導入事例

「自分に合ったスタイル」での成長を促す、日産自動車の販売会社店長育成戦略。

「自分に合ったスタイル」での成長を促す、日産自動車の販売会社店長育成戦略。

販売会社の優秀店長像をアセスメントのデータ分析とインタビュー調査によって明らかにした日産自動車。
販売会社の店長を対象としたタレントマネジメントの取り組みを紹介します。

※本取材は2020年12月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

日産自動車株式会社

事業内容

自動車の製造、販売および関連事業

業種

自動車製造業

従業員数

22,717名(単独)(2020年3月現在) 

インタビューを受けていただいた方

岩村令子 様

日産自動車株式会社
日本戦略企画本部 中期戦略企画部/プログラムダイレクターオフィス 主担

インタビューの要約

販売会社の採用・育成方針の策定に役立てることを目的に、販売会社の優秀な店長像を明らかにするためのアセスメントおよびインタビュー調査を実施した。
全国の販売店店長約1300名がアセスメント(万華鏡30)を受検し、クラスター分析によって4タイプの異なる強みを持った優秀店長像が特定された。
各タイプの優秀店長の代表者数名に対面でインタビューを実施し、それぞれの強みを発揮するために日々実施していることなどを詳細にヒアリングした。
分析・インタビュー結果を各販売会社に報告し、採用・育成・登用の資料として活用してもらった。また、日産自動車本体においても、今後の販売会社への採用・育成支援の方針が得られた。

販売会社の優秀な店長像を特定し、採用や育成に生かすため、 アセスメントおよびインタビュー調査のプロジェクトが発足。

私は中期戦略企画部に所属しています。販売会社の採用や育成、教育を担当する部署は別にありますが、今回のプロジェクトは中長期的な目線で、販売会社の優秀店長とはどういう人材なのかを科学的な手法で明らかにし、それを中長期の採用育成に活かしていこうという、当時の役員の問題意識からスタートしました。

販売会社によって店舗数には違いがあります。数店舗を運営している販売会社であれば、それぞれの店長の特徴を把握できますが、数百店舗を有するような販売会社では、個々の店長に関して経営層が詳細な情報を把握することは困難です。目まぐるしくビジネス環境が変化する中で、今後どういった店長が求められるかを検討したいが、販売会社1社では横断的な分析は難しく、地域的な偏りもある。販売会社からこのような声が挙がっていたことを受け、プロジェクトが発足しました。

販売会社の優秀な店長像を特定し、採用や育成に生かすため、 アセスメントおよびインタビュー調査のプロジェクトが発足。

約1300名の店長の特徴をクラスター分析して見えてきた、複数の優秀店長像。

最初に考えたのは、私には人事系のバックグラウンドがないので、アセスメントに関しては、プロフェッショナルの力を借りる必要があるということでした。その上で、複数社にお声がけをしましたが、日本エス・エイチ・エルを選んだ一番の理由は、シンプルな調査を低コストで受けられるという、続けやすさ。今回は日産自動車が主体で調査を行うが、今後販売会社主体でアセスメントを継続する可能性を考えたときに、販売会社にとって続けやすいプライスであることは必須条件でした。

約1300名の店長にアセスメント(万華鏡30)を実施し、優秀者のタイプを抽出するクラスター分析を行いましたが、まず何をもって優秀者と定義するかが最初に議論になりました。たとえば、優秀な店長でも、困難な状況にある店舗の立て直しを担っている方は、業績が低いです。逆に立地にめぐまれていたり、部下に優秀な人材がいたりすると、店長の実力は隠れてしまいます。ですので、今回は店舗の売上台数等の数値指標に加えて、役員や社長から見た優秀な店長は誰なのか、という定性情報もアンケートで拾い上げていきました。その際は、「どういう観点で優秀としたか」という理由も書いていただいたんですが、育成に長けているとか、とにかくきちんと台数を売り上げるとか、台数だけじゃなく収益管理ができるとか、様々な観点が挙げられました。最初の目的が優秀な店長のタイプ分類だったのですが、店長は個々人が自身の強みやバックグラウンドを活かして仕事をしている個人芸のような部分があり、日産自動車社内でも「タイプ分類は相当難しいぞ」という声がありました。不安を抱えながらのスタートでしたが、日本エス・エイチ・エルの担当者と二人三脚で分析を進めていきました。

各優秀タイプを代表する店長に、インタビューを実施。 現場にとってわかりやすい人材像へと落とし込む。

クラスター分析によって、最終的に抽出された優秀店長のタイプは、異なる強みをもつ独立した3タイプと、ハイブリッド型1タイプの、計4タイプ。かつては、一つの優秀な店長像があって、それを目指せと言うのが基本的な指針だったと理解しています。今回の分析は、「優秀なタイプというのは複数あり、まずはどういうマネジメントの仕方が自分に合っているのかを選び取りながら成長していきましょう。その次は、さらにバランスの取れたこの店長像を目指しましょう」と、だんだんレベルアップするような考え方を可能にしています。それは今までとは異なる新しい育成の考え方でした。

各優秀タイプを代表する店長に、インタビューを実施。 現場にとってわかりやすい人材像へと落とし込む。

その後、ロジカルな分析結果を各タイプの優秀店長像に落としこんでいく際には、実際にそれぞれのタイプに当てはまる優秀店長数名にインタビューを繰り返しながら、ペルソナ的に人材像を具体化していきました。ヒアリングの内容は、その人が強みにしているコンピテンシーはどういう経緯で組み立てられてきたのかを探るキャリアの経緯や、過去に一番心に響いたこと、そのコンピテンシーを日常的に発揮する方法を探るために、一日の仕事の流れや、気を付けていることなどを全て聞いていきました。このヒアリングの結果は冊子にして、最終的に販売会社に配布しました。優秀な店長は毎日何をしているのか、どれくらいスタッフの管理に力を入れているのかをまとめた資料なので、気に入ってくださった販売会社は各店長に「これを読んでおきなさい」と配布してくれたそうです。優秀な店長の取り組みは本当に素晴らしく、私もヒアリングをしていて勉強になりました。

全国にいる販売会社店長の約半数をカバーした大規模調査で、 新しい店長像を見出せた。

その後、販売会社を回って、個々の店長のタイプ分類と、販売会社ごとの店長のタイプ構成比などを報告していきました。最初、アセスメント結果に納得していなかった販売会社の社長にも直接話して、「気になった人、これは違うと思った人を教えてください」と一緒に読み解いていき、各タイプについて説明すると、結果に対する信頼が生まれて、「確かにうちの会社はこういうタイプが多いかもね」と納得してくれました。また、各タイプの人財イメージを表すのに著名なスポーツチーム監督の例を挙げたり、現場で活用しやすいように、腹落ちしやすいストーリーづけをすることを意識しました。
結果の活用法についても、会社ごとに様々なご意見がありました。店長へのフィードバック面談を普段から行っている会社では、フィードバックの際にこのアセスメント結果も一緒に使っていこうという声がありました。また、役員をどんなタイプの人財から選ぶか、タイプ構成比を見ながら登用を考える会社もありました。さらに、販売会社によってあるタイプの店長が非常に多い・少ないといった傾向も明らかになったので、より望ましい方向にカルチャーを変えていこうとする試みもあります。このような取り組みは販売会社ごとに行っていただき、日産自動車サイドでは、今度の店長の育成における基本のコンピテンシーを作る材料にしようとしています。

このプロジェクトの成果は、販売会社が自社の店長のタイプを把握する客観的な資料が得られたことです。「あの店長ってこういうタイプだよね」と、なんとなく思っていたことを裏付けてくれる資料になりますし、逆に「あれ、実はこういう側面があるのかな」といった、一人一人の店長をより深く理解するための材料になりました。日産自動車としても、これまで優秀な店長の形をきちんと把握していませんでした。今回の調査は、全国にいる店長の半数以上をカバーする大規模なものですので、日産における新しい店長の人材像を見出し、今後の販売会社支援の材料になったかと思います。その知見が今、販売会社の育成を支援しているチームに引き継がれています。

日本エス・エイチ・エルのサービスを利用して良かった点ですが、まずアセスメントの一人あたりのコストが安くて、かつ豊富に実績があり、分析の結果にも独自の知見があって信頼性があるところ。もう一つは、データ分析の過程で何度も通っていただいて、一緒に分析の結果を見ながら、このクラスター分類はピンと来ないとか、何点をクラスター分類の閾値にするかといった、細かい点を相談させていただけたことです。定性調査のインタビューでも、全国各地の店長に話を聞きながら迅速にレポートをまとめていただいて、我々が資料を作成する上でもプロの視点でのご指摘やご意見を頂けたのはありがたかったです。ある意味、二人三脚でプロジェクトを進められたのが助かりました。全国津々浦々にわたる調査となり、大変だったと思いますが、すごく感謝しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

佐藤 有紀

「優秀な店長にはいくつかのタイプがあると思っている。各店長が、自分に似たタイプの優秀者をお手本にして、自分の強みを活かしながら育っていけるような育成支援をしたい。」最初にそのようなご相談を頂いたときに、その自由で新しい発想に心が躍りました。
「個性を活かした活躍」が推奨される昨今においても、教育の個別化は進んでいるとは言いがたく、依然として画一的な優秀さを目指して努力されている方が多いのではないでしょうか。日産自動車の取り組みは、個々人がより自分らしいスタイルで成長でき、自分の強みで勝負できる、新しい育成のありかたを示すモデルケースになると思っております。私どもも、二人三脚でこのようなクリエイティブな挑戦ができたことを、大変嬉しく思います。誠にありがとうございました。

採用基準の作成から全社員のポテンシャルを活かす適正配置まで、「人材マップ」を用いた森永乳業のタレントマネジメントをご紹介します。

※本取材は2020年8月に実施しました。インタビュー内容は取材時のものです。

森永乳業株式会社

事業内容

牛乳、乳製品、アイスクリーム、飲料その他の食品等の製造、販売

業種

食品製造業

従業員数

3,340名(連結従業員数 6,303名)(2020年3月31日現在)

