経営戦略を実現するための新たな人事組織を立ち上げた積水ハウス。
次世代を担うビジネスリーダーを計画的・戦略的に育成するタレントパイプライン構築の取り組みをご紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

積水ハウス株式会社

事業内容

戸建住宅事業、賃貸住宅事業、建築・土木事業、リフォーム事業、不動産フィー事業、分譲住宅事業、マンション事業、都市再開発事業、国際事業

業種

建設業

従業員数

16,616名(2020年4月1日現在)

インタビューを受けていただいた方

安信 秀昭 様
増田 貴久 様

積水ハウス株式会社
人事部 人材開発室 室長(写真右)
人事部 人材開発室 課長(写真左)

インタビューの要約

経営戦略を実行するために計画的なビジネスリーダーを育成するという課題があった。
次世代リーダー発掘プログラム「SHINE! Challenge Program」を創設し、タレントパイプラインの構築に着手した。日本エス・エイチ・エルのアセスメントを用いて、高業績かつ光る人材を効率的に選抜できた。
経営戦略の実現のため、人事制度の変革にも取り組みたい。
今後は採用や育成含めて、様々な場面で日本エス・エイチ・エルのアセスメントを活用していきたい。

人事戦略を実行するため、タレントパイプライン構築と人事制度変革に着手。

これまでオペレーショナルな業務が中心であった人事部を、10年後、20年後を見据えて経営戦略に沿った人事戦略を担う専門組織にすべく、人材開発室という新たな組織が作られました。様々な人事課題を検討する中で、まずは①タレントパイプラインの構築と②職能資格を中心とした年功序列的な人事制度の変革を、大きな柱として取り組むことになりました。日本エス・エイチ・エルに相談したのは、このタレントパイプラインです。


社長をはじめ、取締役・執行役員、そして一番のキーポジションである支店長のサクセッションプランニングが課題です。私たちは、中堅・若手クラスの中から将来のビジネスリーダーになれるような人を早期に発掘して計画的に育成する、人材プールの作成を経営層に提案しました。
この課題の背景には、過去の反省がありました。営業中心の会社ですから、これまで支店長になる人はどちらかというと業績重視でした。そこで、マネジメント能力や人格など、より多角的に評価を行い、計画的に人材を育成し、登用する必要があると考えました。

人事戦略を実行するため、タレントパイプライン構築と人事制度変革に着手。

次世代リーダー発掘プログラム「SHINE! Challenge Program」

私たちの組織が発足する少し前に、支店長養成研修「経営塾」がスタートしました。支店長や部長になる登竜門のようなもので、受講生の選抜方法は上長推薦です。1年間でリベラルアーツや行動経済学、DX、イノベーションなどを大学教授、外部有識者から学びます。幅広く勉強してもらい、その成果を支店経営に活かしてもらうことがねらいです。

続いて、35歳以下の選抜研修を新たにスタートさせました。「Sekisui House Innovators and Entrepreneurs」の頭文字をとって、「SHINE! Challenge Program」と名付けました。15名限定で約1年間、多くの外部講師や社内の最先端にいる人からインプットを得ます。普段実務に専念している人たちに、視野を広げ、視座を高めてもらい、将来の積水ハウスの価値創造を考える機会を提供しています。全体を通して外部コーディネータに伴走してもらいながら、得た知識をどう活かすかアクション・ラーニングを行います。最終的には、研修を通じて得た経営課題からビジネスプランを作成し、経営陣の前で発表します。参加者からは、日常とは異なる視座で会社を考える機会が得られた、他の参加者からよい刺激が得られたとの声が寄せられました。

アセスメントで光る人材をどう見つけるか。

「SHINE! Challenge Program」は名前の通り、イノベーターやアントレプレナーの素養がある人を探して輝かせることを目的としています。そのイノベーター、アントレプレナーをどのように見つけるのかについて、日本エス・エイチ・エルのコンサルタントに相談して、選抜方法を決めました。

基本的に人材開発室がプログラム参加者の15人を選んでいます。候補者は30歳前後から35歳ぐらいまでの社員約1,100名です。選抜基準は2つ。一つは人事考課などの実績、もう一つはポテンシャルです。日本エス・エイチ・エルのタレントアセスメント(知的能力検査、パーソナリティ検査OPQ、モチベーション検査MQ)を使ってポテンシャルを評価しています。特にOPQから算出されるマネジメント能力やアントレプレナーのポテンシャルに注目しています。

選抜基準の2つの評価を縦軸と横軸にとり(実績を縦軸、ポテンシャルを横軸)、各軸を3つのレベルに分けることで、9つの区分(9ボックス)を作り、右上の区分に入る人から15人を選んでいます。

アセスメントで光る人材をどう見つけるか。

日本エス・エイチ・エルには採用のアセスメントを長年提供してもらっており、何度も尺度や基準の見直しの相談をして、真摯に協力してもらいました。「SHINE!Challenge Program」の軸を作りたいとなったときに、他のアセスメントも検討しましたが、長年のデータ分析と活用の実績でわかったアセスメントツールの信頼性と妥当性の高さ、カスタマイズの柔軟性から日本エス・エイチ・エルのアセスメントを使うことに決めました。その後、担当コンサルタントと時間をかけて打ち合わせをしながら、選抜手法や評価軸の構造などを決めていきました。

採用でも引き続きご協力いただき、さらに進んだ人材データ分析を行いたいと思っています。また、育成の面では、現場からアセスメント結果をうまく使いたいという声もあがっています。職場風土を変革するために、上下関係や社員同士のコミュニケーションを改善したり、ダイバーシティを推進するため、アンコンシャスバイアスに気付かせたり、といった取り組みを進めています。その中でOPQ、MQを自己理解や他者理解の促進に使いたいと考えています。読みやすく、あつかいやすいレポートやユーザーインターフェイスでアセスメント結果を本人やマネジャーにフィードバックできるとありがたいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 大阪オフィス 部長

岡松 太郎

中堅、若手社員の早期選抜は、今や多くのクライアントで取り組まれている重要テーマですが、SHINE! Challenge Programはオンラインアセスメントデータの活用先端事例と思います。自社で保有する業績指標(パフォーマンス)とSHLハイポテンシャルモデル(グローバル経営リーダーに必要な資質)を掛け合わせた人材選抜は、客観性と予測精度を担保できる仕組みと言えます。
また、入社時と現在でのアセスメントデータの変化や、業績、昇格スピード等の各種パフォーマンス指標との関連性など、多岐にわたり検証しながら進める機会をいただきました。
20年近く当社サービスをご利用いただいておりますので、私よりも当社サービスにお詳しい方々ですが、今後も全社的にご活用いただけるよう、支援させていただきます。

オフィスオートメーションからデジタルサービスの会社へと変革を続けるリコー。
なかでも新規事業創造をミッションとする組織のチーム作りに科学的な知見を活用すべく、調査研究に取り組みました。

※本取材は2023年10月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社リコー

事業内容

デジタルサービス、印刷および画像ソリューションの提供

業種

電機機器

従業員数

81,017名(連結、2023年3月31日現在)

インタビューを受けていただいた方

入佐 孝宏 様
稲井 麻貴 様

株式会社リコー
コーポレート上席執行役員 、リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデント、前 リコーフューチャーズビジネスユニット プレジデント (写真左)
リコーフューチャーズビジネスユニット インキュベーションセンター 事業創造室 BRグループ リーダー、HRBP長 (写真右)

インタビューの要約

デジタルサービスの会社へ変革を進めるリコーは、カンパニー制への移行に際して新規事業創造を組織的に行う「リコーフューチャーズ(RFS)」ビジネスユニットを設けた。
RFSの8つの事業は事業開発の進捗が異なり、また、リーダーのキャリア・人物タイプもそれぞれに特徴がある。組織能力を最大化する、リーダーを中心とするチーム編成への問題意識を持った。
リーダーのタイプによって組織がどのような影響を受けるかをパーソナリティ検査結果とエンゲージメントサーベイスコアを用いて調査した。
パーソナリティ検査結果は「顧客価値の創造をリードする人材・事業創造型のリーダー」としてポテンシャルの高い人材を発掘する際に役立てている。

社会課題を解決する新規事業を生み出す組織、リコーフューチャーズ

リコーは2020年にデジタルサービスの会社への変革を宣言し、2021年には経営機構をカンパニー制へ移行させるとともに、人事面ではジョブ型人事制度の導入を決定しました。現在、グループ本部と5つのビジネスユニットがあり、各ビジネスユニットが事業企画・商品企画から開発設計・生産・販売まで一気通貫した機能を担うなかで自立的にビジネスを運営しています。人事機能においてもHRBPとしてそれぞれのビジネスユニットに所属しているメンバーがいます。

リコーフューチャーズビジネスユニットは、リコーの強みである独自の技術を活用したイノベーションを通じて、新規事業を実現させつつ社会課題を解決していく組織です。現在8つの新規事業を手掛けています。もともとリコーには新しいことに取り組む風土があり、各々で活動をしていました。これら新規事業のうちの8つをひとつのビジネスユニットのなかで運営することで、ポートフォリオマネジメントを進めています。各事業の期待値や事業進捗に応じて、予算含めた投資のメリハリをつけ、事業開発に関する厳しい議論を正しく行うことができるようになりました。

社会課題を解決する新規事業を生み出す組織、リコーフューチャーズ

チームの能力を最大化するメンバーの組み合わせを科学的に検討する

8つの事業を見ていると、各チームの特徴が出てきます。例えば、コミュニケーションが得意なリーダーのチームはまとまっているけれどもアイデアが生まれにくい、かたやクリアな世界観を表現することができるリーダーのチームはまとまりが欠けているなど。これらのチームをマージすることが出来たら強力なチームになるだろうと常々考えておりました。

