今年最も読まれたコラムトップ10
今年、最も読まれたコラムトップ10は以下の通りです。- 適性検査の見直しにも!SHLの採用適性検査シリーズとその違いを一挙ご紹介(玉手箱Ⅲ、GAB、CAB、RAB、その他)
- 「万華鏡30」を能力開発に活用する方法
- 管理職に求められる情報整理能力と問題分析能力
- 管理職登用・昇格試験に利用できるアセスメントツール
- ゲーミフィケーションとゲームベースアセスメント(後編)
※後編はゲームベースアセスメントについて述べていました。 - マネジャー&シニアマネジャーノルム搭載!アセスメントツール「万華鏡30」
- 経営層・管理職のパーソナリティ傾向
- データ分析における主観性と客観性 ~シンプソンのパラドックスとデータ・インフォームド~
- 内定者への適性検査のフィードバック
- ハイポテンシャル人材にはどのような経験が必要か
なんとコラムトップ10のうち、半数がリーダー層に関わるテーマでした。

リーダーがカギを握る
過去数年のパンデミック、急速に発展するテクノロジー、グローバルな政情不安などを背景に、私たちを取り巻く世界はパラダイムシフトが起こりつつあります。ビジネスの世界でも組織は様々な未知の課題に直面しており、中心となって組織を動かすリーダー層はかつてないほど重要になっています。リーダーの役割の重要性を再認識する局面を迎え、人事・組織課題としてリーダー層の強化という潮流の一端がランキングに表れているのかもしれません。当社でも、新時代のリーダーシップをテーマにエンタープライズリーダーシップというモデルをご紹介しています。変化が加速する世界で、変化に対応する新たなリーダーがカギを握ることになるでしょう。
おわりに
日本エス・エイチ・エルは、2023年、今年TOBによりSHLグループの完全子会社となり、組織として大きな変化を迎えた1年でした。SHLグループの専門的かつ洞察に富む人事領域の知見を、皆様によりタイムリーに提供しお役に立ちたいと思います。来年もどうぞよろしくお願いいたします。はじめに
今の時代に理想的なリーダーとはどのような人だと思いますか?今までに様々な学者がリーダーシップに関する膨大な研究を行ってきました。本当にたくさんのリーダーシップモデルが存在する今日、リーダーシップは多様であるためリーダーの置かれた環境に最適な行動をとることが最も優れたリーダーシップの発揮方法と考えてしまうのが最適解かもしれません。リーダーも適材適所と私は考えています。
さて、これからご紹介するエンタープライズリーダーはSHLが定義した新しい時代のリーダーシップモデルです。エンタープライズ・リーダーシップとは何か、なぜ今エンタープライズリーダーが求められるのかご説明いたします。
エンタープライズリーダーとは
エンタープライズリーダーとは、SHLが定義する新しい時代に求められるリーダーのことです。新しい時代といっても未来のことだけを言っているのではなく、大きく素早い変化の渦中にある現在に求められるリーダーを指します。定義は次の通りです。エンタープライズリーダーとは、個人の業績目標を達成し、他者の業績向上に貢献し、他者の業績から力を引き出し、チームにも同じことをするよう促すリーダーです。
エンタープライズリーダーは自分の担当領域だけでなく他部門を含めた企業全体に貢献し、加えてチームが自チームの業績だけでなく他チームを含めた企業全体に貢献できるようにします。
複雑さを増す環境
今、世界中で働く人々の意識が変化しています。大きな影響を与えた出来事は新型コロナウィルスの世界的流行です。リモートワーク、多様性、公平性、包括性、帰属意識、意義、目的を仕事や職場に求める動きが世界中で起きています。SHLの調査は、これらの変化がリーダーに以下の影響を及ぼしたと報告しています。・意思決定をするために、多くの同僚や部下とコンセンサスを築かなければならない
・責任範囲が広がり、部下の専門知識に頼らざるを得ない
・不慣れな人間関係に対して新しい組織文化を浸透させなければならない
・チームの日常を見ることができないため、メンバーを完全に信頼しなければならない
・指示をしなくても、メンバーが自律的に動けるようにしておかなければならない
・メンバーがお互いに指導や支援、能力開発し合う文化を築かなければならない
加えて、多くの企業が今のリーダーに対して以下3つの問題意識を持っていることがわかりました。
1. 組織の将来ニーズに対応する準備をしているリーダーが少ない
2. 経営・事業レベルのコラボレーションを主導できるリーダーが少ない
3. 自部門だけでなく会社全体を考慮して意思決定しているリーダーが少ない
これら調査結果を踏まえ、今日のリーダーに求められる役割行動を次の通り要約しました。

