

絆(きずな) カスタマーサクセス課 ※第2回より登場

「そのお気持ち、わかります。……大丈夫です、ここからきっと良くなっていきますから」
きつい言葉に内心こたえているが、表には出さない。相手の痛みを自分のことのように受け取りながら、関係も、ツールの機能も、使い勝手も、これから必ず良くなっていくと信じて、穏やかに間合いを詰める。

因子名 標準点
12345 678910
           
タフ 2
           
抑制 8
           
楽観的 9
           
批判的 6
           

和束(わづか) セールス1課 ※第1回より登場

「えっ、見送り……? どうしよう、もうダメだ…… お願いだから、そんな目で見ないでください」
批判を真正面から受け止め、傷ついてしまう。動揺はそのまま顔にも声にも出てしまい、止められない。悪く思われたくないという心情が先に立つ。最悪の結末を真っ先に思い描くが、その取り乱しようは、誰より事態を本気で受け止めている裏返しでもある。

因子名 標準点
12345 678910
           
タフ 3
           
抑制 2
           
楽観的 2
           
批判的 6
           

登場人物紹介

同じ一報に、4人は違う顔をした

月曜の朝、和束に一通のメールが届いた。差出人はパワー重工業の人事部長、沢渡。新サービスの先行導入を決めてくれた、和束のいちばん大きな担当先である。
件名を見た瞬間、和束の指が止まった。『至急のご相談があります』本文は短かった。『アセスメント結果が実績と大きく乖離しており、特に経営幹部層ではこの傾向が顕著です。社内の不信感は強く、導入見送りの議論が出ています。一度、ご説明いただきたく——。』
「見送り?」
声がうわずった。深呼吸をしてもう一度メールを読み返した。読み返しても文面は変わらない。むしろ二度目のほうが、文字が冷たく見えた。
「どうしよう、あの、これ、とにかく連絡を、いやまずは報告か……まずいことに……」
和束はノートパソコンを抱えたまま立ち上がり、江末課長の席へ早足で向かった。
「江末さん、あの、パワー重工業さんから……結果が実績と合わない、見送りの議論も出てるって……どうしましょう。とりあえずメール転送します」
江末はメールにざっと目を通すと、和束の取り乱しようには取り合わず、文面の一点だけを見ていた。
「実績と食い違う、それも経営幹部で目立つ、か。和束さん、このケースは色々な視点での説明が必要になると思う。一人で対応するのはよくないので、関係者を集めよう」
少し考えるように天井を仰いで、
「カスタマーサクセスの担当は絆さんですね。レポートの読み方はコンサルティング課。テクニカルな問題はテスト開発に入ってもらおう。各課長に依頼してメンバーを決めてもらってください。メンバーが決まったら本日中にミーティングをやること。できれば明日、明日がだめならできるだけ早く先方に4人で訪問して説明してください」
和束はその足で、各課を回って頭を下げた。
「すみません、お力を貸してください」
その日の午後、会議室に4人が集まった。和束がうわずった声で事情を話しはじめた。
「ええっと、その、パワー重工業さんからアセスメント結果がおかしいとクレームが入りまして。経営幹部の方がとくにおかしいと。このままだと見送りになりそうですので、皆さんにご同行いただきたくお集まりいただきました。本当にすみません」
最初に口を開いたのは巧田だった。資料を一瞥し、軽く請け合う。
「すぐ行きましょう。結果が実感と違うなんてのは、よくある話です。たいていは読み方の問題なんですよ。お会いしてちゃんと説明すれば大丈夫、なんとかなります」
「……なんとか、なりますか」
「なります、なります」
和束の声が一段、軽くなりかけた、そのとき、
「私も」
絆だった。いつも通りの口調。表情には何も出ていない。
「結果の活用をもう少しフォローできたかもしれません。沢渡さんにはテクニカルマニュアルのサマリーを渡したんですけど、しっかり説明しておけばよかった。でも伺って説明すればご理解いただけますので大丈夫です。ステアリングコミッティへのプレゼン準備は私がサポートしましたので、何が誤解を生んだか、考えられることを整理しておきます」
静庵は、自分のノートパソコンでその顧客のアセスメント結果データを見ていた。淡々とした表情で、和束の動揺にも、巧田の朗らかさにも、まるで影響を受けない。やがて、独り言のようにつぶやいた。
「何を見て『合わない』と言っているのか。事前にできる限り潰しておきたい。最悪の事態に備えます」
巧田が「いや、そんな深刻なものでも」と笑いかけて、静庵の真剣な表情に、口をつぐんだ。
同じ一件のクレームに向き合う4人の姿勢は、見事にばらばらだった。