また、新規事業を0から1にする段階と、1から10にする段階とでは求められるリーダーシップが異なるのではないか、またリーダーが必要な経験や能力を備えていない場合には、リーダー及びリーダーを支えるメンバーのチーミングによって補う必要があるのでは、とも考えました。加えて新規事業は未経験の領域に挑むため、経験だけではなく各個人の資質も重要な要素になります。

どのようなメンバーの組み合わせであればチームの能力を最大化させられるか思索しているなかで、別のプロジェクトでリコー国内従業員約3万人を対象に実施したエス・エイチ・エルの パーソナリティ検査万華鏡30のデータを活用できないかと思い立ちました。各事業センターのリーダー数名の万華鏡30を詳しく解説していただいたところ自分が経験を通じて培った「人への見立て」と符合しており、感覚的ではなく科学的に人の資質は捉えられるだろうと確信しました。

リーダータイプとチームのエンゲージメントの関係性を明らかにする

社員直属上司である課長層とその1つ上の階層である室長層の社員の万華鏡30の結果データと2021年に実施したエンゲージメントサーベイの組織別のスコアとを用いて、統計分析を行いました。パーソナリティ検査結果からリーダーのタイプを3つに分類し、室長層と課長層のリーダーのタイプの組み合わせごとに組織のエンゲージメントサーベイスコアにどのような傾向がみられるかを確認しました。

組合せの数(対象となる組織数)が少ないため引き続き検証が必要ですが、大きく2点の発見がありました。一つは室長と課長がどちらも“ひっぱり型リーダー”(メンバーの競争心に刺激を与え、目標達成に向けてチームを引っ張る)の場合、仕事環境、具体的には人間関係の満足度が低くなる傾向があること。この組み合わせはできれば避けたほうがいいだろうと考えられます。もう一つは、同じタイプのリーダー同士で構成される組織の場合は、リーダー・経営層への信頼が低下する傾向があることでした。

調査研究の結果は、個人的な経験や感覚とも符合しました。例えば私(入佐様)はチームタイプの“アイデアマン”と“まとめ型リーダー”の傾向が強く出ており、ときに歯止めが効きづらくなるとも自認しておりますため、リコーフューチャーズの責任者となるにあたっては、私に苦言を呈することができる人材を私のパートナーに選びました。彼の万華鏡30の結果をみると、私の結果とちょうど真逆でした。やはり資質は科学的に分析することができると考えています。

「顧客価値の創造をリードする人材・事業創造型のリーダー」としてポテンシャルの高い人材を発掘するため、私(入佐様)が現在担当しているリコーデジタルサービスビジネスユニット(RDS)では結果を主に二つの場面で使用しています。一つは既にあるサクセッションプランの中でサクセッサーとなっている人材の資質を改めて確認する場面。もう一つは、社内公募で募集しているポジションによっては万華鏡30の結果を面談結果と合わせてみて、適性を判断する場面です。全社的にシステマチックな活用はまだできていません。

私(入佐様)はいくつかのアセスメントを受けていますが、人物タイプを見極めるには万華鏡30が一番適切と感じています。エス・エイチ・エルグループが持つ最新のアセスメントにも興味があり、実験的な取り組みも含め今後も積極的にご支援いただければと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

重野 達也

 新規事業創造において”個”に焦点を当てる研究には多くの課題が残っています。そのようななかで、今回の研究とその結果の活用は、リーダーの組合せから新規事業創造を捉えようとする新たな試みでした。リーダーのパートナーを誰にするかによって、組織のエンゲージメントスコアは大きく変わります。エンゲージメントスコアが組織の強さと活性度を表しているとすれば、リーダーの組み合わせは極めて重要な人事的意思決定となります。今回の研究から、人の組み合わせと事業創造の関係についての貴重な知見を得ることができました。今後も実験的な取り組みを行いつつ、リコー様の更なる発展に向け尽力致します。

導入事例

「自分に合ったスタイル」での成長を促す、日産自動車の販売会社店長育成戦略。

「自分に合ったスタイル」での成長を促す、日産自動車の販売会社店長育成戦略。

販売会社の優秀店長像をアセスメントのデータ分析とインタビュー調査によって明らかにした日産自動車。
販売会社の店長を対象としたタレントマネジメントの取り組みを紹介します。

※本取材は2020年12月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

日産自動車株式会社

事業内容

自動車の製造、販売および関連事業

業種

自動車製造業

従業員数

22,717名(単独)(2020年3月現在) 

インタビューを受けていただいた方

岩村令子 様

日産自動車株式会社
日本戦略企画本部 中期戦略企画部/プログラムダイレクターオフィス 主担

インタビューの要約

販売会社の採用・育成方針の策定に役立てることを目的に、販売会社の優秀な店長像を明らかにするためのアセスメントおよびインタビュー調査を実施した。
全国の販売店店長約1300名がアセスメント(万華鏡30)を受検し、クラスター分析によって4タイプの異なる強みを持った優秀店長像が特定された。
各タイプの優秀店長の代表者数名に対面でインタビューを実施し、それぞれの強みを発揮するために日々実施していることなどを詳細にヒアリングした。
分析・インタビュー結果を各販売会社に報告し、採用・育成・登用の資料として活用してもらった。また、日産自動車本体においても、今後の販売会社への採用・育成支援の方針が得られた。

販売会社の優秀な店長像を特定し、採用や育成に生かすため、 アセスメントおよびインタビュー調査のプロジェクトが発足。

私は中期戦略企画部に所属しています。販売会社の採用や育成、教育を担当する部署は別にありますが、今回のプロジェクトは中長期的な目線で、販売会社の優秀店長とはどういう人材なのかを科学的な手法で明らかにし、それを中長期の採用育成に活かしていこうという、当時の役員の問題意識からスタートしました。

販売会社によって店舗数には違いがあります。数店舗を運営している販売会社であれば、それぞれの店長の特徴を把握できますが、数百店舗を有するような販売会社では、個々の店長に関して経営層が詳細な情報を把握することは困難です。目まぐるしくビジネス環境が変化する中で、今後どういった店長が求められるかを検討したいが、販売会社1社では横断的な分析は難しく、地域的な偏りもある。販売会社からこのような声が挙がっていたことを受け、プロジェクトが発足しました。

販売会社の優秀な店長像を特定し、採用や育成に生かすため、 アセスメントおよびインタビュー調査のプロジェクトが発足。

約1300名の店長の特徴をクラスター分析して見えてきた、複数の優秀店長像。

最初に考えたのは、私には人事系のバックグラウンドがないので、アセスメントに関しては、プロフェッショナルの力を借りる必要があるということでした。その上で、複数社にお声がけをしましたが、日本エス・エイチ・エルを選んだ一番の理由は、シンプルな調査を低コストで受けられるという、続けやすさ。今回は日産自動車が主体で調査を行うが、今後販売会社主体でアセスメントを継続する可能性を考えたときに、販売会社にとって続けやすいプライスであることは必須条件でした。

約1300名の店長にアセスメント(万華鏡30)を実施し、優秀者のタイプを抽出するクラスター分析を行いましたが、まず何をもって優秀者と定義するかが最初に議論になりました。たとえば、優秀な店長でも、困難な状況にある店舗の立て直しを担っている方は、業績が低いです。逆に立地にめぐまれていたり、部下に優秀な人材がいたりすると、店長の実力は隠れてしまいます。ですので、今回は店舗の売上台数等の数値指標に加えて、役員や社長から見た優秀な店長は誰なのか、という定性情報もアンケートで拾い上げていきました。その際は、「どういう観点で優秀としたか」という理由も書いていただいたんですが、育成に長けているとか、とにかくきちんと台数を売り上げるとか、台数だけじゃなく収益管理ができるとか、様々な観点が挙げられました。最初の目的が優秀な店長のタイプ分類だったのですが、店長は個々人が自身の強みやバックグラウンドを活かして仕事をしている個人芸のような部分があり、日産自動車社内でも「タイプ分類は相当難しいぞ」という声がありました。不安を抱えながらのスタートでしたが、日本エス・エイチ・エルの担当者と二人三脚で分析を進めていきました。

各優秀タイプを代表する店長に、インタビューを実施。 現場にとってわかりやすい人材像へと落とし込む。

クラスター分析によって、最終的に抽出された優秀店長のタイプは、異なる強みをもつ独立した3タイプと、ハイブリッド型1タイプの、計4タイプ。かつては、一つの優秀な店長像があって、それを目指せと言うのが基本的な指針だったと理解しています。今回の分析は、「優秀なタイプというのは複数あり、まずはどういうマネジメントの仕方が自分に合っているのかを選び取りながら成長していきましょう。その次は、さらにバランスの取れたこの店長像を目指しましょう」と、だんだんレベルアップするような考え方を可能にしています。それは今までとは異なる新しい育成の考え方でした。

各優秀タイプを代表する店長に、インタビューを実施。 現場にとってわかりやすい人材像へと落とし込む。

その後、ロジカルな分析結果を各タイプの優秀店長像に落としこんでいく際には、実際にそれぞれのタイプに当てはまる優秀店長数名にインタビューを繰り返しながら、ペルソナ的に人材像を具体化していきました。ヒアリングの内容は、その人が強みにしているコンピテンシーはどういう経緯で組み立てられてきたのかを探るキャリアの経緯や、過去に一番心に響いたこと、そのコンピテンシーを日常的に発揮する方法を探るために、一日の仕事の流れや、気を付けていることなどを全て聞いていきました。このヒアリングの結果は冊子にして、最終的に販売会社に配布しました。優秀な店長は毎日何をしているのか、どれくらいスタッフの管理に力を入れているのかをまとめた資料なので、気に入ってくださった販売会社は各店長に「これを読んでおきなさい」と配布してくれたそうです。優秀な店長の取り組みは本当に素晴らしく、私もヒアリングをしていて勉強になりました。

