公開日:2026/10/23
まえがき
今回より、新シリーズ「OPQフィードバック物語」の連載を開始します。
本シリーズは、パーソナリティ検査OPQのフィードバック面談を舞台にした短編小説です。現在進行形の人事課題をテーマに、カウンセラー小石川直(こいしかわなお)が面談で出会う一人ひとりと向き合っていく物語です。
Session 1で出会うのは、課長候補に選ばれながら「課長は罰ゲームだ」と言い切る34歳の営業のエースです。
巻末には、面談を終えたカウンセラーの「フィードバック報告書」を収録しています。
※登場する人物・企業・団体はすべて架空のものです。
第一部 メーカー勤務 営業職 主任 早瀬幸太郎(はやせこうたろう)
昇進の打診があれば、素直に喜ぶべきだということは知っている。おめでとうと言われたら、笑顔でありがとうと答えればいい。気の毒そうな顔をしてくれる人がいたら、黙ってうなずくだけだ。
10月のはじめ、部長に呼ばれた。
「早瀬くん、次の課長候補者選抜プログラムなんだけどね。うちの部からは、君を推薦――」
「僕なんかでいいんですか」
部長は笑った。「そういうところだよ。謙虚だねえ」
プログラムは半年間で、研修が何回かと、適性検査を受けて外部のカウンセラーと面談をするのだという。業務に支障のない範囲で、と部長は言ったが、支障のない範囲で行われる研修というものを、僕はこれまで一度も経験したことがない。
「じゃあ、参加ということでいいね。まあ、断る理由もないと思うけど」
断る理由ならいくらでもあると思いながら、僕は「ありがとうございます」と言った。席に戻ると、戸田課長がパソコンから顔を上げずに言った。
「聞いたよ。よかったな」
声は優しかった。目の下のくまはずっと消えていない。
いい機会なので、整理しておきたい。
課長というのは、罰ゲームである。
まず、仕事が減らない。うちの課長はプレイングマネージャーで、個人の売上目標も持たされる。部下の面倒を見ながら、自分も顧客を担当する。両手に荷物を持たされたうえで、走れと言われるようなものだ。
次に、時間が減る。働き方改革で、部下の残業には厳しい上限がついた。それ自体はいいことだ。ただ、仕事の量が減ったわけではない。部下が定時で帰ったあとのフロアで、誰がその残りを片付けているか。うちの課では、戸田課長だ。夜、戸田さんだけが残っているのを、僕は何度も見ている。
さらに、心がすり減る。部下に何か言うたびに、ハラスメントを意識しなければならない。戸田さんはメンバーの企画書を修正するとき、必ず「ここ、すごくいいと思うんだけど」から話し始める。いいと思っていないことは顔を見ればわかる。半期に一度の評価フィードバックでは、自分が決めたわけでもない評価を、自分の言葉として説明し、部下の不満の矢面に立つ。
そして、お金は増えない。管理職手当はつく。そのかわり残業代がなくなる。人事にいる同期に聞いたら、課長1年目の手取りが、残業の多い主任より少なくなることも珍しくないそうだ。
責任と仕事が増えて、時間と心の安寧がなくなり、給料はほぼ据え置き。それを世間は課長昇進と呼び、僕は罰ゲームと呼ぶ。
「管理職になりたくない若手が増えている」というニュースを見るたびに、僕はもう若手ではないのに、深くうなずいてしまう。なりたくないのではない。なった人を、毎日すぐ隣で見ているだけだ。
10月半ば、選抜プログラムの説明会があった。各部門からの候補者20人ほどが会議室に集められた。
隣に座った他部門の男性は、配られた資料に書き込みをしながら、「いやあ、やっとですよ」と嬉しそうに言った。中途入社で年齢は僕と同じだった。
「がんばったかいがありましたよね」
「がんばったかいというか、気づいたらここにいたという感じです」
彼は笑った。悪い人ではなさそうだった。ただ、ここから始まるゲームのルールを知らないのだろう。説明会の最後に、人事の担当者が「皆さんは会社の未来です」と言った。20人の会社の未来は少しだけ背筋を伸ばした。僕も伸ばした。伸ばさないと目立つからだ。
僕は入社12年目の34歳。メーカーで法人営業の主任をやっている。部の中ではそこそこ数字を持っている。「エース」と呼ばれることもあるが、あれは半分冗談で、半分おだてだ。
この春、ある精密機器メーカーから大きな受注をいただいた。部の年間目標の1割近くになる案件だった。部長は部の合同会議で僕の名前を出してくれたし、戸田さんは缶コーヒーをおごってくれた。