今日のリーダーに求められる10の役割行動
リーダーに求められる役割行動は10あり、三つのグループに分類できます。一つ目はビジョンを描き戦略を立てることに関するもの。以下の5項目です。
1)長期ビジョンを設定する。革新性と創造性を発揮し、「what-if」を問う。
魅力的なビジョンを描き、みんなの共感と賛同を得ることが重要です。リーダーがどのように世界をよくしていきたいかをメンバーは知りたがっています。
2)楽なことより正しいことをする。意味、目的、理由を明確にする。
パーパス経営という言葉が流行っています。ポストコロナの現代において、儲かるだけの会社では選ばれません。どのような存在意義があり、どのように社会に貢献するための組織なのか。そしてその社会貢献のあり方は正しいものなのかを人々は見ています。
3)人々を組織の目的に結び付け、みんなの考え方を変える。
各従業員の価値観、人生観、キャリアプラン、生活環境、個人的事情などと組織方針や戦略を結び付けることによって、全メンバーの意欲を引き出し、適材適所の配置によって才能を引き出します。すべての従業員を生かす組織の在り方を示すことでみんなの考え方は変わっていきます。
4)事業の戦略的意図を浸透させる。
いくら優れた戦略を立案しても、全メンバーが戦略を理解していなければ何の意味もありません。笛吹けど踊らずの理由は、これがうまくできていないからです。
5)組織文化を明確にして、行動と価値観のモデルを示す。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレド、アマゾンのプリンシプル、ネットフリックスのカルチャーデックは有名な成功事例です。多くの企業でミッション、ビジョン、バリューを持っていると思いますが、行動規範としては抽象度が高いものが多いように感じます。バリューを実践するためのコンピテンシーがあれば、具体的な行動モデルを示すことができます。
二つ目は戦略を実行することに関するもの。以下の3項目です。
6)積極的に意思決定し、組織課題の解決策を見出す。
リーダーは速やかに意思決定しなくてはなりません。環境の変化が早く大きいからです。意思決定のタイミングを逃せば、問題解決はより困難さを増します。小さな組織課題が組織戦略を崩壊させるきっかけとなる可能性もあります。
7)権限委譲し、信頼する。インクルーシブアプローチに従い、共創する。
権限移譲できなければ、大きな組織をリードすることは不可能です。また多様性を受け入れるだけでなく、積極的に活用することがイノベーションを生みだす起爆剤となります。同質なメンバーによる密室での議論、リーダーによる独裁的な決断が、世界をゆがめていく様子を私たちはよく知っています。
8)人の成功を支援し、人を通じて成果を出す。
マネジメントの本質は「人をして事をなさしむ」です。執行型のリーダーとしての役割を端的に述べています。
三つ目は人との関りを作り出すことに関連するもの。以下の2項目です。
9)人を鼓舞し説得することで、社内外でパートナーシップを築く。
リーダーはその権限によって部下に対する支配力を持つと考える人がいますが、おそらくその人は自分が部下をマネジメントした経験がないか、部下をコントロールできていない人です。人は権限に従うのではありません。ビジョン、情熱、勇気、誠実さ、優しさ、感謝、知性などを示すリーダーの人の魅力に従うのです。真のリーダーは組織のヒエラルキーや権限に関わらず、社外であっても同じように影響力を行使できます。
10)変化への順応性と開放性。組織の枠にとらわれず、外部の人と関わる。
今いる従業員だけで対応できる変化だとしたら、その変化は些細なものです。現在起こっている環境変化は、組織に対して新しい能力、知識、技術を求めます。外部の人とのコラボレーションを抜きにして環境変化に対応するイノベーションを生み出すのはかなり困難なことと言えるでしょう。
エンタープライズ・リーダーシップの役割とコンピテンシー
最終的にSHLはエンタープライズリーダーの役割を四つに要約し、それらの役割遂行に求められる12項目のコンピテンシーを定義しました。役割の一つ目はリーダー・タスク・パフォーマンス。自分自身のタスクを遂行し、目標達成する役割のことです。二つ目はリーダー・ネットワーク・パフォーマンス。他の人の業績を改善し、その人に貢献してもらうことで自分の業績を向上させる役割。三つ目はチーム・タスク・パフォーマンス。チームが自らのタスクを遂行し、チーム目標を達成できるようにする役割。最後がチーム・ネットワーク・パフォーマンス。チームが他部署の業績を改善し、その他部署に貢献してもらうことでチームの業績を向上させられるようにする役割。つまり自らがリーダー・ネットワーク・パフォーマンスでやっていることをチームに求めること。

これらの役割を遂行するために定義された12項目のコンピテンシーは変革、執行、ネットワークの3グループに分類されています。以下の通りです。
1.変革のためのリーダーシップコンピテンシー
方向性を示し、変化を促すために他者を鼓舞する。組織の使命、文化、戦略を形成し、組織全体に変化を促し、期待以上のパフォーマンスを発揮できるよう、他の人々の意欲を高める。
・創造と構想
・交流とプレゼンテーション
・指導と決断
・進取の気性とパフォーマンス
2.執行のためのリーダーシップコンピテンシー
戦略を効率的に実行するために従業員を組織し、指揮する。目標を設定し、業績を監視し、社員の仕事を管理し、報酬を分配する。
・分析と解釈
・適応と対処
・支援と協力
・組織と実行
3.ネットワークのためのリーダーシップコンピテンシー
組織内外の幅広いネットワークを構築し、連携させ、有効化することで、強力なネットワーク・パフォーマンスを確立する。
・ネットワークの構築
・ネットワークの活性化
・相互依存の創造
・ネットワークの有効化
おわりに
以上がSHLのエンタープライズ・リーダーシップです。エンタープライズリーダーは理論的に優れているだけでなく、実際に売上と利益の成長率にプラスの影響を与えることがSHLの調査でわかっています。個人として優れたリーダーよりも、優れたエンタープライズリーダーはネットワークの力を使って、企業の業績を向上させることができるのです。この調査についてはまた別の機会でご紹介いたします。また、今回ご紹介したエンタープライズ・リーダーシップはパーソナリティ検査OPQによって測定できます。ご興味のある方はお問い合わせください。 今回は、現状のリーダーシップを取り巻く環境を概観するとともに、ハーバード・ビジネス・レビューの記事からそのヒントになるモデルを簡単にご紹介します。
リーダーの取り巻く環境の変化と課題
リモート/ハイブリッドな働き方、多様性、包括性、帰属意識の高まり、意義ある仕事や目的の探求など、世界中の職場で変化が起きています。リーダーシップにも大きな影響を与えており、その環境はかつてないほど複雑です。SHLグループの調査によれば、‐61%のリーダーが協議すべきステークホルダーが増えている
‐85%のリーダーの責任が増している
‐58%のリーダーが地理的に離れたチームを管理している
‐50%のリーダーが直属の部下との時間が減っている
また、現状のリーダーは次の状況であり、リーダーシップの過渡期と考えられます。
-75%の事業部門は、組織の将来的ニーズに対応する能力をもつリーダーがいない
-自社のリーダーが強いコラボレーションを推進する力があると考える人事部長は10%しかいない
-自社のリーダーが組織全体のニーズを考慮した意思決定を行っていると考える人事部長は38%しかいない
「Collective Genius 」から「Scaling Genius」へ
新たなリーダーの役割のヒントとして、2022年のハーバード・ビジネス・レビューの記事「What Makes a Great Leader?」を一部要約・抜粋して取り上げます。当該記事では、前段として過去のリーダーシップ研究であるCollective Genius(集合的/集団的天才)について紹介しています。書籍「Collective Genius」(2014)によれば、過去20年にわたり日常的にイノベーションを起こせる組織を構築したリーダーについて実地調査をした結果、次のようなリーダー像が浮かび上がりました。それは、イノベーションは一人の天才が「ハッ」とした閃きで生まれるものではなく、誰もがその才能と情熱において「一片の天才」的要素を持っており、それを解き放ち活用することで、革新的なソリューションを開発できると信じていることでした。彼らは、ボトムアップの創造性、自発性、即興性を支援する一方で、構造、業績評価基準、保護的な施策を確立することで、大きなリスクテイクを最小限に抑え、人々の足並みを揃えるという、イノベーションのパラドクスを見事に管理していました。また、革新的な問題解決への障壁を取り除き、「コミュニティ文化」と呼ぶ、メンバーが共通の目的、共有する価値観、そして共創の基盤となる相互関与のルールによって結ばれる文化を築きました。
このCollective Genius 1.0と呼ぶべき発見ののち、著者らは更なる研究を続けた結果、成功したリーダーたちはさらに次の特筆すべき点が浮かび上がりました。それは、革新的な組織作りだけでなく、組織の垣根を越えて共創できるネットワークやエコシステムも構築できていたという点です。Collective Genius2.0ともいえる、Scaling Genius(天才の拡大)という新たな側面に焦点をあてました。

