コラム 人事コンサルタントの視点

人事テストという「影響力の大きな道具」:JPTA自主基準にみる専門家としての責任

採用プロセスにおいてほとんどの企業が実施している面接。毎年特定の社員が面接官を務めているという企業もあると思います。
毎年同じ顔触れが面接官を務めていると、蓄積された経験の中で、なんとなく評価の目線が揃ってきている気がしてしまいます。アサインされる面接官も「毎年のやつね。もう慣れたものだし、うまくやっておくから細かい事前説明は大丈夫だよ」という対応になりがちです。
本当に、長年やっていたら評価の目線は統制できると言えるのでしょうか?本コラムでは、選考フェーズ間で起きた『評価の逆転現象』の分析データ事例をもとに、面接官の目線を揃えるために不可欠な『評価要件の定義と共有』のポイントを解説します。

はじめに

一般に「適性検査」と呼ばれる人事に関わる多種多様なテスト(以下、人事テストと呼びます)は、採用・配置・育成など、さまざまな場面の客観的な意思決定を支える道具として広く活用され、企業と産業社会の発展に貢献しています。一方で、その結果は受検者個人のキャリアや職業生活に大きな影響を及ぼしえます。

私たち日本エス・エイチ・エルは、事業者団体である日本人事テスト事業者懇談会(Japan Personnel Testing-service Association、通称JPTA)の発起人会の一員として、その特性を踏まえた設計・開発・提供のあり方に対する重責を担っています。本コラムでは、JPTAの自主基準を軸に当社が堅持している専門的知見と誠実な向き合い方についてお伝えします。

はじめに

なぜ「基準」が必要なのか:客観性と人権の守護

人を客観的に評価する難しさは、人事担当者や管理職を常に悩ませる課題です。人事テストはその支援をするべく開発・提供されてきました。多くは心理学や統計学に基づいており、印象や属人的な経験則に偏らず、評価の客観性や公平性を高めるツールとして、有用性が認識されています。

一方で、科学的な手法に基づくからこそ、結果は高い説得力を持ち、意思決定の根拠として重く受け止められます。その意味で、人事テストは「中立な情報」を超え、時には人を選別する力を持ちうる道具でもあります。さらに、人事判断に活用される以上、結果は個人の職業人生に大きな影響を持ちます。開発時の検討が不十分な道具では、科学性の名の下に、人事テストの結果によって受検者が不当に排除される事態になりかねません。

また、企業にとっては数ある判断材料の一つに過ぎないテスト結果も、評価される側には能力や可能性を決定づけるもののように重く受け止められることがありえます。

こうした問題意識を持つ事業者が集まり議論を重ねてまとめたものが、事業者が守るべき姿勢や考え方を示した自主基準です。私たちはこれを、人事テスト事業者としての基本を整理したものと捉えています。実際、設計・開発や提供に関わる判断を振り返ると、自主基準と重なる考えが当たり前のように前提となっていました。

JPTA自主基準の基本的考え方

基準の前文には、人事テストが「産業社会の発展」と「働く個人の職業生活」の双方に影響を及ぼすと明記されています。人事の意思決定支援を通じて企業の経営判断を支援することと、受検者個人の尊厳や可能性を守ることを、同時に重視すべきという考え方です。

そして、基本的条項として、人権の尊重・公平性・有用性・科学性が書かれています。いずれも当たり前のように見えるかもしれません。しかし、企業の立場から使いやすさや分かりやすさばかりを追求すると、科学性を欠く、あるいは受検者の人権を侵害してしまうということが起こりかねません。1つの側面を過剰に求めれば、他の原則と相反してしまいます。人事テストは、開発や評価におけるプロセスや根拠が外部から見えにくい道具でもあります。だからこそ、事業者側により強い自制が求められるのです。

JPTA自主基準の基本的考え方

「つくる責任」:妥当性の継続的検証と文脈の検討

基本的条項に続いて、「つくる責任」が掲げられています。科学的な手法への準拠・必要な品質水準の確保・指標の検証といった、テストの品質に関わる内容です。

開発時における科学的な手法への準拠や品質水準の確保はもちろんですが、実際の運用開始後も定期的な検証は欠かせません。受検者や採用・人事を取り巻く環境は絶えず変化するため、開発時点で確認された妥当性や品質も継続的な確認と更新が必要になります。

また、設計・開発時には、判定指標が持つ影響の広がりも検討する必要があります。ある結果が、特定の企業・場面では理に叶っていたとしても、それが他の企業・場面でも同様とは限りません。特に、マイナス評価につながる結果が文脈を離れて一般化されると、本来は特定状況下での傾向を示すにすぎない情報が、企業・場面を問わない不利な評価として広がります。それは、その結果を持つ特定の受検者の可能性を不当に狭めてしまうことに他なりません。だからこそ、指標の利用が本来の文脈から外れないように、その結果が使われうる文脈や及ぼしうる影響を、設計・開発段階で丁寧に検討します。

「届ける責任」:機械的な選別を防ぐための対話

人事テストに関わる責任は、設計・開発の段階だけで完結するものではありません。どれほど慎重に作られたテストも、使われ方や解釈によって、その意味合いや果たす役割は大きく変わりえます。意図しない影響を及ぼすこともあります。

例えば、判断を過度に単純化させた機械的な可否判断の材料となったり、本来とは異なる意味で評価者に伝わったりすることがあります。これらを防ぐためには、テストに関わる人たちに、使い方や解釈の仕方が、適切に共有されている必要があると考えています。

そのため私たちは、商品の紹介だけでなく、使い方や位置づけについても対話を重ねていくことを重視しています。自主基準にも、頒布・サービスや受検者への配慮に関する条項が設けられています。私たちが重視しているこうした姿勢は、結果として、自主基準の考え方とも重なっています。

「届ける責任」:機械的な選別を防ぐための対話

おわりに:人事テストとの向き合い方

人事の課題は背景や前提によって是とされるものは異なります。また、人や組織に関わる判断は、どれほど情報を集め、慎重に検討を重ねても、絶対的な正解はありません。人事テストは「正解」をもたらす道具でも、単独で結論を出せる魔法の杖でもありません。人事判断を支えるための一つの材料として、文脈の中で使われるべきものだと、私たちは考えています。

だからこそ、人事テストという道具と誠実に向き合い続ける開発者であるとともに、考え方や前提を共有しながら課題解決に向けて伴走できる提供者でありたいと考えています。

稲澤 未穂

このコラムの担当者

稲澤 未穂

テスト開発・分析センター

入社以来15年以上、テスト開発・分析部門にて適性検査の開発・品質管理に従事。言語・英語科目の作問から妥当性検証までを専門的に担い、これまでにのべ900件以上のデータ分析に携わる。産業・組織心理学会で「管理職のパーソナリティ傾向(2021年)」等の研究発表を行うなど学術的知見も豊富。現在は顧客データや業界横断の分析・検証を通じ、アセスメントの信頼性と妥当性を担保し、技術・品質の両面から当社ソリューションを支えている。

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