「早瀬、あれ、どうやって決めたんだ」
「たまたまです。先方の予算が、ちょうど余ってたんですよ」
本当にそうなのだ。最終プレゼンで、先方の部長が資料の14ページで手を止めて「ここ、もう少し聞かせて」と言った。そこから話が早かった。タイミングと運。それ以上でも以下でもない。
合同会議のあと、隣の課の後輩に「早瀬さんのやり方、教えてください」と言われた。僕が「やり方なんてないよ。運がいいだけ」と答えると、後輩はがっかりした顔をした。申し訳ないと思ったが、ないものは教えられない。

その週の金曜、同期3人での飲みの席で宮田が切り出した。
「聞いたぞ。早瀬、課長候補なんだって?」
「候補ね。候補。罰ゲームの抽選に当たりました」
「出た、罰ゲーム」
宮田は笑ってから、ジョッキを置いた。
「でもさ、早瀬はさ、バットを振らないから打率が高いんだよ」
宮田は同期でいちばん早く主任になった男で、悪気なくこういうことを言う。
「そうそう。振っても当たらないからね、僕は」
僕が笑うと、ほかの2人も笑った。宮田は「出たよ、早瀬の自虐発言」と言ってジョッキを空け、店員さんにおかわりを頼んだ。話題は、誰それの結婚式のスピーチの話に移った。
まあ、当たっている。僕は勝てる勝負しかしない。勝てない勝負をして負けることこそ自虐行為だと思っている。
課長が罰ゲームだと確信したのは、7月の合同会議だった。
うちの課が、半年追いかけていた案件を失注した。担当は入社3年目の後輩で、最後は競合に価格で負けた。よくある話だ。報告の順番が来ると、戸田さんが立ち上がった。
「この失注は、私の判断に問題がありました。私の責任です。申し訳ございません」
そう言って、頭を下げた。後輩の名前は、最後まで一度も出さなかった。会議室が静かになり、全員の視線が、下がった戸田さんの頭の一点に集まっていた。
僕は戸田さんのネクタイが曲がっているのに気付いた。たぶん朝から曲がっていたのだろう。本人も、誰も気づかないくらい、忙しかったのだ。
合同会議のあと、自販機の前で失注した後輩とすれ違った。落ち込んだ様子だった。
「戸田さんに、悪いことしました」
「気にするなって。あれが課長の仕事なんだから」
慰めたつもりだった。後輩は小さくうなずいて戻っていった。言ってから、我ながら冷たい言い方だと思った。でも、ほかに言いようがない。課長の仕事とは、つまりそういうものなのだ。
その日の夜、21時を過ぎてもフロアに残っていたのは戸田さんと僕だけだった。戸田さんは、コンビニのおにぎりを片手に、失注の報告書を書き直していた。後輩はとっくに帰っていた。残業の上限があるから、帰らせたのだ。
あれだけ働いて、最後はこれだ。部下の負けを自分の負けとして引き受けて、全員の前で頭を下げて、夜はひとりで報告書を書く。それが課長の仕事なのだとしたら、「割に合わない」としか言いようがない。
だから、課長にはならない。これは逃げではなく、合理的な判断だ。
とはいえ、選抜を断るのは角が立つので、プログラムには参加するつもりでいる。フィードバック面談の最後に「自分にはまだ早いことが、よくわかりました」と言えばいい。面談の結果は、辞退のためのちょうどいい材料になる。
第二部 フィードバックカウンセラー 小石川直
事前資料の1枚目には、上司コメントの欄があった。
〈慎重で堅実。無理をせず、確実に成果を出すタイプ。部内の信頼は厚い〉
私は、その一文に蛍光ペンを引いてから、2枚目のプロファイルをめくった。
メルター・タレントに中途で入って3年が経った。前の会社では人事で採用を担当していた。採用した人が、配属先で少しずつ元気をなくしていくのを見ていることしかできない無力感が、私を転職に駆り立てた。この仕事を選んだのは、そんな人を少しでも減らしたいと思ったからだ。
カウンセラーとしてはまだ半人前だと、自分でもわかっている。課長からは、面談記録を見せるたびに、素直過ぎると言われる。
今回のプロファイルからは、上を目指す気持ちが強い、負けず嫌い、面倒みがよい、批判的な視点を持つ、心配性、楽観視はしない、が読み取れる。野心があって、面倒みがよくて、慎重であれば優秀な人だ。上司のコメントともぴったり合う。
面談の前日、依頼元の人事部の三好さんから電話があった。
「早瀬はうちのエースなんですけど、どうも昇進に乗り気じゃないみたいで。慎重な人なので、背中を押してもらえると助かります」
