先日、メルカリが「AI戦略と人事戦略の統合」を掲げ、CTOがCHROとCAIOを兼務するというユニークな人事体制を発表しました。「人と組織の運営基盤をAI前提で再設計すること」がねらいとのこと。
昨今、多くの企業がAI導入を加速させていますが、技術的な制約より、組織や「人間」側に多くの障壁や課題が見られます。SHLでも、AIは単なるパフォーマンス向上ツールではなく、採用から育成、評価に至るあらゆる人事施策を再定義するものだと説いています。AIレディネス(AIの活用力)は、もはやIT部門の副次的なプロジェクトではなく、CHROが担うべき核心的な責任です。AI活用を加速させ、組織の競争力を高めるために、人事に何ができるのか。人事とAIの融合が求められている状況下で、CHROが果たすべき戦略的役割について、SHLグループのコラムを元に解説します。
なぜ「人間とAIのつながり」は人事の管轄なのか
多くの組織において、AIは現在、製品、プロセス、そして人事の意思決定のいたる所に組み込まれています。CHROの役割は、人々が職場でAIとどのように関わるべきかという期待値を定義し、それをポリシー、行動、育成のガイドラインへと落とし込むことです。これにより、以下のような問題を防ぎます。
- リーダーが、スキル、役割、組織への影響が不明確なまま、AIのパイロット運用を開始してしまう。
- 従業員が、AIが自分の仕事、昇進、あるいは評価にどのように影響するのか確信を持てない。
- 採用、育成、パフォーマンス評価などにおいて、AIがどこでどのように使用されているかについてのガバナンス(統治)が不十分である。
人事が対処すべき、現場が直面する3つの課題
組織のAIレディネスは、ビジネスが直面している具体的な課題の解決に結びついたときに、初めて真価を発揮します。以下に、CHROが直面しやすい3つの課題と、その解決に向けた具体的策、および確認すべき項目を解説します。
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課題 1:AIに対する混乱と不安
米国の従業員の67%が「AIによって求人数が減少している」と考えており、転職市場の厳しさが増していると感じています。将来への不安を抱く労働者に焦点を当て、こうした不安を解消する必要があります。CHROは、AIがビジネスに与える影響や、従業員に求められる期待の変化について、採用の候補者と従業員の両方に対して人事から明確に説明できるようにしなければなりません。
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アクション:
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社内向けに「職場におけるAI活用の方向性」明確に打ち出し、AIがどこで使用され、どこでは使わないのか、という基準や、意思決定のベースとなる基本原則を明示します。
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職種や役割に応じた短時間のAIリテラシー研修を実施します。その中で、AIは人を置き換えるものではなく「業務を支援するもの」であること、そして重要な意思決定には「常に人間によるレビュー(確認)が介在すること」を強調して伝えます。
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確認すべき項目:
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AIツールの活用状況と社内アンケートの実施: 現場でどれくらいAIツールが使われているか導入率を把握するとともに、簡易アンケート(パルスサーベイ)を行い、AIの使われ方に対する従業員の「理解度」や「信頼度」を測定します。
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エンゲージメント調査: 従業員のモチベーションや本音(心理状態)、そして「会社や自身のキャリアの先行き」に対する安心感や自信の度合いを測定します。
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期待される成果:
従業員は「突然AIが導入された」という不信感や恐怖心を感じるのではなく、情報を共有されていると感じるようになります。メリットとセーフガードの両方を理解することで、会社が推進するAIツールが現場にスムーズに定着します。
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課題 2:人材の意思決定における、一貫性のない、またはリスクのあるAI利用
米国の従業員の59%が「AIはバイアス(偏見)を減らすのではなく、むしろ増やしている」と考えており、公平性への懸念の高まりから、より高い透明性や人間の監視を求める声が強まっています。AIが採用、育成、配置の意思決定に関与する場合はいつでも、私たち人間が理解・納得できるように人事はその仕組みを説明できなければなりません(どのようなデータが投入され、それらがどう重み付けされ、結果がどのように検証されているかなど)。
透明性があり、責任を持ち、人間を中心に据えた設計ができるかどうかが、これから成長していく組織と、現場の強い抵抗に直面する組織を分ける境界線となります。-
アクション:
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法務、リスク管理、IT部門と連携し、法的・倫理的・規制上の要件を確実に遵守するためのデータおよびAIの要件を特定します。