同じ一報に、4人は違う顔をした

点数は、一面ですよ

パワー重工業の会議室の空気が硬かった。広い机の向かいに座っているのは人事部長の沢渡と経営企画部長の穂積である。
沢渡が口火を切った。
「率直に申し上げますと、アセスメントの結果が私たちの感覚と合っていないんです。全部が違うわけではありません。もちろん、納得の結果となっている人もいます。ですが、一部の結果は私から見て全く合っていません」
そう言って、沢渡は隣を手のひらで示した。
「ここにいる穂積は、当社がもっとも信頼する経営幹部の一人です。このサクセッションプラン施策は、穂積が発起人となり、私と2人で作り上げてきました。元々、プラント事業の出身で、海外拠点の立ち上げ、M&A、ロボット関連の新事業開発を経て、今は本社で経営企画をやっています。これを見てください。穂積の結果です。リーダーシップ関連の指標がすべて低得点です」
沢渡の声が、わずかに硬くなった。
「まだ事務局のメンバー数人しか見ていませんが、みんなこの結果に驚いていました。これを信じて、大丈夫なのだろうかと。もしステコミの役員がこの結果を見たら、相当な不信感を持つはずです。そうなったら、もう私がどうにかできる問題ではなくなります」
穂積は黙ったまま、机の一点を見ていた。
沈黙を最初に破ったのは巧田だった。明るく身を乗り出して言った。
「お気持ち、よくわかります。ただですね、このアセスメント結果は、あくまでポテンシャルでして。実績そのものを否定するものじゃないんです。そこは読み方というか、運用でカバーできます。そんなに深刻に受け止めていただかなくても大丈夫です」
巧田は笑顔で言い切った。
沢渡の眉が、ぴくりと動く。
「……深刻に受け止めなくてもいい、と」
場の空気が凍った。
「あ、いえ、そういう意味では。正直に申し上げただけで。ええ、ですから、実績と得点をどう評価していくかについてきちんとご説明すれば——」

● OPQ解説:巧田

相手にどう見られるかをほとんど気にしない。だから客の不興にもひるまず、自分から踏み込んでいける。これは本来、固い場をこじ開ける強みだ。ただ今は、硬い表情から心情を汲み取ることができない弱みのほうに出た。さらに、考えも気持ちもその場に出してしまうので、取り繕いが効かず、本音の軽さがそのまま伝わってしまう。なんとかなるという前向きさが、事の深刻さを一段低く見積もらせる。悪気はないが、場の空気を完全に読み違えてしまった。

巧田の隣で、和束の顔から血の気が引いていた。せっかく来てもらった巧田が火に油を注いでいる。和束はたまらず口を挟んだ。
「す、すみません、本当に申し訳ございません……あの、決して軽く考えているわけではありません……私が、私の説明が至らなかったせいで、ご不快な思いをさせてしまいまして……もう……」
声がうわずり、語尾が崩れていく。和束の頭の中はこの場をどうとりなすかでいっぱいになっていた。

● OPQ解説:和束

自分がどう見られているかが強く気になる。だから顧客がもった不信感を自分への不信感として受け取り、傷ついてしまう。相手の評価に人一倍敏感ということは、この事態を誰より本気で受け止めているということでもある。動揺を抑えることができず、声や表情にそのまま出る。さらに物事を悪いほうから描くので、まだ起きていない最悪の事態を先回りして恐れる。この慌てぶりは、真剣さの裏返しなのだ。

会議は、早くも崩れかけていた。巧田の明るさは空回りし、和束は萎縮し、沢渡の表情はいよいよ硬い。
そのときだった。それまで一言も発していなかった穂積が、ゆっくりと顔を上げた。
「沢渡さん。……少し、私から話してもいいですか」

