導入事例

工場設備保全員の安全管理にアセスメントを活用。日産自動車横浜工場の挑戦。

工場設備保全員の安全管理にアセスメントを活用。日産自動車横浜工場の挑戦。

工場設備の保全作業で発生しうる災害。
保全員の行動傾向から潜在的なリスクを予測し、マネジメントや指導に活用している事例をご紹介します。

※本取材は2022年4月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

日産自動車株式会社

事業内容

自動車の製造、販売および関連事業

業種

自動車製造業

従業員数

22,825名(単独) 

インタビューを受けていただいた方

淡路秀夫 様

日産自動車株式会社
横浜工場 第一製造部 エンジン課 安全健康管理係長

インタビューの要約

工場設備の保全作業で発生する災害について、保全員の安全にかかわる行動傾向を特定するためにアセスメントを活用することを検討。
保全員にパーソナリティ検査OPQを実施し、実際の災害事例と当事者のパーソナリティを照らし合わせたところ、結果と行動事例が一致。潜在的に事故につながる可能性のある行動傾向を抽出することができた。
保全員のアセスメントの結果を、現場の工長(監督者)に共有。潜在的なリスクを持つ行動傾向について理解の上、日々の指導に活かしてもらっている。
保全作業は共同で行われることから、今後はチーム編成にもアセスメントデータを応用したい。特に小集団における意思決定に、メンバーの組み合わせが与える影響を検討したい。

工場設備の保全作業で発生しうる災害。 保全員の安全を守るためにアセスメントを活用したい。

私が勤務する日産自動車横浜工場は、エンジン博物館・歴史資料館を備えた歴史ある工場で、当社の発祥の地でもあります。「全員の高い安全意識で、すべての災害を防止する」を基本理念に、エンジン・モーター・アクスル・サスペンションを主に生産しています。私は設備保全を担当する課に所属し、生産設備のメンテナンスを行う保全員の安全・衛生・健康の確保に努めています。

我々にとって、保全員の安全確保は重要課題となっています。設備の保全作業は、多くが突発的に発生する非定常作業であり、「故障が多岐にわたり」「経験が少ない中で」「早期復旧」のための修理を行わなければならず、その際の安全確保には個人の資質が大きく影響します。これまでは当社独自に開発した個人安全資質評価表を用いて個人の弱点を把握し、個別の安全活動目標を設定の上フォローアップを行う活動に取り組んできました。

しかしながら、「潜在的な危険敢行性」に起因するリスクを伴う危険作業は後を絶たず、これまでの評価表ではとらえられない個人の危険に対する資質を把握する必要性が生じました。危険敢行性とは、「危険を感じ取っていても敢えてその危険を避けようとせず、危険事態に入り込んでいく性質」を指します。このような特徴をとらえることができるアセスメントツールを模索し、当社人事部に相談したところ、日本エス・エイチ・エルを紹介されました。

保全員にパーソナリティ検査を実施。 事故事例と当事者の特徴を照らし合わせると、背景が見えてきた。

日本エス・エイチ・エルのパーソナリティ検査OPQを課員全員に実施し、担当コンサルタントに相談したところ、「潜在的な危険敢行性」を示す特徴を得点で表すことができました。実際に、これまで災害要因として挙げられた行動事例と特徴を重ね合わせた結果、行動事例と得点が合致した結果を得ることができました。
また、複数の災害事例と当事者のパーソナリティから、事故につながりうる行動傾向の知見を見出すケーススタディも実施したところ、危険敢行性とは別に、「違和感を覚えても口に出せない、助けを求められない」というような特徴も、状況によっては事故につながるケースがありました。状況と個人の特徴を照らしあわせることで、事故の背景がより明確にわかるようになり、適切な指導に繋げられるようになりました。

災害当事者と似た特徴を持つメンバーを抽出すると、同様のリスクを抱えると思われる集団を特定することができます。個人が持つ、定量化できない「あやうさ」を、明確に示してくれるのがパーソナリティ検査だと感じます。

保全員にパーソナリティ検査を実施。 事故事例と当事者の特徴を照らし合わせると、背景が見えてきた。

余裕がない時にとっさの行動に表れるのが、パーソナリティ。 アセスメント結果を監督者に共有し、リスクマネジメントを行う。

現在は、パーソナリティのデータから様々な因子を組み合わせ、危険行動につながる特徴をもつ可能性の高い方を絞り込み、監督者と共有し、マネジメントや教育に活用しています。心理学分野の専門性がないため時間をかけながらですが、日本エス・エイチ・エルのマニュアルと担当コンサルタントのアドバイスを頼りに進めています。

まだまだ手探りの面もありますが、過去発生した災害事例と個人の行動特性を照らし合わせることで、何故あのような行動をとってしまったのか、という深堀りができるようになりました。災害発生時は当事者も反省しますが、反省だけでは次にはつながらないことが多いです。「このような性格であるがゆえに、このような状況でこのような判断をしてしまった」という背景まで理解することで、監督者からも適切な声掛けや指導ができるのではないかと思っています。特に、余裕がない時や急いでいる時、その人が持つ傾向が顕著に表れます。アセスメントはこうした潜在的なリスクを把握し、適切なマネジメントに役立てることができるものだと思います。

アセスメントの結果は、チーム体制変更時にも活用しています。チームメンバーのコンピテンシーポテンシャルデータを分析することで、各チーム全体としての強みや弱みをとらえることができるようになり、体制変更に伴う各チームの能力変化も把握することができるようになりました。

他事業所保全課においても同様の問題意識がありますので、全事業所の保全安全係長が定期的に集まる会議の場で本事例紹介を行っています。今後は、保全作業が基本的に共同作業で行われることから、小集団における危険メカニズムを分析し、作業者の組み合わせに関するリスク分析についても活用したいと思っています。最終的なねらいは、個人の組み合わせによりチームのパフォーマンスを向上させ、かつ安全に作業できる小集団を意図的に編成できることです。

人事系のコンサルティングを利用するのは初めてでしたが、日本エス・エイチ・エルはコストが手頃であることに加え、担当コンサルタントが包み隠さず丁寧な説明をしてくださるのがありがたかったです。今後こうした安全に関する事例がもっと出てくるといいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 主任

清水智昭

今回のお取組みはパーソナリティ検査OPQの新たな可能性を見出した稀有な好例です。従来のパーソナリティ検査は実績や上司評価などの「パフォーマンス」を予測するツールとしての活用でしたが、「危険行動」を予測するという新たな活用に、パーソナリティ検査OPQの活用の幅広さに気づかされました。
人事経験のない生粋の技術者である淡路様が「潜在的な危険敢行性」をアセスメントツールから見出そうとなされた本事例は、検証の切り口や着眼点が素晴らしく、多角的で実際に発生した事象に基づいた分析は納得感がありました。
加えて本件の課題は、メーカーの共通課題であると改めて感じました。工場における災害は命にかかわる大惨事につながる危険性を持ちあわせています。誰もが安全に働くことができる、そんな当たり前のことをアセスメントを通じてこれからもご支援させていただきます。

導入事例

船乗りの適性を見える化。商船三井の海上職採用要件定義プロジェクト。

船乗りの適性を見える化。商船三井の海上職採用要件定義プロジェクト。

安全運航を支える海のプロフェッショナル「海上職」の適性をデータから明らかにする、商船三井の取り組みをご紹介します。

※本取材は2021年6月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社商船三井

事業内容

ドライバルク船事業、油送船事業、LNG船事業、海洋事業、自動車船事業、コンテナ船事業、港湾ロジスティクス事業、フェリー・内航RORO船事業などを含む総合外航海運業

業種

海運業

従業員数

1,119名(陸上794名 海上325名):他社への出向者等を除く(2021年3月31日現在)

※SMBC日興証券単体

インタビューを受けていただいた方

小林 裕美 様

株式会社商船三井
人事部 採用チームリーダー

インタビューの要約

明確な言葉で定義しづらかった海上職の適性を、データを使って見える化することに挑戦した。
現有海上職社員にパーソナリティ検査を実施し、協力者には万華鏡30を使って結果をフィードバック。若手から役員までほとんどの社員が協力してくれた。
社員の分析結果をもとに採用要件を決定すべくディスカッションを行った。スキルを重視する海上職において、行動特性の重要性を解釈するのに苦労した。
新しい採用要件について社内でコンセンサスを形成し、コンピテンシーを構造的に見極めるために選考手法を改良した。
今後取り組みたいことは、エンゲージメントの向上や乗り合わせの検討を含めた、海上職に対するタレントマネジメント。

誰も言葉にできない「海上職」の適性。 俗人的な判断ではなく、定量的なKPIを設けたい。

私は入社から約10年で営業部、一度目の人事部での採用・育成業務、シンガポール駐在などを経験しました。その後、自分の専門領域として人事の仕事にもう一度取り組むことを希望し、現在は採用と若手の育成に携わっています。今はHRBPなど、10年前とは違う戦略人事の概念が出てきて、経営に近いコアな部分の業務を担える可能性があるということを魅力に感じています。現場と経営をつなぐような立場が担えたらと思います。