インタビューを受けていただいた方

荒木 久宜 様

森永乳業株式会社
コーポレート本部 人財部人財戦略グループ マネジャー

インタビューの要約

全社員にタレントアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施して、採用基準の作成と人材の適正配置を行った。
4象限の人材マップを使って各職種のハイパフォーマーの人材タイプとその比率をとらえ、採用基準、職務適性基準を作成した。基準に基づく採用と配属を実施した。
社員に対してアセスメントの結果をフィードバックし、自分の適性とキャリアについて考える機会を与えると、従来あまり見られなかった他部門への異動希望が増加した。実際に異動した人たちはエンゲージメントが高く、活動が活性化している。

採用基準の作成から始まり、全体の最適配置へ。

私の初期配属は、リテール営業課で、スーパーやコンビニエンスストアへの営業を担当していました。8年間営業を経験した後、人事に異動し新卒採用を3年、社内昇格などを3年担当しました。そこから採用のチーフ兼人材配置担当・ローテーション担当となり、今は人事戦略、人事制度、人件費コントロール等を行っています。

タレントマネジメントのスタートは、まず採用からでした。既存社員にアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施し、各職種で「どのような人材がハイパフォーマーとなるか」という分析を行って、それを採用に活かしたいと思いました。社員のアセスメントデータが手に入ると欲が出てきまして、「採用に使うのだけではもったない」となって。OPQの結果をもとに、社員本人に、自分の性格や職務適性を理解してもらい、「こういう仕事が向いているんじゃないか」「こういうチームで働きたい」という前向きな気持ちを持ってもらう機会になればいいと思って、全社員にOPQを実施することにしました。

採用基準の作成から始まり、全体の最適配置へ。

アセスメント結果を、受検者本人が見てわかりやすいことが一番のポイント。

OPQの結果を本人に渡し、月1回の上司面談の際に使ってもらう任意の仕組みを導入しました。年1回のキャリア希望調査時にOPQを受けてもらいます。キャリア希望調査では、5~10年先に何をしたいのか、その前に経験したい仕事は何か、という質問をして自分のキャリアについて考えてもらいます。それに併せて自分の適性について考えてみてくださいとOPQの受検案内をしました。

アセスメントについては他社も検討しましたが、ずっと採用で使っているOPQを信頼していましたし、このプロジェクトでは本人がキャリアを考える上で使いやすい結果リポートが必要と考えたため、OPQで行うことを決めました。OPQの万華鏡リポートは、アセスメント結果を見慣れていない一般の社員にもわかりやすく、今回の目的に合いそうだと判断しました。

取得したアセスメントデータを分析しようとなったときに、社内ではどうにもならないので、日本エス・エイチ・エルの担当コンサルタントに、適切な分析方法について相談しました。そのときに提案されたのが4象限のマップ上に人材をプロットするという方法。チーム編成の検討に使えるということだったので、やってみたいなと思いました。以前、アセスメントデータを使って部門ごとに得点の平均値を算出したことがありました。部門全体の傾向はわかりましたが、今回は個人の特徴をより正確に把握するため4象限へのマッピングをやりたいと思ったんです。

4象限で人材を分けると、社員にもいろいろなタイプの人が存在するということがわかります。4つのタイプが明示されたことで、経営陣も管理部門であれば「堅実頭脳タイプ」、営業なら「柔軟頭脳タイプ」と検討できるようになり、配属先にもなぜ配属したのかをより根拠をもって説明ができるようになりました。今後はチームを活性化させるための配属や、チームに適合させるための配属といった観点で、活用できないかと考えています。

アセスメント結果を本人にフィードバックすることで、 自己理解が促進され、異部門へのチャレンジが増加。

4象限の各象限に目標採用数を設定することで、人材の多様性が確保でき、新卒でスタッフ部門に適性がある人材も採用できるようになりました。事務系採用は営業職を中心に考えていて、とにかくヴァイタリティが高い人がいいという方針が以前はありました。4象限で人材をとらえるようになってから、「堅実頭脳タイプ」に管理部門のハイパフォーマーが多くいることがわかり、内定者にOPQの結果を示し、「あなたのこういう特徴が活かせるから」と説明して、納得してもらった上で管理部門に配属できるようになりました。また以前は営業のハイパフォーマーをマーケティング部門へ異動させることが多くありましたが、今は新入社員を配属することができるようになりました。去年、OPQの結果からマーケティング適性が高いと判断した学生をマーケティング部門に配属したところ現場から好評を得たという成功事例がありました。こうした取り組みは今後もやっていきます。

また、アセスメント結果を本人にフィードバックしたことで部門を超えた異動を希望する人が増えました。これまでのジョブローテーションは部門内での異動がほとんどでしたが、アセスメント結果から自分の職務適性や組織適性、強みや弱みを知り、自分の可能性に気づく人が増えたのでしょう。その年から、「自分は営業をずっとやってきたけど、マーケティングの仕事の方が向いているのではないか。」と上司に相談するようなケースが出てきました。正確に集計していませんが、こうした異動希望が、10ポイントくらい増えたのではないかと思いますし、実際に異動した方もいます。そういう人たちは異動後もモチベーションが高く、現場にすぐ馴染んで新しいことをやろうとします。このような人が増えることによって組織の活性化が進むと感じます。今後は、FA制度とか社内公募をやっていきたいと構想しています。

今後の課題は保有している社員データを活かしたタレントマネジメント施策を行うこと。まずはチーム編成、配置、ジョブローテーションからやっていきます。将来は、各社員が自分の特徴を理解した上で、どういう仕事をしたいか、そのためにどういう人が必要かを考え、自分で声をあげてチームを立ち上げることができるような会社にしたいと思います。

日本エス・エイチ・エルの良い点は、こちらの要望に対して必ずプラスアルファの提案をしてくれるところ。構想が固まっていない状態でのディスカッションにも根気よく付き合ってくれますし、結論がでないまま終了しても次の機会には必ず提案してくれます。ふと思いついたアイデアでも相談してみようかなと思えますし、一緒にやっていて楽しいですね。多くの企業や業界と取引されているので、異業種の情報をいただける点も助かっています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティングチーム 副部長

村井 泰裕

採用だけでなく、タレントマネジメントでも森永乳業のお役に立てないかと考えておりました。そんな時、採用の人財要件定義のため全社員アセスメントとデータ分析が決まり、タレントマネジメントが動き始める予感がしました。
このプロジェクトでは、誰が見てもわかりやすく活用しやすい人材データ分析を提供したいと考え、職種ごとに4象限のマッピングを行いました。この分析結果が人財部の意思決定と社員の自己理解のお役に立てて、とてもうれしかったです。また、プロジェクトミーティングでの荒木さんとの対話は、私にとって楽しく有意義な時間でした。
これからも、森永乳業の組織生産性向上と社員の幸福のために、お力になれるよう努力してまいります。

導入事例

船乗りの適性を見える化。商船三井の海上職採用要件定義プロジェクト。

船乗りの適性を見える化。商船三井の海上職採用要件定義プロジェクト。

安全運航を支える海のプロフェッショナル「海上職」の適性をデータから明らかにする、商船三井の取り組みをご紹介します。

※本取材は2021年6月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社商船三井

事業内容

ドライバルク船事業、油送船事業、LNG船事業、海洋事業、自動車船事業、コンテナ船事業、港湾ロジスティクス事業、フェリー・内航RORO船事業などを含む総合外航海運業

業種

海運業

従業員数

1,119名(陸上794名 海上325名):他社への出向者等を除く(2021年3月31日現在)

※SMBC日興証券単体

インタビューを受けていただいた方

小林 裕美 様

株式会社商船三井
人事部 採用チームリーダー

インタビューの要約

明確な言葉で定義しづらかった海上職の適性を、データを使って見える化することに挑戦した。
現有海上職社員にパーソナリティ検査を実施し、協力者には万華鏡30を使って結果をフィードバック。若手から役員までほとんどの社員が協力してくれた。
社員の分析結果をもとに採用要件を決定すべくディスカッションを行った。スキルを重視する海上職において、行動特性の重要性を解釈するのに苦労した。
新しい採用要件について社内でコンセンサスを形成し、コンピテンシーを構造的に見極めるために選考手法を改良した。
今後取り組みたいことは、エンゲージメントの向上や乗り合わせの検討を含めた、海上職に対するタレントマネジメント。

誰も言葉にできない「海上職」の適性。 俗人的な判断ではなく、定量的なKPIを設けたい。

私は入社から約10年で営業部、一度目の人事部での採用・育成業務、シンガポール駐在などを経験しました。その後、自分の専門領域として人事の仕事にもう一度取り組むことを希望し、現在は採用と若手の育成に携わっています。今はHRBPなど、10年前とは違う戦略人事の概念が出てきて、経営に近いコアな部分の業務を担える可能性があるということを魅力に感じています。現場と経営をつなぐような立場が担えたらと思います。

採用と育成に加え、今取り組みたいのはタレントマネジメントです。当社はタレントマネジメントシステムを導入しており、配置における運用などは他のチームで検討していますが、私はタレマネシステムで管理されている評価・パフォーマンスデータと採用の人材要件をつなげることに着目しました。採用の人材要件を俗人的な判断ではなく「見える化」して、定量的なKPIを設けたい。これが今回の人材要件設計プロジェクトの始まりです。

誰も言葉にできない「海上職」の適性。 俗人的な判断ではなく、定量的なKPIを設けたい。

最も課題だと感じたのは、事務系の人材要件を海上職にも適用していたこと。海上職は、6カ月間船に乗りっぱなしの非常に特殊な環境で職務を遂行します。しかし、その適性は誰も明確な言葉で説明できませんでした。職務が変われば、当然人材要件も異なるはずです。採用時点のアセスメントデータを活用しようにも、アセスメントツールをころころ変えていたためデータ蓄積がなく、効果測定ができない状態でした。海上職において、採用時点で見極めるべき指標をきちんとしたアセスメントデータを取得して作るべきではないかと思いました。

海上職社員にパーソナリティ検査を実施し、パフォーマンスとの関連を分析。 結果の解釈に議論を重ねる。

海上職の現有社員にパーソナリティ検査OPQを受検してもらい、そのデータをパフォーマンスと紐づけて統計分析にかけることにしました。「社員の傾向をもとに採用要件を作成するため、受検にご協力をお願いします。協力してくれた方には、ご自身の検査結果をフィードバックします。」と社内告知しました。参加は任意でしたが、若手社員から役員までほぼ受検してくれました。最初は反発を受けるのではないかと心配しましたが、特にネガティブな反応はありませんでした。