私は、はいと答え、「早瀬さんの背中を押す」と胸の内でつぶやいた。
面談室に現れた早瀬さんは、資料から想像していたよりずっと柔らかい人だった。
「すみません、僕なんかのために時間をとっていただいて。選ばれたのも、たぶん何かの手違いなんですけど」
そう言って笑う。冗談の間合いがよい。話が昇進に及ぶと、早瀬さんは課長という仕事がいかに割に合わないかを、具体的に、少しおかしく語った。夜9時のコンビニおにぎり、「ここ、すごくいいと思うんだけど」から始まる企画書の手直し、手取りの逆転。
「課長って、罰ゲームなんですよ。しかも、勝った人がやらされる」
思わず吹き出してしまった。そして、何度もうなずいた。前の会社で、課長に上がって半年で休職した人がいたのを思い出した。
「わかります。本当に、そうだと思います」
「ですよね。だから、合理的に考えると……」
早瀬さんは、自分の営業のやり方についても、同じ調子で話した。
「同期には、バットを振らないから打率が高いって言われてます。ほんと、そのとおりで。僕、臆病なんですよ」
「堅実なんですね」
「そう言ってもらえると、なんか救われます」
その時、私は事前資料の上司コメントを思い出していた。慎重で堅実。資料と本人が、ここまでぴったり重なる人は珍しい。いい面談だと思っていたので、プロファイルの気になっていたところを、そのまま口にしてしまった。
「上を目指す気持ちが、とても強く出ています」
「意外でしょう」と早瀬さんは笑った。
「それと、謙虚さのところなんですが……ここまでお話を伺ってきた早瀬さんの特徴とは、違う結果が出ているんです」
悪気はなかった。データと言動が合わないような気がしたので、思ったことがそのまま口をついて出てしまった。早瀬さんの笑顔が消えた。
「へえ。そうなんですか」
次の瞬間には、もとの柔らかい顔に戻っていた。そこから先も、面談は穏やかに進んだ。早瀬さんは丁寧に答え、ときどき冗談を言い、時間通りに立ち上がった。ドアの前で振り返って、感じよく笑った。
「適性検査って、当てにならないこともあるんですね」
帰りの電車で早瀬さんとの対話を振り返っていた。何を間違えたのかはわかっていた。信頼関係ができる前に、繊細なところに踏み込んでしまった。
翌朝、課長に報告すると、課長は記録を読んでから一つだけ訊いた。
「で、その繊細なところって、何だったの」
私は答えられなかった。わからないのは、まさにそこだった。
その日は遅くまで早瀬さんのプロファイルを読んでいた。上を目指す気持ちが強い。心配性。面倒みがいい。一つずつ読めば、どれも書いてあるとおりだった。どこも間違ってはいないのに、謙虚さの低さだけが早瀬さんと重ならない。巡回の警備員さんが回ってきた時に、オフィスにいるのは私だけだと気付いた。
堀田(ほった)部門長は、つかまらない人だ。大型案件をいくつも抱えて、社内にいるのは週に数時間。私の上司の上司で、まともに話せるのは、廊下ですれ違うときか、エレベーターの中くらいしかない。
翌日の夕方、24階のエレベーターホールで、コートを腕にかけた堀田さんの背中が見えた。次の瞬間、エレベーターの扉が開いた。このまま歩いたら間に合わない。私はダッシュでエレベーターに肩から飛び込んだ。滑り込みセーフ。
「すみません、堀田さん、少しだけ見てください」
堀田さんがスマホから目を離したところにタブレットのプロファイルを差し出した。堀田さんはそれを10秒ほど眺めて言った。
「ふたつの特徴が重なり合った時、この人は何を思うか考えてごらん」
扉が開くと、堀田さんはタクシー乗り場のほうへ歩き出していた。
私はロビーのソファを陣取り、言われたとおりに考えてみた。
際立った特徴は確かにふたつあった。一つは、上を目指す気持ちと、負けたくない気持ち。もう一つは、心配性で批判的、気持ちの余裕のなさと、打たれ弱さと、楽観しないところ。面倒みのよさの裏には感受性の強さがあり、それが打たれ弱さにつながる。
これまで、野心家と慎重派を別々の長所として読んでいたが、重ねてみるとそれは別々ではなかった。上に行った自分なら、誇れる。プライドの高いこの人はそれが欲しくてたまらない。けれど、人の面倒をよく見るこの人は、人の気持ちが見えすぎる。だから、できない人と見られることが何よりも痛い。
「僕なんか」は、その痛みから身を守るための言葉だった。期待を下げておけば、うまくできれば認められ、つまずいても落胆は小さい。そのうえで、確実にできることしかしない。そうやって、プライドを傷つけないようここまで来たのだ。