全国にいる販売会社店長の約半数をカバーした大規模調査で、 新しい店長像を見出せた。

その後、販売会社を回って、個々の店長のタイプ分類と、販売会社ごとの店長のタイプ構成比などを報告していきました。最初、アセスメント結果に納得していなかった販売会社の社長にも直接話して、「気になった人、これは違うと思った人を教えてください」と一緒に読み解いていき、各タイプについて説明すると、結果に対する信頼が生まれて、「確かにうちの会社はこういうタイプが多いかもね」と納得してくれました。また、各タイプの人財イメージを表すのに著名なスポーツチーム監督の例を挙げたり、現場で活用しやすいように、腹落ちしやすいストーリーづけをすることを意識しました。
結果の活用法についても、会社ごとに様々なご意見がありました。店長へのフィードバック面談を普段から行っている会社では、フィードバックの際にこのアセスメント結果も一緒に使っていこうという声がありました。また、役員をどんなタイプの人財から選ぶか、タイプ構成比を見ながら登用を考える会社もありました。さらに、販売会社によってあるタイプの店長が非常に多い・少ないといった傾向も明らかになったので、より望ましい方向にカルチャーを変えていこうとする試みもあります。このような取り組みは販売会社ごとに行っていただき、日産自動車サイドでは、今度の店長の育成における基本のコンピテンシーを作る材料にしようとしています。

このプロジェクトの成果は、販売会社が自社の店長のタイプを把握する客観的な資料が得られたことです。「あの店長ってこういうタイプだよね」と、なんとなく思っていたことを裏付けてくれる資料になりますし、逆に「あれ、実はこういう側面があるのかな」といった、一人一人の店長をより深く理解するための材料になりました。日産自動車としても、これまで優秀な店長の形をきちんと把握していませんでした。今回の調査は、全国にいる店長の半数以上をカバーする大規模なものですので、日産における新しい店長の人材像を見出し、今後の販売会社支援の材料になったかと思います。その知見が今、販売会社の育成を支援しているチームに引き継がれています。

日本エス・エイチ・エルのサービスを利用して良かった点ですが、まずアセスメントの一人あたりのコストが安くて、かつ豊富に実績があり、分析の結果にも独自の知見があって信頼性があるところ。もう一つは、データ分析の過程で何度も通っていただいて、一緒に分析の結果を見ながら、このクラスター分類はピンと来ないとか、何点をクラスター分類の閾値にするかといった、細かい点を相談させていただけたことです。定性調査のインタビューでも、全国各地の店長に話を聞きながら迅速にレポートをまとめていただいて、我々が資料を作成する上でもプロの視点でのご指摘やご意見を頂けたのはありがたかったです。ある意味、二人三脚でプロジェクトを進められたのが助かりました。全国津々浦々にわたる調査となり、大変だったと思いますが、すごく感謝しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

佐藤 有紀

「優秀な店長にはいくつかのタイプがあると思っている。各店長が、自分に似たタイプの優秀者をお手本にして、自分の強みを活かしながら育っていけるような育成支援をしたい。」最初にそのようなご相談を頂いたときに、その自由で新しい発想に心が躍りました。
「個性を活かした活躍」が推奨される昨今においても、教育の個別化は進んでいるとは言いがたく、依然として画一的な優秀さを目指して努力されている方が多いのではないでしょうか。日産自動車の取り組みは、個々人がより自分らしいスタイルで成長でき、自分の強みで勝負できる、新しい育成のありかたを示すモデルケースになると思っております。私どもも、二人三脚でこのようなクリエイティブな挑戦ができたことを、大変嬉しく思います。誠にありがとうございました。

新入社員から部店長までを網羅するキャリアプランと、各ステップで求められる到達レベルに沿った教育研修体系を構築しているみずほリースの事例を紹介します。

※本取材は2021年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

みずほリース株式会社

事業内容

リースを中心とする法人向け総合金融サービス

業種

金融業

従業員数

連結:1,804名、単体:735名 (2020年9月末現在)

インタビューを受けていただいた方

横山 幹彦 様

みずほリース株式会社
人事部 副部長

インタビューの要約

新入社員から部店長レベルまで、職系と経験年数・ステップごとに到達すべき行動レベルや知識/スキル、受講研修を紐づけた「キャリアプラン」を構築し、教育研修制度を整備・拡充した。
日本エス・エイチ・エルの担当する「ヒューマンアセスメント研修」は、管理職準備グレードが対象の研修。ロールプレイなどの演習によるアセスメントとフィードバックで、管理職となる上で求められる能力を認識することが目的。
今後強化していきたいことは、育成を主眼とした戦略的ジョブローテーションと、「3C(challenge、change、create)」の一層の推進。

新入社員から部店長までのキャリアプランを明示し、 教育研修制度の刷新に取り組む。

私が人事部に異動して、4年が経過しようとしています。着任してからは労務以外の人事領域に幅広く関わっています。

配属された当初、階層や職系で研修頻度に偏りがあるのが気になったことから、教育研修制度を大幅に見直すことにしました。まず、職系と経験年数に応じて求められるスキルとそのレベルを定義して、明確なキャリアプランを作りました。具体的には、新入社員から部店長レベルまで、職系とステップごとに到達すべき行動、経験、知識/スキル、受講すべき研修を明文化しました。このキャリアプランを作ったことで研修頻度の偏りが是正されました。拡充した主な研修としては、例えば、営業職のソリューション力を強化するために、仮説構築力、発想力、プレゼンテーション能力を鍛える営業系の研修、総合職と比べて手薄となっていた中堅業務職に対する研修などがあります。

このキャリアプランは社内のポータルサイトに掲示されており、社員が全体感を把握したり、求められる到達レベルを目指して自己研鑽したりするのに活用されています。

管理職準備グレードが受講する「ヒューマンアセスメント研修」。

日本エス・エイチ・エルに委託している「ヒューマンアセスメント研修」は、管理職準備グレードに昇格した社員が対象です。この研修の目的は、受講者がリーダーシップや課題解決、企画立案など、管理職となった際に求められる能力の現在のレベルを知り、能力開発目標を定めることです。受講者は、ファクトファインディング演習(情報収集を通して真実を見抜き、課題解決をする演習)や、部下との対話のロールプレイ演習、プレゼンテーションの演習などを行った後、自身の今の能力や特徴について、日本エス・エイチ・エルのアセッサーから個別にフィードバックを受けます。

昇格者はプレーヤーとして実績を残してきた社員です。今後は、自分だけでなく周囲を巻き込んで組織を成長させていく意識を持ってもらい、今後求められる能力、今の状態とのギャップ、自分の管理職としての強みや弱みを考えてもらう機会にしています。アセスメントを、自分で認識している自分と他者から見た自分との違いを知り、あるべき姿とのギャップを認識するための“きっかけ作りの場”として位置づけています。

管理職準備グレードが受講する「ヒューマンアセスメント研修」。

受講者からは、「今までで一番疲れた研修だ」、「この年齢になってこんなにダメ出しされることはない」といったコメントが多く寄せられます。日常の業務で弱点を直接指摘されることは少ないので、この体験を成長の糧にしてもらいたいと思っています。また、「自分では手ごたえのあった課題で弱みを指摘され、改善すべき点を把握できた」「自分でも認識していない強みや弱みを知ることができた」などの前向きな声も少なからずあり、“気づき”を得ている実感があります。アセスメント結果は上司である部店長にも共有されますが、「弱みが丁寧に解説されているので、今後の育成に役立てたい」などの所見が寄せられています。

育成の今後の課題はジョブローテーション。 個人と組織の両面から「戦略的人事」を進めたい。

人材育成に関して完璧はありません。今後は、社員一人一人の能力、資質、職務経験、キャリアビジョンを踏まえた育成のため、戦略的なジョブローテーションを一層推進していく必要があると考えています。また、個人の能力開発だけでなく、疲弊しているチームがあれば、新しい人材を投入することで活性化させることも重要です。現場の事情や需給バランスなどが障壁となり、ジョブローテーションが社員や組織にとってベストではないケースもあると思います。タレントマネジメントシステムのリリースも間近に控えており、情報の一元化により、より戦略的な人事を行うための体制を整えていきたいと考えています。

2019年、みずほ銀行が出資比率を大きく引き上げ、旧興銀リースからみずほリースに商号を変えて、名実ともにみずほ系中核リース会社となりました。大きな転換期を迎えています。このことでビジネスチャンスが格段に拡がり、即戦力としてのキャリア採用を大幅に増やしています。

旧興銀リースを象徴する形容詞は「堅実」でした。安定している時代なら大きな強みですが、足元の環境は決してそうではありません。現在、challenge、change、createの「3C」を会社の行動指針にしています。変化するため、新しいものを生み出すための起点となるのはチャレンジだと考え、特に重要視しています。

採用に当たっては、「自律」と「多様性」を重視しています。新人と中途入社社員が現場に刺激を与えることで、チャレンジの推進・浸透が加速していくことを期待しています。

また、会社全体としてチャレンジを推進していますが、管理職の中には大きなチャレンジをするのにまだ慣れていない社員もいると思います。ミドルマネジメントの意識や行動を変えていく為には、心理的安全性の確保も欠かせないと思います。

課題は単純ではなくリンクしているので、関われる業務領域が幅広いのはありがたいことです。人事でチャレンジしたいことはまだ沢山ありますね。

私にとって、日本エス・エイチ・エルは「プロ集団」というイメージです。アカデミックで、自社のポリシーがあって、良い意味で迎合しない、プロ意識の高い集団という感じでしょうか。先述の通り、みずほリースはまさに変革のタイミングです。あまり範囲を限定せず、人事領域全般について総合的なお話をしていければと考えています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