新たなモデル:リーダーシップのABC
Scaling Geniusと著者らが表現するリーダーの機能は次の3つです。研究によればこれらの役割が今後リーダーにとって求められるといえそうです。Architect(設計者)
第一線で働く従業員から経営幹部に至るまで、組織内のすべての人が意欲的にイノベーションを起こせるような文化や能力をリーダーが創造する必要があります。研究では、リーダーシップスタイル、タレント(人材)、組織構造、オペレーションモデル、ツールの5つの手段を使って、アーキテクトとして組織を設計、構築、進化させ、長期にわたってイノベーションをサポートしています。これらの組み合わせにより、創造性を制限する障壁を取り除き、共創に必要なマインドセットと行動を構築しています。
Bridger(橋渡し)
リーダーが組織内の機能、地域、事業部門を越えてイノベーションを促すことは難しく、まして社外の人と緊密に連携することは非常に困難です。しかし、それこそがブリッジャーの役割なのです。単一の部門、事業部、会社の中では見つけることのできない才能やツールへのアクセスを体系的に獲得することが役割であり、リーダーはブリッジャーとして、組織、部門、業界、地域を超えて、相互に信頼・影響・コミットメントを促す社会的なつながりを構築しなければいけません。
Catalyst(触媒) ※物事を促進させるという意味合い
イノベーションには、時に、より広範なエコシステムの中で、個人やグループが組織から独立して共創を行う必要があります。アイデアをより早く成果につなげるために、リーダーはカタリストとして複数間のコラボレーションを促進し、加速させる必要があります。リーダーは組織が捕えられている相互依存の”網”を能動的に管理し、関係性をマッピングし、キーとなる人々に活力を与え活性化させる役割を担わなければなりません。目的達成のため、他の組織にこれまでとは異なる働きをするよう促すのです。
新たなリーダー像の模索
本コラムでは割愛しましたが、今回ご紹介した記事には具体的な事例も紹介されており、Catalystの一例として日本企業の全日本空輸(ANA)の新事業、avatarin株式会社も紹介されています。複雑化する社会では、社内の横断的なコラボレーションだけでなく、幅広く社外も含めて協業を推進できるリーダーが求められます。はじめに
タレントマネジメントの文脈で退職というと主に退職防止(リテンションプログラム)が話題になります。しかし、企業による退職、解雇がタレントマネジメントの文脈で話題に上がることはほとんどありません。タレントマネジメントは経営事業戦略を遂行するための人に関するあらゆる取り組みのこと。そしてタレントマネジメントの本質は適材適所です。適していない人を外し、適した人を置くことが適材適所だとすると外された人はどうなるのか。もちろん、その人に適した場所に行くのです。タレントマネジメントが生まれた米国ではその適した場所は主に他社です。つまりここで解雇が行われます。ジョブ型雇用では異なるジョブへの異動は原則ありません。
一方、日本では従業員を安易に解雇できません。また、日本においても人材の退出を無視したままタレントマネジメントを進めていくことは困難です。5年ほど前、日本の大手自動車メーカーが行っているハイポテンシャル人材プログラムの事例を当社主催の勉強会で、当事者である人事担当者に発表してもらったことがあります。その際に多くの参加者から次のような質問が出ました。「当社では重要なポストの空きが出ないためハイポテンシャル人材に修羅場経験を積ませる環境を与えることができない。どのようにハイポ人材のための重要ポストを確保しているのですか?」この質問に対する発表者の回答はコラムの最後にお伝えします。
本コラムでは、日本における解雇を概観し、タレントマネジメントのための人材退出をどのように進めるべきかについて述べます。