収集されたデータを日本エス・エイチ・エルに分析してもらいましたが、この結果を解釈するのが今回一番難しかったところ。なぜこのような結果が出るのか読み解かなければならないのですが、私は海上職ではないので確信がもてず、海上職の社員も日頃アセスメントデータを扱うことはありませんので、結果は受け止めていただいたものの、議論をするとなると難しい。もともと海上職はスキルを持っているということが非常に重要であり、行動特性への着目が進んでおらず、これがディスカッションを困難にした一因であったと思います。人材要件に落とし込むまで、何度も人事部内でディスカッションを重ねました。

結果を一部共有すると、海上職は陸上職に比べて、きちんとプランニングして手抜かりなく職務を遂行するというコンピテンシーがとても大事でした。パフォーマンスを発揮する海上職の方は、危険を予知して事前に準備しリスクを最小化するための努力ができます。これは行動的資質の部分が大きく、採用時点で行動特性としてみないと、安全運航で人命を支えている海上職においてはクリティカルな問題になると感じました。

新しい人材要件を見極められるように、採用選考を構造化。

新しい採用要件について社内でコンセンサスを形成した後、選考プロセスを改良しました。日本エス・エイチ・エルの協力のもと、新しい人材要件をエントリーシートの設問から面接での質問事項まで落とし込み、これをベースに面接官トレーニングを実施し、さらに評価のブレを抑制するため、誰でもセルフチェックができるような面接マニュアルを作成しました。これまでの面接は、業務内容を説明して覚悟を問うような場になっていましたが、より構造的に必要なコンピテンシーを見極める場とすべく努めました。今期の採用活動を終え、優秀な方を採用できたと認識していますが、最終的には実際の職務での活躍を見て、検討を続けていく必要があります。

将来的な目標は海上職のタレントマネジメントを行うことです。海上職は就労環境の特殊性から、安定した人材定着に繋がりにくい側面があります。上司のマネジメントによって左右される部分も大きいので、管理職の人材育成・能力開発をする必要があると思っています。また現在、継続的なエンゲージメント調査を行っており、誰が不調を抱えている可能性があるかを人事部がモニタリングしています。このエンゲージメントとパーソナリティの関連を今年検証する予定です。もしかしたら、コンピテンシーに関連する部分で、エンゲージメント低下の原因が見えるかもしれません。また、船での乗り合わせ(メンバーの組み合わせ)も大事です。メンバーが変われば、同じ仕事でもエンゲージメントが回復する場合もあるのです。タレントマネジメントにおける適正配置という概念になると思いますが、乗り合わせの検討にも適性検査が使えるといいですね。

日本エス・エイチ・エルの良いところは、適性検査の信頼性・妥当性の高さ。今回、海上職の採用テストとしていくつかのベンダーの適性検査を比較しました。採用で使用する適性検査には必ず社会的望ましさ(回答者が自分をよく見せようとするために回答がゆがむ効果)の問題が生じますが、自己相対化をさせるアセスメント形式が用途に合っていると感じます。また、担当コンサルタントによるサポートが手厚く、問題を整理する際の議論相手になってくれるため、感謝しています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 課長

横山 武史

小林さんが陸上総合職(事務系)の採用のみならず、海上職の採用も担当することになり、このプロジェクトはスタートしました。陸上総合職(事務系)では採用選考におけるデータ活用が進んでおりましたが、海上職では人材要件が明文化されておらず、採用選考が体系化されていないことに、小林さんは問題意識を持たれていらっしゃいました。
海上職の適性を説明できる人がいないというお話しを伺い、OPQの社員受検とハイパフォーマー分析をご提案申し上げました。ハイパフォーマー分析の結果、陸上総合職とは異なる特徴を見つけ出すことができ、海上職の人材要件定義に貢献することができました。当プロジェクトでは要件定義を行ったうえで、採用選考へ落とし込むところまでサービス提供を行いました。
ここからは効果検証に入ります。当プロジェクトを通して海上職採用の改善が見られたという証明ができるまで責任をもって取り組みます。また、今後は商船三井の採用戦略の立案と遂行だけでなく、広くタレントマネジメントのお力になれるよう全力でサポートしてまいります。

新入社員から部店長までを網羅するキャリアプランと、各ステップで求められる到達レベルに沿った教育研修体系を構築しているみずほリースの事例を紹介します。

※本取材は2021年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

みずほリース株式会社

事業内容

リースを中心とする法人向け総合金融サービス

業種

金融業

従業員数

連結:1,804名、単体:735名 (2020年9月末現在)

インタビューを受けていただいた方

横山 幹彦 様

みずほリース株式会社
人事部 副部長

インタビューの要約

新入社員から部店長レベルまで、職系と経験年数・ステップごとに到達すべき行動レベルや知識/スキル、受講研修を紐づけた「キャリアプラン」を構築し、教育研修制度を整備・拡充した。
日本エス・エイチ・エルの担当する「ヒューマンアセスメント研修」は、管理職準備グレードが対象の研修。ロールプレイなどの演習によるアセスメントとフィードバックで、管理職となる上で求められる能力を認識することが目的。
今後強化していきたいことは、育成を主眼とした戦略的ジョブローテーションと、「3C(challenge、change、create)」の一層の推進。

新入社員から部店長までのキャリアプランを明示し、 教育研修制度の刷新に取り組む。

私が人事部に異動して、4年が経過しようとしています。着任してからは労務以外の人事領域に幅広く関わっています。

配属された当初、階層や職系で研修頻度に偏りがあるのが気になったことから、教育研修制度を大幅に見直すことにしました。まず、職系と経験年数に応じて求められるスキルとそのレベルを定義して、明確なキャリアプランを作りました。具体的には、新入社員から部店長レベルまで、職系とステップごとに到達すべき行動、経験、知識/スキル、受講すべき研修を明文化しました。このキャリアプランを作ったことで研修頻度の偏りが是正されました。拡充した主な研修としては、例えば、営業職のソリューション力を強化するために、仮説構築力、発想力、プレゼンテーション能力を鍛える営業系の研修、総合職と比べて手薄となっていた中堅業務職に対する研修などがあります。

このキャリアプランは社内のポータルサイトに掲示されており、社員が全体感を把握したり、求められる到達レベルを目指して自己研鑽したりするのに活用されています。

管理職準備グレードが受講する「ヒューマンアセスメント研修」。

日本エス・エイチ・エルに委託している「ヒューマンアセスメント研修」は、管理職準備グレードに昇格した社員が対象です。この研修の目的は、受講者がリーダーシップや課題解決、企画立案など、管理職となった際に求められる能力の現在のレベルを知り、能力開発目標を定めることです。受講者は、ファクトファインディング演習(情報収集を通して真実を見抜き、課題解決をする演習)や、部下との対話のロールプレイ演習、プレゼンテーションの演習などを行った後、自身の今の能力や特徴について、日本エス・エイチ・エルのアセッサーから個別にフィードバックを受けます。

昇格者はプレーヤーとして実績を残してきた社員です。今後は、自分だけでなく周囲を巻き込んで組織を成長させていく意識を持ってもらい、今後求められる能力、今の状態とのギャップ、自分の管理職としての強みや弱みを考えてもらう機会にしています。アセスメントを、自分で認識している自分と他者から見た自分との違いを知り、あるべき姿とのギャップを認識するための“きっかけ作りの場”として位置づけています。

管理職準備グレードが受講する「ヒューマンアセスメント研修」。

受講者からは、「今までで一番疲れた研修だ」、「この年齢になってこんなにダメ出しされることはない」といったコメントが多く寄せられます。日常の業務で弱点を直接指摘されることは少ないので、この体験を成長の糧にしてもらいたいと思っています。また、「自分では手ごたえのあった課題で弱みを指摘され、改善すべき点を把握できた」「自分でも認識していない強みや弱みを知ることができた」などの前向きな声も少なからずあり、“気づき”を得ている実感があります。アセスメント結果は上司である部店長にも共有されますが、「弱みが丁寧に解説されているので、今後の育成に役立てたい」などの所見が寄せられています。

育成の今後の課題はジョブローテーション。 個人と組織の両面から「戦略的人事」を進めたい。

人材育成に関して完璧はありません。今後は、社員一人一人の能力、資質、職務経験、キャリアビジョンを踏まえた育成のため、戦略的なジョブローテーションを一層推進していく必要があると考えています。また、個人の能力開発だけでなく、疲弊しているチームがあれば、新しい人材を投入することで活性化させることも重要です。現場の事情や需給バランスなどが障壁となり、ジョブローテーションが社員や組織にとってベストではないケースもあると思います。タレントマネジメントシステムのリリースも間近に控えており、情報の一元化により、より戦略的な人事を行うための体制を整えていきたいと考えています。

2019年、みずほ銀行が出資比率を大きく引き上げ、旧興銀リースからみずほリースに商号を変えて、名実ともにみずほ系中核リース会社となりました。大きな転換期を迎えています。このことでビジネスチャンスが格段に拡がり、即戦力としてのキャリア採用を大幅に増やしています。

旧興銀リースを象徴する形容詞は「堅実」でした。安定している時代なら大きな強みですが、足元の環境は決してそうではありません。現在、challenge、change、createの「3C」を会社の行動指針にしています。変化するため、新しいものを生み出すための起点となるのはチャレンジだと考え、特に重要視しています。

採用に当たっては、「自律」と「多様性」を重視しています。新人と中途入社社員が現場に刺激を与えることで、チャレンジの推進・浸透が加速していくことを期待しています。

また、会社全体としてチャレンジを推進していますが、管理職の中には大きなチャレンジをするのにまだ慣れていない社員もいると思います。ミドルマネジメントの意識や行動を変えていく為には、心理的安全性の確保も欠かせないと思います。

課題は単純ではなくリンクしているので、関われる業務領域が幅広いのはありがたいことです。人事でチャレンジしたいことはまだ沢山ありますね。

私にとって、日本エス・エイチ・エルは「プロ集団」というイメージです。アカデミックで、自社のポリシーがあって、良い意味で迎合しない、プロ意識の高い集団という感じでしょうか。先述の通り、みずほリースはまさに変革のタイミングです。あまり範囲を限定せず、人事領域全般について総合的なお話をしていければと考えています。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