畔取 祐介

教育研修制度を改革していく中で、自己理解を能力開発のための重要な機会と再定義され、管理職準備グレードへの研修(アセスメントとフィードバック)を継続いただいたことは、決して単なる継続ではなく、意味と価値の再定義という点で大きなChangeでした。
また、アセスメントを継続してきたおかげで蓄積してきたデータの分析と活用が可能となりました。今後はデータを活用して、貴社のタレントマネジメントの最適化に貢献したいと考えております。横山さんのビジョンの実現に向けて微力を尽くします。

三菱自動車工業では、キーポストのサクセッションプランを作成し、パフォーマンスとポテンシャルの両軸により人材を発掘、評価し、動機づけや研修などの次世代リーダー育成プログラムを実施しています。その全容をご紹介します。

※本取材は2021年3月に行いました。ご担当者の役職およびインタビュー内容は取材時のものです。

三菱自動車工業株式会社

事業内容

(1)自動車及びその構成部品、交換部品並びに付属品の開発、設計、製造、組立、売買、輸出入その他の取引業。
(2) 産業用エンジン等及びその構成部品、交換部品並びに付属品の開発、設計、製造、組立、売買、輸出入その他の取引業。
(3)中古自動車及びその構成部品並びに交換部品及び付属品の売買。
(4)計量器等の販売。
(5)損害保険及び自動車損害賠償保障法に基づく保険の代理業。
(6)金融業。
(7)前各号に付帯関連する事業。

業種

自動車製造業

従業員数

14,407人名〔連結 32,171名〕(2019年度末現在)

インタビューを受けていただいた方

有吉 晋作 様

三菱自動車工業株式会社
人事本部 人事戦略部 マネージャー(タレントマネジメント)

インタビューの要約

次世代リーダー人材の不足、育成における透明性や中長期的視点の欠如などの課題を背景に、アライアンスへの加入のタイミングでタレントマネジメントを開始。
タレントマネジメントの主体となる人事諮問委員会を設置、キーポストのサクセッションプランを作成、人材の評価を行うキャリアコーチなどを軸にした、次世代リーダー育成施策を実施。
今後実現したいのは、若手世代からリーダーが育つ土壌の整備と、各部門人材育成との連携により、将来のビジネスリーダー育成に取り組む、全社的なタレントマネジメント。

次世代リーダー人材の不足感を背景に、 アライアンスのタレントマネジメントに参画。

私は購買部門でのバイヤー業務、生産管理部門での生産計画・物流の業務を経験したあと、かねてより希望していた人事部に異動しました。工場の人事業務、本社での新卒採用のマネージャー業務を経て、現在は人事戦略部に在籍し、タレントマネジメント領域を担当しています。

タレントマネジメントが導入された当時、複数の課題がありました。一つ目は、将来の経営を担うリーダー人材の不足感。経営的に堅調でなかった時期もあり、やや受け身の判断をするリーダー層のスタンスが強くなっていました。二つ目が、優秀人材の囲い込み。人員管理を徹底する中で、各部門はパフォーマンスの高い優秀人材ほど抱え込む傾向にあり、育成が停滞する傾向がありました。三つ目は、人材育成における透明性の欠如。客観的なファクトに基づく人選ではなく、特定の上長が主観的にリーダーを選ぶような形で人材育成がされていました。四つ目が、中長期視点の欠如。短期的に成果を出せる人材をリーダーとして選出しており、リーダーとなってからの活躍ポテンシャルが加味されていませんでした。

これらの課題を背景に、2016年にはルノー・日産アライアンスに加入し、三菱自動車もアライアンスのタレントマネジメントに参画することになりました。アライアンスのパッケージでタレントマネジメントを導入できたこともあり、比較的短期間でスムーズな導入を果たしました。

ここからは、タレントマネジメントの具体的な導入施策を紹介します。

1.人事諮問委員会の発足

タレントマネジメント活動の主体となる、人事諮問委員会を発足しました。経営陣がメンバーで、そこにアドバイザーとしてキャリアコーチ、事務局として人事が参加します。人事諮問委員会では、後述のサクセッションプランを議論し、後任候補としてノミネートされた方を次世代リーダー候補人材として特定します。

2.サクセッションプランの作成

議論の土台となるサクセッションプランについて紹介します。当社は、経営上重要なポストをキーポストとして特定しています。このキーポストのサクセッションプランを、キャリアコーチと各部門のトップ、現任者が共同で作ります。キャリアコーチは、このサクセッションプラン作成にあたり、候補者と繰り返し面談を行って、人物の評価をします。社内だけでサクセッションプランを作成すると人材パイプラインが枯渇することもあるため、Buy(採用)、Borrow(出向)などによりパイプラインの充実化に努めています。

3.次世代リーダー候補人材の発掘

パフォーマンスとポテンシャルの両軸で評価します。ポテンシャルの評価の1つは、キャリアコーチとの日々の面談です。奥底にある志の高さなどの評価軸をもとに、5年以内にNext Postに就けるかどうかを基準にポテンシャルを評価していただきます。また、SHLのアセスメントもファクトデータとして活用し、英語などの必須能力も確認します。こうしたポテンシャルとパフォーマンスの両面で認定した人材に対し、施策を行っていきます。

4.経営陣とのクロスインタビュー

施策の一つに、経営陣と次世代リーダー候補人材のクロスインタビューがあります。これは一見地味に思われるかもしれませんが、私はもっとも効果的な施策の一つと考えています。タレントマネジメントを一から始めるなら、まずここから始めることをお勧めします。次世代リーダー候補人材の中でも厳選した方に対して、経営幹部との1on1の面談機会を提供します。最大の目的は、経営幹部に人材をモチベートしていただくこと。話題は、現在・過去の業務、修羅場経験、将来のプランなど様々ありますが、最終的には必ずEncourage(激励と、支援の約束)していただく点をお願いしています。このような地道な声掛けや、経営幹部と話す機会を得たという特別感は、モチベーション形成の面で非常に重要と捉えています。

5.各部門・各拠点への展開

三菱自動車本体の中でも部門ごとに諮問委員会、サクセッションプランを議論する場を作っていますが、同時に海外の各拠点にもキーポストのサクセッションプランを議論する委員会を設定しています。現在、ASEAN拠点を中心に人事諮問委員会を展開しています。まずは各拠点で完結するように委員会を開催していますが、今後は拠点間の人材交流や合同研修が実施できればと思います。タレマネは人材流動の比較的激しい海外の方がむしろ受け入れられやすくニーズも高いので、導入はスムーズに実施できています。

6.リーダーシップ・ディベロップメント・プログラム(LDP)の導入

リーダーシップ・ディベロップメント・プログラム(LDP)は、約半年間、計12日間の研修です。リーダー人材の基礎ビジネススキルやマインドセットの獲得を目的にしています。次世代リーダー候補人材やその候補者を中心に、部門・キャリアコーチの推薦によって、プログラム対象者を決定します。研修でのアクションラーニング、職場での実践をハイブリッドにしたプログラムです。経営層の課題認識やアセスメントの傾向を通じて見えてきた、当社のリーダー人材の弱みの部分を取り上げ、強化しています。研修の効果測定は難しいですが、短期的には研修で学びを得た項目のインプット状況を確認し、中長期的には今後この研修を通してリーダーがキーポストに任命されていくことが、研修成果の一つと考えています。

7.グローバル・キャリア・ディベロップメント・プログラム(GCDP)の導入

最後に、海外の短期派遣プログラムである、グローバル・キャリア・ディベロップメント・プログラム(GCDP)を紹介します。従来、海外拠点の現地語を学ぶ語学研修プログラムがありましたが、現地でのジョブと連動させた武者修行プログラムを加え、2020年度から新たに募集・選抜・派遣を行いました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、海外への渡航が限定されましたので、これから状況を見ながら実施数を増やしていく予定です。リーダー人材の属性として、キャリアの早期に海外経験をしている方は非常に多く、次世代リーダー候補人材の上位層では70%以上が海外赴任、駐在経験があります。経験の濃密さという観点で、リーダー育成に適しているプログラムと考えています。

導入後の課題と、潜在的な問題。

これらの施策の導入後、浮き彫りになった課題があります。まず、人材育成のための理想的なキャリアパスが実現しないことがありました。この点について掘り下げると、根本的にリーダーが育つ土壌ができていないという問題に行きつきます。優秀人材の抱え込みという課題もありますが、より日常のレベルまで踏み込むと、「(自身の)志は何か?」を社員に考えてもらう研修機会や、上司による日々の問いかけ、寄り添いも不足していたのではないかと思います。こうした環境が備わらないと、人材パイプラインが充実せず、リーダー育成が頭打ちになってしまうことが予想されます。

キャリアパスの実現のためには、上司と部下が相互に協力して高め合う環境を作り上げ、また各部門間でも人材の情報を共有し、現場での育成配置につなげてもらうなど、実態との乖離を埋めていく工夫が必要だと感じています。

今後は、一番下のジュニア世代から、全社でDevelopment Cultureを作ることがポイントだと考えています。まず新入社員~3年目あたりまでオンボーディングを行い、社会人の土台を作る。次のステップでは、事業部門においていずれかの専門性を身に付けることを目指し、高いパフォーマンスを発揮してもらう。その中から一部をマネジメント層に育て、さらに情熱を形成し高めたうえでビジネスリーダーを作り上げる、という育成の流れをイメージしています。

