コンピテンシーモデリングとは

タレントマネジメントを進める上で適切な人材要件の定義は必要不可欠です。
人材要件を定義するためには、コンピテンシーに基づく職務分析が有効です。職務分析を行うことで、職務遂行に求められる重要な行動が明確になります。
職務に求められる重要な行動をコンピテンシーと呼び、特定の職務や階層、集団に求められる構造的なコンピテンシー群をコンピテンシーモデルと呼びます。職務に求められる複数のコンピテンシーを特定し、重複や抜け漏れのない構造的なコンピテンシーのまとまりを作ることをコンピテンシーモデリングと言います。つまり、コンピテンシーモデリングとは職務分析によってコンピテンシーモデルを作ることです。

職務分析の手法

コンピテンシーモデリングに入っていく前に、職務分析について少し説明します。
職務分析とは、職務要件や人材要件を定義するために行う分析です。手法としては、以下5つが一般的です。

・観察
現職者が仕事をしている様子を観察します。この手法は、被観察者が観察されることを意識すると日常と異なった振る舞いをするかもしれないというリスクがあります。プロセスが観察できるような作業職にのみ有効です。

・インタビュー
現職者やその仕事についてよく知っている人に対してインタビューをします。自由面接や構造化面接、個人やグループなどやり方は様々です。どのような職務に対しても実施できます。

・参加
分析者が実際に仕事を行い、その経験に基づいて分析します。この手法はトレーニングが少なくて済むような非専門的な仕事に限られます。

・自己報告
現職者に行動の日記をつけてもらい、その日記を分析します。現職者が定期的かつ正確に情報を記入するかどうかに左右されます。

・既存情報のレビュー
既に存在する職務記述書などの情報を使用します。職務要件に関して新しい見方をもたらすことはありません。

最も簡便にできるインタビュー手法~カードソート(行動カード分類法)

5つの手法の中でどのような職務にも対応できるものがインタビューです。また、今回は複数あるインタビュー手法のうち、最も簡単に実施できるカードソート(行動カード分類法)をご説明します。
カードソートはコンピテンシーカードを用いて行うインタビューです。コンピテンシーカードには、職務遂行に影響を与える行動(コンピテンシー名とその定義)が記述されています。
インタビュアーはインタビュイーに対して、全てのコンピテンシーカードを分析対象となっている職務の成功に「必要不可欠」、「望ましい」、「あまり関係しない」、「全く関係しない」の4つに分類するよう依頼します。各カードの分類理由をたずね、コンピテンシーがどのように発揮されるか、どのような影響を及ぼすかを確認し、総合的にコンピテンシーモデルを作成します。

コンピテンシーカード

SHLグループは汎用的なコンピテンシーの枠組みであるUCF(ユニバーサル・コンピテンシー・フレームワーク)を持っています。
UCFは既存のコンピテンシーモデルやSHLが開発してきた数百のクライアント独自モデルの調査、様々なこの分野の研究に基づいて開発されました。3階層の構造を持っており、SHLのコンピテンシーカードはこの構造に基づいて設計されています。

・8個のコンピテンシー・ファクター
幅広いコンピテンシー領域を表す8枚のカード。職務パフォーマンスに影響を及ぼす一般的な行動のカテゴリーです。具体的コンピテンシーよりも一般的なコンピテンシーを定義づける際に役立ちます。

・20個のコンピテンシー・ディメンション
8枚のファクター・カードを細分化した20枚のディメンション・カードです。職務の具体的行動を明らかにして優先順位をつける際に用います。ディメンション・カードはUCFの20個のコンピテンシーを表しています。

・96個のコンピテンシー・コンポーネント
20枚のディメンション・カードをさらに詳細に分けたものが、96枚のコンポーネント・カードです。特定職務のパフォーマンスに影響を及ぼす様々な重要行動をより細かく定義することができます。

以下の表は、対人積極性ファクターにおける3階層の関係を表したものです。

カードソートのメリットとデメリット

メリットは、単純で簡潔なため結果が再現しやすいこと、1時間未満の短時間でできること、カードに幅広い行動が網羅されているためインタビュー対象者が自分で行動を述べる必要がなく楽なこと、です。加えて、グループインタビューにも対応しやすく、複数の対象者が職務行動を表現するための共通言語を持つことが容易な点もメリットです。
デメリットはコンピテンシーカードの記述が一般化されていることに起因する問題です。この手法だけでは実際に行われる具体的行動に落とし込むことはできません。カードの言葉が組織で使われている意味と異なっていたり、カードに実際に使われている言葉がなかったりすることがあります。

カードソートによるコンピテンシーモデリングの目的

よく行われるカードソートによるコンピテンシーモデリングには以下の4つがあります。

・組織のコンピテンシーフレームワークを作る
・新しい職務のコンピテンシーモデルを作る
・既存の職務のコンピテンシーモデルを作る
・独自コンピテンシーフレームワーク/モデルの妥当性を確認する

カードソートの手順

目的によってインタビューの対象者や対象になる職務、質問や作業が変わりますが、今回は既存職務のコンピテンシーモデリング手順をご説明します。

インタビューの対象者は、人事担当者、既存職務のラインマネジャーやリーダーなど既存職務の成功に必要な行動について理解している人です。所要時間は1時間~2時間。カードを広げられる大きなテーブルがあるといいでしょう。
続いて手順は以下の通りです。

・準備
インタビューの対象者にインタビューの事前説明文を送っておきます。既存の職務記述書を見直し、必要なコンピテンシーについて検討しておきます。

・インタビューの導入
プロジェクトの目的と概要、インタビューのプロセスと情報管理について説明します。

・職務の重要目的を引き出す
職務の主要な目的、職責、課題について質問し、明確にします。

・カードを選ぶ
20枚のディメンション・カードを重要度で分類します。

・選択理由と具体的な行動を確認する
「必要不可欠」と「望ましい」に分類したカードについて、選択した理由と具体的な行動について確認します。具体的な行動を検討する際にコンポーネント・カードを活用します。行動を取捨選択し、職務に適したコンピテンシーとして要約します。

・情報のまとめ
新しいコンピテンシーモデルを確認し、その職務の仕事のタイプやレベルに合致したコンピテンシーになっているかどうかを検討し、確定します。

終わりに

今回は最も簡単なコンピテンシーモデルの作成方法であるカードソートについてご説明しました。この手法をより詳しく学びたい方はぜひ弊社主催のコンピテンシーデザインコースにご参加ください、と申し上げたいのですが、このコースはお客様のご要望に応じた不定期開催のため、すぐにお申込みいただくことができません。ご興味をお持ちいただけましたら無料のダウンロード資料「コンピテンシーモデリングのためのインタビューのご提案」をご覧ください。

