コラム 人事コンサルタントの視点

アセスメントの価値は「結果」の先にある
~対話が人を育てる能力開発の進め方~

はじめに

近年、適性検査や多面評価などのアセスメントは、多くの企業で活用されています。採用や昇進・昇格の判断材料として利用されるだけでなく、社員の能力開発やキャリア支援の場面でも導入が進んでいます。
しかし、アセスメントを導入した企業の担当者からお話を伺うと、「レポートを本人に返却して終わりになっている」「1on1の場で簡単に触れるだけにとどまっている」といった悩みを少なからず耳にします。
もちろん、自分自身の特徴を客観的に理解することには大きな意義があります。ただし、レポートを読んだだけで人が成長するわけではありません。アセスメントを能力開発につなげるためには、その結果をどのように読み解き、次の行動につなげるかが重要になります。
本コラムでは、筆者が実際のコンサルティング現場で目にした活用事例をもとに、アセスメントを能力開発につなげるためのポイントについて考えてみたいと思います。

アセスメントは能力開発のスタート地点

アセスメントの価値は、客観的なデータを通じて自己理解を深められることにあります。一方で、人は必ずしも客観的にレポートを読むわけではありません。特に真面目で責任感の強い人ほど、強みよりも課題や低いスコアに目が向きやすく、「自分にはこの能力が足りないのではないか」「もっと改善しなければならない」と受け止めてしまうことがあります。その結果、せっかくのアセスメントが前向きな成長につながるどころか、自信喪失につながってしまうことさえあります。
つまり、アセスメントは能力開発のゴールではなくスタート地点です。大切なのはレポートの内容そのものではなく、それをどのように解釈し、次の行動につなげていくかだといえます。

アセスメントは能力開発のスタート地点

「共通言語」として機能させる

あるメーカーで管理職育成にアセスメントを活用している部長のAさんは、フィードバック面談の際に必ず本人と一緒にレポートを読み込みます。そこで時間をかけて確認するのは、「この結果をどう感じたか」「どこに納得したか」「どこに違和感があるか」といった本人の受け止め方だといいます。
能力開発においてアセスメントを使用するメリットの一つは、客観的なデータがあることで、上司と部下が同じ情報を見ながら対話できることです。上司が自身の経験則や価値観だけで「ここを改善した方がよい」と伝える場合と、「この結果を見てどう思った?」と問いかける場合では、部下の受け止め方は大きく異なります。
実際、Aさんのチームでも、「実はこの結果を見たとき少し自信をなくした」「自分でもここは課題だと思っているところが如実にデータに表れていると感じた」といった率直な自己開示が生まれるようになったそうです。
つまりアセスメントは、人を評価するためだけではなく、上司と部下が将来について話し合うための「共通言語」としても機能するといえます。

良い能力開発を支える結果の意味づけ

ただし、共通言語が生まれただけでは、能力開発にはつながりません。実際には、自己開示された内容をどのように受け止め、次の行動につなげていくかが重要になります。そこでAさんが意識していたのが、結果の意味づけを一緒に考えることでした。
例えば、あるメンバーはレポートを見ながら「自分は心配性で、打たれ弱いタイプなので、マネジメントには向いていないのかもしれません」と話したそうです。
その際、Aさんはすぐに否定するのではなく、「たしかにそういう見方もあるかもしれない。でも、心配性というのは裏を返せば、責任を重く受け止め、リスクに備えて入念に準備できるということでもあるよね」「また、打たれ弱いというのも、周囲の反応や自分の成果を振り返りながら改善しようとする姿勢の表れとも考えられるんじゃないかな」
と別の視点を提示したそうです。
さらに、「実際に、あなたは重要な案件ほど事前準備を丁寧にしていたよね」と、日々の業務で見られている行動とも結び付けながら対話を進めていきました。
アセスメント結果は、その時点での傾向を映し出したものです。同じ結果であっても、それをどう意味づけるかによって、本人の行動や学習意欲は大きく変わると考えられます。Aさんによれば、こうした対話を重ねる中で多くのメンバーが「自分は何を改善すべきか」だけでなく、「自分はどこを伸ばすべきか」という視点を持ち始めたそうです。
そして、その先に出てくるのが「何に優先的に取り組むのか」というテーマです。実際の能力開発の場面では、この優先順位づけが非常に重要になります。

良い能力開発を支える結果の意味づけ

課題を増やすのではなく絞り込む

能力開発面談でよく見られるのが、改善テーマを増やしすぎてしまうことです。レポートを読むと、多くの人は「ここも改善したい」「あれも課題だ」と考えます。
実際、Aさんのチームでも、レポートをきっかけに多くの開発課題を挙げるメンバーがいたそうです。そうした場面では、Aさんは「全部を変えようとすると、結局どれも中途半端になるので、まずは一番重要なテーマを決めよう」と促したといいます。
そのうえで、「将来どのような役割を担いたいのか」「今の自分に最も必要な成長は何なのか」を一緒に整理し、取り組むテーマを絞り込んでいったそうです。
能力開発において重要なのは、課題をたくさん見つけることではありません。限られた時間の中で、何に集中するかを決めることです。
アセスメントは課題を増やすためではなく、本当に取り組むべきテーマを見極めるためのツールとして活用してこそ、その真価を発揮するといえるでしょう。

行動変容は業務経験によって起こる

能力開発は、課題を整理しただけでは終わりません。重要なのは、その後どのような経験を積むかです。
Aさんのチームでは、能力開発テーマと連動した業務アサインを意識的に行っています。例えば、これまで自分一人で成果を出すことを得意としてきたメンバーに対して、後輩育成の役割を任せたそうです。
そのメンバーは後に、「人に教えることで自分自身の学びが深まりました」と振り返ったそうです。後輩の行動変容を支援する中で、「なぜ相手はそう考えるのか」「自分の伝え方は適切だったのか」を振り返るようになり、結果として自分自身の内省も深まったといいます。
アセスメントで自己理解を深め、対話によってテーマを整理し、その後の業務経験につなげる。こうした一連の流れがあって初めて、能力開発は実際の行動変容へと結びついていくのではないでしょうか。

おわりに

今回ご紹介した事例から見えてくるのは、アセスメントの価値は結果そのものではなく、その結果をきっかけにした対話にあるということです。
Aさんの事例で印象的だったのは、レポートの内容を説明することよりも、その結果をきっかけに本人の考えを引き出し、新たな見方を提示し、次の行動につなげていた点でした。アセスメントが「評価のためのツール」ではなく、「成長のための共通言語」として機能していたともいえるでしょう。
アセスメントを導入している企業は少なくありません。しかし、その結果が本当に能力開発につながっているかという視点で見ると、まだまだ工夫の余地があるかもしれません。
SHLでは、各種アセスメントの提供だけでなく、フィードバック面談の進め方や能力開発への活用を支援する研修・コンサルティングも行っています。アセスメントをより効果的に活用したい、あるいは1on1を成長支援の場として機能させたいとお考えの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

森山 蓮

このコラムの担当者

森山 蓮

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

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