採用と育成に加え、今取り組みたいのはタレントマネジメントです。当社はタレントマネジメントシステムを導入しており、配置における運用などは他のチームで検討していますが、私はタレマネシステムで管理されている評価・パフォーマンスデータと採用の人材要件をつなげることに着目しました。採用の人材要件を俗人的な判断ではなく「見える化」して、定量的なKPIを設けたい。これが今回の人材要件設計プロジェクトの始まりです。

誰も言葉にできない「海上職」の適性。 俗人的な判断ではなく、定量的なKPIを設けたい。

最も課題だと感じたのは、事務系の人材要件を海上職にも適用していたこと。海上職は、6カ月間船に乗りっぱなしの非常に特殊な環境で職務を遂行します。しかし、その適性は誰も明確な言葉で説明できませんでした。職務が変われば、当然人材要件も異なるはずです。採用時点のアセスメントデータを活用しようにも、アセスメントツールをころころ変えていたためデータ蓄積がなく、効果測定ができない状態でした。海上職において、採用時点で見極めるべき指標をきちんとしたアセスメントデータを取得して作るべきではないかと思いました。

海上職社員にパーソナリティ検査を実施し、パフォーマンスとの関連を分析。 結果の解釈に議論を重ねる。

海上職の現有社員にパーソナリティ検査OPQを受検してもらい、そのデータをパフォーマンスと紐づけて統計分析にかけることにしました。「社員の傾向をもとに採用要件を作成するため、受検にご協力をお願いします。協力してくれた方には、ご自身の検査結果をフィードバックします。」と社内告知しました。参加は任意でしたが、若手社員から役員までほぼ受検してくれました。最初は反発を受けるのではないかと心配しましたが、特にネガティブな反応はありませんでした。

収集されたデータを日本エス・エイチ・エルに分析してもらいましたが、この結果を解釈するのが今回一番難しかったところ。なぜこのような結果が出るのか読み解かなければならないのですが、私は海上職ではないので確信がもてず、海上職の社員も日頃アセスメントデータを扱うことはありませんので、結果は受け止めていただいたものの、議論をするとなると難しい。もともと海上職はスキルを持っているということが非常に重要であり、行動特性への着目が進んでおらず、これがディスカッションを困難にした一因であったと思います。人材要件に落とし込むまで、何度も人事部内でディスカッションを重ねました。

結果を一部共有すると、海上職は陸上職に比べて、きちんとプランニングして手抜かりなく職務を遂行するというコンピテンシーがとても大事でした。パフォーマンスを発揮する海上職の方は、危険を予知して事前に準備しリスクを最小化するための努力ができます。これは行動的資質の部分が大きく、採用時点で行動特性としてみないと、安全運航で人命を支えている海上職においてはクリティカルな問題になると感じました。

新しい人材要件を見極められるように、採用選考を構造化。

新しい採用要件について社内でコンセンサスを形成した後、選考プロセスを改良しました。日本エス・エイチ・エルの協力のもと、新しい人材要件をエントリーシートの設問から面接での質問事項まで落とし込み、これをベースに面接官トレーニングを実施し、さらに評価のブレを抑制するため、誰でもセルフチェックができるような面接マニュアルを作成しました。これまでの面接は、業務内容を説明して覚悟を問うような場になっていましたが、より構造的に必要なコンピテンシーを見極める場とすべく努めました。今期の採用活動を終え、優秀な方を採用できたと認識していますが、最終的には実際の職務での活躍を見て、検討を続けていく必要があります。

将来的な目標は海上職のタレントマネジメントを行うことです。海上職は就労環境の特殊性から、安定した人材定着に繋がりにくい側面があります。上司のマネジメントによって左右される部分も大きいので、管理職の人材育成・能力開発をする必要があると思っています。また現在、継続的なエンゲージメント調査を行っており、誰が不調を抱えている可能性があるかを人事部がモニタリングしています。このエンゲージメントとパーソナリティの関連を今年検証する予定です。もしかしたら、コンピテンシーに関連する部分で、エンゲージメント低下の原因が見えるかもしれません。また、船での乗り合わせ(メンバーの組み合わせ)も大事です。メンバーが変われば、同じ仕事でもエンゲージメントが回復する場合もあるのです。タレントマネジメントにおける適正配置という概念になると思いますが、乗り合わせの検討にも適性検査が使えるといいですね。

日本エス・エイチ・エルの良いところは、適性検査の信頼性・妥当性の高さ。今回、海上職の採用テストとしていくつかのベンダーの適性検査を比較しました。採用で使用する適性検査には必ず社会的望ましさ(回答者が自分をよく見せようとするために回答がゆがむ効果)の問題が生じますが、自己相対化をさせるアセスメント形式が用途に合っていると感じます。また、担当コンサルタントによるサポートが手厚く、問題を整理する際の議論相手になってくれるため、感謝しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 課長

横山 武史

小林さんが陸上総合職(事務系)の採用のみならず、海上職の採用も担当することになり、このプロジェクトはスタートしました。陸上総合職(事務系)では採用選考におけるデータ活用が進んでおりましたが、海上職では人材要件が明文化されておらず、採用選考が体系化されていないことに、小林さんは問題意識を持たれていらっしゃいました。
海上職の適性を説明できる人がいないというお話しを伺い、OPQの社員受検とハイパフォーマー分析をご提案申し上げました。ハイパフォーマー分析の結果、陸上総合職とは異なる特徴を見つけ出すことができ、海上職の人材要件定義に貢献することができました。当プロジェクトでは要件定義を行ったうえで、採用選考へ落とし込むところまでサービス提供を行いました。
ここからは効果検証に入ります。当プロジェクトを通して海上職採用の改善が見られたという証明ができるまで責任をもって取り組みます。また、今後は商船三井の採用戦略の立案と遂行だけでなく、広くタレントマネジメントのお力になれるよう全力でサポートしてまいります。

顧客や社会へ価値を提供するために、事業部主導で採用や育成を進めてきたメディアフォース。ビジネスの拡大に伴って生じた管理職不足などの人事課題に、全社的に取り組む人材開発プロジェクトが発足しました。本インタビューでは管理職の要件定義についてご紹介します。

※本取材は2023年3月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社メディアフォース

事業内容

システムインテグレーションサービス、Webシステム構築、汎用系システム構築、インフラ構築

業種

情報処理サービス

従業員数

208名(2023年4月1日現在)

インタビューを受けていただいた方

家喜 章平 様 / 上村 潤 様

株式会社メディアフォース
取締役 執行役員 (写真左)
業務管理本部 総務人事グループ 課長 (写真右)

インタビューの要約

業界未経験者に自社の価値観を伝えプロとして育成する人材戦略であったが、ビジネスの拡大により管理職が不足。他の人事課題への対処も含め、全社横断の人材開発プロジェクトが発足。
現在活躍している管理職の特徴をデータ分析から導き、さらに今後のビジネスの変化に対応すべく社長や事業部門責任者へのインタビューを行って、管理職要件を定義。
管理職の要件を採用基準に反映して運用している。今後本格的に開始する経験者採用でも活用する予定。
管理職候補生の識別と抜擢、部門間の異動の要否など、今後タレントマネジメント施策を検討していく上で今回作成した要件や分析結果を活用していく。

事業の成長によって人材育成のスピードアップが喫緊の課題に。

当社が業界の未経験者を採用してきた理由は、顧客や社会に貢献する手段としてシステムを開発するという自社の価値観を体現できる人材を自らの手で育成したいからです。しかし、ビジネスが従来の受託開発からソリューション型へ変容する中で、人材育成をさらに加速し、事業成長のスピードに合わせる必要が出てきました。 人材育成を強化したくても管理職の数が足りず、管理職不足を補うことが喫緊の課題となりました。

当社は人事権が事業部にあり、基本的に配属や異動、キャリア形成は事業部の権限で行っています。そのため部門の垣根を超えた情報共有が不足していたり、育成の状況が十分に把握できないといった、人事制度の運用について全社を横断的に統制することが不十分な状態でした。これらの問題を解決するため、育成に限らず、採用や人事制度に関しても改善のスピードを高めるべく、責任者をおいてしっかり取り組んでいく全社的な人材開発プロジェクトをスタートさせました。

事業の成長によって人材育成のスピードアップが喫緊の課題に。

手始めに感覚で行っていることを定量化していこうと考えました。定量化しないと、言葉1つをとってもみんな捉え方が少し違います。例えば、「エネルギッシュな人が欲しい」など。人材に関する言葉を皆が同じ意味で用いることができるようにすることが必要だと考えました。そこで定量データを使用した管理職の人物像の明確化に取り組みました。投資に見合う価値があるのかという批判的な意見もありましたが、投資に見合う効果を得るためにやるべきだとの想いを伝え、納得してもらうことができました。

インタビューとデータ分析を用いて管理職の要件を定義。

ビジネスの変化にうまく適応し、活躍している管理職の特徴を、パーソナリティ検査OPQの結果を使用して分析しました。受検していただいたすべての管理職の方々には、自己理解を深めるために、結果をお返ししています。この分析の結果、大きな2つの事業領域において、管理職のタイプが明確に異なっていることが分かりました。感覚的なものが数値化され、客観的なデータで示されることで、納得感のある結果となりました。