日本における解雇
解雇とは使用者による一方的な労働契約の終了です。理論上、法律と解雇権濫用法理に抵触しない解雇は可能なのですが、厳格なルールに基づく手続きが必要であり、極めて困難と言わざるを得ません。企業の戦略変更に伴う解雇や低業績者の解雇はできないと考えておくのが現実的です。
日本の解雇は整理解雇、懲戒解雇、普通解雇の3つがあります。それぞれがどのようなものかは以下、東京労働局労働基準部のパンフレットからの引用をご覧ください。(注1)
・整理解雇
会社の経営悪化による、人員整理を行うための解雇
次の4点をいずれも満たすことが必要です。
① 整理解雇することに客観的な必要があること
② 解雇を回避するために最大限の努力を行ったこと
③ 解雇の対象となる人選の基準、運用が合理的に行われていること
④ 労使間で十分に協議を行ったこと
・懲戒解雇
従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行ったときに懲戒処分として行うための解雇
就業規則や労働契約書にその要件を具体的に明示しておくことが必要です。
・普通解雇
整理解雇、懲戒解雇以外の解雇
労働契約の継続が困難な事情があるときに限られます。
これら3つに加えて会社が退職を促す退職勧奨があります。以下、厚生労働省のWebサイトから引用します。
・退職勧奨
退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「辞めてほしい」「辞めてくれないか」などと言って、退職を勧めることをいいます。これは、労働者の意思とは関係なく使用者が一方的に契約の解除を通告する解雇予告とは異なります。(注2)
日本では解雇された従業員が裁判をおこせば解雇無効と判断されるケースが多く、企業は解決金によって和解することになります。企業は裁判コストと解決金の支払い、加えて企業イメージの棄損という負担を強いられるため解雇しにくい状況が生まれているのです。

どのように行うか
キャリア自律支援を制度として行う場合、キャリア研修、キャリア面談、自己申告制度、社内公募制、人事異動、副業許可、キャリアカウンセリング、社内ポストの提示などの施策があります。これらの制度を整えつつ、人事や上司と従業員との対話機会を作ります。フィードバック面談、1on1ミーティングなどの定期的な対話の機会にオープンな話し合いをしてください。業務に関する頻繁で適切なフィードバックは、従業員に強み弱みの認識と能力開発を促し、将来のキャリアを考える機会を与えます。職務に影響を及ぼすプライベートを知れば、職務上の制限や条件がわかり、業務の工夫や担当変更、部署異動を検討できます。キャリア意向を知れば現職がキャリア実現のためにどう役立つか、どのようなポストを社内で用意できるか、社外にはどんな仕事があるかを検討できます。
キャリア自律支援を退職マネジメントと明示している企業はほとんどありません。また、退職マネジメントを意識していない企業ほど社員の退職に対して、敏感に否定的な反応をするでしょう。しかし、会社が退職をうまくマネジメントすることは、タレントマネジメントを進める上で避けて通ることができないものであり、実は従業員のキャリア形成に貢献することなのです。
おわりに
従業員の退職をうまくマネジメントすべきという私の考え方に違和感を持たれる考え方もいるかもしれません。しかし、雇用システムの変化、働く人の価値観の変化、人口減少に対応し、企業の競争力を強化する上で必要不可欠なものであると考えています。はじめに述べた自動車メーカーの人事担当者様の回答は以下の通りです。
「当社はハイポテンシャル人材に選抜された人が一定の割合で退職します。他社から引き抜きに合うのです。常に人材不足なのでポスト不足で悩んだことはありません。」
キャリア自律支援が機能している証拠ではないかと思います。
●引用
注1 東京労働局. 「しっかりマスター 労働基準法 解雇編」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/tokyo-roudoukyoku/seido/kijunhou/shikkari-master/pdf/kaiko.pdf, (参照2023-07-23)
注2 厚生労働省. 「労働契約の終了に関するルール」.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html, (参照2023-07-23)
はじめに
激しく環境が変化する今日、未曽有の事態にリーダーはどう立ち向かっていけばよいでしょうか。リーダーは迫りくる想定外の危機から組織とメンバーを救うことができるでしょうか。VUCAの時代に適応できるリーダーを作るため、ハイポテンシャル人材の発掘と育成は、全ての企業における最重要の人事課題です。既にいくつかのコラムで、ハイポテンシャル人材や発掘・育成プログラムについて紹介しておりますが、このコラムではハイポテンシャル人材が真のリーダーとして成長するために必要な経験をどう定めていくかについて申し上げます。
大手メーカーからの依頼
新規事業開発に大規模な投資を行う大手精密機器メーカーから次世代リーダーの発掘と育成について相談を受けました。ご要望は、新時代のビジネスリーダーに求められるコンピテンシーの特定とハイポテンシャル人材が真のビジネスリーダーへと成長するために必要な経験の明確化でした。私たちは現在のリーダー複数名にインタビューを実施して、求められるコンピテンシーとビジネスリーダーとして成長するために欠かすことができない経験を特定することとしました。インタビュイーは、現在の取締役と執行役員の中から次世代リーダーに求める特徴を強く有すると考えられる人材を選抜しました。
コンピテンシーモデリングについては、当社の典型的なインタビュー手法を用いて行いました。ビジョナリーインタビュー、カードソートです。これらのインタビュー手法ついては、コラム「インタビューによる人材要件定義」にご説明がありますので詳しくはこちらをご覧ください。
今日のテーマである重要な職務経験を特定する手法としては、インタビュイーの職務経歴に沿って行うバイオグラフィカルインタビューを用いました。今までのキャリアを振り返り、現在のリーダーポジションを担う上で重要となる一皮むけた経験についての話をうかがいました。インタビューは次のような質問からはじまります。「今振り返って、現在のポジションであるビジネスリーダーになるために重要であったと思うご自身の経験について話してください。」

