コラム 人事コンサルタントの視点

「AIが書いたガクチカ」に惑わされないために。新卒採用で「素の力」を見抜くシミュレーション型アセスメントの活用法

かつてはコロナ禍による活動制限で「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)がない」ことで面接評価が難しいという課題がありました。しかし昨今、採用現場を悩ませているのは、生成AIの普及による「磨き上げられすぎたエピソード」です。コラム「AI時代の新常識:補正された回答から「真の資質」を見極める面接術」で指摘されている通り、応募者がAIで面接対策を行うことで、採用側が「応募者本人の実力や資質」を見極めることの難易度が上がっています。そこで改めて注目されているのが、特定の場面での行動を直接観察するシミュレーション型アセスメントです。

本記事では、AI時代の選考において、学生の「素の思考プロセス」と「実際の行動」を客観的に評価するための3つの手法をご紹介します。

なぜ今、過去のエピソード(ガクチカ)だけでは不十分なのか

生成AIによる「ガクチカの均質化」

昨今の新卒採用において、生成AIの普及は大きな転換点となっています。AIによって作成されたエピソードは論理的で完璧に見えますが、それは必ずしも本人の再現性を保証するものではありません。従来の面接で重視されてきた「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」は、AIによる添削やリライトが容易であり、個人の真の能力を差別化することが困難になっています。

過去の「エピソード」だけではなく、実際に「いま行動できるか」が予測力を上げる

過去の経験を問うだけの面接では、変化の激しい現代に必要な「適応力」を測ることが難しくなっています。エピソードの有無や真偽に振り回されるのではなく、未知の状況下でも過去に培った能力が発揮できるかどうかが、将来の活躍を予測する重要な指標となります。

なぜ今、過去のエピソード(ガクチカ)だけでは不十分なのか

シミュレーション型アセスメントとは?(定義・メリット・注意点)

定義

シミュレーション型アセスメントとは、特定のビジネス場面(集団討議、アイデア生成、タスク管理など)を模した架空の状況を応募者に与え、そこでの実際の判断や行動を直接観察することで、その人のコンピテンシーを予測する手法です。
たとえば、面接では「私は●●部で部長を務めました」というエピソードをもとにリーダーシップを評価するところを、シミュレーション型アセスメントでは実際にグループで討議する場を与え、その中での影響力の発揮度合いを観察するといった具合です。

メリット

  • 取り繕うことが困難: 受検者がその場でパフォーマンスを発揮する必要があるため、AIによる事前準備や自己申告情報の操作による影響を受けにくく、妥当性の高い評価が可能です。
  • 客観性の担保: 評価基準や課題が標準化されているため、面接官の主観やバイアスを排除し、公平でブレのない評価が実現できます。
  • 選考プロセスの効率化: 短時間の演習を通じて、思考力、対人力、実行力といった複数の能力を同時に効率よく確認できます。

注意点

特定のコンピテンシーに特化して測定するアセスメントも多く、人材要件に合致する課題を用いないと見当違いの評価をしてしまうリスクがあります。採用で求めるコンピテンシーを定義した上で、それを評価できるシミュレーション型アセスメントを検討するようにしてください。まずは自社の採用基準を明確にしたいという方は、採用担当者向け採用要件定義ハンドブックをご活用ください。

シミュレーション型アセスメントとは?(定義・メリット・注意点)

【要約表】ひと目でわかるシミュレーション型アセスメントの比較

アセスメント手法 主な測定能力 AI時代における強み・ポイント
グループディスカッション 影響力、チームワーク、分析力 正解のない模擬会議でのリアルタイムの議論を通じて実際の行動を直接観察。オンライン版では「マルチエンディング型(ストーリー分岐)」等を採用し、AIに頼った「表面的な対策」を打破できます。
創造力テスト 流暢さ、柔軟さ、オリジナリティ 唯一の正解を導くテストとは異なり、数多くの解決策を生み出す「発散的思考力」を測定。筆記形式のためAIの介入を防ぎ、「自ら新しい価値や切り口を見出す力(イノベーション人材の素養)」を見極めます。
イントレイ演習(インバスケット演習) 情報処理能力、計画力、分析力 架空の役職で制限時間内に大量の案件を処理するマークシート形式の演習。事前対策がしづらく、AIで美化された過去の「ガクチカ」に左右されず、「判断」や「優先順位付け」の能力を測定します。
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新卒採用で使えるシミュレーション型アセスメント3選

