コラム 人事コンサルタントの視点

なぜ優秀な人ほど、リーダーとしてつまずくのか
― 文脈という視点からリーダー選抜を考える ―

近年、多くの企業において「次世代リーダーの選抜」や「サクセッションプランの見直し」が、改めて重要なテーマとして取り上げられるようになっています。
不確実性の高い経営環境のもとでは、リーダー人材をどのような前提で選ぶのかという問いが、人事施策の一要素という枠を超え、経営判断そのものに近づきつつあるといえるでしょう。
一方、SHLグローバルの調査によると、現在高い成果を上げている人材のうち、上位の役職においても成功する可能性が高いと予測されるのは、およそ7分の1にとどまることが示されています。この結果は、「優秀な人材を選びさえすればよい」という従来の前提が、必ずしも成り立たなくなっていることを示唆しています。
本コラムでは、リーダー選抜を「個人の優秀さ」という観点からではなく、「役割や組織が置かれている文脈との適合」という視点から捉え直していきます。その手がかりとして、リーダーシップ研究における重要な転換点であるコンティンジェンシー理論を取り上げます。

「優秀な人」を選んでも成果につながらない背景

これまでのリーダー選抜では、以下の要素が候補者を見極める主要な判断材料として用いられてきました。

  • 高い業績
  • 豊富な専門性や経験
  • 周囲からの評価
これらが現在においても重要であることは言うまでもありません。
ただ、現場では次のような場面を目にすることがあります。
  • プレイヤーとしては優れた成果を上げていたが、マネジメントの立場になるとチーム全体の成果が伸びない
  • 強い意思決定力を評価されていた人材が、事業フェーズの変化とともに周囲との摩擦を生むようになる
こうした結果を、候補者本人の能力や適性の問題として片づけてしまってよいのでしょうか。むしろ、担う役割や置かれた前提条件とのあいだにズレが生じていると考えたほうが、状況をより正確に捉えられる場合もあります。

「同じ人材であっても、担う役割や局面が変わると成果が変わるのはなぜか」という問いに理論的な枠組みを与えたのが、コンティンジェンシー理論です。

「優秀な人」を選んでも成果につながらない背景

コンティンジェンシー理論(Contingency theory)が示した視点

コンティンジェンシー理論は、フレッド・フィードラーによって提唱されたリーダーシップ理論です。
この理論の特徴は、どの組織でも通用する理想的なリーダー像が存在するという前提から距離を置いた点にあります。関心の中心となる問いは、誰が優れたリーダーかではなく、どのようなタイプのリーダーが、どのような条件下で成果を上げやすいのかというものでした。
フィードラーは、リーダーの基本的な動機づけスタイルは短期間で大きく変化するものではないという前提を置いています。
LPC(Least Preferred Coworker)尺度を用いることで、リーダーの傾向は大きく次の二つに整理されます。

  • タスク志向型:成果や課題達成を重視する
  • 人間関係志向型:関係性やチームの調和を重視する
ここで重要なのは、どちらが望ましいかという評価ではありません。それぞれが持つ強みが、発揮されやすい条件が異なるという点です。

リーダーを取り巻く条件と成果の関係

フィードラーは次に、リーダーが置かれている条件を、次の三つの要素で整理しました。

  • リーダーとメンバーの関係性の質
  • 業務や目標がどの程度明確に構造化されているか
  • 職位に基づく正式な権限の強さ
これらの要素の組み合わせによって、リーダーが影響力を発揮しやすい度合いは、「コントロールしやすい状態」から「不確実性の高い状態」まで段階的に整理されます。
研究の結果、次のような傾向が示されました。
  • 条件が非常に明確な場合、あるいは極端に不確実性が高い場合
    → タスク志向型リーダーが力を発揮しやすい
  • 不確実性が中程度で、調整や合意形成が求められる局面
    → 人間関係志向型リーダーが有効に機能しやすい
この理論が示しているのは、成果は個人の優劣ではなく、「リーダーの特性と、周囲の条件との組み合わせ」によって左右されるという考え方です。

リーダーを取り巻く条件と成果の関係

現代組織における「文脈」の複雑化

コンティンジェンシー理論の視点は、現在でも有効です。一方で、現代の組織では、リーダーを取り巻く前提条件がさらに複雑になっています。
リーダーを取り巻く前提条件の例:

  • そのポストに期待されているのは、変革の推進なのか、それとも安定運用なのか
  • チームは立ち上げ期なのか、成熟期なのか
  • 組織文化は統制を重んじるのか、自律を重んじるのか
  • 事業は拡大局面にあるのか、構造改革の途上にあるのか
これらは単なる外部環境ではなく、経営が意図的に選び取っている前提条件、すなわち「文脈」と捉えることができます。
SHLの調査においても、こうした文脈を事前に定義したうえでアセスメントを行うことで、リーダー成功の予測精度が従来手法の3〜4倍に向上したことが確認されています。

「誰が優秀か」から「誰が合うか」へ

以上を踏まえると、リーダー選抜における問いは、次のように置き換えられるのではないでしょうか。誰が一番優れているかではなく、この役割、この組織、この局面に、誰が最も合っているか。固定的な後継者リストや、単一の理想的なリーダー像は、前提条件が変わったときにミスマッチを生みやすくなります。
そのため人事には、以下の二つを切り分けて考える視点が求められます。

  • ポストごとに前提となる文脈を整理すること
  • 個人の強みを、その文脈との相性という観点で捉えること

「誰が優秀か」から「誰が合うか」へ

おわりに ― 文脈を起点とした意思決定へ

リーダー選抜が難しくなっている理由は、候補者の質が低下したからではありません。判断軸が、組織や事業を取り巻く前提条件の複雑さに追いついていないことが、一因と考えられます。
コンティンジェンシー理論が示した「リーダーシップは、前提条件との関係の中で成立する」という視点は、いま改めて人事と経営に示唆を与えてくれます。
これからのリーダー選抜では、ポストの文脈を整理し、求められるリーダー要件を明確にし、個人との適合を多面的に見極めることが求められます。こうしたプロセスを、経験や感覚だけに頼らず、再現性のある形で設計していくことが重要になるでしょう。

SHLのInsight Platformは、文脈の特定からアセスメント、サクセッション、育成設計までを一気通貫で支援する仕組みです。「誰が優秀か」ではなく、「誰がこの文脈に合うか」という視点でリーダー選抜を見直したいとお考えの方にとって、こうしたアプローチも一つの選択肢となるのではないでしょうか。

参考文献:
THE CONTINGENCY MODEL OF LEADERSHIP EFFECTIVENESS:ITS LEVELS OF ANALYSIS

森山 蓮

このコラムの担当者

森山 蓮

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

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