リーダーシップチャレンジのフレームワーク
インタビューで得られた経験情報を集約するために、SHLグループが持つリーダーシップチャレンジのフレームワークを活用しました。リーダーシップチャレンジのフレームワークとは、リーダーの成否に大きな影響を与える職務上のコンテクスト(背景)とチャレンジの枠組みで、4カテゴリ27項目で構成されています。SHLグループはリーダー選抜の成功率を高めるには、一律のリーダーシップコンピテンシーによる選抜ではなく、コンテクストを考慮した選抜が必要であると考え、2014年から2016年に大規模なリーダーシップ調査を実施しました。この調査に基づいてリーダーシップチャレンジが開発されました。
リーダシップチャレンジの27項目は、コンテクストとリーダー特性との適材適所を目的に開発されたコンテクストのリスト、つまり、リーダーの置かれる環境に関するリストです。各項目の名称は以下の通りです。
1.チームのパフォーマンスを推進する
2.変革をリードする
3.結果を出す
4.リスクと評判をマネジメントする
この調査プロジェクトでは、リーダーシップチャレンジのフレームワークを適材適所に活用するのではなく、実際のリーダーの経験情報を集約するためのラベルとして活用しました。 具体的には、インタビューによって得られたエピソードを分解し、27項目のリーダーシップチャレンジに関連づけていく作業を行いました。
(例:インタビュー記録とリーダーシップチャレンジの関連付け)
Aさんのインタビュー記録抜粋
「環境は急激に変化しており、当社だけではなく1つの産業が丸ごと無くなっていく渦中で仕事をしていた。経営統合後、この事業の構造改革担当となり、全社売り上げの約3割を占め、従業員8,000人が関わる事業の撤退をリーダーとして取り組んだ。2年間かかった。」
→該当するリーダーシップチャレンジ「合併や買収でリードする」
経験調査の結果
この調査によって、調査対象の全リーダーは以下7つのリーダーシップチャレンジを経験していたことがわかりました。● 人材を最大限に活用する
● ネットワークパフォーマンスを向上させる
● グローバル/異文化のチームをリードする
● 新しい戦略を立案し、推進する
● 不確実性が高くあいまいな状況で業務を遂行する
● 製品・サービスの幅広いポートフォリオをマネジメントする
● 共通する業務やサービスを集約して果たすチームをリードする
この会社では結果をコンテクストとリーダー特性とのマッチングのみに使うのではなく、リーダーを育てるためのキーポジションを決めるための基準として活用しています。上記のリーダーシップチャレンジが求められるキーポジションを設定し、ハイポテンシャル人材の戦略的な異動を行うことにより、リーダーシップ開発と多様化を進めています。
おわりに
今回の調査で最も印象深かったのは、調査対象となったリーダーの方々には会社の主力事業・主力市場の出身者がいなかったことです。メインとは言えない小さな事業や小さな市場を担当し、若いうちに実質的な責任者として、事業や製品の全体をマネジメントした経験を持っていました。リーダーを育てるのはリーダーシップを発揮しなければやっていけない責任ある役割なのだということを痛感しました。また、ご紹介したリーダーシップチャレンジのフレームワークは、SHLグループのMobilize Solutionに実装されているものですが、日本語版のリリースは未定(2022年3月現在)です。日本語でリーダーシップチャレンジを活用できるようローカライズを進めたいと考えております。 現在、変化するビジネス環境への対応やイノベーション創出を目的とし、女性活躍をはじめとしたダイバーシティ経営が社会的に推進されています。今回は、女性のリーダーが男性よりも強みを持つ可能性のあるコンテクスト(状況)について、SHLグローバルの大規模な実証研究結果をご紹介します。

近年のリーダーシップについての4つの課題
ビジネス環境の変化と複雑化により、近年リーダーへの要求が高まっています。しかし多くの企業がリーダーのパフォーマンス不足やリーダーシップパイプラインの人材不足に悩んでいます。SHLは、多くの組織でリーダーシップマネジメントが失敗する根本的な原因を4つ 挙げています。① ビジネスにおける変動性と不確実性がかつてないほど大きくなり、典型的なリーダーモデルが機能しない。
② 成功するリーダーの特定・育成には、画一的なコンピテンシーでは不十分である。
③ ハイポテンシャルプログラムにおいて十分に多様な人材を確保することができていない(Gartnerの2016年の調査によると、74%の組織で、ハイポテンシャル層に占める女性の割合が一般層に比べて低い。)
④ データではなく人間の判断に頼ると、暗黙のバイアスを永続させることで多様性が脅かされ、後継者育成に失敗する。
コンテクストを考慮したリーダーシップ実証研究 (2014-2016)
コンテクストとは、職場環境のあらゆる側面のことです。異なるリーダーの特性は、異なるコンテクストでのパフォーマンスに関連しており、コンテクストを考慮することで、リーダーのパフォーマンスの予測精度が上がる可能性があります。SHLとGartnerは、世界25以上の業界を代表する85社の約8,700人のリーダー、5,900人の上司、そして33,000人以上の部下に大規模調査を実施しました。第一線の管理職から最高経営責任者まで、組織のあらゆるレベルのリーダーから、彼らのパーソナリティ、仕事の経験などに関するデータが収集され、リーダーのパフォーマンスは、各リーダーの上司と直属の部下が記入した360度評価ツールで測定されました。
また、リーダーの仕事の状況(コンテクスト)を定義するための調査も行われました。このコンテクストのほとんどは、リーダーが直面する課題を表していると考えることができます。このコンテクストを考慮に入れることで、リーダーの個人特性によるパフォーマンスの予測精度が平均して3倍高まることがわかりました。
コンテクストにおけるリーダーのジェンダーの差異
抽出されたリーダーの27つの課題について、課題解決において正の影響を持つ傾向のある10のパーソナリティ尺度の男女差を示します(下図)。これらの尺度のスコアが高いほど、幅広い課題の中でのパフォーマンスが向上するといえます。男性は「説得性」の平均点が女性より有意に高かったのに対し、女性は「素直」「友好性」「協議性」「几帳面」「人間への関心」「面倒み」の各項目で男性よりも高い点数を獲得しました。