年末の大掃除でたまたま手にした古い講演録に面白い記述がありました。
ITバブルがピークを過ぎた2000年12月5日、当社は招待講演会「IT革命が変える人事インフラの未来」を開催しました。当時の日本企業は年功序列で運用されていた職能資格制度の制度疲労を背景に客観的な成果やコンピテンシーに基づく人事制度の導入を模索していました。
講演会の講師は当時代表取締役社長を務めていた清水佑三氏です。清水氏は講演の中で近い将来に起こる人事の変化について3つの予言をしました。
以下「」内の記述は2000年12月5日清水氏の講演内容抜粋です。

第一の予言:フリーエージェントが活躍する社会になる

「フリーエージェント型の社会が来るとみています。企業の正社員が社会の構成員の半分以上を占める時代が終わり、自由契約選手が社会の大半を占める時代が来るという予言です。(中略)正社員と自由契約選手の違いはどこにあるか、忠誠を尽くす相手が違っています。つまり会社に対して忠誠心を持つ人たちが正社員です。自分に対して忠誠を尽くす人が自由契約選手です。今は正社員が多いが、将来は自由契約選手の方が多くなるだろう。」

働く人の価値観の変化について述べています。会社と社員の絆が忠誠心(ロイヤリティ)からエンゲージメントへ変わっていくと捉えています。現在のスカウト、リファラル採用の普及、兼業副業の推進などは自由契約の増加を示す事象のように感じます。

「変化の激しい時代に固定的な雇用関係に縛られるくらい辛いことはない。(中略)それぞれの企業が自由なキャスティングをして勝負をしないと生き残れない。(中略)プロジェクトベースで契約して働くプロが中心となる社会がすぐ側まで来ていると考えられる。そのときに時間と空間の障壁をなくすインターネットは追い風として働きます。」

自由なキャスティングが競争力の源泉と言っています。プロジェクトごとに最適な人材を社内外から集め、プロジェクトが終了したら解散するような仕事の仕方が強い会社を作るという指摘です。この点について日本企業はまだまだです。ネットフリックス社はこの採用手法の成功事例です。パティ・マッコード氏(元NETFLIX最高人事責任者)が自身の著書「NETFLIXの最高人事戦略-自由と責任の文化を築く」でその手法について述べています。

第二の予言:アントレプレナーと職人の連合軍が主導権を握る社会になる

「技術オタクだけではIT革命は成就しません。(中略)彼らが役者だとすれば彼らをうまく活用する演出家がいる。それがアントレプレナーと言われる人たちです。(中略)シリコンバレーに人材を輩出している名門大学があります。スタンフォード大学です。ここがベンチャーの育成を熱心にやっています。」

当時と今の時価総額ランキングを比較すると、金融、エネルギーの企業から主導権がシリコンバレーのIT企業に移ったことは明白です。講演はちょうど米国のITベンチャー倒産が急増している時期に行われましたが、その後もIT技術は進歩し、真の価値を創造するIT企業の打ち出す画期的なサービスや商品が私たちの生活を一変させました。スマホ、SNS、ネットショッピング、動画配信、リモートワークの無い生活を思い出すことすら難しくなっています。

「アントレプレナーって何でしょうか。結果にすべてをかける人です。結果オーライで構わない、上がってなんぼの世界、それがアントレプレナーの定義です。(中略)アントレプレナーの資質をいかに早く正確にみつけて社内で戦力にしてゆけるか、それが今後の人事インフラ作りの一つのテーマである。(中略)職人ってどういう人をいうのだろうか。プロ性を社会が認めることができる人が職人です。(中略)そういう人が忠誠を尽くすのは会社でも個人でもない、仕事です。(中略)日本文化は職人文化です。こういう文化はアントレプレナーを生む土壌がない。人のフンドシで相撲をとることを嫌う風潮があるからです。」

2023年1月のユニコーン企業数は1,428社。アメリカには713社、中国には246社ありますが、日本企業はわずか13社※です。日本文化がこの結果をもたらしているとすれば、今後日本企業はどのように対処していけばいいのでしょうか。この課題について次のように述べています。
※参考:Crunchbase「The Crunchbase Unicorn Board」

「以上を総合すると大きな構想が生まれる。アメリカにアントレプレナーを出してもらって日本が職人を出す。その二つが連合して世界制覇をめざすとうまくゆく。これは間違いのない未来構想です。」

この予言は、はずれました。既にシリコンバレーには様々な国籍のアントレプレナーがおりますし、ITエンジニアのスキルレベルについてもアメリカのみならず、インド、中国、インドネシア、ベトナムなどのアジア諸国からも遅れをとっています。清水氏の構想が実現していれば日本はもっと多くのユニコーンを輩出していたに違いありません。

第三の予言:IT革命によって新しい人事インフラが生まれる

「まず、労賃という考え方がなくなり、報酬は仕事価値を基準に個別契約で決められる。そして働く時間と場所を自由に選択できるようになる。さらに仕事の仕組みでは、①マネージャーという職種が消滅する、②アントレプレナーと無限に多様なプレーヤーがその都度プロジェクトを組み仕事をする、③いずれにおいて自己責任の論理が貫かれる。」

前半の報酬と働き方については、日本でもジョブ型雇用システムを導入する企業が出始め、裁量労働制とリモートワークも一般的な人事制度となりましたので予言的中といえます。しかし、後半のマネージャーの消滅、都度のプロジェクト制、自己責任の論理は人事インフラとなっていません。

「『できる、できない』よりも『やりたい、やりたくない』の方が先だし、大事だということを憶えておかれるといい。エス・エイチ・エルのように人間のポテンシャルという問題をやっていると人間は実に多様だということがわかる。(中略)そういう立場から申し上げます。人事インフラはできるだけ固定的でない方がよい。その方が現実対応がしやすいし環境適応もしやすい。個人の違いを吸収できます。(中略)やりたいことをやらせてそのレベルを見ながらグレードアップさせていくべきだ。『好きこそものの上手なれ』と『下手の横好き』と二つありますが、好きこそものの上手なれのほうがよい。」

キャリア自律が重要になることについて述べています。企業主導ではなく社員の意思に基づく配置任用と育成を進めるべきであると。社員一人ひとりの心に寄り添った人事制度を作ることが重要というメッセージは予言ではなく、清水氏の願いであったのだと感じました。

おわりに

22年前の当社の社長が思い描いていた人事の未来についてご紹介しました。全ての予言が的中とはいきませんでしたが、これからも私たちは未来を見据えてタレントマネジメントソリューションをご提供し続けてまいります。

人材版伊藤リポートがきっかけとなって人的資本という言葉がよく使われるようになりました。この言葉自体は新しいものではなく、人事分野では1990年代から使われていました。かつて人事管理はPersonnel Managementと言われ、その後Human Resource Management(人的資源管理)と言われるようになり、次いでHuman Capital Management(人的資本管理)が使われるようになりました。日本ではHuman Resourceを「人材」、Human Capitalを「人財」と分けて使われる場合もあります。そして、最も新しく使われている言葉はTalent Management(タレントマネジメント)です。この言葉は人を才能と捉えている点が特徴です。日本では人事管理そのものではなく、特別な人事施策をタレントマネジメントと称する企業がありますが、これらの4つの言葉は全て企業における人事管理を表す言葉であり、人材観の変化を反映したものと考えることができます。
さて、本コラムは人的資本経営を実現するために不可欠な人材ポートフォリオをテーマとします。