畔取 祐介

教育研修制度を改革していく中で、自己理解を能力開発のための重要な機会と再定義され、管理職準備グレードへの研修(アセスメントとフィードバック)を継続いただいたことは、決して単なる継続ではなく、意味と価値の再定義という点で大きなChangeでした。
また、アセスメントを継続してきたおかげで蓄積してきたデータの分析と活用が可能となりました。今後はデータを活用して、貴社のタレントマネジメントの最適化に貢献したいと考えております。横山さんのビジョンの実現に向けて微力を尽くします。

旧体制の人事から脱却し人事運営改革を進めるみずほフィナンシャルグループ。個を活かす人事運営を実現するためタレントアセスメントをどのように活用したのか、タレントマネジメントの取り組みについてお話をうかがいました。

※インタビューの内容は当時の担当者に取材を実施したものです。また、担当者の役職は取材時のものです。本インタビューは2020年7月に行いました。

株式会社みずほフィナンシャルグループ

事業内容

銀行持株会社、銀行、証券専門会社、その他子会社の経営管理、その他銀行持株会社が営むことのできる業務

業種

金融業

従業員数

55,174名(2020年3月連結)

インタビューを受けていただいた方

上ノ山 信宏 様

株式会社みずほフィナンシャルグループ
取締役会室長

インタビューの要約

様々な事業を持つ金融グループになっても旧体制の人事運営を継続しており、優秀人材の資質を踏まえた教育はできていなかった。経営・事業環境が変化する中、人事グループは危機感を強めた。
人の評価に科学的な手法を用いるべきと考え、管理職を除く社員2万人にアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を実施した。
評価者の客観評価スキルを高めるため、上司から部下へアセスメント結果フィードバックを実施。併せて管理職5000人に部下育成にOPQを活用するためのトレーニングを実施した。
この取り組みによって個を踏まえた部下育成の意識が管理職に芽生え、OPQを使った部下マネジメントのための勉強会も発足した。
組織風土を変えることがこの人事改革のゴール。組織風土改革は一朝一夕には実現できず、今後も続く課題。

変化する経営環境に対して、旧体制時代の人事運営では 「勝てるわけがない」と単純に思った。

もともと当社は、大企業や海外を相手にするみずほコーポレート銀行と、リテールを中心とした旧みずほ銀行の、ツーバンクモデルでした。それが2013年に一緒になり、人材の採用と育成の観点で言うと、どうしても「何でもそつなくこなせる人材」を求める発想になっていました。その当時ですら、いろいろな事業が傘下にあって、求められる専門性や資質は全く違うはずだったのですが、判で押したように銀行の支店に配属して、そこから優秀な人材を振り分けていくという発想のままでした。人には向き不向きがありますので、営業店で優秀だった人が、すべての分野で活躍できるなんていうことはありません。結局、古い人事評価や人事運用をずっと引きずっていました。「これで勝てるわけがない」と単純に思いました。

もともと銀行は、人事のやり方に口を出しづらい雰囲気がありました。また、現場の管理職には部下の管理は行うが、人材の確保と育成は人事の責任と考え、人材マネジメントに積極的に取り組んでいるとはいいがたい人もいました。銀行は就職ランキングも高く、優秀な人材が十分に確保できていたという背景もありました。

金融業は一定水準の知能とガッツがあればできるビジネス、と昔は思われていましたが今やそうではなくなりました。競争相手も従来とは全く変わってきましたし、とても今のままの人事管理では立ち行かなくなったというのが実態です。

変化する経営環境に対して、旧体制時代の人事運営では 「勝てるわけがない」と単純に思った。

自然科学における「観察」のように、科学的に人を評価したい。

当時、常務と部長と副部長の私で今後の人材戦略をどうするかを議論していたとき、三人とも競争環境や専門性で他社が強くなってきているというのを肌で感じていました。

社員一人一人の持ち味や資質を把握し、強みを活かす能力開発を行う足掛かりとして、日本エス・エイチ・エルのOPQを資質診断ツールとして使うことを決め、みずほフィナンシャルグループ本体と子会社の従業員約2万人(管理職を除く)に実施しました。自然科学の世界は観察から、エンジニアリングの世界は計測から始まります。人事の基礎は評価だと思いますが、評価は認知バイアスの塊みたいなもので、みんな我流と思い込みで評価を行っています。そんな中で「個の重視」と言っても、らちが明かない。そこで、「人の評価に科学的な手法を用いるべき」と考えました。

日本エス・エイチ・エルを導入した個人的な理由は、私のOPQの結果をみたときに、「ああ、ばれてしまった」と思ったことです。結果を読めば読むほど自分のパーソナリティについて広く深い洞察がなされていることがわかり、「そうだよな」と深く納得しました。このツールは使えるという確信を得ましたね。

旧来の組織風土から、「個」を重視する新しい人事評価へ 変わっていくことの難しさ。

OPQを社員に受検してもらっただけではなく、フィードバック用のリポートを開発し、上司から部下へ結果のフィードバックを行いました。そのために、全管理職約5000名を対象に、OPQの解釈と活用のためのトレーニングを実施しました。

評価者の立場にあるものは、結果的に部下の人事権を持ちます。人事権は組織の戦略にそって行使されるべきものですから、評価者の主観や思い込みで評価することは本来なら許される行為ではありません。しかし、実際は明確な基準も根拠となる情報もないままに「あいつはこの職種はダメだけど、あの職種なら向く」などと言う運用も一部で行なわれていました。そんな中で、きちんと個人にフォーカスして何ができるのか、何ができていないのかを見極めなければならないと思いましたし、評価者は人を客観的に評価できる力を鍛えないといけないという問題意識を持ちました。

苦労したのは、新しい人事運営の方向感について納得感や共感を得ていくところです。「個を尊重する人事評価と言っているけど、本当は違うんじゃないか」という人もいました。このタレントマネジメント施策の導入後、私は異動で人事から離れたのですが、同僚から評価の時期になると「人事が言っていることを額面通りに受け取って良いのか?」と聞かれることもありました。人事制度や運用ルールを変更しても、組織風土を変えなければ人事改革は成功しない、と痛感しました。

今ではだいぶ浸透してきましたが、組織風土として新しい人事評価とその価値観を完全に浸透させるには、これからも現場の理解を促進するための地道な努力が重要だと感じています。

資質診断ツールを使って、部下を理解する勉強会が発足。

この取り組みで良かったことの一つとしては、ERG(エンプロイリソースグループ)※の取り組みの一環で、資質診断ツール(OPQ)を使った部下マネジメントの勉強会が発足したことです。「みずほウィメンズネットワーク」という女性従業員のグループで、会社が女性管理者を増やしていくなかで、管理職ならではの悩みについて話し合っています。このグループの立ち上げメンバーの一人が、資質診断ツール(OPQ)を使って、どのように部下を把握し、どのように部下と接するか、を学ぶ勉強会を始めました。女性管理職はロールモデルが少ないので、この勉強会で学び合っているんですね。この取組みは社内報で紹介されました。

数十人の部下を持つと一人ひとりの人となりを細やかに知ることが難しくなります。OPQは人となりを詳しく表現することに優れていますので、こんな問題を抱えている管理職にはうってつけのツールです。こうしたツールがないと、認知バイアスの影響で、「自分が見たい事実」だけを見てしまうようなことが、どうしても起きるので。 ※エンプロイリソースグループ:共通の特性を持つ従業員同士が特有の問題についての話し合うためのグループ。ダイバーシティ施策として導入する企業が増えつつある。

日本エス・エイチ・エルのいいところは、学問的バックグラウンド。

日本エス・エイチ・エルのいいところは、皆さん勉強していて学問的バックグラウンドがしっかりしている専門家集団だということ。コンサルタントの中には、はっきりした根拠もなくそれらしいことを言う方もおられますが、日本エス・エイチ・エルの社員はきちんとした素地の上で、メリットばかりでなくデメリットも率直に話してくれます。そこが信頼できるところです。できないことはできないと言ってもらえるので、こちらも納得します。

みずほフィナンシャルグループの今後の取り組むべき重点人事課題は組織風土改革、指示待ちから自律への変化です。そのためには失敗を恐れず挑戦することが評価されるように変えなくてはいけない。誰に対しても率直に自分の考えを表明できる組織を作り、自分で考え率先して行動する人を増やしていきたいです。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 取締役

清田 茂

人事運営改革という言葉にこの取り組みの本質が含まれています。もともと日本型雇用システムには多様な人材の持ち味を活かす仕組みが備わっています。そして、このシステムを正しく運営するには、柔軟性と客観性を併せ持つ人事評価が必要です。しかし、柔軟な評価は容易に主観的な評価に結びついてしまい、主観的な評価が横行する組織は、組織目標よりも評価者の顔色を優先するようになります。
みずほフィナンシャルグループのタレントマネジメントは、本来の制度趣旨に立ち戻り、未来に向けた運営を取り戻す改革といえます。
本件のご相談をいただいたとき、私はみずほフィナンシャルグループのみならず日本社会が大きく動き出したと感じました。上ノ山さん率いる人事グループの皆さんの改革に対する情熱が本件の原動力になったことは間違いありません。タレントアセスメントの導入は客観評価の第一歩にすぎません。引き続き個を活かす組織の実現に向けてお力になりたいと考えております。

三菱自動車工業では、キーポストのサクセッションプランを作成し、パフォーマンスとポテンシャルの両軸により人材を発掘、評価し、動機づけや研修などの次世代リーダー育成プログラムを実施しています。その全容をご紹介します。

※本取材は2021年3月に行いました。ご担当者の役職およびインタビュー内容は取材時のものです。

三菱自動車工業株式会社

事業内容

(1)自動車及びその構成部品、交換部品並びに付属品の開発、設計、製造、組立、売買、輸出入その他の取引業。
(2) 産業用エンジン等及びその構成部品、交換部品並びに付属品の開発、設計、製造、組立、売買、輸出入その他の取引業。
(3)中古自動車及びその構成部品並びに交換部品及び付属品の売買。
(4)計量器等の販売。
(5)損害保険及び自動車損害賠償保障法に基づく保険の代理業。
(6)金融業。
(7)前各号に付帯関連する事業。