ただ、この分析はあくまで現在の管理職を分析しているものであり、今後の事業戦略によって必要となる管理職像を見出すためのものではありません。そこで社長と事業責任者が今後の事業をどのように考えているかを尋ねるインタビューも実施しました。このインタビューから導き出された人材要件は、自分のこれまで持っていた感覚やイメージと全体的に合致していましたが、コンピテンシーとして適切に表現できていなかったと気付きました。特に「元気づけ」や「対人感受性」といった対人面のコンピテンシーが重要であることが明確になりました。これらのコンピテンシーが選ばれたのは、チームで働く際にはもちろん、顧客に接する際にも対人能力が重要だからです。システムを作ることは、どこまでいっても手段であり、本質は顧客との信頼関係にあるということがわかりました。

これら2つの手法から得られた結果を統合し、最終的に6つの要件に絞り込みました。

管理職の要件を採用活動に反映。経験者採用も開始予定。

定義された管理職の人材要件から採用基準を作り、採用選考に使用しています。採用ではWebCABを使用して、結果帳票から採用基準に照らして本人の強み弱みを把握し、面接で掘り下げて確認しています。悩ましいのは、基準を満たす人が限られてしまうことです。パーソナリティ検査と知的能力検査の結果を総合的に見ていますが、それぞれの検査結果において、どの水準をボーダーラインとすべきかについては、入社した社員の検査結果と業績の関係を調査したうえで慎重に検討しています。 また、部門によってシステムエンジニアの特性は異なり、求める人材も変わります。しかし、部門別ではなく一括に採用しているので、各部門の求める人材の平均値を採用することになり、焦点がぼやけてしまいます。もちろん会社に共通の部分もありますが、今回行った分析でも、2つの大きな事業部には異なるタイプの人が多いことがわかりましたので、どう採用し、どう配属するかについては今も試行錯誤しています。

今後は、これまで行っていなかったエンジニアの経験者採用も行います。今までの人材よりも早くコア人材に成長するので、管理職としての人材要件も採用時に確認していくことになります。

タレントマネジメント施策としては、今回作成した人材要件を基にポテンシャル情報を活用し、管理職候補として適任な人材を特定し、抜擢することを人材開発プロジェクトで進めていきます。これが実現すれば、部門間の異動の判断にも役立てることができます。

人事データの収集と可視化による投資効果は即効性があるものではありません。人事としては客観データを共通言語にディスカッションできることが大事だと考えています。月に1度、幹部の集まる会議で人事データを提示してディスカッションをしています。この取り組みが部門の垣根を超えたコミュニケーションを促進し、全社的な人事課題の解決につながることを期待しています。

日本エス・エイチ・エルは、データを収集し分析するだけでなく、その結果をどう解釈し、活用するかに対して積極的にコンサルティングを提供してくれます。その結果、私たちが抱えている問題について有用なアドバイスをもらえることがあります。また、私たちの気づかなかった視点やアイデアを提供してくれるので、重要なパートナーとして位置付けています。ディスカッションの機会をたくさん持ってくれる一方で、過剰にサービスを勧められることはありません。「なぜこんなに親身になってサポートしてくれるんだろうか」と話し合うほどです。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング1課

深津 寛

本プロジェクトが人材要件定義の事例の中で一段目を引くのは、以下の3つの要素を網羅している点にあります。
① 活躍者の人物像を、現在と未来とに分けて分析したこと。
② 活躍者のタイプは複数存在すると仮定したこと。
③ 定量的手法であるアセスメントデータ分析と、定性的手法であるインタビューとを組み合わせたこと。
活躍者を分析する上での、①「現在と未来」②「複数タイプ」という鋭い仮説は、当初からメディアフォースさまにお示し頂いていたものです。ここにアセスメントを専業とする日本エス・エイチ・エルの得意領域がクロスオーバーしたことで、非常に有意義な分析結果を得ることができました。
始動まで1年弱に渡って打ち合わせと検討を重ねましたが、いま改めて振りかえってみても、根底にある価値観は常に一致していたと感じます。
今回のプロジェクトに微力ながらも貢献できたことは大変光栄です。引き続き日本エス・エイチ・エルの専門性を活かして、メディアフォースさまの今後の課題に最善のサポートを提供してまいります。

導入事例

牛めし、とんかつに続く「新業態」立ち上げを担う人材を育てる、松屋フーズホールディングスの挑戦。

牛めし、とんかつに続く「新業態」立ち上げを担う人材を育てる、松屋フーズホールディングスの挑戦。

新たな業態に挑戦する松屋フーズホールディングス。その立ち上げを担う人材をアセスメントを用いて選抜し、成功確率の高い人材配置の実現を目指す取り組みをご紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社 松屋フーズホールディングス

事業内容

飲食事業を中心とするグループ会社の経営管理

業種

小売業

従業員数

1,613名 2020年(令和2年)3月期・連結

インタビューを受けていただいた方

別役 建治 様 / 一坂 正博 様

株式会社 松屋フーズホールディングス
人事部 人事グループ グループマネジャー(写真左)
人事部 人事グループ チーフマネジャー(写真右)

インタビューの要約

事業規模のさらなる拡大のために、牛めし・とんかつ事業に続く新業態の立ち上げに適性のある人材を社内で特定し、登用・育成する必要があった。
日本エス・エイチ・エルのアセスメントを用いて、これまで新業態を担ってきた少数の人材の特徴を特定。類似した人材を新業態に抜擢するなど、適材適所を効率的に行えるようになった。
今後のミッションは、新業態を担える人材の育成と、部分最適を乗り越えて適材適所を遂行していくこと。

牛めしととんかつに続く、新業態を担う人材を社内から探したい。

当社のようなチェーンストアビジネスは、ある勝ちパターンを作って脈々と回していくことが成功につながるという構造があります。その一方で、中期経営計画ではさらに大きく事業拡大させようという方針があり、牛めし事業ととんかつ事業だけではなく、新業態を展開できる人材を育てるという、いわゆる戦略人事の課題が降ってきました。従来の事業は、同じタイプの人材を採用して育成すればうまくいきました。しかし、新業態を担える人材を社内で探すと、毎回同じ数名の人にしか白羽の矢が立ちません。この人たちの予備軍を作らなければ、中期経営計画に示された大きな事業の拡大は実現できないと考えました。

この人たちはどんな人なのか?社内に予備軍はどれだけいるのだろうか?と考えたときに、実は人材に関するデータがないことに気づきました。昇格試験などで会った時の印象しかない。どこかに隠れた人材がいるのか、いないのかもわからない。それで、新業態に適した人材を、タレントアセスメントを使って探すことにしました。

牛めしととんかつに続く、新業態を担う人材を社内から探したい。

当社の店長については、本部が決めたことを正確に行えるかどうかが評価基準でしたし、サービスの均一化や徹底力が当社の強みでもありました。一方、新事業は試行錯誤の連続であり、常に臨機応変な対応が求められます。これまでは新事業に適した人材を発掘し、育成しようという発想はあまりありませんでした。しかし今後は、戦略人事として新事業人材の発掘と育成を積極的に行わなくてはならないと経営に提案しました。

OPQを用いて、新業態やその他ポジションへの適性を把握。

アセスメントツールとして、なるべく回答時間が短いもの、コストを抑えられるもので、精度が高いものを探しました。他社の商品もいくつか検討しましたが、やはりコストや所要時間の関係で難しく、結果的にSHLのOPQにたどり着き、これなら採用時にも使っているし汎用性もある、一石二鳥じゃないかということで導入を決めました。

アセスメント結果データを分析すると、新業態を担ってきた社員はロジカルな人たちであることがわかりました。分析結果を見るまでは、感覚派の人たちだと思っていましたので予想外の結果でした。今では、彼らと似たアセスメントの結果を示す社員を、新業態の担当に選んでいます。

新業態以外にも、今は10か所くらいのポジションで、良い人いないかというオファーを貰ったら、成功する人材モデルをもとに、類似した人材を推薦しています。今後は、さらにアセスメント結果を分析して成功確率を上げていくというのが、我々のミッションです。

請負型の人事ではなく「攻めの人事」へ。

ジョブローテーションにおける人材を提案する際も、日本エス・エイチ・エルのアセスメントの結果は納得性の高い情報となってます。本人を知っている場合、結果を見て「ああ確かにな」と、よく思うんですよね。客観的な数字をもって候補者を提案することで説得力を高めています。

従来は、知っている人しか推薦できませんでした。このやり方では知らない人にはチャンスがありません。アセスメントを使うことで、チャンスが公平に行き渡るようになりましたし、異動の成功確率も上がり、適材適所がやりやすくなりました。しかも客観的であり、恣意的でない。これは重要です。人事異動を客観的に行うことが、他の人事施策についても客観的に行うというメッセージにもなります。

特定のポストに対する候補者を見出すときにもアセスメントは重要です。アセスメント結果があることで人事が積極的にしかけていくことができます。新業態の人材選抜は「攻めの人事」だと思います。