経営・事業戦略にそった組織・人材戦略

人材ポートフォリオとは、組織・人材戦略に基づいた人材の地図のことです。具体的には、どこに(階層、部門、部署、地域等)、どんな人が(評価、スキル、経験、コンピテンシー、職務経験、意欲、エンゲージメント等)、どれだけ(人数、割合)いるかを示したものです。
どこに、誰が、何人いるかを示すだけなら、組織図に組織ごとの人数と構成員の名前を書けばよいのですが、これでは人材ポートフォリオにはなりません。組織・人材戦略に照らして、必要な人材がどこにどれだけいるのかを把握する必要があるのです。例えば、デジタルビジネスへの事業転換を進めているメーカーが、A:デジタルビジネスを立案し牽引する人材、B:先端技術でデジタルサービスを作る人材、C:デジタルサービスを運用管理する人材、が必要と判断した場合、これら3つに該当する人材がそれぞれどの部署に何人いるかを可視化するものが人材ポートフォリオとなります。
人材ポートフォリオは、組織・人材戦略がなければ作ることができません。もちろん、組織・人材戦略を持たない企業は存在しませんが、それを明文化し、共通認識としている会社は決して多くありません。自社の組織・人材戦略を確認することが人材ポートフォリオ作成の第一歩となります。

求める人材の定義

組織・人材戦略を確認した後に行うことは、求める人材の定義です。どんな人が必要なのかについて定義します。どの程度具体的に表現するかは各企業の組織・人材戦略によって異なります。人材ポートフォリオは、採用、育成、配置の施策に関わりますので、その後の活用を意識して人材定義の抽象度を定めてください。

人材情報の収集と分析

現社員が定義した人材にあてはまるかどうかを判断するための人材情報を収集します。
人材情報は大まかに実績、コンピテンシー、ポテンシャルの3つに分類できます。それぞれについて説明します。

・実績
実績は過去の成果や功績のことです。具体的には職務経験(事業創造、海外、重点部署、マネジメント等)、業績評価、表彰歴、異動歴、保有資格、研修受講歴、研究歴、学歴、活動歴などです。

・コンピテンシー
ここでのコンピテンシーは厳密なコンピテンシー定義よりも少し緩やかです。コンピテンシーの構成要素を含み、能力、知識、スキルなどを指しています。具体的にはコンピテンシー評価や能力評価、360度評価、スキル評価、経営知識、業界知識、業務知識、社内知識、語学力などです。

・ポテンシャル
潜在的な能力や資質のことです。具体的には、知的能力、パーソナリティ、モチベーション、興味関心、価値観などです。近年ではこれらの情報に加え、健康状態や家族の状況などもキャリア観、仕事観に影響を与える重要な情報となっています。

求める人材とこれら人材情報との関連がはっきりしている場合は、収集した人材情報を集計すれば、そのまま求める人材に該当するかどうかの判断に活用できます。しかし、求める人材と人材情報との関連がはっきりしていない場合は、その関連を明確にする必要があります。
求める人材に該当する社員に共通する要素を見出したり、求める人材に該当する社員とその他の社員との違いを見出したりします。定量化された人材情報を対象にすれば、統計分析によって求める人材と関連する人材情報を明らかにできます。人材情報の分析方法については、コラム アセスメントデータ分析による人材要件定義を参考にしてください。

人材ポートフォリオのアウトプット

最終的にどのような人材ポートフォリオを作成するかについて2つの案をご紹介します。
1つ目は、職種を基準とする方法です。重要職種を定義して、その職種を担うことができる人材が何名いるかを数えます。もちろん、職種を担うことができるかどうかの判定は収集した人材情報に基づいて行います。集計の単位は、全社、部門、部署など必要に応じて行います。

(例1:職種別)


2つ目は、人材タイプを基準とする方法です。重要な人材タイプを定義して、そのタイプに該当する人材が何名いるかを数えます。多くの事業を持っており重要職種を定義しづらい企業や環境変化が速く重要職種が変化してしまう企業でこの方法が用いられます。

(例2:人材タイプ別)

人材ポートフォリオの重要性

人材ポートフォリオは現有社員を可視化する上で有用なものです。現在の状況が把握できれば、理想の姿にしていくために、どんな人材をどれだけ増やすべき(減らすべき)かがはっきりします。採用と育成の目標が明確化されるのです。
また、流動化する人材をタイムリーに把握し、効果的な人事施策につなげるためにも人材ポートフォリオの重要性はさらに高まっていきます。

2022年5月、経済産業省より「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書」、通称「人材版伊藤レポート2.0」が公表されました。 先行して2020年に公表された「人材版伊藤レポート」では、昨今の経営環境における人的資本経営の重要性と、それを体現するための「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」(「3P・5Fモデル」)が提唱されました。「人材版伊藤レポート2.0」では、それらについてより具体的、実践的な内容を盛り込んだ、ガイド版のような位置付けとなっています。
このコラムでは、一連のレポートによって注目されている「人的資本経営」において、パーソナリティ検査をはじめとするアセスメントツールの有用性について考察しています。
その前に、まずは「3P・5Fモデル」について、その概要を整理してみたいと思います。

《3つの視点(Perspectives)》:人材戦略を策定するうえで重要な3つの視点。
視点1.経営戦略と人材戦略の連動
人材戦略は経営戦略に基づいて策定され、経営戦略と常に連動している。
視点2.As is – To be ギャップの定量把握
経営戦略を実行するための、人材戦略上のAs is(現状)とTo be(あるべき)のギャップが定量的に把握されている。
視点3.企業文化への定着
目指すべき企業文化が明示されるとともに、人材戦略の実行によって組織や個人の行動変容が図られ、定着する。

《5つの共通要素(Common Factors)》 :人材戦略を実行するうえで必要となる共通要素。
要素1.動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用
経営戦略実行のために必要となる人材の質、量が可視化され、人材戦略の中で運用されている。
要素2.知・経験のダイバーシティ&インクルージョンのための取組
多様な価値観、感性、専門性をもった人材からなる組織を実現する。
要素3.リスキル・学び直しのための取組
社員のスキルアップ・専門性の向上を、企業が支援し、人材戦略として組み込む。
要素4.社員エンゲージメントを高めるための取組
企業理念やパーパスを発信する、多様な個人の働き方に対応する、柔軟なキャリアパスを実現する、等。
要素5.時間や場所にとらわれない働き方を進めるための取組
どこでも安心して働ける環境、制度、業務プロセスを企業が主体的に整備する。

