コラム 人事コンサルタントの視点

次世代リーダー選抜の前提を問い直す
~業種・階層別にみる管理職のリーダーシップ特性~

はじめに

次世代リーダーの選抜やサクセッションプランは、多くの企業において重要な経営課題となっています。こうした取り組みを進める上で欠かせないのが、「誰を次世代リーダーとして育成・登用すべきか」を判断するための人材要件の整理です。しかし、現場の実態としては、数年前に定めた人材要件をそのまま運用していたり、一般的なリーダー像を参考にしながらも自社との適合性までは十分に検証できていなかったりするケースも少なくありません。
こうした状況を踏まえると、「次世代リーダーに求められる人材要件は、役割や事業環境を超えて共通のものとして捉えてよいのだろうか」という問いが生じます。
この問いを考える上で重要な対象となるのが管理職です。管理職は次世代リーダー候補として選抜・育成の対象となることが多く、組織におけるリーダー人材の中核と言えます。経営層と課長層では担う役割が異なり、また業界によって事業環境も異なることを考えれば、管理職にみられるリーダーシップのあり方にも違いが現れる可能性があります。
そこで本コラムでは、筆者が2026年の産業・組織心理学会で発表した研究をもとに、日本企業の管理職にみられるリーダーシップ傾向が、階層や業種によってどのように異なるのかをご紹介します。

はじめに

リーダーシップに「正解」はあるのか

従来のリーダーシップ研究では、優れたリーダーに共通する特徴を明らかにしようとする研究が長らく行われてきました。一方で近年は、リーダーシップの有効性は役割や組織を取り巻く環境によって左右される、という考え方が広く受け入れられています。
例えば、経営層と課長層では求められる役割が異なります。経営層は全社や複数事業の中長期的な成長に責任を負う一方、課長層は担当組織の成果創出やメンバーのマネジメントに責任を負います。また、業界によって事業環境や価値創出のあり方が異なれば、管理職が直面する課題も変わります。
こうした背景を踏まえ、本研究では「優れたリーダーに共通する特徴は何か」を探るのではなく、「管理職にみられる特性は、役割や事業環境によってどのように異なるのか」という観点から、リーダーシップ特性の違いを分析しました。

< 従来の発想 >

誰が最も優れたリーダーか

< 本研究の視点 >

今の組織・役割に適した
リーダーシップ特性とは何か

管理職のリーダーシップ特性を二つの側面から捉える

今回の研究では、日本企業58社、管理職約7,000名のデータを分析しました。
近年の管理職には、変化する環境に対応しながら組織の方向性を示す役割と、組織を安定的に運営しながら成果を出し続ける役割の両方が求められています。実際、多くの管理職は、変革を進めながらも日々の組織運営を維持しなければなりません。
そこで本研究では、管理職のリーダーシップ特性を二つの側面から捉えました。
一つは、将来の方向性を描き、変革を主導し、その実現に向けて組織を牽引する力を表す「戦略・変革志向」です。
もう一つは、組織を安定的かつ協働的に運営し、継続的な成果を生み出す力を表す「組織運営・実行志向」です。
言い換えれば、一方は組織の変革を推進する力であり、もう一方は組織を安定的に機能させる力です。

戦略・変革志向 (10尺度)

定義:将来の方向性を描き、変革を主導し、その実現に向けて組織を牽引する能力

構成尺度:
指揮 柔軟性 粘り強さ 戦略的センス 改革 向上意欲 決断力 ヴァイタリティ 率先垂範 現場管理

組織運営・実行志向 (9尺度)

定義:組織を安定的かつ協働的に運営し、継続的な成果を生み出す能力

構成尺度:
対人感受性 チームワーク まじめさ 判断 情報をとる 目標設定 目標管理 品質志向 顧客志向

上記二つの側面に着目し、階層や業種、企業規模によってどのような傾向が見られるのかを分析しました。

管理職のリーダーシップ傾向は一律ではない

分析の結果、まず階層による違いが確認されました。経営層ほど「戦略・変革志向」が高く、課長層ほど「組織運営・実行志向」が高い傾向が見られました。
経営層は全社的な意思決定や事業変革を担います。一方で、課長層は組織運営や部下育成、目標達成を担います。今回確認された傾向は、階層ごとに期待される役割や責任範囲の違いを反映している可能性があります。
また、業種別に見ると、商社業では「戦略・変革志向」が高く、IT業では「組織運営・実行志向」が高い傾向が確認されました。
もちろん、これは業界ごとの固定的な特徴を意味するものではありません。しかし、商社業では市場機会の探索や意思決定が重要になる場面が多く、IT業ではプロジェクト遂行や組織横断的な協働が重視されます。業種ごとに求められる価値創出のあり方の違いが、その背景にあると考えられます。
さらに興味深かったのは、企業規模の影響が想定ほど大きくなかった点です。
一般的には、大企業と中小企業では管理職像にも違いがありそうに思われます。しかし今回の分析では、一部の部長層を除き、企業規模による顕著な差異は確認されませんでした。
一方で、階層や業種では比較的一貫した違いが見られました。特に業種と階層を組み合わせてみると、その違いはさらに大きくなる傾向がみられました。

階層別のグラフ
業種別のグラフ

これらの結果から、管理職の特徴を理解する上では、企業規模そのものよりも、担う役割や置かれている事業環境の方が強く関係している可能性が示されました。

次世代リーダー選抜の前提を問い直す

今回の結果は、次世代リーダーを選抜・育成する際の前提そのものを見直す必要性を示唆しています。
経営層、部長層、課長層では果たしている役割が異なります。また、業界によって事業環境や価値創出のあり方も異なります。そのため、すべての管理職を同じ観点で理解しようとすると、それぞれの立場や環境で成果につながりやすい特徴を見落としてしまう可能性があります。
もちろん、どの階層や業界にも共通して見られる側面はあります。しかし今回の結果は、それだけでは管理職にみられる傾向の違いを十分に説明できないことを示唆しています。
将来のリーダー候補を検討する際には、「優秀な人材がどうか」という視点に加え、「どの役割や事業環境で強みを発揮する人材なのか」という観点を持つことが重要になるのではないでしょうか。

次世代リーダー選抜の前提を問い直す

おわりに

今回の研究では、管理職にみられるリーダーシップ特性が、企業規模よりも階層や業種といった組織文脈と強く関係している可能性が示されました。
この結果は、人材要件の設計や次世代リーダーの選抜において、一般的なリーダー像をそのまま当てはめるだけでは十分ではない可能性を示唆しています。

一方で、自社の経営層・部長層・課長層にどのような特徴の違いがあるのか、あるいは現在の事業環境においてどのような人材が成果を上げているのかを、客観的なデータに基づいて把握できている企業は決して多くありません。

人的資本経営が求められる時代だからこそ、「どのような人材が優秀か」だけではなく、
「自社の各階層や事業環境では、どのような人材要件が求められるのか」という視点から、自社の次世代リーダー選抜のあり方を見直してみてはいかがでしょうか。

SHLでは、アセスメントデータを活用したコンピテンシーモデルの構築に加え、職務やポストごとに求められる特性や役割の特徴を整理するためのコンサルティングを提供しています。次世代リーダー選抜やサクセッションプランの見直しに関心のある方は、ぜひ当社コンサルタントまでお問い合わせください。

参考文献: 森山蓮・水島奈都代(2026).「管理職のリーダーシップ特性に関する探索的研究―組織文脈との関連分析―」 産業・組織心理学会第41回大会発表論文集.

森山 蓮

このコラムの担当者

森山 蓮

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

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