「ファシリテーションを学んだはずなのに、組織や会議の場が活性化しない。」
そんな思いを抱いたことはないでしょうか。
問いかけの仕方や場の回し方などの「技術」は身につけたはずなのに、うまくいかない。その原因は技術不足ではなく「目的の不在」にあるのかもしれません。
今回は、ファシリテーションを単なる「技術」ではなく「目的」から捉え直す視点をご紹介いたします。
ファシリテーションの肝は「何を促進するか」
ファシリテーションとは「支援し、促進すること」ですが、この言葉は時代によって活用される領域を広げ、現在では様々な意味や文脈で用いられるようになりました。
例えば
- 個人の経験をもとに成長・行動変容を促進する場
- 会議での合意形成や課題解決を促進する場
- チームビルディングや組織活性化を促進する場
つまり、ファシリテーションの本質は「どう進めるか(How)」という技術ではなく、「何を促進するか(What)」という目的の明確化にあるのです。
目的別に捉える3つのファシリテーション
実務上の整理として、ファシリテーションは大きく3つの目的に分けて考えると理解しやすくなります。ファシリテーションの目的について、中村和彦氏の3分類をもとに、内容を噛み砕いてご紹介します。
1.学び・気づきを促すアプローチ
研修やワークショップなどで用いられ、参加者の気づきや内省を引き出すことを目的とします。
ここでは正解を導くことよりも、「自分なりの理解や変化」が重視されます。
2.課題解決や意思決定を促すアプローチ
会議やプロジェクトの場などで用いられ、論点整理などを行って合意形成を支援することを目的とします。ここでは限られた時間の中で結論に到達することが求められます。
3.人間関係を深めることを支援するアプローチ
チームや組織において、信頼関係やコミュニケーションの質を高めることを目的とします。
目に見える成果よりも、人と人との関係の変化に焦点が当たります。
これら3つの目的は互いに独立しているとも限りません。実際の場面では、複数の目的が関わり合っていることも少なくありません。
ファシリテーションの歴史:カウンセリングからビジネスへの広がり
ファシリテーションという概念は心理カウンセリングの領域で生まれ、トレーニング領域への応用を経てビジネス領域にまで広がっていった経緯があります。
1910年代には存在していた「グループで他者と関わる体験を通して治療を促すアプローチ」をトレーニング領域に応用していったのが、クルト・レヴィンらによって見出されたTグループです。Tグループとは、グループ内で起こっている個人・グループのプロセスに気づき、働きかける力を養っていく方法のことです。Tグループを支援する役割のことは当初「トレーナー」と呼ばれていましたが、実質的には「学び・気づきを促す」ことを主に促進させるファシリテーターでした。
Tグループに影響を受け、「ベーシック・エンカウンター・グループ」というカウンセリングのアプローチを考案したのがカール・ロジャーズです。ロジャーズはパーソン・センタード・アプローチを提唱したカウンセリングの大家です。彼は自身が考案したベーシック・エンカウンター・グループの支援役を、「個人の成長や変容を促進する人」という意味で「ファシリテーター」と呼びました。
こうしたアプローチは、1950年代に「個人の変容による組織開発」を目的とした研修プログラムとしてビジネス領域に応用され始めます。さらに1960年代には、研修というコントロールされた場を飛び出し、実際の業務場面に応用する動きが加速しました。その代表例が、エドガー・シャインによるプロセス・コンサルテーションです。
このようにして、「その場にいる参加者を中心に据えた」「プロセスへの気づき・働きかけを経て、目的を促進させる」アプローチはビジネス領域における実務場面にまで伝わっていったのです。
ビジネス場面でファシリテーションの質を高めるには?
ビジネス場面でファシリテーションの質を高めるためには、ファシリテーター自身の「関わり方」を意識する必要があります。
昨今、ファシリテーションを学ぶプログラムを取り入れている企業は少なくありません。しかし、時間が限られた研修の場では、「スキル」の共有に留まりがちです。
あらかじめルールや目標が与えられた構成的な場であれば、スキルだけでも一定の成果は出ます。しかし組織開発などの非構成的な場では、小手先のテクニックだと通用しない場面が出てくることでしょう。
もし現場で行き詰まったときは、一度テクニックを横に置いてみてください。そして、以下のステップを意識してみましょう。
- メンバーを観察する:参加者の表情や声色、沈黙などに目を向ける。
- プロセスを感知する:その場の「人と人の間に何が起こっているか」を感じ取る。
- 目的に照らし合わせる:その場で本当に促進させたい「目的(学び/課題解決/人間関係)」とプロセスとを照らし合わせる。
これらを意識することで、その場の状況に合わせた本質的な声かけ(ファシリテーション)が自然とできるようになります。
上辺だけの技術に頼るのではなく、「何を促進するための場なのか」という目的に立ち返ること。それこそが、組織やチームを本当に動かすファシリテーションの第一歩です。
出典:
中村和彦「ファシリテーション概念の整理および歴史的変遷と今後の課題」
井上義和・牧野智和編著『ファシリテーションとは何か――コミュニケーション幻想を超えて』第5章(pp.93-119)、ナカニシヤ出版、2021年(※著者の許諾を得て使用・掲載しています)
このコラムの担当者
谷口 奈緒美
日本エス・エイチ・エル株式会社 マーケティング課