人的資本経営における人材の役割

そもそも、伊藤レポートが提言する「人的資本経営」とはどのようなものでしょうか。
従来、企業における人材の位置付けは、事業を営むための資源(Resource)でした。説明するまでもありませんが、HRとは(Human Resource)の略称です。
一方、人的資本経営では、人材こそが「企業の競争力の源泉」 であると定義し、人材を企業にとっての資本(Capital)と捉えています。 人的資本経営では、人材を企業の資本として活用し、成長させるものと位置付けています。人材に資金を投じることは、企業価値向上のための投資(Investment)であり、費用(Cost)という考えは当てはまらなくなります。
また、人事部門は単なる管理部門ではなく、経営戦略に直結して企業価値の向上を担うバリュードライバーとしての役割を担うとされています。

人的資本経営におけるアセスメントツールの有用性

一般論として、企業の資本は経営戦略に即して適切に運用され、定量的に評価できる状態にあることが求められます。人材もまた資本であるとすれば、企業にとって人材の定量把握は不可欠となるでしょう。
この文脈を踏まえた上で、改めて人的資本経営におけるアセスメントツールの有用性について考えてみたいと思います。

1.人の特徴を定量的に把握できる
技能やスキルは、様々な資格や技能検定等によって比較的定量化しやすい項目といえます。一方、人の特徴はどうでしょうか。業務拡大によって新しい管理職を必要としているとき、どのように要件定義すべきでしょうか。
アセスメントツールは、人の特徴を定量的に把握することに秀でています。例えば技能やスキルと併せてパーソナリティ検査の結果が整備されていれば、自社に多い人材・少ない人材を把握することも、適所適材の配置配属にも役立ちます。アセスメントデータは、As is-To beギャップの定量把握にも、動的人材ポートフォリオの策定にも大いに有用な情報です。

2.能力開発に活用できる
人材戦略に基づく能力開発は、人的資本の価値向上をもたらすとともに、企業文化の変革にも寄与することが期待できます。
能力開発の対象が技能の習得だけでなく、コンピテンシーにまで及ぶ場合には、アセスメントツールによる定量的な測定が不可欠となります。また、事前・事後で測定を実施すれば、能力開発の効果検証も可能です。

3.多様性の担保に貢献できる
人材の多様性を図る指標としてよく例に挙げられるのは、性別や国籍、年齢などといった属性情報です。しかしこれらは多様性を図る指標として十分と言えるでしょうか。
伊藤レポートが指摘するような、価値観や感性といった領域にまで多様性を求めるのであれば、アセスメントツールによる測定はとても有用です。多様性がない、同じような人ばかり入ってくるとお感じの場合には、現状を把握するために、一度全社員にアセスメントを実施してみるのも良いかもしれません。

4.個に寄り添うヒントを得る
人的資本経営では、1人1人の多様な個性を受入れ、自立・活性化を促すことが肝要とされています。画一的な対応ばかりしていては、自立・活性化どころか離心に拍車をかけるだけです。
リモートワーク下におけるコミュニケーションのあり方、メンターとしての新入社員への接し方、強みを活かしたキャリアプランの策定など、個に根ざした施策を考えるときにも、アセスメントが重要な役割を果たします。

おわりに

「人材版伊藤レポート2.0」を取りまとめた「人的資本経営の実現に向けた検討会」座長 伊藤邦雄氏は、レポートの序文で以下のように語っています。
「人材は「管理」の対象ではなく、その価値が伸び縮みする「資本」なのである。企業側が適切な機会や環境を提供すれば人材価値は上昇し、放置すれば価値が縮減してしまう。人材の潜在力を見出し、活かし、育成することが、今まさに求められている」
 人的資本経営の本質が込められた一文ではないでしょうか。また人的資本経営を体現するためには、要所要所でアセスメントツールを活用していくのが最も効果的と考えます。コンサルタントとして、多くのお手伝いができたらと思う次第です。

参考文献
経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書 ~人材版伊藤レポート~」(2020)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf(2022.6.30参照)
経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」(2022)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf(2022.6.30参照)

「タレントマネジメント」というキーワードが流行、浸透してくるにあたり、様々な業種業界の人事ご担当者様と、情報交換をする機会が増えてきました。各社の具体的な取り組みは、その目的に応じて多岐にわたりますが、ほとんどのケースで関わってくるのが「社員データの取得と管理」です。

活用する人材データの種類(例:所属部署、保有スキル、経歴等)、対象者の範囲(例:管理職以下全体、対象事業部のみ等)は目的により異なりますが、活用する人材データの一つとして「パーソナリティ検査」を採択いただく事例も増えております。

そこで今回は、パーソナリティ検査の社員データ取得やご活用いただく上でのポイントを、クライアント企業における事例をもとにお伝えいたします。

1.「とりあえず全社員のデータを取得」よりも、スモールスタートの方が良いこともある。

最初から全社員のデータがそろっている方が、あとから追加取得する必要がなくなるという点ではメリットがあると思います。一方、データを活用する目的が明確でない状態だと、「データを取得されただけで、その後のフィードバックがない」と社内の不興を買い、その後の施策提案が通りづらくなる可能性があります。まずは限られた対象者範囲のデータを取得し、活用のめどが立ってから、全社員に適用するというステップを踏むことが有効な場合もあります。
※スモールスタートの場合も、データ取得対象者に取得の理由を納得してもらうことは重要です。

2.受検案内時に、データ活用に関する説明と同意取得を行う。

パーソナリティデータは、センシティブな側面を持つ個人情報です。「知らぬ間に勝手に活用されていた」とトラブルにならないよう、受検時に活用範囲と目的について同意を得ておく必要があります。もし、どのような同意を取得すべきかご不明な場合は、当社の担当コンサルタントまでご相談ください。

3.結果を受検者本人へフィードバックする方が、受検率は高まる。

受検者本人に結果をフィードバックすると事前に伝えておくと、多くの方が受検に対して前向きになります。受検率が9割を超えるケースもございました。逆に、これを伝えなかった場合、受検率が7割となったケースもございました。
もちろん、フィードバックの有無は受検の目的によるため、フィードバックしないことを一概に悪いとは言えませんが、受検者が自分の結果を閲覧できる方が、データ取得は好意的に受け止められるようです。
フィードバックの具体的な方法は各社の状況によって様々ですが、当社コンサルタントにご相談いただければ、最適なタイミングやアウトプットをご提案させていただきます。

4.集団の傾向を統計的に分析するだけでなく、少数のケーススタディをもとに分析する方法も有効。

「受検者の人数が少ないから受検データを分析ができない」という声が寄せられることがあります。統計的検定やAIの学習データとして用いるのであれば、確かにサンプル数は重要です。しかし、数名の受検結果をケーススタディ的に検討する場合もあります。特に、まれな事象について分析を行いたい場合、十分なサンプル数が集まらないことがあります。データの偏りには十分注意しつつ、少数のデータからも示唆を得られることをご認識ください。