業種

自動車製造業

従業員数

14,407人名〔連結 32,171名〕(2019年度末現在)

インタビューを受けていただいた方

有吉 晋作 様

三菱自動車工業株式会社
人事本部 人事戦略部 マネージャー(タレントマネジメント)

インタビューの要約

次世代リーダー人材の不足、育成における透明性や中長期的視点の欠如などの課題を背景に、アライアンスへの加入のタイミングでタレントマネジメントを開始。
タレントマネジメントの主体となる人事諮問委員会を設置、キーポストのサクセッションプランを作成、人材の評価を行うキャリアコーチなどを軸にした、次世代リーダー育成施策を実施。
今後実現したいのは、若手世代からリーダーが育つ土壌の整備と、各部門人材育成との連携により、将来のビジネスリーダー育成に取り組む、全社的なタレントマネジメント。

次世代リーダー人材の不足感を背景に、 アライアンスのタレントマネジメントに参画。

私は購買部門でのバイヤー業務、生産管理部門での生産計画・物流の業務を経験したあと、かねてより希望していた人事部に異動しました。工場の人事業務、本社での新卒採用のマネージャー業務を経て、現在は人事戦略部に在籍し、タレントマネジメント領域を担当しています。

タレントマネジメントが導入された当時、複数の課題がありました。一つ目は、将来の経営を担うリーダー人材の不足感。経営的に堅調でなかった時期もあり、やや受け身の判断をするリーダー層のスタンスが強くなっていました。二つ目が、優秀人材の囲い込み。人員管理を徹底する中で、各部門はパフォーマンスの高い優秀人材ほど抱え込む傾向にあり、育成が停滞する傾向がありました。三つ目は、人材育成における透明性の欠如。客観的なファクトに基づく人選ではなく、特定の上長が主観的にリーダーを選ぶような形で人材育成がされていました。四つ目が、中長期視点の欠如。短期的に成果を出せる人材をリーダーとして選出しており、リーダーとなってからの活躍ポテンシャルが加味されていませんでした。

これらの課題を背景に、2016年にはルノー・日産アライアンスに加入し、三菱自動車もアライアンスのタレントマネジメントに参画することになりました。アライアンスのパッケージでタレントマネジメントを導入できたこともあり、比較的短期間でスムーズな導入を果たしました。

ここからは、タレントマネジメントの具体的な導入施策を紹介します。

1.人事諮問委員会の発足

タレントマネジメント活動の主体となる、人事諮問委員会を発足しました。経営陣がメンバーで、そこにアドバイザーとしてキャリアコーチ、事務局として人事が参加します。人事諮問委員会では、後述のサクセッションプランを議論し、後任候補としてノミネートされた方を次世代リーダー候補人材として特定します。

2.サクセッションプランの作成

議論の土台となるサクセッションプランについて紹介します。当社は、経営上重要なポストをキーポストとして特定しています。このキーポストのサクセッションプランを、キャリアコーチと各部門のトップ、現任者が共同で作ります。キャリアコーチは、このサクセッションプラン作成にあたり、候補者と繰り返し面談を行って、人物の評価をします。社内だけでサクセッションプランを作成すると人材パイプラインが枯渇することもあるため、Buy(採用)、Borrow(出向)などによりパイプラインの充実化に努めています。

3.次世代リーダー候補人材の発掘

パフォーマンスとポテンシャルの両軸で評価します。ポテンシャルの評価の1つは、キャリアコーチとの日々の面談です。奥底にある志の高さなどの評価軸をもとに、5年以内にNext Postに就けるかどうかを基準にポテンシャルを評価していただきます。また、SHLのアセスメントもファクトデータとして活用し、英語などの必須能力も確認します。こうしたポテンシャルとパフォーマンスの両面で認定した人材に対し、施策を行っていきます。

4.経営陣とのクロスインタビュー

施策の一つに、経営陣と次世代リーダー候補人材のクロスインタビューがあります。これは一見地味に思われるかもしれませんが、私はもっとも効果的な施策の一つと考えています。タレントマネジメントを一から始めるなら、まずここから始めることをお勧めします。次世代リーダー候補人材の中でも厳選した方に対して、経営幹部との1on1の面談機会を提供します。最大の目的は、経営幹部に人材をモチベートしていただくこと。話題は、現在・過去の業務、修羅場経験、将来のプランなど様々ありますが、最終的には必ずEncourage(激励と、支援の約束)していただく点をお願いしています。このような地道な声掛けや、経営幹部と話す機会を得たという特別感は、モチベーション形成の面で非常に重要と捉えています。

5.各部門・各拠点への展開

三菱自動車本体の中でも部門ごとに諮問委員会、サクセッションプランを議論する場を作っていますが、同時に海外の各拠点にもキーポストのサクセッションプランを議論する委員会を設定しています。現在、ASEAN拠点を中心に人事諮問委員会を展開しています。まずは各拠点で完結するように委員会を開催していますが、今後は拠点間の人材交流や合同研修が実施できればと思います。タレマネは人材流動の比較的激しい海外の方がむしろ受け入れられやすくニーズも高いので、導入はスムーズに実施できています。

6.リーダーシップ・ディベロップメント・プログラム(LDP)の導入

リーダーシップ・ディベロップメント・プログラム(LDP)は、約半年間、計12日間の研修です。リーダー人材の基礎ビジネススキルやマインドセットの獲得を目的にしています。次世代リーダー候補人材やその候補者を中心に、部門・キャリアコーチの推薦によって、プログラム対象者を決定します。研修でのアクションラーニング、職場での実践をハイブリッドにしたプログラムです。経営層の課題認識やアセスメントの傾向を通じて見えてきた、当社のリーダー人材の弱みの部分を取り上げ、強化しています。研修の効果測定は難しいですが、短期的には研修で学びを得た項目のインプット状況を確認し、中長期的には今後この研修を通してリーダーがキーポストに任命されていくことが、研修成果の一つと考えています。

7.グローバル・キャリア・ディベロップメント・プログラム(GCDP)の導入

最後に、海外の短期派遣プログラムである、グローバル・キャリア・ディベロップメント・プログラム(GCDP)を紹介します。従来、海外拠点の現地語を学ぶ語学研修プログラムがありましたが、現地でのジョブと連動させた武者修行プログラムを加え、2020年度から新たに募集・選抜・派遣を行いました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、海外への渡航が限定されましたので、これから状況を見ながら実施数を増やしていく予定です。リーダー人材の属性として、キャリアの早期に海外経験をしている方は非常に多く、次世代リーダー候補人材の上位層では70%以上が海外赴任、駐在経験があります。経験の濃密さという観点で、リーダー育成に適しているプログラムと考えています。

導入後の課題と、潜在的な問題。

これらの施策の導入後、浮き彫りになった課題があります。まず、人材育成のための理想的なキャリアパスが実現しないことがありました。この点について掘り下げると、根本的にリーダーが育つ土壌ができていないという問題に行きつきます。優秀人材の抱え込みという課題もありますが、より日常のレベルまで踏み込むと、「(自身の)志は何か?」を社員に考えてもらう研修機会や、上司による日々の問いかけ、寄り添いも不足していたのではないかと思います。こうした環境が備わらないと、人材パイプラインが充実せず、リーダー育成が頭打ちになってしまうことが予想されます。

キャリアパスの実現のためには、上司と部下が相互に協力して高め合う環境を作り上げ、また各部門間でも人材の情報を共有し、現場での育成配置につなげてもらうなど、実態との乖離を埋めていく工夫が必要だと感じています。

今後は、一番下のジュニア世代から、全社でDevelopment Cultureを作ることがポイントだと考えています。まず新入社員~3年目あたりまでオンボーディングを行い、社会人の土台を作る。次のステップでは、事業部門においていずれかの専門性を身に付けることを目指し、高いパフォーマンスを発揮してもらう。その中から一部をマネジメント層に育て、さらに情熱を形成し高めたうえでビジネスリーダーを作り上げる、という育成の流れをイメージしています。

今後の展望としては、人材育成の道筋として部門のキャリアパスを充実させるべく、自動車メーカー特有のバリューチェーンを活かし、関係性の強い部門間での異動を仕組み化し、期限付きの異動やローテーションを整備することで、人材育成に寄与できればと考えています。他部署で人間関係を構築できる効果もあり、ストレッチアサインメントにも繋がりやすくなるはずです。また、管理職になってからのジョブローテーションは、組織のパフォーマンスを一時的に落としてしまうリスクもあるので、キャリア早期での育成目的異動を計画的に実施しておくことが組織開発面でも有効です。

その他にも、キャリア開発のPDCAを回す施策として、上司が部下を育てるためのスキル、例えばキャリア研修や1on1研修などを提供したいです。また、部門とのタレントレビューの機会をつくり、各部門にも人材の情報を共有することで、ストレッチアサインメント、ジョブローテーション等、部門の中での人材育成につなげていくことを考えています。

これから変革期を迎える自動車メーカーの中で、社会課題の解決に向けて新しい価値を提供できるリーダーの育成に貢献したいです。部門が10年先を見てビジネスを考えているなら、人事はさらにその先の20年先を見て人材育成のアシストをする必要があり、その点が人事の付加価値であり存在価値だと思いますので、そういう人事になりたいです。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング2課 課長

横山 武史

多くの企業が次世代リーダー育成の重要性を認識していますが、それを仕組み化している企業は多くありません。三菱自動車工業はアライアンスのパッケージがあったとはいえ、異例の早さでタレントマネジメントを導入しました。私は三菱自動車工業にタレントマネジメント部が発足した2017年から本件の導入支援を担当させていただきました。この経験での学びは「まず始めてみることの大切さ」です。自社用に調整しながら速やかに導入し、今もなお改善を繰り返しています。
現在は、人材のポテンシャルを測定するアセスメントと、アセスメント結果をフィードバックするキャリアコーチのトレーニングをご提供しておりますが、これからは有吉さんのおっしゃる20年先を見据えたタレントマネジメントに貢献できるよう取り組んでまいります。