本研究のデータセットでは、ハイポテンシャル層やシニアリーダーシップのポジションに占める女性の割合は、一般従業員層よりも低いことがわかりました。しかし実際には、多くのリーダーの課題において、女性は男性よりも高いポテンシャルを示すことがわかりました。ハイポテンシャルプログラムがさまざまなコンテクストを想定する場合、結果としてより多くの女性がリーダーシップを発揮できるようになるはずです。

まとめ
コンテクストに応じて様々なタイプの個人が活躍できると理解することで、リーダーの選定や育成の際により多様な候補者が得られます。課題に合わせてポテンシャルの高い人材を見極め、より強固で多様性のあるリーダーパイプラインを構築することで、最適な配置が可能になるでしょう。 私はコンサルタントとして5年間小売業界のクライアント(中でも主に店頭販売を主とする企業)を担当してきました。タレントマネジメントについて幅広くご支援していますと、多くの企業で共通する課題が見受けられます。本コラムではそれらの課題および各社の取り組みをご紹介します。小売業におけるよくある人事課題
今回取り上げるよくある課題は2点です。①新卒新入社員の早期退職防止
②優秀な店長の効果的な育成
①新卒新入社員の早期退職防止
早期退職の一因として、「現場の販売員がどのような能力を活かして成果を上げているかを会社がわかっていない」ことが挙げられます。店頭販売は接客業なので、不特定多数のお客様に不快な思いをさせず接することが求められるため「人あたり」が重視されます。しかし、実際の現場で働いている販売員が活かしている能力は人あたりだけではありません。そして、人あたり以外に求められている能力が何かを捉えることが出来ていない場合、採用の応募者に対して仕事に求められる能力を正しく伝えることができず、応募者を正しく選考できず、結果としてミスマッチに繋がってしまいます。
②優秀な店長の効果的な育成
店長育成がうまくいかない要因の一つは、店長と販売員の求められる能力が大きく異なることです。販売員には個人としての販売能力が重要ですが、店長には店舗の売上目標達成、キャンペーンの促進、メンバーの管理を行うためのマネジメント能力が求められます。店長は重要なポジションであるにもかかわらず、販売員を店長へと計画的に育成する仕組みやアセスメントを用いて店長としてのポテンシャルを客観的に評価した上での昇格を導入している企業は少ないというのが実情です。また、店長候補となってもライフイベントのため転勤できない社員が多く、結果的に同じ店舗で長く勤めている人が店長となっています。そのため販売員として活躍していた人が店長になって伸び悩むといった状況が頻発しているのです。
新入社員が早期退職することで、店長候補者が減少し、勤続年数による店長昇格が行われ、役割を果たせない店長が増加し、部下である新入社員が早期退職するという負の循環が発生しています。

各社の取り組み
これらの人事課題に対する各社の取り組みをご紹介します。①早期退職者を減らすために行った新卒採用の改善
この企業は、新卒採用の採用基準と選考方法を見直すことで、早期退職者の減少に成功しました。
採用基準の見直しのため、高評価者のコンピテンシーを特定するための調査を実施しました。この調査では、全販売員にパーソナリティ検査を実施し、販売実績に基づく評価とパーソナリティ検査の各因子得点との相関分析を行い、パフォーマンスに影響を与えるコンピテンシーを特定しました。調査の結果、全体的に「人あたり」と「チームワーク」は高く、高評価の人ほど「統率力」が高く、低評価の人ほど「ヴァイタリティ」が低い傾向が確認できました。売上目標を達成するためには、ハードワークに耐えうるエネルギーと顧客に積極的に働きかけるための影響力が必要でした。

② 優秀店長の育成
この企業は、店長を計画的に育成するために次期店長選抜育成プログラムを導入しました。このプログラムは、店長の人材要件定義、候補者の選抜と育成、店長への登用を含む一連の取り組みです。
店長職の人材要件定義では、全店長にパーソナリティ検査を実施して、評価とパーソナリティ検査の各因子得点との相関分析を行い、パフォーマンスに影響を与えるコンピテンシーを特定しました。
選抜においては、販売員の中から評価と転勤可否、コンピテンシーポテンシャルを考慮して店長候補者を選びます。育成は座学と実践で行います。実践では一時的に店長の役割を体験できる業務を割り当てることにより、経験による学習を促します。そして十分な実践訓練を積んだ人を店長に登用します。


おわりに
各社ごとに、求められるコンピテンシーの重要度、適切な育成と登用は異なります。特に求められるコンピテンシーは商品やサービス、顧客層などにより変化しますので、ぜひ読者の皆様も自社の調査をしてみてください。 小売業はコロナ禍の影響を強く受けました。インバウンド消費の獲得をビジネスの中心に据えていた企業の損失は計り知れません。一方でDXにより急成長を続ける企業もあります。今後は他社とのコラボレーションが促進され、ビッグデータの活用により、消費者の私生活まで入り込み、来店せずとも個に合わせた提案をする新たな価値の提供が求められるでしょう。我々は今後も顧客企業の発展に貢献していきます。 日本企業の人事担当者に自社のタレントマネジメントの取り組みについてたずねると、十中八九「次世代リーダーの選抜育成」の話になります。タレントマネジメントの定義として最も知られている米国ATD(Association for Talent Development)のタレントマネジメント構成要素では、採用、能力開発、定着、後継者計画、組織開発、キャリア計画、パフォーマンス管理、アセスメントの8つが示されていますが、日本の人事担当者がタレントマネジメントを語る時に採用やパフォーマンス管理、離職防止(定着)を話題にすることはあまりありません。
これはタレントマネジメントの定義に対する認識の違いに起因するのではなく、発生している問題の重要性に対する認識の違いに起因しています。