5.データの取得頻度(更新頻度)について、事前に決めておく。

パーソナリティは比較的変動しづらい個人特性ではありますが、生涯を通して「絶対に変わらないもの」ではございません。利用用途に応じて、適切なタイミングで再受検し、データを最新の状態にしておくべきものです。特に、異動、昇格、転職など、職務環境の大きな変化は行動変容を促し、そのことがパーソナリティに影響を与えることがあります。このような大きな環境変化を経験した方の場合、再受検によるデータの更新をお勧めします。あらかじめ受検データの利用期間や再受検を実施時期についてアナウンスしておけば、受検者も安心です。

以上が、パーソナリティ検査の社員データ取得における主なポイントです。
最後に人材データとしてパーソナリティ検査を利用する上でご注意いただきたいことを一つ申し上げます。パーソナリティ検査で測定しているのは、あくまでも社員のパーソナリティです。パーソナリティがコンピテンシーや職務適性、リーダーシップスタイルに影響していることは自明ですが、実際のコンピテンシーやパフォーマンスを測定しているのではありません。パーソナリティ検査結果と実際の職務パフォーマンスやコンピテンシーの発揮度合との関連について十分な検証を行ったうえで、ポテンシャルを判断するための一つの参考情報としてご活用ください。

有効な活用方法についてご検討の際は、ぜひ当社コンサルタントまでお問い合わせください。貴社にとって現実的で有効な着地点を見出すためのサポートをさせていただきます。

妥当性とは

妥当性は、アセスメントが使う目的にあっているかどうかを表した概念です。そのアセスメントツールが測りたいものを測っているなら妥当性は高くなります。例えば、体重計は体重を測りたいのであれば妥当性が高いですが、身長を測りたいのであれば妥当性は下がります。英語力を知りたい時にTOEICは妥当性が高いですが、日本語力を知りたい時には妥当性が低いと言えます。
妥当性はアセスメントツールが単体で持つ性質ではなく、利用目的との関係によって高くなったり、低くなったりするものなのです。アセスメントツールが完成し、一般に使われるようになってからも継続的に妥当性の検証が行われます。妥当性検証の積み重ねによって、それぞれのアセスメントツールがどのような目的や場面に適しているかについてのより詳細な情報が集まり、利用目的や使い方、測定対象などが改善されていったり、新しい使い方が見出されたりします。

妥当性は人事アセスメントの利用価値そのものですのでとても重要です。妥当性がないアセスメントの実施は時間とコストの無駄になるだけでなく、アセスメント結果のデタラメな使い方による誤った人事判断が会社の生産性と社員のエンゲージメントの両方を低下させるという大惨事を招くことになります。絶対に妥当性のない人事アセスメントを使わないでください。

妥当性の確認方法

妥当性も信頼性のように複数の種類と確認方法があります。現在も研究者の間では妥当性に関する新しい概念や確認方法が検討されていますが、一般的には以下3つの観点から妥当性を確認します。

1.実証的妥当性
最もわかりやすい妥当性の確認方法は、アセスメント結果と職務パフォーマンスとの相関を調べる方法です。相関が見られた場合、そのアセスメントは妥当性があると言えます。この妥当性を実証的妥当性といいます。人事アセスメントの目的は採用選抜や配置、能力開発がほとんどでしょうから、アセスメント結果によって職務のパフォーマンスやコンピテンシーの発揮度合を予測できることは利用目的に適っています。簡単に言うとアセスメントがよく当たるかどうかについての妥当性です。
この妥当性の検証には相関分析を使うため、妥当性の程度を相関係数で表すことができ、この相関係数を妥当性係数と呼びます。妥当性を分析する際にパフォーマンス指標として人事考課(査定)、業績評価、行動評価、昇進スピード、研修評価、エンゲージメントサーベイなどが用いられますので、妥当性係数はこれらの指標をどの程度予測できるかを表していると言えます。
一般に適性テストでは0.3~0.4程度、客観面接では0.1~0.2程度、アセスメントセンターでは0.5程度の妥当性係数が報告されています。妥当性係数を2乗すると予測したい指標の説明率を表す決定係数となります。つまり、適性テストだけでも職務パフォーマンスのばらつきの10%くらいを説明できるのです。なあんだ、たったの10%かあ、と思われるかもしれませんが、人と仕事の複雑さを考えてみれば、上出来です。また、人の予測がどれほど難しいものかおわかりいただけると思います。

この妥当性にはさらに以下の2つの方法があります。

・一致的妥当性
一致的妥当性とは、アセスメントの得点と同時に測定された職務パフォーマンスとの相関です。社員にアセスメントを実施し、その得点とその人たちの現在の職務パフォーマンス得点との相関を調べます。

・予測的妥当性
予測的妥当性とは、アセスメントの得点と将来の職務パフォーマンスとの相関です。この妥当性は選抜や配置(将来の職務成果を予測したい場面)でアセスメントを使う際に参考にする情報ですが、長期雇用を前提とする日本企業においては極めて重要です。社員にアセスメントを実施して一定期間が経過した後、アセスメント得点と一定期間経過後の職務パフォーマンス得点との相関を調べます。妥当性が確認できるまでに数年かかることが一般的です。10年後、20年後の環境変化を予測することは困難ですが、将来に渡って自社で活躍する人材を選ぶための重要な情報となります。

2.内容的妥当性
内容的妥当性とは、アセスメントが仕事の内容に適切かどうかです。測定項目と仕事をする上で必要な行動や能力が合理的に関連している程度を表します。プロ野球の入団テストでは一次試験に50メートル走と遠投が課されます。プロ野球選手であればどのポジションであろうと、一定以上の走力と投力が必要であると考えることは合理的です。一般的には職務分析でこの妥当性を確認します。

3.構成概念妥当性
構成概念妥当性は、アセスメントが理論的に構成概念を測定している程度を示します。構成概念とは、言語能力、数値的推理力、リーダーシップ、情緒安定性、ヴァイタリティなどのことです。例えば、現在開発中の創造力テストの得点とパーソナリティ検査の創造性の因子得点に相関があれば、この妥当性を表す情報となります。また、内部一貫性信頼性もこの妥当性を確認するための情報です。ある構成概念を測定する項目間で一貫性が欠如していたら、この妥当性が低いとみなします。

これら3つ以外の視点として、アセスメントが受検者や利用者にとって適切そうかどうかを表す表面的妥当性があります。この妥当性は利用者の納得性に影響をしますので、アセスメントの売れ行きには大きく関係しますが、アセスメントの予測力とは全く関係がありません。
近年の研究でアセスメントを特定の目的で使用した際の結果を妥当性に含める結果妥当性という考え方が提案されています。アセスメントの利用目的を人材の適正化により企業業績を改善するとした場合には、実際に業績が改善されたかどうかを妥当性に含めるというものです。重要であるという意見や意味を拡張し過ぎであるという意見もある妥当性です。

妥当性検証を行う上での注意点

実際に妥当性検証を行うにあたって、いくつか注意すべきことがありますので述べておきます。

これからアセスメントを実施するという場合は、職務分析を行って職務パフォーマンスに関係しそうな能力や行動特性を特定し、それらを測ることができるアセスメントツールを見つけます。既にアセスメントを実施している場合でも職務分析を行うことで、今使っているアセスメントツールが適切であるかどうかを確認することができます。