顧客や社会へ価値を提供するために、事業部主導で採用や育成を進めてきたメディアフォース。ビジネスの拡大に伴って生じた管理職不足などの人事課題に、全社的に取り組む人材開発プロジェクトが発足しました。本インタビューでは管理職の要件定義についてご紹介します。

※本取材は2023年3月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社メディアフォース

事業内容

システムインテグレーションサービス、Webシステム構築、汎用系システム構築、インフラ構築

業種

情報処理サービス

従業員数

208名(2023年4月1日現在)

インタビューを受けていただいた方

家喜 章平 様 / 上村 潤 様

株式会社メディアフォース
取締役 執行役員 (写真左)
業務管理本部 総務人事グループ 課長 (写真右)

インタビューの要約

業界未経験者に自社の価値観を伝えプロとして育成する人材戦略であったが、ビジネスの拡大により管理職が不足。他の人事課題への対処も含め、全社横断の人材開発プロジェクトが発足。
現在活躍している管理職の特徴をデータ分析から導き、さらに今後のビジネスの変化に対応すべく社長や事業部門責任者へのインタビューを行って、管理職要件を定義。
管理職の要件を採用基準に反映して運用している。今後本格的に開始する経験者採用でも活用する予定。
管理職候補生の識別と抜擢、部門間の異動の要否など、今後タレントマネジメント施策を検討していく上で今回作成した要件や分析結果を活用していく。

事業の成長によって人材育成のスピードアップが喫緊の課題に。

当社が業界の未経験者を採用してきた理由は、顧客や社会に貢献する手段としてシステムを開発するという自社の価値観を体現できる人材を自らの手で育成したいからです。しかし、ビジネスが従来の受託開発からソリューション型へ変容する中で、人材育成をさらに加速し、事業成長のスピードに合わせる必要が出てきました。 人材育成を強化したくても管理職の数が足りず、管理職不足を補うことが喫緊の課題となりました。

当社は人事権が事業部にあり、基本的に配属や異動、キャリア形成は事業部の権限で行っています。そのため部門の垣根を超えた情報共有が不足していたり、育成の状況が十分に把握できないといった、人事制度の運用について全社を横断的に統制することが不十分な状態でした。これらの問題を解決するため、育成に限らず、採用や人事制度に関しても改善のスピードを高めるべく、責任者をおいてしっかり取り組んでいく全社的な人材開発プロジェクトをスタートさせました。

事業の成長によって人材育成のスピードアップが喫緊の課題に。

手始めに感覚で行っていることを定量化していこうと考えました。定量化しないと、言葉1つをとってもみんな捉え方が少し違います。例えば、「エネルギッシュな人が欲しい」など。人材に関する言葉を皆が同じ意味で用いることができるようにすることが必要だと考えました。そこで定量データを使用した管理職の人物像の明確化に取り組みました。投資に見合う価値があるのかという批判的な意見もありましたが、投資に見合う効果を得るためにやるべきだとの想いを伝え、納得してもらうことができました。

インタビューとデータ分析を用いて管理職の要件を定義。

ビジネスの変化にうまく適応し、活躍している管理職の特徴を、パーソナリティ検査OPQの結果を使用して分析しました。受検していただいたすべての管理職の方々には、自己理解を深めるために、結果をお返ししています。この分析の結果、大きな2つの事業領域において、管理職のタイプが明確に異なっていることが分かりました。感覚的なものが数値化され、客観的なデータで示されることで、納得感のある結果となりました。

ただ、この分析はあくまで現在の管理職を分析しているものであり、今後の事業戦略によって必要となる管理職像を見出すためのものではありません。そこで社長と事業責任者が今後の事業をどのように考えているかを尋ねるインタビューも実施しました。このインタビューから導き出された人材要件は、自分のこれまで持っていた感覚やイメージと全体的に合致していましたが、コンピテンシーとして適切に表現できていなかったと気付きました。特に「元気づけ」や「対人感受性」といった対人面のコンピテンシーが重要であることが明確になりました。これらのコンピテンシーが選ばれたのは、チームで働く際にはもちろん、顧客に接する際にも対人能力が重要だからです。システムを作ることは、どこまでいっても手段であり、本質は顧客との信頼関係にあるということがわかりました。

これら2つの手法から得られた結果を統合し、最終的に6つの要件に絞り込みました。

管理職の要件を採用活動に反映。経験者採用も開始予定。

定義された管理職の人材要件から採用基準を作り、採用選考に使用しています。採用ではWebCABを使用して、結果帳票から採用基準に照らして本人の強み弱みを把握し、面接で掘り下げて確認しています。悩ましいのは、基準を満たす人が限られてしまうことです。パーソナリティ検査と知的能力検査の結果を総合的に見ていますが、それぞれの検査結果において、どの水準をボーダーラインとすべきかについては、入社した社員の検査結果と業績の関係を調査したうえで慎重に検討しています。 また、部門によってシステムエンジニアの特性は異なり、求める人材も変わります。しかし、部門別ではなく一括に採用しているので、各部門の求める人材の平均値を採用することになり、焦点がぼやけてしまいます。もちろん会社に共通の部分もありますが、今回行った分析でも、2つの大きな事業部には異なるタイプの人が多いことがわかりましたので、どう採用し、どう配属するかについては今も試行錯誤しています。

今後は、これまで行っていなかったエンジニアの経験者採用も行います。今までの人材よりも早くコア人材に成長するので、管理職としての人材要件も採用時に確認していくことになります。

タレントマネジメント施策としては、今回作成した人材要件を基にポテンシャル情報を活用し、管理職候補として適任な人材を特定し、抜擢することを人材開発プロジェクトで進めていきます。これが実現すれば、部門間の異動の判断にも役立てることができます。

人事データの収集と可視化による投資効果は即効性があるものではありません。人事としては客観データを共通言語にディスカッションできることが大事だと考えています。月に1度、幹部の集まる会議で人事データを提示してディスカッションをしています。この取り組みが部門の垣根を超えたコミュニケーションを促進し、全社的な人事課題の解決につながることを期待しています。

日本エス・エイチ・エルは、データを収集し分析するだけでなく、その結果をどう解釈し、活用するかに対して積極的にコンサルティングを提供してくれます。その結果、私たちが抱えている問題について有用なアドバイスをもらえることがあります。また、私たちの気づかなかった視点やアイデアを提供してくれるので、重要なパートナーとして位置付けています。ディスカッションの機会をたくさん持ってくれる一方で、過剰にサービスを勧められることはありません。「なぜこんなに親身になってサポートしてくれるんだろうか」と話し合うほどです。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルティング1課

深津 寛

本プロジェクトが人材要件定義の事例の中で一段目を引くのは、以下の3つの要素を網羅している点にあります。
① 活躍者の人物像を、現在と未来とに分けて分析したこと。
② 活躍者のタイプは複数存在すると仮定したこと。
③ 定量的手法であるアセスメントデータ分析と、定性的手法であるインタビューとを組み合わせたこと。
活躍者を分析する上での、①「現在と未来」②「複数タイプ」という鋭い仮説は、当初からメディアフォースさまにお示し頂いていたものです。ここにアセスメントを専業とする日本エス・エイチ・エルの得意領域がクロスオーバーしたことで、非常に有意義な分析結果を得ることができました。
始動まで1年弱に渡って打ち合わせと検討を重ねましたが、いま改めて振りかえってみても、根底にある価値観は常に一致していたと感じます。
今回のプロジェクトに微力ながらも貢献できたことは大変光栄です。引き続き日本エス・エイチ・エルの専門性を活かして、メディアフォースさまの今後の課題に最善のサポートを提供してまいります。

導入事例

牛めし、とんかつに続く「新業態」立ち上げを担う人材を育てる、松屋フーズホールディングスの挑戦。

牛めし、とんかつに続く「新業態」立ち上げを担う人材を育てる、松屋フーズホールディングスの挑戦。

新たな業態に挑戦する松屋フーズホールディングス。その立ち上げを担う人材をアセスメントを用いて選抜し、成功確率の高い人材配置の実現を目指す取り組みをご紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社 松屋フーズホールディングス

事業内容

飲食事業を中心とするグループ会社の経営管理

業種

小売業

従業員数

1,613名 2020年(令和2年)3月期・連結

インタビューを受けていただいた方

別役 建治 様 / 一坂 正博 様

株式会社 松屋フーズホールディングス
人事部 人事グループ グループマネジャー(写真左)
人事部 人事グループ チーフマネジャー(写真右)

インタビューの要約

事業規模のさらなる拡大のために、牛めし・とんかつ事業に続く新業態の立ち上げに適性のある人材を社内で特定し、登用・育成する必要があった。
日本エス・エイチ・エルのアセスメントを用いて、これまで新業態を担ってきた少数の人材の特徴を特定。類似した人材を新業態に抜擢するなど、適材適所を効率的に行えるようになった。
今後のミッションは、新業態を担える人材の育成と、部分最適を乗り越えて適材適所を遂行していくこと。

牛めしととんかつに続く、新業態を担う人材を社内から探したい。

当社のようなチェーンストアビジネスは、ある勝ちパターンを作って脈々と回していくことが成功につながるという構造があります。その一方で、中期経営計画ではさらに大きく事業拡大させようという方針があり、牛めし事業ととんかつ事業だけではなく、新業態を展開できる人材を育てるという、いわゆる戦略人事の課題が降ってきました。従来の事業は、同じタイプの人材を採用して育成すればうまくいきました。しかし、新業態を担える人材を社内で探すと、毎回同じ数名の人にしか白羽の矢が立ちません。この人たちの予備軍を作らなければ、中期経営計画に示された大きな事業の拡大は実現できないと考えました。

この人たちはどんな人なのか?社内に予備軍はどれだけいるのだろうか?と考えたときに、実は人材に関するデータがないことに気づきました。昇格試験などで会った時の印象しかない。どこかに隠れた人材がいるのか、いないのかもわからない。それで、新業態に適した人材を、タレントアセスメントを使って探すことにしました。

牛めしととんかつに続く、新業態を担う人材を社内から探したい。

当社の店長については、本部が決めたことを正確に行えるかどうかが評価基準でしたし、サービスの均一化や徹底力が当社の強みでもありました。一方、新事業は試行錯誤の連続であり、常に臨機応変な対応が求められます。これまでは新事業に適した人材を発掘し、育成しようという発想はあまりありませんでした。しかし今後は、戦略人事として新事業人材の発掘と育成を積極的に行わなくてはならないと経営に提案しました。