請負型の人事ではなく「攻めの人事」へ。

日本エス・エイチ・エルのいいところは、担当者が熱心に、細かく要望を聞いてくれるところ。考えがまとまらなくてモヤモヤしていても整理してくれます。提案内容にしても、クライアントの話をよく聞き、クライアントのことを考えて作っているのが伝わります。こちらはストレスなく進められます。

今後のミッションは、新業態を早く立ち上げられる人材を育てていくこととマネジメントのレベルアップ。加えて部分最適になっている組織をどう全体最適にしていくかが課題です。部門は優秀な人を抱え込みたがります。5年後のために今は我慢してくださいと部長を説得します。

個人的なミッションは、社員個人のモチベーションを引き上げて幸せを感じてもらうこと。個人個人のモチベーションリソース(意欲源)は色々あると思うので、それを気づかせて、実現の力になりたいです。本人もうれしいしお客さんもうれしい、結果として会社もうれしい、そういう環境を作りたいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

太田 啓

別役さんから「新業態に適性のある人材を発掘したい」とご相談をいただいてから、何度も意見交換を重ね今回のプロジェクトに至りました。お打合せの間、常に意識していたのは別役さんのビジョンを正しく理解することでした。
松屋フーズホールディングスは長年弊社のアセスメントをご利用いただいており、過去にも優秀店長の傾向分析を実施しておりましたが、これほど大規模なアセスメントデータの分析は初めての取り組みでした。松屋フーズホールディングスの成長戦略に影響をおよぼす本プロジェクトに携わることができて大変光栄です。
今後は、選抜された新業態人材の育成、全社適正配置の実現、本プロジェクトの効果検証でお役に立てるよう微力を尽くす所存でございます。

導入事例

急成長するLAVA Internationalの科学的人事戦略。

急成長するLAVA Internationalの科学的人事戦略。

日本市場で急速な成長をとげた、ホットヨガスタジオ事業のLAVA International。
組織の急拡大に伴う人事課題にどのように取り組んだのか、そのタレントマネジメント事例を紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社LAVA International

事業内容

ヨガスタジオの運営、ヨガインストラクター養成スクール等の運営、ヨガウェアブランドの展開、ヨガイベントの運営

業種

サービス業

従業員数

グループ全体 5,877人(正社員4,256名、アルバイト1,621名)※2019年8月末現在

インタビューを受けていただいた方

的場 勝己 様

株式会社LAVA International
運営部 部長

インタビューの要約

急拡大に伴う大量採用が求められる中、採用数よりも採用の質を担保する必要性を感じ、入社後のパフォーマンスを予測できるアセスメントを探し始めた。
部長以下の全社員に日本エス・エイチ・エルの適性検査を実施し、データ分析を行った。インストラクター、店長職、SV職、本部系企画職の適性がそれぞれ明らかになった。
採用のフローにアセスメントを組み込み、質の高い採用活動が可能となった。また、インストラクターから本部系企画職へのキャリアチェンジにもアセスメントを導入し、適性に沿った異動が可能となった。また、社内にアセスメントの用語が徐々に浸透し、人材の能力や特徴を表現するための共通言語ができた。

ギリギリ合格した人材の中に、光る逸材がいる。 それがパフォーマンス分析に目を付けたきっかけ。

今の立場は、店舗運営の責任者ですが、日本エス・エイチ・エルのアセスメントを導入した当時は、人材開発部の採用グループのグループ長でした。大量採用のさなか、私の問題意識は、採用数を確保することも大事なのですが、今の採用は成功しているのか否かを、入社後のパフォーマンスで示すべきではないか、ということでした。

このような問題意識を持ったきっかけは、いくつかあります。私自身のキャリアは営業畑が多く、結果がすべて数字でわかる世界です。採用の結果は採用数はもちろんわかりますが、もっと違う形で採用の成果を表したかったというのがまず一つ。もう一つは、採用と教育、現場の立場の相違です。採用と育成は、育成がうまくいかないケースに対し、「なぜこの学生を採用したんですか」と葛藤が起こります。教育と現場は、現場でスムーズに業務が行えなかった場合に、「なぜこの状態で送り出したんですか」と、また葛藤が起こります。このような構造を解消するために、現場でのパフォーマンスをベースとして、こういう理由で採用したのだという根拠を出発点に持ちたかったのです。そのために、採用の視点と現場でのパフォーマンスに相関があることを示す必要がありました。

ギリギリ合格した人材の中に、光る逸材がいる。 それがパフォーマンス分析に目を付けたきっかけ。

もう一つ加えて言うと、大量採用で採用数を確保する必要があったので、ギリギリで受からせた人たちがその後どうなったのかを知りたくて、最終面接評価C-で合格した人材を、自分で追跡調査してみました。その結果、C-で合格した人材は、早期離職はたしかに多かった。でも、入社後パフォーマンスが高い人材の出現率も、C-が多かったのです。このような興味深い結果が表れたことも、パフォーマンス分析に踏み出したきっかけになりました。

選んだポイントはわかりやすさと汎用性、そして「当たっている」ということ。

「採用時のアセスメント結果と入社後のパフォーマンスとの相関をはっきりさせて、より質の高い採用をしたいので、そのための提案をください」と、6,7社くらいにお声がけしました。日本エス・エイチ・エルを選んだのは、最終アウトプットを自分たちがどう使っていくのかイメージしたときに、一番わかりやすかったから。あとは、「今回は入社後のパフォーマンスとの相関を分析するつもりだが、いずれは役職への登用や、本部系の企画職へのキャリアチェンジなどにも使っていきたい。その分析も可能か?」と聞いたら、ことごとくできると言っていただいたので。社員のアセスメントは何かを知りたいというたびに実施するものではないと思うので、一度の実施で色々な活用ができることは大きなメリットでした。

最後の理由は、導入前にモニターとして社員が受検した結果が、本人の特徴を正しく説明していて、役員が感動したからです。「本当だね、この子そうだよね」と。最初はインストラクター採用のためとしか考えていなかったのが、この最終決定に至る過程で上層部に見てもらった時に、これは面白いねとなって、部長以下全員に受検してもらう流れとなりました。

見えてきた各職種への適性をもとに、効率的な採用・異動を実現。

社員のアセスメントデータを分析した結果、インストラクターに必要な特徴に加え、店長職やSV職に求められる特徴、そして本部企画職に求められる特徴がわかりました。店長職やSV職には、インストラクターの資質に加えて求められる資質があり、また本部企画職の適性は、インストラクターの適性とは一部相反することなどがわかりました。

その結果を受けて、採用ではかならずアセスメントを実施して、面接官と見方を共有して評価に使いました。また、インストラクターから本部系職種へのキャリアチェンジの際も、実施して見極めに使うようにしました。インストラクターと本部系職種は、業務内容がまったく異なりますので、アセスメントをして面接してみると、現場よりも本部に適性のある方もいたりします。そういう方を発見できる喜びもあります。

さらに、社内で実施している360度評価の結果を、さらに詳細に解釈する際にも、このアセスメントを組み合わせて使っています。360度評価は、あくまである人の視点なので、時期やペアリングの影響も受けますし、完全に鵜呑みにすべきではないと思っています。本人のアセスメントの結果も併せて参照し、なぜこのような360度評価の結果になったのか、というのを深く理解しようとしています。人には多かれ少なかれ多面性があって、何かきっかけがあれば誰でも異なる側面が出てくるものなので、なるべく客観的な視点をもつよう努力しています。

社内の人材を表す共通言語ができた。

採用や異動を効率的に行えるようになったということのほかに、アセスメントを入れてよかったことは、社員の特徴を的確に表す共通言語ができたことです。実際にアセスメントの結果を目の前にするのは人事系の役職者だけですが、彼らが各部門に対してもアセスメントに使われている用語を使って、採用や育成について話します。アセスメントに使われている表現が社内に浸透すると、他の社員のことを評価するときにその表現で話すので、社内にいる人のコンピテンシーを表すのに共通言語ができます。たとえば、プレッシャーへの耐力がある、というのが正確な表現だとして、それを単に「メンタルが強い」などと表現してしまうと、少し意味があいまいになってしまう。そういう共通言語ができることも、いい人材マネジメントにつながるのかなと思います。

今後の人事施策については二つあります。まず新しく着任した人材開発部長の言葉を借りると、「採用に際して、インストラクターを採るのではなく、全体を対象に利益創出ができる人材をとる」。インストラクターがゴールと見えないような入社後の広がりを感じる採用活動をすることで、良い店長が排出されるようにしたいです。女性が多い会社ですので、妊娠・出産・復帰のサイクルがあることを考えると、もっと役職者を輩出するペースを上げるべきですし、入社当時から自然とキャリアアップを目指したくなる採用をしたいというのは、まさにその通りだなと思います。

もう一つ、私の現在の役割である運営部の目線で言うと、採用を担当していたときから実施したかった、アセスメントを用いた配置や昇進は、まだまだ活用できる余地があると思いますので、今後は運営部でさらに力を入れていきたいと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

