AIの進化は、採用活動のあり方を根本から変えようとしています。今夏行われた当社主催の採用シンポジウムでも、企業側のAI活用だけでなく、学生側のAIによる選考対策が話題に上りました。あらゆるビジネスシーンでAIが活用される現代において、採用活動のみAIを禁止することは不可能です。しかし、AIによって最適化されたアウトプットから、いかにして優秀な人材を見抜くかという新たな課題に、多くの企業が直面しています。これは世界的な潮流でもあります。今回はSHLグループのコラムから、AI前提の選考でいかに候補者の実力を検証すべきか解説します。
新卒採用におけるAIの利用は、本当に問題なのか?
現在、企業研究から履歴書や志望動機の作成に至るまで、候補者の70%が採用プロセスのどこかでAIを利用しています¹。面接やオンライン適性検査²での利用も広がっており、今後の傾向は明らかです。つまり、AIの利用はさらに進み、アウトプットはより洗練され、結果として「AIが作ったコンテンツ」と「本人の真の実力」を区別することがますます困難になるということです。
SHLグループでは、新卒採用の改善を目指しお客様を支援してきましたが、その経験から、業界を問わず3つの大きな変化が起きていると感じています。
1) 金太郎飴のような「画一的」な応募の増加
AIの応募支援ツールを使えば、候補者はワンクリックで何百ものポジションに簡単に応募できるようになりました。これにより応募者の数は増えますが、質が伴うわけではありません。多くの候補者が同じツール、同じプロンプト、同じ最適化手法を使っているため、仮に候補者の本来の能力がそれほど高くなくても、応募書類上はどれも「よく練られた、素晴らしい内容」に見えてしまうのです。
2) 応募数は増える一方、人材を見極める手がかりは乏しくなっている
2025年、企業の応募数は26%増加しました³。AIツールの登場により、大量の企業に応募する手間が劇的に下がり、候補者は数十、あるいは数百もの応募をあっという間に完了できるようになりました。これは企業にとって候補者層の拡大を意味する一方で、企業にとっては選考の負担が重くなり、結果として応募者全体の質を薄めることにつながります。
3) 「ゴースト候補者」の出現
2028年までに、求職者の4人に1人が、AIで作成した偽のプロフィール、経歴詐称、または身代わり面接などを用いた「偽物」または「実態と異なる」候補者になる可能性があると言われています⁴。こうした状況は、候補者の信憑性に対する懸念を深め、採用プロセスのより早い段階で、スキルと本人確認を行う重要性を高めています。
AIの「禁止」がうまくいかない理由と、よりスマートなアプローチ
AIの使用を全面的に禁止したり、AIを使っていないことの証明を求めたりといった不要なハードルを設けることは、候補者の意欲を削ぎ、企業を「革新的ではない、敵対的な存在」として印象付けてしまいます。これはデジタルネイティブ世代の学生に対して非常に悪いメッセージとなり、企業が最も欲している優秀な人材を遠ざけてしまう結果を招きます。また、応募数が一定数に達した時点で早期に受付を締め切る企業も見てきましたが、これでは、時間をかけてしっかりと企業研究をした候補者よりも、AIを使って最速で応募した候補者を優遇することになってしまいます。
企業は「AIはなくならない」という現実を受け入れるべきです。その上で、AIの利用、応募者の増加、洗練された応募書類を前提としながらも、本当に優秀な候補者がしっかりと評価される新卒採用プロセスを設計する必要があります。目指すべきはAIの「排除」ではなく、「検証」です。AIのサポートが最終的な合否を決定づけることがないよう、重要な選考段階において、候補者自身の「生身の能力」を示す証拠を十分に集められるプロセスにすることが重要です。
各段階の役割を明確にし、本人の実力を見極める選考へ
1つの選考段階ですべてを見極めようとするのではなく、各段階に明確な役割を持たせましょう。応募者が多い初期段階では、優秀な候補者とそうでない候補者を確実に分ける要素を特定することが目的となります。ここで威力を発揮するのが、効率的にスクリーニングを行える強力なアセスメントツールです。明確に構造化された評価基準、何を評価するのかという共通認識、そして合格ラインの慎重な設定が非常に重要になります。
書類選考、アセスメント、そして面接。これらの各段階でのパフォーマンスを比較することで、AIが生成した回答を単独で評価しているだけでは気づけないような「矛盾点」を見つけ出すことができます。ここで特に重要になるのが、構造化された「リアルタイムでの対話」です。その場で思考力を問う質問を投げかけたり、論理的な説明を求めたりすることで、候補者の「真の実力」がその場で試される瞬間を作り出すのです。
適切なアセスメントツールの見極め方
新卒採用向けのアセスメントツールを導入する際は、テストの品質を表す信頼性や妥当性のほかに、そのツールがAIによる不正回答にどう対策しているかなど、いくつか確認すべき重要なポイントがあります。優れたアセスメントツールは、大規模なアイテムバンク(問題プール)を持ち、質問の順序をランダム化することでリスクを減らしています。さらに、映像や音声、画面の監視機能に加え、別のタブを開いたり、サブモニターを使ったりといった不正の兆候を検知する機能など、候補者の行動を監査できる仕組みを備えています。信頼できるプロバイダーは、自社のアセスメントツールをAIツールで定期的にテストし、システムの脆弱性を把握して事前に対策を打っています。
また、法律、規制、各地域のガイドラインを遵守しているかどうかの確認も重要性が増しています。現在、EUでは「EU AI法」によってAIを利用する企業側の義務が厳格化されるなど、地域によっては極めて厳しい規制が整備されつつあります。こうしたグローバルでの規制強化の波は、日本企業の採用活動にとっても無関係ではありません。将来的な法規制の変化や倫理的リスクを見据え、コンプライアンス対応が万全なベンダーを選ぶ視点が重要です。
おわりに
AIに左右されない、よく設計された新卒採用プロセスとは、AIを「排除」しようとするものではありません。候補者本人の実力が自然と見えてくる場をつくることで、AIの有無が合否を左右しないような仕組みづくりです。もちろん、理想的なプロセスの構築は簡単ではありません。しかし、今回のヒントをもとに各選考段階の評価方法を少しずつ工夫していけば、選考の精度は着実に高めることができます。AIは今まさに進化の途上にあり、採用における向き合い方もアップデートを続けなければなりません。日本エス・エイチ・エルでは新たにAIプロクタリングを搭載したWebGAB Secureをリリースいたしました。今後も常に最新の知見と手法をご提供し、時代に即した新卒採用を目指す皆さまをしっかりとサポートしてまいります。
このコラムの担当者
水上 加奈子
日本エス・エイチ・エル株式会社 マーケティング課 課長
10年以上にわたりHRコンサルタントとして顧客と向き合う現場の最前線に立ち、大手企業の採用要件定義やデータ分析、育成研修等に従事。2016年に「イノベーション人材」をテーマに産業・組織心理学会で論文を発表。 その後、2020年のマーケティング部門立ち上げより現職。チーム責任者として科学的根拠に基づく発信を統括しつつ、現場知見を活かした多岐にわたるコンテンツ制作を指揮している。国家資格キャリアコンサルタント。