OPQを用いて、新業態やその他ポジションへの適性を把握。

アセスメントツールとして、なるべく回答時間が短いもの、コストを抑えられるもので、精度が高いものを探しました。他社の商品もいくつか検討しましたが、やはりコストや所要時間の関係で難しく、結果的にSHLのOPQにたどり着き、これなら採用時にも使っているし汎用性もある、一石二鳥じゃないかということで導入を決めました。

アセスメント結果データを分析すると、新業態を担ってきた社員はロジカルな人たちであることがわかりました。分析結果を見るまでは、感覚派の人たちだと思っていましたので予想外の結果でした。今では、彼らと似たアセスメントの結果を示す社員を、新業態の担当に選んでいます。

新業態以外にも、今は10か所くらいのポジションで、良い人いないかというオファーを貰ったら、成功する人材モデルをもとに、類似した人材を推薦しています。今後は、さらにアセスメント結果を分析して成功確率を上げていくというのが、我々のミッションです。

請負型の人事ではなく「攻めの人事」へ。

ジョブローテーションにおける人材を提案する際も、日本エス・エイチ・エルのアセスメントの結果は納得性の高い情報となってます。本人を知っている場合、結果を見て「ああ確かにな」と、よく思うんですよね。客観的な数字をもって候補者を提案することで説得力を高めています。

従来は、知っている人しか推薦できませんでした。このやり方では知らない人にはチャンスがありません。アセスメントを使うことで、チャンスが公平に行き渡るようになりましたし、異動の成功確率も上がり、適材適所がやりやすくなりました。しかも客観的であり、恣意的でない。これは重要です。人事異動を客観的に行うことが、他の人事施策についても客観的に行うというメッセージにもなります。

特定のポストに対する候補者を見出すときにもアセスメントは重要です。アセスメント結果があることで人事が積極的にしかけていくことができます。新業態の人材選抜は「攻めの人事」だと思います。

請負型の人事ではなく「攻めの人事」へ。

日本エス・エイチ・エルのいいところは、担当者が熱心に、細かく要望を聞いてくれるところ。考えがまとまらなくてモヤモヤしていても整理してくれます。提案内容にしても、クライアントの話をよく聞き、クライアントのことを考えて作っているのが伝わります。こちらはストレスなく進められます。

今後のミッションは、新業態を早く立ち上げられる人材を育てていくこととマネジメントのレベルアップ。加えて部分最適になっている組織をどう全体最適にしていくかが課題です。部門は優秀な人を抱え込みたがります。5年後のために今は我慢してくださいと部長を説得します。

個人的なミッションは、社員個人のモチベーションを引き上げて幸せを感じてもらうこと。個人個人のモチベーションリソース(意欲源)は色々あると思うので、それを気づかせて、実現の力になりたいです。本人もうれしいしお客さんもうれしい、結果として会社もうれしい、そういう環境を作りたいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

太田 啓

別役さんから「新業態に適性のある人材を発掘したい」とご相談をいただいてから、何度も意見交換を重ね今回のプロジェクトに至りました。お打合せの間、常に意識していたのは別役さんのビジョンを正しく理解することでした。
松屋フーズホールディングスは長年弊社のアセスメントをご利用いただいており、過去にも優秀店長の傾向分析を実施しておりましたが、これほど大規模なアセスメントデータの分析は初めての取り組みでした。松屋フーズホールディングスの成長戦略に影響をおよぼす本プロジェクトに携わることができて大変光栄です。
今後は、選抜された新業態人材の育成、全社適正配置の実現、本プロジェクトの効果検証でお役に立てるよう微力を尽くす所存でございます。

導入事例

急成長するLAVA Internationalの科学的人事戦略。

急成長するLAVA Internationalの科学的人事戦略。

日本市場で急速な成長をとげた、ホットヨガスタジオ事業のLAVA International。
組織の急拡大に伴う人事課題にどのように取り組んだのか、そのタレントマネジメント事例を紹介します。

※本取材は2020年9月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社LAVA International

事業内容

ヨガスタジオの運営、ヨガインストラクター養成スクール等の運営、ヨガウェアブランドの展開、ヨガイベントの運営

業種

サービス業

従業員数

グループ全体 5,877人(正社員4,256名、アルバイト1,621名)※2019年8月末現在

インタビューを受けていただいた方

的場 勝己 様

株式会社LAVA International
運営部 部長

インタビューの要約

急拡大に伴う大量採用が求められる中、採用数よりも採用の質を担保する必要性を感じ、入社後のパフォーマンスを予測できるアセスメントを探し始めた。
部長以下の全社員に日本エス・エイチ・エルの適性検査を実施し、データ分析を行った。インストラクター、店長職、SV職、本部系企画職の適性がそれぞれ明らかになった。
採用のフローにアセスメントを組み込み、質の高い採用活動が可能となった。また、インストラクターから本部系企画職へのキャリアチェンジにもアセスメントを導入し、適性に沿った異動が可能となった。また、社内にアセスメントの用語が徐々に浸透し、人材の能力や特徴を表現するための共通言語ができた。

ギリギリ合格した人材の中に、光る逸材がいる。 それがパフォーマンス分析に目を付けたきっかけ。

今の立場は、店舗運営の責任者ですが、日本エス・エイチ・エルのアセスメントを導入した当時は、人材開発部の採用グループのグループ長でした。大量採用のさなか、私の問題意識は、採用数を確保することも大事なのですが、今の採用は成功しているのか否かを、入社後のパフォーマンスで示すべきではないか、ということでした。

このような問題意識を持ったきっかけは、いくつかあります。私自身のキャリアは営業畑が多く、結果がすべて数字でわかる世界です。採用の結果は採用数はもちろんわかりますが、もっと違う形で採用の成果を表したかったというのがまず一つ。もう一つは、採用と教育、現場の立場の相違です。採用と育成は、育成がうまくいかないケースに対し、「なぜこの学生を採用したんですか」と葛藤が起こります。教育と現場は、現場でスムーズに業務が行えなかった場合に、「なぜこの状態で送り出したんですか」と、また葛藤が起こります。このような構造を解消するために、現場でのパフォーマンスをベースとして、こういう理由で採用したのだという根拠を出発点に持ちたかったのです。そのために、採用の視点と現場でのパフォーマンスに相関があることを示す必要がありました。

ギリギリ合格した人材の中に、光る逸材がいる。 それがパフォーマンス分析に目を付けたきっかけ。

もう一つ加えて言うと、大量採用で採用数を確保する必要があったので、ギリギリで受からせた人たちがその後どうなったのかを知りたくて、最終面接評価C-で合格した人材を、自分で追跡調査してみました。その結果、C-で合格した人材は、早期離職はたしかに多かった。でも、入社後パフォーマンスが高い人材の出現率も、C-が多かったのです。このような興味深い結果が表れたことも、パフォーマンス分析に踏み出したきっかけになりました。

選んだポイントはわかりやすさと汎用性、そして「当たっている」ということ。

「採用時のアセスメント結果と入社後のパフォーマンスとの相関をはっきりさせて、より質の高い採用をしたいので、そのための提案をください」と、6,7社くらいにお声がけしました。日本エス・エイチ・エルを選んだのは、最終アウトプットを自分たちがどう使っていくのかイメージしたときに、一番わかりやすかったから。あとは、「今回は入社後のパフォーマンスとの相関を分析するつもりだが、いずれは役職への登用や、本部系の企画職へのキャリアチェンジなどにも使っていきたい。その分析も可能か?」と聞いたら、ことごとくできると言っていただいたので。社員のアセスメントは何かを知りたいというたびに実施するものではないと思うので、一度の実施で色々な活用ができることは大きなメリットでした。

最後の理由は、導入前にモニターとして社員が受検した結果が、本人の特徴を正しく説明していて、役員が感動したからです。「本当だね、この子そうだよね」と。最初はインストラクター採用のためとしか考えていなかったのが、この最終決定に至る過程で上層部に見てもらった時に、これは面白いねとなって、部長以下全員に受検してもらう流れとなりました。

見えてきた各職種への適性をもとに、効率的な採用・異動を実現。

社員のアセスメントデータを分析した結果、インストラクターに必要な特徴に加え、店長職やSV職に求められる特徴、そして本部企画職に求められる特徴がわかりました。店長職やSV職には、インストラクターの資質に加えて求められる資質があり、また本部企画職の適性は、インストラクターの適性とは一部相反することなどがわかりました。

その結果を受けて、採用ではかならずアセスメントを実施して、面接官と見方を共有して評価に使いました。また、インストラクターから本部系職種へのキャリアチェンジの際も、実施して見極めに使うようにしました。インストラクターと本部系職種は、業務内容がまったく異なりますので、アセスメントをして面接してみると、現場よりも本部に適性のある方もいたりします。そういう方を発見できる喜びもあります。

さらに、社内で実施している360度評価の結果を、さらに詳細に解釈する際にも、このアセスメントを組み合わせて使っています。360度評価は、あくまである人の視点なので、時期やペアリングの影響も受けますし、完全に鵜呑みにすべきではないと思っています。本人のアセスメントの結果も併せて参照し、なぜこのような360度評価の結果になったのか、というのを深く理解しようとしています。人には多かれ少なかれ多面性があって、何かきっかけがあれば誰でも異なる側面が出てくるものなので、なるべく客観的な視点をもつよう努力しています。

社内の人材を表す共通言語ができた。

採用や異動を効率的に行えるようになったということのほかに、アセスメントを入れてよかったことは、社員の特徴を的確に表す共通言語ができたことです。実際にアセスメントの結果を目の前にするのは人事系の役職者だけですが、彼らが各部門に対してもアセスメントに使われている用語を使って、採用や育成について話します。アセスメントに使われている表現が社内に浸透すると、他の社員のことを評価するときにその表現で話すので、社内にいる人のコンピテンシーを表すのに共通言語ができます。たとえば、プレッシャーへの耐力がある、というのが正確な表現だとして、それを単に「メンタルが強い」などと表現してしまうと、少し意味があいまいになってしまう。そういう共通言語ができることも、いい人材マネジメントにつながるのかなと思います。