下越 千尋

社員の方々のアセスメントデータ分析結果を報告した際、その結果を裏付ける具体的なエピソードや意見が的場さんや役員の方から出てきて、活発なディスカッションとなったのが印象的でした。お客様の持つ仮説がデータによって検証され、それが具体的な言葉や数字となって共通認識された瞬間でした。分析結果を深く理解されようと、実際の現場で起きていることや既存の情報などを組み合わせて多角的に判断しようとされている点は、私自身勉強をさせていただいたことも多かったです。また、私どもが提供するアセスメントツールが現在も社内のコミュニケーションの道具となって活用されていることも、お客様の組織の発展に寄与できているという私たちの自信と誇りにつながっています。お客様がこのツールから得られる知見がより価値の高いものになるよう、引き続き支援させていただきたいと思っています。

導入事例

学力テストから適性テストへ。「くもんの先生」としての活躍の可能性を見極める、公文教育研究会の採用改革。

学力テストから適性テストへ。「くもんの先生」としての活躍の可能性を見極める、公文教育研究会の採用改革。

「くもんの先生」の特徴を、アセスメントデータで分析。学力を計る採用テストから、くもんの先生としての活躍の可能性を見極める採用へと舵を切った、公文教育研究会の取り組みをご紹介します。

※本取材は2021年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社公文教育研究会

事業内容

算数・数学、英語、国語(母国語)、フランス語、ドイツ語、日本語、書写、学習療法などのフランチャイザーとしての教材の研究開発、制作、指導法の研究、ならびに教室の設置・運営管理。児童書、絵本などの出版および教具、知育玩具など教育関連商品の開発ならびに販売。

業種

教育業

従業員数

KUMONグループ全体 4,091人(2021年3月現在)

インタビューを受けていただいた方

清原 久嗣 様 / 出口 恵子 様

株式会社公文教育研究会
教室ネットワーク推進部 リクルート・育成サポートチーム(写真左)
教室ネットワーク推進部 リクルート・育成サポートチーム(写真右)

インタビューの要約

コロナ禍で「くもんの先生」の採用活動をオンライン化することをきっかけに、「くもんの先生」としての活躍の可能性をより明確に把握できるよう、従来の採用テストの内容を見直した。
活躍するくもんの先生の人物像について社内のヒアリングを実施。実際の業務と紐づけてイメージできるよう面接サポートツールを整えた。
これまで利用していたテストを変更することに現場(以後、事務局)の担当者は戸惑いも少なくなかった。事務局へフィードバックするため、まずはモニターとして一部事務局で先行実施。「使ってみたら良かった」の声を各事務局に広げていった。
実施の結果、面接が行いやすくなった、教室開設後のサポートまでイメージできるようになった等、前向きな声を得ることができた。今後の展望は、運用面の継続的な改善と、先生の開設後のサポートに活用すること。

コロナ禍で「くもんの先生」採用をオンライン化。
これをきっかけに、現行の採用テストを見直す。

私たちの業務は、「くもんの先生」の募集、採用サポートです。面接は全国にある事務局で行いますが、私たちは募集の施策立案や、説明会に使うパンフレットや動画の作成、面接に用いるツールの案内等、採用業務のサポートをしています。

コロナ禍をきっかけに、これまで紙で実施していた「くもんの先生」の採用テストをオンライン化することを検討しました。従来のテストは来社が難しい方への利便性が低く、また面接後同日に実施するためテストの結果を面接に活用できないという点がありました。

また、学力を中心に測るものでしたが、テストのオンライン化をきっかけに、より応募者の強みや業務遂行能力を把握し、教室開設後のサポートにも、よりつなげていきたいと考えました。

「くもんの先生」としての活躍の可能性は学力だけでは測れない。
くもんの先生の特徴をアセスメントデータで分析するとともに、 社内ヒアリングを実施。

私たちはまず、すでに教室を開設している「くもんの先生」へのモニターテスト受検を実施し、それと同時に、社内のヒアリングによりくもんの先生としての活躍のイメージを改めて明文化し、これをパーソナリティ検査の結果と紐づけていきました。

データ分析によって見出された結果を、「活躍のイメージ」と結びつけ、先生の実際の業務内容に結びつけていくのに時間がかかったのですが、ここがイメージしづらくては実際のサポートに活用できないと考え、丁寧に検討をしました。

その後は、日本エス・エイチ・エルのコンサルタントに協力いただき、この適性テストを面接の中でどのように活かすか、というツールを作成したり、仕組みを整えていきました。

「くもんの先生」としての活躍の可能性は学力だけでは測れない。<br>くもんの先生の特徴をアセスメントデータで分析するとともに、 社内ヒアリングを実施。

採用のテストの変更には戸惑いの声も。
本格実施の前にモニター運用し、 「使ってみたら良かった」の声を集めていった。

一方で、数十年にわたり使用してきた従来の採用テストを変えることに事務局の担当者からは戸惑いの声がありました。私たちは、そのような戸惑いの声に対して、より「くもんの先生としての活躍の可能性」を見極め、開設後のサポートにもつなげていくためにも、学力を測るテストから今回の適性テストに変えることにした理由を伝え続けてきました。

テストの運用について事務局からのフィードバックを受けるため、全国リリースの前に、一部の事務局で実際の応募者に対しモニター実施を行いました。すると、事務局の担当者から良い反応がたくさん得られたのです。モニターの事務局の担当者から、「実施してみたらよかったですよ!」と、これから使用する事務局にも伝えてもらいました。私たちが伝えるだけでなく、実際に応募者に使用した声を伝えていくことで、これから使う方にも具体的なイメージを持ってもらえることを実感しました。

まだ全国展開したばかりなので、全体での効果検証はこれからですが、先行実施を進めてきた事務局の担当者からは、事前のwebテストの実施で、より応募者の強みを深堀りできるようになったという声を多くもらっています。また、質問内容が明確になったという声、開設後のサポートをよりイメージしやすくなったという声もありました。さらにオンライン化したことで、応募者の方が参加しやすくなった、という効果もありました。

今後実施したいことは、webテスト運用状況の把握と改善、テスト結果を開設後のサポートに活用するための情報提供、採用時に把握した応募者の強みを教室開設のマッチングに生かすことです。今後の分析次第でより強みを生かし、より可能性を発揮できると思っています。

日本エス・エイチ・エルの良いところは、当社のこだわりや大事にしている部分を理解しようと努力してくださるところです。価値観を共有しながらプロジェクトを進められたので、本当にありがたいと思っています。また、これまで感覚でしか描けなかった人材像をデータで表せるということに手ごたえを感じました。これからの分析もお付き合いいただければと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

仲家 可帆

今回のプロジェクトは、くもんの先生採用テストのオンライン化に伴い、くもんの先生としてのパフォーマンスを予測することのできるテストに変更したいというご相談をいただいたことからはじまりました。当初はテストのみのご提案でしたが、データ分析結果を基に採用基準や選考内容全体の見直しについてもご支援させていただき、私自身もやりがいを感じるプロジェクトでした。
「これまで長くやってきた方法だから」「この方法に慣れているから」という理由でやり方を変えない選択をされる方も多い中で、今回数十年やってきた採用テストや選考内容を変えることは相当大変なことであったかと存じます。ですが、今回のプロジェクトを実施したことによってくもんの先生として適性のある人材が今までよりも多く採用され、より多くの子ども達の学力向上につながると思っております。
くもん教室の発展や先生方のやりがいへの貢献のため、引き続きご支援させていただきます。

導入事例

オンライン選考を有効なものにした、日立ビルシステムの採用基準作成。

オンライン選考を有効なものにした、日立ビルシステムの採用基準作成。

職種別採用への移行をきっかけに、職種ごとの採用基準を策定。
コロナ禍で効率的にオンライン選考を行う日立ビルシステムの取り組みを紹介します。

※本取材は2021年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社日立ビルシステム

事業内容

1.エレベーター、エスカレーター、空調装置、電気設備、 その他ビル設備に必要な機器の製造、販売、据付、保守、改造修理、更新及び設計
2.各種ビル設備の監視、制御並びにビル管理
3.冷凍空調装置並びにそれらの運転制御盤、遠隔監視装置、冷媒回収装置の製造 など

業種

建設業

従業員数

約8,500名(2020年3月時点)

インタビューを受けていただいた方

北上誉之 様

株式会社日立ビルシステム
人事総務本部 人事企画部 採用・教育グループ 部長代理

インタビューの要約

職種別採用への移行をきっかけに、採用基準の明確化が課題に。社員受検データの分析と、管理職層へのアンケート調査によって、職種ごとの採用基準を策定した。
くしくもコロナ禍でオンライン選考へと全面移行。採用基準を策定しておいたことで有効なスクリーニングが可能に。またオンライン面接での情報不足をアセスメント結果の解釈によって補えた。
今後はチーム編成や、価値観をもとにした配属・任命によるエンゲージメント向上、またテレワークによる協働を円滑にするために、人材データを活用したい。