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なぜ、どのように、いつAIが使用されるのかという背景にある論理的根拠を含め、公平性を念頭に置いた「AIの利用実態に対するアセスメント(監査・リスク評価)」を設計、開発、運用します。
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確認すべき項目:
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社内でAIが使用されている各地域のガイドラインや法的要件を確認し、一貫性を担保する。
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データやAIの利用に関して、候補者、従業員、または規制当局からの質問に対し、明確な文書と根拠をもって回答できる能力。
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期待される成果:
場当たり的な利用やシャドーAI(会社に無断で使われるAI)が減少し、社内のツール利用に一貫性が生まれます。また、もし意思決定に対して異議を唱えられた場合でも、「誰が、どう責任を持つのか」という責任の所在が明確になります。組織は、法的な監査や社会的な批判にも耐えうる自信を持ちながら、AIを活用して迅速に動くことができるようになります。
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課題 3:AIを効果的に使いこなすためのスキルギャップ
CHROの役割の一つは、従業員がAIを受け入れ、それを活かして活躍できるようサポートすることですが、現在 AIを使いこなせる状態にある(すなわち「AIレディネス」を備えている)従業員は3人に1人に過ぎません。これは、今すぐ取り組むべき深刻なスキルギャップが存在することを示しています。そこで重要になるのがスキルアセスメントです。まだ発掘されていない能力、スキルギャップ、そして強みを特定し、それらを活用して従業員のリスキリングやスキルアップ、AIとともに働くための自律性を促す一人ひとりに合わせた育成プランを作成できます。
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アクション:
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スキルベースの人材の棚卸を実施:個人、チーム、部門、そして組織全体に「どんなスキルがどれくらいあるのか」を可視化します。
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従業員やリーダーの「AIレディネス」を測定:AI化された職場で活躍するために必要なスキルが社内のどこに存在しているかを把握するとともに、採用や育成に関するインサイトを獲得します。
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確認すべき項目:
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重要領域におけるスキルの習熟度と変化:従業員のスキルが時間とともにどう伸びているか、また、実施したリスキリングプログラムがどれほど効果を上げているかを継続的にチェックします。
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戦略目標に対する組織全体の「実行力」: 会社の将来的な戦略(事業計画など)に対し、現在の従業員の能力で対応できるかどうかを測定し、未来の計画立案に役立てます。
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期待される成果:
重要な人材層が日々の業務でAIをより生産的かつ自信を持って使えるようになり、AIへの抵抗や外部の専門家への依存度が減少します。CHROは、組織を「(中身の分からない)ブラックボックス化されたレポートの受動的な消費者」から、「AI主導のインサイトを能動的に解釈し、検証できる存在」へと変化させ、戦略的パートナーとしての役割を強めることができます。
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進化する人事の役割
人事の取り組みが成功することは、ビジネス全体の成功において極めて重要です。これらの課題に対処することで、CHROは「我が社はどのようにAIと向き合うか」という方針や原則を、自社の価値観や戦略に合致させ、AIを思慮深く安全に使用するための「人間の力」を底上げすることが可能になります。これにより、組織はより迅速に動き、より的確な人材の意思決定を行い、目まぐるしく変化する環境の中で従業員が自信を持って現場をリードしていける強い組織が実現します。
今後のビジネスの発展において、AIの活用は避けて通れません。だからこそ人事は、AIに振り回されるのではなく、より能動的にその手綱を握り、組織をマネジメントしていくことが求められているのです。
日本では、「AIを使いこなせる人材を、どう見抜き、育てるか」をテーマにしたウェビナーを開催予定です。最新の知見が得られるこの機会を、ぜひご活用ください。
このコラムの担当者
水上 加奈子
日本エス・エイチ・エル株式会社 マーケティング課 課長
10年以上にわたりHRコンサルタントとして顧客と向き合う現場の最前線に立ち、大手企業の採用要件定義やデータ分析、育成研修等に従事。2016年に「イノベーション人材」をテーマに産業・組織心理学会で論文を発表。 その後、2020年のマーケティング部門立ち上げより現職。チーム責任者として科学的根拠に基づく発信を統括しつつ、現場知見を活かした多岐にわたるコンテンツ制作を指揮している。国家資格キャリアコンサルタント。