今後の人事施策については二つあります。まず新しく着任した人材開発部長の言葉を借りると、「採用に際して、インストラクターを採るのではなく、全体を対象に利益創出ができる人材をとる」。インストラクターがゴールと見えないような入社後の広がりを感じる採用活動をすることで、良い店長が排出されるようにしたいです。女性が多い会社ですので、妊娠・出産・復帰のサイクルがあることを考えると、もっと役職者を輩出するペースを上げるべきですし、入社当時から自然とキャリアアップを目指したくなる採用をしたいというのは、まさにその通りだなと思います。

もう一つ、私の現在の役割である運営部の目線で言うと、採用を担当していたときから実施したかった、アセスメントを用いた配置や昇進は、まだまだ活用できる余地があると思いますので、今後は運営部でさらに力を入れていきたいと思います。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

下越 千尋

社員の方々のアセスメントデータ分析結果を報告した際、その結果を裏付ける具体的なエピソードや意見が的場さんや役員の方から出てきて、活発なディスカッションとなったのが印象的でした。お客様の持つ仮説がデータによって検証され、それが具体的な言葉や数字となって共通認識された瞬間でした。分析結果を深く理解されようと、実際の現場で起きていることや既存の情報などを組み合わせて多角的に判断しようとされている点は、私自身勉強をさせていただいたことも多かったです。また、私どもが提供するアセスメントツールが現在も社内のコミュニケーションの道具となって活用されていることも、お客様の組織の発展に寄与できているという私たちの自信と誇りにつながっています。お客様がこのツールから得られる知見がより価値の高いものになるよう、引き続き支援させていただきたいと思っています。

導入事例

オンライン選考を有効なものにした、日立ビルシステムの採用基準作成。

オンライン選考を有効なものにした、日立ビルシステムの採用基準作成。

職種別採用への移行をきっかけに、職種ごとの採用基準を策定。
コロナ禍で効率的にオンライン選考を行う日立ビルシステムの取り組みを紹介します。

※本取材は2021年1月に行いました。インタビュー内容は取材時のものです。

株式会社日立ビルシステム

事業内容

1.エレベーター、エスカレーター、空調装置、電気設備、 その他ビル設備に必要な機器の製造、販売、据付、保守、改造修理、更新及び設計
2.各種ビル設備の監視、制御並びにビル管理
3.冷凍空調装置並びにそれらの運転制御盤、遠隔監視装置、冷媒回収装置の製造 など

業種

建設業

従業員数

約8,500名(2020年3月時点)

インタビューを受けていただいた方

北上誉之 様

株式会社日立ビルシステム
人事総務本部 人事企画部 採用・教育グループ 部長代理

インタビューの要約

職種別採用への移行をきっかけに、採用基準の明確化が課題に。社員受検データの分析と、管理職層へのアンケート調査によって、職種ごとの採用基準を策定した。
くしくもコロナ禍でオンライン選考へと全面移行。採用基準を策定しておいたことで有効なスクリーニングが可能に。またオンライン面接での情報不足をアセスメント結果の解釈によって補えた。
今後はチーム編成や、価値観をもとにした配属・任命によるエンゲージメント向上、またテレワークによる協働を円滑にするために、人材データを活用したい。

完全職種別採用に移行したことで、採用基準の策定をスタート。

私は2019年6月から採用業務に携わることになりました。すでに採用活動のピークは過ぎていましたので、次の21卒採用から本格的に参画する覚悟を決めていたところ、新型コロナウイルス感染症が蔓延。さらに未経験の要素が加わり、21卒採用は苦労しました。

日本エス・エイチ・エルには採用基準の設計を手伝ってもらいました。それは20卒採用から完全職種別採用を始めたことからでした。それまでは総合職事務系・技術系をそれぞれ一括で採用し、入社した後に面接で配属先を決定していました。職種別採用に切り替えたことで、どういう人材がその職場・その職種に必要なのかという明確な基準がなく、面接官の主観に頼った判断をしているという問題が浮き彫りになりました。実際に、私が採用業務に携わる中で、初期選考で高い評価を得た学生が最終選考で低い評価となったり、その逆もしかりで、採用プロセスを通して評価に一貫性がないと感じることがありました。会社がさらに成長していくためにはそれぞれの職種に適した人材の確保が大事だというところから、職種別にどういう人材を採用すべきか採用基準を策定することになりました。

完全職種別採用に移行したことで、採用基準の策定をスタート。

また、適性検査は長く利用していますが、面接官がパーソナリティ検査の結果などの事前情報を活かしきれていないという課題もありました。私も事業所総務を担当していた頃に面接官として対応したことがありますが、通常業務を行う中でたくさんの事前資料を見る時間が十分に確保できないというのが正直なところで、それを見ることの重要性を理解していませんでした。面接官に事前情報の重要性を訴えるには、内容や職務との関連性を明確に説明する必要がありました。

社員データ分析とアンケート調査の両面で、採用基準を策定。

採用基準の設計は、まず対象職種の社員にアセスメント(パーソナリティ検査OPQ)を受検してもらい、全体的な社員の特徴と、その中でも特に高いパフォーマンスを出している社員の特徴を統計分析で明らかにしました。また、職種ごとに求める人材像を明らかにするためのアンケート調査を、別途経営幹部や管理職や要職者に実施しました。一般的に、高いパフォーマンスを示す人の割合は多くはないので、少ない対象者で特徴が見いだせるのか不安はありました。

事前にしっかりと主旨をご理解いただいたため、取り組みには社内の協力を得ることができました。アセスメントに協力いただいた社員には、フィードバック用の帳票を返却しました。また面接官には、日本エス・エイチ・エルの担当者に結果解釈のための説明会をしてもらったところ、皆さんご自身の結果に関心を持ってご覧いただけたと感じました。年齢を重ねるとアセスメントを受ける機会も少なくなるので、あらためて自己分析結果を目にすることの新鮮さをお話しされていましたね。

職種ごとの要件と、全社共通の人材要件が見えてきた。

社員分析の結果について、職種ごとにハイパフォーマーの特徴もみられましたが、一番納得したのは、社員の全体傾向として「問題解決力」と「オーガナイズ能力」が高いということ。これは社風の影響です。基幹事業の一つであるエレベーター・エスカレーターのメンテナンス事業では、様々な情報を組み合わせて問題の原因を特定し、お客様の納期に合わせて限られた時間で計画的に作業を進めることが重要になります。この認識が社員に浸透していたため、このような特徴が現れたのだと思いました。面接官からは別の要素も重要だというコメントもありましたが、客観的に社員の共通性を示せたことは、面接官の間での評価差を解消するのに役立ちました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン面接へ全面移行。
スクリーニング基準が整備されていたことが功を奏した。

21卒採用から一次の集団面接をやめて、書類選考に切り替え、エントリーシートと適性検査の結果で応募者の絞り込み、一次面接と最終面接を経て、合否判定を行うプロセスへと改定を計画していたところ、くしくも、新型コロナウイルス感染症の影響で、選考方法(オンライン面接)や時期への大幅な修正が必要になり、採用基準を策定しておいたことが功を奏しました。採用基準のおかげで、書類の合否判定と次の選考への参加順を客観的に決めることができました。共通要件がボーダーライン上のグループから、各職種要件を持つ人を優先に面接へと進めるなどの細かい調整ができてよかったです。また、今まで検査結果を活用しきれていなかった面接官のために、面接官教育に検査結果の解釈を含めたところ、検査結果から仮説を持ち、事前に質問を準備できるようになったという声が面接官から聞こえるようになりました。

21卒採用の面接はすべてオンラインに切り替えましたので、今までの対面面接では見えていた人となりや雰囲気といった情報は全く得られなくなりました。その観点では、パーソナリティ検査の解釈スキルを強化しておけたのは不幸中の幸いでした。もちろん、実際にお会いして雰囲気を感じ取ることは大事ですので、対面とオンラインの選考をどのように組み合わせていくかは、コロナウイルスが落ち着いた際に検討します。

日本の労働人口が減少していく中で、従業員のパフォーマンスを引き出すためにタレントマネジメントは重要です。ほとんどの従業員が組織で活動をしていることを考えると、良いパフォーマンスを引き出すための従業員同士の関係性や人材の組み合わせを体系化できれば役立ちます。我々は、安全性の観点からメンテナンスを行う際、主に二人以上で作業計画を組むので、その組み合わせもアセスメントで個人の特性を見ながら配置ができればとよいと思っています。

また、私が使いやすいと思ったのは、価値観のアセスメント(V@W)の結果です。本人が職務上で重視している価値観をマネジャーが把握することで、より適したフィールドで活躍してもらうことができます。仕事のアサイメントの渡し方やフォローアップなど、従来なら各人に適したやり方を把握するのに一定期間が必要だったものが、配置してすぐに把握することができるといったことにもつながると思います。

コロナ禍で急速に普及したテレワークが、コロナ終息後も完全に元の状態に戻ることはないと思います。上司と部下が離れて仕事をすることが多くなれば、社員の特徴を把握することはより重要になります。社員ひとりひとりの特徴に配慮したコミュニケーションの取り方や育成担当者の割り当て方などにアセスメントを活用できたらいいですね。

担当コンサルタント

日本エス・エイチ・エル株式会社 HRコンサルタント

武田 幸祐

今回の採用基準明確化のプロジェクトは、職種別採用の導入と面接評価の課題の解決という内的要因と、コロナ禍による採用環境の変化という外的要因がある中で、結果的に非常にいいタイミングで実施できました。変化が求められる難しい環境下でプロジェクトに携われたこと、非常に有難く思っています。
今回の取り組みから、主観と経験に頼るのではなく客観的なデータを用いて細かく分析することで、人材評価時の焦点を合わせることができ、より良い採用活動ができると改めて認識することができました。
とは言え、「採用」という人事に関するテーマの入り口が整理できた段階であり、今後、企業としてのさらなる生産性向上と社員の皆様の働きやすさのためには、人同士のマッチングやサービス領域ごとの適性人材など、様々な観点でのより深い分析や継続的なデータ蓄積が必要と考えています。
これからもお力になれるよう引き続き尽力したいと思います。