完全職種別採用に移行したことで、採用基準の策定をスタート。

私は2019年6月から採用業務に携わることになりました。すでに採用活動のピークは過ぎていましたので、次の21卒採用から本格的に参画する覚悟を決めていたところ、新型コロナウイルス感染症が蔓延。さらに未経験の要素が加わり、21卒採用は苦労しました。

日本エス・エイチ・エルには採用基準の設計を手伝ってもらいました。それは20卒採用から完全職種別採用を始めたことからでした。それまでは総合職事務系・技術系をそれぞれ一括で採用し、入社した後に面接で配属先を決定していました。職種別採用に切り替えたことで、どういう人材がその職場・その職種に必要なのかという明確な基準がなく、面接官の主観に頼った判断をしているという問題が浮き彫りになりました。実際に、私が採用業務に携わる中で、初期選考で高い評価を得た学生が最終選考で低い評価となったり、その逆もしかりで、採用プロセスを通して評価に一貫性がないと感じることがありました。会社がさらに成長していくためにはそれぞれの職種に適した人材の確保が大事だというところから、職種別にどういう人材を採用すべきか採用基準を策定することになりました。

完全職種別採用に移行したことで、採用基準の策定をスタート。

また、適性検査は長く利用していますが、面接官がパーソナリティ検査の結果などの事前情報を活かしきれていないという課題もありました。私も事業所総務を担当していた頃に面接官として対応したことがありますが、通常業務を行う中でたくさんの事前資料を見る時間が十分に確保できないというのが正直なところで、それを見ることの重要性を理解していませんでした。面接官に事前情報の重要性を訴えるには、内容や職務との関連性を明確に説明する必要がありました。

社員データ分析とアンケート調査の両面で、採用基準を策定。

採用基準の設計は、まず対象職種の社員にアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を受検してもらい、全体的な社員の特徴と、その中でも特に高いパフォーマンスを出している社員の特徴を統計分析で明らかにしました。また、職種ごとに求める人材像を明らかにするためのアンケート調査を、別途経営幹部や管理職や要職者に実施しました。一般的に、高いパフォーマンスを示す人の割合は多くはないので、少ない対象者で特徴が見いだせるのか不安はありました。

事前にしっかりと主旨をご理解いただいたため、取り組みには社内の協力を得ることができました。アセスメントに協力いただいた社員には、フィードバック用の帳票を返却しました。また面接官には、日本エス・エイチ・エルの担当者に結果解釈のための説明会をしてもらったところ、皆さんご自身の結果に関心を持ってご覧いただけたと感じました。年齢を重ねるとアセスメントを受ける機会も少なくなるので、あらためて自己分析結果を目にすることの新鮮さをお話しされていましたね。

職種ごとの要件と、全社共通の人材要件が見えてきた。

社員分析の結果について、職種ごとにハイパフォーマーの特徴もみられましたが、一番納得したのは、社員の全体傾向として「問題解決力」と「オーガナイズ能力」が高いということ。これは社風の影響です。基幹事業の一つであるエレベーター・エスカレーターのメンテナンス事業では、様々な情報を組み合わせて問題の原因を特定し、お客様の納期に合わせて限られた時間で計画的に作業を進めることが重要になります。この認識が社員に浸透していたため、このような特徴が現れたのだと思いました。面接官からは別の要素も重要だというコメントもありましたが、客観的に社員の共通性を示せたことは、面接官の間での評価差を解消するのに役立ちました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン面接へ全面移行。
スクリーニング基準が整備されていたことが功を奏した。

21卒採用から一次の集団面接をやめて、書類選考に切り替え、エントリーシートと適性検査の結果で応募者の絞り込み、一次面接と最終面接を経て、合否判定を行うプロセスへと改定を計画していたところ、くしくも、新型コロナウイルス感染症の影響で、選考方法(オンライン面接)や時期への大幅な修正が必要になり、採用基準を策定しておいたことが功を奏しました。採用基準のおかげで、書類の合否判定と次の選考への参加順を客観的に決めることができました。共通要件がボーダーライン上のグループから、各職種要件を持つ人を優先に面接へと進めるなどの細かい調整ができてよかったです。また、今まで検査結果を活用しきれていなかった面接官のために、面接官教育に検査結果の解釈を含めたところ、検査結果から仮説を持ち、事前に質問を準備できるようになったという声が面接官から聞こえるようになりました。

21卒採用の面接はすべてオンラインに切り替えましたので、今までの対面面接では見えていた人となりや雰囲気といった情報は全く得られなくなりました。その観点では、パーソナリティ検査の解釈スキルを強化しておけたのは不幸中の幸いでした。もちろん、実際にお会いして雰囲気を感じ取ることは大事ですので、対面とオンラインの選考をどのように組み合わせていくかは、コロナウイルスが落ち着いた際に検討します。

日本の労働人口が減少していく中で、従業員のパフォーマンスを引き出すためにタレントマネジメントは重要です。ほとんどの従業員が組織で活動をしていることを考えると、良いパフォーマンスを引き出すための従業員同士の関係性や人材の組み合わせを体系化できれば役立ちます。我々は、安全性の観点からメンテナンスを行う際、主に二人以上で作業計画を組むので、その組み合わせもアセスメントで個人の特性を見ながら配置ができればとよいと思っています。

また、私が使いやすいと思ったのは、価値観のアセスメント(V@W)の結果です。本人が職務上で重視している価値観をマネジャーが把握することで、より適したフィールドで活躍してもらうことができます。仕事のアサイメントの渡し方やフォローアップなど、従来なら各人に適したやり方を把握するのに一定期間が必要だったものが、配置してすぐに把握することができるといったことにもつながると思います。

コロナ禍で急速に普及したテレワークが、コロナ終息後も完全に元の状態に戻ることはないと思います。上司と部下が離れて仕事をすることが多くなれば、社員の特徴を把握することはより重要になります。社員ひとりひとりの特徴に配慮したコミュニケーションの取り方や育成担当者の割り当て方などにアセスメントを活用できたらいいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

武田 幸祐

今回の採用基準明確化のプロジェクトは、職種別採用の導入と面接評価の課題の解決という内的要因と、コロナ禍による採用環境の変化という外的要因がある中で、結果的に非常にいいタイミングで実施できました。変化が求められる難しい環境下でプロジェクトに携われたこと、非常に有難く思っています。
今回の取り組みから、主観と経験に頼るのではなく客観的なデータを用いて細かく分析することで、人材評価時の焦点を合わせることができ、より良い採用活動ができると改めて認識することができました。
とは言え、「採用」という人事に関するテーマの入り口が整理できた段階であり、今後、企業としてのさらなる生産性向上と社員の皆様の働きやすさのためには、人同士のマッチングやサービス領域ごとの適性人材など、様々な観点でのより深い分析や継続的なデータ蓄積が必要と考えています。
これからもお力になれるよう引き続き尽力したいと思います。

導入事例

「クリエイターファースト」なHappy Elementsの人事評価制度改革。

「クリエイターファースト」なHappy Elementsの人事評価制度改革。

ヒット作を支えるクリエイター集団がモノづくりに集中できる環境づくり。
人事評価制度改革とリーダーシップ開発の取り組みについてご紹介します。

※本取材は2022年10月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

Happy Elements株式会社

事業内容

モバイル向けゲームアプリの開発・運営

業種

情報通信業

従業員数

250名(2022年3月末現在)

インタビューを受けていただいた方

内藤 健次 様

Happy Elements株式会社
執行役員 人事グループ 人事グループリーダー

インタビューの要約

ヒット作品やテクノロジーの進化によって組織が拡大し、マネジメント層の育成が課題となる。人事評価制度を導入したものの、マネジメント嫌いを作り出す結果に。
組織内でマネジメント層ができる人材を育成するために、小グループのマネジメントから経験を積むことができるサブプロジェクト制度を実施。
社員が人事評価制度をより身近に感じられるように、横スクロールのアクションゲームのように制度を設計。
縦方向のみの硬直的な人事評価制度ではなく、機動性の高い、現在の社員集団に最適化した人事評価制度を構築し、マネジメントに対する意識変革を図る。

ヒット作やテクノロジーの進化に伴う組織の拡大。 ミドルマネジメントの育成が課題に。

私は大学卒業後、三洋電機で海外営業を1年半経験し、日本エス・エイチ・エルへ転職しました。HRコンサルタントとして企業の人事の方々にソリューションの提案を4年半ほど行っていたのですが、この時の経験は人事としての自分の原体験となっています。特に、パーソナリティ検査OPQの30項目のパーソナリティ因子を知ったことが私の人の見方に大きな影響を与えています。私は、人を典型的なタイプに分けてとらえるタイプ論より、人は色々な要素の組み合わせでできているという因子論の考え方が好きです。人事として仕事をする際に、色々な人がいて良い、様々な環境においてその人の持っている要素がどういう表れ方をするかという見方をするようになりました。個々人の背景を大事にしなくてはと思うのは、日本エス・エイチ・エルで働いたからだと思っています。
その後、株式会社ポケモン、株式会社あきんどスシローで人事部長を務め、2020年1月にHappy Elements株式会社に入社しました。