メンバーシップ型雇用とタレントマネジメント
採用、パフォーマンス管理、離職防止は日本企業にとって重要ではない、と申し上げるつもりは毛頭ありません。そもそも日本企業と一括りにすること自体が乱暴な行為ですし、重要度は会社によって異なります。ここで申し上げたいのは、日本で一般的なメンバーシップ型雇用の会社にとって、これらのタレントマネジメント課題がどのように見えるのかについてです。メンバーシップ型企業の採用は新卒採用中心です。年功序列の会社、職能資格制度や成果主義評価制度を年功的に運用している会社にとって新規学卒者採用は低賃金で大きな伸びしろのある人材を一度に大勢獲得する絶好の機会です。人材の流動性が低い日本においては、中途採用で優秀な人を採用したくても、労働市場にお目当ての人が少なく、出てきたとしても報酬が高すぎで採用しづらいという事情もあります。多くの人事担当者は自社の新卒採用を問題はあるが最善のやり方と考えています。
対するジョブ型雇用システムの企業の採用は欠員補充の経験者採用が中心です。新卒採用のように一定期間に大勢の応募者を募り、選考するわけにはいきませんので、常に候補者と個別のコミュニケーションをとり続けます。SNSを活用した採用が活性化しているのは個別対応に適した方法だからです。
メンバーシップ型企業にとってのパフォーマンス管理は育成の一環です。社員が目標達成できるようにマネジャーが様々な環境整備や支援、指導を行います。この時、人事は社員本人を見るのではなく、マネジャーの指導力・コーチング力に注目します。その社員が目標達成できることより、どんな社員が来ても目標達成に導くことができるマネジャーの育成を重視しているからです。
ジョブ型企業にとってもパフォーマンス管理は重要です。業績によっては解雇の可能性があるからです。文字通り社員のパフォーマンス向上のための取り組みであり、マネジャーの育成力を議論の対象にはしません。
次は離職防止についてです。メンバーシップ型企業が社員に提供する価値は定期昇給と雇用保障です。雇用契約自体が離職防止をねらっていますので、改めて離職防止策を打つまでもありません。特定の事象が原因の一時的な退職や一定の経験年数を越えた際の退職の増加が発生するかもしれませんが、大勢に影響はありません。一方、ジョブ型の社会では社員が自らの処遇を高めるために転職するのは普通のことです。したがって企業は優秀社員を引き留めるための離職防止施策が不可欠です。
日本企業のタレントマネジメントはどうして次世代リーダーの選抜育成なのか
メンバーシップ型雇用システムの特徴である新卒採用、終身雇用、内部教育、内部昇進、ジョブローテションは全て自社内で活躍するゼネラリストを育成するための仕組みです。多くの日本企業は自社に最適化された経営幹部を選び育成するための仕組みを持っており、長く運用してきた実績があります。ゼネラリスト育成においてはメンバーシップ型企業に一日の長がありそうです。しかしながら、近年の大きな経営環境の変化のなかで、従来のゼネラリスト育成ではVUCA時代をリードする経営リーダーを作ることはできないという危機感をグローバル企業は持ち始めました。この20年間の日本企業の国際的な存在感の低下を見れば当然の危機意識です。そこで、タレントマネジメントの導入が検討されました。
タレントマネジメント施策の一つである次世代リーダー発掘育成(ハイポテンシャル人材プログラム)も、従来型のゼネラリスト育成と同じプロセスをたどります。そのプロセスとは、ポテンシャルによる候補者の選抜、経営者としての教育、リーダー経験を通じた育成、指導者による薫陶です。同じプロセスなので従来型を応用して、新しいリーダー選抜育成システムを構築することが可能です。具体的な改善点は、選抜基準の明確化、選抜方法の改善、客観アセスメントの導入、アセッサーの強化、意思決定機関の創設、メンターの選定、キーポジションの設定、キーポジションにおける成果定義、経験期間の設定等です。これらの改善により、勘と経験だけではない科学的手法を用いたリーダー育成が可能になります。
多くの日本企業にとって、次世代リーダーの選抜育成システムを改善することは、業績に最も大きな影響を与える実行可能なタレントマネジメント施策なのです。
先日のコラム「今求められる変革型リーダー」で、変革型リーダーについて定義やコンピテンシーをご紹介いたしました。今回は、この困難な時代に変革を起こすリーダーになるためのヒントをご紹介します。