点数は、一面ですよ

あの点数で切り捨てられていたら

「この結果は……外れていません」
沢渡は弾かれたように隣を見た。我が意を得たりと頷いてくれるはずの仲間が、まるで逆のことを言いはじめた。
「沢渡さん。あなたはこれを間違っている、と言ってくださっている。ありがたいのですが、私はあっていると思っています」
穂積は4人のほうへ、ゆっくりと目を向けた。
「私は元来、人の上に立つタイプではありません。昔から号令をかけるのも、先頭に立つのも得意じゃなかった。私のやり方は隣でその人の話をよく聞いて、その人のやりたいことを手伝うことでした。だから、このリーダーシップが低く出るのは、正直、よく当たっているなと。ポテンシャルはその通りだなと」
穂積は薄く笑った。
「ただ、ポテンシャルと実際にできることは別です。私は20年かけて、自分なりのリーダーシップを身につけてきたと思っています」
穂積は、一度、机の一点に目を落とした。
「若いころ、別の適性検査ですけど受けたことがあって、結果は同じような感じです。管理職には向かないという結果でした。にもかかわらず、当時の上司は、私に海外拠点の立ち上げを任せてくれたんです。部内では反対意見もあったみたいですが、それを押し切って私を選んでくれた。あの5年間が私のリーダーとしての原点です。適性検査が重視されていたら、あの上司がいなかったら、今の私はありません」
穂積は、まっすぐ4人を見た。
「ですから、私は御社のアセスメントが間違っているとは思いません。問題はそこじゃない。この結果を選抜だけに利用して、育成の手を打たないのであれば、アセスメントは単に従業員の可能性を狭めているに過ぎないと思います」
長い沈黙があった。
それを破ったのは、沢渡だった。
「穂積の言うとおり。私は精度に疑問を持ちましたが、問題は別のところにありました。妥当性が高いアセスメントであるほど、結果を盲信してしまう。御社のアセスメントはよくできているからこそ、このままでは、うちは使えない。人を育てるための機能を持たないアセスメントを、次の経営リーダー選びに使うわけにはいきません」
沢渡は、机の上で両手を組んだ。
4人は、誰も、すぐに言葉を返せなかった。

わかります、と絆は言った

沈黙を破ったのは、絆だった。
「ありがとうございます」
その一言は、場違いなほど静かで、けれどまっすぐだった。沢渡がわずかに顔を上げる。
「穂積さんのお話を伺えてよかったです。正直に申し上げると、私たちは今日、結果と実績の乖離の要因を説明しに来ました。でも、お話しすべきだったのは、そちらではなかったんですね」
絆の表情は、終始落ち着いていた。きつい言葉の一つひとつが胸の奥に刺さっていないわけではない。むしろ、穂積が「従業員の可能性を狭めている」と言ったときも、沢渡が「このままでは、うちは使えない」と口にしたときも、絆の内側は軋んでいた。ただ、それを表に出してはいない。
「初期設定と運用をサポートしてきたのは私ですから、御社の問題意識がフィードバックやフォローアップにあることはよくわかります」
絆はノートを開いた。
「もう一度チャンスをいただけないでしょうか。選抜と育成の両方をカバーできる仕組みと運用の提案を改めてやらせてください。提案内容を見てからご判断いただきたく存じます」
沢渡は、しばらく絆を見ていた。それから、硬かった肩が、ほんの少しだけ下りた。
「ご提案をお待ちします」
会議室の空気が、はじめて一段ゆるんだ。和束は、その隣で、声には出さないまま、泣きそうな顔をしていた。よかった、つながった、という安堵と、自分は今日ひとことも役に立てなかった。きっと情けないやつだと思われている、という心細さが、いっしょくたになって込み上げてくる。それを誰にも気取られないよう、和束はただ、深くうなずいていた。

批判に敏感なタチだ。沢渡や穂積の厳しい言葉は、絆の心に深く突き刺さったが、その痛みを表に出すことをしない。取り乱す代わりに、相手の痛みに意識を向けた。相手への共感と自己抑制によって「わかります」という言葉に重みがでる。そして、この状況をここから良くしていけると本気で信じている。その前向きさがピンチをチャンスに変えた。傷つきやすさ、自己抑制、楽観の三つが噛み合うことで、離れかけた相手の気持ちをもう一度つなぎとめることができた。

ただ、絆の楽観には見落としもあった。「すべてを良くしていける」と信じるあまり、その宿題が、いまの当社の手持ちでは本当に解けるのか——そこは、まだ誰も確かめていない。