当社は2010年の創業以来、クリエイターがのびのびと仕事ができるようミドルマネジメントを置かずに組織を運営、アルバイトから登用した若手社員の発案から「あんさんぶるスターズ!」などのヒット作が生み出されました。ヒットタイトル創出に伴って、多くのコンテンツ制作、厳密な品質管理、新技術への対応等が求められるようになるとともに社員数が一気に増え、ミドルマネジメントの必要性が高まっていました。この課題を解決するべく2017年に外部のコンサルティング会社に依頼して人事評価制度を作りましたが、なかなかうまく機能しませんでした。当社は、純粋に絵を描きたい、モノづくりがしたいというクリエイターの集団です。この評価制度を経験した多くの社員は「あんな面倒くさいことをやらないといけないリーダーやサブリーダーにはなりたくない」と思い、それまで以上にマネジメントから距離をとるようになりました。そこで、私が人事評価制度の再構築をすることになりました。

クリエイター集団からマネジメント層を育成する

ミドルマネジメントを外部採用してもなかなかうまくいきません。クリエイターである社員が「この人の指示なら聞いてもいい」となる人は、そのカテゴリーで一番技量のある人です。しかし、技量のある人にマネジメントの役割を担ってもらうと、彼らはモノづくりに集中できなくなり、モチベーションを下げてしまいます。そのため、クリエイターの中からマネジメントに興味がある人を見つけることにしました。一番技量のある人でなくとも、一定の技術があり面倒みの良い人、OPQで言う「面倒み」が高い人は必ずいます。

次のステップでは、このマネジメント候補者に経験を積ませます。いきなり、大きなタイトルのマネジメントは難しいので、自分たちの発案した企画をマネジメントするサブプロジェクト制度を会社として準備しました。この制度は新タイトルの開発と社員のリーダーシップ開発の両方を企図しています。サブプロジェクトは比較的細かく目標を設定、会社からのサポートも入れながら、段階的にマネジメント経験を積む道筋を作っています。

クリエイター集団からマネジメント層を育成する

人事評価制度をゲーム化する ~パラメーターの設定~

私が入社して最初に行ったことは、全従業員に対するインタビューです。約2か月間かかりました。インタビューの後、どうしたらゲーム会社の人に人事評価制度が身近に感じてもらえるかを考え続け、人事評価制度にゲーム的な要素を盛り込めばいいと閃きました。

能力評価については、技術、ベース、マネジメントの3つに分けました。ゲームでいうところのパラメーターです。当社の中心は技術であり、技術のウェイトが高くなることが評価の基本です。ベースは、時間を守る、嘘つかないという最低限のマナー。マネジメントは、ヒトのマネジメントだけでなくコトのマネジメントも含みます。チーム管理、メンバー管理、工数管理、品質管理の4項目に分け、正社員以上はマネジメントを必須としました。4つのうちどれをやるかは人によって変わり、メンバー管理はないが、工数や品質管理はあるという人もいます。

この3つのパラメーターの比率を上司と部下で決めることにしました。人事はステージ(等級)ごとの各パラメーターの最低と最高の割合だけ決めます。あとは上司と部下が話し合って3パラメーターの合計が100になるよう割合を決めます。例えば、正社員以外はまずは技術を磨いてほしいので、ベース30、技術70、マネジメント0といった感じです。現場で社員の評価項目とその重みを調整できるようにしました。私はこれまで様々な組織で人事評価制度を作ってきましたが、どうしたら制度の機動性を上げられるかと考え続けてきました。このチューニングができる評価制度は私の発明だと思っています。

人事評価制度をゲーム化する ~ステージの設計~

次に、人事評価制度を一般的な縦型ではなく横スクロールのアクションゲームにしようと考えました。具体的には、ステージ(等級)に、5-1や5-2というようなサブステージを作りました。ステージ5から6とか、3から4へ移るときには、ゲームであれば中ボスが出てきますよね。中ボスとして昇格審査があります。職群毎にいるチーフが技術を確認し、人事がマネジメントを確認し、社長が会社全体の考え方・価値観とのマッチングを見ていきます。

マネジメントにそれほど興味がない人達にも機会を作りたかったので、ステージ周回ができるようにしました。ゲームのようにステージの初回クリアボーナスだけでなく周回ボーナスも用意しました。例えば4-5の2回目や3回目でも初回クリアほどではないですが昇給があります。以前の制度は、基本的にステージ4から5へ上がらないと昇給しないので、「上にあがれ」というメッセージが強く出ており、当社のカルチャーにあまり馴染みませんでした。他にもゲームならワープができる土管があるように、階段飛ばしもできるようにしています。ゲームデザイナー職種の社員が「ゲームデザインできていますよ!発明ですよ!」と喜んでくれています。

これらの取り組みを通して、社員に「マネジメントもそれほど悪くない」と感じてもらえるといいなと思っています。自分が表現したいものがある人、ユーザーさんに喜んでもらうために制作をしたいと思う人の集まりですが、人が育つのをみて、こういう喜びもあるなと思ってほしいですね。

今後のアセスメント活用

日本エス・エイチ・エルのアセスメントは5年以上前から利用しており、採用選考と社員の傾向把握に使っています。全体傾向、職種別傾向、退職者傾向を分析しました。採用では面接の参考資料として使っています。社長はデータ好きなのでアセスメント結果をよく見ています。

今後はマネジメントポテンシャルの高いクリエイターを見出すための情報として、キャリアに関する対話の材料として、アセスメント活用の可能性を検討していきたいと考えています。

日本エス・エイチ・エルの持っている多様な人材を生かすためのノウハウは、中小企業にこそ必要なものだと思います。自分たちが大切にしていることをうまく表現できない会社に対して、彼らのいい部分を消さないように関わってくれると思いますので。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員

清田 茂

内藤さんとは約4年間、同じチームで仕事をしました。当社へは未経験者で入社したので、ゼロから人事業務、アセスメント、コンサルテーションを学んでもらいました。凄まじい吸収力ですぐにコンサルタントとして戦力となり、大阪オフィスの立ち上げに貢献してくれました。その後、当社子会社の社長に抜擢、退職後は複数社で人事を経験し、人事のプロとして活躍されています。
本インタビューは、急成長するゲーム業界のタレントマネジメントについて話をして欲しいとお願いしたところご快諾いただき、行うこととなりました。ここまでの人事評価制度設計に当社アセスメントは直接関わっておりませんが、今後の運用に関してはアセスメントの活用が検討されています。内藤さんの目指す組織人事改革に向けてお力になりたいと思っています。

通貨処理機等の製造を行うグローリー。昨今の電子決済化など事業環境の変化に対応するため、人材の計画的な発掘・育成・配置の必要性が高まり、タレントマネジメントの基礎として全社員のアセスメントデータを取得し、人材可視化を行いました。

※本取材は2023年5月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

グローリー株式会社

事業内容

通貨処理機・セルフサービス機器の開発・製造・販売・保守、電子決済サービス、生体認証ソリューション、ロボットSI等の提供

業種

機械

従業員数

3,498名(グループ連結:10,792名)※2023年3月31日現在

インタビューを受けていただいた方

永瀬 厚司 様

グローリー株式会社
人材開発部 人材教育グループ グループマネージャー

インタビューの要約

コア技術を新たな事業につなげることができる人材を計画的に育成すべくタレントマネジメントに着手。
全従業員共通のアセスメント(OPQ)を実施。説明会や動画にて自己理解の重要性を伝え、受検率100%を達成。
データ分析により全社および部門別の人材の特徴を可視化。
新任管理者研修内にてOPQの説明パートを設け、部下理解およびキャリア面談での活用を促進。
管理職の要件にPMCコンピテンシーを採用し、今後のさらなる人材育成施策を検討する。

未来に必要な人材を計画的に育成すべくタレントマネジメントに着手。

私は、ソフトウェア技術者として国内および海外での製品開発を経験した後、2019年4月に人材開発部へ異動しました。人材開発部のミッションは、効果的に人材の採用・教育・発掘・育成・配置することです。現在は人材教育グループマネージャーとして、各事業部にある教育部門と連携し、全社の教育を進めています。

グローリーは通貨処理機の開発製造からメンテナンスまで一貫して行う機械メーカーですが、培った技術を活かして電子決済サービスや生体認証、メカトロニクスを活かしたサービスなどの事業も行っています。海外では競合と資本提携を進め、この10年間で海外売上比率は半分以上を占めるまでになっています。キャッシュレス化が進み事業環境が大きく変化する中で、新しい事業の柱を作るビジネスリーダー、技術で牽引する開発のリーダー、資本業務提携先とのシナジーを創出できる人材などが必要となってきました。未来に向けて必要な人材要件の定義、その素養を持つ人材を社内で把握し、全社で共有し、計画立てて育成するには至っていませんでした。これらの課題に対処するために、まず現状把握のため人材可視化に取り組むことにしました。