今後の展望としては、人材育成の道筋として部門のキャリアパスを充実させるべく、自動車メーカー特有のバリューチェーンを活かし、関係性の強い部門間での異動を仕組み化し、期限付きの異動やローテーションを整備することで、人材育成に寄与できればと考えています。他部署で人間関係を構築できる効果もあり、ストレッチアサインメントにも繋がりやすくなるはずです。また、管理職になってからのジョブローテーションは、組織のパフォーマンスを一時的に落としてしまうリスクもあるので、キャリア早期での育成目的異動を計画的に実施しておくことが組織開発面でも有効です。

その他にも、キャリア開発のPDCAを回す施策として、上司が部下を育てるためのスキル、例えばキャリア研修や1on1研修などを提供したいです。また、部門とのタレントレビューの機会をつくり、各部門にも人材の情報を共有することで、ストレッチアサインメント、ジョブローテーション等、部門の中での人材育成につなげていくことを考えています。

これから変革期を迎える自動車メーカーの中で、社会課題の解決に向けて新しい価値を提供できるリーダーの育成に貢献したいです。部門が10年先を見てビジネスを考えているなら、人事はさらにその先の20年先を見て人材育成のアシストをする必要があり、その点が人事の付加価値であり存在価値だと思いますので、そういう人事になりたいです。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 課長

横山 武史

多くの企業が次世代リーダー育成の重要性を認識していますが、それを仕組み化している企業は多くありません。三菱自動車工業はアライアンスのパッケージがあったとはいえ、異例の早さでタレントマネジメントを導入しました。私は三菱自動車工業にタレントマネジメント部が発足した2017年から本件の導入支援を担当させていただきました。この経験での学びは「まず始めてみることの大切さ」です。自社用に調整しながら速やかに導入し、今もなお改善を繰り返しています。
現在は、人材のポテンシャルを測定するアセスメントと、アセスメント結果をフィードバックするキャリアコーチのトレーニングをご提供しておりますが、これからは有吉さんのおっしゃる20年先を見据えたタレントマネジメントに貢献できるよう取り組んでまいります。

導入事例

学力テストから適性テストへ。「くもんの先生」としての活躍の可能性を見極める、公文教育研究会の採用改革。

学力テストから適性テストへ。「くもんの先生」としての活躍の可能性を見極める、公文教育研究会の採用改革。

「くもんの先生」の特徴を、アセスメントデータで分析。学力を計る採用テストから、くもんの先生としての活躍の可能性を見極める採用へと舵を切った、公文教育研究会の取り組みをご紹介します。

※本取材は2021年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社公文教育研究会

事業内容

算数・数学、英語、国語(母国語)、フランス語、ドイツ語、日本語、書写、学習療法などのフランチャイザーとしての教材の研究開発、制作、指導法の研究、ならびに教室の設置・運営管理。児童書、絵本などの出版および教具、知育玩具など教育関連商品の開発ならびに販売。

業種

教育業

従業員数

KUMONグループ全体 4,091人(2021年3月現在)

インタビューを受けていただいた方

清原 久嗣 様 / 出口 恵子 様

株式会社公文教育研究会
教室ネットワーク推進部 リクルート・育成サポートチーム(写真左)
教室ネットワーク推進部 リクルート・育成サポートチーム(写真右)

インタビューの要約

コロナ禍で「くもんの先生」の採用活動をオンライン化することをきっかけに、「くもんの先生」としての活躍の可能性をより明確に把握できるよう、従来の採用テストの内容を見直した。
活躍するくもんの先生の人物像について社内のヒアリングを実施。実際の業務と紐づけてイメージできるよう面接サポートツールを整えた。
これまで利用していたテストを変更することに現場(以後、事務局)の担当者は戸惑いも少なくなかった。事務局へフィードバックするため、まずはモニターとして一部事務局で先行実施。「使ってみたら良かった」の声を各事務局に広げていった。
実施の結果、面接が行いやすくなった、教室開設後のサポートまでイメージできるようになった等、前向きな声を得ることができた。今後の展望は、運用面の継続的な改善と、先生の開設後のサポートに活用すること。

コロナ禍で「くもんの先生」採用をオンライン化。
これをきっかけに、現行の採用テストを見直す。

私たちの業務は、「くもんの先生」の募集、採用サポートです。面接は全国にある事務局で行いますが、私たちは募集の施策立案や、説明会に使うパンフレットや動画の作成、面接に用いるツールの案内等、採用業務のサポートをしています。

コロナ禍をきっかけに、これまで紙で実施していた「くもんの先生」の採用テストをオンライン化することを検討しました。従来のテストは来社が難しい方への利便性が低く、また面接後同日に実施するためテストの結果を面接に活用できないという点がありました。

また、学力を中心に測るものでしたが、テストのオンライン化をきっかけに、より応募者の強みや業務遂行能力を把握し、教室開設後のサポートにも、よりつなげていきたいと考えました。

「くもんの先生」としての活躍の可能性は学力だけでは測れない。
くもんの先生の特徴をアセスメントデータで分析するとともに、 社内ヒアリングを実施。

私たちはまず、すでに教室を開設している「くもんの先生」へのモニターテスト受検を実施し、それと同時に、社内のヒアリングによりくもんの先生としての活躍のイメージを改めて明文化し、これをパーソナリティ検査の結果と紐づけていきました。

データ分析によって見出された結果を、「活躍のイメージ」と結びつけ、先生の実際の業務内容に結びつけていくのに時間がかかったのですが、ここがイメージしづらくては実際のサポートに活用できないと考え、丁寧に検討をしました。

その後は、日本エス・エイチ・エルのコンサルタントに協力いただき、この適性テストを面接の中でどのように活かすか、というツールを作成したり、仕組みを整えていきました。

「くもんの先生」としての活躍の可能性は学力だけでは測れない。<br>くもんの先生の特徴をアセスメントデータで分析するとともに、 社内ヒアリングを実施。

採用のテストの変更には戸惑いの声も。
本格実施の前にモニター運用し、 「使ってみたら良かった」の声を集めていった。

一方で、数十年にわたり使用してきた従来の採用テストを変えることに事務局の担当者からは戸惑いの声がありました。私たちは、そのような戸惑いの声に対して、より「くもんの先生としての活躍の可能性」を見極め、開設後のサポートにもつなげていくためにも、学力を測るテストから今回の適性テストに変えることにした理由を伝え続けてきました。

テストの運用について事務局からのフィードバックを受けるため、全国リリースの前に、一部の事務局で実際の応募者に対しモニター実施を行いました。すると、事務局の担当者から良い反応がたくさん得られたのです。モニターの事務局の担当者から、「実施してみたらよかったですよ!」と、これから使用する事務局にも伝えてもらいました。私たちが伝えるだけでなく、実際に応募者に使用した声を伝えていくことで、これから使う方にも具体的なイメージを持ってもらえることを実感しました。

まだ全国展開したばかりなので、全体での効果検証はこれからですが、先行実施を進めてきた事務局の担当者からは、事前のwebテストの実施で、より応募者の強みを深堀りできるようになったという声を多くもらっています。また、質問内容が明確になったという声、開設後のサポートをよりイメージしやすくなったという声もありました。さらにオンライン化したことで、応募者の方が参加しやすくなった、という効果もありました。

今後実施したいことは、webテスト運用状況の把握と改善、テスト結果を開設後のサポートに活用するための情報提供、採用時に把握した応募者の強みを教室開設のマッチングに生かすことです。今後の分析次第でより強みを生かし、より可能性を発揮できると思っています。

日本エス・エイチ・エルの良いところは、当社のこだわりや大事にしている部分を理解しようと努力してくださるところです。価値観を共有しながらプロジェクトを進められたので、本当にありがたいと思っています。また、これまで感覚でしか描けなかった人材像をデータで表せるということに手ごたえを感じました。これからの分析もお付き合いいただければと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

仲家 可帆

今回のプロジェクトは、くもんの先生採用テストのオンライン化に伴い、くもんの先生としてのパフォーマンスを予測することのできるテストに変更したいというご相談をいただいたことからはじまりました。当初はテストのみのご提案でしたが、データ分析結果を基に採用基準や選考内容全体の見直しについてもご支援させていただき、私自身もやりがいを感じるプロジェクトでした。
「これまで長くやってきた方法だから」「この方法に慣れているから」という理由でやり方を変えない選択をされる方も多い中で、今回数十年やってきた採用テストや選考内容を変えることは相当大変なことであったかと存じます。ですが、今回のプロジェクトを実施したことによってくもんの先生として適性のある人材が今までよりも多く採用され、より多くの子ども達の学力向上につながると思っております。
くもん教室の発展や先生方のやりがいへの貢献のため、引き続きご支援させていただきます。

ゲオからセカンドストリートへの事業ポートフォリオの転換を推進するゲオホールディングス。リユース事業であるセカンドストリート800店舗体制に向けて、人数を確保することに加え、質を担保すべく、活躍する店長の要件定義を行いました。

※本取材は2023年3月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社ゲオホールディングス

事業内容

メディア、リユース、モバイル、オンラインサービス事業

業種

小売業

従業員数

従業員数:5,314名(グループ全体)

インタビューを受けていただいた方

高橋 知寿 様

株式会社ゲオホールディングス
組織開発室 組織開発課 マネジャー

インタビューの要約

成熟したレンタル事業から成長しているリユース事業へと事業ポートフォリオの転換を行うために、リユース事業のセカンドストリートを800店舗まで増やすことを目指していた。
活躍する店長の特徴を明らかにするため、人事データ分析を行った。全社員のパーソナリティ検査結果から10タイプに分類し、そこに評価データを組み合わせて、最終的に3つのタイプを事業部と協議の上、採用ターゲットとして決定した。
人員要望書を作成し、異動・登用プロセスの標準化に着手。
今後の課題はターゲット人財を確保していくこと。また、変化し続ける事業に適応できる組織であり続けるため、未来を見据えた要員計画にも取り組んでいる。