困難な時代におけるリーダーたちのチャレンジ
現在、多くの変化が世界中で起こっています。突如起こった新型コロナウィルスの蔓延、徐々に広がりを見せて世界的な共鳴を生んだBlack Lives Matterの動き、従来から叫ばれていたグローバリゼーションやデジタライゼーションなど。先日のコラムでも記載しましたが、コロナ禍で、リーダーにとって次のようなチャレンジが鮮明になりました。
- リモートワークによって物理的に散らばるチームをうまくリードする
- 曖昧さ、不確実性、混沌であふれる世界で成果を出す
- 目標に向かうべく、従業員に安全と安心を提供する
- 組織を前進させるために新たな戦略を立案し、実行する
- プロダクトやサービス、プロセスが急速に変化する環境で業務を遂行する
- リソースの制約が絶えずつきまとう状況で組織を運営する
- 協力が難しい状況で、協働する価値を最大化できるよう変革すること
- リーダーたちが多様なチームと向き合って、価値を最大化できるようにすること
- 対立が蔓延していた文化を、同じ立場である「1つの組織」として変革すること
困難な時代、多様性がイノベーションの重要な要素になる
アクセンチュアによる「平等な文化」に関する最近のレポートでは、最も平等性が高い文化は最も低い文化と比べて、イノベーションマインドセット(職場でイノベーティブであろうとする個人の意欲と能力)が6倍高いことを示しています。また、女性はより平等な組織で上級管理職につく可能性が4倍高いと述べています。さらに、すべての国がイノベーションマインドセットを10%引き上げた場合、世界のGDPは2028年までに最大8兆ドル増加する可能性があるとのこと。 レポートでは、リーダーの68%が自分たちの組織には平等やインクルーシブの文化・価値観があると感じていたが、従業員で同様に感じているのは36%だけと強調しています。組織がよりインクルーシブな文化を構築するために努力していると感じている従業員の割合は、2018年以降同じであり、50%強です。リーダーにとって、多様性を受け入れるインクルーシブな文化、平等な文化の醸成とメッセージ発信は、イノベーションを生み出し、組織の価値を高めることにつながります。
変革型リーダーになるための3つの方法
これらをふまえ、変革を起こすリーダーになるためのヒントをお伝えします。- 多様性の目標を設定する ―それらを戦略に組み込み、すべての人に本当の帰属意識を持たせます。
- 文脈に合わせる ―文脈をとらえた課題ごとに、最も成功する可能性の高い人材を配置します。隠れた優秀な人材が見つかるかもしれません!
- 経験を共有する ―リーダーを集めて、経験した成功と課題を共有します。お互いから学び、不安を軽減することができます。
新型コロナウィルスの蔓延により、リーダーは多くの予期しない困難に出会いましたが、たくさんの学びもあったはずです。平等や多様性、状況に合わせた対応、そして、互いに耳を傾け、成長し、変化する意欲が重要です。より多くのリーダーが困難を力に変えて、自身や組織の価値をさらに高めることが望まれます。
※本記事はSHLgroupのコラムを参照し、一部抜粋・加筆しています(筆者抄訳)。 グローバル化や技術革新などが急速に進む社会で、組織を率いるリーダーの役割は重要性を増しています。新型コロナウィルス感染症の蔓延により、不確実性がますます高まる中、その重みもさらに増大しています。今回は、変化の時代に必要とされる変革型リーダーについて取り上げます。

リーダーシップの機能とリーダーシップモデル
SHLのモデルでは、組織において有効にリーダーシップを発揮するために重要な4つのリーダーシップの機能を定義しています。- ビジョンを作る(戦略)
- 目標を共有する(コミュニケーション)
- 支援を得る(人)
- 成功をもたらす(オペレーション)
各リーダーシップの機能は、マネジメントとリーダーシップという2つの観点で分かれます。
マネジメント・フォーカス(業務型):システムをうまく動かし続けることや、特定目的に対して信頼できるパフォーマンスをあげる
リーダーシップ・フォーカス(変革型):システムの方向性を創り出し、発展・変化させることや、人と組織の両方を鼓舞して期待以上の成果を達成する
各リーダーシップの機能は関連する2つのコンピテンシーがあり、ひとつはマネジメント・フォーカスに、もうひとつはリーダーシップ・フォーカスに、より関連します。

SHLリーダーシップモデルにおけるリーダーシップ・フォーカス(変革型)は、まさに変革型リーダーであり、様々な影響を受けて変化する今の世の中で必要とされるリーダーシップと言えます。
コロナ禍のチャレンジと変革型リーダーに求められるもの
コロナ禍では、リーダーにとって次のようなチャレンジが鮮明になりました。- リモートワークによって物理的に散らばるチームをうまくリードする
- 曖昧さ、不確実性、混沌であふれる世界で成果を出す
- 目標に向かうべく、従業員に安全と安心を提供する
- 組織を前進させるために新たな戦略を立案し、実行する
- プロダクトやサービス、プロセスが急速に変化する環境で業務を遂行する
- リソースの制約が絶えずつきまとう状況で組織を運営する
コロナ禍の文脈で、変革型リーダーに求められるコンピテンシーを解釈します。
ビジョンを作る:「創造力」革新的なアイデアを生み出し、戦略的に考える
→ 誰も経験したことのない世界的パンデミックで、様々な制約が課される状況下での組織運営です。これまでのやり方ではなく、革新的な手法を発案、取り入れてリーダーシップを発揮する必要があります。
目標を共有する:「対人積極性」 人とコミュニケーションをとり、説得し、影響を与える
→ 物理的な接触が減り、リモート下でのコミュニケーションが主流となります。非言語情報を含めて相手を見ながら自分を伝える方法は封じられます。また、同様の方法で相手の情報を得ることもできません。より積極的かつ明確にメッセージを発信し、相手からのフィードバックを適切に受け取れるようになる必要があります。
支援を得る:「リーダーシップ」率先して行動を起こし、指示を与え、責任を引き受ける
→ パンデミックの収束が見えない状況で、今進むべき目標に向かって周りを鼓舞しながら巻き込んでいくことが求められます。すばやく決断し、自分が主導権を持って強いリーダーシップを発揮する必要があります。
成功をもたらす:「完遂エネルギー 」結果を出すこと、目標を達成することに焦点を当てる
→ 未知の経験であっても、目標達成のためにエネルギーを注いでやりきることが求められます。やるべきことを認識して具体的な行動に移せることが重要になります。