サンプル数の確保が重要です。十分な数を確保できるとは限りませんが可能であれば100人、最低でも30人のデータは必要です。少ない人数の場合は分析結果の解釈には十分注意してください。30人未満の場合は統計分析をあきらめてください。

客観的な職務パフォーマンスのデータを作ることはどの会社にとっても難しい課題です。しかし、信頼性の低い職務パフォーマンスでは高い妥当性が得られることはありません。客観的な事実に基づく評価点と評価者の観察などによる評価点をできるだけ多くバランスよく収集してください。

妥当性検証は社員を対象に行う分析です。社員は採用時に特定の能力を評価され選ばれた人です。つまり、社員(特に特定の職種に従事する人)は職務に求められる能力について高いレベルでばらつきが少ない集団であることが多いのです。この集団を対象に分析すると実際よりも妥当性が低いという結果になります。(妥当性係数を補正する方法については当社コンサルタントにお尋ねください。)

信頼性と妥当性

最後に信頼性と妥当性との関係を覚えてください。ある目的に対して妥当性がない信頼性の高いアセスメントはありますが、信頼性がない妥当性の高いアセスメントはありません。アセスメントは測定項目を一貫して正確に測れて、はじめて職務パフォーマンスを予測できる可能性が生まれます。信頼性は妥当性の前提条件です。

終わりに

今回はアセスメントの品質に関する重要な概念である信頼性と妥当性について述べました。
妥当性が人事アセスメントにとっていかに重要な価値であるかおわかりいただけたとしたら幸いです。ぜひ皆様のタレントマネジメント施策を進める際に必要となるアセスメントツール選定の参考にしてください。また、現在使っているアセスメントツールや手法について改めて情報を確認し、妥当性を検証していただきたいと存じます。妥当性検証はアセスメントを使う全ての方にとって必要な取り組みです。

はじめに

良い人事アセスメントとはどんなものでしょう。利用目的にあっていたり、優秀な人材をきちんと見分けられたり、普段の仕事ぶりや面接での対話からは出てこない内面をあぶりだすことができたり、受検者にとって公平で納得できるものであったり、利用者にとって運営が容易で結果が使いやすかったり、受検者へのフィードバックがやりやすかったり、コストや時間の負担が合理的であったり、システムが安定していてセキュリティーが万全であったり、サポートが丁寧であったりなど、まだまだたくさんの条件が思いつきます。今、申し上げたものはどれも大事ですが、人事アセスメント開発事業者が確認している品質に関連する重要な二つの概念があります。信頼性と妥当性です。 過去のコラムでも妥当性についてたびたび言及されていましたが、その妥当性について詳しくご説明したことはなかったように思います。このコラムでは人事アセスメントの品質基準である信頼性、妥当性について前後編で述べていきます。

信頼性とは

まずは信頼性についてです。人事アセスメントにおける信頼性は測定精度に関する概念です。測定の安定性、一貫性であり、正確に測定できているかどうかを表しています。例えば、信頼性の高い体重計は同じ人が連続で10回体重を測ったとしても全て同じ結果が表示されますが、信頼性の低い体重計は毎回異なる体重が表示されます。毎回異なる体重が表示されたら、最も軽いものを信じたい気持ちになりますが、それでは正確な体重測定はできません。信頼性の高いものほど測定誤差が少ないと考えてください。
どんな精巧な測定ツールであっても完全に誤差をなくすことは出来ません。高精度な原子時計でも数千万年に1秒ほどの誤差が生じます。アセスメント結果も完全に正確なものではなく、あくまでも知的能力やパーソナリティの推定値であり、必ず誤差を含むものだということを知っておく必要があります。
信頼性は各アセスメントツールの測定尺度が持っている精度ですが、アセスメントツールの内容だけではなく、実施環境なども影響します。以下4つが不適切であると信頼性を低下します。

信頼性の確認方法

人事アセスメントを開発する際に開発事業者は概ね以下3つの方法で信頼性を確認します。
これらの信頼性は信頼性係数として表示されます。信頼性係数は主に相関分析によって算出されますが、相関係数とは異なり、負の値をとりません。0から1.0の値をとり、値が大きいほど信頼性が高い尺度と言えます。アセスメント内容や形式、採点手法などによって異なりますが、知的能力検査やパーソナリティ検査の適性テストでは一般的に0.7~0.9程度の信頼性が必要とされています。SHLグループでは信頼性係数の最低基準を0.7と定めテスト開発を行っています。

アセスメントにおける信頼性の意味

信頼性は誤差に関わるもの。アセスメント結果を見る際に考慮する誤差の程度は、測定の標準誤差によって決まります。そしてこの標準誤差は測定尺度の信頼性と得点の標準偏差によって算出されます。式は以下の通りです。

標準誤差=標準偏差√(1-信頼性係数)

測定尺度の標準偏差と信頼性係数については、アセスメントツールの技術マニュアルを参照するか、提供事業者へ問い合わせることで確認ができます。
当社のアセスメント尺度得点は主に標準点と呼ばれる10段階の偏差値で表示されます。この標準点は、測定尺度の平均値を5.5、標準偏差を2とする標準得点です。また、当社アセスメントの信頼性は0.7以上であるため、上記の式で標準誤差を計算すると、概ね標準点1点分を標準誤差として考慮すべきということがわかります。(このあたりの詳しい説明は当社コンサルタントにお気軽に質問してください。)標準誤差は、ある個人が複数回同じアセスメントを受検した際の得点分布の標準偏差と考えることができるため、再度受検した時の得点を以下のように予測することが可能です。
当社のOPQコース(パーソナリティ検査OPQの使い方を学ぶトレーニング)で、得点の解釈について説明する際に、「標準点のプラスマイナス1点を誤差として考えてください。」と申し上げている根拠は上記の通りです。より厳密に2名の得点を比較する場合には、標準点2点以上の差があれば両者の間に違いがあると判断できます。

信頼性データは事業者の信用に関わるもの

人事アセスメントの品質基準である信頼性は測定尺度の安定性を決める概念であることはおわかりいただけたと思います。
加えて、人事アセスメントを提供する事業者が信用に足るかどうかを判断する情報にもなります。信頼性データを持たないアセスメントは使用するべきではありません。信頼性データを持たないアセスメントは、素人が思い付きで作った問題やアンケートと何ら違いがないのです。しかし、いくら信頼性が高くても問題数が多く時間がかかり過ぎるアセスメントでは使い勝手が悪過ぎます。信頼性は問題項目の数が多いほど高くできるため、実施時間を犠牲にすれば高い信頼性のアセスメントツールを開発することは可能です。短時間、かつ信頼性の高いアセスメントを開発できる事業者は優れた開発者と言えます。