  1. 1. グループディスカッション(グループ討議)

    「仕事場面で出会う典型的な会議」を模擬的に実施するシミュレーション演習です。

    • 測定能力: 影響力、チームワーク、分析力
    • ポイント:日本エス・エイチ・エルでは、より仕事場面でのふるまいを予測しやすい、様々なビジネス上の意思決定を模擬的に行う題材を用意しています。正解のない課題について多様なメンバーと実際に議論しながら合意形成し、チームとしてどのように貢献するか、客観的・定量的に評価できます。
      また、オンラインで実施できる題材も提供しています。オンラインでは、グループの意思決定によってストーリーが分岐する「マルチエンディング型」を採用しています。 展開が予測できないため、従来の「役割分担」や「定型的な進行」をAIに頼りながら実施することは困難です。
  2. 2. 創造力テスト(クリエイティビティテスト)

    アイデアの発散力を測定するシミュレーション演習です。

    • 測定能力:流暢さ(アイデアの豊富さ)・柔軟さ(アイデアの次元の広さ)・オリジナリティ
    • ポイント:唯一の正解を導く知的能力テストとは異なり、ビジネス課題などに対して数多くの解決策を生み出す「発散的思考力」を測定します。 筆記試験形式のため、AIの手を借りてアイデアを生成することはできません。自ら新しい価値や切り口を見出せる能力を可視化できるため、イノベーション人材や新規事業を生み出すポテンシャルを持った学生の選抜に特化しています。
  3. 3. イントレイ演習(インバスケット演習)

    管理職として様々な課題に模擬的に対応し、処理情報整理能力・問題分析能力を測定するシミュレーション演習です。

    • 測定能力:情報処理能力、計画力、分析力
    • ポイント:受検者が架空の管理職になりきり、制限時間内に大量の未決済案件を処理するシミュレーションです。 未経験の複雑な状況下で、情報の優先順位を正しく判断し、具体的な行動計画を立てる力を測ります。 管理職の昇格試験などに使われることが多いテストですが、初級者向けの題材であれば新卒採用に用いることも可能です。行動そのものを評価するため自己申告より妥当性が高く、将来のリーダー・マネジメント候補を早期に見極める手法として非常に有効です。

最後に

当社日本エス・エイチ・エルでは「プレゼンテーション演習」を新卒採用で実施しています。応募者は資料をもとに導き出した結論についてプレゼンテーションを行い、質疑応答を行います。この「プレゼンテーション」も社内・社外での提案能力を測定するシミュレーション型アセスメントの一つです。
AIが普及する時代だからこそ、過去の「結果」であるエピソードを語らせて終わるのでなく、その場での「行動」を引き出す多彩な選考が意味を持ちます。シミュレーション型アセスメントを戦略的に活用することで、AIには代替できない受検者自身の「個の力」を正しく見極めることが可能になります。

水上 加奈子

このコラムの担当者

水上 加奈子

日本エス・エイチ・エル株式会社 マーケティング課 課長

10年以上にわたりHRコンサルタントとして顧客と向き合う現場の最前線に立ち、大手企業の採用要件定義やデータ分析、育成研修等に従事。2016年に「イノベーション人材」をテーマに産業・組織心理学会で論文を発表。 その後、2020年のマーケティング部門立ち上げより現職。チーム責任者として科学的根拠に基づく発信を統括しつつ、現場知見を活かした多岐にわたるコンテンツ制作を指揮している。国家資格キャリアコンサルタント。

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