「課長って、罰ゲームなんですよ。しかも、勝った人がやらされる」
面談で吹き出したあの冗談が、今は少しも笑えなかった。
いちばん欲しいものと、いちばん耐えられないものが同じ場所にある。
私はタブレットを閉じた。慎重な人の背中を押す面談ではなかったのだ。
2週間後のフォロー面談で、私はプロファイルを開かなかった。
「早瀬さん。最初に、お詫びをさせてください。前回、十分にお話をうかがう前に、早瀬さんのお気持ちを理解しないまま、不躾な発言をしてしまいました。申し訳ございませんでした」
頭を下げた。顔を上げると、早瀬さんは少し驚いた顔をしていた。
「……カウンセラーさんって、謝るんですね」
「間違えたら、謝ります」
早瀬さんは私の顔をじっと見た。
「怖くないですか。自分の間違いを人に言うのは」
「怖かったです。何度もやめようかと思いました。でも、なかったことにして早瀬さんの前に座るほうが、もっと怖かったんです」
沈黙が落ちた。私は待った。何か言いたくなるたびに、膝の上で指を組み直した。
早瀬さんが口を開いた。
「この前、受注の話、たまたまだって言いましたよね。実はあれ、たまたまじゃないんです。14ページ目で手を止めてもらうために、3週間かけたので」
私は何も言わなかった。
「戸田さん、うちの課長なんですけど。7月の会議で、部下の失注を自分の責任だって、全員の前で頭を下げたんです。ネクタイが曲がってて。あの日、課長は顔を上げてから、普通に次の案件の報告に進んだんですよ。すごいな、と思いました。僕にはあれは無理だなって」
それきり、早瀬さんは黙った。何が無理なのかは言わなかった。前の私なら、大丈夫ですよ、早瀬さんならできますよ、と言っていたと思う。
「早瀬さん。さっき私は、前回の失敗をここでお詫びしました」
「……はい」
「何か、変わりましたか。私に対する見方」
早瀬さんは少し考えて、それから、困ったように笑った。
「いえ。……むしろ、ちょっと信用しました」
私は、プログラムの中に期間限定のプロジェクトリーダーという枠があることを伝えた。肩書きは一時的なもので、終われば元の役割に戻る。うまくいかなくても、それで評価が決まるわけではない。
早瀬さんは資料を手に取って、ゆっくりと読んでから切り出した。
「これ、失敗したら、どうなるんですか」
「失敗した、という経験が一つ増えます。それはつまり、リーダーとしての成長の機会を得るということです」
「失敗が成長の機会、よく聞きますよね。失敗したことは二度とやりたくないって思うほうが自然なのに」
「その通りです。二度と同じ失敗をしたくないという気持ちが成長への強い動機です」
「そうじゃなくて、そもそもその役割とか仕事をしたくないってことです」
「ええ、失敗は痛みを伴いますからね。もし、その役割や仕事にまるで意欲や興味がなければ、その通りです。でも、成長したい、認められたい、その役割や仕事でもっと良い成果を出したい、という気持ちがある人にとって、失敗は最良の教材であり、やる気スイッチです」
言ってから、また正論を言ってしまったと思った。でも、取り消す気にはなれなかった。この人なら、正論のその先までも受け止められると信じていたから。
早瀬さんは資料に目を落としたまま、しばらく黙っていた。
「3回考えてから、返事します」
「3回で足りますか」
「たぶん、足りないです」
私たちは初めて同じタイミングで笑った。
面談のあと、人事部の三好さんに、少しだけ時間をもらった。
「早瀬さんは確信が持てるまで動けない優秀な人なのだと思います。意欲がないのではなくて、失敗が許されない形でしか、上に行く道がないから動けなくなってしまう。慎重で堅実、という評価は間違っていません。ただ、それは本人が選んだ戦い方の結果で、本人の望みそのものではないのかもしれません」
三好さんはメモを取る手を止めた。私は続けた。
「失敗しても致命傷にならない役割を、段階的に試せるようにすれば、もっと動きやすくなります」
第三部 早瀬幸太郎の返事
寝る前にその日のことをスマホにメモする習慣がある。その夜のメモはこうだ。
〈昼、後輩の相談を途中で遮った〉
〈面談で、しゃべりすぎた〉
いつも通りだ。僕の1日は、だいたい失敗でできている。最後に1行だけ足した。
〈できない自分を見せてしまった。何も起きなかった〉