今回は信頼性についてご説明しました。人事アセスメントの品質は信頼性だけではなく、妥当性も含め総合的に判断すべきものです。次回後編は妥当性について述べます。

はじめに

近年、多くの日本企業が人材データを活用したタレントマネジメントを導入しています。そんな中でパーソナリティアセスメントを簡便な人材データ収集ツールとして利用する企業が増えています。職務経歴や評価だけではとらえきれない人材のポテンシャルに関するデータを分析し、その結果に基づく科学的な人事(採用、配置、任用、チーム編成等)を進めようとしているのです。また、この人材データを企業側の人事的な意思決定に用いるだけでなく、社員ひとりひとりの利益につなげるべく能力開発やキャリア開発に活用したいというご要望をいただく機会も増えました。

本コラムでは、パーソナリティ検査OPQのリポート「万華鏡30」を能力開発に活用する方法について述べていきます。


万華鏡30とは

「万華鏡30」は当社のパーソナリティ検査OPQの結果リポートの一つです。受検者本人へのフィードバックに適したリポートとして設計されています。リポートに掲載されている内容は以下の4点です。

1. パーソナリティプロファイル
パーソナリティ検査OPQが測定するパーソナリティ因子30項目の得点とパーソナリティの特徴についてのナラティブ(文章)リポートが出力されます。

2. マネジメントコンピテンシー
2種類合計52項目のマネジメントコンピテンシーの得点が出力されます。各マネジメントコンピテンシーの得点は、複数のパーソナリティ因子得点の重みづけと組み合わせにより算出される予測値であり、実際に職場で発揮されたコンピテンシーを測っているのではありません。あくまでパーソナリティの特徴から予測されるコンピテンシーの発揮可能性です。未経験の職務であっても求められるコンピテンシーの発揮可能性から適性を評価できる点がメリットです。

3. 感情知能
感情知能の総合得点と感情知能に関わる4つのコンピテンシーポテンシャルの予測値を算出しています。自分や人の気持ちを理解しているか、人間関係をうまく築けているかがわかります。

4. チームタイプ
チーム内で果たす役割タイプを予測しています。1981 年にメレディス・ベルビンが調査を行った8 つの「チームタイプ」についての得点が算出されます。

万華鏡30に関する詳しい説明はコラム「アセスメントツール万華鏡30」をご覧ください。

パーソナリティ検査OPQとは

万華鏡30のインプットとなっているパーソナリティ検査OPQについて少しだけ触れておきます。OPQはSHLが1984年に英国で開発したパーソナリティ検査です。30項目のパーソナリティ因子を測定し、多くの実用尺度を算出できます。世界中で最も利用され、最も多くの妥当性研究事例を持つパーソナリティ検査の一つです。詳しくは「SHLのキーテクノロジーOPQとは」をご覧ください。

パーソナリティと適性

OPQを人事場面で活用するにあたって「なぜパーソナリティを測定するのか?」という疑問を避けて通るわけにはまいりません。パーソナリティと適性の関係について申し上げておきます。
SHLはパーソナリティを「ある人の典型的なまたは好む行動のスタイル」と定義しています。行動のスタイルというのは、「好きな食べ物を先に食べるか、最後に食べるか」、「待ち合わせ場所に時間ピッタリに到着するか、15分前に到着するか」のことであり、善し悪しとは関係のないものです。
しかし、パーソナリティは特定の役割や条件が与えられた時に良い影響や悪い影響をおよぼすことがあります。特定の環境下で良い影響をおよぼす性質を適性と呼びます。OPQはパーソナリティから個人の適性を捉えるための測定ツールなのです。もちろん、良い影響をおよぼす性質とともに悪い影響をおよぼす性質を捉えることも可能です。このようにOPQは受検者の仕事における強みと弱みを顕在化します。

能力開発の考え方

能力開発とは仕事に必要な能力を獲得、向上すること。仕事をする上で適切な判断や行動が出来るようになることです。能力開発とは言わば正しい認識に基づく適切な行動変容のことなのです。  万華鏡30を活用した能力開発について、認知、判断、行動のプロセスでご説明します。



1.認知
万華鏡リポートを読み、自分の適性(強みと弱み)を改めて認識します。
単にリポートから高得点と低得点の項目名を見つけるだけでなく、これらの項目が実際の仕事場面でどのように発揮されているかを思い出し、振り返ることが重要です。万華鏡リポートのマネジメントコンピテンシー得点を確認し、以下の質問への回答を書き出してみてください。

Q1:高得点(4点以上)の項目名をあげてください。

Q2:高得点項目のいずれかをうまく発揮できた職務経験を教えてください。うまく発揮したことがどのような結果につながりましたか?どのようにそれらのコンピテンシーを発揮しましたか?

Q3:低得点(2点以下)の項目名をあげてください。

Q4:低得点項目のいずれかをうまく発揮できなかった職務経験を教えてください。うまく発揮できなかったことがどのような結果につながりましたか?



2.判断
高いパフォーマンスを生み出すため、どのように強みと弱みに対処するかを検討し、行動計画を作成します。
一つ一つのコンピテンシーを改善することよりも職務成果の改善を意識してください。どうすれば強みを活かしてよりよい仕事ができるか、どうすれば弱みを使わずに仕事ができるかなどの視点から考えてみてください。以下の質問への回答を書き出してみてください。

Q1:強みを使ってより大きな成果を生み出すためにどのような工夫ができますか?

Q2:弱みによる仕事上の問題をどのような工夫により解決できますか?

Q3:Q1とQ2を踏まえて行動計画を作ってください。



3.行動
判断のプロセスによって作られた行動計画を実行します。実行する中で予期せぬ様々な問題が発生します。本人が積極的に周囲にサポートしてもらうのはもちろんのこと、指導者は本人の行動をモニターし必要なサポートを提供しなくてはいけません。

後編では、万華鏡30のフィードバックの仕方と能力開発での活用事例をお伝えします。
日本企業の人事担当者に自社のタレントマネジメントの取り組みについてたずねると、十中八九「次世代リーダーの選抜育成」の話になります。
タレントマネジメントの定義として最も知られている米国ATD(Association for Talent Development)のタレントマネジメント構成要素では、採用、能力開発、定着、後継者計画、組織開発、キャリア計画、パフォーマンス管理、アセスメントの8つが示されていますが、日本の人事担当者がタレントマネジメントを語る時に採用やパフォーマンス管理、離職防止(定着)を話題にすることはあまりありません。
これはタレントマネジメントの定義に対する認識の違いに起因するのではなく、発生している問題の重要性に対する認識の違いに起因しています。

メンバーシップ型雇用とタレントマネジメント

採用、パフォーマンス管理、離職防止は日本企業にとって重要ではない、と申し上げるつもりは毛頭ありません。そもそも日本企業と一括りにすること自体が乱暴な行為ですし、重要度は会社によって異なります。ここで申し上げたいのは、日本で一般的なメンバーシップ型雇用の会社にとって、これらのタレントマネジメント課題がどのように見えるのかについてです。