未来に必要な人材を計画的に育成すべくタレントマネジメントに着手。

全従業員共通のアセスメントデータを収集。受検率100%。

タレントマネジメントを実施する上で、行動特性を示すアセスメントデータは重要な情報の1つです。しかし、当時社内にあったアセスメントデータは対象層によって異なっていたため、全従業員を共通で見られるものさしが必要だと考えました。また、海外関係会社を含めると、外国人比率も高く、グローバル展開できる日本エス・エイチ・エルのOPQを導入しました。また、従業員への負担を考えたときに、受検にかかる時間なども適切でした。さらに、再受検をせずにより詳細のコンピテンシーが見られる万華鏡リポートを追加出力できることも魅力的でした。

従業員に受検を依頼するにあたっては、全員に受検してもらえるように「キャリア自律のために自己理解を深めよう」というメッセージを発信しました。説明会を10回開催し動画も用意し、受検してもらえるよう促した結果、2カ月かかりましたが、受検率100%を達成しました。

人材の特徴を可視化。キャリア面談でも活用。

受検結果は、人材データベースシステム上で本人と上司が確認できるようにしました。上司には、部下の理解促進のために年1回のキャリア面談でOPQを活用してもらっています。結果の解釈が難しいという声もありましたが、活用度合いに関するアンケートでは、「OPQを活用して部下と対話する」という段階までは60%の方が実施したと回答しており、概ね肯定的に受け入れられたと考えています。しかし、日頃の行動と照らし合わせてフィードバックをしたり、OPQを用いて能力開発計画を立てるなど、さらなる活用段階まで至っておらず、継続したOPQ自体の理解促進や部下とのキャリア面談、1on1のやり方など実践につなげていくための学びの場が必要と考えており、今後の課題です。現場からチームメンバー全員で結果を共有してフィードバックしあい、相互理解が深まったという嬉しい反応もありましたので、こういった活用事例を共有していくことも重要だと思っています。

人材開発部では、結果データを活用し、現状の従業員の全体傾向を可視化しました。具体的には、全体傾向と開発、営業、保守などの部門ごとの傾向を分析しました。結果は従業員の特徴がよく表れており、例えば、顧客と接する職務はOPQの人との関係の領域が高得点の傾向があり、開発は低得点の傾向がありました。また、考え方の領域はその逆でした。

この結果は経営層に報告しましたが、データでの可視化はあくまでも現状把握です。ここから見えてくる仮説と、会社のビジョン達成に向けて、これから必要な人材を計画的に発掘・育成・配置するために会社がすべきアクションにつなげていくことが、次の課題です。

また、会社の経営戦略に基づいて、来年から新たな人事制度の運用が開始します。その中で、管理職の行動評価に万華鏡のPMCの中から当社として重要視する項目をピックアップし、取り入れています。このように、人事戦略、従業員のキャリア形成支援とアセスメントを有機的に機能させることで、人事戦略として掲げている「個人の成長とともに、会社が成長し、一人ひとりがグローリーで働くことに強い魅力を感じ、誇りを持っている」状態を醸成し、会社の持続的成長につなげていきたいと考えています。

日本エス・エイチ・エルは私たちに寄り添い、課題の背景を踏まえて対応策を検討してくれるパートナーです。他社人事の方との情報交換の機会を提供していただけたのも有難いです。今後もタレントマネジメント推進のため様々なご支援をお願いしたいと思っています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

鈴木 悠太

今後の事業展開を踏まえタレントマネジメントの実施に踏み切り、文字通り全社員データを取得、そのデータを様々な人事施策に活用されている本お取組みはタレントマネジメントの好例ではないかと考えております。「アセスメントデータを余すことなく活用したい」、グローリー様が本お取組みに着手され受検率100%を達成し、全社員データを取得した後に永瀬様から改めてご相談いただいたことを今も強く覚えております。次なる人事施策に向けてアセスメントデータをどう活かせるか、都度ご相談を頂戴してお打ち合わせを続け、様々な施策の検討に携われていることは私自身とても大きな経験となっております。グローリー様の「パートナー」と仰っていただいたことに恥じぬよう、今後も微力を尽くして支援させていただきます。

ゲオからセカンドストリートへの事業ポートフォリオの転換を推進するゲオホールディングス。リユース事業であるセカンドストリート800店舗体制に向けて、人数を確保することに加え、質を担保すべく、活躍する店長の要件定義を行いました。

※本取材は2023年3月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社ゲオホールディングス

事業内容

メディア、リユース、モバイル、オンラインサービス事業

業種

小売業

従業員数

従業員数:5,314名(グループ全体)

インタビューを受けていただいた方

高橋 知寿 様

株式会社ゲオホールディングス
組織開発室 組織開発課 マネジャー

インタビューの要約

成熟したレンタル事業から成長しているリユース事業へと事業ポートフォリオの転換を行うために、リユース事業のセカンドストリートを800店舗まで増やすことを目指していた。
活躍する店長の特徴を明らかにするため、人事データ分析を行った。全社員のパーソナリティ検査結果から10タイプに分類し、そこに評価データを組み合わせて、最終的に3つのタイプを事業部と協議の上、採用ターゲットとして決定した。
人員要望書を作成し、異動・登用プロセスの標準化に着手。
今後の課題はターゲット人財を確保していくこと。また、変化し続ける事業に適応できる組織であり続けるため、未来を見据えた要員計画にも取り組んでいる。

経営戦略、事業戦略に必要な人財を供給する。

私は、2006年4月にゲオにアルバイトとして入社し、店長やエリアマネジャーを経験した後、2017年10月に人事に異動しました。人事への異動当初は、人事データを分析してほしいと言われていましたが、人事本来の役割とは何なのか疑問を持っていました。自分なりに書籍やセミナー、他社の方々と話していく中で、人事の役割は事業に必要な人財を用意すること、という答えにたどり着きました。この時、人事がどのように事業に貢献できるのかが分かって、モチベーションが高まりました。当時、会社としては、リユース事業であるセカンドストリートの800店舗体制を目標として掲げ、事業ポートフォリオの転換を目指していました。そのため、セカンドストリートで活躍できる人財を増やすことを目的にデータ分析を行うことにしました。

経営戦略、事業戦略に必要な人財を供給する。

活躍する店長の特徴をデータ分析で明らかにする。

まずは、どのような人が店長として活躍しているのかを明らかにすることが必要と考えました。日本エス・エイチ・エルのコンピテンシーデザインコースで学んだ、カードソートというインタビュー手法を使って、当時のセカンドストリートの責任者にヒアリングをしてコンピテンシーモデルを作成いたしました。また、OPQのデータを活用して、クラスター分析にて10タイプに分類を行い、タイプ別のハイパフォーマーの人数や割合がどのようになっているのか確認したところ、特定のタイプにハイパフォーマーが多く分布している点や、店長・エリアマネジャー・ゾーンマネジャーと役職が高くなるほど、割合が増える傾向が明らかになりました。事業部と作成したコンピテンシーモデルと比較すると共通点が多く、事業部と協議し今後の採用ターゲットに決定いたしました。

当時800店舗体制を目指し、年間50店舗規模の出店を計画、人事主導の採用は「量」が重視されていた中、「質」の視点を示すことができました。

データ分析の経験を異動・登用プロセスに活用。

2020年4月に人事異動の担当となりました。当時は各部門からどのようなオーダーがあったかといった過去の記録があまり残っておらず、異動に関する相談先も担当者だったり、マネジャーだったり、ゼネラルマネジャーとバラバラなことで人財要件が曖昧だったり、追加で確認が発生しながら人事異動が行われている状況でした。そこで、人員要望書(職務記述書のようなもの)を作成し、なるべく要件に合った人財を各部門に配置できるように環境を整えました。

要件がより明確になったことで、データ分析の経験も活かし、より要件に合った候補者の選出が出来るようになったこと、エラーが発生した場合でも何が良くなかったのか振り返りが可能になったこと、追加確認が少なくなったことにより、業務効率を高めることができました。

2023年2月に発表した通り、セカンドストリートは800店舗を達成し、中期的に1000店舗体制を目指しております。正直に申し上げると、当社に応募してくれる方々からターゲット人財に該当する人を量・質ともに継続的に採用し続けることは挑戦的なことで、今までの母集団形成や選考方法の仕組みを変えていく必要があると考えています。

また、未来の要員計画に取り組んでおり、店舗のみならず、間接部門の重点職種においても、将来どのような人財がどれくらい必要なのか、今どのような人財がいるのか、どのようにギャップを埋めていくのか、課題解決に取り組んでおります。日本エス・エイチ・エルは、相談がしやすく伴走してくれる会社だと感じています。我々の課題を解決するために、今後もご支援いただきたいと思っています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング3課 主任

内田 敬己

高橋さんは、「ビジネス」を前提とした人事を考え実行されているすごい方です。ただ、「考えて実行する」ために、様々な知識を獲得し続け、困難な社内外の交渉調整業務を乗り越えられている様子が垣間見え、ご苦労も多かったのではないかと拝察いたします。こちらからの各種ご提案に対して「そうはいっても実際のところ」をご教示いただけたのは何よりの学びになっております。約10年間、担当する中で数々の貴重な経験をさせていただき深く感謝しております。引き続き、有効な関わり方ができるよう当社として気を引き締めて対応させていただきます。