経営戦略、事業戦略に必要な人財を供給する。

私は、2006年4月にゲオにアルバイトとして入社し、店長やエリアマネジャーを経験した後、2017年10月に人事に異動しました。人事への異動当初は、人事データを分析してほしいと言われていましたが、人事本来の役割とは何なのか疑問を持っていました。自分なりに書籍やセミナー、他社の方々と話していく中で、人事の役割は事業に必要な人財を用意すること、という答えにたどり着きました。この時、人事がどのように事業に貢献できるのかが分かって、モチベーションが高まりました。当時、会社としては、リユース事業であるセカンドストリートの800店舗体制を目標として掲げ、事業ポートフォリオの転換を目指していました。そのため、セカンドストリートで活躍できる人財を増やすことを目的にデータ分析を行うことにしました。

経営戦略、事業戦略に必要な人財を供給する。

活躍する店長の特徴をデータ分析で明らかにする。

まずは、どのような人が店長として活躍しているのかを明らかにすることが必要と考えました。日本エス・エイチ・エルのコンピテンシーデザインコースで学んだ、カードソートというインタビュー手法を使って、当時のセカンドストリートの責任者にヒアリングをしてコンピテンシーモデルを作成いたしました。また、OPQのデータを活用して、クラスター分析にて10タイプに分類を行い、タイプ別のハイパフォーマーの人数や割合がどのようになっているのか確認したところ、特定のタイプにハイパフォーマーが多く分布している点や、店長・エリアマネジャー・ゾーンマネジャーと役職が高くなるほど、割合が増える傾向が明らかになりました。事業部と作成したコンピテンシーモデルと比較すると共通点が多く、事業部と協議し今後の採用ターゲットに決定いたしました。

当時800店舗体制を目指し、年間50店舗規模の出店を計画、人事主導の採用は「量」が重視されていた中、「質」の視点を示すことができました。

データ分析の経験を異動・登用プロセスに活用。

2020年4月に人事異動の担当となりました。当時は各部門からどのようなオーダーがあったかといった過去の記録があまり残っておらず、異動に関する相談先も担当者だったり、マネジャーだったり、ゼネラルマネジャーとバラバラなことで人財要件が曖昧だったり、追加で確認が発生しながら人事異動が行われている状況でした。そこで、人員要望書(職務記述書のようなもの)を作成し、なるべく要件に合った人財を各部門に配置できるように環境を整えました。

要件がより明確になったことで、データ分析の経験も活かし、より要件に合った候補者の選出が出来るようになったこと、エラーが発生した場合でも何が良くなかったのか振り返りが可能になったこと、追加確認が少なくなったことにより、業務効率を高めることができました。

2023年2月に発表した通り、セカンドストリートは800店舗を達成し、中期的に1000店舗体制を目指しております。正直に申し上げると、当社に応募してくれる方々からターゲット人財に該当する人を量・質ともに継続的に採用し続けることは挑戦的なことで、今までの母集団形成や選考方法の仕組みを変えていく必要があると考えています。

また、未来の要員計画に取り組んでおり、店舗のみならず、間接部門の重点職種においても、将来どのような人財がどれくらい必要なのか、今どのような人財がいるのか、どのようにギャップを埋めていくのか、課題解決に取り組んでおります。日本エス・エイチ・エルは、相談がしやすく伴走してくれる会社だと感じています。我々の課題を解決するために、今後もご支援いただきたいと思っています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング3課 主任

内田 敬己

高橋さんは、「ビジネス」を前提とした人事を考え実行されているすごい方です。ただ、「考えて実行する」ために、様々な知識を獲得し続け、困難な社内外の交渉調整業務を乗り越えられている様子が垣間見え、ご苦労も多かったのではないかと拝察いたします。こちらからの各種ご提案に対して「そうはいっても実際のところ」をご教示いただけたのは何よりの学びになっております。約10年間、担当する中で数々の貴重な経験をさせていただき深く感謝しております。引き続き、有効な関わり方ができるよう当社として気を引き締めて対応させていただきます。

導入事例

ソフトウェア技術者へリスキリング。デンソーの「キャリア転進プログラム」

ソフトウェア技術者へリスキリング。デンソーの「キャリア転進プログラム」

モビリティ社会において、一層大規模化・複雑化するソフトウェア開発。
不足するソフトウェア技術者を社内人材の職種転換によって育成する「キャリア転進プログラム」についてご紹介します。

※本取材は2023年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです

株式会社デンソー

事業内容

自動車技術、システム・製品の製造

業種

自動車部品製造業

従業員数

連結 167,950人、単独 45,152人(2022年3月末現在)

インタビューを受けていただいた方

広瀬 智 様
増子 敬 様

株式会社デンソー
電子PF・ソフトウェア統括部 ソフトキャリア支援室 室長 (写真右)
電子PF・ソフトウェア統括部 ソフトキャリア支援室 (写真左)

インタビューの要約

モビリティエレクトロニクス事業においてソフトウェア技術者に対するニーズが質・量ともに高まる一方、社内にはスリム化が求められる事業もある中、社内で職種転換を行う「キャリア転進プログラム」が立ち上がった。
推薦と社内公募を併用し、応募者にeラーニングと適性検査WebCABを実施。その後、ソフトウェア開発の基礎研修を行い、仮配属期間を経てソフトウェアの開発現場へ送り出している。
プログラム開始から約2年が経過し、現在は年間100名弱を輩出するペース。転進者の中には、目覚ましい活躍をしている人材もいる。
リアリスティック・ジョブ・プレビューも含め、ソフトウェア技術者として現場で活躍できる人を見極める精度を引き続き高めていく。今後もソフトウェア技術者に求められるスキルは変化するため、教育内容をアップデートし、組織の要請にこたえていきたい。

高まるソフトウェア技術者へのニーズに対応するために、社内人材の職種転換をサポートする「キャリア転進プログラム」。

私たちの所属するモビリティエレクトロニクス事業グループでは、ソフトウェア開発の規模がどんどん拡大し複雑化していく中、ソフトウェア技術者の不足が深刻化しています。一方、モノづくりの事業は非常に成熟しており、今後、電動化が進んでいく中でスリム化が必要な事業もあります。そこで双方の課題を解決するための一つの手段として、社内での職種転換「キャリア転進プログラム」の検討を始めました。20年7月にソフトキャリア支援室が組織化され、準備期間を経て、2021年1月から本格的にプログラムの運営を開始しています。

このプログラムは、社員のキャリア自立・自律と開発を支援する「キャリアイノベーションプログラム」における、継続的な学習を支援する「リカレントプログラム」の一部として位置づけています。「キャリアイノベーションプログラム」は、ソフトウェア技術者をいかに質と量の両面で強化していくかという課題へ対処するために作った仕組みです。デンソークリエイトに在籍していた頃に培ったノウハウを活かしつつ、デンソーの課題に即した形にしています。まずソフトウェア技術者のスキルを可視化しました。そこから社員が自らキャリアを描き、学び続け、活躍することを支援します。プログラムにおいては、ソフト技術者としての適性を見極めるために、日本エス・エイチ・エルのオンラインアセスメント(WebCAB)も利用しています。

高まるソフトウェア技術者へのニーズに対応するために、社内人材の職種転換をサポートする「キャリア転進プログラム」。

「キャリア転進プログラム」で、未経験者のポテンシャルを見極め、基礎教育を行い、実戦配備する。

「キャリア転進プログラム」の当初は組織の推薦だけでしたが、なかなか人数が増えなかったので、社内の公募制度も併用しています。応募者はハードウェア技術者だけでなく事務職も含みます。

応募者にはソフトウェア技術のリテラシーを向上するためのeラーニングとオンラインアセスメントを実施しています。オンラインアセスメントは、すんなりとソフトウェア的な技術を身につけられるというより、ソフトウェア的な考え方ができる人かどうかを見極める必要があると考えたためです。オンラインアセスメントとしてはWebCABを活用して、ソフトウェア技術者の適性を判断しています。そして、やる気と適性のある人に2カ月半の教育研修を行います。統計分析の結果、WebCABの得点と研修で実施するプログラミング言語テストの得点との強い相関が確認できています。また、結果リポートはご本人にも通知し、能力開発に役立てもらっています。

教育内容は、新人と同様にソフトウェア技術者として最低限必要なものだけにしました。このプログラムではソフトウェア技術者として共通に必要な基礎を学んでもらい、部門や製品によって必要な技術や知識は少しずつ異なるので、それらは配属後にOJTで学んでもらいます。

また、研修後、すぐにソフトウェアの現場でやっていけるかは分かりませんので、仮配属期間を設けて実際の業務を体験します。私たちもフォローして、本人と配属先がやっていけそうだとなったら正式に配属します。配属先は、会社のリソース計画をもとにいくつかの部署を提示します。その中で本人の希望も踏まえて決定します。応募から配属までに約半年で行っています。

年間約100名のソフトウェア技術者を輩出。活躍する社員も。

プログラム開始から約2年が経過し、現在は年間100名弱を輩出するペースです。プログラム出身者のなかには際立って活躍している人がいますし、いろいろなソフトウェア分野のイベントでもキャリア転進プログラム出身の方が出ていたりします。潜在していたソフトをやりたい人がその仕事に就けて活き活きと活躍されている様子を見るとよかったなと思います。そういう機会を提供して活躍や成長していくことに携われているのは1つのやりがいですね。