しばらく眺めて、画面を閉じた。
翌朝、人事の三好さん宛てにメールを書いた。プロジェクトリーダーの件、お引き受けします。どうぞよろしくお願いいたします。
3回読み返して、送信ボタンを押した後、送信済みフォルダを開いて、本当に送られているかを確かめた。そういう性格なのだ。
9時前に、戸田さんが出社してきた。その日のネクタイは完璧だった。昼休みにでも、報告しようと思う。たぶん戸田さんは「そうか」とだけ言って、缶コーヒーをおごってくれるだろう。
課長は、今でも罰ゲームだと思っている。その考えは変わっていない。
ただ、本当に罰ゲームなのかどうかを、一度くらい自分で確かめてみるのも、悪くない。……と、思えなくもない。我ながら、前向きな人みたいで少し気持ちが悪い。
巻末 フィードバック報告書 No.1
- 対象者:早瀬幸太郎(34歳・営業職・主任)
- カウンセラー:小石川直
- 面談:課長候補者対象選抜プログラムの初回フィードバックとフォロー面談
- ねらい:プロファイルの「上を目指す」「慎重」「面倒みがよい」、上司コメントの「慎重で堅実」と人事からの「背中を押してほしい」という依頼がすべて合致。長所(慎重さ)の合意と昇進への意欲形成に焦点を当てる。
- 顕著な傾向の見られるOPQ因子:
因子名 得点
(1~10)パーソナリティの特徴 謙虚さ 2 自分の得意なことや達成したことを人に知らせる。自分の成功について話す。 面倒み 9 他人に共感でき、思いやりがある。世話好きで、他人の個人的な問題にも支援を惜しまない。 余裕 3 緊張しやすい。リラックスしにくい。仕事からの気分転換がなかなかできない。 心配性 10 大切な用事の前には緊張する。物事が悪いほうにいかないか心配する。 タフ 1 感じやすく、批判されると傷つきやすい。理不尽な発言や侮辱に動揺する。 楽観的 3 将来のことを心配する。物事が悪いほうへいくと思う。状況の否定的な面に目がいく。 批判的 8 情報を批判的に評価する。潜在的な問題を探そうとする。間違いに注目する。 競争性 10 勝ちたいと思う。競争を楽しみ、負けることを嫌う。 上昇志向 9 野心的で仕事中心。達成困難な目標に向かって働くことを好む。 - パーソナリティ因子の解釈:
因子組み合わせの解釈 関連因子 野心家で上昇志向が強い。自分の成果や功績を周囲に認めてもらいたい。 競争性(高)、上昇志向(高)、謙虚さ(低) 失敗したくないという気持ちが強い慎重派。心配し、不安にかられやすい。シビアに物事をとらえ、問題点やリスクを常に意識する。周囲の人たちの感情を敏感に察知する。自分がどう見られているかを常に気にしており、繊細で傷つきやすい。 余裕(低)、心配性(高)、批判的(高)、楽観的(低)、面倒み(高)、タフ(低) - 発言内容との関連性:
野心家と慎重派の特徴は、望みが高いから失敗を恐れることを表す。勝てる勝負しかしないのは、高い望みを守るための戦略と読める。
謙虚さの低さ(自分の成果や力量に自負があり、それを表に出すことを好む)と自己卑下的な発言との矛盾は最も繊細な部分。この言動は早瀬さんにとって自分を守るものであり、同時に自分を苦しめるものでもあった。
批判的の高さは自分の失敗を見逃さないことを意味し、面倒みの高さは部下の失敗まで自分のものとして背負うことを意味する。課長という役割の「失敗が人前に晒される」重さを人一倍感じていた。 - 今後の支援:
- 個人:期間限定のプロジェクトリーダーに任命し、リーダーの役割を試すことから始める。
- 組織:試験的なリーダー経験を正式にプログラムに組み込むことで、管理職への昇進に消極的な優秀層の意欲を引き出せる可能性が高い。人事部へプログラム改善の提案を行う。
- その他:師の一言 「ふたつの特徴が重なり合った時、この人は何を思うか」
このコラムの担当者
清田 茂
日本エス・エイチ・エル株式会社 執行役員
創業期メンバーとして入社以来30年、HRコンサルタントとして日本の人事アセスメント界を牽引。大手を中心にコンピテンシーモデリングから選抜設計、サクセッションプラン構築まで広範なプロジェクトを完遂。特に経営層との対話を通じた次世代リーダー育成に高い実績を持つ。 2002年取締役、2020年より執行役員として直販部門を統括。最前線で「人と仕事と組織の最適化」を追求する傍ら、SHLグループのグローバル知見の国内導入も推進。