これは、評価しかしていない

オフィスに戻るころには、外が暮れかけていた。会議室に4人と報告を待っていた江末が顔をそろえる。
開口一番、巧田はもう前を向いていた。
「いやあ、後半は絆さんに救われましたね。最初こそ冷えましたけど、提案さえちゃんと作れば、あれは十分ひっくり返せますよ。読み方の整理と、フォロー体制の図を足して——」
絆もうなずいてノートをめくる。「フィードバックと研修の接続、ダッシュボードの見せ方……改善できるところは、まだいくらでもあります」
和束は相づちを打っていた。よかった、見送りが、ひとまず止まった。けれど、自分は今日、何の役に立っただろう。取り乱して、足を引っ張っただけだ。きっと、頼りにならないやつだと思われている。胸の内でそれが渦を巻いていたが、和束はそれを口にはしなかった。ただ、ノートの隅を、意味もなくなぞっていた。
静庵だけが自分の端末を見ていた。会議のあいだ一言も発さず、帰りの電車でも黙っていた男が、ようやく顔を上げる。
「ひとつ、はっきりさせておきたい」
低い声だった。全員が、口をつぐむ。
「データをずっと見ていましたが、穂積さんの結果におかしいところはない。妥当性の問題ではなかった」
静庵は、端末を閉じた。
「沢渡さんが最後に求めたのは、能力開発の仕組みと方法です。穂積さんも同じことを言っていました。選抜だけに使って育てる手を打たないなら、可能性を狭めているだけ、というのはその通りだ。だが正確に言えば、今のシステムには人を育てるための仕組みがない。もちろんフィードバックはできるのだが、フィードバックは自己理解と能力開発計画の立案にとどまる」
絆が、口を開きかけて、止まった。
「絆さんの考えは、今あるものを磨くというものだ。だが、これは磨く話じゃない。いま無いものを、作る話だ。フィードバックの文面でも、ダッシュボードの見せ方でも、運用でもない。私たちには、人の成長、パフォーマンスの向上に直接関与する仕組みがそもそも存在しない」
会議室が静まり返った。さっき一段ゆるんだはずの空気が、もう一度沈んだ。
その重さに最初に耐えきれなくなったのは、やはり巧田だった。
「まあ、それなら、それでいいじゃないですか」と、わざと明るく言う。
「我々の手に余るって話なら、上に投げればいいんですよ。作るかどうかなんて、決めるのは上でしょう」
静庵は、その軽口を否定しなかった。
「そうだな」と、静かに言った。

● OPQ解説:静庵

自分がどう見られるかを気にしない。だから、「私たちは、まだ何も持っていない」という、自分たちにとって最も不都合な事実をためらわずに言える。嫌われたらと怯むことも、明るく薄めることもしない。感情を表に出さないので、その言葉は嘆きにも責めにもならず、ただの事実として場に残る。会議のあいだ黙っていたのも、語ることがなかったからではなく、表に出す必要を感じなかっただけだ。そして、物事をまず悪い側から見る。絆の発言の実現可能性を評価し、解けないことを先に見つけた。単なる悲観主義ではなく、正確な予測だった。相手の気持ちを気にしない、自分の気持ちを出さない、最悪の事態を想定する、の3つが噛み合うと、誰も見たくない核心を、最初に言い当てることになる。

その夜、江末は静庵の見立てを、そのまま独崎に上げた。独崎は報告を聞いても、誰かを責めなかった。和束の不手際にも、巧田の軽率にも、触れない。ただ、低く、こう言った。
「運用で繕える話でもありませんね。これは、この事業が次に何を持つべきか、という話です。私が、上に上げます」
巧田は、軽い気持ちで「上に投げればいい」と言った。その言葉が、本人の思っていたよりずっと上まで——そして、ずっと大きなものを動かすところまで届くことを、このときはまだ、誰も知らない。

おわりに

同じ一通のメールが、4人の前で、4つの違う出来事になりました。巧田にとっては「よくある話」、和束にとっては「最悪の一日」、絆にとっては「改善のための宿題」、そして静庵にとっては「自分たちの弱点の発見」でした。起きた事実はひとつなのに、見えている景色は、これだけ違う。これが、物事のとらえ方(タフ、抑制、楽観的)が織りなす世界の見え方の差です。
タフが低い和束は、批判を我がことの痛みとして受け取り、誰より本気でうろたえました。抑制が高い絆と静庵は、その痛みを表に出さず、一人は相手へ、一人は問題の核心へと、静かに目を向けました。楽観的が高い巧田と絆は前向きな未来を描き、低い静庵は解決困難な大きな問題を見つけました。
時と場合により強みと弱みは入れ替わります。巧田の物おじしなさが固い扉をこじ開ける日もあれば、和束の繊細さが客の機微を誰より早く察する日もある。今回はたまたま、静庵の悲観が、誰も見たくない核心を最初に言い当てました。
そして、その核心はまだ解かれていません。その核心を解く鍵は4人の手を離れ、もっと上へと運ばれていきました。
※この物語はフィクションであり、登場する人物・企業・団体は実在のものとは関係ありません。

次回は「エネルギー」がテーマです。ある大きな決断を前にエネルギーがどのように作用するかというお話です。

清田 茂

このコラムの担当者

清田 茂

日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員

創業期メンバーとして入社以来30年、HRコンサルタントとして日本の人事アセスメント界を牽引。大手を中心にコンピテンシーモデリングから選抜設計、サクセッションプラン構築まで広範なプロジェクトを完遂。特に経営層との対話を通じた次世代リーダー育成に高い実績を持つ。 2002年取締役、2020年より執行役員として直販部門を統括。最前線で「人と仕事と組織の最適化」を追求する傍ら、SHLグループのグローバル知見の国内導入も推進。

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