一方、途中で「やっぱり厳しいね」となる人もいます。華やかな仕事を思い描いて現場に入ると、思っていたのと違うと頑張れない人もいます。やってみて「こんな仕事だと思わなかった」となるとお互いに不幸になってしまうので、厳しいけれどもやりがいのある世界をよく理解してもらおうと説明していますが、それでも「やっぱり現実は違った」となる人はいます。ゼロにはできないとは思いますが、減らすことが課題です。仕事環境の大きな変化は誰にとってもストレッサーです。加えてプログラム参加者の職位が高い場合、受け入れ側がリーダークラスとしてのパフォーマンスを期待してしまい、それがプレッシャーになるケースもあります。どうケアするかを検討しています。

また、今後もソフトウェア技術者に求められるスキルは変化するため、教育内容をアップデートし、組織の要請にこたえていくことが必要になると考えています。

日本エス・エイチ・エルのアセスメントはデンソークリエイト在籍時の人材可視化から活用しており、人の特性を計測する仕組みとして信頼しています。今後は自社と業界平均との比較をしたいですね。また、プログラミングとマネジメントという主要な点だけでなく、様々な職種への適性を見極めたいと思っています。特に開発全体を見て指南していく人材である、ソフトウェアアーキテクトなどは、もともと素質がないとできない職務です。どんな人材か、日本エス・エイチ・エルの診断ツールで絞り込めたらと期待しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

松波 里奈

ソフトウェア技術者の獲得は様々な企業で喫緊の課題です。その中でも今回は、高い専門性が求められる技術者の自発的な職種転換という先進的なお取組みに参画させて頂けましたこと、大変有難く思っております。「年間100名弱のソフトウェア技術者を輩出」という成果は、広瀬様、増子様がアセスメントデータの活用に留まることなく、キャリア自律促進のための前向きかつ挑戦的な取組みを続けたことによるものと感じております。今後もアセスメントの活用に留まらず意見交換させて頂き、効果的なタレントマネジメントの立案と運用のために尽力いたします。

導入事例

学生のWill(意志)を尊重し、「選び、選ばれる関係」を目指す、住友商事の新卒採用。

学生のWill(意志)を尊重し、「選び、選ばれる関係」を目指す、住友商事の新卒採用。

応募者のキャリア観の変化に合わせて、配属先確約型のWILL選考を採り入れた住友商事。
同時に自社をよりよく理解してもらうための様々な取り組みを行いました。

※本取材は2024年7月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

住友商事株式会社

事業内容

全世界に展開するグローバルネットワークとさまざまな産業分野における顧客・パートナーとの信頼関係をベースに、多様な商品・サービスの販売、輸出入および三国間取引、さらには国内外における事業投資など、総合力を生かした多角的な事業活動を展開。

業種

総合商社

従業員数

5,152人(連結ベース79,692人)

※2024年3月31日時点

インタビューを受けていただいた方

佐々木 亮 様

住友商事株式会社
HR企画戦略部 フューチャータレントアクイジションチーム チーム長

インタビューの要約

学生の立場に立った広報施策の実行と初期配属先を確約する選考形式で多様な応募者の惹き付けをはかった。
面接を構造化し、面接官にはロールプレイを含むトレーニングを実施。面接受験者から面接体験アンケート結果を回収し、面接のさらなる質の向上に取り組む。
今後も、採用広報・選考・オンボーディングにおいて、十分に自社の魅力を伝えられるように試行錯誤と挑戦を続ける。科学的なトラッキングも実施したい。

ポテンシャルの高い人財を獲得し、その力をアンロックする

住友商事は2019年に創立100周年を迎えました。そのタイミングでリリースされたコーポレートメッセージが「Enriching lives and the world」です。住友商事グループの社員一人ひとりがこの言葉を抱きながら、世界中で日々業務に励んでいます。

そして、当社の人財戦略では、“Unlock Your Power“という言葉を掲げています。変化が激しく複雑で予測のつかないビジネス環境下において、多様な知識・経験を持つ社員一人ひとりが、これまで以上にエンパワーされ、Enriching lives and the worldの実現に向けて夢中になる職場で、新たなビジネス創出や課題解決にあたることを追求しています。

このような考え方の下、新卒採用とキャリア採用のベストミックスで採用活動を行っています。数年前までは新規採用の大半が新卒採用でしたが、ここ数年でキャリア採用者数もかなり増加してきています。
新卒、キャリアに関わらず、当社の未来を支える能力、ポテンシャルの高い挑戦意欲に溢れる人財に入ってきていただき、それぞれが持っているパワーをアンロックし、最大化する。そういうことをこれから更に加速していきたい、と考えています。

ポテンシャルの高い人財を獲得し、その力をアンロックする

応募者のニーズをとらえた施策を実行、「選び、選ばれる関係」を目指す

さて、ここからは当社が新卒採用において抱えている課題と打ち手についてご紹介させていただきます。

まず、我々として抱えている課題感としては、「学生のキャリア観が大きく変化してきていること」、「ミスマッチを減らすこと」、「女性管理職比率向上させること(2030年に20%が目標)」、「自社の実態とイメージの乖離を払しょくすること」、「新たな事業を創っていける人財を獲得すること」等があります。

このような課題に対し、私たちの求める人財がもつニーズに対して何ができるかを考えてスピーディに実行し、結果として応募者の方と当社が「選び、選ばれる関係」になることを目指してきました。ここでは具体的に行った取り組みを3つご紹介します。

1.Sumisho Career Seminar
主に女性の求職者にターゲットを絞ったSumisho Career Seminarというセミナーを実施しました。Web形式のセミナーで、女性の人事執行役員と若手社員がパネルディスカッション形式で仕事、働き方、キャリア、プライベートについてざっくばらんに語ってもらうイベントです。一部の学生にとって、総合商社業界は、「ハードワーキング」「体育会」「男社会」というような古いイメージがまだ残っており、ハードルが高いと感じてしまう方が少なくないようです。そのようなイメージを払しょくしたい!そして、もっと女子学生にもご応募いただきたい、という想いから企画しました。セミナー当日は、非常にカジュアルな雰囲気でトークが展開され、当社の魅力や女性社員が活躍しているイメージがよく伝わったようで、セミナー後のアンケート結果を見ても、大変好評な企画になりました。

2.Sumisho Radio
学業や課外活動、アルバイト等、大変お忙しい日々を過ごしておられる学生の皆さんは、所謂「タイパ」を意識して効率的に就職活動をされています。そこで、我々としても、限られた時間の中でも当社のことを効率的に上手く伝えることができないかと考え、Sumisho Radioというイベントを企画しました。こちらもWeb形式のセミナーで、学生の隙間時間であろうランチタイムや放課後の時間帯を狙って開催しました。セミナーは、若手採用担当者数名が掛け合いをしながら、セミナー中にリスナー(学生)から投稿される質問にリアルタイムで回答するというイベントです。リスナーは、必ずしも画面を見る必要はありません。隙間時間に耳だけ傾けていただくことで、当社のこと、就職活動の進め方、キャリアに対する考え方等の情報を効率よく入手いただけたのではないかと思います。こちらの企画も非常に評判が良く、視聴者は平均で毎回300人程度、その中で数多くの質問が寄せられました。結果的に複数の内定者からもSumisho Radioを視聴していた、という声を聞きましたし、良い企画になったと考えています。 なお、この企画は、当時入社一年目だった採用担当者が提案してくれたものです。やはり、「若い人の気持ちがわかるのは若い人だな」とあらためて実感する機会となりました。

3.WILL選考の導入
冒頭でも少し触れましたが、昨今、学生のキャリア観や会社選びの基準は変化してきていると感じます。私は十数年前も当社で新卒採用を担当していたのですが、その頃の当社への学生の志望動機の多くが「グローバルな環境で働きたい」「スケールの大きな事業に携わりたい」「経営者になりたい」といったものでした。一方で近年は、「入社して、具体的にどのような仕事をしたいか」が明確な方が増えてきています。当社でも、一部の学生からは「入社後、自分の希望とは異なる部署に配属されるのではないか」と思われ、所謂「配属リスク」を危惧して、最終的に他社を選ばれてしまうということはこれまで少なからずありました。 そこで、25卒向けの新卒採用より、学生の意志(Will)を尊重した形での、配属先決め形式の採用選考方式である「WILL選考」を導入しました。現場の理解や選考運営の複雑化等、様々な困難はありましたが、結果としてこれまで十分にリーチできていなかった応募者層(理系大学院生等)にも多くご応募いただくことができ、当社の新卒採用活動にも非常にポジティブなインパクトをもたらしてくれたと実感しています。今後の課題としては、募集部署それぞれの募集内容について、情報提供をさらに充実させることだと考えています。25卒のWILL選考では、応募人数は部署によって濃淡があり、イメージが先行して魅力を伝えきれていないと感じる面がありました。

面接の構造化と応募者アンケートで質の向上を目指す

「面接の質の向上」に向けた取り組みについても少し紹介させていただきます。25卒新卒採用では面接官への案内について一部内容の変更を行いました。当社では今まで、「総合商社で活躍してくれるポテンシャルを持った人財」を選んでもらうよう面接官には案内していました。多様な人財に入ってきていただきたい当社にとって、以前のガイドも決して悪かったとは思いませんが、評価基準が曖昧であるという課題感がありました。そこで、25卒からは評価軸を明確に定め、面接の進め方のガイドをより具体的にしました。所謂、面接の構造化です。また、面接官予定者については原則全員に事前の面接官トレーニングを受けてもらっているのですが、そのトレーニングの中で、ロールプレイを導入、その時間を長く取る等の変更も行いました。

加えて、新たに選考受験者向けの面接体験アンケートを導入しました。面接後すぐのタイミングで、第三者機関から面接を受けてくださった学生へアンケートを発信、無記名で答えていただくもので、面接の雰囲気等に関する質問が含まれています。結果はまだ分析中ではありますが、当社の面接における改善すべきポイントのようなものも見えてきている気がしますので、この結果を今後の面接官へのガイド等にも活かしていければと考えています。
応募者の皆さんは貴重な学生生活の一部を使って住友商事に会いに来てくださっていますので、当社での面接の時間が有意義な時間となってもらえればと強く思います。面接の質の向上に向けた取り組みは、引き続き積極的にチャレンジしていきます。