メンバーシップ型企業の採用は新卒採用中心です。年功序列の会社、職能資格制度や成果主義評価制度を年功的に運用している会社にとって新規学卒者採用は低賃金で大きな伸びしろのある人材を一度に大勢獲得する絶好の機会です。人材の流動性が低い日本においては、中途採用で優秀な人を採用したくても、労働市場にお目当ての人が少なく、出てきたとしても報酬が高すぎで採用しづらいという事情もあります。多くの人事担当者は自社の新卒採用を問題はあるが最善のやり方と考えています。
対するジョブ型雇用システムの企業の採用は欠員補充の経験者採用が中心です。新卒採用のように一定期間に大勢の応募者を募り、選考するわけにはいきませんので、常に候補者と個別のコミュニケーションをとり続けます。SNSを活用した採用が活性化しているのは個別対応に適した方法だからです。

メンバーシップ型企業にとってのパフォーマンス管理は育成の一環です。社員が目標達成できるようにマネジャーが様々な環境整備や支援、指導を行います。この時、人事は社員本人を見るのではなく、マネジャーの指導力・コーチング力に注目します。その社員が目標達成できることより、どんな社員が来ても目標達成に導くことができるマネジャーの育成を重視しているからです。
ジョブ型企業にとってもパフォーマンス管理は重要です。業績によっては解雇の可能性があるからです。文字通り社員のパフォーマンス向上のための取り組みであり、マネジャーの育成力を議論の対象にはしません。

次は離職防止についてです。メンバーシップ型企業が社員に提供する価値は定期昇給と雇用保障です。雇用契約自体が離職防止をねらっていますので、改めて離職防止策を打つまでもありません。特定の事象が原因の一時的な退職や一定の経験年数を越えた際の退職の増加が発生するかもしれませんが、大勢に影響はありません。一方、ジョブ型の社会では社員が自らの処遇を高めるために転職するのは普通のことです。したがって企業は優秀社員を引き留めるための離職防止施策が不可欠です。

日本企業のタレントマネジメントはどうして次世代リーダーの選抜育成なのか

メンバーシップ型雇用システムの特徴である新卒採用、終身雇用、内部教育、内部昇進、ジョブローテションは全て自社内で活躍するゼネラリストを育成するための仕組みです。多くの日本企業は自社に最適化された経営幹部を選び育成するための仕組みを持っており、長く運用してきた実績があります。ゼネラリスト育成においてはメンバーシップ型企業に一日の長がありそうです。
しかしながら、近年の大きな経営環境の変化のなかで、従来のゼネラリスト育成ではVUCA時代をリードする経営リーダーを作ることはできないという危機感をグローバル企業は持ち始めました。この20年間の日本企業の国際的な存在感の低下を見れば当然の危機意識です。そこで、タレントマネジメントの導入が検討されました。
タレントマネジメント施策の一つである次世代リーダー発掘育成(ハイポテンシャル人材プログラム)も、従来型のゼネラリスト育成と同じプロセスをたどります。そのプロセスとは、ポテンシャルによる候補者の選抜、経営者としての教育、リーダー経験を通じた育成、指導者による薫陶です。同じプロセスなので従来型を応用して、新しいリーダー選抜育成システムを構築することが可能です。具体的な改善点は、選抜基準の明確化、選抜方法の改善、客観アセスメントの導入、アセッサーの強化、意思決定機関の創設、メンターの選定、キーポジションの設定、キーポジションにおける成果定義、経験期間の設定等です。これらの改善により、勘と経験だけではない科学的手法を用いたリーダー育成が可能になります。
多くの日本企業にとって、次世代リーダーの選抜育成システムを改善することは、業績に最も大きな影響を与える実行可能なタレントマネジメント施策なのです。

近年、タレントマネジメントシステムでの人材情報管理が非常に活発になりました。事業環境の変化の激しさやグローバル競争の激化を受けて、企業が人材を事業を回すためのHuman Resource(人的資源)としてではなく、みずから仕事を生み出すTalent(資質、能力、ポテンシャルなど)としてマネジメントしていく必要性が生じたことが背景にあります。しかし、実際に従業員のTalentを表す情報は、どれくらい蓄積されているでしょうか。

客観的な情報の妥当性

まず、一般的に管理される人材情報には学歴、専攻、入社年次、資格、異動歴などがあります。これらの客観的な人材情報は、異動や昇格、新規事業への任用、次世代リーダー育成枠への選抜などを検討する際に、どれくらいその人の資質を予測できるでしょうか。
履歴は参考になりますが、将来の予測には不十分と考えるご担当者も多いことでしょう。たとえば、知識や技術といったハードスキルがあっても、リーダーシップ性や柔軟性、ストレス耐性といったソフトスキルがないと職務パフォーマンスにつながりにくいというのは自明の理ですし、今まで経験した職務が本人の適性に最善だったかどうかを推測するのは困難です。
もちろん客観的な数字で示される業績歴は有用な人材情報で、最も重視すべきものの一つです。しかしながら注意していただきたいことは、現職を含む今までの業績が、検討すべき次のポスト(管理職や異職種、異業種など)での業績を予測できる(妥当性がある)とは限らないということ。高い業績歴をあらゆる職務における「有能さ」として拡大解釈しないように気を付けていただきたいのです。


主観的な情報の信頼性

それでは、ソフトスキル、いわゆるコンピテンシーを表す人材情報にはどのようなものがあるでしょうか。人事考課としてのコンピテンシー評価、360度評価などの結果を用いることが一般的です。
これらの情報は、人が人を評価する際に生じるバイアスを排除できないため、真に公正な評価情報とは言い難いのが実情です。たとえば、A課長がBさんを「リーダーシップ性に優れている(もしくは、とぼしい)」と評価したとして、その時二人の関係性はどうだったのか、どのような状況でそれが判断されたのか、リーダーシップ性とは何を指しているのかなどの様々な背景を考慮すると、その評価をデータとして鵜呑みにしづらいことがおわかりいただけるのではないでしょうか。
新規事業メンバーや次世代リーダー候補者を決める時、不安定な主観評価しか存在しなければ、意思決定に二の足を踏むことになります。つまり、ソフトスキルやコンピテンシーを推測するための考課情報や360度情報は、信頼性の低さ(=ブレやすく安定しない)というリスクをはらんでいるのです。

客観的な情報と主観的な情報をつなぐアセスメント



客観的な情報の妥当性の弱さと主観的な情報の信頼性の弱さを補うものとしてアセスメントで取得する人材データがあります。アセスメント結果を人材データとして組み込むことで、あるポストのコンピテンシー(=適性)、上司や周囲の人からの評価に影響を与えている行動を特定できます。また学歴や職務経験だけではわからなかった未経験職種やポストへのポテンシャルを予測できます。
SHLグループのアセスメントは学術的に認められるレベルの信頼性(測りたいものを測定するための精度)を有していることはもちろん、高い妥当性も確認されており、国内数百社で様々なパフォーマンス指標を説明することに成功しています。お客様の事例の一部をこちらのページでご紹介しています。
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