面接の構造化と応募者アンケートで質の向上を目指す

社会の変化とともに、新卒採用を取り巻く環境もどんどん変化していますので、今後もトライアンドエラーを繰り返しながら、様々なチャレンジを積極的にしていきたいと思っています。
採用広報活動と選考活動の領域では、当社のビジネス、仕事、キャリアについて、今よりもっと学生の皆さんに理解いただけるような取り組みを行うこと、当社ならではの独自性をより効果的に伝え、求職者を惹きつけるブランディングを展開すること、そして、行った活動の成果を可能な限り定量化してPDCAを回していきたいと考えています。なお、ちょうど今月(2024年7月)にインスタグラムの公式アカウントを開設しました。我々の新たなチャレンジです。こちらでも採用関連の情報を積極的に発信していきます。

オンボーディングの領域では、内々定から入社までの間の情報提供をさらに充実させて、内定者にとって当社で働くことの解像度を高めてもらえるような取り組みを検討しています。

また、今後の大きな課題の1つとして、これまで蓄積しているOPQデータの活用があります。今は採用選考時の参考資料のひとつという位置づけですが、採用時のデータが入社後にどうなっているか科学的にトラッキングする、初期配属のマッチングをより合理的に行う、要員配置計画の参考にするなど、様々な場面で活用できるのではないかと考えています。実際にどのようなことができるかエス・エイチ・エル様と相談しながら模索していきたいです。

エス・エイチ・エル様の当社担当の清水様は非常に真摯で信頼できる人だと感じています。以前、選考でとある相談をした際に、率直かつ丁寧なアドバイスをしてくださったことがとても印象的でした。良いことも悪いことも当社のために伝えてくれるありがたい存在です。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

清水 智昭

2025年卒の新卒採用活動は住友商事様にとってチャレンジングな年だったと思います。キャリアセミナーや入社1年目の採用メンバー発案によるSumisho Radio、WILL選考や新たな採用クールの実施、面接精度向上の施策。求職者のニーズに寄り添いつつ、人財戦略の達成に向けた新たな試みの数々は、常に新鮮な取り組みを実施していこうとするスタンスを強く感じます。
OPQデータの科学的な活用を通じて、住友商事の活動を最大化(Unlock your power)できるように今後もご支援してまいります。

導入事例

「経営理念を体現できる人財」を獲得へ。SMBC日興証券の挑戦。

「経営理念を体現できる人財」を獲得へ。SMBC日興証券の挑戦。

様々な応募者の志向に応える部門別採用を採り入れているSMBC日興証券。
経営理念の価値観を体現できる人財を獲得すべく、部門別採用の新たな挑戦と求める人財像の再定義を行いました。

※本取材は2024年7月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

SMBC日興証券株式会社

事業内容

金融商品取引業。資産運用コンサルティング業務、投資銀行業務、セールス・トレーディング業務、リサーチ業務など

業種

証券業

従業員数

9,251人(2024年6月30日現在) 

※SMBC日興証券単体

インタビューを受けていただいた方

吉原 淳一郎 様

SMBC日興証券株式会社
人事部 第一人事課 採用担当リーダー

インタビューの要約

経営者から機関投資家まで、幅広い顧客を支援するための様々な職務がある。採用チームのメンバーの多くが新卒採用・中途採用を兼任し、シームレスに事業に必要な人財を確保している。
部門別採用とオープン採用を併用。専門性の高さへの期待から高専卒採用も実施。
経営理念をベースに採用要件を見直し、面接官を増員。
今後はデータ活用を一層進めていくと共に、リクルーター増員で学生の業務理解をより深めていく方針。

経営者から機関投資家まで様々な顧客の支援に必要な人財を確保する

私は2010年に入社し、金融市場マーケティング部で債券を扱う業務や投資銀行部での大手企業向けのフロント業務などを経て、2019年に人事部に異動となりました。その後は人事評価や人事異動、そして人事関連施策の企画に携わり、2023年より新卒・キャリア採用及び採用企画を担当し、今春からは採用担当リーダーとして新卒・キャリア採用を統括しています。

SMBC日興証券の社員数は約9,250名で、100を超える部署があります。大別すると、直接お客さまと関わるフロント部門である「リテール」「投資銀行」「グローバル・マーケッツ」の3つ。投資家や経営者、上場企業から機関投資家までサポートやコンサルティングを行っています。そしてフロントを支えるミドルバック部門である「クオンツ」「システム」「コーポレート」の3つとなります。採用においても、部門別に採用するコースを用意しています。インターンシップやワークショップも部門別に行い、各部門の社員(以下「部門社員)の協力の下でそれぞれの業務内容を体験し理解を深めてもらうイベントを実施しています。

経営者から機関投資家まで様々な顧客の支援に必要な人財を確保する

採用人数としては、投資への社会的な関心の高まりもあり、目標人数を確保できています。新卒の割合が多く24年4月には約300名が入社しました。通年採用を行っており、数は多くありませんが10月入社者もおります。中途は従来60-70名でしたが、昨年より積極的に取り組んでおり、約100名を採用しました。新卒は6~8名、中途は4~5名の採用担当者がおりますが、新卒とキャリア採用を兼任しているメンバーが多いという点が当社の特徴です。

オープン採用と部門別採用に加え、高専卒採用を開始

10年以上前に始まった部門別採用は、現在では5つの部門別採用とオープン採用を合わせて全8つの募集コースがあります。最も採用人数の多いオープン採用は、各人が様々なキャリアを構築していくことを前提としており、金融のプロフェッショナルを目指す働き方ができるコースです。初期配属は主にリテール部門となります。オープン採用の中でも特徴的な点は、25卒採用から追加した高専卒採用コースです。入社後は、IT・デジタル等の業務のみならず、幅広い業務に従事していただくことを想定しています。もともと、当社のオープンイノベーションチームが行っているイノベーター人財創出のエコシステムを目指すプログラム「高専インカレチャレンジ」で、高専生と接点があり、高専生の専門性の高さを評価していたため、このプログラムをきっかけに高専卒採用に挑戦しようと考えました。本取り組みは、当社が掲げる「人財ポリシー+1」内の「継続的な人財投資」に基づいており、人事担当役員も含めて全関係者が「やってみよう」と前向きであったため、導入が実現しました。

「経営理念を体現する人財」へ評価項目の見直しと部門社員の動員拡大

選考フローは比較的スタンダードで、エントリーシート提出後にweb適性検査実施、その後複数回の面接を経て内定、となっています。選考に関しては2点工夫しました。1つ目は評価項目の変更です。私自身も選考活動を行う中で評価項目や求める人物像をより明確にしたいという意識があり、採用計画を策定する中で求める人物像を「経営理念を体現できる人財」と再定義しました。経営理念の中に5つの価値観がありますが、日本エス・エイチ・エルの協力のもとで、5つの価値観に近いコンピテンシーは何か、限られた面接時間で確認すべきコンピテンシーは何かの優先順位付けを行いました。

もう1つは部門社員の活用です。コロナ後、部門社員が面接官になるのは部門別採用だけでしたが、オープン採用でも部門社員に面接官を務めてもらうことにしました。入社後、上司になるかもしれない課長や支店長と接することが応募者の動機形成につながるためです。面接経験の有無にかかわらず、面接官をお願いする部門社員に対して、事前の面接官トレーニングを行いました。新たな評価項目の説明も含め、面接実施のポイントを資料にまとめてレクチャーしました。レクチャーにあたっては、事前に人事部メンバーで受講した日本エス・エイチ・エルの面接官トレーニングが大変参考になりました。

「経営理念を体現する人財」へ評価項目の見直しと部門社員の動員拡大

今後の採用活動に向けて取り組みたい課題は2点あります。1点目はデータ活用で、よりデータに基づいた採用活動へのシフトです。アセスメント結果だけで合否を決めるのではなく、最後は人が判断するものですが、アセスメントデータを積み重ねて様々な検証を行いたいと考えています。日本エス・エイチ・エルの協力で、これまでに自社社員のアセスメントデータ取得とパーソナリティ傾向の把握はできました。より包括的かつ頻繁に人財データを取得し、採用や育成に活用していきたいです。2点目はリクルーター施策の充実です。部門社員にリクルーターとして協力してもらうことで応募者との接点を増やし、会社と業務の理解促進に努めたいと考えています。当社社員は採用活動に協力的な方が多く、今回面接官をお願いできなかった社員から「面接に協力したかった」という声もありました。今後も会社の未来を創る採用活動の重要性を社内に伝えていきたいと考えています。

日本エス・エイチ・エルは、共感・納得できるアドバイスを的確にしてくれるパートナーだと感じています。担当コンサルタントの関さんはとても頼れる方で、安心してディスカッションをしたり、提案をお聞きしたりすることができました。また、必要な情報を濁すことなく率直に伝えてくれる点も評価させていただいており、多くの学びを得ることができました。今後も当社の採用の形や進め方は変化していくと思いますので、末永くご協力いただきたいと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

関 麻奈美

採用活動の根幹となる求める人財についてご相談いただけたことを大変ありがたく思います。「経営理念」というある種抽象的な概念を採用のコンピテンシーに落とし込むのは一筋縄ではいかず、何度もディスカッションをさせていただきました。結果、価値観が合致している内定者を採用できたことは大変嬉しく、プロジェクトが成功したことに安堵しております。VUCAの時代、採用への考え方はこれからも年々変化することと思いますが、状況に合わせたご提案とサポートを引き続き行ってまいります。